FMSスコアで何をみるか? パート1/2

“ファンクショナルムーブメントスクリーンスコアで何を探しているのか?” これがファンクショナルムーブメントスクリーンにおいて私が最も頻繁に聞かれる質問でしょう。 グレイクックはスクリーンをする時に何を探しているのでしょう? 私はムーブメントスクリーンでゼロを探しています。 アメリカ海軍SEALのトレーニングにいようが、ボーイスカウトのキャンプにいようが関係なく、ムーブメントスクリーンではゼロを探します。 FMSには、ムーブメントパターンが痛みを引き起こすことによる、かなりの失格率があります。これは筋肉痛や一般にいう硬さのことを言っているのではなく、ほとんどの子供ができるようなムーブメントパターンに伴う痛みに、いくらか驚かされてしまう人達のことです。 考えてみて下さい...痛みが原因による失格率が20%あり、この人達のほとんどはシーズン前のメディカルチェックにパスしているのです。彼らは自体重を超えない負荷で、基本的な動作を必要とするムーブメントパターンに痛みを持っていながらも、自由に動いて良いと医療的に許可を受けているのです。 これはまるで災害を作るレシピのように聞こえるかもしれません...実際その通りなのです。 シーズン前のメディカルチェックはムーブメントについてよりも、目や耳、鼻や喉に関してのものでしょう。しかし怪我の大半はどこにおきるでしょうか? 毎年夏にフットボール中に心臓発作を起こす学生がわずかにいるでしょう。これは痛ましいことであり、それゆえに私達は血圧と脈のスクリーンをするのです。 しかし、どれだけの人数の人達が、もうスポーツに関われなくなるような深刻な膝の怪我をするでしょうか?なぜ私たちは、ムーブメントのスクリーニングをしないのでしょうか?どれくらいの人が足首の捻挫をして、リハビリで完治しないまま競技復帰しているでしょう? もしファンクショナルムーブメントスクリーンに点数をつけるシステムがなく、動作で痛みを伴う人々を見分けるだけだったとしても(動作がスポーツやアクティビティに関わる前であれば)、それでも私はとても価値のあることだと思います。 その10分間の投資が価値のあることなのです。なぜなら自分の娘がスクリーンにひっかかる一人になるかもしれないのですから。 もし痛みがある場合、SAIDの法則(特異性の原則)- 私達がエクササイズから得られると思う全ての利益 – は不確定で予測不可能です。痛みがあっても、我慢できないというわけではありません。 “残りあと60秒、文句を言わない!”とか。 もしもディープスクワットをする度に膝の後ろ側が痛むのだとしたら、私の解決策は “そこまで深くしゃがまない”こと。運動制御は痛みに直面するかどうかに関わらず、まだそのパターンにおいて歪んでいるからです。 まず最初に動作の健康をみなくてはいけません。もし動いた時に痛みがあるなら、あなたが健康かどうかもわかりません。あなたがフィットしていないという意味ではありません。見た目は鍛えていても、とても不健康だということです。肩のインピンジメントの兆候や、プレスアップ時の腰痛、またはランジの際の足首の痛み...それらは医療従事者が違うと言わない限り健康問題なのです。 過剰に警戒しようとしているわけではありません。私はムーブメントへの軽視/不注意が多くの傷害の原因になっていると言っているのです。 それが、エクササイズそのものがリスクの原因となっている理由でもあるのです。エクササイズがリスクファクターであってはなりません。その状況をコントロールできない競技や戦術がリスクファクターであるべきです。 周りの人は私に、“あなたはNFLの傷害予防をしようとしている”と言いますが、そうではありません。 NFLは100%の傷害率を持ちます。そこで仕事をする誰もが皆怪我をするのです。私達は傷害管理の話をしています。その人がどのように動くかを怪我の前に理解する事はとても重要なのです。 今では脳震盪を起こす前に認識力はチェックしますが、怪我の前の動作は見ようとはしないのです。 まず初めに、痛みがあるのにトレーニングをやりたがっている人がいます。痛みは不規則で予測できないものですから、彼らはあなたの成績率(そして彼ら自身の成績率)を損なわせるでしょう。次に、誰かがリスクの高い試みをすることがわかっている時に、見直しが可能なベースラインを設定することは確実に重要なことです。 ここから、議論のエリアになります。私はムーブメントの著書の始めに “まず上手に動き、それから沢山動きなさい”と話しました。これはとてもそっけない発言ですが、もし私がはっきりと定義しなければ、私のした事の全ては、解決策を持たない、別の問題を作っただけになってしまいます。 これらのパターンにおいて、私たちが何を言おうとしたのかというと、もしムーブメントスクリーンで1をとった場合、それはあなたが自分の体重でそのパターンをこなせなかったということを示します。ですからメディカルチェックでは痛みの可能性が無しとはいえないというのが私の仮説となります。 恐らく、痛みは私達にとって考えられる最大のリスクファクターでしょう。 次に、合理的なベースラインは、合理性なベースラインの不在よりも理にかなっています。私はムーブメントスクリーンというものにおいて明確な意志を示しました。もし機能不全があるなら、あなたは恐らくパフォーマンス向上の測定で良い反応を出せず、そういったパターンよりも前の段階で、疲労や、下手をすると怪我によって早々と故障してしまうかもしれません。 FMSスコアで2は許容範囲、3は最適を意味します。 私は、耐久性という観点から評価した場合、どちらが好ましいかという統計データを持っていません(特別な環境下の場合は除きますが、これはまた後でお話します)。 優れたストレングスコーチなら誰でも、FMSスコアで2の選手には出来る限り身体に余裕を作ろうと努力するのではないかと思います。シーズン中に何が起きるかはわかっています。消耗との戦いであり、私達は彼らに動く事を期待するのです。 ムーブメントは、優れた回復のバイオメーカーであると私は考えます。もし誰かがムーブメントスクリーンで18点をだして、私達が3日間のハードトレーニングを課し、スコアが12点に下がったのなら、その日のスケジュールがハードトレーニングの日だとしても追い込むべきではないでしょう。ムーブメントの比較として心拍変動や呼吸の効率性などのデータを是非チェックしたいと思います。 私は底辺のスコアよりも、ムーブメントスクリーンの高スコアに関しての批判には寛容です。なぜなら私達は “痛みが無い”と言っている人達の痛みを探しているからです。 “スクワットをしていない時は痛みがありませんよね?ですがスクワットをした時はどうでしょう?だってそのポジションは週末を迎えるまでに300回はするのですよ?” 痛みを除外し、信頼のおけるベースラインを確立しましょう。例えスコアリングシステムがなかったとしても、私はこの2つの情報において強く主張するでしょう。

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ウェイトを素早く持ち上げればあなたは迅速になるのか?(強さは特異的)パート4/4

なぜ筋力増加は速度特異性であるのか?(パート2 続き) #3. 腱剛性 剛性とは、物質が伸長されることに抵抗する程度である。剛性の高いバネは負荷を付けたとしても、少ししか伸長しない。一方、柔軟なバネは非常に長く伸長する。 システムに含まれる際、剛性のより高いバネは、端から端まで迅速に力を伝達するため、より優れた力開発速度を持つ。より柔軟なバネは、力開発速度が遅く、ゆえにシステムに伝達する前に力のいくらかを吸収してしまう。 ストレングストレーニングは腱剛性の増加につながり(ベームおよびその他、2015年)、また、力開発速度の上昇にもつながる(ブレゼビッチ、2012年)。 より高い負荷は腱剛性の増加につながるため、ストレングストレーニングの効果は負荷により影響を受け(ベームおよびその他、2015年)、強度レベルは腱特性と関連がある(ムラオカおよびその他、2005年)。一部の研究者たちは、より高い負荷はより軽い負荷と比較し力開発速度のより優れた上昇を生み出す可能性があり(ブレゼビッチ、2012年)、腱剛性の増加はこの適応が起こるメカニズムである可能性があると提議している。 ポイントの要約:腱剛性の増加は力開発速度を上昇するようであるが、速度重視のトレーニングではなく、力重視のトレーニングに反応して起こる可能性が高い。ゆえに、高速トレーニング後における速度の特異性に貢献しているとは思えない。 #4. 単一繊維速度 筋肉構造、筋繊維タイプ、腱剛性は速度の特異性に対する貢献要因としては弱いものであるということを考えると、筋肉に内在するものの変化が、速度重視トレーニング後の、高速における力のより大きな増加に貢献しているということを思い出させることには価値があるであろう。 彼らの有名な研究の中でデュシャトウ&エノー(1984年)は、力重視および速度重視のトレーニングを比較し、力重視のトレーニング後における最大筋力のより大幅な増加(20% 対 11%)を報告しているが、最大短縮速度は速度重視のトレーニング後にのみ向上していた(21%)。さらにこの最大短縮速度は、不随意収縮において測定されており、末梢要因が含まれていることを示唆している。 忘れるべきでない1つの末梢要因は、単一筋繊維の収縮性である。 素晴らしい研究においてマリソーおよびその他(2006年)は、長期のプライオメトリックトレーニングの影響を評価した。彼らは、単一繊維速度は、タイプI筋繊維においては18%、タイプIIA筋繊維においては、29%、またタイプIIX筋繊維においては22%といったように、各筋繊維タイプにおいて増加するということを発見している。単一繊維力もまた増加しているが、これは筋断面積の増加により引き起こされており、断面積に対し正規化された単一繊維力は変化していなかった。 通常の高負荷レジスタンストレーニングにおける以前の研究は、単一繊維力の増加を報告しているが、単一繊維速度ではなく(ウィドリックおよびその他、2002年)、速度重視のトレーニングが速度の特異性を生み出す1つの方法は、おそらく個々の筋繊維の収縮要素を変化することによってであろうと示唆している。 ポイントの要約:単一繊維収縮速度は、速度重視のトレーニングにより上昇することが可能であり、速度特異性は、個々の筋繊維の収縮性の変化に起因するかもしれないということを示唆している。 #5. 神経適応 神経適応および速度特異性に関連して数多くのことが起こっているため、このセクションは長くなるということを覚悟しておくと良いだろう(もしくは、この章の最終にあるポイントの要約まで飛ばすと良い)。 ニューラルドライブの変化 ニューラルドライブとは、筋肉を収縮させるための脳から筋肉への信号である。それはコンポジット信号であり、運動単位動員(いくつの運動単位を起動させるか)および、運動単位発生頻度(1秒間にどれほどの頻度で作動されるか)から構成されている。我々は、自発的活性化(自発的および不随意力の間の差違)および筋電図振幅(筋肉内において記録された電圧)という2つの方法により、間接的にのみニューラルドライブを測定することができる。 全体的に、最大等尺性収縮の際の筋電図振幅は、高速、もしくは爆発的を意図したトレーニング後と比較し、高い力もしくは高い力を意図したトレーニング後において異なる変化はしないようである(ラマスおよびその他、2012年、ティリン&フォランド、2014年、バルシャウおよびその他、2016年)。しかしながら、収縮の異なる時点における心電図振幅は、下記に見られるように確実に影響を受けているようである。 爆発的トレーニングは初期段階における心電図振幅のより大きな増加を生み出す グラフからみてとれるように、爆発的トレーニングは初期段階における心電図振幅のより大きな増加を生み出している。一方、最大負荷トレーニングは、すべての収縮の際の心電図振幅の全体平均におけるより大きな増加を生み出している。 ゆえに、より高くピークを迎え降下する「パルス状効果」への移動を引き起こす爆発的トレーニングに伴い、ニューラルドライブ戦略における変化が確実に起こっている。 共活性化の変化 共活性化の増加はパフォーマンスを低下すると考えられているが、関節安定化の助けになるかもしれない。ゆえに共活性化の低下は、筋力を増加することのできる1つの方法であり、トレーニングにより変化するようであるが(ティリンおよびその他、2011年)、それが力開発の増加にどれほど貢献するのかどうかは明確ではない。 もし共活性化が、力重視のトレーニング後ではなく、速度重視のトレーニング後に特に観察することが出来るのであれば、それは速度特化の筋力変化に貢献している可能性がある。そしてこれにはあるヒントが隠されている。 実際に、プーソンおよびその他(1999年)は、共活性化は、高速が使用されている場合、トレーニングにおいて使われているものと同様の速度において等速性にテストされた際にのみ減少するということを発見している。ゲールツェンおよびその他、(2008年)もまた、速度重視トレーニング後における等尺性収縮の際の、抑制された共活性化の兆候を報告している。また、アラバッジ&ケリス(2012年)は、従来のレジスタンストレーニングは、垂直ジャンプの際、膝周囲の筋肉の共活性化の増加を生み出し、一方オリンピックウェイトリフティングは変化を生み出さなかったか、もしくは多少の減少を生み出したということを発見している。 協調の変化 協調の変化は、速度特化において示される筋力に貢献することができる、より基本的な身体的質(力生成および力開発速度のような)がどれほど増加するかに影響を与える可能性がある。 短い概要の中でブレゼビッチおよびその他(2012年)は、研究は、テストエクササイズがトレーニング期間中に行われなかった場合、ストレングストレーニング後の力開発速度における上昇は報告される可能性が低いと記述している。ゆえに、異なるエクササイズ後において、トレーニングの際に達成された力開発速度の上昇を表示するためには、テストエクササイズの練習が必要であるのかもしれない。 これは、垂直跳びにおけるトレーニングにおいて達した力生成の増加を使用することは、いったん筋力が増加した後に垂直跳びの練習を必要とするという考えと同様である(ボビー&ゾエスト、1994年)。 より高速のエクササイズには高速協調要素が含まれており、より低速のエクササイズと比較し、スポーツ動作により良く移行することから、これは低速エクササイズよりも高速エクササイズの方がスポーツパフォーマンスへより良く移行するようであることの理由の1つであるかもしれない(モーラ・クストーディオおよびその他、2016年)。異なる筋肉は、速度の異なるほとんどのスポーツ動作における全体的なパフォーマンスに貢献しているため、これはそれほど現実離れしたものではない(ビアズリー&コントレラス、2014年)。 ポイントの要約:初期段階のより大きなニューラルドライブ(および力開発速度の上昇)、より抑制された共活性化、そしてより優れた協調はすべて、力重視トレーニングと比較し、速度重視トレーニングにより達成することが可能である可能性があり、各要素が速度特異性に貢献しているということを示唆している。 結論 実際の速度および迅速に動こうという意図は、個々で速度特化の筋力増加を引き起こしている。速度特化の筋力増加はおそらく、力開発速度の上昇、および最大収縮速度の上昇を通じて起こるのであろう。 力重視トレーニングと比較し、速度重視トレーニング後における速度特化の影響に対する主な貢献要素はおそらく、筋束長のより大きな増加、単一繊維速度のより大きな変化、初期段階におけるニューラルドライブのより大幅な増加、より抑制された共活性化、そして協調のより大きな向上であるだろう。 しかし結局のところ、速度重視および力重視トレーニングの両方ともに、高速における力生成能力を向上するために有益であるような異なる適応を生み出すことができる。これは、力重視トレーニングを使用して達成した、断面積および腱剛性の大幅な増加により裏付けされている。

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ウェイトを素早く持ち上げればあなたは迅速になるのか?(強さは特異的)パート3/4

なぜ筋力増加は速度特異性であるのか?(パート2) 速度特化の筋力増加を引き起こす可能性のある要因は多数存在する。下記は有力な候補の一部である。 筋肉構造 筋繊維タイプ 腱剛性 特定繊維速度 神経適合 我々は、これらの個々の要因は、速度重視(例:高速バリスティック動作もしくは爆発的な等尺性収縮のどちらか)、もしくは力重視(例:高力ストレングストレーニングもしくは持続的等尺性収縮のどちらか)のいずれかの後、異なる方法にて変化するのかどうかということを解明しようとすることができる。 我々はまた、それらが理論的に初期段階の影響(力開発の速度)もしくは後期段階の影響(高速の筋力)を生み出す傾向が強いかどうかを検証することも可能である。 #1. 筋肉構造 速度重視および力重視両方のアプローチを含む、全てのタイプのストレングストレーニングは、筋肉構造を変化させる(筋束長、羽状角度、および断面積)。 筋束長の変化 より長い筋束長はより高い収縮速度を意味するため、筋束長の増加は、高速筋力増加の助けとなる可能性がある。(ウィッキィウィックスおよびその他、1984年)。これは、筋原繊維における全ての筋節が同時に収縮するためであり、より大きな全体の長さの変化が同じ時間内に起こるということを意味している。 一方、より長い繊維は、筋収縮の開始において、緩んだ状態から張った状態になるまでにより長い時間が必要であるため、より長い筋束長は力開発の速度の減速につながるようである(ブレゼビッチおよびその他、2009年)。 ゆえに、初期段階の影響は不利益であり、後期段階の影響は有益であるといったように、筋束長伸長の影響においてのトレードオフがあるかもしれない。 そうだとしても、筋束長は、力重視のトレーニングと比較し、速度重視のトレーニング後により増加するかもしれないという兆候は存在する(ブレゼビッチおよびその他、2003年、アレグレおよびその他、2006年)つまり、これは起こり得る全体の変化において有益な適応である可能性があるということを示唆している。 断面積の変化 断面積の増加は、より大きく強い筋束はより大きな力を生み出すことができることから、高速筋力の増加を助ける。これは、すべての力・速度カーブを上向きにし、与えられた速度において力を産出しやすくしている。 筋肥大のためのトレーニングを行う際、低負荷は高負荷と同様の断面積の増加を生み出すかもしれないが、これには筋限界に至るまでのトレーニングが必要である可能性がある(シェーンフェルトおよびその他、2014年)。速度を向上させる際、低負荷でのセットは筋限界まで到達せず、同程度まではサイズを発達させないようである。これは断面積の変化は、速度特異性の要因ではないということを示唆している。 羽状角度の変化 筋羽状角度は、筋束長と比較し、理解するのがそれほど簡単ではない。羽状角度の増加は筋束長の短縮を意味しているが、これは筋収縮速度が必ずしも減少するということを意味しているわけではない。 羽状の筋束は実際には収縮の間回旋し、効果的な羽状角度を減少しており(ブレイナード&アジジ、2005年)、この回旋の量はより速い収縮においてより大きい(アジジおよびその他、2008年)。この繊維回旋は、その中における個々の筋繊維の収縮速度より、筋肉自体がより速い収縮速度に達することを可能にし、羽状に伴う不利益を無効にしている。 そうだとしても、羽状角度は、速度重視のトレーニング後と比較し、力重視のトレーニング後においてより多く増加する兆候があるが(ブレゼビッチおよびその他、2003年、アレグレおよびその他、2006年)、これはおそらく単に、羽状角度の変化が筋サイズの変化を追う傾向にあるためであろう。 ポイントの要約:筋束長の伸長は力開発の速度を低下するかもしれないが、同時に最大収縮速度を上昇する可能性がある。断面積および羽状角度の変化は速度の特異性に貢献しているわけではないようである。 #2. 筋繊維の種類 速度重視のトレーニングは、タイプI ⇒タイプIIA ⇒タイプIIXの方向において、(MHC構成、もしくは筋繊維タイプの分布のどちらかにより測定された)筋繊維の種類の移行、もしくは優先的筋繊維タイプの部位における筋肥大を生み出すことができる可能性がある。筋繊維は、タイプ IIX >タイプIIA >タイプI の順に速く収縮するため、速度特異性に貢献している可能性がある(例:トラッペおよびその他、2006年、バーバー&トラッペ、2008年)。 一部の研究は、筋繊維タイプもしくは繊維タイプ分布の移行に伴う速度特化の筋力増加を報告しているが(リューおよびその他、2003年、ザラスおよびその他、2013年)、ほとんどのものは、速度特化の筋力増加を報告しているものの、繊維タイプ分布における変化は発見していない(コイルおよびその他、1981年、トミーおよびその他、1987年、ユーイングジュニアおよびその他、1990年、マリソーおよびその他、2006年、ヴァイシングおよびその他、2008年)。さらに、より高速でのトレーニング後、タイプII 筋繊維部分における優先的増加の兆候は存在するが(コイルおよびその他、1981年、トミーおよびその他、1987年、ザラスおよびその他、2013年)、これもまた、決して統一された発見ではない(ユーイングジュニアおよびその他、1990年、マリソーおよびその他、2006年、ヴァイシングおよびその他、2008年、ラマスおよびその他、2012年)。 これは、初期段階の影響が不利益であり、後期段階の影響が有益であるということに伴う、繊維タイプ変化の影響のトレードオフによるものかもしれない。 最大力産出は筋サイズにより影響を受け、筋サイズの変化は、タイプIIX繊維分布の減少と並行し、タイプIIA繊維においてより多く起こる。ゆえに我々は、タイプIIXの損失は、初期段階における力開発の速度を低下し、タイプIIAの増加は、後期段階における力開発および力生成の速度を上昇することから、初期の速度特異性および後期の速度特異性においてトレードオフが存在するということを予測できるかもしれない。 研究が非常に限られてはいるものの、これが多かれ少なかれ我々が発見したことである。 例えば、ハッキネンおよびその他(2003年)は、タイプIIX繊維の部分は減少し、タイプIIA繊維の部分は増加しているなか、初期段階および後期段階の総合(500ms)において、力開発速度の上昇を発見している。アルガードおよびその他、(2010年)は、ここでもタイプIIX繊維の部分が減少し、タイプIIA繊維の部分が増加しているなか、初期段階( さらに興味深いことに、ファーラップおよびその他(2014年)は、力開発の速度とタイプIIX筋繊維の相対領域間の関係の強さは、時間周期が収縮開始からさらに離れるにつれ着実に減少するということを発見している(r = 0.61, 0.56, 0.46, 0.26 for 30ms, 50ms, 100ms and 200ms)。またアンダーソンおよびその他(2010年)は、トレーニング後のタイプIIX筋繊維の相対領域の減少は、初期段階(100ms)における力開発速度の変化と関連があるが、後期段階(200ms)におけるものとは関連がないということを報告している。 ゆえに繊維タイプ(繊維、分布および相対領域)の変化は、どの時期に筋力を測定したのかにより、速度特化の筋力増加の減少および増加の両方を生み出すかもしれないが、速度重視および力重視のトレーニングは、異なる影響は生み出さないようである(マリソーおよびその他、2006年、ヴァイシングおよびその他、2008年)。 ポイントの要約:トレーニングの異なる速度は筋繊維タイプの変化に影響しないようであるが、いつの時点で力を測定したかにより、いかなる種類のトレーニング後であっても筋繊維の影響は異なるであろう。

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ウェイトを素早く持ち上げればあなたは迅速になるのか?(強さは特異的)パート2/4

それでは意図のみが、速度特化の筋力増加を生み出す要因であるのか?(パート1) おそらく最も有名であろう速度特異性の研究において、ベーム&セール(1993年)は被験者に2つの方法(等尺性および等速性)を用い、両方の状況が被験者に「課された負荷にかかわらず、可能な限り迅速に動く」ことを必要とした、足首の背屈トレーニングを行わせた。 等尺性トレーニングは、最大速度を意図して行われたが、動きは伴わなかった。一方等速性トレーニングは、比較的高角速度(1秒間に300度)において最大速度を意図して行われた。 筋力は角速度の範囲(1秒間に0度から300度)においてテストされた。しかしながらいかなる速度においても、筋力の変化に関し、両方のグループ間に差違はなかった。両方のトレーニングプログラムは、速度特異的筋力増加を表したが、両者間に差異がなかったために結果は、単一のデータセットにまとめられた。 このデータは下記に示されている: 迅速に動くという意図はそれほど重要なのか? 意図のみが重要な要因なのだろうか? 今のところ私は、意図が唯一重要な要因だとは考えていない。 この重要な研究がこのような形で行われた理由を理解することはできるが、そこには、私を躊躇させるいくつかの制限要素がある。 最初に、その研究は、一方の脚は等尺性トレーニングプログラムを使用し、他方の脚は等速性トレーニングプログラムを使用していたというように、被験者内設計を使用していた。これは、片方の四肢からもう片方への特定筋力増加のクロスオーバー効果の危険を残している。2つめに、両方が30度の底屈から開始した際、最大収縮の関節角度は筋肉間で異なったが、等速性トレーニングプログラムは、目標速度へ達するまで負荷無しで加速しなくてはいけなかった。 この研究はまた、いくつかの予期せぬ結果も報告している。 通常、等尺性トレーニングは最大等尺性力の大幅な増加を生み出す(デル・バルソ&カファレーリ、2007年)。意図が爆発的な場合においても、最大等尺性力の増加は通常見られる(マフューレッティ&マルティン、2001年、ティリンおよびその他、2012b、ティリン&フォランド、2014年、バルシャウおよびその他、2016年)。しかし、各収縮に対し500msが許されていたにもかかわらず(最大力に達していたことを意味する)、ベーム&セール(1993年)は、トレーニング後における最大等尺性力の減少に関して、少なくとも1つの結果を報告していた。 さらに、等尺性収縮によるトレーニング後の最大等尺性力の増加は、ダイナミック収縮後の最大等尺性力と比較し、通常、大幅に大きい(ジョーンズおよびその他、1987年、フォランドおよびその他、2005年)。しかしベーム&セール(1993年)は、その2つの状況間の差違はなかったと報告している。 ポイントの要約:意図はおそらく速度特異性へ作用する唯一の要因ではない。 意図のみが、速度特化の筋力増加を生み出す要因なのか?(パート2) 明確にしておくが、総体的に、下記の2つの主な理由により、速度特化の筋力増加は、実際の収縮速度および意図に反応し確かに起こると私は考えている。 最初に、上記に参照したほぼ全ての等速性の研究における被験者たちは、「最大の努力」においてレップを行う、もしくはそれに類似した指示を受けているが、異なる負荷を伴うトレーニングの際、速度特異性は依然として存在する。 次に、そしておそらく実際により重要なこととして、我々は、ここでも全ての(高もしくは低負荷を使用した)レップが最大の努力のもと行われた場合、レジスタンストレーニング、もしくはフレーウェイトを伴うバリスティックトレーニング後における速度特化の筋力増加の根拠は存在するということを知り得ている(モスおよびその他、1997年、インゲブリグトセンおよびその他、2009年)。 ポイントの要約:おそらく実際の速度および意図の両方が重要であろう。 なぜ筋力増加は速度特化なのか?(パート1) それでは、速度特化の筋力増加は、おそらく実際の動作速度および迅速に動く意図の両方に反応して起こるのだろうということに落ち着いたが、その適応は何によるものなのであろうか? 理論的には、筋肉は、その力開発の速度を上昇させる、もしくはある一定の張力を生み出しつつ、その最大収縮速度を上昇させることができる(もしくは同時に両方を行う事ができる)。 下記のグラフは2つの適応の可能性を示している。 これが理論上のものであるということは述べただろうか? このモデルで見られるように、いつ力を測定するかは、トレーニング後に高速で表現された力の増加を観察することを期待しているのか、もしくは減少を期待しているのかどうかに影響を与える。 初期段階(100msのあたり)において、まだ力が上昇している間に測定した場合(例:ティリン&フォランド、2014年)には、力開発の速度が上昇した時のみ変化をみることができるだろう。一方、後期段階(300msのあたり)において、力が最大に達した後に測定した場合(ベーム&セール1993年)、高速における力開発が変化した場合のみ、最大力の変化を見ることになるだろう。 しかしながら、実際にはこの理論的なモデルのように単純ではなく、2つの複雑な要因が存在する。 最初に、爆発的な収縮に対する運動プログラムは、前もってプログラムされているということは周知のことである(デュシャトー&エノー、2008年)。それは一度誘発されると、停止する前に最後まで実行されてしまう。ゆえに多くの種類の爆発的もしくはバリスティックなトレーニングは、力開発速度および高速筋力の両方を同時に十分に開発する可能性がある。 次に、収縮の種類は、いかに早く最大力に達するかに影響を及ぼす。最大力へは250ms-300ms後にのみ達するということは周知のことであるが、現実にはこれは等尺性収縮およびエキセントリック収縮へのみ適用されるものである。コンセントリック収縮における最大力は、150ms以内で達する(ティリンおよびその他、2012年a)。ゆえに、等尺性収縮およびエキセントリック収縮と比較し、コンセントリック収縮において、高速筋力は力開発速度よりもより関連性があるのかもしれない。 ポイントの要約:速度の特異性は力開発速度の上昇、もしくは最大速度における力生成の向上により、理論的に起こり得る。ゆえに、爆発的動作の初期もしくは後期のどちらで力を測定するかは、そのストレングステストから得る結果に影響を及ぼすかもしれない。

ストレングス・コンディショニング・リサーチ 2821字

ウェイトを素早く持ち上げればあなたは迅速になるのか?(強さは特異的)パート1/4

高速での力生成能力を発達させるために、ほとんどのコーチたちは、ジャンプスクワットや、オリンピック・ウェイトリフティングバリエーションのような、負荷をかけて素早く動くことを含むバリスティックエクササイズを使用する。 一方、多くの人々は、アスリートを高速でより強くするのは、素早く動く意図によるものだと答えるだろう。 しかしそれが正しいとすると、バリスティックトレーニングは必要が無くなり、全ては単に従来の高負荷レジスタンストレーニングのみを通じて達成することができるかもしれないということになる。 それでは、筋力の増加は速度特化したものであるのか、もしくはそうではないのだろうか? 下記がそれに対する私の考えである。 「速度特化」の筋力増加とは何を意味するのか? 速度特化の筋力増加が起こるために我々は、トレーニングで使用しているものと同様の動作速度における力生成をテストする際に、最大の筋力増加を見る必要がある。 ゆえに、我々が高速においてトレーニングしている場合、高速において筋力をテストした際に最大の筋力増加、そして低速においてテストした際には最小の筋力の増加を見るべきである。 同様に、我々が低速でトレーニングをする場合、我々は低速において筋力をテストした際に最大の筋力の増加、そして高速においてテストした際には最小の筋力の増加を見るべきである。 もちろん我々は実際には、高速のバー速度を使用してトレーニングすることにより、高速におけるより大きな筋力の増加を生み出すことができるかどうかということに最も興味を持っている。 それほど単純なことなのである。 それでは何故、速度の特異性はそれほどまでに複雑なのだろうか? 負荷を動かしている速度を変化させることができる方法は2つ存在することによって、速度の特異性を解明することは途端に複雑になる。 まず、あなたはバーに対し単に負荷を追加することが可能である。あなたが低負荷および高負荷のどちらに対しても最大の努力をしている場合、これは、力・速度関係により、その動作を遅くする。低負荷と同様な素早さで高負荷を動かすことはできない。これは、ただ不可能なのである。 次に、あなたはどのようにレップを行うのかという意図を変えることができる。それを最大の努力で行うのか、もしくは最大下の努力により行うのかを選択することが可能である。 どちらのアプローチを選択するかにより、結果は異なる。これを理解する最善の方法は、あなたがバーベルにかけている力は、重量(重力による力)および慣性(物質を加速するために必要な力)という2つの部分から成っているということを認識することである。 もしあなたが最初の方法をとり、減速するためにバーにプレートを追加した場合、追加のプレートはより重いため、重量は増加するが、重いバーベルを同様に素早く加速することは不可能なため、(その質量はより大きいにもかかわらず)慣性はわずかに減少することとなる。正味の効果は総力の増加である。 2番目の方法をとり、負荷は同じままであるが、減速するために故意に制御したテンポを使用した場合、重量は同様でありながらもバーベルをより低速で加速することを選んだため、慣性は減少することとなる。正味の効果が総力の減少であることは明白である(ベントレーおよびその他、2010年)。 最初の方法においては、力および速度は筋肉の根本的な能力に適合しているが、2番目の方法においては、力は本来得られるものよりも低い。 ここまでは大丈夫だろうか? バーの負荷を変えることは速度特化の筋力増加を生み出すのか? もしバーへの負荷が速度特化の筋力増加を生み出すのであれば、我々は、低い力を伴う(低負荷)トレーニングは、高い力を使用する場合(高負荷)と比較し、より高速においてより大きな筋力の増加を生み出すということを発見するはずである。 基本的に我々は、ストレングストレーニングプログラムの前後に、低速および高速のグループが同じ速度において筋力をテストした際、おおよそこのようなことを発見するはずである: 理論的な速度特化トレーニングの反応! 多くの研究者たちは、50年近くにわたりこの質問を探求する研究をしてきている。 彼らは、1つのグループは低角速度を使用し、他のグループは高角速度を使用するが、両方のグループは最大の努力をするといったような、2つ以上のグループを比較した際、通常、等速性ストレングストレーニング後において速度特化における結果を発見している。 常にではないが(ファーシング&チリベック、2003年)、概して高速トレーニングは、高等速性速度においてテストした際、より大きな筋力増加につながる(モフロイド&ウィップル、1970年、カイオッツォおよびその他、1981年、コイルおよびその他、1981年、ジェンキンスおよびその他、1984年、ガニカ、1986年、トミーおよびその他、1987年、ピーターセンおよびその他、1989年、ベルおよびその他、1989年、ユーイングジュニアおよびその他、1990年)。 異なる負荷を伴うトレーニングの速度特化の効果は、フリーウェイトを使用する際にはより一貫性が低く観察されるものの、やはり明白である。 興味深いことに、被験者が単関節エクササイズを使用した際(カネコおよびその他、1983年、アーガードおよびその他、1994年、1996年、モスおよびその他、1997年、インゲブリグトセンおよびその他、2009年)、多関節エクササイズを使用した際(アルマスバック&ホフ、1996年、マックブライドおよびその他、2002年、モーラ・クストーディオおよびその他、2016年)よりも、より明らかな速度特化のパターンが存在する傾向にある。このようなことが起こる原因はいくつかあるが、その分析は他の記事において行うこととする。 ポイントの要約:はい、より軽い負荷を使用することは、速度特化における筋力増加を引き起こす。 意図を変えることもまた、速度特化の筋力増加を生み出すのか? 意図が速度特化の筋力増加を生み出すかどうかを解明するのは、非常に困難である。 もちろん、高速において測定された際、最大速度においてフリーウェイトを使用しトレーニングを行ったグループは、最大下速度においてトレーニングを行った同様のグループと比較し(ジョーンズおよびその他、1999年、モリッシーおよびその他、1998年、インゲブリグトセンおよびその他、2009年、ゴンザレス・バディロおよびその他、2014年)、より大きな筋力増加を経験する傾向にあるということを示している研究を探すのは容易である。 この方法に伴う問題は、それが意図のみを測定しているのではないということである。それは意図と実際の筋収縮速度の両方を測定している。 それゆえこれを確かにするために、研究者たちは速度を制御することにより意図の影響を隔離した。彼らは速度をゼロにセットすること、つまり等尺性収縮によりこれを行った。 実際には、筋収縮速度は等尺性収縮においてのみほぼ制御することができる。等尺性収縮は、関節角度が変化しない場合においても一部の筋肉の短縮を含んでいる。等尺性収縮においても、収縮する際、筋は短縮するが、腱は伸長するため、総筋腱単位の長さにおける変化はない。ゆえに速度はゼロではなく、筋肉は力生成の増加に伴いより短縮する(ナリチおよびその他、1996年)。 そうであったとしても、最大速度を意図したトレーニングは高速における筋力測定においてより大きな増加につながり、最大速度を意図、および最大下速度を意図した等尺性収縮によるトレーニングは実際に異なる結果を生み出す。(ティリンおよびその他、2012年b、ティリン&フォランド、2014年、バルシャウおよびその他、2016年)。 ポイントの要約:はい、意図もまた、速度特化における筋力増加を生み出すことができる。

ストレングス・コンディショニング・リサーチ 3382字

コンディショニングが命を救い得る理由 パート4/4

ポイント#2: 体系的炎症の指標を記録し続ける 母が脳卒中にかかった後で、私が最初にしたことの一つは、心拍変動(HRV)の使用に加え、自分の炎症指標を定期的に確認することでした。 HRVと寿命の強い相関性は、私がバイオフォースHRVの製作を始めた主な理由の一つです。バイオフォースHRVは、市場において本当に手に入りやすく、簡単に使えるシステムの先駆けでした。 ご存知ない方のために短く説明すると、HRVは迷走神経の全体的な機能を示す最も優れた指標です。この機能により、HRVは体系的炎症の驚くほど強力な尺度になっています。 毎日たった数分でHRVを計ることができるのなら、健康とウェルネスに価値を見出している人は誰でも取り組むべきです。 これに加え、私は四半期に一度、高感度CRP(高感度C反応たんぱく質)やホモシステイン、線維素原、その他標準的なコレステロール指標など、組織的炎症の指標を確認する血液検査をするようになりました。 これは私が残りの人生の間ずっと行うことであるとともに、35歳あるいは40歳以上の人、特に私のように家族が心臓血管系の疾患や脳卒中を患ったことがある人に強く勧めたいことです。 血液検査に関しては、いい医者に相談するのが一番です。ポイントは、健康に率先的でいることで、何かが悪くなるまで待たないことです。 長期的に炎症の指標を確認することは、自分の健康状態が悪い方向に向かっていないかを確かめ、トレーニングから栄養、人生のストレスまであらゆるものの結果を評価するのに、非常に効率的で大切な方法です。 ポイント#3: 交感神経系を静める方法を学ぶ ここまでくれば、必要ないときに交感神経系を静める能力が重要だということがわかっていると思います。実際、有酸素性フィットネスを発達させることと、身体が炎症を抑える能力を発達させることは同じくらい大切です。 この能力は過小評価されています。そして他のスキルと同様に習得するには努力と練習が必要です。 この能力を発達させるためには、まずワークアウトの終わりの時間を使います。心拍計を使って、クールダウンを行い、できるだけ早く心拍数を休息時の通常のレベルに下げるようにしてください。90/90呼吸ドリルを行い、どのくらい早く心拍数を落とせるかを確認してください。 意識的にエネルギー消費をコントロールし、交感神経系の活動を減少する方法を学ぶことが重要です。少しの練習で、最短3-5分程度で休息時心拍数の+/-5~10以内に戻すことができるようになるでしょう。 これが難しい場合には、PRIの呼吸エクササイズを行うのが最適です。自分自身でコースに参加するか、経験したことのある誰かに教えてもらい、最大限の効果を得てください。 運動後に交感神経系の活動を素早く静めることは、価値ある能力を発達できるだけでなく、回復を早めるのにも役立ちます。交感神経系が静まるのが早ければ早いほど、副交感神経系が素早く活動的になり、炎症を抑えて、回復と再生を促進してくれるのです。 ワークアウトの後に交感神経系を静める方法を学ぶことができたら、次のステップは、毎晩眠る前に同じ練習をすることです。これは、長期的に、炎症の抑制、回復の促進の大きな役割を担っている睡眠の質を高めることにつながります。 また、ワークアウトの後および就寝時間の数時間前にはできる限りカフェインを避けることが重要です。刺激物は交感神経系の働きを強め、前述の通り、この交感神経系の活動が炎症を促進します。 ワークアウトの後、ベッドに入るまでの数時間は、交感神経系の働きを促進するものを一番避けたい時間です。アメリカの人口の3/4が継続的にカフェインを摂取して暮らしていると聞きます。もしあなたもその一人だとしたら、その習慣を変えることを強く推奨します。 より良く食べ、より賢くトレーニングをし、交感神経系を意識的に静めるために何かをすることは、健康とウェルネスをコントロールする為の非常に強力な方法です。 全てが良ければ、終わりも良いーある程度は 残念な事に私の母は完全には回復していませんが、誰もが経験できるわけではない最も困難なことは乗り越えることができ、死を免れました。母は現在、退職者コミュニティーで多くの友達を作り、幸せそうに生きています。客室乗務員の仕事に戻ることはできませんでしたが、ソーシャルメディアを発見し、絵文字の使い方を学び、みんなとつながりを持ち続けています。 母は、私が望んでいるほどには外出していませんが(およそ半分の時間をアマゾンに頼って生きていることもそれを助長していますが)、少なくとも週に3日はジムに行き、活動的でいるための努力を続けています。 栄養面も劇的に改善され、十分すぎるほどの睡眠も得られています。母にとっては、今でもこの変化は楽なものではありませんが、前に進む為に前向きな見通しを持っています。 私の母の話は、ありふれたものの一つに過ぎません。この国では4分ごとに誰かが脳卒中で亡くなっています。それは、この記事を読んでいるほぼすべての人が、少なくともどこかの時点で友達や愛する人が似たようなことを経験するような確率です。 この悲しい真実は、避けられないわけではありません。研究では、心臓の病気や脳卒中に関連する死の最大80%は、予防できる原因に起因していることが示されています。 このような個人的な話を共有したのは、愛する誰かがあまりにも多くのストレスと、コンディショニングを軽視した生活による必要ない結末を経験するのを目の当たりにした私の経験を追体験してもらうためです。 私が人生で学んだ教訓を共有することで、ストレスに対する見方を変え、コンディショニングの真の価値と健康に与える影響を認識していただければ幸いです。 コンディショニングは魔法の薬ではないかもしれませんが、現時点ではその魔法の薬に一番近いものなのです。

ジョール・ジェイミソン 2522字

コンディショニングが命を救い得る理由 パート3/4

有酸素性フィットネスの利点―コンディショニングがアスリートのためだけのものではない理由 ここまで読んでくださったのなら、身体が生きるために必要な炎症促進力および抗炎症力を均衡に保つ大切さがわかっていただけると思います。急性の炎症が、慢性的、体系的、及び、低度な炎症へと移行するのを防ぐことが、社会を停滞化する多くの病気を予防するために、愛する多くの人々を救うために、絶対的に必要なのです。 科学は、なぜ、どのように、に対する完璧な答えを示せてはいませんが、一つだけはっきりわかっていることは、高いレベルの有酸素性フィットネスが、身体が炎症を静める能力を高めることのできる最も強力な武器であるということです。これは、有酸素性フィットネスが、迷走神経緊張と呼ばれる休息時の迷走神経の全体的な機能に直接関係しているからです。 このことを確かめるために、寿命と身体的運動に関する11の論文の興味深いレビューを見ることができます。 持久性はまさに命を救うことができる “Does Physical Activity Increase Life Expectancy? A Review of the Literature(身体的運動は寿命を延ばすか?文献レビュー)“という論文では、一般的に活動的であることは寿命を延ばすかどうか、そしてアスリートであるということがそこにさらなる違いをもたらすかについて考察しています。 皆さんが想像する通り、この論評では、活動的な人はそうでない人に比べ、0.4年から4.2年ほど長く生きることがわかりました。ここには大きな驚きはありません。 しかし、驚いたことに、様々なアスリート(大半は一流のアスリート)の寿命を見てみると、平均的な人よりも一貫して長生きだった唯一のグループは持久系アスリートでした。実際、持久系アスリートは、平均的な人よりも4.3年から8年も長く生きるとされています。 さらに興味深いことには、この論評で扱われた研究のいくつかでは、チームスポーツアスリートの寿命は、程よく活動的な人の平均に比べ、最大5年も短いことがわかりました。 もちろんこのレビュー以外にも、高い有酸素性フィットネスを持つ人は、心臓血管系疾患、脳卒中、糖尿病などにはなりにくく、認識機能などが高いことを支持する研究が豊富にあります。従来は、この関係は、心臓血管系システムの変化そのものによると思われていました。しかし、高い有酸素フィットネスが多くの病気のリスクを下げる大きな理由は、それが身体を慢性的な炎症から守っているからだということが明らかになってきました。 例えば、“Markers of inflammation are inversely associated with V̇o2 max in asymptomatic men”(炎症の指標は、症状のない人のVO2 maxと反比例する)という研究では、有酸素性フィットネス(VO2 max)とC反応たんぱく質や線維素原などの炎症指標の間には、驚くほどはっきりとした比例関係があることを示しています。 研究を掘り下げていくと、有酸素性フィットネスを高める最も大切な利点は、その過程で起こる抗炎症性能力にあることが明らかになっています。この大切さは強調してもしきれません。 大きくて強いことはかっこいいかもしれませんが、コンディショニングは生死を分けるものにさえなります。 私が優先順位を考え直した理由-あなたも考え直した方がいいかもしれない理由 ストレス、炎症、病気に関する事柄を集め、私の母のような一見何の問題もない人がどのようにして脳卒中を患うのかを理解すればするほど、私は、私自身のトレーニングやライフスタイルを見直し始めました。 自分自身の死を実感することよりも強い変化の薬はありません。 私は自分の優先順位を変え、トレーニングを見直す必要があるとわかっていました。ハイレベルの格闘家たちのコンディショニングには慣れていたものの、自分自身のトレーニングは、主にウエイトリフティングとほんの少しまたはゼロの有酸素運動で成り立っていました。 さらに悪い事に、母の脳卒中のケアから来るストレスと、母を数カ月にわたって医者から医者へと連れて行くストレスからも大きな打撃を受けていました。 食習慣および睡眠も相当悪化していました。気分が優れず、私の体重は脂肪だけで5-7kgほど増加しており、この生活を変えなければいけないことは自覚していました。 その2008年の悲惨な一日から数週間、数か月、数年を経て、私のトレーニングと優先順位は劇的に変わりました。私にとってどれだけのウエイトを持ち上げられるかはどうでもいいことになり、コンディショニングはトレーニングの日課になりました。 これまでに格闘家が試合でパフォーマンスを発揮するのをサポートするために、相当な時間をコンディショニングの勉強に費やしてきたのにもかかわらず、自分自身のコンディショニングを改善したい、健康でありたいという願望が、もっと研究をしたいという思いを強くしました。 一年後の2009年、私はこのウェブサイトを始め、コンディショニングについて書いたり話したりすることを始めました。 そうして私は、目指しているフィットネスの目標が何であっても、健康で長生きしたいと考えるのなら誰もが行うべき3つの結論に達しました。 これらの3つの領域は健康とウェルネスの出発点だと考えています。あなたが先ほどの統計の数字の一部になることを避けたければ、これらは間違いなく非常に重要なことです。 ポイント1:高強度トレーニングをやり過ぎない。80/20ルールに従う。 コーチとして15年間以上活動し、数千人の人々を見てきた中で私が学んだことは、長期間にわたる成功には、強度よりも一貫性の方がはるかに大事だということです。 ここ5年間くらいで、ほぼ全ての人が高強度という流行の波に乗りました。米国中の人々がみな、理想の身体を手に入れたければ、ジムでは毎回死ぬほど追い込まなければいけないと信じるようになりました。 私は過去にもこのことについてたくさん書いてきましたが、この傾向は一向に減りません。確かに強度は大事ですが、大事なのはそれだけではないのです。 高強度の一番の問題は、それにより全ての組織や免疫システムに多大なストレスがかかり、それが炎症を起こす大きな元凶になるということです。 長期的な成功のためには、強度よりも一貫性が圧倒的に重要なのです。 これこそ、強度が強すぎると簡単にトレーニングのやりすぎになってしまう理由です。慢性的な低レベルの炎症を加速し、放っておけばプラトーや、怪我などにつながってしまうのです。 前回の記事では、クロスフィットがした正しいことと、何がクロスフィットを成功させたのかについて話しました。しかし、クロスフィットの高強度への飽くなき執着は、完全に間違ったものであり、為になるどころか害にさえなっています。 母の脳卒中の後、私は高強度トレーニングを行うのをせいぜい週に2日までに減らしました。また、量よりも質を重視する一方で、定期的にスイミングなど低強度でストレスを低減するトレーニングを始めました。 先に紹介した文献では、持久系競技のアスリートは一貫して低い疾患率を持ち、長生きをしていることがわかりました。私の目標が同じ利益を享受することだとすれば、彼らがどのようにトレーニングをしているのかを知る必要がありました。 この話題に関する素晴らしいレビューが、“Intervals, Thresholds, and Long Slow Distance: the Role of Intensity and Duration in Endurance Training.(インターバル、限界、長距離:持久性トレーニングにおける強度と時間の役割)です。 このレビューによると、成功している持久系アスリートのほぼ全ての強度の分布をみると、魔法の割合は80%の低強度と20%の高強度でした。 世の中で推奨されている多くのプログラムはその全く逆で、80%の高強度と20%の低強度です。そしてなぜパフォーマンスが上がらないかを疑問に思い、関節を痛めています。 あなたは持久系のアスリートになりたいとは思っていないかもしれませんが、病気をせずに健康で長生きすることが目標であるのなら、こういったアスリートのようにトレーニングをすることには大きな意味があります。

ジョール・ジェイミソン 3613字

コンディショニングが命を救い得る理由 パート2/4

ストレス、サバイバル、炎症の生態学 ― あなたを生かすシステムが、あなたを殺すこともある 「ストレス」という言葉は広く知られていますが、多くの人は、ストレスが身体にとってどういう意味があって、炎症とどう関係しているかについては理解していません。ストレスと炎症の関係は、生きるため、そしてどのようにして米国で3人に1人が最期を迎えているのかにとって、非常に重要なものです。 炎症がどのように働いているのか、どのようにして人を死に至らせ得るのかを深く追究する前に、自律神経系(ANS)について少しお話する必要があります。あまりご存知ない方のために説明しますと、自律神経系は生存に直接関係する二つの主要な役割を担っています。 第一に、自律神経系は身体の内的環境の構成要素を確認しています。血圧から、血糖値、酸素レベルまで、あなたが何をしている時でも、これらの指数が通常の範囲にあるかをチェックします。 ウエイトリフティングやスプリントをする時も、寝ている時も、断食している時も、すべての時間で、自律神経系は、どこにも異常がないか監視しています。もし自律神経系のこの働きがなくなれば、あなたはそう長くは生きていられないでしょう。 自律神経系の二つ目の役割は、一つ目にも直接関連していますが、エネルギー生産とエネルギー貯蓄を管理することです。これも生きるために非常に重要な要素であり、特に進化系生物学の観点からも重要です。 野生の動物にとって、生き延びるためには、エネルギーをコントロールすることが何にも増して大切です。このトピックについては前回クロスフィットに関して書いた記事で説明しました。 動物が餌を捕まえるために走るとき、あるいは餌にならないように逃げるとき、生き延びるために必要なのは、出来るだけ素早く大量のエネルギーを発揮する能力です。 自律神経系は、交感神経系と副交感神経系という二つの枝を通してエネルギー管理を効率的に行っています。交感神経系の働きでエネルギー生産を高める一方で、副交感神経系の反対の作用を通じて、エネルギー生産を弱め、エネルギー貯蓄を高めます。 下記のチャートでは二つのシステムがどのように共同して働いているかを見ることができます。 なぜこれを理解することが重要なのでしょうか?このことが生死に関してどれほど重要なのでしょうか? 答えは単純です。自律神経系の二つの枝は、エネルギーだけではなく、炎症もコントロールしているからです。そして炎症こそが、生活のストレスが時間とともにあなたを死に至らせる原因になるものなのです。 人生―ストレスの諸刃の剣 自律神経系がどのように炎症を調節しているかを理解するために、交感神経系と副交感神経系が、生きるため欠かせない役割を果たす特定のホルモンの放出を刺激する方法について見ていきます。 この図の通り、交感神経系はいわゆるアドレナリン作動性炎症誘発経路の一部であり、大食細胞と呼ばれる免疫細胞の受容器と結合するホルモンを放出します。この結合が身体に増幅された免疫反応をもたらします。つまり、交感神経系が活性されると、身体は本質的に炎症誘発性状態になります。 生存に関わる自律神経系の役割に話を戻すと、エネルギーの要求が高まった時に免疫システムを高反応状態にすることが有益であるというのは理にかなっています。交感神経系は、「闘争―逃走」反応を必要とする時に働きます。この状態では、危険な病原菌にさらされる可能性だけでなく、組織の修復が必要となるストレスがかかる可能性も高まります。 これがそもそもの炎症反応の大部分です。 例えばワークアウト中には、様々な組織に代謝および機械的なストレスが発生します。このストレスが炎症につながり、その炎症が脳に信号を送り、より大きく、強く、機能的な組織を作るための修復プロセスが始まります。 炎症なしには、このプロセスは起きず、私たちが環境に適応する能力もなかったでしょう。 すなわち、炎症は適応と生命維持において欠かせないものです。しかし、炎症は諸刃の剣にもなりえます。 急性の炎症は身体を守るものです。それに対し慢性的炎症は、私たちをゆっくりと心臓血管系の病気や死へと誘うもので、これこそがアメリカ人のほぼ3人に1人に起こっていることなのです。 炎症を抑えるー健康、ウェルネス、長寿の鍵 炎症があなたの味方になるか、それともあなたをその3人のうちの1人にするかは、必要がなくなった時に炎症を止めることのできる能力にかかっています。このプロセスをコントロールする自律神経系のもうひとつの側面は、コリン作動性抗炎症経路として知られています。 この経路は、免疫細胞の特定の受容器に結合する、アセチルコリンを放出することによって炎症を妨げます。これらの受容器に結合することで、サイトカインと呼ばれる炎症誘発性プロテインの放出を止めます。下記の図からわかる通り、炎症それ自体が抗炎症経路を引き起こすものでもあるのです。下記で言及されている迷走神経は、副交感神経系の主要な神経です。 迷走神経の求心性枝が炎症を察知すると、迷走神経が脳に信号を送り、背側運動核(DMN)と呼ばれるエリアに作用し、遠心性迷走神経からアセチルコリンが放出されます。本質的にこれが炎症を「止め」ます。この炎症反射が、身体が炎症をコントロールできなくならないように保っています。―少なくともそうするようにできています。 炎症が悪い方向へ向かう時 完璧な世界では、身体がストレスにさらされて炎症が起こり、炎症はその役割を果たした後に収まり、すべてが完璧に働きます。しかし問題は、私たちは完璧な世界には生きていないということで、私たちの多くが日常的に自分自身にさらしているストレスが、やがて大きな打撃を与えることになるのです。 死なない程度に辛いことが私たちを強くする、という考えに傾倒するのは簡単です。しかし、ストレスが大きくなりすぎると、今すぐに、ではないだけで、死に至り得るのです。 私の母のケースでは、客室乗務員という彼女の仕事のストレスが、一番の元凶でした。実際、母が病気に至るまでの過程は、母の人生に多大なるストレスを与えた特定の変化をたどっていくことで、はっきり見えてきました。 母は長い間、シアトルに住みながらもサンホゼを仕事の拠点として生きていました。それはつまり、月に数回片道1時間半かけて通勤していたということです。にもかかわらず、9月11日の事件があった後で、航空会社は母を含む数千人の人を解雇しました。 母は2~3年後に仕事に復帰することができましたが、ニューヨークに拠点を置くことを余儀なくされました。引越しをする代わりに、通うことを決めた母は、仕事のためだけに国の横断を繰り返すことになりました。 繰り返される移動のストレスと、断続的な睡眠習慣、空港での食事など、彼女の身体には、単に大きすぎるストレスがかかっていたのです。何の明らかな症状も従来の危険因子もなかったのにもかかわらず、母は数年で脳卒中を患い、病院にかかることになりました。 もちろん遺伝的な原因もあるのは確かですが、母の例は、慢性的なストレスを身体にかけ続けた代償について認識する重要性を物語っています。 ほとんどの人は、そしてジムで何時間も費やすような人は特に、トレーニングが身体に与える影響を感じることによって知っています。しかし、精神的ストレス、栄養的ストレス、環境的ストレスなどが与える本当の影響については知らないのです。 実際は、週に数時間ジムで死ぬほどトレーニングをしてもーもちろん私が勧めていることではありませんーその数時間でかかるストレスは、日常生活の中で直面するストレスを総合したものとは比較になりません。 トレーニングは1時間か2時間ですが、人生は24時間毎日です。これは私の母を含めて多くの人が気づいておらず、気づいた時にはもう遅いのです。 慢性的な、低レベルの炎症は、多くの人にとって感じられるものではありません。実際の症状が現れ始めるまで、あるいは健康診断で何かが悪いとわかるまで、ダメージが蓄積されていきます。 幸い、物語はこのような結末で終わらなくても良いのです。悲劇を避けるために、潜在的な人生のストレスと闘うために、すべての人がそれぞれできることがあります。

ジョール・ジェイミソン 3537字

アスリートが怪我をする3つの理由 パート2/2

#2 – ブレーキが効かない 私達が矢状面で固定されたとき、それはモビリティや高さを変えることを制限するだけでなく、私達を常に推進の状態においてしまいます。 試してみましょう: 立ち上がって腰のアーチを作り、胸を膨らませてください。どちらに体重移動しましたか? 感じてわかる通り、伸展は私たちの身体を前へと推進させます。繰り返しますが、これは私達に加速し、速く走り、高くジャンプすることを可能にします。 ですが、もしあなたのゴールが減速であったならばどうでしょう? 大きく切り返す為に、力を吸収し、そしてそれからまた爆発するとしたら? お分かりの通り、ポイント#1とポイント#2は密接に関係しています。もし曲げられないのであれば、あなたの身体は力を吸収できる状態ではありません。 それどころか実際はどんどんと悪化していくのです。なぜならジムでこなす膨大なトレーニングや競技場でのトレーニングは、ただこれを強化してしまうからです。 私達は持っているすべての能力や価値を数値に置き換えます – 40ヤード走がより速いか、より高い垂直跳びか、またはスクワットの新記録を樹立するかどうかなど。 悲しい事ですが、“コーチ達”が定めた価値観は、力の吸収に対してほとんど(または全く無い)力を注がず、力を生み出すことに力を注いでいるのです。 私達が取り組んでいるスピードと筋力、そしてパワーはもちろん価値のあることですが、専門家としてもっと自分に問いかけてみるべきではないでしょうか。 ただの数字や生産ではなく、それより速く、強く、そして回復力のあるアスリートを作り上げる為のプログラムはどうやって組み立てればよいのでしょうか? どう修正するか!! 私達の第1のゴールは屈曲を取り戻すことです。もし曲げられなければ、あなたの身体はいつでも推進状態になってしまうのです。 簡単な答えはバイオメカニカルシステムに働きかけてリセット、呼気を取り入れ、そして賢明なプログラム設定をすることです。繰り返しますが、大きな目標は、ストレスの軽減と全ての身体システムを高いレベルで働かせることです。 次のステップは減速と力の吸収を、年間通して強調することです。 ムーブメントの質が向上する(屈曲の向上を通して)につれて、身体が表現するムーブメントは全く別物になる可能性は高いでしょう。 あなたのスクワットはより “スクワット化”していき、より直立したものになっていきます。 あなたのヒンジはより “ヒンジ化”して、よりハムストリングに効きやすく、そして負荷がかかりやすくなります。 このように、アスリートが空間のどこに位置しているかを “感じる”手助けとなるように、ゆっくりとコントロールして動きに集中できる、ある程度の時間が必要なのです。 運動制御が向上したら、スピードを高める減速ベースのエクササイズに移ります。 スクワットをする代わりに、高所からの着地をしても良いかもしれません。 ラテラルランジの代わりに、ラテラルのジャンプ&ストップをしても良いでしょう。 ここでのゴールは、これらのムーブメントの質とコントロールの要素にスピードを追加することです。 アスリートがゆっくりとコントロールした状態でのパフォーマンスができて力を吸収できたならば、そこからは自由にアスレティックムーブメントをフル活用します。 これだけは強調してもしきれません– アスリートを正しく鍛える為に、最初のステップに時間をかけて下さい。 手順を飛ばしてはいけません。 焦ってはいけません。 正しいスタートを切れば、その先の何年もの間、アスリートのハイレベルでのパフォーマンスが約束されるでしょう。 #3 – 乏しい作業能力 アスリートが怪我をする最後の理由はシンプルです: 作業能力に乏しいのです。 それは前述の問題の延長として見ることができます。 アスリートはストレスを受けて矢状面で固定されます。 そして曲げる能力を失い、力の生産という状態に固定されてしまいます – 事実上力の吸収能力の破綻です。 この伸展ベースのパターンに固定されることで、私達を無酸素系エネルギー代謝(有酸素系代謝に対して)への過剰な依存へと導くことにもなります。 アスリートに全ての責任があるときもあります。 もしもアスリートがオフシーズンに何もせず、過体重とコンディション不良の状態でキャンプに現れたのならば自分以外誰も責めることはできません。 ですが、もしアスリートが努力したのに、取り組んでいるアプローチが失敗だったならば、その責任はコーチにのみあります。 近年のコーチングにおける大きな問題は、生理学と競技スポーツで必要とするエネルギー回路への理解の不足です。 有酸素エネルギーシステムは、以下のような重要な役割があるにも関わらず、近年ないがしろにされがちです: エネルギーを長い時間作り出せる(バスケットボール、サッカー、ラグビー、オーストラリアンフットボール等)、 無酸素系エネルギーを補給してくれる為、必要な時には素早く、そして爆発的になれる。 これこそ私が昔からジョール・ジェイミソンの熱烈な支持者である理由です。ジョールは様々なエネルギー経路と各々のシステムの能力を最大限に引き出すことにおいて素晴らしい功績を収めています。 どうやって修正するのか? エネルギーシステムトレーニングに真面目に取り組むことはあなたを成功に導くことにおいて、とてつもなく大きな一歩となります。ゲームの質を向上させる為に必要なステップを踏む事は称賛に値するでしょう。 マイナス面といえば:この議題を手短に解説するのは十分ではないということ位です! 代わりに、以前に執筆したエネルギーシステムの記事をチェックする事を強くお薦めします。 さらに、ジョール・ジェイミソンの記事もチェックしてみたください。ジョールが何度も繰り返して言っているのは、疲労した時もムーブメントの全体性/質を維持するということです。 忘れないでほしいのは、アスリートが疲れた時、彼らはたいてい矢状面に “ディフォルト化”してしまうということ。そして矢状面に依存するにつれて、より無酸素化していくのです。 より無酸素化するにつれてどうなるのか?どこに向かうかお分かりになりますね- 悪循環の始まりです。 許容能力を高めることだけでなく、同時に、質の高いムーブメントを維持しながら行うことにも注目をしましょう。 まとめ この記事は予想よりだいぶ時間がかかりましたが、これは2つの理由によるものです: これはとても幅広いトピックでテーマを絞る事は困難でしたし、 できる限り明確に伝えたかったからです。 トレーニングに関して、絶対というものは存在しません。 これは白か黒かではありませんし、善か悪かでもありません。全てグレースケールで、連続性があり、教育と知識に基づく推測なのです。 ですが、ここで述べた3つの理由は、間違いなく近年みられる傷害率において役割を果たすはずです。 そしてもしも我々が専門家として成長することに真摯で、その過程でできるだけ多くのアスリートを助けたいのであれば、身体作りにおけるこれら3つのエリアを可能な限り深く掘り下げて見る必要があります。 アスリートに曲げ方を教えて下さい。 力の吸収方法を教えて下さい。 そしてアスリートに競技特有の作業能力を与えて下さい。 もしこれができれば、次の世代のアスリートは、競技生活中もその後もより回復力を持つようになることを約束します。

マイク・ロバートソン 3318字

コンディショニングが命を救い得る理由 パート1/4

2008年4月25日は、私にとって決して忘れられない日です。それは私の人生で最悪の日であり、なぜ詳細まではっきりと私の心に刻み込まれているのかは疑問の余地もありません…これからお話しすることは、これまで私がシェアしてきた中でも最も個人的な話です。それでもこの話をするのは、この話が非常に重要な教訓であり、文字通り全ての人がこの話から恩恵を受け、学ぶことがあると考えているからです。 最後まで読むと、コンディショニングというものがどれだけ大切なのかについて、さらに、より良いパフォーマンスをするためだけでなく、より良く生きるために、あなた自身(またはあなたのクライアント)のコンディショニングを向上させる方法について、全く新しい認識を得ることになるでしょう。 電話を受ける その電話がなったのは、郵便物を取りにジムの外へ行こうとした午後12時半ごろだったと記憶しています。電話は私の知らない市外局番からで、いつもならそのような電話には出ないのですが、そのときはなぜかその電話を取りました。 その声が「ジョール・ジェイミソンさんですか?」と聞くので、 私は「そうですが、どちら様ですか?」と聞き返しました。 「私の名前はジェニファー、マイアミのドクターズ病院の集中治療室で看護師をしています。あなたのお母様が脳卒中になり、今私たちと一緒にいることを知らせるために電話をしています。」 このような電話を受けたことがある人なら誰もが、本当に呼吸が止まりそうになると言うでしょう。ショックと困惑が強すぎて、今聞いたばかりの言葉が頭に入ってきません。 私はその前夜に母親と話をしたばかりで、その時は何の問題もありませんでした。母は基本的に健康に見えました。何の病気や兆候もなく、服用している薬もなければ、過体重でもなく、お酒も飲まずたばこも吸いませんでした。 確かに、大多数の人と同様に、トレーニングはしていませんでしたし、食生活は確実に改善できたと思います。でも、母は航空会社の客室乗務員であり、非常に活動的で、乗り継ぎの場所ではあちらこちらに出かけるのが常でした。脳卒中を患ったのも、彼女が乗り継ぎでマイアミにいたときでした。 その時の状況では、母が飛行機事故に巻き込まれたという電話を受けた方が驚かなかったでしょう。母が脳卒中を患うよりも、その方が統計学的には起こりづらいことだとしても。 人生で最も過酷な12時間 -そして答えを探す機会 その電話を受けてから数時間以内に、私は空港にいて、シアトルからマイアミへの飛行機に乗ろうとしていました。その電話を受けただけでもよくなかったのに、更に事態を悪くしたのは、看護師が脳卒中の深刻さに関わる詳細も、今後の予期についても何も言ってくれなかったことです。私が知っていたのは、母は集中治療室にいて、意識がないということだけでした。 何を考えればいいのかもわからず、病状がどれだけ悪いのかを知るすべもなく、ましてや母が生き延びられるのかもわかりませんでした。私にできることは、そこからのフライトと乗り継ぎの12時間を、母の状態がどのくらい悪いのかについて頭を悩ませながら過ごすことしかありませんでした。 もし母が生き延びられなかったとしたら、あるいは生き延びられたとしても、歩けなくなったり、話せなくなったり、何も覚えることができなくなったとして、どうしたらいいのか、私には全く分かりませんでした。 それは私の人生の中で、最も過酷な12時間でした。 そして、それこそ一睡もせずに、やっとの思いで翌朝8時ごろに病院につきました。母が意識を取り戻したことを知り、医者から母が生き延びられる可能性は高いと聞いて、かなり安心しました。しかし、保証はありませんでした。そこからの48-72時間が非常に大切で、母は集中治療室に留まる必要がありました。 それから3日間、ほぼ眠ることなく、18.5㎡ほどの集中治療室で過ごしました。ほぼ全ての時間を、母の血圧から体温まで、モニターに映し出される様々な数値を凝視して過ごしました。数時間おきにどれかのアラームが鳴り、そのたびに看護師か医者がやってきて状態を確認し、アラームをセットし直しました。 看護師や医者は私に、母の状態は完全に「ノーマル」だと言いきかせましたが、母があらゆる薬を投与され、意識と無意識の状態を行ったり来たりしているのを見ていると、私にとっては何も「ノーマル」には感じられませんでした。 母が起きているときは、少し話をすることができましたが、母の身体と顔の右半分が麻痺していることは明らかでした。その麻痺と薬づけの状態は、何もかもがまた元通りうまくいくようになると確信できるには程遠いものでした。 「統計」が自分に関するものになったとき-健康な人間がいかにして脳卒中を患うのか? 集中治療室での苦しい三日間を過ごした後、母はようやく通常の病室に移ることができ、そこで7日間を過ごしました。その後は、リハビリ施設へ移動して2週間、身体の右半分のコントロールを取り戻すためのトレーニングをしました。「すべて元通り」ということでは全くありませんでしたが、少なくとも危険を逃れた感はありました。 脳卒中を患う前とはかなり異なる生活になるとしても、母が生き延びるであろうことは明白でした。 母に必要な治療を確実にすること以外に、私にとって大切なことは、どうしてこのようなことが起きたのかを理解することでした。健康で活動的であり、医学的な問題や既往歴も抱えていないように見える人が、どのようにして、突然何の予兆もなく生命の危険すらある脳卒中を患うのでしょうか? 私はまず統計を調べました。結果は非常に厳しいものでした。 米国では、脳卒中は3番目に多い死因であり、毎年14万人以上の人が脳卒中により亡くなっています。また、脳卒中は、身体障害をもたらす一番の元凶であり、母は生涯、その障害と付き合っていかなければなりません。脳卒中を心臓血管系の疾患の問題の一部として考えると事態はさらに深刻です… 心臓血管系の病気(脳卒中、冠状動脈性心臓病など)に関連した状態は、あらゆる癌による死者の総数よりも多くの死人を出しています。見方を変えれば、米国の女性の31人に1人が乳がんで亡くなっている一方で、3人に1人が心臓血管系の疾患により亡くなっているのです。 正直に言うと、私は以前にもこういった統計を読んだことはありましたが、愛する人や友人がその一部になる前は、その統計はページに記された数字に過ぎませんでした。母が脳卒中になる前は、心臓発作や脳卒中について考える時には、過体重で、食習慣が悪く、喫煙をし、酒も飲んでいるような人を連想し、母のような人を思い浮かべることはありませんでした。 私は統計の数字以上のものを知る必要がありました。原因を理解する必要があったのです… 炎症に関する真実-あなた及びあなたの知っている全ての人々にとって炎症がなぜ重要なのか 私は何カ月にもわたって、心臓血管系の疾患、脳卒中、ストレス、炎症、それらに関わるもの全てについての本や研究論文を、手に入るものは全てくまなく読みました。読めば読むほど、非常に興味深く、読み続けたくなりました。 やがて私は、健康、ウェルネス、病気に関して異なる見解を抱くようになりました。私の母のように健康にみえる状態から、どのようにして、ある日突然、病院で生命の危機にさらされている状態になるのかが、はっきりわかってきました。 こういったことがどのようにして起こるのかは、ストレスと炎症の関係に隠されています。炎症は、ほぼ誰にでも馴染みあるものでしょうが、炎症が一体どのようにして起き、どんな役割をしているのかについては、多くの人にとっては未知のものでしょう。研究の観点からしても、炎症については、ここ10年間くらいでようやくいろいろなことが明らかになってきています。 神経免疫学の比較的新しい分野により、ストレスと炎症が身体にどのような影響を与え、時間と共にどれほど悪い影響を与え得るのかを解明するパズルのピースが埋められてきています。

ジョール・ジェイミソン 3419字

アスリートが怪我をする3つの理由 パート1/2

最近のアスリート達はかつてない程に高い割合で怪我をしているように思えます。 そして、更にもっと悲しいのはこういった怪我が一時的なものではなく、より深刻になってきているということです。 信頼できるデータを見ましょうか? 2016年シーズンのNFLの7週目において、40件のACLの損傷と32件のアキレス腱の断裂があったのです! 私は、傷害には様々な要因があると信じています。たとえばもし誰かが膝に大きなQアングルをもっていたとしても、これはACLを痛める唯一の理由ではないということです。 または誰かの“四頭筋:ハムストリング”の筋力比が良くないものであったとしても、それのみがハムストリング損傷を起こす結果となる唯一の理由ではありません。 生まれてからずっとスポーツを見続けて、この業界で16年働いてきた今、明らかに傷害率の上昇に関係する、いくつかの共通した手がかりを皆さんにお伝えすることができます。 そして怪我をいくつかの主要なエリアに “ボックス”として分類することが出来るでしょう。 アスリートは屈曲と “曲げる”能力を失いました。 アスリートは力を吸収したり縮小したりする能力を失っていて(i.e. “ブレーキング能力”に乏しい)、 スポーツのニーズや要求に見合う許容能力を備えていないのです。 これらのボックスをそれぞれ細かく見ていきましょう。そしてより強く、健康で回復力の高いアスリートを築く手助けとなる答えを提供していきましょう。 #1 – 曲げられない ランニングバックが切り返し動作で突進してくるのを想像しましょう。 ラインバッカーが彼を押さえつけてきます。ベストな選択としてしっかり踏ん張り、切り返して逆の方向に進むことを選択しました。 そこで彼はより強く切り返しに向かいますが、彼の身体のシステムは力を吸収するのに必要な股関節、膝、そして足首から曲げるということを許してくれません。 ですから曲げるかわりにブレーキをかけてしまい...この場合、ACLを断裂してしまったのです。 これは基本的なバイオメカニクスの域を超えた事象です。人間として、私達は絶えず変動する状態にあるのです。 私達の身体は、周りの環境や刺激にたいして常に解釈と適応をおこなっています。その間も、ホメオスタシスを維持する為に小さな微調整を繰り返しているのです。 ここで残念なお知らせがあります:私達は近年、過去にないくらいのストレスや不安、そして慢性的な炎症を起こしているのです。 これらのストレスや炎症は、バイオメカニクスの観点からみて、私達の身体にどのような影響を及ぼしているのでしょうか? 過剰なストレスや炎症は交感神経反応を引き起こします:闘争—逃走モードに入り、自分達を矢状面で固定することで生き抜く為の身体の準備をするのです。 もし森で熊に遭遇したら、この交感神経反応は必要になりますし、矢状面で自分達を固定したくなるでしょう。 呼吸が激しくなり、心拍数も上がり、血流は筋へと向かいます。そして身体を固め、速くまっすぐに走ることによってその状況から逃げ出すのです! そして森の熊から逃げ出し、万事うまくいったとしても(またはジムでパーソナルベストをだしたとしても)、その交感神経のシステムを一日中シャットダウンできなければ、それは非常に大きな問題になります。 自立神経系をラジオのボリュームノブに例えましょう。もしあなたがヘビメタのパンテラを聞きながら高重量の負荷を扱うのならば、ノブのボリュームを11まで引き上げたいでしょう。 しかし、もしあなたがアル・グリーンを聞きながらガールフレンドとゆっくりと落ち着きたいのであれば、11というボリュームは全く適していません。 ダイアルを4か5に合わせるべきでしょうね。 驚くほどのことではないですが、これは身体活動においても同じような仕組みなのです。善し悪しではなく、状況が重要となる“適切なタイミングと適切な場所”があるのです。 伸展は加速したり、真っすぐ速く走ったり、または相手を押したりする為に必要です。 屈曲は減速したり、高さを変えたり、モビリティを出す為に必要です。 もし曲げるという能力を失ってしまうと、高さを変える能力を失ってしまいます。 この単純なトリックを試してみて下さい: 立ち上がってスクワットスタンスをとってみてください。肩の横に手をおいてバックスクワットするようにして、下がりながら胸をつきだして腰のアーチを作って下さい。 空気を吸い込み、できるだけ深くスクワットをしてください。どれだけ深く下がったかを測るだけではなく、どう感じるかもチェックしてみてください。 それでは逆をやってみましょう。手を前方にだして遠くに伸ばします。肋骨を下げるように息を吐いて下さい。 ここで出来る限り深くスクワットします。そして先程同様深さと感覚をチェックしてみて下さい。 かなり違いますよね? 私があなたの可動性を上げたのでしょうか? もしくはあなたが最初からもっていたモビリティにアクセスすることができたからでしょうか? これをスポーツに置き換えてみましょう。バスケットやベースボールコーチはいつも “腰を下げろ”とアスリートに叫んでいます。 ですが、もしアスリートが単にこれをできないとすれば? もし彼らがかなりストレスを受けていて、つまり、かなり伸展していて彼らのシステム自体がそのタスクを遂行できないとしたらどうでしょう? どれだけアスリートを怒鳴りつけても意味はありません。奥に潜んでいるストレス要因にアプローチして、システムに働きかけて屈曲を回復させない限り、求めている姿勢をとらせることは不可能でしょう。 どう修正するのか! ではどうやってこれを修正していくのでしょう? 根底にある問題に取り組む代わりに、私達はアスリートを見て単純にこう言います: “この選手は硬すぎる-だからモビリティトレーニングが必要です。一ヶ月程ヨガをやらせれば良くなるはずですよ。” これでは破裂した大動脈に対してバンドエイドを貼るようなものです;くっつくはずがない! この交感神経優位/バイオメカニクス的に伸展したパターンにアプローチする1番簡単な方法は選手に曲げ方を教えること。そして曲げ方を教える1番簡単な方法は息の吐き方を教えることです。 呼気は屈曲を引き起こします。これは身体に、下部肋骨と骨盤の理想的な関係を回復させ、“闘争—逃走”モードから抜け出すことを可能にします。 更に、一旦屈曲が起きると、身体にもう一度オプションを与えることができます。これはアスリートに矢状面から抜け出し、そして(願わくば)前額面と水平面の動作を回復することを可能とするのです。 ですから息の吐き方と屈曲を学ぶことはとても素晴らしいスタートです。ですがここから更に深く掘り下げなければなりません。 私は担当する全てのアスリートと、パフォーマンスピラミッドについて話し合いの場を設けるようにしています。 私は、彼らの基礎となるピラミッドの1番下のレベルに重点を置くようにしています。 栄養があり力の源となる健康的な食事を摂っているか? しっかりと深い眠りにつけているか? ジム以外でのストレス要因にしっかり対処できているのか? 早い時期に、これらの問題に取り組むことができないと屈曲して曲げる能力にマイナスの影響を与えるだけでなく、リカバリー全体に悪影響を及ぼします。 曲げる能力の欠如は大きな問題であり、次にあげる要素にも直接影響を与えます。

マイク・ロバートソン 3272字

運動の糧 パート3/3

もし、私たちから全てのストレッチや矯正エクササイズ、フォームローラー、カイロプラクターや理学療法士との予約を取り除いたら、ゆっくりと着実に持続的な進歩を遂げ改善し、健康を維持するのにピッタリの最小有効運動量に取り組む方法はあるのでしょうか? 身体の機能性を保ち、自分に適していると思われる活動に適応できる最小有効運動量はどうでしょう? もし、400ポンド(180 Kg)のデッドリフトを将来行うつもりがないのであれば、そのようなリフトを補助する運動は必要ありません。そうは言っても、しゃがんだり、ひねったり、振り向いたり、這ったり、登ったり、おそらく軽く走ったりすることをできるようにしておく運動は必要でしょう。もし、ある日とても重い物を持ち上げなくてはならないことがあれば、他の人の手を借りたり、作業を分解したり、力学的に有利な方法で行うようにします。ただそれだけのことです。 健康でいられる程度に動きなさい・・・それを維持できる頻度で動きなさい。 機能的でいられる程度に動きなさい・・・それを学習できる頻度で動きなさい。 フィットでいられる程度に動きなさい・・・十分に適応できる頻度で動きなさい。 上手に行える程度に動きなさい・・・それを継続的に行える頻度で動きなさい。 十分に動きなさい、でもここに書かれた順番で。あなたの本質がそれを求めているのです! 十分な頻度で上手に運動すれば、ちゃんと適応できるようになり、適応できれば不利な方向に働くことはありません。とても重要なことです;不利な方向は、基本的な運動の発達よりも、もっと野心的なレベルの運動の発達を助長します。不健康な腕の動きでボールを投げるピッチャーを過去にどれだけ多く見てきたでしょうか―― 回旋腱板断裂、筋の挫傷や関節の捻挫などがその結果です。もし、運動量が適切でありさえすれば、フィットネスや発達全般において有益な技能が身についたはずです。しかし、身体を酷使し、健康問題を発生させてしまいました。振り出しに戻ってしまった。 体系的なフィードバックの欠如によって、すぐにそうなってしまいます。   みなさんが健康的な動きから技能的な動きにレベルアップする時、または動きを評価する時、何をトレーニングするべきか見つけるためにわたしたちは健康と機能、適性、技能を保つのに必要な最小有効量を分析します。最小有効量はどれくらいか? 私たちがこれが悪いと推測したものが間違っていて、その弱連鎖からかなり外れていることに気がつくことがよくあります。動きにおける弱連鎖は、たいてい上達しなかったり思うように活動できなかったりする原因です。体重が減らない原因かもしれないし、思うように眠れない原因かもしれません。身体は、みなさんがしようとする運動、またはしないと選んだ運動に非常に敏感です。 ダイエットに似ていませんか? エクササイズと比較した時、栄養学の明瞭さに私は信じられないほど刺激を受けます。栄養学の学位を持っているわけではありませんが、栄養学での論理の善し悪しは明らかに区別がつきます。製薬業と同じように、栄養学においても、単に症状だけを元に食べ方を指示されることもあり得るでしょう。しかし、食の善し悪しや健康的で機能的な食べ方、フィットネスのための食事、長期的な食事の原理をいくつか提供することで、完璧で持続的な生活スタイルの変化を起こすほどに、包括的にもなれるわけです。 もし私たちがサプリメントを扱うのと同じようにエクササイズを捉えたら、そして、もし身体活動と新しい環境への露出も食べ物と同じように考えていたならば、運動テクノロジーにおいてさらにもっと進化することでしょう。 歩き方を見ただけで、座りっぱなしの習慣を持つ人だということがはっきりとわかるでしょうか… 世界中どこでもアメリカ人と見分けられるようになりました。単に少し太っているということや服装が他の人たちと多少異なるということだけではありません。 私たちの動きがよくないからです。 私たちは、動きが良くないにもかかわらず頻繁に動く。これが問題を生み出します。明らかな代償を生み出しす。歩行といった単純なことからでさえも、あなた自身と体は運動の本来の糧を味わうというより、断然運動のサプリメントを味わっていることが多いという事実が分かってしまいます。 この投稿がみなさんを喚起できれば良いと思います。運動をじっくり調べたり運動レベルを分解したりする気になっていただければいいと思います。これまで抱いていた推測は捨てて、運動の4つの分類をする新しい物差しに注目してみましょう。それぞれの運動レベルにおいて、みなさんが摂取しているのは運動の糧ですか、それとも、サプリメントですか? トップレベルにおいては、みなさんが最もしたいことを楽しみましょう。たとえば、サイクリング、ロッククライミング、ハイキング、競技スポーツなど。正しく行えれば、技能負荷はかなりのレベルのフィットネスを与えてくれるでしょう。それによって得られたフィットネスで一定の機能が備わり、維持した機能は健康を保つことにもつながります。また、その逆もあり得ます。 運動の最後の段階では、あなたを微笑ませてくれることや、流れるようにスムーズな状態でできることを見つけることです。だからと言って、家での課題や補助的にエクササイズをしなくていいという意味ではありません。残念ながら行ってもらいます。しかし、これらの補助的なエクササイズは、人生という長期にわたる連続的なイベントにとってバランスや調和を整えるための一時的な障害なのです。 もし、運動のサプリメントとしてのエクササイズを数週間や数ヶ月という期間ではなく、何年間も行っているとしたら、何のためにやらされているのか、なぜそうさせたのかを疑問に思います。多くの人は、機能的運動のテクノロジーを採用し、運動のサプリメントとしてのエクササイズをし続けています。私や私のチームであればとうの昔にそんなコレクティブエクササイズなんてやめさせ、健康や機能、適性、技能/競技の全体を再調整しているのですが、そんなことは知る由もありません。運動パターンが悪いからといって、私は特定の運動のサプリメントを一つ加えるだけということはしません。一旦コレクティブエクササイズで運動パターンが改善されると示せれば、まず私が始めにするのは、“オーケー、ではコレクティブエクササイズなしでどれぐらいできますか?”と聞くことです。Xをもう少し多く行うことによって、Yをかなり少なくし、Zはもう二度と行うことはなくなります。なぜなら単に、これは必要としている運動の糧ではなく、あなたには合っていないからです。 私の言うことを鵜呑みにしないでください・・・私の言っていることを試してみてください。生命体と環境をまず単純に見ることから始めましょう。あなたが本当に取り組むべきなのは、今取り組んでいるところではないかもしれないからです。 私たちは私たちのテストをこのように利用します。ひとつの方法論を他と比べて推奨するということではなく、みなさんの運動の中にある薬を見つけ、処方されるべき運動を見つけるのに役に立つからです。

ファンクショナルムーブメントシステムズ 3025字