構造・機能・環境~筋緊張との戦いをやめる:首・肩こり編 パート3/3

『過剰な呼吸回数による筋緊張』 前回の投稿では『環境的要因による呼吸パターン不全』として、環境要因に対する考察が必要とのお話をさせて頂きました。 今回は“呼吸回数”についてご紹介します。 近年注目されている呼吸ですが、“呼吸パターン”についての議論は数多くされている一方で、“呼吸回数”についての議論は少ないように感じます。 “喘息患者のゼーゼーいう呼吸は、常に喘息の疾患の転帰(病気が進行して行き着い結果)で起こるものだと考えられてきました。“深く呼吸すること”自体が気管支喘息の原因であり、深く呼吸すると喘息の症状を引き起こす可能性があるということを、かつては誰も考えもしなかった” “喘息や、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者や他の呼吸器の問題を抱える人は、体が要求するよりも2〜3倍以上の呼吸をしている” ~Konstantin Pavlovich Buteyko (1923~2003) これらは喘息治療の権威でもあるButeyko博士の残した言葉です。 一般的に正常な呼吸回数は1分間に8~12回とされていますが、例えば喘息患者などは20回近く呼吸を行っています。体調不良や精神的ストレスを抱えているときも呼吸回数は増加します。 呼吸回数が多くなると、過剰な酸素供給によりpHバランスも正常値から外れ、また呼吸に関わる筋群も過剰に働くことになります。 「人間は簡単に2、3回の深呼吸でphバランスを変化させることができる。 30秒以下の胸式呼吸でpHは7.4から7.5に上昇する」 ~American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine. Vol 168; 10-48 2003. 上記のリサーチで検証されている様に、身体のpHバランスは呼吸により簡単に変化します。 これは呼吸パターンだけではなく、単純に呼吸回数の増加によっても変化する為、過剰に呼吸を行っているクライアントには呼吸回数を減らすアプローチが必要となります。 呼吸回数に介入する際に知っておくべきこと 1. 呼吸のしすぎは単なる習慣でしかない:呼吸を調整する脳の一部(中枢化学受容器)が呼吸をしすぎることに慣れてしまっているだけである。長時間の過剰な呼吸(以下では過呼吸と表記する、“長時間”とは“24時間以上”と定義する)は、脳を敏感にし、さらに過呼吸を長引かせる。過呼吸が、習慣的で、長期的にわたると、主要原因が取り除かれた後でさえもその癖は続いてしまう 引用: 「過換気症候群(HVS)と喘息」 スティーブン・デミター医師 過呼吸になった原因は様々ですが、“一時的に過呼吸になる必要“が生じた(例えば過剰な緊張状態等によって通常より多くの酸素が必要となった)人が、過呼吸の必要がなくなった後も“習慣として”過呼吸を続けるケースが多いです。 セッションの前に、『過呼吸であり続ける必要はもう無いので、呼吸回数を減らすことに何の問題もありません』とクライアントにしっかりと理解してもらう必要があります。(多くの方が呼吸回数を減らしたり、呼吸パターンを変えることに不安を覚えます、まれにセッション中に酸欠になったと勘違いして軽いパニックを起こす方もいらっしゃいます) 実際のセッションでは様々な手法で呼吸回数を減らすワークを行います。(共通しているのはどのエクササイズも4~9分間の継続が必要ということです、これは中枢科学受容器が過呼吸状態をリセットするのに必要とされている時間です) 今回は一番簡単な手法の一つをご紹介します。 2. 片方の鼻の穴で呼吸をする方法 どちらか片方の鼻の穴は反対側に比べて少し詰まっている状態である事が多いものですが、空気不足を作り出すために、通っている鼻の穴を指でふさぎ、少し詰まっている方の鼻の穴で呼吸してみます。通っている方の鼻の穴を閉じることで吸う空気量が減り、息苦しく感じるかもしれません。この状態を4分間維持してみてください。 このワークの後に最初に詰まっていた方の鼻の穴はどのように感じるでしょう ※クライアントは4~9分間の間、常に少し息苦しい、息を吸いたい!と思い続けますが、気持ちを落ち着かせてゆっくりと少ない量の呼吸を維持する必要があります。 何回かの試みの後、呼吸回数または呼吸量が減少していれば成功です。すぐに呼吸回数の減少が見られなくても、数週間の間繰り返しワークを行うことで徐々に効果が表れてきます。 注意: 呼吸エクササイズは、ほとんどの人にとって適切でとても有益ですが、下記の症状がある方には適していません。自分に適しているかわからない場合は、行わないでください。 ・現在がん治療を受けている ・1型糖尿病 ・てんかん ・統合失調症 ・血圧レベルが正常でない ・胸痛や心臓付近に痛みがある ・鎌状赤血球貧血症 ・動脈瘤 ・過去6ヵ月間に心臓の問題があった場合 ・コントロール不良の甲状腺機能亢進症 ・既知の脳腫瘍や腎臓 以下に当てはまる方は、強度の軽い呼吸法であれば問題ありませんが、細心の注意を払いながらワークを行ってください。呼吸法によるストレスが強すぎる場合、症状を誘発、悪化させる可能性があります。 ・重度の喘息患者と肺気腫及びCOPD(慢性閉塞性肺疾患)患者 ・2型糖尿病 ・妊婦(妊娠初期は全く行わないこと) ・不安神経症/鬱病 ・片頭痛の患者 呼吸回数と呼吸パターンは相互に影響しあうため、呼吸パターンへの介入によっても呼吸回数を減らせるかもしれません。 私は呼吸への介入を行った後の効果測定の手段として呼吸回数を活用しています。 ※ちなみに、私は現場で1分間の呼吸回数を数えるような測定はしておりません。その代わりにコントロール・ポーズという時間を図って呼吸回数を予測するのですが、これはまた次回以降にご紹介します。

近藤 拓人 2547字

構造・機能・環境~筋緊張との戦いをやめる:首・肩こり編 パート2/3

『環境的要因による呼吸パターン不全』 肩こりに関して、前回は肩甲骨のポジション不全による胸鎖乳突筋の緊張をご紹介しましたが、今回は環境的要因による呼吸パターン不全、そしてそれに伴う僧帽筋&胸鎖乳突筋の緊張を考察します。 先ず、呼吸パターンはなぜ適切ではなくなってしまうのでしょうか? 主な原因は恒常性(ホメオスタシス)です。ホメオスタシスとは、生体の内部や外部の環境因子の変化にかかわらず生体の状態が一定に保たれるという性質です。 ホメオスタシスは呼吸パターンを随時変化させます。代表的な理由として、呼吸パターンを変化させることにより血中のpHバランスを一定に保つ必要があるからです。(血中pHは7.4を理想とするが、酸性値、すなわち血中の二酸化炭素量が多くなると7.4より下に下がる、アルカリ性が強くなると7.4より上に上がる) ※酸素は基本的に水に溶けない為、酸性でもアルカリ性でもありません。ただし過呼吸により血中の酸素量が多くなり二酸化炭素量が少なくなると水溶では酸性を示す二酸化炭素量が減ることで血液のpHは7.4より上がります。 下記の要因により、血中のpHバランスが崩れ呼吸回数の増加が起こります(その反対、呼吸回数の増加によりpHバランスが崩れるパターンも多いです)。ここでは過度な呼吸を過呼吸と呼びます(俗に言われる発作的な過呼吸とは違いますが、血中の二酸化炭素濃度の不足という点では同じです) 1. 食生活-過食による余分な食べ物の消化のために呼吸量が増加する。特に加工食品は通常、酸性であり、体は血液のpHを正常に維持しようと呼吸を増やして酸である二酸化炭素を取り除こうとする。→これが過剰な呼吸回数の原因となる。 2. 一定時間以上大きな声で話すとき、行間で大きく息を吸う。営業、電話の応対、教師などの職業に就く人は、話してばかりの日が何日も続くと疲れを感じやすい。単純に呼吸量が多くなることで過呼吸状態につながる。 ※これにあたる症状の人は、会話の際、言葉を発する前に大きく息を吸う、あくびをよくする等がみられる。 3. 精神的ストレス は、闘争・逃走反応を引き起こす。 ※人間は精神的ストレスに対し、ある意味原始的な反応を起こす。例えばその昔、野生動物に直面したときは闘争するか・それとも逃走するか素早く判断する必要があり、その為自律神経が身体を最大に緊張・活性化させる→呼吸量もそれに伴い増加する。 この自律神経の働きは現代社会においての精神的ストレスによっても引き起こされる。必ずしも生命に関わることだけに反応するものではない。 ストレスレベルの高い人は、そうではない人より多くの呼吸をする傾向にある。 4. 筋肉を動かすと大量の二酸化炭素が生成される。これにより血中pHのバランスを保つため&エネルギー生産の為に酸素が大量に必要となり呼吸回数は増加する。 ※必ずしも運動が悪いと述べているわけではありません。むしろ呼吸パターン不全を根本から解決するために運動は必須だと思われます。ただし喘息患者の多くは運動により喘息の症状が誘発されます。これは運動による過呼吸が喘息を誘発すると考えられています。呼吸パターン不全をもった患者は自らの体力レベルに沿った無理のない運動から始める必要があります。 5. 「酸素は身体に良い」という間違った認識。酸素を大量に摂取すれば疲労回復につながる、けがの回復を早める、等の間違った認識により大きな呼吸を推奨する運動、治療、レッスンがある。正しい呼吸パターンによるコントロールされた呼吸であれば問題はないが、副神経筋の過緊張がみられる患者においてそれは難しいことである。 ※ちなみに酸素を過剰に摂取したとしても、血中の二酸化炭素濃度が低ければヘモグロビンと酸素が分離しないため細胞に酸素は供給されない。発作的な過呼吸と同じで、これは二酸化炭素を多く取り入れることで解決する。 6. 喘息の症状。気道が狭くなると息苦しさを感じ、この息苦しさから逃れるために呼吸は増加する。ところが呼吸量が増加すると、前述の血中pHバランスの崩れにより症状はさらに悪化する。 ※喘息患者へのアプローチにおいては、吸気ではなく呼気、また呼気後に息を止める練習が効果的だと思われます。喘息患者は呼気後に息を止めてすぐ苦しいと感じてしまうので、無理のないように注意してください。 7. 高い気温、または室内温度、:体温調節のために大きく呼吸をする必要が発生するため室温の調節は重要である。 ※適切な気温によって呼吸回数をコントロールすしやすくなる為、肩こりの症状がある患者は睡眠時の室温コントロールが効果的だと思われます。また夏は睡眠時の着衣や布団も熱の発散に優れた素材をお勧めします。 ここでは以上7つ環境的要因の例を挙げました。 過呼吸状態になった身体はより多くの空気を吸うために僧帽筋、胸鎖乳突筋を使って呼吸を助けます。 正常な呼吸回数が1分間に8回〜12回だとすると、過呼吸状態の人は1分間に約13回〜20回の呼吸をしていると予測されます。 ということは、最低でも13(1分間の呼吸回数)x60(分)x24(時間)=18720回それらの筋が働いているわけです。 肩こりを持つクライアントに対してアプローチをする際に、呼吸パターンを適切にする必要があると判断した場合、はじめに何をすべきでしょうか?? おそらくストレッチやマッサージではなく、上記に述べた7つの環境的要因(またはその他の環境的要因)に対する介入ではないでしょうか。

近藤 拓人 2361字

構造・機能・環境~筋緊張との戦いをやめる:首・肩こり編 パート1/3

頑固な首・肩こりに対して、ストレッチやマッサージ(または何かしらのリリース・テクニック)をする。 一時は楽になってもまたしばらくして症状がぶり返す。そしてまたストレッチやマッサージを繰り返す。 そのようなケースで、終わりのない戦いをしていると感じることはないでしょうか? 2015年9月、セントルイスでの講義で講師のPavel Kolarは、 “Tightness is not in the muscle. It’s in the brain”~“筋緊張は筋肉ではなく頭にある”と述べました。 また以前から、Dr. Vladimir Janda(ヤンダ博士)、Karel Lewit(レヴェット博士)Václav Vojta(ボイタ博士)ら沢山の臨床家や研究者から神経学的(機能的)アプローチの必要性は訴えられています。 “構造(ハードウェア)+機能(ソフトウェア)によってより効果的なアプローチができる”ことは明白ですが、私はこれにもう一つの要素を加えることにしています。 これから数回に分けてご紹介する内容は、筋緊張に対しての『構造』、『機能』、そしてもう一つの要素である『環境』の3つを統合したアプローチ法です。 首・肩こりを例にすると、 頸部の筋群(ハードウェア)が健康的であり、その筋群を扱う動作パターン&呼吸パターン(ソフトウェア)が正しく働き、“その動作&呼吸パターンが発生する為の姿勢、アラインメント、関節のポジション、心理的状態(ここではこれらを総合して『環境』と表す)を有している“ ということです。 以下に肩こりの“構造的問題”“機能的問題”“環境的問題”の例をあげます。 構造的問題の例 1. 組織の損傷 2. 癒着、滑走不全 3. 血液循環不全 機能的問題の例 1. 筋発火パターン不全(弱化も含む) 2. 呼吸パターン不全 3. 動作パターン不全 環境的問題の例 1. 頸部・胸郭・肩甲骨のポジション 2. 姿勢不全 ※姿勢はポジションの集合体と考えるため、環境的問題とする 3. 不適切な靴、装具、接地面など 4. 心理的ストレス 今回は首・肩こりを“環境的な問題“から考察してみます。 構造的、機能的アプローチが充分な効果を発揮しない場合には、筋が“緊張しなくても良い環境”をつくることで、筋緊張との戦いを終わらせることが出来るかもしれません。 『肩甲骨のポジション不全による胸鎖乳突筋の緊張』 ※関連する筋:肩甲挙筋 胸鎖乳突筋 近位付着部:胸骨頭(胸骨柄の上縁)・鎖骨頭(鎖骨内方の1/3) 遠位付着部:側頭骨乳様突起・後頭骨上項線 胸鎖乳突筋の働き: 胸骨・鎖骨が固定されている場合:頭部の対側への回旋。同側への側屈 頭部が固定されている場合:胸骨と鎖骨の挙上 肩甲挙筋 近位付着部:C1~C4の椎体の横突起 遠位付着部:肩甲骨の上角、内側縁の上部1/3 肩甲挙筋の働き: 1. 頸部が固定されている場合:肩甲骨の挙上、肩甲骨下角の内側への回旋 2. 肩甲骨が固定されている場合:頸椎の伸展、同側への側屈 写真を見てもわかるように、肩甲挙筋は“ねじれ”ています。 この“ねじれ”によって肩甲骨~頸椎&頭蓋骨の位置を適切にコントロールしています。 では、例えば右側の肩甲骨が外転し、さらに内側縁が後退して翼状肩甲に近い状態になると“ねじれ”はどうなるでしょうか? 少しイメージがつきにくいかもしれませんが(肩甲挙筋の写真を見てください)ねじれは解かれて肩甲挙筋の肩甲骨付着部は頸椎方向に動きます。 簡単に言ってしまうと、右側の肩甲挙筋が頸椎方向に“緩んだ”状態です。 この“緩み”により、本来適度に右回旋方向に引っ張られていた頸椎は左回旋方向に向くことが容易になり、頚椎&頭部はやや左回旋位に位置します。 これが頭部の左方向への回旋筋である右側胸鎖乳突筋にレバーを与え”過剰に働きやすい環境”を作り出してしまいます(これに加え呼吸パターン不全によって胸鎖乳突筋が“鎖骨の挙上筋”としても過活動になれば更に緊張は増します)。 この左向きの頸椎によって右側胸鎖乳突筋に回旋筋としての緊張状態が続き“首こり”“肩こり”の症状が現れたとします。 このケースにおいて、 1. 緊張している右側胸鎖乳突筋のストレッチは効果的でしょうか? 2. 深部頸部屈筋の促通は効果的でしょうか? 3. 単純な呼吸パターンへの介入は最高の効果を発揮するでしょうか? (※効果的かもしれません(/・ω・)/テヘ) このケースでは、胸鎖乳突筋のストレッチ(またはリリース)ではなく、“胸鎖乳突筋が過度に働かなくても良い環境“をつくる、すなわちこのケースであれば右側の肩甲骨のポジションを正し、右側肩甲挙筋の”ねじれ“を取り戻すことが最も効果的だと考えます。

近藤 拓人 2103字

呼吸:鼻呼吸はなぜ必要か

こんにちは! 宮崎産アスレティックトレーナーの近藤です。 ここ数回にわたり呼吸についての考察をしていますが(前回は“呼吸回数“についてでした。前回の内容を簡単にまとめると、”呼吸回数が多ければ多いほど身体の不調が起こる”です) そして今回は、『鼻呼吸の重要性』についてご紹介したいと思います。 鼻呼吸ができる?できない? 正しい呼吸パターンを獲得する為に大前提となることが、“鼻呼吸ができる”ことです。 ※僕は副鼻腔炎のせいで鼻呼吸が出来ないクライアント(肩の痛みでいらっしゃいました)の治療をしたことがあるのですが、呼吸へのアプローチは効果が薄かったです。 鼻から吸気が出来ないため、風船エクササイズ等も息が苦しくなってしまい頸部筋の過緊張を産む結果になってしまいました。 現在は鼻呼吸ができないクライアントには、まず鼻づまり解消のエクササイズや処置を受けてもらいます。前述の副鼻腔炎や重度の高い疾患の為どうしても鼻が通らない場合は外科手術が必要かもしれません。 口呼吸は増加傾向にある 生まれたばかりの赤ちゃんと、大半の動物も鼻呼吸をします。犬は体温調節のために口からハアハアと息をしますが大半は口を閉じています。 しかしながら、以前の投稿でお伝えしたように、主に環境的変化によって口呼吸をする人は増加しています。 睡眠中、散歩中、安静時、仕事中にも口を開けている人が以前より多くみられます。 この現象に伴い、肩こり、腰痛などの身体の痛み、花粉症などの免疫機能不全、うつ病等の精神疾患は増加傾向にあります。 これらの機能不全と口呼吸には関連があるとする研究は多くあります。 では、なぜ鼻呼吸が必要なのでしょうか? 鼻は、呼気が肺に入る前に、空気の調整をする重要な役割を果たしています。 Buteyko医師は“口呼吸から鼻呼吸へ完全に切り替えるだけで、喘息には約30%の効果がある”と述べています。 ※“鼻呼吸に切り替えない限り、喘息は治らない”とも述べています。 では、これより鼻が担っている重要な役割を具体的に述べていきたいと思います。 鼻の役割: フィルター作用:鼻の中は粘膜で覆われています。 鼻に入る細菌の4分の3は、粘液層上で除去されると推定されています。実際に、鼻の粘液自体に抗菌作用があるとされます。 鼻はまた、喘息を誘発する一般的な大きな粒子をフィルターします。 喘息を患っている方が、大きな出費をしてカーペット、カーテン、寝具を取り換えて、ほこりやチリダニの吸入を減らすためのハイテクな掃除機を購入しますが、出来るだけ鼻呼吸をするように努めることはあまりありません。 温める作用:鼻は吸った空気を温める作用があるので、気道が冷える可能性少なくなります。 鼻甲介でうずまいている空気は急速に暖められます。例えば、6度で鼻に入った空気は、鼻の奥に到達するまでには30度に温められ、気管を通過するときには体温にまで上昇します。 加湿作用:鼻には空気を湿らせる粘液層があるので脱水効果が起こりにくい。 空気量の調整:鼻の穴(鼻孔)は口よりも入り口が小さい。 そのため呼吸の際に抵抗が生じ、結果として、より静かで穏やかになり、正常な空気量となります。 ※正常な換気量は1分間に5~6L、喘息患者は~15Lほどの換気量を持っている場合が多いです。 以上が主な鼻呼吸の機能です。 どんなに正しい呼吸パターンの訓練をしても、鼻呼吸が出来なければ効果は薄いと思われます。 それでは以下に口呼吸が及ぼす影響をご紹介致します。 口呼吸は、口内の乾燥の原因となります。これは、細菌が住み着くのに理想的な環境なので、歯周病や虫歯の原因にもなります。 習慣的に口呼吸する子供は歯並びが悪くなる可能性がずっと高くなるのです。 「ここ何年かにわたり、子供たちが慢性的または習慣的に口呼吸をしていることを裏付ける証拠が増える傾向にある。口呼吸は、あごの発達、頭蓋骨の発達、噛み合わせだけでなく、子供の全身の健康状態にも悪影響を及ぼす」~Buteyko医師 口呼吸が、子供の顔やあごの発育に悪影響を及ぼすことを証明した文献は沢山あります。 それらによると、習慣的に口呼吸をする子供は不正咬合になるだろう。との事です。 ※不正咬合とは、歯の位置のずれ、または上下のあごの位置関係が正常でないことです。 いかがでしょうか?今回は鼻呼吸の重要性を再確認して頂けましたら幸いです。 最後に、鼻づまり解消の為の簡単なエクササイズを1つご紹介します。 1.どちらか片方の鼻の穴を塞ぎ、反対の鼻から空気を吸う。※両側行います。 2.空気不足を作り出すために、通っている鼻の穴を指でふさぎ、詰まっている方の鼻の穴で呼吸する。 ※通っている方の鼻の穴を閉じることで吸う空気量が減り、息苦しく感じるでしょう。 3.そのまま4分間呼吸を継続する。 ※この呼吸法の効果は、どれだけ息苦しさを感じたかによります。 この呼吸法で数分間呼吸した後、最初に詰まっていた方の鼻の穴は以前より通っているはずです。 1日4分間で済むエクササイズですので、鼻づまりにお悩みの方は是非お試しください! 最後までお付き合い頂きありがとうございました!

近藤 拓人 2301字

『ニュートラル』とは何を意味するのか?その①

ニュートラルとは何を意味するのか?:  その①:ニュートラルはハードウェア?ソフトウェア? こんにちは!宮崎産アスレティックトレーナーの近藤拓人です。 運動指導に携わる皆様でしたら、度々『ニュートラル』という言葉を耳にするかと思います。 もし誰かに“『ニュートラル』とはどんな状態ですか?”と質問された時、皆様はどのような答えをお持ちでしょうか。 現在『ニュートラル』の明確な定義は決められていない為、運動指導者それぞれのバックグラウンドによって意見が分かれるところかと思います。 今回の記事では『ニュートラルとは何を意味するのか?』に関する私なりの考えを示したいと思いますので宜しければ参考までにお読みください。 ①ニュートラル(ニュートラリティー)とはソフトウェアである チェコのウラディミール・ヤンダ医師の残した言葉の中で、『ハードウェア』と『ソフトウェア』があります。 先ず、『ハードウェア』とは構造を指します。 例えば骨、筋肉、筋膜、関節包、椎間板、内臓などがそれに当たります。 腿裏(ハムストリング)に損傷がある場合(ハードウェアに問題を抱えている場合)、この損傷、または損傷による痛みが歩行/走行パターンを変えてしまいます。 これは、『構造』が『機能』を変化させる例です。 一方で、『ソフトウェア』とは機能を指します。 例えば、運動パターンや呼吸パターンがそれに当たります。 近年よく耳にする、“スマートフォンネック”ですが、これは携帯電話を長時間、習慣的に頭部前突姿勢で使用する事に起因する頚椎カーブの変形を指すかと思います。 これは、『機能』が『構造』を変化させる例です。 ※ちなみに私は最近パソコンやスマートフォンを操作する時専用のメガネを処方して貰ったのですが、これがとても調子が良く頸部の緊張や目の疲れが減少しました。ただし、寝ながら長時間スマートフォンを操作することが可能になった為今度は肘が痛くなりました(笑) つまり機能の変化により、スマホネック男→スマホ肘男にトランスフォームしたのですが、この様に機能改善に伴い新たな問題を発生させる例もあるかもしれませんね! 話が逸れました。 では身体の本質を『ハードウェア』と『ソフトウェア』に分けた場合、『ニュートラル』はそのどちらでしょうか? 私はジッちゃんの名にかけて『ソフトウェア』だと考えております。 よく、『骨盤をニュートラルに』という表現がありますが、この表現は骨盤の『位置』を示しており『機能』ではありません。 ※一般的に骨盤ニュートラルとは前傾と後傾の間の中間位を指すことが多いのではないでしょうか。これはニュートラルを『関節の位置』すなわち『構造』として見た場合の表現かと考えております。 私は、骨盤が中間位にあったとしても、その骨盤の位置を自由に操作することが出来ないのであれば、それは『ニュートラル』ではないと考えております。 例えば立位での姿勢は完璧でも、しゃがみこむ事が出来ない(骨盤後傾位をとれない)、または腰を反る事が出来ない(骨盤前傾位をとれない)クライアントはニュートラルを保持してるとは言いません。 『中間位でスタック(はまってしまって)して、そこから動けない状態』とでも表現したほうが良いかもしれません。 このクライアントは、安静時姿勢は完璧に見えても動作においては問題を抱える可能性が高いと思われます。 この例では、【しゃがみこむ事が出来て、腰を最大限に反る動きも出来て、普段は骨盤が中間位にある(前傾後掲どちらも動ける準備が出来ている)】能力の獲得を目指します。 骨盤帯においてはこの、前傾後傾どちらにもイケるぜ?という能力=機能(ソフトウェア)の事を『ニュートラル』だと考えております。 他の部位においても同じ様な考えを持つことが出来ます。 例えば肩の前突姿勢(一般的な表現で、猫背とします)のクライアントに対して、『肩を後ろに引きつけて、肩が耳の真下にある綺麗な姿勢』を保つ様に指導したとします。 もし、クライアントがその姿勢を保つ為にどこかの筋を過剰に緊張させる必要があった場合、首痛や背中痛など他の問題を引き起こすかも知れません。 これは一見綺麗な姿勢に見えても、『ニュートラル』を獲得していない為に起こる問題ではないでしょうか。 このケースにおいては、『肩の前突&リトラクション(肩を後ろに引きつける動作)の能力を獲得して、更に安静時姿勢においては無理な緊張をせずに肩が中間位にある』能力を獲得する指導をする必要があります。 以上がニュートラルの定義その①:ニュートラルとはソフトウェアである、です。 細かすぎるお話に思われるかも知れませんが、ニュートラル(ニュートラリティー)の本質を定義することで運動指導がより効果的になるかも知れません。 皆様のお考えもお聞かせいただけると光栄です。 次回は呼吸のニュートラルについて考察いたします! ありがとうございました。 近藤拓人

近藤 拓人 2169字

呼吸においてのニュートラルとは何か?

前回は『ニュートラル』または『ニュートラリティー』の定義についての考えを述べさせて頂きました。 前回の内容をまとめると “関節におけるニュートラルとは、関節の位置(ハードウェア)ではなく、その関節が求められる動きを適切に表現できる能力(ソフトウェア)である” という事でした。 前回の内容を踏まえ、今回は『呼吸のニュートラル』について私の考えを述べさせて頂きます。 『腹式呼吸』『胸式呼吸』『横隔膜呼吸』『奇異呼吸』『パラドックス呼吸』『努力性呼吸』『安静時呼吸』 などなど、呼吸パターンを表す用語は沢山あります。 様々な理論がある中で、近年はInter abdominal pressure (IAP)→腹圧 を高める呼吸が正しいとされる事が多いです。 この様な呼吸はよく 『Diaphragm breathing (横隔膜呼吸)』と表現されます。 ※そもそも横隔膜を使わない呼吸は無いので『横隔膜呼吸』という言葉が相応しいのかは疑問ですが、ここでは吸気の際に横隔膜が腹圧を高めるべく動く(腱中心が下方に下がる)呼吸を横隔膜呼吸とします。 そして、ここでは吸気の際に横隔膜が腹圧を高める事が出来ない呼吸(例えば胸部が頭方に向かって上がり肩で息をするような呼吸)を胸式呼吸とします。 では、横隔膜呼吸を獲得すれば『呼吸のニュートラル』を獲得したと言えるのでしょうか? 結論から述べますと、 『呼吸のニュートラル』とは “どのような状況においても、その状況に適した呼吸ができる” という能力(ソフトウェア)であるため、単純に横隔膜呼吸=呼吸のニュートラルではありません。 誤解されているかも知れませんが、俗に言う“胸式呼吸”も単純に悪い呼吸ではなく、状況によっては最適な呼吸となる場合があるのです。 例えば800メートル走の際に、 正しい横隔膜呼吸によって腹圧を保ち、走行に適切な姿勢を維持してエネルギー効率やバイオメカニクス的利点を使える選手は有利です。 ただし最大努力時において、または最大努力後にすぐ回復する(酸素~二酸化炭素バランスを調整する)必要がある場合、姿勢を崩してでも酸素を最大に取り入れることができる=すなわち努力性呼吸(ある種の”胸式呼吸”)が上手な選手が有利かも知れません。 ※ここでの努力性呼吸とは肩・胸の上下動が目視できる程の大きな呼吸を意味します。 ただ、この選手がレースの後に家で寝る時も努力性呼吸を続けているのであれば、これは努力性呼吸でスタックしている状態であり、一般的に睡眠の質や回復に問題を抱えるためこれは呼吸においてのニュートラルではありません。 “状況に応じて呼吸パターンを変化させる能力=呼吸のニュートラル”を持っている選手が呼吸においては最も優秀だと考えられます。 これは姿勢のニュートラルで述べた骨盤における“前傾にも後傾にもどちらにもいけるよ”という状態とほぼ同じです。 言い方を変えると 『横隔膜呼吸』も『努力性呼吸』も、『腹式呼吸』も『胸式呼吸』も『鼻呼吸』も『口呼吸』も必要に応じて使うことのできる能力がニュートラルです。 ある状況において不適切な呼吸を選択してしまった場合、その呼吸は”パラドックス呼吸”と言えますが、違う状況においてその呼吸は”最適な呼吸”かもしれません。 ”呼吸においてのニュートラル”の定義についてはココまでです。 ここまでで充分ややこしいですが、ここからは呼吸への介入を更に複雑にしている”回旋運動””歩行”について述べさせて頂きます。 人間は直立位であるため殆どの動作において回旋運動が必須です。 回旋運動には肋骨の動きが深く関わるため、回旋運動による呼吸への影響はかなり大きいのです。 また回旋運動は左右非対称な動きであるため、呼吸も回旋運動に伴い左右非対称に行うことが必要となります。 簡単に表現すると 右側は横隔膜呼吸、左側はある種の胸式呼吸が必要な動作もあります。 その代表的な動作は歩行です。 “Walking is Breathing”~歩行とは呼吸である by Ron Hruska と言われる所以はココです。 歩行は回旋運動→即ち左右非対称な動作であり、効率的な歩行を行うためには左右非対称な呼吸を獲得する必要があります。 『横隔膜呼吸』“だけ”上手な人は左右非対称な呼吸を獲得していないため、効率的な歩行はできません。 『胸式呼吸』“だけ”上手な場合も同様です。 更に更にややこしくなるのですが、 歩行は左右非対称な動作ですが、両側交互に行う必要があるため、“左右非対称な動作を交互的に行う能力”が求められます。(めんどくせ!) それに伴い呼吸も横隔膜呼吸&胸式呼吸を左右非対称に、さらに交互的に行う能力が必要となります。 “左足立ちでも、右足立ちでも、求められる呼吸パターンを体現しながら前に進む“ これが意外に難しいのです。 長くなりましたので、呼吸と回旋運動の関わりについてはまた違う回で述べますが、今回は『呼吸のニュートラル』について皆様の考察を少しでも深めるお手伝いができたら幸いです。 また皆様のご意見やご質問も随時お待ちしております。 ありがとうございました!

近藤 拓人 2284字

エクササイズの良し悪しはポジションによって決まる

最近暑いので、毎日フラ〜っと宮﨑県の誇る美しい海辺に出かけ、パラソルの下で涼みながら本を読み、たまに知り合いを見つけて何気ない話で盛り上がる、という妄想をしながらお家でYouTube 観てます。 今回はエクササイズとポジション(関節の位置)の関係についてお話をさせて頂きたいと思います。 昨今トレーニング本や文献で多種多様なエクササイズが紹介されています。 運動指導に携わる皆様は、それこそ無数のエクササイズを試したことがあるかと思います。 例えば、前十字靭帯の障害を予防するためにはどのエクササイズが良いのでしょうか? という質問を受けた時、皆様はどんなエクササイズを思い浮かべますか?? 多くの方が着地時のニーイン(膝が内側に入る)を予防する為の『股関節外旋筋群を鍛えるエクササイズ』を思い浮かべるかと思います。 今回は『股関節外旋筋群を鍛える』とされているエクササイズがポジションによってどう変わるかを考察します。 股関節外旋エクササイズとして代表的な物の1つに【※クラムシェル】というエクササイズがありますよね。 ※側臥位、股関節と膝関節は屈曲位で揃える、上方の膝を天井に向けてあげて股関節を外旋する ある文献では、 『クラムシェルは股関節外旋筋をトレーニングするのに優れたエクササイズである』 と記述されています。 一方他の文献では、 『クラムシェルは大腿筋膜張筋や大腰筋の働きが強く見られるため臀筋(もしくは股関節外旋筋)のトレーニングとして相応しくない』 と記述されています。 どちらの文献においても方法論的に大きな違いが見られず、同じ程度の信頼度がある場合、どちらの主張を信じますか?? 私はこの類(エクササイズ時の筋発火を調べる)の研究に欠けている概念の1つが『ポジション』だと考えております。 このケースでは、クラムシェル動作時において非検者の腰椎〜骨盤〜大腿部がどのポジションを取るかで働く筋は全く変わります。 例えば非検者の腰椎が前弯し、骨盤(寛骨)が前傾している場合、腸骨大腿靭帯と恥骨大腿靭帯が正常に機能すると大腿骨は内旋します。(簡単に言うと靭帯組織に問題が無い場合、腰が反る→内股になる) 寛骨の前傾に伴い股関節屈曲筋である大腰筋は働きやすい位置(やや短縮位)に来ます。 反対に大腿二頭筋は働きづらい位置(伸長位)に来ます。 大腿二頭筋は大腿骨外旋筋としても機能しているのですが、寛骨前傾によって働きが弱まってしまうため、代わりに大腰筋が股関節外旋筋として機能し始めます。 更に、寛骨前傾&大腿骨内旋に伴い股関節屈曲&内旋筋である大腿筋膜張筋も働きやすい位置に来ます。 歩行時に水平面の安定を獲得するためには 1、大腿骨(FA)内旋筋=内転筋の一部と外側広筋 2、大腿骨(FA))外旋筋群=大腿二頭筋と臀筋の一部 主に以上の筋群による拮抗は必須なのですが、 腰椎〜骨盤〜大腿部が前述のポジションをとると働く筋群が変わってしまいます。 簡単に言うと、 大腿骨外旋は大腰筋 大腿骨内旋は大腿筋膜張筋 が主役となります。 この状態でクラムシェルをすると、寛骨前傾&大腿骨の内旋により過活動になっている大腰筋と大腿筋膜張筋の筋発火が多く見られるのは必然ではないでしょうか? 私の結論としては、クラムシェルが良いエクササイズ(ここでは股関節外旋筋群を鍛える事ができるか?を判断基準とする)かどうかは、関節がどのポジションを取るかで決まります。 これは全てのエクササイズに当てはまります。 エクササイズの名前(スクワット、デッドリフト、プッシュアップetc)では、そのエクササイズやメニューの良し悪しは判断できません。 エクササイズに明確な目的を持ち、その目的を達成するためにはどのポジションでエクササイズをするべきかを考えて処方すれば、全てのエクササイズは最高のエクササイズになり得ます。 なんちゃって

近藤 拓人 1720字

姿勢は重要か?その1:動作との関わり

(パート2はこちらへ) 現在チェコのプラハはモトル病院にて発育発達過程を応用した運動療法を学んでいます。 ここでは”発育発達過程において赤ちゃんが獲得してきた姿勢”を再学習することを重要視しています。 この理論は日本でもDynamic Neuromuscular Stabilization (DNS)で有名になってきていますよね。 モトル病院にて、再び姿勢について色々と考えさせられましたので、これから数回にかけて考察したいと思います。 ※姿勢は”アライメント”と呼ばれることも多いかと思いますが、ここでは同意義とします。 姿勢は大切か?? 現在も姿勢については議論が行われており ”姿勢は大切だ” または ”姿勢は重要ではない” と両極端の主張が見られます。 それぞれの主張をサポートする文献もあり、単純にOか×で判断することは難しいのですが、私は現時点で”姿勢は重要である”と主張します。 おそらく、運動指導に関わる多くの方も、姿勢の重要性については肌で感じてらっしゃるのではないでしょうか? ※ちなみに話題のPostural Restoration Instute(PRI)のPは”Postural"=姿勢ですよね。 Ron Hruska信者である私なんかコレだけで”姿勢は重要です”って思えちゃいます。 では姿勢の重要性を説くため以下に”姿勢と動作がいかに関わっているか?”を考察いたします。 1. 姿勢は動作の開始位置である 全ての動作は姿勢から始まります。姿勢は重要ではない、との意見の背景には“静的な姿勢と動的な動作”を分ける考えがあるかと思いますが、そもそもこの二つを分けることは出来ません。 例えば、ジャンプ動作に股関節・膝関節・足首の伸展(底屈)=トリプル・エクステンションが必要だ、とは良く聞きますが、そもそも姿勢(動作の開始位置)が伸展位から始まったらどうでしょうか? 腰が反り、骨盤が前傾し、膝が過伸展し、足首が底屈位で止まった身体から、適切なトリプル・エクステンションは産まれるでしょうか? もし上記の位置でスタックしていたとすれば、ローディングが出来ないために最高のエネルギーは産み出せません。 また仮に、上記の位置から動くことができる(ローディングできる)としても、この位置からのローディングはジャンプ動作において最適な時間を提供することができない(ローディングにかかる時間が長すぎる)ため、最速のスピードでエネルギーを産み出すことができません。 最適な動作を行うためには、正しい姿勢から動作を始める必要があります。 2. 姿勢は動作の終了位置である 次に、姿勢は“動作の終了位置”でもあります。 すべての動作には終わりが来ますが、その動作の質を反映したものが姿勢であると考えられます。 例えば、競技選手はその競技独特の姿勢を持つことが多いです(投球系、ラケットスポーツの選手の大半は利き腕側の方が下がって見えます) 動作の開始位置を正しい位置から行ったとしても、動作に大きな偏り(例えば明らかな右重心)があった場合、動作終了時での姿勢(=次の動作の開始位置)は右に偏っていることが多いです。 すなわち、姿勢は動作の質を教えてくれる重要な情報となります。 また、反復動作の多いスポーツにおいて選手は“次の動作を始めるのに最も有利な姿勢”を作る傾向にあります。 短距離ランナーの寛骨前傾位などはこれの代表格で、踵着地(寛骨後傾位)の必要性がない競技特異性を考えると、短距離ランナーが競技後に寛骨後傾位の姿勢をとるとは考えづらいです。 ※短距離ランナーに寛骨後傾位を学習させることによりパフォーマンスは上がるのか??は非常に興味深いトピックですね。疼痛、傷害予防に関しては、動作に多様性を持つことが有益なのは間違いないですが、短距離走のタイム向上に焦点を絞ると判断が難しいとこです。 もしこれがサッカー選手となれば話は別です。よっぽど独特なスタイルの持ち主でなければ、パフォーマンスアップのために多様性は必須ですよね。 今回は姿勢と動作の関わりについて考察しました。 1. 姿勢は動作の開始位置である 2. 姿勢は動作の終了位置である 以上について何かご意見があればぜひお聞かせください! 次回からは、姿勢と呼吸機能、心理状態の関わりを考察いたします。 長文にお付き合い頂き、ありがとうございました!

近藤 拓人 1899字

姿勢は重要か?その2:姿勢は機能的パターンの制限を決める

(パート1はこちらへ) よく歯が欠けている状態のことを“はもげ”と呼ぶのですが、これが方言だということを先週知りました。※歯がモゲる、を略して“はもげ”だよ♡って説明したら、モゲるがそもそも方言らしいです。 では本題です、 前回の“姿勢は重要か?その1:動作との関わり”では 1. 姿勢は動作の開始位置である 2. 姿勢は動作の終了位置である 以上の内容をご紹介致しました。 ※前回の投稿をご覧になった方は既にご存知かと思いますが、姿勢の重要性については未だ明確なスタンドポイントはなく“姿勢は重要である!!”派と“姿勢は痛みや機能との関連性は無い”派、“ケースバイケースじゃん?”派に分かれております。 私は“姿勢は重要である”派なのですが、その理由として今回は姿勢と呼吸の関わりをご紹介します。 “Posture is a reflection of the “position” of many systems that are regulated, determined and created through limited functional patterns. – Ron Hruska Jr., MPA, PT これはPostural Restoration Instituteの創始者であるロン・ハラスカの言葉です。 ※天才と呼ばれる人々の言葉は難解ですね。 中々解釈が難しい言葉ですが頑張って訳すと、“姿勢は限定された機能的パターンにより統率、決定、創造された沢山のシステムのポジションを反映したものである”って感じですかね。(はい??ってなりますね) 僕も初めはピンとこなかったのですが、姿勢やポジションについて介入を続けると、この言葉の真意も含め色々と見えてきたものがあります。 以下は姿勢について、前回ご紹介した ① 姿勢は動作の開始位置である ② 姿勢は動作の終了位置である に引き続き、私なりの解釈その③です。 ③ 姿勢は機能制限を決める 簡単に言うと、姿勢は“何ができるか”ではなく、“何ができないか”を決めます。 呼吸を例にしますと、腰が反り胸が上方を向いた胸郭のポジションでは横隔膜のZOAの確保ができないため、横隔膜の下降による腹腔内圧の増加を伴った呼吸(安静時呼吸として紹介されることが多い)は出来ません。この姿勢では通常、上胸部呼吸(努力性呼吸として紹介されることが多い)が優勢となります。 ※以前もご紹介した通り努力性呼吸は悪い呼吸ではなく、必要に応じて使い分けることが必要です。 ただし!このポジションで効果的な“努力性呼吸”ができているか??というと必ずしもそうではありません。 例えば肋骨の拡張が上部腹筋群の緊張によって阻害され、せっかく吸気量を最大化できるポジションをとっているのにも関わらず最大の努力性呼吸が出来ない状態がよくみられます。 すなわち、この腰が反り胸が上方を向いた胸郭のポジションでは、 1. 安静時呼吸は出来ないと断言できる! 2. 努力性呼吸が出来るとは限らない となります。 これが“姿勢は機能を決定する”ではなく“姿勢は機能制限を決定する”という言葉の根拠です。 ここで先ほどご紹介したロン・ハラスカの言葉に戻りますが、 “姿勢は限定された機能的パターンにより統率、決定、創造された沢山のシステムのポジションを反映したものである” この言葉について私なりには “姿勢はポジションの集合体であり、各ポジションは各分節の機能制限を決定する、よって姿勢は全体的な機能的運動パターン制限を決定する” と解釈しております。 ※更に混乱させてしまったかもしれません、皆様のご意見大歓迎です “姿勢は身体機能を表してはいない”という主張や文献がありますが、確かに姿勢を見るだけでは、その人が“何ができるか?”を予測することは難しいです。 しかし、姿勢によって機能制限(できないこと、または苦手なこと)はより正確に予測できます。 普段の臨床で姿勢について介入する際は、“どのような機能制限を作りたいか”という考えを大切にしています。 過剰に働いている筋群がある場合、その筋群に機能制限(抑制)をつくるポジション(もしくは姿勢)を取らせれば良いと考えております。 理解し辛い内容になりましたので今回はここまでにしますが、次回は具体例を使って“姿勢による機能制限を決定”を応用した運動療法の例をご紹介致します。 ※最後に、引用させて頂いたロン・ハラスカ率いるPostural Restoration Instituteの講習会が12月に東京・大阪で行われます。今回は日本初となるPostural Respirationコースも開催です。 おススメですよ。

近藤 拓人 2047字

解剖クラスでの気づき

解剖クラスに通訳として参加してくれている近藤拓人さんが、クラス参加中に発見したこととは?呼吸の圧を調整する身体構造の層や外眼筋に関しての気づきをシェアします。

近藤 拓人 6:22

ライフスタイルの内臓への影響

コロラド州ボルダーで開催の解剖クラスの通訳として、今年3年目のサポートをしてくれている近藤拓人さんが、解剖クラス中に発見した心臓の個体差や、左右の発達の違いについて、そして参加するたびに注目をしたいエリアが変化していく観点のシフトについてシェアします。

近藤 拓人 7:40

ブレーキを外す

神経学的に抑制がかかっているパターンを解決することなく、筋力強化のみを行ってしまっては、ブレーキのかかった状態で出力を上げようとするようなものである。神経生理学的見地からの意見を、近藤拓人さんがシェアします。

近藤 拓人 8:28