マイクロラーニング
隙間時間に少しずつビデオや記事で学べるマイクロラーニング。クイズに答えてポイントとコインを獲得すれば理解も深まります。
筋膜フィットネス:神経筋筋膜ウェブのトレーニング パート1/3
リサーチは、エクササイズや動きに関わる脳に、今までとは異なったアプローチを取ることが、未来への新しい波である、その理由を示しています。 フィットネストレーニングにおける筋膜の役割に興味を持っているのであれば、以下の質問は新しい扉を開くことになるでしょう。 多くの怪我は結合組織(筋膜)の損傷であり、筋肉の損傷ではありませんー それではどのようにして怪我を予防、ダメージを修復し、伸縮性や弾力性をシステムに築き上げていくのが最善の方法なのでしょうか。 筋膜には筋肉の10倍もの感覚神経終末があります;どのようにして筋膜と筋肉に固有受容刺激を与えることができるのでしょうか? 伝統的な筋肉や筋膜の解剖学テキストは、動作機能における基本的な理解不足という点で正確ではありません。それでは我々はどのように「安定の臓器システム」である筋膜を全体として捉えて、働きかけることができるでしょうか? 意識的にしろ、無意識的にしろ、あなたは動きに関わるキャリア全体において、筋膜に対して働きかけていましたーそれは避けることができないものなのです。しかしながら、新しいリサーチは、ファンクショナルトレーニングにおける筋膜とその他結合組織の重要性を強調しています(筋膜学術講演会 2009)。筋膜は「筋肉の周りにあるプラスチック製のラップ」というだけではないのです。「筋膜は安定性と物理的な力の伝達に作用する臓器システムなのです(Varela & Frenk 1987)。 これを理解することは「フィットネス」に関する私達の考え方を革新することになるかもしれません。筋膜ネットに関するリサーチにより、伝統的な信念や近年好まれているものが揺らぐことになります。これらのエビデンスは人生におけるフィットネスすべてへの新たな考察に向けられていますーですから筋膜フィットネスという表現なのです。 この記事では、全体像としての筋膜ネットのイメージを浮かび上がらせ、及び筋膜ネットを鍛える為の理解をより深めることができる、最近のリサーチの数多くの側面の中から3点について取り上げ、探求していきます。 神経筋筋膜のウェブ 筋膜は身体組織のシンデレラであるーシステム的には無視をされ、解剖では細かく切り裂かれ捨てられる(Schleip 2003)。しかしながら、筋膜は生理学的容器であり、すべての臓器(筋肉を含む)にとってのコネクターなのである。解剖において、筋膜は文字通り油ぎってぐちゃぐちゃしたものである(教科書に描かれているものとは似ても似つかないもの)、そして各個人により千差万別で、実際の様子を描くことは非常に難しい。多くの理由から、筋膜はシステム全体として捉えられていませんでした;そのため私たちは、筋膜の生体力学における全体の役割について無知であったのです。 ありがたいことに、統合された機械生物学的筋膜ウェブの性質は、よりはっきりとしてきました。それはまさに頭頂からつま先まで、皮膚からコアまで、そして生誕から死まで、分かれ目のない一つのネットなのです(Shultz & Feitis 1996)。体内のすべての細胞は筋膜の張力環境に繋がってーそして反応してーいます(Ingber 1998)。メカニクスを変化させると、細胞もその機能を変化させます(Horwitz 1997)。“空間医療”の一部として、ストレッチ、強化、そして形を変えていくことーこれはパーソナルトレーニングの革新的で新しい捉え方ですー(Myers 1998)。 事実を基にすれば、多くの人は、筋膜を軽視する筋骨格系よりも神経筋筋膜という言葉の方を好むでしょう。(Schleip 2003)。足底筋膜、アキレス腱、腸脛靭帯、胸腰腱膜、項靭帯等、私達は、筋膜ウェブの中に存在する個々の構造を識別することに馴染んでいますが、これらは単に一つの筋膜ウェブにおけるエリアにつけられた便利なラベルにしかすぎないのです。それは郵便番号のようなものと言っても差し支えがないかもしれませんが、それぞれが分離した構造ではないのです。(サイドバーの「筋肉の孤立化」vs「筋膜の統合」をご覧ださい)。 大西洋、太平洋、もしくは地中海について話をすることはできます、でも海は繋がっていて世界にたった一つしかないのです。筋膜も同様です。私達は、個々の神経についての話をしますが、神経系統は全体として反応することを知っています。筋膜のウェブはどのようにしてシステムとして機能するのでしょうか? 魔法のように全体として筋膜のウェブを取り出したとしたら、それは裏も表も身体のすべての型を見せてくれることになります。それは大きな一つのネットで、その中で筋肉は魚のようにうごめいているのです。臓器はクラゲのようにぶら下がっています。全てのシステム、すべての臓器、すべての細胞までも、単一の筋膜ネットの海の中に埋め込まれているのです。 このコンセプトは重要です。なぜなら私たちは、個々の構造に名称を与え、臨床的にもそのように間挙げる傾向が強くあります:「上腕二頭筋を断裂してしまったね」、というように「上腕二頭筋」が我々のコンセプトであることを忘れてしまっています。私達が共通に使う、科学的専門用語というのは間違った印象を与えます。それにたいしてニューエイジの合言葉は文字通りに、真実を告げています;身体 (特に筋膜ネット)は、ひとつの繋がったまとまりで、その中で筋肉と骨が浮かんでいるのです。 怪我によりこのネットが破れたり、外科医のメスで切られたり、栄養や水分補給を充分に行うことができたり、もしくは果糖がたっぷりはいったコーンシロップで、詰まらせてしまったりします。どのように筋膜を扱ったとしても、いつかはその弾力性を失っていきます。例えば目のレンズにおいては、そのネットは通常固くなり、およそ50歳で老眼用のメガネが必要になるというようなことです。 皮膚においては、ネットの擦り切れがシワになります。股関節の軟骨のような、とても重要な要素も、命が途絶えるまでもたずに修繕が必要となるかもしれません。しかしながら最後の息を引き取るその瞬間まで、筋膜のウェブは生まれた時と同じ一枚のネットなのです。 このシステムが,神経系や循環系のように複雑なシグナルやホメオスタシスのメカニクスを発達させるというのは、特に驚くべきことでもありません(Langevin et al. 2006)。私たちが、この結合組織システムの反応を今まで見たり、探求したりしてこなかったことは大きな驚きであります。 筋肉の孤立化 vs 筋膜の統合 フィットネスの専門家の多くは、孤立化した筋肉の機能を学んできました。基本的に西洋キネシオロジーにおける解剖学は、このように問いかけます。:「上腕二頭筋が骨格の中で唯一の筋肉だとしたら、それはどのようなアクションを起こしますか?」 上腕二頭筋のみを取り上げれば、この筋肉は橈骨尺骨の回外筋であり、肘の屈曲筋であり、多少肩を斜めに屈曲させる筋肉でもあります。こう言ったことを覚えた時、私たちは上腕二頭筋がどういうものでそれが何をするものかを理解した気になります。それはひとつのものの見方ではあります。 ただ、上腕二頭筋というのは決して単独で働いているわけではないのです。その機能を知るために、筋肉を孤立化していくというのは統合(インテグレーション)や全体性(ホーリズム)とは正反対のものになります。実践的な違いは、どのようなものでしょうか?筋肉のみを単独で学ぶことは、日々の筋肉の機能において重要な、4つの筋膜の要素を取り残してしまうことになります。 隣接する内側及び外側に位置する筋肉からの影響と、それらの筋肉への影響。上腕二頭筋は烏口上腕筋、上腕筋、そして回内筋、さらには上腕三頭筋の隔膜にまで力を伝達する筋膜的な繋がりを持ちます。これらの筋膜的な繋がりは、上腕二頭筋や腕の機能に影響を及ぼします(Huijing 2007)。 近位及び遠位で繋がっている筋肉からの影響と、それらの筋肉への影響。上腕二頭筋は骨間膜、橈骨周辺の筋膜、及び屈曲筋に入り込む上腕二頭筋腱膜と遠位で繋がっています。近位では短頭と長頭を介して、それぞれ小胸筋と棘上筋と繋がっています。(Myers 2001, 2009)。 筋収縮がそのエリアの靭帯に及ぼす影響。上腕二頭筋を収縮させることは、肩と肘、両方の靭帯を安定させます。私たちの靭帯が筋肉と平行に位置しているという憶測は正しいものではありません。多くの靭帯は、連続して、ダイナミックに筋肉と力学的に統合されているため、筋収縮は靭帯が全ての角度で関節を安定させる助けとなるのです(Van der Wal 2009)。 全ての筋肉は、神経や血管により供給されなければならないという事実。これらの「ワイヤーやチューブ」は筋膜のシーツに包まれて届けられます。これらのシーツが悪い姿勢により捻れていたり、詰まっていたり、短くなりすぎている場合、筋肉の機能に影響を及ぼします(Shacklock 2005)。 (パート2/3はこちらへ) 参考文献 Chen, C.S., et al. 1997. Geometric control of cell life and death. Science, 276 (5317), 1425–28. Chino, K., et al. 2008. In vivo fascicle behaviour of synergistic muscles on concentric and eccentric plantar flexion in humans. Journal of Electromyography and Kinesiology, 18 (1), 79–88. Desmouliere, A., Chapponier, C., & Gabbiani, G. 2005. Tissue repair, contraction, and the myofibroblast. Wound Repair Regeneration, 13 (1), 7–12. Fascia Congress. 2009. www.fasciacongress.org/2009. Fuller, R.B. 1975. Synergetics. New York: Macmillan. Grinnell, F. 2008. Fibroblast mechanics in three-dimensional collagen matrices. Trends in Cell Biology, 12 (3), 191–93. Grinnell, F., & Petroll, W. 2010. Cell motility and mechanics in three-dimensional collagen matrices. Annual Review of Cell and Developmental Biology, 26, 335–61. Horwitz, A. 1997. Integrins and health. Scientific American, 276, 68–75. Huijing, P. 2007. Epimuscular myofascial force transmission between antagonistic and synergistic muscles can explain movement limitation in spastic paresis. Journal of Biomechanics, 17 (6), 708–24. Huijing, P.A., & Langevin, H. 2009. Communicating about fascia: History, pitfalls and recommendations. In P.A. Huijing et al. (Eds.), Fascia Research II: Basic Science and Implications for Conventional and Complementary Health Care. Munich, Germany: Elsevier GmbH. Iatrides, J., et al. 2003. Subcutaneous tissue mechanical behaviour is linear and viscoelastic under uniaxial tension. Connective Tissue Research, 44 (5), 208–17. Ingber, D. 1998. The architecture of life. Scientific American, 278, 48–57. Ingber, D. 2008. Tensegrity and mechanotransduction. Journal of Bodywork and Movement Therapies, 12 (3), 198–200. Kubo, K., et al. 2006. Effects of series elasticity on the human knee extension torque-angle relationship in vivo. Re- search Quarterly for Exercise & Sport, 77 (4), 408–16. Langevin, H. 2006. Connective tissue: A body-wide signaling network? Medical Hypotheses, 66 (6), 1074–77. Langevin, H., et al. 2010. Fibroblast cytoskeletal remodeling contributes to connective tissue tension. Journal of Cellular Physiology. E-pub ahead of publication. Oct. 13, 2010. Myers, T.W. 1998. Kinesthetic dystonia. Journal of Bodywork and Movement Therapies, 2 (2), 101–14. Myers, T.W. 2009. Anatomy Trains: Myofascial Meridans for Manual and Movement Therapists. New York: Churchill- Livingston. Sbriccoli, P., et al. 2005. Neuromuscular response to cyclic loading of the anterior cruciate ligament. The Amercian Journal of Sports Medicine, 33 (4), 543–51. Schleip, R. 2003. Fascial plasticity—a new neurobiological explanation. Journal of Bodywork and Movement Therapies. Part 1: 2003, 7 (1), 11–19; part 2: 2003, (2), 104–16. Shacklock, M. 2005. Clinical Neurodynamics. Burlington, MA: Butterworth-Heinemann. Shultz, L., & Feitis, R. 1996. The Endless Web. Berkeley, CA: North Atlantic Books. Snyder, G. 1975. Fasciae: Applied anatomy and physiology. Kirksville, MO: Kirksville College of Osteopathy. Stecco, C., et al. 2009. Treatment of phantom-limb pain according to the fascial manipulation technique: A pilot study. In P.A. Huijing et al. (Eds.), Fascia Research II: Basic Science and Implications for Conventional and Complemen- tary Health Care. Munich, Germany: Elsevier GmbH. Stillwell, D.L. 1957. Regional variations in the innervation of deep fasciae and aponeuroses. The Anatomical Record, 127 (4), 635–53. Taguchi, T., et al. 2009. The thoracolumbar fascia as a source of low back pain. In P.A. Huijing et al. (Eds.), Fascia Re- search II: Basic Science and Implications for Conventional and Complementary Health Care. Munich, Germany: El- sevier GmbH. Van der Wal, J. 2009 The architecture of the connective tissue in the musculoskeletal system: An often overlooked functional parameter as to proprioception in the locomotor apparatus. In P.A. Huijing et al. (Eds), Fascia Research II: Basic Science and Implications for Conventional and Complementary Health Care. Munich, Germany: Elsevier GmbH. Varela, F., & Frenk, S. 1987. The organ of form. Journal of Social and Biological Structures, 10 (1), 1073–83. Yahia, L.H., Pigeon, P., & DesRosiers, E.A. 1993. Viscoelastic properties of the human lumbodorsal fascia. Journal of Biomedical Engineering 15, 425–29.
筋膜フィットネス:神経筋筋膜ウェブのトレーニング パート3/3
どのように神経筋筋膜ウェブを鍛えるか もしも筋膜が、唯一の空間を組織する調整可能なテンセグリティーで、身体全体に行き届き(局所的にも全体的にも)張力や圧縮の生体力学を調整しているのであれば、このように問うことができます:「筋肉や神経制御への働きかけとともに、怪我を予防、修復し、システムに弾性をもたらす為には、どのようにこのシステムを鍛えることができるのだろうか?」 この質問に対する答えはまだ発展途上ですが、実験室とトレーニングの現場両方において急速に展開されています。発展を遂げ、伝統的に使用されている私たちがイメージするものや実践していることを裏付けるリサーチもあります。 ここでは、私たちのアイデアを変える(もしくはもうすぐに)神経筋筋膜ウェブが実際にどのようにして働き、結合組織が人生におけるフィットネス全体を発展させるのにどのように作用するのかといった、いくつかの驚くべき発見に焦点をあてます 。これらの更に詳細な結果は www.fascialfitness.de や www.anatomytrains.com の筋膜フィットネスのセクションで見つけることができます。 発見#1:特定のトレーニングは全身の弾性エネルギーに必要不可欠な筋膜弾性を向上させることができる。 筋膜弾性は最近まで認識されておらず、それに関わるメカニズムも現在研究されている段階です (Chino et al. 2008)。にもかかわらずトレーニングに適用されていることは既に明らかです。基本的なニュースは、結合組織は − 腱や腱膜といった密生組織でさえも− 以前考えられていたよりも更に、かなりの弾力性があるということです。 ニュースの重要な2つ目の部分は、筋膜弾性はとても素早く蓄積され返還されます。言い換えれば、ナーフボール(Nerf™ ball/スポンジ製のボール)というよりはスーパーボールのような感じなのです。そのため、筋膜弾性はランニングやウォーキング、または細かいジャンプというように循環し素早く繰り返される動きの時にのみ関わる要因となりますが、自転車漕ぎは含まれません、なぜなら筋膜弾性の特質を利用するには、反復サイクルが遅すぎるからです。 ランニング時におけるふくらはぎの伸長度の計測は、筋肉が等尺性収縮をしている際に、筋膜の弾力性伸縮により、背屈に必要とされる長さがもたらされることを示しました (Kubo et al. 2006)。 これは、腱には弾力性がなく、足が地面に着く前後に起こる循環動作の間、筋肉が伸び縮みすると、私たちが以前理解していたこととは矛盾します。 トレーニングを積み、この弾力性を利用するランナーは、伸張時にエネルギーを蓄え、リリースの時に返還することで、より少ない筋力をランニング時に使用しています。(「より少ないグルコース」:参照)そのため、彼らは、より長い距離を少ない疲労で走ることができるのです。 この弾力性を構築するには、組織にそのように作動するよう働きかけることです。これをゆっくりと行うこと(筋力トレーニングと比べて)は筋膜トレーニングにおいては絶対的な特性となります(筋膜弾性を構築するには6−24ヶ月かかります)。 必要なこと: バウンシング(反発性)。母指球で着地する時、身体は減速や加速を行うことに弾力性を利用しているだけでなく、腱や筋膜システム全体に弾力性を構築しています。最善のトレーニング効果は快楽原理に基づくようです:優雅さと、最小の努力と最大のたやすさの理想的な共鳴を感じるのです。 準備としての対抗運動。対抗運動をして動作の準備をすることは(例えば、伸展して立ち上がる前に屈む、投球前のワインドアップ、またはケトルベルを身体から離す前に身体に近づける) 動作の円滑化を助けるために、筋膜弾性のパワーを最大限に利用することになります。 必要ではないこと: ぎくしゃくした動きと突然の方向転換。縄跳びで踵だけでの着地をすることを想像してみてください。この時、システム全体にかかるストレスは甚大で、筋膜システムに弾力性を構築するものではありません。 プッシュオフ時における多大な筋力要求。筋膜弾性のリコイルを利用することでプッシュオフ時における甚大な筋肉の努力要求を減らし、動作はよりコントロールしやすくなり、より容易に少ない燃費で行うことができます 。 発見#2:筋膜システムは、反復するプログラムよりも変動するものにより反応をする。 エビデンスによると、筋膜システムは,角度、テンポ、そして負荷の様々な種類のベクトルによってより鍛えられるとされています (Huijing 2007)。一つの経路にそって筋肉(例えばエクササイズマシーンによるもの)を孤立化することは、それらの筋肉には有効かも知れませんが、周辺組織にはあまり有効ではありません。常に一方向からだけの負荷をかけるということは、人生において(ほぼ反復性のない)その身体部位に予期せぬことが起こった時、弱いものにしてしまいます。 必要なこと: 全身運動。 長い筋筋膜の鎖が働き、全身運動を取り入れることが筋膜システムを鍛えるより良い方法です。 近位からの初動。動作をダイナミックプレストレッチから(遠位の伸展)始めるのがベストですが、これに望む方向への近位からの初動を伴わせ、ゴム製の振り子のように身体の遠位部が流れに続くようにします 。 適合動作。 *パルクール(ジェームスボンドの映画、カジノロワイヤルの冒頭が素晴らしい例なので参考にしてください)のように適合が必要とされる複雑な動きに、反復性のエクササイズプログラムはかないません。 *(訳者注)パルクール(フランス発祥の運動方法。走る、跳ぶ、登るなどの移動動作で身体を鍛える方法) 必要ではないこと: 反復動作。クライアントが同じ線上で何度も繰り返し動作を行うマシーン(または思考)で、筋膜弾性を上手に築くことはできません。 常により高いレベルの負荷で実践すること。多種多様な負荷は筋膜の異なった側面を鍛えます。限界値に近い負荷のみに固執することで強化できる靭帯もありますが、他の構造が弱くなってしまいます。負荷を変化させることがより良い方法でしょう。 常に同じテンポでトレーニングすること。同様に、異なったテンポでトレーニングを行うことで、異なる筋膜構造の強度や弾力性が構築されます。 発見#3:筋膜システムは、筋肉よりもずっと多く神経支配されています。ですから固有受容感覚や運動感覚は主に筋膜にあり、筋肉ではないのです。 これは多くのフィットネスの専門家とって、発想の転換をするのが難しいコンセプトかもしれませんが、事実として:筋膜組織には筋肉の10倍にも及ぶ感覚受容器があるのです (Stillwell 1957)。 筋肉には紡錘があり、筋肉の長さ(時間の経過と共に長さの変化率)を測っています。これらの紡錘も筋膜受容器としてとらえられるとはいえ、とりあえず筋肉のものとして、譲っておきましょう(Van der Wal 2009)。 それぞれの紡錘には、およそ10個の受容器が筋外膜の表面、腱と筋膜の付着部、近隣の靭帯や浅層といった周囲の筋膜に存在します。 これらの受容器には(繊維の伸張度を計ることによって)負荷を計るゴルジ腱紡錘、圧を測るパチーニ小体終末、中枢神経系統に軟部組織の剪断力を伝えるルフィーニ終末、そして上記のもの全てに加え痛みも伝える、至る所にある小さな間質性神経終末が含まれます(Stecco et al. 2009; Taguchi et al. 2009)。 テンセグリティー 連続した部分としてではなく、全体としての筋膜システムを一度理解すると、身体は、それ自体が生き生きとしたテンセグリティーとして表現されます(「張力-統合」)(Fuller 1975)。 支柱は骨のようなもので、押し出し、筋膜のネットは紐や膜のようなもので、引き込みます。これら全てにより私たちが「形」と呼ぶものが作られます。私達の身体がこのように細胞的に、そしてマクロレベルで働いているというのが明らかになってきました(Ingber 2008)。 もちろん、我々人間のテンセグリティーは、神経系によって生命を吹き込まれ、筋肉を介してとても調整されやすいものですが、これらの構造の特性を探求していくことは、私たちの身体にとって価値のあることなのです。 ですから、筋肉が動いていると感じると述べることは、少し不適切なのです。あなたは筋肉よりも筋膜組織の声を“聞きとっている”のです。この基本的でありつつ目を見張るような事柄に関連した、3つの興味深い発見があります。 ほとんどの靭帯は、平行ではなく筋肉と連続して配列されています(Van der Wal 2009)。これはつまり筋肉が緊張すると、靭帯は、その位置がどこであろうと自動的に関節を安定させるために緊張します。靭帯は関節が最大伸展位、もしくは捻れがないかぎり機能しないという考えは、今や時代遅れなのです;例をあげると、靭帯はプリーチャーカールの動作の終了時のみでなく、動作の全行程で機能しています。 神経終末の配列は遺伝的なものでもなく、間違いなく私達が筋肉と呼ぶ解剖学的区分けによるものでもなく、その個人の、その位置に加わる力によって配列されます。動作脳の中には「三角筋」という表示はありません。それは単に大脳皮質にあるコンセプトであり生物学的組織に存在するものではないのです。 明らかに関節靭帯の受容器よりも、皮膚やその近辺にあるセンサーはより活発に動作を感知し、調整しています(Yahia, Pigeon & DesRosiers 1993)。 必要なこと: 皮膚と表面組織への刺激が固有感覚受容を高める。筋膜の固有感覚受容を高めるには、皮膚や表面組織をさすったり、動かしたりすることが重要です。あるウエイトリフターは、競技の前に野菜ブラシで体をこすり良い結果を納めています。 筋膜組織を感じるように、クライアントを導く。自分自身及び、そのクライアントが、筋肉ではなく周辺筋膜組織に注意を払うことで怪我を予防でき、運動感覚の認知がより正確にしっかりと伝達されます。高いレベルの鋭敏な運動感覚(猫を思い浮かべてください)を伴った感覚的な身体活動は、タフであることよりも、より良く怪我を予防することができるでしょう。 必要ではないこと: 孤立した筋肉の方向性。一つの筋肉やそのグループだけのエクササイズをするということは、ほぼ不可能です;全てのエクササイズにおいて複数の神経が刺激され、複数の筋肉が関わり、 “上流”“下流”を含め動作が行われている周辺、全ての筋膜組織が動員されているのです。 関節受容器の強調:時に靭帯は筋肉により緊張しますが、関節受容器を強調することは(重要ではあるものの)皮膚からその下の全領域にかけて、より全体に注意を向けるという考えに変える必要があります。 この議論は生体力学の要素に重点を置いてきました;栄養学、体液の考察、近年研究題材となっている筋膜の異なった構成などに関しては省略されています。トレーニングにおける筋膜の役割をより深く理解することは、私たちの知覚、ワーク、言語や効果に変化をもたらします。筋膜は、単にぴったりとくっつくサランラップのようなものではないのです。 参考文献 Chen, C.S., et al. 1997. Geometric control of cell life and death. Science, 276 (5317), 1425–28. Chino, K., et al. 2008. In vivo fascicle behaviour of synergistic muscles on concentric and eccentric plantar flexion in humans. Journal of Electromyography and Kinesiology, 18 (1), 79–88. Desmouliere, A., Chapponier, C., & Gabbiani, G. 2005. Tissue repair, contraction, and the myofibroblast. Wound Repair Regeneration, 13 (1), 7–12. Fascia Congress. 2009. www.fasciacongress.org/2009. Fuller, R.B. 1975. Synergetics. New York: Macmillan. Grinnell, F. 2008. Fibroblast mechanics in three-dimensional collagen matrices. Trends in Cell Biology, 12 (3), 191–93. Grinnell, F., & Petroll, W. 2010. Cell motility and mechanics in three-dimensional collagen matrices. Annual Review of Cell and Developmental Biology, 26, 335–61. Horwitz, A. 1997. Integrins and health. Scientific American, 276, 68–75. Huijing, P. 2007. Epimuscular myofascial force transmission between antagonistic and synergistic muscles can explain movement limitation in spastic paresis. Journal of Biomechanics, 17 (6), 708–24. Huijing, P.A., & Langevin, H. 2009. Communicating about fascia: History, pitfalls and recommendations. In P.A. Huijing et al. (Eds.), Fascia Research II: Basic Science and Implications for Conventional and Complementary Health Care. Munich, Germany: Elsevier GmbH. Iatrides, J., et al. 2003. Subcutaneous tissue mechanical behaviour is linear and viscoelastic under uniaxial tension. Connective Tissue Research, 44 (5), 208–17. Ingber, D. 1998. The architecture of life. Scientific American, 278, 48–57. Ingber, D. 2008. Tensegrity and mechanotransduction. Journal of Bodywork and Movement Therapies, 12 (3), 198–200. Kubo, K., et al. 2006. Effects of series elasticity on the human knee extension torque-angle relationship in vivo. Re- search Quarterly for Exercise & Sport, 77 (4), 408–16. Langevin, H. 2006. Connective tissue: A body-wide signaling network? Medical Hypotheses, 66 (6), 1074–77. Langevin, H., et al. 2010. Fibroblast cytoskeletal remodeling contributes to connective tissue tension. Journal of Cellular Physiology. E-pub ahead of publication. Oct. 13, 2010. Myers, T.W. 1998. Kinesthetic dystonia. Journal of Bodywork and Movement Therapies, 2 (2), 101–14. Myers, T.W. 2009. Anatomy Trains: Myofascial Meridans for Manual and Movement Therapists. New York: Churchill- Livingston. Sbriccoli, P., et al. 2005. Neuromuscular response to cyclic loading of the anterior cruciate ligament. The Amercian Journal of Sports Medicine, 33 (4), 543–51. Schleip, R. 2003. Fascial plasticity—a new neurobiological explanation. Journal of Bodywork and Movement Therapies. Part 1: 2003, 7 (1), 11–19; part 2: 2003, (2), 104–16. Shacklock, M. 2005. Clinical Neurodynamics. Burlington, MA: Butterworth-Heinemann. Shultz, L., & Feitis, R. 1996. The Endless Web. Berkeley, CA: North Atlantic Books. Snyder, G. 1975. Fasciae: Applied anatomy and physiology. Kirksville, MO: Kirksville College of Osteopathy. Stecco, C., et al. 2009. Treatment of phantom-limb pain according to the fascial manipulation technique: A pilot study. In P.A. Huijing et al. (Eds.), Fascia Research II: Basic Science and Implications for Conventional and Complemen- tary Health Care. Munich, Germany: Elsevier GmbH. Stillwell, D.L. 1957. Regional variations in the innervation of deep fasciae and aponeuroses. The Anatomical Record, 127 (4), 635–53. Taguchi, T., et al. 2009. The thoracolumbar fascia as a source of low back pain. In P.A. Huijing et al. (Eds.), Fascia Re- search II: Basic Science and Implications for Conventional and Complementary Health Care. Munich, Germany: El- sevier GmbH. Van der Wal, J. 2009 The architecture of the connective tissue in the musculoskeletal system: An often overlooked functional parameter as to proprioception in the locomotor apparatus. In P.A. Huijing et al. (Eds), Fascia Research II: Basic Science and Implications for Conventional and Complementary Health Care. Munich, Germany: Elsevier GmbH. Varela, F., & Frenk, S. 1987. The organ of form. Journal of Social and Biological Structures, 10 (1), 1073–83. Yahia, L.H., Pigeon, P., & DesRosiers, E.A. 1993. Viscoelastic properties of the human lumbodorsal fascia. Journal of Biomedical Engineering 15, 425–29.
筋膜の弾性を向上させる(ビデオ)
10月3日に、東京で開催された、トーマス・マイヤースのセミナー”筋膜のフィットネス”のクラス風景から、2つのムーブメントのアイデアを収録。トムが、筋膜の持つ弾力性を活かして、更にゴムのように弾む身体を作るために、簡単にできる動きのアイデアや、型にとらわれることなく、自分自身の身体が動きたいように、自由に探検してみることの提案をシェアしてくれています。
構造の支点 ポイント1/7(ビデオ)
(ポイント2/7はこちらへ) 先週、10月4日&5日に東京で開催したトーマス・マイヤースのハンズオンセミナー”アナトミートレイン:構造の支点”の7つの重要なポイントの中から、まずは1つめのポイントのご紹介をします。構造の一番下部に位置する、このポイントは、私達のグラウンディングに深く影響します。 ポイント #1:地面 - 後脛骨筋遠位付着部 ポイントを見つける:距舟関節の下方、内側アーチの中間 方向:足を内顆の方向に向かって上方へ 重要性/意義:コアの底部 - ディープフロントライン全体を目覚めさせ、アーチ、背骨の 前部、骨盤底にも影響あり
構造の支点 ポイント2/7(ビデオ)
(ポイント1/7はこちらへ) (ポイント3/7はこちらへ) 10月4日&5日の2日間にわたって開催された、トーマス・マイヤースのハンズオンクラス“構造の支点”の7つの重要ポイントの中から、2つ目のポイントである、腓腹筋、ヒラメ筋、アキレス腱の接合点へのハンズオンテクニックをご紹介します。 ポイント #2:不安感 -腓腹筋/ヒラメ筋/アキレス腱の接点 ポイントを見つける:腓腹筋の内側頭と外側頭の間の区分の下端 方向:下腿部に向かってまっすぐ前方に 重要性/意義:前方突出の一番の被害者 - スーパーフィシャルバックライン全体に影響する。トリ ートメントは骨盤を中心とし、しばしば不安感を減少させる効果をもつ。
構造の支点 ポイント3/7(ビデオ)
(ポイント2/7はこちらへ) (ポイント4/7はこちらへ) 10月4日&5日に開催された、トーマス・マイヤースのハンズオンクラス”構造の支点"の7つの重要ポイントの3番目、小転子へのアプローチの手技解説の模様をお送りします。小転子に直接アプローチするためには、組織が既にオープンになっている必要がありますが、股関節内側の組織をリリースして脚を股関節から引き出してくるようなテクニックもご紹介しています。 ポイント #3:後退 - 小転子 股関節の内側 ポイントを見つける:薄筋と大内転筋の間、座骨枝後部のすぐ下側 方向:股関節の内側に向かって上方、外側へ 重要性/意義:テキストに書かれている最高の“脚長伸ばし”大腿骨の股関節への後退を減少させる
構造の支点 ポイント4/7(ビデオ)
(ポイント3/7はこちらへ) (ポイント5/7はこちらへ) 10月4日&5日に開催された、トーマス・マイヤースのハンズオンクラス ”構造の支点” の7つの重要ポイントの4番目、仙腸関節へのアプローチの手技の模様をお届けします。仙腸関節のエリアには多くの靭帯が存在します。結合組織が密な部分であればある程、固有受容器の密度も高くなる、つまりこのエリアへのアプローチはパワフルなものになり得るのです。 ポイント #4:前に踏み出す - 仙腸関節 ポイントを見つける:上後腸骨棘(PSIS)の内側 方向:仙腸靭帯背側に向かって前方、外側へ 重要性/意義:脚に対する背骨の“モーターマウント“バランスのとれた成熟した歩行の鍵
構造の支点 ポイント5/7(ビデオ)
(ポイント4/7はこちらへ) (ポイント6/7はこちらへ) 10月4日&5日に開催された、トーマス・マイヤースのハンズオンクラス”構造の支点”の7つの重要ポイントの5つ目。ミッドドーサルヒンジ=中背部のヒンジのポイントへのアプローチをご紹介します。T6~7の両脇から肋椎関節方向に向かってのアプローチで、身体前面のラインへ影響を与えます。 ポイント #5:保護 ‒ 中背部ヒンジ ポイントを見つける:T6-7の両脇、中心線から約3cm離れたところ 方向:肋椎関節及び肋横突関節に向かって前方、やや外側 重要性/意義:身体の前側(スーパーフィシャルフロントライン、ディープフロントライン)をオ ープンにし、呼吸を楽にし、胸椎過度後弯を減少させる
構造の支点 ポイント6/7(ビデオ)
(ポイント5/7はこちらへ) (ポイント7/7はこちらへ) 2013年10月4日&5日に開催された、トーマス・マイヤースのハンズオンクラス”構造の支点”の7つの重要ポイントの6つ目。胸骨と鎖骨が出会う、鎖骨内側の下側、第一肋骨に近い胸鎖接合へのアプローチをご紹介します。肩の動きをオープンにしてリストアする重要なポイントです。 ポイント #6:リーチアウト -胸鎖接合 ポイントを見つける:鎖骨内側の下側、第一肋骨に近いところ 方向:後方、内側からスタートして外側へ 重要性/意義:スーパーフィシャルフロントアームライン及びディープフロントアームラインを通 して、肩の動きをオープンにし、リストアする
構造の支点 ポイント7/7(ビデオ)
(ポイント6/7はこちらへ) 2013年10月4日&5日に開催された、トーマス・マイヤースのハンズオンクラス“構造の支点”の7つの重要ポイントの最後。後頭骨の下側、後頭下筋の三角形のエリアは、目と背骨の動きの調整にも関与しています。頭部前突の姿勢において、短縮しがちなこのエリアを効果的にリリースする方法をご紹介します。 ポイント #7:視覚 - 後頭下三角 ポイントを見つける:後頭骨の下側、項線及び半棘筋の前方 方向:頭頂に向かって上方へ 重要性/意義:スーパーフィシャルバックラインの機能的な中心、目と背骨の動きを調整する
組織の水和(水分供給)
2013年10月にセミナー指導のため来日した、トーマス・マイヤースのインタビュー第一弾。軟部組織への水分の供給の重要性に関して、トムがわかり易く解説してくれています。
筋膜の弾性リコイル
2013年の最後のポストは、今年9月に来日したトーマス・マイヤースのインタビュー。筋膜の持っている弾性リコイルのエネルギーは、加齢と共に失われて行くのをただ受け入れるのみではなく、弾性のエネルギーを蓄えてリリースする、バウンス能力を維持するために、トレーニングをすることも可能である、というアンチエイジングにも直結する、興味深いインタビューを是非御覧ください。