ベクトルのバリエーション

より健康な結合組織は、ただ弛めるのみではなく、より弾力性のある強さを向上させる必要があります。筋膜の弾性リコイルを向上させるためには、様々に異なった角度で、様々に異なったスピードで、様々なタイプの負荷を使って動くことが不可欠です。どんな運動が効果的なのでしょうか?

トム・マイヤーズ 7:57

テンセグリティーの解説

私達の身体は、石やブロックを積み重ねて構築されるような構造ではなく、圧縮する要素(骨)と張力の要素(軟部組織)のバランスの基に成り立っている構造をしています。圧縮と張力のバランスに関して、石やボール、テンセグリティーモデルを使ってトムが分かり易く解説をしてくれます。

トム・マイヤーズ 5:09

筋紡錘とゴルジ腱受容器:ガンマシステムについて

質問: 筋紡錘ガンマシステム(紡錘の両端にある筋線維)に関するトム・マイヤー氏の解説に少々混乱してします。そこでは、ガンマシステムとは、紡錘からの求心性神経をごまかし、あたかも筋線維の伸張が増加したかのように伝えられるということでした。彼は以前、筋の長さの増加が感知されると、紡錘の求心性神経は、筋の緊張/収縮の増加をももたらすと説明していました。 紡錘の両端にある筋線維が、紡錘の中央部ではなく、紡錘の両端を引き伸ばすということは、それによって、他の筋線維よりも少ない伸張を、紡錘の中央にある求心性神経が感知させるということですね? 彼は、この影響はガンマシステムによるものだとしています。ガンマシステムは、筋の収縮/緊張を伸ばし(減少)および減速し、そして無理に伸張した後には、自然な静止長を取り戻します(これは、神経の影響というよりは、筋膜の可塑性によるものかもしれません)。 ここで言う筋収縮を伸ばすということが、動きをより簡単かつ効果的にするということ以外に、学習をした動きを自動化する(それによって、同時に起こっている別の動きの学習に注意を注ぐことができる)のに、どのように役立つのか、まだ良く理解できないでいます。ただ、私の現在の学習段階では、このトピックは必須というよりは好奇心といった方がいいでしょう。 私が今まであまり理解できなかった筋紡錘/ゴルジ腱受容器についての、明確な説明に感謝しています。微視的構造を知ることは楽しく、今後必要になるかもしれない即興で行うような治療に役立つかもしれません。 ビルより回答: ビル、あなたはご自分の手技の領域を正確にしっかり把握していますね。 神経筋筋膜システムが実際どのように機能するか、まだ初歩的なことしか分からない研究段階ではありますが、あなたの疑問を解消することができるか、試みてみたいと思います。理解が深まると同時にそのまま適用できると思います。 私たち臨床家に理解され始めた、ひとつの重要なことがあります。これまで長年にわたり教えかつ思い込んできたのとは異なり、脳/身体は、筋肉によって動きを統制しているのではなく、筋肉内にある10~100本の筋線維に(繊細の運動制御を必要とする目や舌の筋肉にはより少なく、それぞれの神経が数百の筋繊維に対して指令を与える臀筋では、より多い)存在する神経運動単位を介して動きを調整します。 円滑な加速は、筋肉の筋動員によって起こるのではなく、局所に存在する多くの条件によって協調された各神経筋単位の動員によって起こるのです。しかし、主として脳を介します。その脳は、以前に経験したような運動(加重)の一連の記憶のシグナルを統合する働きをしますが、分かりにくい文章になってしまいましたので、かみ砕いて説明しましょう。 それぞれの神経運動単位は、筋内で機能しています。それは、末端の腱または、その神経筋単位が関与するあらゆる筋膜(筋肉を包むサランラップのような筋外膜も、筋間の疎性組織や中隔組織も含む)と協調しながら、特定の筋を引っ張ります。すべて特異性があり、知覚と予測のつく推測が混ざり合った記憶を通してプログラミングされています。人間の優れた努力の証です。 各神経運動単位には、特定の筋線維があり、その筋線維は特定の腱線維に連結して、ゴルジ腱受容器にシグナルを送り、それからその神経運動単位の筋紡錘が伝達する同じ領域にシグナルを送ります。筋のみにとらわれるのはやめて、神経運動単位を考えるようにしましょう。 では、神経運動単位についてですが、特にガンマシステムについてお話ししましょう。円滑な加速を起こすにあたり、神経系は2つのちょっとしたシンプルな装置を採用しています。それは、筋長と筋長変化率を検出する筋紡錘と、それと筋への張力を感受する筋線維の末端にあるゴルジ腱受容器です。 この絵で筋紡錘が確認できるでしょう。そして、筋の伸張によってどのようにシグナルが増加し、また収縮によってどのようにシグナルが減少するのかがお分かりになるでしょう。 筋が伸張すると紡錘も伸張し、そして、筋内での他動的伸張は神経によって記録されます。よく知られている膝蓋腱反射のような、紡錘を興奮させる短く急な伸張(バリスティック)では、静止長に戻るように働きます。つまり、紡錘を伸張すると、その紡錘を支配している神経運動単位の反射収縮が得られるのです。 「ごまかす」に関して:筋のほんの一部のタスクの遂行による力伝達の円滑な加速と、、筋全体から合成された安定性を得るため、神経筋筋膜ウェブにはうまい具合の仕組みが備わっているのです。つまり、紡錘の各両端に、ひとつのとても小さな運動神経(これをガンマと呼びましょう)を追加することにより、紡錘内のエラスチン線維を引っ張ることができるのです。この小さな運動シグナルは、紡錘の端の細い線維を収縮させます。よって、紡錘を「ごまかし」、あたかも周りの筋組織が伸張しているかのように感受させるのです。筋紡錘が紡錘内の伸張に反応すると、脊髄にシグナルを送り、脊髄は通常のルートで単位全体を収縮するように反応します。 ここで、ガンマ線維が紡錘をどのように引っ張るかが分かります。脊髄を「ごまかし」、遠心性のアルファ神経を興奮させ、神経運動単位を収縮していることがお分かりでしょう。 遠回りであると感じるかもしれません:紡錘の両端を刺激するだけの“それっぽっち”のシグナルを、わざわざ脳からガンマ神経に発信し、それから紡錘が脊髄にシグナルを送り返し、さらに脊髄が下肢に筋収縮を起こすために、またシグナルを送る。アルファ運動神経に直接シグナルを送った方がよっぽど速いのではないでしょうか? もちろん、その通りですが、そうなるとスピードは速いが、協調性を失います。この「ごまかし」システム、つまりガンマシステムは、筋へのシグナル、脊髄へのシグナル、そしてまた筋へのシグナルといった混沌に対して、私達の身体が次に何が起きるか推測できるとき、過去の経験を基にしてマクロ秒の余裕をもって計画ができるときに初めて使われるのです。 子どもが初めて釘を打つ時のシグナルは、直接アルファ運動神経に伝えられます――大人がいっぺんに上手に釘が打てるのは、ガンマシステムが働いているからです。ハンマーの使い方の記憶プログラムを、アルファ神経を動員して、微調整しているのです。一つの部屋から隣の部屋に踏込んだとき、思っていたよりも床が数センチ低かった、というような不意なことに直面した時、ガンマシステムが次に何が起きるか準備し、正確に微調整してくれるのです。 神経科学は私の理解を超えていますが、さまざまなレベルのプログラミングは、「高度な安定化プログラム」(私は、セントラルパターンジェネレーターという用語を使用します)に影響します。しかし、感覚受容器である紡錘やゴルジ腱受容器の発火パターン、および成功のもと完了した動きの記憶の累積を保存する主な部位は、小脳と考えられています。 靴の紐を結ぶことを学習している子どもは、すべてアルファ運動パターンを利用しています。なぜなら、その子どもには、ガンマパターンを使うほど十分な記憶がバックアップされていないからです。一方、大人は、おしゃべりをしながらでもできます。すでに経験したことのある、靴紐を結ぶという指先の感覚が、予測可能パターンとして形成され、なじみのあるプログラムとして表面下で稼動しているからです。 ここで疑問に思うことは、では、私たちはどのようにして、負担が少ない新しい運動パターンをアルファプログラミングの大脳皮質から、ガンマ‐小脳‐大脳基底核‐脳幹 - 応答システムの一部へと深化させていくのでしょうか。それに応えて、もちろん自律神経‐迷走神経‐神経内分泌‐海馬 - 神経系のアラームの部分の影響を受けますが、これに関しては、ここではなく次の機会の別のトピックでお話ししましょう。 ご質問の答えになっていればよいのですが。

トム・マイヤーズ 3425字

組織の方向

学生からの問い: 私が近位から遠位へのストロークという考えを提示すると、インストラクターはまるで私の頭がおかしいのではないかという視線を送り、その方向でのストロークは静脈に損傷を及ぼす危険があることを教えられていないのではないかと心配しました。そのインストラクターは、過去にヘラーワーカーから、近位から遠位への手法を受け、激しい痛みを覚えたことがありました。彼はそのボディワーカーの、安全の知識の欠けた施術に驚いたのです。 重ねますが、これは、あなたが言うように、血管がより効果的に機能するために空間を作ることではなく、素晴らしい恩恵をもたらす可能性のある、遠位へのストロークについてです。彼は、遠位からの働きかけをせずに筋膜を延ばすことはできるのかどうか問いかけてきました。この質問に対する私の意見と反応は、もちろんどちらの方向から働きかけても筋膜の長さに影響はある、というものでしたが、私はそこで、方向に対する神経学的反応がクライアントの固有受容性フィードバックを高め、身体を生理学的のみではなく、かつ神経学的に調整するという「考え」を提示しました。 この件に関しては、何の証拠も前提もありませんが、これは論理的な考え方だと思っています。私はインストラクターに、遠位からアプローチすることが静脈弁の解剖的構造、および生理的構造に変化をもたらす証拠を示した研究や資料はあるのかを聞きました。彼の返事は不確かなものでした。 筋膜のモビリゼーションを行う方向は、生理学的および神経学的にクライアントの成果に重要な要素なのでしょうか? ルー・ベンソンの返答: あなたの先生は不確かな返答をして適切でした。私の好きな文献の一つにトレーシー・ウォルトンによる「Medical Conditions and Massage Therapy」(LWW 2001)があります。学校にも一部あるのではないかと思いますが、ありますか? 私の理解では、健康な血管(と弁)は高い弾性を持っており、様々な力学的ストレスに耐えられるようにできているため、たとえ下手なマッサージ(強すぎ、深すぎ)が施されても、特に悪い影響が起こることはないはずです。つまりは、鋼鉄を壊すためには、十分な圧力をかける必要があるということです。痛みは、圧力が害をもたらす可能性がありえることの良い指標になります。 静脈の病理学的問題は、比較的小さな圧力によって、時には何の圧力も関係せず、不均衡な量の、強烈な、うずくような痛みとともに起こります。明らかな静脈瘤が見られることもあれば、静脈が深部にあって見えないこともあります。肌が変色したり、浮腫があったりもします。もちろん、圧痕性浮腫は、マッサージの禁忌であり、腫れ上がった「テカテカした皮膚の」浮腫、特に下腿に見られる場合は、手技をほどこすにあたって、明確な禁忌です(リンパドレナージュ手技の精通者であれば別かもしれません)。 筋膜が流動性を失った状態になり、脱水状態になり、繊維形成されて、その筋膜自体、そして周辺組織に癒着し、血管や神経管が、その空間媒体や通路を組織化するために筋膜の健全を必要とするのなら、筋膜に水分を取り戻し、健康な繊維の数、向き、分配が得られるよう助けることは、これらの管にとっても環境の改善になるのではないでしょうか? トムのコメント: これについては、2つの観点から分けて見てみましょう 深層部のボディワークによる静脈損傷 この弁の損傷の問題を解決するために、リンパの配置から静脈を見てみましょう。もしこれが真実であれば、プールから身体を引き上げてくる時に(この過程で身体に圧力が伝達する)静脈が損傷することになります。慎重に施されたストロークは、身体の静脈の軌道を「下がっていく」他の圧力と同様に、管と液体が、浅層の静脈とリンパ管の複雑なデルタ状のネットワークから抜け出すのに十分な時間を与えています。 損傷を生み出すものとして考えられる唯一のストロークは、ダビンチコードの飾り輪のように腕や脚を包みこんで、強いプレッシャーを与え、心臓から四肢への伝達がなくなるまでプレッシャーを維持する、止血帯のようなストロークです。もしあなたがこれを行って、しかも上手にできて、かなり多くの圧力をかけることができれば、いくつかの弁を壊せるかもしれません。これらの弁はどちらかというと海藻のような感じで、自身ですばやく修復して回復します(生体でよく起こりますが、鬱血がある場合には、静脈瘤ができます)。 以上の理由により、私はヘラーワーカーによる叫びは、静脈を損傷したことによって起きたわけではなく、神経学的組織に圧力を急に与えたか、圧力が強すぎたために起きたものだと考えます。 なぜ KMI(Kinesis Myofascial Integration)では組織を望む方向に動かすのでしょう? アイダ・ロルフの「前側を上に、後ろ側を下に、骨盤は水平に」という格言があります。私の考える骨盤の水平な位置が、アイダ・ロルフの理想よりも少し前傾しているとしても、これは良いアドバイスだと思います。 この論理は、伸長するという概念には適用しません。組織を伸長しているのならば、それは伸長しているのであって、方向はあまり関係ありません。人が立っているとき、長さは利用されることもありますし、利用されないこともあります。 運動感覚もまた、私達が支持するものの実行しないことの一つです。私たちは組織を望む方向に持っていき、それによって神経システムにゴーサインを出しています。この話は、受容器とそのメッセージに関係しており、ロバート・シュライプのウェブサイトや研究を通じて、最も明確に確かめることができます。これは良いことですし、私達はこのように話をしてきましたが、私達の言っていることは、私達が行っているボディワークのみではなく、運動感覚のセンサーに触れるいかなるボディワークにも適用されるものです。 ガンベルト医師の動画とユージン氏らの研究を組み合わせた新しい答えは、好む方向に、せん断力を与えることで、その方向に新しい「けばのような」結合のようなものを作り出すことになりますが(いわゆる織物の「もつれ」のようなもの)、私たちの見識では、これが起きてほしいことなのです。 直感的に、構造的ボディワークにおいて方向は大切ですが、この剪断力と力の伝達物質としてのけば」の話題が出てくるまでは、しっかりとした説明ができていませんでした。これは、私の講義では「トーガ(古代ローマの男性の外衣)」の考え方として扱っています。筋膜のトーガを骨格に対してゆったりと掛け直す必要があり、それには筋膜面がお互いに関係して動く必要があります。私はこのような考え方をする療法を他に知りません-誰か知っていますか?

トム・マイヤーズ 2910字

運動感覚的学習 パート2/2

2015年、4月1日&2日に東京で開催された”筋膜ネットワークのトレーニング”セミナーから、学習方法に関する体験的なエクササイズをご紹介します。誰かの動作を変化させるために、より正確に指導する方法とは?運動感覚、視覚に加え、聴覚による情報の伝達を比較します

トム・マイヤーズ 5:41

運動感覚的学習 パート1/2

2015年、4月1日&2日に東京で開催された”筋膜ネットワークのトレーニング”セミナーから、学習方法に関する体験的なエクササイズをご紹介します。誰かの動作を変化させるために、より正確に指導する方法とは?運動感覚、視覚という異なった情報の伝達を試します。

トム・マイヤーズ 8:41

フォームローリングと自己筋膜リリース パート2/2

ローラーや他の用具を使用して、感覚を目覚めさせることができることはお分かりいただけたと思いますが、よくフォームローラーは筋膜に効果があるとうたわれているために、筋膜へのローリングの効果についてたくさんの質問を受けます。多少の反感を買うのは承知の上で、次のように考えます: ジムへいくと必ずと言ってよいほど隅のマットの上で、痛みで顔をゆがめながら腸脛靭帯を上下にローリングをしている人を見かけます。控えめに言っても、これでは効果が限られてしまいます。 腸脛靭帯や胸腰筋膜、足底筋膜など広く強靭な筋膜は、フォームローラーでは到底“伸長”することができないので、伸長できると思い込まないことと、そしてクライアントにそう指導しないようにしてください。確かに足底にフォームローリングを行えば気分良くリフレッシュされ、炎症が(たいていは、一時的に)軽減されるかもしれませんが、毎日何千歩も歩いても伸長されていない足底が、フォームローラーを数回転がしただけで伸長されるわけがありません。確かに、水和や感覚は向上できます。そして、おそらく筋膜の端にある結合を‘ゆるめる’ことができ、もっと自由な動きを確保できるでしょう。しかし、全長に顕著な変化を及ぼすほどの圧力は、クライアントを絶叫させ、当然ながら立ち去られることになるでしょう。これは意見ではなく数学です。 次に、ある一点を長時間圧迫し続けることに価値があるとは思いません。それが、エネルギーの観点から継続的な圧が必要な経絡点や“ツボ”であれば話は別です。大半の用途において、静的な圧迫よりゆっくりと動かす動作の方がよいでしょう。トリガーポイントへの圧迫は、有効です(帯状の緊張部分の感覚的核心に圧迫できていれば、という条件付きですが)。正しい点が圧迫されれば、最長でも20~30秒でその組織を水和でき、トリガーポイントの消滅を促すはずです。秒数がこれよりも長ければ良いということではなく、圧迫点がより正確なことに意味があります。 次に、圧迫点では必ずしも筋膜面と面の間の癒着(これは最も一般的な動きの制限です)を取り除くために必要な‘剪断’力は発生していません。たとえば、ITBとその直ぐ下にある外側広筋の筋外膜を離すためには、ローリングでは目的が果たせないでしょう。もし、ローラーの表面に十分な‘ひっかかり’があれば、床の上で手やブロック(または半円のローラー)で動かないように押さえておき、それから身体をその上に滑らせます(繰り返しますが、ゆっくり注意深く)。焼けるような感覚(子供の頃、お兄ちゃんが弟に意地悪したインディアンロープのやけどのように)が起きるかもしれませんが、この焼けるような感覚は二つの筋膜面が剥がれるからです。これはマイナスの兆候ではありませんから、この感覚を加減しながら引き続きゆっくり行います。 練習をすることで、皮膚とその下の筋群の間、または筋群と筋群の間、胸腰筋膜のように多層な筋膜の膜と膜の間に剪断を発生させることはできます。これが“ローリング”に欠けている一番の要素なのです。この重要な剪断効果を得るには、ローラーを動かさずに、クライアントの身体をその上で動かす必要があります。 もちろんのことですが、40年以上もボディーワークをしてきた者としては、身体内の変化を感知するツールとして経験を積んだ手を未知のものに当てることを大切にしています。剪断は、クライアントの身体のポジショニング、そして私の手による圧迫とそのポジションを、感覚フィードバックを介して常に調節することによって作ることができますから、私はフォームローラーより優れていると言えますね。本人が気づくこともない ‘隠れている’緊張部位を感知し、見つけ、それらを目覚めさせたり、和らげたりすることができます。全体的なパターンを把握することにより、これらの癒着を徐々に全体的に開放することができます。‘開放が終了’するのも私には感じ取れます。 しかし、誰もがボディーワークを利用できるわけではありません。用具を使えば、似たような効果が手軽に楽しく得られます。そちらを選ぶ場合、次のようなアドバイスがあります: 1) ゆっくり動かすこと。速いローリングは‘スポンジを絞る’効果が減少するばかりか、不必要な筋の緊張やアザ、受容器へのダメージを生じさせる結果になりかねません。より深部にアプローチするならば、よりゆっくりと動かなければなりません。 2) ‘気づいていない’部位を探すこと。同じローリングプログラムを続けて行っていると、直ぐに効果が激減します。身体の他の部位にもローリングしましょう。一度も触ったことのないような部位を探し、ローリングしてみましょう。例えば、側臥位で上側の脚の内側をローリングしたり、脇の下の前後へのローリングをしたり。背中にはとても多くの層があり、深層にもローリングが役立ちますが、マンネリ化すれば反応も鈍くなります。 3) ローラーや用具を固定し動かないようにすること。それから、‘剪断’が生じるようにその上で身体を動かし筋膜の面と面の癒着を取り除きます。 ローリングするべきか、せざるべきか? 答えはハムレットの別の言葉の中にあります:“物事に良いも悪いもない。考え方によって良くも悪くもなる。” 注意深くゆっくり知覚を働かせてローリングすることは、メールをしながら、音楽を聴きながら、ジムの向こう側にいる魅力的な女性を眺めながらせわしなく行う痛いローリングよりも、ずっと有効です。

トム・マイヤーズ 2306字

フォームローリングと自己筋膜リリース パート1/2

ローリングするべきか、せざるべきか? それが問題だ。 自己筋膜リリース(SMR)に用いるフォームローラーやボール類、他の用具を使用してローリングすると、体内でどのようなことが起るのでしょうか。 まずは、筋膜だけを単独にフォームローリングすることはできないということです。他のすべての細胞(神経、筋、上皮など)も“ローリング”されます。 上皮と筋組織では、圧力が組織を通過する時または通過後に、水分は組織から絞り出されたり組織に再吸収されたりします。流し台でスポンジを絞った後で、鍋釜を洗う時に再びスポンジに水を満たしたりするのと同じイメージです。昔のベドウィンの箴言に “溜まった水は毒!流れている水は生命!”とあります。 16世紀の著名な医師であったパラケルスス曰く、“病気はひとつしかない。その病名は鬱滞である”。鬱滞してしまった組織に対してローラーを転がせば、その分、鬱滞に流れをつくり分散してくれるでしょう。 筋を強化することはできませんが、動脈の弾性を向上することができるかもしれないという初期エビデンスがあります。 神経の反応に注目してみると、ローリングは確かに‘感覚に満ちている’かもしれません。痛すぎれば筋の収縮や細胞の退縮を引き起こすのでマイナスに働きますから、私は痛いローリングは好きではありません。心地良い範囲、または‘快楽レベル’(快感と痛みの中間)の範囲でクライアントに行ってもらいます。 しかし、痛みを辛抱してローリングすることは、過去に外傷を負った部位に役立つこともあります。たとえば、昔骨折した跡にローリングするなど。しかし、ローリングが終わったら痛みもなくなっていて欲しいですし、アザを残したり、更にトラウマ化させたくありません。私見ですが、基本的にアザは治癒過程ではなく、ほぼ常に組織へのダメージを示唆しています。痛い部位には、用具をゆっくり動かすことが重要です。 もちろん、ローリングによって‘感覚運動性健忘症’の部位を目覚めさせることもできます。日常生活では動かさない部位に感覚を呼び起こすのです。これについての2つのポイントは: 1)腸脛靭帯(ITB)は、感覚運動性健忘症の部位ではありません;外界と接しており日々刺激を受けています。‘健忘’に最もなりやすい部位は、見つけにくくローリングしにくいのです――大腿内側部の内転筋全体や、分かりにくく小さい(しかし重要な)股関節後面の深部外旋筋群、後頭部のすぐ下の上部頸椎エリアなど。 2)自分自身の身体の健忘部位を見落としがちです。これは、単にこれらの部位を感知しないのでどこにあるのか分からないという理由からです。クライアントが、ITBや浅層の背部筋群のように分かりやすく表層に出ている部位ばかりを繰り返しローリングするのではなく、ローリングが必要な部位にローリングできるように私たちが手助けしましょう。 これを実践するには、臀部やITBの分かりやすい部位ばかりをローリングするのではなく、ローラーやその他の用具を腸骨稜縁の下部(縁の遠位部または下部で、ちょうど臀筋の上端)に敷き、試してみてください。骨の縁の下側に用具を敷いてロールし、骨から離れるように2~3cm下方へロールします。このように骨の縁に沿って、前の骨の出っぱりから後ろの骨の出っぱりまで(上前腸骨棘から上後腸骨棘まで)全体をローリングします。ボディーワークでも自己筋膜リリースでも見落としがちな部分ですが、新たな結果、新たな感覚、新たな水和作用が期待できます。 また、ITBのもう一端で、膝の外側、ちょうどITBが停止する脛骨顆と腓骨頭の間にローラーを当て、ゆっくりローリングし、ローラーの上で下肢を少しずつ動かして回旋しましょう。そうすることにより腓骨頭が開放され、スポーツ中、特にテニスやフットボールのように足が地面に接地中に捻る動作のあるスポーツでの回旋運動に対応できるようになります。

トム・マイヤーズ 1661字

エラスティックリコイル 基礎 パート2/2

トーマス・マイヤースが、組織の弾性によりいかに身体が力を吸収し分散するのかを語ります。ジャンプ時にいかに筋肉と筋膜が機能するのかを検証したリサーチを紹介するとともに、弾性のトレーニングのためには何が必要かをシェアします。

トム・マイヤーズ 7:44

エラスティックリコイル 基礎 パート1/2

組織の弾性の基本的な原理とパフォーマンスとの関連性や、項靭帯の重要性に関して、トーマス・マイヤースが解説します。

トム・マイヤーズ 8:56

筋膜切開と筋膜リリーステクニック

最近は良くなってきていますが、多くの医者は、(もし彼らが筋膜という言葉を聞いたことがあるとしたら )「筋膜切開」と呼ばれる処置の一環としてしか筋膜を知りませんでした。気管切開が気管を切って開くことであるように、筋膜切開とは筋膜を切って開くことです。でもなぜ筋膜を切り開くのでしょうか? 血管や神経は、神経血管の束として筋膜のスリーブに覆われた状態で、四肢に張り巡らされています。このような束は、片手の親指を反対側の脇の下に入れて、上腕骨(上腕骨の中央)の内側の表面に向かって押し出すことによって感じることができます。親指の腹を行ったり来たりさせて神経の束を感じてみてください;この束は、上は腕神経叢、下は肘頭まで辿ることができます。 これらの束になっているけれども、もろい「内臓器官」は、四肢の骨、筋肉、関節をとても巧妙に張り巡っています。神か、母親か、ダーウィンか(あなたの信じるものを選んでください)が作り出した賞賛に値するデザインにより、この束は直接の圧力や外部からの攻撃から逃れ、私たちが普段、四肢にかけている相当な負担も、この束の主要な役割である、手や足に向けての、そして手や足から向けられる血液の運搬や信号の発信を阻害することはまずありません。確かに、腕を枕にして寝て、しびれが切れてしまうことや、椅子の角に肘(尺骨神経)を打つこともありますが、こういった些細な不快感は、筋膜切開が必要になるほど長くは続きません。 下腿の筋膜区画 かわいそうな男性、マイルズは、不運にも長期間治まらないほどの腫れをもたらす怪我を患い、その腫れにより血管に相当な圧力がかかった結果、血液循環が止まり、腕を失いました。しかし、筋膜切開が必要とされる大半のケースは、アスリートの脚で起こります。脚の筋肉が発達し、とても強力になっても、筋膜が筋肉の発達に見合うほど拡張しない場合です。このような場合は、このコンパートメント内(ゆえに「コンパートメント症候群」以前は「シンスプリント」と呼ばれる)に圧力が生じ、神経血管の束を圧縮し、血液循環を阻害します。これは始めはやっかいなだけですが、危険な状況につながる可能性があります。 こういった場合には、筋膜切除が手術手段となり、このビデオで詳細に示されているように、外側区画の筋間中隔付近で行われます。 この映像がちょっと強烈に感じる方、私も同感です。手術が成功する場合もあれば、手術の効果が表れなかったり、一時的にしか効果がなかったりする場合もあります。これには、1)患者が術後も激しく競技を続け、「拡張性のある」筋膜を持ち得なかった(エラスチンが少なすぎる?繊維交差が多過ぎる?私にはわかりませんが)か、2)手術によって生じた瘢痕組織が、術後数ヶ月にわたり、筋膜が筋肉の成長に応じて変化する力を無能にしてしまうからです。正直なところ、成功より失敗した方が訪ねてくることを多く経験してきたため、私の見解は少しゆがんでいます。 術後に、施術者としてあなたができること、筋筋膜ローラーやボールを使ってできることは、伸ばしたり空間を作ることに対する瘢痕組織の反応が低下しているため、手術前にできることに比べると、あまり効果はありません。それでもとにかく、やってみる価値はあります。しかし、患者がまずあなたのところに来たのなら、症状が手に負えなくなる前に、時々またはしばしば、一時的に症状を取り除くことができます(これは患者が、痛みや活動レベルに応じて時々、あなたのところに来る必要があることを意味します)。 まずは、縦方向から始め、腓骨筋のどちら側かの二つの筋間中隔を開いていき(上記のNetterの図を参照のこと)、その後、横後方中隔を開きます(私たちの「ピンチ」技術を使うといいかもしれません – ディープフロントライン パート1のDVDを参照)。ヒラメ筋と腓腹筋への施術は、あまり効果がないので、脚の深層にある小さい区画を、届く範囲で上から下へ開いていく必要があります。

トム・マイヤーズ 1719字

Q&A:ファズスピーチについて

ファズスピーチ(結合組織間の産毛のような繊維発生に関するギル・ヘッドリー博士のビデオ)に対する最近の考え方はどのようなものでしょうか?これが動くということについては、さまざまな説が出ていて、どれも完璧な説得力がありますが、これらには、生体ではなく検体におけるデータが使用されています。数年前のウェビナーで、あなたが次のようにおっしゃっていたことを思い出します。生体におけるファズは、それほど速く厚みを増すことはなく、改善するのも比較的簡単であると。今もそのようにお考えですか?動きとファズについて、クライアントに伝える時、最新のリサーチをもとに、より正確でありたいと思っています。 トムの返答: 今年末に取り上げる予定の大きなテーマではありますが、とりあえず簡単にお答えしましょう: すべては互いに“ファズ (産毛のようなもの)”によってつなげられています。“ファズ”とは、グリコアミノグリカン(糖タンパク質、粘液)とコラーゲン線維が結びついている疎性組織であり、脂肪細胞もよく含まれています。 おっしゃる通り、防腐処理を施した検体でみることができる“ファズ”は、何も処理されていない組織でみられるものよりも、より乾燥し、固定されています。そして、処理されていない組織のファズは、人工的に作られた動画の組織よりも動きが少ないでしょう 。これは、多くの生体に触れることによる感覚や未処理の検体を解剖してきた経験に基づいています。間違いなく、通常、書籍に記載されているいるものよりも、もっと、全ては筋膜でつながっているのです。 なにも処理が施されていない検体の“ファズ”です。上が上腕二頭筋で下が上腕筋です。解剖では通常切り離すことになっているため、解剖学の本に登場することはほとんどありません。ファズは、筋と筋の間の動きを可能にはしますが、と同時に、動きを制限し、筋間の力が側方へ伝達されることも明らかです。たとえば、上の筋が左方向へ収縮または伸長したとしましょう。そうすれば、下の筋の筋膜に力が分散することになります。 私達は、筋は相互に“スライドする”と言いますが、私が行ってきた解剖では、僧帽筋は菱形筋に産毛のようなものでからみつき、広背筋は前鋸筋に同様にからみついています 。必ずそうであり例外はありません。教科書通りの個々の筋の起始・停止の様子を得るためには、このけばだったファズを指でなぞり“壊し”たり“溶かし”たりしなければなりません。 実際の生体内で隣接する組織の面と面の間に動きがあるということは、ファズの2つの要素によって決定されます。それは、組織の流動性と線維の長さです。 A) 組織内の水分が多ければ多いほど、グリコアミノグリカンは水分を吸収し、セラピストの手により、または身体を動かすことで生じるストレッチにより動き易くなります。 B) 線維が短ければ短いほど、隣接する面間では、一方の面が動いてからもう一方の面がそれにつられて動き始めるまでの動きは少なくなります。ガタガタな古ぼけたはしごで例えると、両サイドの支柱が筋膜の面で、横木がファズだとします;横木が長ければ長いほど、支柱と支柱はお互いにシフトしやすくなります。 よって、より緩くて水和されたファズは、十分な動きを可能にするでしょう。一方、固く乾燥したファズであれば、ひとつの筋からファズで繋がっている筋や骨、血管、膜構造へと効率的に力を伝達するでしょう。線維が乾燥して短いほど、より高い安定性を生み出します(もちろん、これは時には好ましく、安定性が必要な部位ではファズが動きを制限してくれていると推定します)。緩すぎる組織(過可動)は、可動性が低下した組織と同様に問題になることがあります。ここで疑問となるのは“どこで?”そして“だれにとって?”なのです。 たとえば、前腕を例にとると、筋群の近位端である肘の付近では、ファズがしっかりと筋をつなげ、まとめています。これらの筋群が、最良のコンディションであっても互いにスライドし合うとは考えにくいでしょう。それぞれの筋間で多少のスライドはあるにしても、私がこれまでに解剖してきた前腕では、これらの筋群はすべてしっかりと束ねられ、完全につながって力を側方へ互いに伝達できる仕組みになっています (私はそのように考えますし、フイジン氏の見解とも一致しています)。これは、効率の良い力の分散機構です。筋間の壁(筋間中隔)も互いを固く結びつけており、グレープフルーツの薄皮の仕切りに少し似ています。むいて離すことはできますが収穫前のグレープフルーツでは、ファズでしっかり結びついています。 手首に近い遠位端では、腱は周辺組織に対して明らかにスライドします。少し近位の筋腹より遥かに多くスライドします。ガンベルト医師は、腱組織と周囲組織は“筋膜の泡のようなもの”(多数のマクロ液胞スライドと緩衝機構)でできているフラクタクルな構造でつながっており、腱はこの複合体の中をスライドするということを発表しました。 興味深い部位は、筋の半分ぐらいの位置にあります。どのぐらい遠位になるとつながっているべきで、どこでスライドが始まるべきのか?それは、その人の遺伝的性質や身体が受けている負荷によります。そして、“筋の約半分ぐらいの位置”は通常、動きを制限している“ファズ”を分解するのに最も施術効果が高い部位です。言うまでもなく、ここは筋紡錘やゴルジ腱受容器、その他の伸張受容器などの筋膜のセンサーが豊富な部位で、つまりこの部位での施術は、筋膜的にも神経的にも意義深いものになります。 たとえば、ハムストリングは、坐骨結節までの全域を3つの筋に、かなり容易に分けることができますが、臨床では、たいてい大腿後面の中部から膝上5センチまでかなり厚い“ファズ”で筋膜同士がつながっています。これらを離して下肢にもっと“自由”を与えるべきでしょうか? ダンサーやヨガを実施する人には“イエス”ですが、ランナーやフットボール選手にとっては“ノー”でしょう。

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