痛みから抜け出すための一番の方法 パート3/3

感作 感作されるのは、単に中枢神経系だけではありません。末梢ニューロンもまた、細胞体の中により多くのイオン・チャンネルを作り、組織の中の神経終末へと下ろすことによって、より敏感になりえます。このイオン・チャンネルの増加は、脱分極するために、細胞外の正電荷を持つイオンが、細胞内に入るのをより容易にし、信号を中枢神経系まで送ります。これらはストレッチ、あるいはリガンド化学受容体に対して、力学的に敏感でありえます。リガント受容体は、炎症時に存在するような特定の化学物質の存在下で開くイオン・チャンネルに組み込まれている化学受容体を持っています。 求心性C線維が、順行性(中枢神経系へ向かって)のメッセージを脊髄後角へ伝導する際に、求心性C線維はまた、神経終末と関連する組織へ引き返す逆行性(末梢へ向かって)のインパルスを発生させることができ、これは神経性炎症と呼ばれています。これは、サブスタンスPや肥満細胞が脱顆粒を起こし、炎症の元になり、侵害受容器感作混乱を作っている、ヒスタミンやセロトニンを放出するような事象を引き起こしている局部をさらに刺激するCGRPを含んでいる神経ペプチドの放出を刺激します。順行性伝導の間に、細胞はまた、集中砲火を何とかして反対方向に送ることもできます。なんと忙しいニューロン達なのでしょう!その上、後根反射を通して、脊髄後角からの中枢から末梢へ向かう活動も持っているのです。 このプロセスは、個人の神経系、生理学的反応、彼らの生理学的反応を変化させたかもしれない以前の疼痛経験によって、確実に影響を受けています。 本質的に力学的力は、中枢神経系への不快な求心性シグナルを作り出し,化学的に敏感な受容器より敏感にさせる局所炎症反応を引き起こしたり、あるいは化学的刺激と力学的刺激の両方に影響を受けた受容器が、これらを更に運動に対してより敏感にしてしまうこともあります。望むべくは、このループが、痛みのない動作を見つけることによって繰り返されなくなることです。 かなり複雑になってきていますが、何らかの‘正しい’方法ではなく、人々が現在行っている方法とは、単に異なった方法で動くことが、恐らく彼らの組織内で起こっている全ての痛みの生化学、あるいは異なる組織と受容器を刺激することによって、はるか上にある脊髄後角で起こりうる変化を手伝うという見解を私達に与えてくれるはずです。私達は、下行経路を良いもので刺激するのと同様に、反復的な受容器刺激によって、これ以上敏感にしないことで、感覚を鈍らせることができます。 非侵害受容機構 非侵害受容の情報と痛みの関連性を考察するという仮説が、今新たに発生しています。私は以前に、痛みの記憶の概念に関して解説しています。詳細は*ここをクリックしてください*。 この一連の思考に沿えば、私達は、一つは痛み、もう一つは特定の運動を介して発生する特定の固有感覚情報という二つのコード化された刺激の関連性を持っています。時間が経つにつれ、神経パターンにおいて、それらは対になってしまっているかもしれず、その固有感覚情報は、条件性疼痛反応における刺激になりえます。疼痛反応を引き起こすのに、実際の不快な刺激は必要とされないのです。これは、組織治癒の時間を越えて、非常に長い持続痛を経験する多くの持続痛患者にみられる、条件性恐怖や不安な挙動に関して大変道理にかなっています。これらの見解は、恐怖条件付けのような状態に着目する感情の研究の世界では、もちろん新しいものではありません。 MoseleyとVlaeyenは、多様な運動や活動によって、どのように痛みが作り出されうるかを議論する‘不正確仮説’を提出しています*ここをクリックしてください*。運動と痛みの間にあるこれらの神経の関連性は、特定的で正確というよりも、かなり一般化されています。これは、ほぼ同様の範囲内の刺激、あるいは同様のタイプの刺激は、条件付きの疼痛反応をもたらし始めるのかもしれないということを意味します。複数の緩い関連を持つ刺激が痛みを引き起こすのであれば、これは問題になる可能性があります。この保護の為の緩衝装置の増大は、おそらく、より急性期のある時点で良い適合目的として役に立つでしょうが、その後不適合に移行する際にはそうではなくなります。 異なる運動が、痛みと一体にならずに中枢神経系への異なる固有感覚インプットを引き起こし、そして、痛みの無い異なるアウトプット反応を発生させることを、私達は望んでいます! 個人の感じ方を修正することは素晴らしいことですが、痛みが弱まった後であっても、組織の感受性と同様に、痛みは運動を変化させるということを忘れていけません。両方とも再発を増加させるかもしれず、これは今後の傷害の一番の予測因子の理由が、傷害の既往であることの理由であるかもしれません。防御的運動行動は、いかなるリハビリテーション・プロセスの中でも対応するべきです。何が正しくて、何が間違っているかではなく、さまざまな運動のオプションとスキルが取り入れられるべきであり、より多くの可変的リソースを持つことによって、システムは適合することができるのです。 素晴らしい科学を提供してくれたButler、Gifford、Shacklockに感謝したいと思います。

ベン・コーマック 2229字

痛みから抜け出すための一番の方法 パート2/3

なぜ異なる動きは、あまり痛みを引き起こさないのでしょうか? 最初に、もちろん、脳もまた末梢から来るあらゆる信号の調節に関与するということを忘れてはいけませんが、まず、痛みのある組織で何が起こっているかについて考えてみましょう。私達が基本的に着目する科学的知識は、科学的根拠と同様に重要ですが、見た目ほど魅力的ではありません。 次に、持続痛の状態にある人達に対応する際に、より重要かもしれませんが、連想的学習、および有害な固有感覚刺激と疼痛反応の結合も考慮しなければなりません。 高閾値の有害な刺激をコード化する、あるいはより明らかに危険な信号を送る侵害受容器は、長期発火の間により敏感になり、これらの活性化に必須な刺激の量を減少させます。熱、化学的、機械的刺激のような、数多くの刺激に反応することを意味する多モード侵害受容器の全ては、発火を引き起こしえます。これら全ては、痛みや炎症の中に存在しています。 これらの求心性神経に刺激をあまり与えない方法で簡単に動き始めることは、手始めとしてふさわしいでしょう。痛みが少なく、等尺性の負荷に耐えることができる関節位置を見つけることも、神経を過度に刺激せずに適合するために、部位を刺激する良い方法かもしれません。 脊髄後角内にある、これらの一次求心性神経ニューロンのシナプスでは、二次ニューロンが刺激され、情報を脳に送ります。末梢からのインパルスの集中砲火を通しての長期刺激は、受容野の増大を開始する可能性のある脊髄ニューロンの興奮の増大を起こす可能性があります。この活動はまた、隣接するシナプスも同様に興奮させ始めます。これはしばしば、‘ウィンドアップ現象’と呼ばれています。 急性疼痛の状況においてでさえ、痛みの中央処理におけるこれらの変化が様変わりする可能性があり、あるいは以前の痛々しい経験によって変えられている可能性があります。私達はしばしば、中枢機構と慢性痛の状態を結びつけますが、中枢機構はいかなる痛みとも常に関与していて、更なる中枢機構の関与の可能性が常に存在しています。もし痛みの既往歴があれば、以前は穏やかで、沈黙していた頑固な侵害受容器が、その後により活発になり、このプロセスを増大させるかもしれません。また、今まで標準感度の状態であった受容器が、今後の刺激に対してより敏感になることもあるかもしれません。 一度これらの受容器がオンの状態になると、しばらくの間オンの状態が続く、あるいは絶対に完全オフの状態にはなりません。C線維を通る情報は、軸索における髄鞘形成の欠如のため、ゆっくりと伝達され、末梢神経終末からの信号は中枢神経系に届くまでに幾分時間が掛かり、細胞体、あるいは脊髄後角によって作り出されているあらゆる炎症反応が、末梢神経終末に戻るのにも幾分時間が掛かるかもしれません。よって、より多くのC線維が覚醒し、信号を送り始めることが、しばしば痛みが翌日起こり、その後もしばらく痛みが継続する理由に関してのいくらかの説明になります。これはまた、リハビリテーションにおいて、一つのセッションの中で少しやり過ぎてしまった際に、私達がその微妙な境界線を超える可能性がある理由を理解する手助けにもなります。閾値を超え警報が鳴るのを、私達は翌日になるまで気がつかないのです。 しばしば不適応反応する痛みの警報システムをより良くするための一部は、刺激をさらに検出するために、センサーをより高感度にすることです。これを理解すれば、特に痛みや傷害の既往歴がある際に、痛みが簡単に引き起こされる理由は、完璧に道理にかなうのです。 本質的に、ある人々の中枢神経系は、痛みのある状態にあることに長けていきます!よって、痛みは簡単に引き起こされるため、人々は痛みを自覚し、警戒しやすくなるのです。私達はこれを異常な警戒と恐怖回避を持つと捉えます。もし‘正しい’エクササイズが、‘正しい’方法で行われ、これらの人々にとって無痛の運動を見つけることができるということには、何よりもはるかに勝る価値があります。もし私達が運動をその人にとって関連性のあるものにすることができれば、心理的価値は意味深いものになります。恐怖回避は、ある程度、感知される痛みの状態を避けることによって維持され、痛みを感じないというもので、運動の関連性といかに私達が関わるかの度合いは最も重要なのです。関連する運動に取り組まなければ、問題は継続するかもしれません。 人々が異なる運動やより痛みの少ない運動をする手助けをすることの本来の趣旨は、痛みを引き起こさず、彼らの現在の痛みの状態を助長せずに運動を維持することです。生化学が生体力学と同じくらいの要因であるという考えに慣れることは、正しい方向に進むための一歩です。実際に、私達は異なる化学反応を促進するために、異なった力学を使用することができます。 運動は良いことです! 運動はまた、悪い物を取り除き、良い物を取り込む基本的な流体力学を促進させるので、動かないということは、概してここでの答えではありません。運動はまた、鎮痛剤でもあります*ここをクリックしてください*。下行性抑制を促進する運動皮質アウトプットの増加と内因性オピオイドの産生の両方は、潜在的機序として議論されています。脊髄周辺に漂う抑制物質が多ければ多いほど、感受性は低い可能性があります。これはGABAや内因性オピオイドのような化学物質を含んでいます。このトップダウンの抑制は、組織の中で生理学的に起きていることに影響を与えることができ、単に運動とのポジティブな関連を持つことは、痛みにおける抑制効果を持つかもしれません。 こわばり硬くなった筋肉と全く負荷をかけないことは、ただ問題を大きくするだけかもしれません。私達は、受容器の中に長期にわたる体位や姿勢から発生する虚血組織の状態によって発生するPHの低下を感知する、酸感受性イオン・チャンネル(ASICs)とTRPV1チャンネルを持っていて、これが局所感度を増大させるかもしれません。できる限り正常に身体を使うことはまた、身体機能の低下を抑え、可動域と許容の範囲を維持するでしょう。

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痛みから抜け出すための一番の方法 パート1/3

人々の動き方に注目し、掘り下げて考える際、何が‘正しい’運動、あるいは‘良い’運動なのかに関する曖昧なコンセプトに直面することでしょう。一般的に、これらのコンセプトは、科学的根拠にかかわらず、変更させることが難しい強い信念と一体になっています。 Alberto Brandolini氏は、これを下記のように、うまく要約しています。 ”馬鹿げたものに異議を唱える際に必要とされるエネルギーの総量は、それを作り出す際に必要なエネルギーよりも1桁大きい” 私は、‘良い’運動を定義することが可能であるという見解が非常に馬鹿げているということには同意しませんが、定義が難しい試みであり、今までのところ非常に不明確であることも確かです。現在利用可能な科学的根拠に基づいて、痛みがある中でリハビリテーションや運動の手助けをするという観点において、私達ができる最良のことは、単純に彼らに“異なった”運動をさせることでしょう。 ‘良い’運動と傷害の危険性に関連する‘悪い’運動の基準を提供しようと試みるシステムである、ファンクショナル・ムーブメント・スクリーニング(FMS)に関する最近の考察*ここをクリックしてください*において、研究過程で傷害を負った74名のアスリートのスクリーニングにおける平均スコアは14.3ポイントという結果が出ました。傷害を負っていない93名のスコアは、ちょっと待ってください、14.1ポイントで、0.2ポイントしか違わないのです。 傷害に関連していた運動パターンは、インライン・ランジのみです。最高スコアである3ポイントを記録したアスリートは、2ポイントを記録したアスリートよりも傷害を負う可能性が高いのです!あなたが、‘良い’と認識している運動に固執すればするほど、傷害を負う可能性は高くのなるのです。実際に、最低スコアである0ポイント、あるいは1ポイントを記録した複数のアスリートは、傷害との関係性を示しませんでした。 痛みを抱えての運動 有痛者における、いかなる運動評価も、痛みを抱えていることへの彼らの反応の現れだけであって、痛みを抱えている理由ではないのかもしれません。しばしば、この基本的な推論過程は考察されず、炎症を起こした組織への負担を取り除くための、あるいは筋性防御やリハビリテーション・プロセスの後半でみられる凝りのような、不適応反応を減らすための運動変化における素晴らしい論理的根拠を提供します。このために、いかなる運動もスクリーニングや評価に使用可能で、個人との関連性があればあるほど良いのです。 運動評価は、何を変えるべきか、どう変えるべきかの指標とするために、それが正しいとか間違っているかに関わらず、特に痛みがある際には、今現在どのように動いているかに注目するべきです。異なる運動をする能力や他の運動のオプションを持つ能力の低下は、急性損傷から慢性への移行に関連しています*ここをクリックしてください*。私達が運動評価をするために、非線形法を使用する際、変化の低下は慢性化と強い関連性を持っています*ここをクリックしてください*。 私の考えでは、良い運動は運動のオプションを有していることを特徴とし、そして、悪い運動は選択肢が欠如している運動と定義されるかもしれません。 私のお気に入りの格言の一つに下記のものがあります: “全てのエクササイズは運動であるが、全ての運動がエクササイズというわけではない” 単にこれは、いかなるエクササイズも痛みがより少ない運動を提供するために適合、変化させることができる、あるいは従来のエクササイズのようには見えない運動が使用される可能性があるということを意味しています。単にスクワット、あるいはランジの際の足のポジションを変化させることは、臼蓋窩における大腿骨の方向を調節し、股関節の組織と中枢神経系(CNS)の両方に異なる反応(願わくばより少ない痛み)をもたらす、異なる刺激を提供するでしょう。これらのポジションの全てが、さまざまな状況や刺激に対応するために、私達の運動レパートリーの中で、相当大きな能力と利用可能なオプションとして利用されるすべきです。私達は特に、私達が経験する刺激に適合し、その結果として、今後同様の刺激によりうまく対応できるようになります。 人々はしばしば、彼らが教えられてきた不変的な青写真から離れることに不快感を覚えたり、あるいは、あるエクササイズが行われるべきであると信じ込んでいます。もしかしたら、それは同じ筋肉をターゲットにしていないかもしれませんし、あまり安全ではないと信じ込んでいるかもしません。もしあなたが、実際のスポーツの中で起こるような、より自然な運動について考えるならば、試合中に何度もみられるこれらの変化に着目するようになるでしょう。実際のところ、ジムの中で練習した運動は一切使わないかもしれません。 痛みのある状況において、目的は、強化すべき特定の筋肉をターゲットにするというよりも、単により少ない痛みの中で動くことかもしれません。我々が、単一の筋肉筋力低下が痛みや生体力学的な‘機能不全’の原因であるいう考えから離れつつあるということ望んでいます。 痛みがある中で同じように動けば動くほど、同様の反応を誘発する可能性が高くなります。 痛みのある運動が‘かなり良く’見え、‘かなり悪い’運動が痛みの無い運動かもしれません。私達は、人々をエクササイズの‘理想的な’型に押し込むというのではなく、エクササイズや運動を人に適合させることを容易にできるようになる必要があります。

ベン・コーマック 2359字

固有受容感覚の向上方法 パート1/2

固有受容感覚とは、正確には何のことでしょうか。身体感覚または運動感覚の気づきと呼ぶこともできます。これは、脳がもつ相対的な身体の位置や身体のさまざまな部位の動きを感知する能力です。固有受容感覚があるからこそ自分の手を動かす時、それが空間のどこにあるのか、目をつぶっていても分かるのです。 全ての協調運動は、固有受容感覚に依存しています。たとえば神経疾患や酩酊状態が原因で固有受容感覚に支障を来すと、歩行や立っていることなど簡単そうに見える動作でさえも、かなり困難になります。当然のことですが、スポーツやダンスにおいて一流レベルの動きは、一流の身体感覚レベルを要します。たとえば、後ろ宙返りで平均台の上に着地することは、常に身体がどう動いているか正確に分からなければ不可能です。厳密な身体感覚は、身体が心地良いと感じたり、痛みのない状態であるために必須です。下記の通り、固有受容感覚の問題は痛みの主な原因になる可能性があるのです。 スポーツでのパフォーマンスを向上させたい、また痛みを軽減させたいすべての人にとって、固有受容感覚の向上は素晴らしい目標です。実際、これら両方の目標を効率よく達成することができる、あらゆるセラピーやトレーニング方法では、固有受容感覚の向上が最も重要といえるでしょう。では、固有受容感覚がどのように機能するか、なぜ重要なのか、そしてどのように固有受容感覚が良くも悪くも変化するのかを次に説明しましょう。 脳は身体を地図化する 固有受容感覚を理解する手がかりは、身体の地図です。身体の地図とは、ちょうど道路を描いた地図の線と同じように、身体のそれぞれの部位を示すように整理された脳の部位のことです。身体の各部位の動きや感覚は、脳内のそれぞれに独立した領域によって支配されています。つまり、私たちは実際の手と脳にあるバーチャルな手を持っているのです。つまり、手の位置や形、大きさを示す脳の部分です。さらに脳は、知覚し制御する必要のある無生物(テニスラケットや道具、カウボーイハットなど)を示すためにも領域を割いています。 それぞれの身体部位は、それに相当するバーチャル部分と次のように連携を取っています。身体には、機械受容器と呼ばれる数百万もの顕微器官が全身に配置されています。それらが機械的な力で刺激を受けると、シグナルは神経系を通ってその身体部位を知覚するための脳の部位へ送られます。脳は、無数の受容器から送られるシグナルをすべて収集し、どこに何があるか、何をしているのかを正確に判断します。本質的に脳は、非常に多くの身体地図を作り、何が起こっているか、どのように動くかを判断するのにそれを役立てているのです。 優れた動きには優れた地図が必要 脳はその地図を使ってどのように動くか判断するため、地図が良質で詳細であればあるほど、正確で繊細な動きになることは言うまでもありません。逆に、地図が不明瞭であいまいであれば、さまざまな動きのナビゲーションは疑わしくなるでしょう。 より多くの動きを必要とする身体部位の地図がより大きくなっているというこれらの特質が、このイラストに描かれています。たとえば、手はかなり複雑で分化した動きができ、さまざまな感覚を感知できるので、脳にはそれを感知したり制御したりする大きな領域が割り当てられています。また、背部や肘のように多くの動きや知覚を必要としない身体部位の地図には、脳はそれほどの領域を設けていません。人間の身体を各部位に対応する脳のバーチャル領域のサイズによって描くとすれば、ホムンクルスという名で知られている右の絵のように、ひどく醜い姿になるでしょう(皆さんはまず生殖器をチェックしたでしょう?!)。 地図が協調性に不可欠であることを示すものとして、その領域は需要に応じて実際に大きく発達するという事実があります。たとえば、音楽家の指を感知し制御する脳の領域は、手をそれほど使用しない人の領域よりも、実際、観察可能なほど大きいことが分かっています。 混乱した地図は痛みを生む 正確な地図は、私たちの感じ方にも重大な影響を及ぼします。疼痛研究者たちは、被験者に鏡または知覚を迷わす他のものを使って非日常的な錯覚を起こさせ、痛みを発生させることができることを発見しました。これらの錯覚は効果的に“感覚運動系の不一致”、つまり脳の地図の情報との矛盾を起こします。この結果は、たいてい痛みとなって現れます。これらの実験から、有識者の多くは、身体地図における矛盾や混乱、不正確さが、多くの慢性的な疼痛症状に密接に起因しているかもしれないと認識し、これらの問題を解決することが、痛みを和らげる有効な方法になるのではないかと考えています。 混乱した地図によって発生しうる問題の最も劇的な例として、幻肢痛と呼ばれる現象が挙げられます。腕や脚を失った人の多くは、失った身体部位に感覚や耐え難い痛みをしばしば経験します。腕が失われていても脳の中のバーチャルな腕がそのままであって、周囲の神経活動により混線することがあります。こうなると、脳は混乱し、失った腕があるかのような、かなり現実的な感覚と多くの場合において強い激痛を呼び起こします。幻肢痛の驚くべき治療は、残っている四肢を鏡に映し、あたかも失われた四肢は、そこにあり健康な状態であると脳に思い込ませるという方法です! そんな、マトリックスやアバターでもあるまいし、とみなさんは思うかもしれませんね。

トッド・ハーグローブ 2292字

固有受容感覚の向上方法 パート2/2

地図は動きによって構築される 最新の需要を反映して、地図は常に更新されています。簡単な実験をすることにより、地図が変更されていることを即座に感じることができます。皆さんの左右の耳の形と位置を想像または感じてみてください。そうしたら、左の耳のみを数秒間こすってください。では、左の耳と右の耳の感じ方の能力を比べてみましょう。左の耳の方が感じやすくなることに気づくでしょう。耳を触ることで機械受容器を活性化させ、脳へシグナルを送ります。そして、脳のその領域にある地図を活性化するのです。もちろん、左耳が感じやすくなったというこの感覚は一時的なものです。 地図に長期的または永久的な変化もたらすためには、地図を継続的に、かつ長期にわたって刺激する必要があります。さきほどの、音楽家の指の地図はそうでない人のものより大きいという話を思い出してください。身体の特定の部位を協調的そして意図的に繰り返し動かすと、その部位や動作をコントロールする脳の領域に物理的変化や目に見える変化が実際に起こります。練習するにつれて上達する理由のひとつが、これです。 もちろん、すべての動きが均等に地図に刺激を与えるわけではありません。地図の質に変化をもたらすには、好奇心旺盛で、探究心が強く、斬新で、興味深く、知覚入力が豊富で、ゆっくり丁寧で、意図的で、痛みをともなわない動きが最も有力です。このブログに書かれている内容のほとんどは、基本的にそのように動くにはどうしたらよいかということと、地図を改善するにはどうしたらよいかについてです。 動きが不足していれば、このプロセスは後退してしまいます。一定期間ある方法で動くことがなければ、その動きの制御や正確な感覚を受ける能力を失います。これを、感覚運動健忘症といいます。脳にある身体地図があいまいになり、不明瞭になります。たとえば、数日間3本の指をひとつにくくって、ユニットとしてしか動かないようにしたとします。脳は次第に3本の指を独立した別々の動きをする部位とは認識しなくなり、ひとつのユニットととらえ始めます。骨盤や脊柱が可動域の可能性を充分に使って動かない場合にも、このように地図のぼやけが同様に起こると予測できるでしょう。何年も見過ごしてしまうと、胴体中央部全体がひとつの固まりとして動くのです。白人男性のダンスの典型的なものです。動かなければ失う、というのがここでの教訓です。 痛みは地図に悪影響を及ぼす 身体地図の質を損なうものとしてケガがあります。痛みは、ケガをした関節から送られる固有受容感覚の情報を処理する脳の能力を低下させます。なぜなら、脳は当然優先度の高い痛みのシグナルの処理に忙しくなるからです。痛みのシグナルは、実質的に固有受容感覚のシグナルを締め出し、信号対雑音比を悪くします。(ちなみに、これと逆のことも起こります。つまり、ある部位に痛みがあれば、その部位をなでることで無痛の機械受容的情報を脳へ送り、痛みのシグナルの処理をブロックできるのです。ケガすると、そこをなでる理由はここにあります。) 痛みはまた、ケガを負った関節の動きを減少させます。これによって、その関節から送られる固有受容感覚の情報は更に減ります。固有受容感覚の情報が欠如すると、地図の質を低下させます(感覚運動健忘症)。よって、ケガは悪循環を生み出します――痛みが動きを減少させ、それが協調性を減少させ、それがさらに動きを減少させ、さらなる痛みを発生させる、といった具合に。同じ足首を繰り返し捻挫するのも、これがひとつの原因です。 固有受容感覚の改善の方法 では、この有用な情報をどう役立てればよいでしょうか。まず、適切に動き、心地よく感じることは、メンタルな事象であると同時に身体的事象であることを理解しましょう。脳内のバーチャル身体の健康も実質的な身体(こちらの変化の方がより速く、しかも簡単です)と同様に大切です。 次に、痛みからの脱出が最優先事項であること。痛みが軽度で、やりたいことができないわけではない場合であっても、痛みは潜在能力を発揮する妨げになります。なぜなら、私たちの意志とは関係なく、脳は協調性を保つために全意識を集中させていないからです。つまり、脳は他の優先事項に注意を払い、意識下で動きのパターンを再編成するのです。 最後に、できる限り斬新で、意識的で、興味深く、探究心が強く、好奇心旺盛で、陽気で、痛みをともなわない動きに取り組みましょう。横になった姿勢や座位、立位において関節が動ける、あらゆる方法を見つけます。脳の地図に有益な変化をもたらすことに特化したフェルデンクライスメソッドに挑戦してみるのもよいでしょう。Z-healthやアレクサンダー・テクニック、イデオキネシス、太極拳なども素晴らしい選択肢です。

トッド・ハーグローブ 2013字

運動制御の全て パート1/2

運動制御のキーポイントとなる要素は筋緊張ですが、ここでは不適切な筋緊張に重点を置きたいと思います。 かなり頻繁に、理学療法とリハビリテーションという観点から、私達は必ずしもこわばりや弱さのみを評価しているわけではありません こわばりは、本来あるべきブレーキシステムが機能しない場合において、たびたび身体がサイドブレーキを使う方法です。身体が持つブレーキシステムは運動制御と呼ばれ、入力、処理、正しい出力をする為に細かく調整されています。システム内に欠陥が存在する時 – 動作やコーディネーション、タイミングや対称性のいずれかにおいて – 機能不全が観察されます。 身体は生き残る為、そして身体本来の働きが危険にさらされるような状況下においてサイドブレーキシステムを作り出すようにセットされています – それはトラブルから遠ざける為に常に働き続け、ブレーキをかける傾向にあるのです。このサイドブレーキは疲労、怪我、その他組織の保護や痛みを避ける安全装置です。より良い制御を得られるかもしれませんが、同時にエネルギーを浪費して効率性を失ってしまうことになります。弱化という問題は残ったままです。これは多くの場合失調であり、局所的なものではなく全身性のもので、朝起きて動きだしたり、翌日もう少し動いたりすることによって簡単に解決されてしまいますが、局所的弱化が、ただの弱化であることは滅多にありません。 単体の筋や筋群の局所的な抑制は、リハビリテーションにおいて神経性の問題や怪我からくる障害、病気や機能不全として診断されています。私が述べている微妙で目立たない抑制とは、姿勢やパターンを遂行するために適度な緊張の度合いを支配する筋の能力不全です。ここでの本当の問題は、私達が筋のこわばりや弱さを単純に評価した時にそれを筋の問題であると考えて道に迷い込んでしまうことです。多くの場合、それは指令の問題なのです。 もし、深筋膜から表層の傷跡や過去の怪我による瘢痕組織まで、全ての組織に拘縮がある場合、筋は単純にシステム障害から身体を保護する為に事前に緊張したり、安静時の筋緊張を極端に高めるように指示されるのです。この拘縮はまた他の組織からのシグナルだけでなく、すでに治ったはずの過去の怪我からも持続されてしまいます。筋肉は、怪我の治癒という情報を受け取っていなかったのです。 脚を骨折している子供を想像してみて下さい。理学療法を終えて最大可動域、筋力、そしてムーブメントスクリーンにおいても極めて良い状態ですが、まだ早歩きやランニングで跛行をします。なぜでしょうか?なぜならそれが習慣となっているからです。入力は正しくされていますが、痛みを抱えた習慣的な生活習慣とリハビリテーションが跛行を生み出し、それ自体が実際の問題となってしまっています。新しい機能不全パターンができてしまったのです。怪我の後の跛行は、ストレスを軽減しある程度の可動性を維持することができるため、機能的なものです。ストレスを軽減する必要がなくなった時、跛行の原因となる問題が解決された時に、これが機能不全となるのです。 跛行の原因となる怪我は解消しても、まだ脚を引きずっている –これはプロセスの問題です。不必要なこわばりや乏しい関節可動性、または乏しい組織の伸張性からくる不適切な入力が、私達がこわばりと捉える防御性の緊張の原因となっているのです。たとえこういった代償が無くなった時でさえ、クセや防衛機能はまだ残っているのです。  柔軟性や可動性が問題の場合、高まった緊張に対処する最善の方法はパターンに注目することです。パターンの中に答えがあるのです。それは私達が考えていなかった可動性や柔軟性に関与している可能性のある他の全ての問題に気づかせてくれるでしょう。 同様に、私達が強化やエクササイズのルーチンで改善しようとしている弱点も、負荷や動作パターンの難易度が抑制となることがあります。抑制は、自動的にうまくリセットできません。私達が自分達のシステムをリセットするか単純に代償するかの選択をする時、たいていは代償を選ぶのです。 コレクティブエクササイズとは、通常は後退性の発達パターンを活用することにより、代償してしまう生物学的ニーズと代償作用のきっかけを取り去ることを理解する方法論です。全てを機能的な足部のポジションで行うのではなく、私達を最初の一歩に導いたパターンや姿勢に戻るのです – そのパターンがローリング、ハイハイ、膝つき、両膝立ち、四つ這いです。私達は全てのレベルの姿勢やパターンが次のレベルへのプログレッションを支えるということを示す為に動作を加えるのです。 これらのパターンは、代償作用だけが唯一の手がかりとなる立位になる前に、問題箇所を浮き彫りにしてくれます。部分的な柔軟性の問題を評価することもできますし、部分的なストレングスの問題を評価する事さえ可能ですが、最終的には運動制御システムがこれらを引き起こしているということを理解しなくてはなりません。 運動制御システムは入力、処理、そして出力を扱います。信じられないかもしれませんが、最も簡単なチェック方法は単純に出力を見ることです。もし動作パターンの質が許容範囲であれば、その特定の動作パターン、形や姿勢で得られる身体の資質を見つける為にそのパターンに負荷やストレスをかけてください。

ファンクショナルムーブメントシステムズ 2266字

運動制御の全て パート2/2

もし動作パターンが崩れていれば、深みにはまってそのパターンの理解を分析しなければなりません。乏しい入力を促進している可動性の問題なのか?または乏しい安定性と運動制御を割り振っている処理の問題なのでしょうか? 私達はこういった問題を見つけて対処し、修正することができるのです。筋を見るのではなく、筋の不適切な緊張を生み出しているパターン(またはそれの欠如)を見る事によってこういった問題を管理することができるのです。こわばりと弱さは、スペクトラムの両端にありますが、同じ問題を現していることを忘れないでください。 過剰で不必要な筋緊張は、表面上では可動性に乏しく、ケアしなければいけないように見えます。それは何かに駆動されているのか、または単純にクリーニング可能なハードドライブにひっかかっているクセなのでしょうか? その弱さはただセット数と回数を必要とするものなのか、それとも代償動作の原因となっている不適切な可動性、運動制御または非効率的な動作パターンによって引き起こされているのでしょうか? その代償動作は可動性の欠如、または長年気づかずにいた身体のどこかの運動制御、もしくは単純にクリーニングされるべきハードドライブの何かでしょうか? これらの問題を簡単に見つけるために、システムが必要なのです。しかし私達が局所の筋のこわばりや弱さにこだわり続ける限り成功することはないでしょう。よく言われることですが、月を指差すことは月を見せる為ですが…大抵の人はその指を見ているのです。 不適切な筋の緊張はシステム内の不調和を現しています。不調和は適切に処理された不適切な入力の問題、または適切な入力の不適切な処理かのどちらかが原因で起こります。 私達はこの明確で系統だった方法でアプローチすることで、どちらの問題か見つけ出す必要があります。常に明確であるというわけではないのですから。お決まりの答えは不適切な入力と不適切な処理がいかなる場合にも起きているということでしょう。 それもある程度は正しいかもしれませんが、これでは行動項目が広がりすぎて、介入の為のフィードバックを得ることができません。もし、これとは反対に誰かの股関節の乏しい運動制御が足首の可動性からきているとすれば、あなたはソーシャルメディアに頼ることなくその質問に簡単に答えることができるでしょう。足首にもう少し可動性を作り、股関節の運動制御をもう一度チェックして下さい。もし足首の問題が股関節の乏しい入力と不適切な運動制御、弱化を操作しているのなら、そこで答えが出るでしょう。たとえそうでなくとも、それもまた答えとなるのです。 この演繹的推理はファンクショナルムーブメントシステムの背景にある “ソースコード”です。もしそれが可動性の問題か、運動制御の問題なのかを知りたいのであれば、テストをして下さい。そのために作ったのです。 自分達の為に。私達も同じ疑問を持ち、論理的な答えがあるしっかりとしたシステムを見つけられなかった。スクリーンやシステムを発展させようとしていたわけではありませんでした…ただ競争における優位性が欲しかったのです。何が不適切な緊張をもたらしているのか見つけたいのなら、確実に行える評価方法が私達にはあります。信じられないくらい効率的なファンクショナルテストで、運動制御を評価したいのなら、私達はそれも提供できるのです。 私達は、明確なフィードバックをする際の助けになるような方法で動作基準を活用しようとしています – 個別の矯正か、プログラミング修正に焦点をあてる必要があるかを判断するために。 どんな時でも、こういった動きは大きな違いを生み出します。破綻した生体系システムの理解 – 生命体または環境 – は正しい科学の証明であり、運動行動をたどることはエクササイズやリハビリテーションのスタート地点なのです。 私達はファンクショナルムーブメントシステムであり、エクササイズ会社ではありません。 あなたのプログラミング、リハビリテーションや専門のパフォーマンストレーニングを頼りにする人達の為に、私達は動作をチェックしてフィードバックをする優れたツールを提供します。ムーブメントスクリーン、テストそして評価は時間がかかるのは事実です。実行計画を発展させるためには、より多くの時間を費やすべきであり、それは仕方ないことです。評価で費やした時間はリハビリテーションや動作の矯正、身体的発達に費やす実験的な時間を節約できるのです。 これは昔の大工のルールです:2度測って一度で切る 新しい評価基準ができて適切に検査された時、このしっかりとしたフィードバックループを専門的な仕事に受け入れられない場合、そこには理由が2つだけあります: 新しいツールを信頼していない。多くの記事や投稿は信頼を与えません…それを実際におこなう必要があるのです。 その方法がベースラインにプラスに影響することを信頼していない。それは、私達皆が直面する挑戦ではないでしょうか。

ファンクショナルムーブメントシステムズ 2133字

「歴史」の完璧な歴史 パート2/2

ハックがセルッティとやりとりしていた(パート1/2)のと同じ時期に、トーマス・デローム医師とアーサー・ワトキンズ医師は、ポリオ患者と第二次世界大戦で負傷した軍人たちのケアをしていました。1945年にデロームは、Journal of Bone and Joint Surgery(骨と関節手術のジャーナル)にて、「Restoration of muscle power by heavy-resistance exercieses」(高負荷レジスタンスエクササイズによる筋パワーの復元)という論文を発表しました。 300に及ぶ症例から、各ワークアウトにおいて、10回、7~10セットを行い、合計で70~100回の反復を行う方法を使うことによる「筋肥大とパワーの驚くべき反応、そして症状の緩和」を発見しました。最初のセットでは軽い重量から始め、10RMに達するまで徐々に重くしていきます。量に関しての観点は、時とともに少しずつ考えは変わっていきました。1948年、そして1951年までには、下記のように述べられていました。 「さらなる経験を重ねた結果、この数字は高すぎ、ほとんどの場合、合計20-30回で十分な結果が得られるとわかりました。回数が少ない方が、筋肉により重い負荷をかけるエクササイズをすることができ、より早く、より大きな筋肥大につながります。」 次のように徐々に重量を増やしていく方法で、10回3セットを推奨すると、多くの論文や本においてその説が支持されました。 セット1  10RM の 50% セット2 10RM の 75% セット3 10RM の 100% この方法では、最後のセットでのみ、限界までチャレンジしています。最初の二つのセットは、ウォームアップとも考えられます。1951年に出版された「Progresseive Resistance Exercise(漸増抵抗運動)」では、デロームとワトキンズはこう述べています。「他のコンビネーションも同様に効果的かもしれないという可能性は見過ごせませんが、各セット10回を3セット行うことを支持します。驚くべきことに、多くのアスリートは、一つのエクササイズで5回以上の反復を繰り返すことなく、偉大なパワーを発達させています。」私はこの最後の一行が大好きです。 聴衆である負傷した退役軍人やポリオ患者という点を見過ごしがちです。私の神聖な記憶の中にいる母、アイリーン・バーバラ・マックロスキー・ジョンは、人生において恐れるものがほんとんどありませんでした。彼女は、とても貧しい環境で育ち、不況により、事態はさらに悪くなりました。彼女が人生で関わってきたほぼすべての男性は、様々な戦争に駆り出され、息子がベトナムに行っていたときには、彼女が毎日泣いているのを見ました。しかし彼女を怖がらせたのはポリオ以外には何もありませんでした。ポリオは、子供の天災であり、世代にわたる命の破壊者でした。原因には、スイミングプール、アイスクリーム、開いた窓などが考えられていました。そしてまさに一夜のうちに、ワクチンによってその災いには終止符が打たれました。近代のウエイトリフティングによって、この病気の患者が四肢を元通り使えるようになったことから、バーベルは多くの人の目に、より主流なものとして定着しました。 デロームとワトキンズが、退役軍人のリハビリをしていた頃、スタンフォード大学の若い砲丸投げアスリート、そして後のロサンゼルスタイムズの編集者、オティス・チャンドラーは、砲丸をより遠くに投げるために、ウエイトリフティングを始めました。そして彼はやってのけました。長い間破られていなかった世界記録の一つを破り、砂に一線を刻み込みました。砲丸投げを極めたければ、リフティングをしなければなりません。陸上競技のどんな競技で競うにしても選択肢はありませんでした。リフティングをしなければならないのです。 それでも、20年以上が経って私が最初にウエイトリフティングを始めた時に、次の二つのことを耳にしました。 「ウエイトリフティングは、お前を筋肉バカにする」 「ウエイトリフティングは、お前をホモにする」 どちらも科学的根拠もなければ、人間の尊厳にも反しています。 それでも、ポリオの患者が四肢の機能を取り戻すと共に、スポーツをする多くの人々にとって、リフティングをしなければならないことは明らかでした。さらにその頃、医者であり、理学療法士である偉大なるブラディミア・ヤンダが、トニック(緊張筋)とファジック(相性筋)の考え、様々な「クロスシンドローム(交差症候群)」の提唱を始めました。特筆すべきことは、彼も前世紀の悲惨な病気であるポリオの患者であったことです。ヤンダの一つの筋肉をストレッチ(ゆるめる)し、相反する筋肉を強化するという見解は、方程式の片側だけに働きかけるよりも、より良い構造的統合性を促進します。 もう一つの糸:ロシアでは1700年代に、男たちが勇気試しに、1か2プード(16kg~32kg)のケトルベル挙げという伝統的な計測方法で競い合っていました。この奇妙な形をした器具はロシアの(その後ソビエトの)スポーツとして近代まで続いてきました。私は、ソビエトのアスリートがこのハンドルのついた奇妙な砲丸を投げたり、引っ張ったり、飛び越えたり、ジャグリングをしたりしている小さな白黒の写真を見たのをはっきりと思いだすことができます。西欧では、この器具は、グローブバーベルとともに使われ、標準化された回転式のバーベルの進化によって根本的に消滅するまで使われていました。私は、これらの重要なトレーニングアイテムを読者に思い出させる1950年代の雑誌を持っています。それから、バーバラ・エデンの「ジーニーの夢を見る」のように一瞬で消えてしまいました。 パベル・サッソーリンが舞台に現れるまでは パベルは、閉鎖した銀行の金庫でアメリカ人をコーチし始めました。安価なコミュニティー教育プログラムを提供し、最低限の用具と豊富な知識で、未来の海軍の特殊操縦者のトレーニングをしました。ジョン・デュケインは彼の話を聞き、やがて2人でお茶をして、ともに執筆をし、アメリカのためにケトルベルを開発することを始めました。 パベルは、2004年にチャールズ・ステーリーのブートキャンプで講演をするよう頼まれました。別のスピーカーが、その一週間前にキャンセルをして、チャールズは抜けた1時間の穴を埋めようとあわてていました。マイク・ポコウスキーは、自信を持ってステーリーに言いました、「ダン・ジョンがその一時間を埋められる。」 誰? 次の土曜日、私はパベルに会い、彼は「強くなる方法」を非常に良く教えてくれました。 「次の40のワークアウトで、5つのリフティングを選ぶ。毎回のワークアウトでそれを行う。一回もとばしてはいけない、それどころか苦しんでもいけない。必要なだけ軽くして、どの動きにおいても10回を超えてはいけない。簡単そうに見えるだろう。重さが軽いと感じたら、重りを足すこと。」 そのぐらい単純で、そのぐらい簡単でした。私はその指示に忠実に従い、人生で最も強さを獲得しました。 そして、理由はどうあれ、数名の人がこのシンプルなルールに従うことができました。 イージーストレングス(やさしいストレングス)とその双子であるイーブンイージーストレングス(さらにやさしいストレングス)は、ハック、セルッティ、デローム、ワトキンズ、ヤンダ、そしてギレベック(ケトルベルの愛好家)から得た教訓の集大成です。それが今日において反対意見のように感じる理由は、リフティングの歴史における別の連続性によります。それは、ボディビルディングやフィジークの世界です。アーノルドやジェーン・フォンダが、量をこなすこと、「燃やす」ことを支持して、筋肉を全て一つ一つ孤立することに時間を費やしたい人々やりがいを感じる中で、基本的な動きを通じて強化をする伝統的な方法は、その単純さのために馬鹿げたものに見えるようになりました。 正直に言って、成功とはほぼ常にシンプルな道筋です。このアプローチに従うのはかっこよくはないかもしれませんし、奇人、戦士、スパルタ人、戦術的タイトルや部族衣装はないかもしれませんが、効果があるのです。退屈を売るのは難しいけれど、確かに効果がある。 ですから私にとって、ストレングストレーニングの伝統は、イージーストレングスの方法でトレーニングをするのに道理のあったビジョンをサポートしてくれるのです。理解するのが難しいのは、これはただの面白い歴史教訓ではなく、システムであるということです。

ダン・ジョン 3626字

「歴史」の完璧な歴史 パート1/2

これまでに何度かウエイトに関するちょっとした歴史の知識を綴ってきましたが、今回は全てのストーリーをシェアしてみたいと思います。 歴史の裏の歴史 私は1982年に歴史学で修士号を取得しました。その日からこれまでには確かに長い歴史がありますが、歴史の勉強から学んだ教訓はとても役に立っています。ある教授が私たち学生に、「研究(Research)」という名前はまさにその通りだと忠告していたのをよく思い出します。「最初にプロジェクトを始めるときには、何かしら見つかる。そして、見失う。再び見つけるまでには、数ヶ月、もしかしたら数年がかかる。だから再び探す(RE-search)と言うのだ。」儀礼的に笑って教室を出た私は、私の論文の大部分を占めることになる複数の文献を見つけました。その後9ヶ月間、私はそれらの文献を見つけることができませんでした。 この教訓は私の研究だけではなく、フィットネスやスポーツにも当てはまります。このことを本当に理解したのは、重量挙げと円盤投げを始めた最初の数週間で学んだことが、これまでのキャリアの中で一番大きな教訓だと発見したときです。私の学問のキャリアは、1982年に終わったわけではなく、私はその後30年以上、宗教学について深く勉強しました。ここでも学んだ教訓があります。私のフィットネス、ヘルス、ストレングスへのアプローチを一つのタペストリーにつなぎ合わせる糸には、過去数百年にわたる歴史、そして様々な人々の洞察が関与しています。 私が宗教学のクラスで教える基本講義の一つは、コミュニティに関する重要な概念についてです。私が「横社会」と呼ぶものについて、皆理解してくれているようです。それは、友達、家族、教会、グループ、チーム、社会、兄弟、姉妹、あなたが今属しているもの全てです。血縁関係のある家族や親戚のように個人的なものでも、あるいはインターネットのフォーラム上のコミュニケーションも含まれます。多くの人が見失っているのが「縦社会」です。多くの場合、縦社会は物語に関連しているのですが、悲しいことに私たちはその物語を忘れています。縦社会は、人、イベント、そしてその小さなコネクションがどこかの時点でつながり、ある世代には崇高に他の世代には明らかにみえるものです。ストレングス&コンディショニングの概念を真に理解するためには、過去の長い道のりを遡る必要があります。 私たちは皆、ミロを責めることができると思います。ミロは、レスラーであり、オリンピックで何度も優勝したことがあります。彼のよき友達に、「直角を作る二つの辺の2乗の合計は、直角三角形の斜辺の2乗と等しい」という考えで世の中を変えた、ピタゴラスがいました。また、ミロは毎日、20lb(約9kg)の肉、20lb(約9kg ) のパン、18lb(約8kg)のワインを消費していたと言われています。でもそれが、私達がミロを覚えている理由ではありません。ミロを覚えているのは、彼の雄牛の持ち上げ方のアイデアのためなのです。 物語はこう進みます。ミロは毎日、牧草地まで歩き、ある特定の子牛を持ち上げます。次の日も同じことを繰り返し、雄牛が完全に成長するまでこれを続けます。ミロは、漸増抵抗運動の父であり、多くの人々がストレングストレーニングの成功への道筋は一直線だと考えていることには、彼に責任があります。私はこれまでに何度も、初めてリフティングに取り組む人たちに、今日100lb(45kg)を挙げられたから、一週間に10lb(4.5kg)ずつ足していけば、一年後には600lb(270kg)以上ベンチプレスで挙げることができるようになるよ、と冗談めかして言ってきました。紙の上では確かにその通りのはずなのです。 ストロングマンは、西洋文明の発展において興味深い役割を果たしました。地下に様々なグレンデル(巨人の怪物)がいたら、ベオウルフに来てもらって助けてもらいたいのは当然ですが、リトルジョンだったらロビンフッドのように射撃の技術を高めるよりも打撃の練習をするでしょう。サンプソンは多くのペリシテ人を殺すでしょうが、彼の女性への理解は、せいぜいのところぼんやりとしたものでしょう。 100年前、ストロングマンとウエイトリフティングの概念は、小生意気な口髭をたくわえたヒョウ柄の衣装のサーカスパフォーマーの余興として定着していました。比較的小柄なハリー・フーディーニが手錠を壊している一方で、ストロングマンのショーは観客を持ち上げたり、車やカートに引っぱられたり、考えを牛耳るような様々な片腕のリフトへと進化しました。しかし、そんな中で、どうやって誰が本当に一番強いかを見極めることができたのでしょうか? 近代五輪最初の大会が行われた1896年に、「オリンピックリフト」が競われました。これらは、今日のクリーンアンドプレスの基準からすれば、ほぼ認識できないものでしょう。そのクリーンアンドプレスはオリンピックにおいて最も長く採用されたものの、1972年に競技から外されました。片腕のダンベルリフト、ダンベル下げ、ダンベルカール、片腕のプレスなどは全て、かつてはオリンピックの種目でした。 同時に、ロシアのレスラーであり、早期からスポーツおよび健康全般のためのストレングストレーニングを支持していた、ジョージ・ハッケンシュミットは、様々なリフティングの知識を編集して「The Way to Live(生き方)」という本にまとめました。 近年のリフティングの世界におけるハックの影響は、変わったところからやってきました。オーストラリアの南海で、パーシー・セルッティという男が、病弱な生活を変え、陸上競技のアスリートを指導する新しい目標に向けて取り組んでいました。セルッティは、ハックにアドバイスを求め、この二人の関わりが、昔の「オールドスクール(古典的方法)」から、私がイージーストレングスと呼ぶ現代的アプローチにつながるリンクとなったのです。ハックは、ウエイトトレーニングを二つの部分に分けて概説しました。広範囲―トレーニングの量的(および肥大化)アプローチ-と、集中的-より大きな負荷(およびストレングス)に重点を置いたアプローチ-です。 セルッティは、ハックの考えを受け入れ、採用しました。私はかつて、彼の著書を要約したことがあります。 坂を駆けあがる。 ウエイトリフティング。 私が生まれる前に、彼は、全てのアスリートは主要な5つのリフトを行うべきであると主張しました。 1. デッドリフト 2. 押す動作 セルッティはベンチプレスを好みました。 3. 爆発的な全身動作 彼は、重いダンベルスイングを好みました。 4. 引く動作 彼は、プルアップやチートカールを好みました。チートカールとは、カールのグリップで行うパワークリーン(パワーカール)や、多くの人に見られる反動を使っての重いバーのカールです。 5. 腹筋運動 デッドリフトがある側面を強化するなら、腹筋運動はその逆側を強化します。 これらのリフトを2-5回、2-5セット重い負荷をかけて行ったら(スイングと腹筋運動は比較的高い回数になるので、体力を使い切らないようにします)、プルアップバーからぶら下がって数分ストレッチをします。

ダン・ジョン 3052字

システム論的視点からの慢性疼痛 パート4/4

実用的な活用(続き) 局部的な問題も複雑でありえる もし、反復性ストレス障害のように明らかに動きが関係する問題に対して、休息することや動作のパターンを最適化することで改善しないならば、その痛みはある程度、局部的な複雑性に関与しているかもしれません。たとえば、腱炎や足底筋膜炎、テニス肘のような反復性ストレス障害は、非常に小さい領域の治癒や修復過程の調節異常が関与しています。 システムの観点から見れば、これらの症状を、局所の修復システムの適応能力を凌ぐ程の頻度と強さを持つストレス因子によってもたらされた、組織の質の位相シフトとしてとらえることができます。つまり、ということです。興味深いことに、(休息を除いた)最適な治療は、たいてい遠心性のエクササイズです。少量の損傷を起こすことで治癒過程が再スタートし、フィードバックループの滞りをなくしたり、あるいは体系を動揺させることで、そのバランス状態を取り戻します(ボールを小さいくぼみで押し動かし縁を越えもうひとつのくぼみに入ることを想像してみてください)。 過敏な人もいる 脅威に対して防御反応を調整しているスーパーシステムは、その感度を上げたり下げたり設定できます。 過敏な人にとって、ケガや仕事のストレス、病気、睡眠不足、不適当な食事などの脅威のある刺激があるときはいつも、強い防御反応が現れます。さほど大きくないストレスに曝されるだけでも、疲れや体力減退、筋肉痛を感じ、または元気がなくなると感じます。こうした人の多くは、人生の中で重大なトラウマに苦しんだ経験を持っています。 一方で、重大な脅威に直面したにもかかわらず、防御システムに安定が保たれる人もいます。このような人は、マラソンを走ったり、交通事故に遭ったり、1週間に80時間も働いたり、双子を生んだりしても、エネルギーレベルを落とすことなく、元気で健康で、普通に日常生活を送ることができます。まったく何もなかったかのように! 皆さんやクライアントが、この連続体のどこにいるかを把握しておくことは良策と考えます。そうすれば、その人の脅威に対する感受性のそれぞれのレベルに合わせた適切な介入を計画することができるからです。私のクライアントのなかにも、彼ら自身が特に過敏であることを理解しておくことで役立った人がいたと思います。理解することで彼らは、些細なストレスへの対処にも困難を覚える自分自身にあまり批判的にならなくてすみます。彼らが経験する痛みと疲労感は実際に存在するもので、気のせいではありません(たとえ、友人や家族が疑っても)。自分が過敏であるのを把握しておくことは、ストレスレベルを自己規制できるよう賢く管理するのに役立ちます。 他の役に立つ考えとして、感受性レベルは変化するということがあります。それが悪い方向へ簡単に変化してしまうとのは明らかでしょう。劇的なトラウマによって、防御システムの行動に位相シフトが起き、過度に警戒したり、過剰に反応したりしてしまうのです。しかし、休息やストレス管理、段階的なストレスの露出、健康全般の改善によって、過剰警戒システムは、より適切な設定値にゆっくりと戻ることができます。残念ながら、これは一晩で起きるような速い変化ではありませんが。 漸進は非線形 複雑系はしばしば非線形で変化するため、その漸進も非線形であることが予測されます。つまり良くなるということは、2歩前進したら1歩後退という問題なのです。短期間で明らかなプラスの変化は見つけにくいですが、長期的な時間枠でとらえると、漸進のパターンは明らかになるでしょう。 これらのパターンを広い視野に置いておけば、短期間の挫折で勝利を得られる計画を放棄しなくてすみます。さらに、位相シフトの考え方を心に留めておくとよいでしょう。ゆっくりと長くボールが縁を越えるように押し続けていれば、いずれ縁を越え、そしてその過程で大きな加速を経験するのです。 社会的スーパーシステム ひとりの人間は、通常、より大きな社会システム(家族、職場、地域)の一部であり、それらは複雑に相互関連しています。人間は社会的つながりの中で進化し、それゆえに、痛みを含む防御機構は、周囲の人に助けを求める行動を起こすようにデザインされています。もしあなたが、多大なストレス要因に継続的にさらされ、自分の仕事に虚しさを感じ、高い評価など望むべくもない社会状況の中にいたら、将来、苦痛を経験する見込みは増大します。 結論 現在のヘルスケアシステムは、急性のケガへの対処に関しては素晴らしいものですが、私たちが現在直面している、最も重大な健康問題である広範囲の全身性で複雑な問題(肥満、糖尿病、慢性疼痛など)への対処はまだまだです。 システムの観点から見れば、これらの問題の本質についてより理解を深めることができます。そして、願わくは、薬やクコの実、フォームローラーなど特異性の高い介入によってこれらの問題を解決することはできないということを気づかせてくれることでしょう。率直で非特異的ですが、全身性の健康の調節に有効な方法とは、食事、運動、睡眠、ストレス調整です。これら基礎的なことは、特効性や即効性のある治療に目を奪われて見逃されがちです。

トッド・ハーグローブ 2207字

システム論的視点からの慢性疼痛 パート3/4

連結性 複雑適応系の異なる要素すべての関係性は、個々の要素そのものよりも重要です。たとえば、人間の脳の素晴らしい知性や複雑性は、これらの連結性のおかげです。実際、宇宙に存在する原子の数よりも人間の脳に存在する神経細胞の起こりうる連結の数の方が多いのです。それ自体が一つの世界であり、まるで数百万羽の鳥の群れのようです。 ケガのようにストレスの大きい事象においては、主なサブシステム(神経系、免疫系、内分泌系)の連結性は、反応が全身性であり、包括的であり、高度な協調性を持つことを確実にします。この連結性は、反応を司っているネガティブフィードバックループとポジティブフィードバックループの関係をきわめて複雑なものにします。 下記に、主な要素の防御的作用をごく簡潔にまとめ、それらの連結を表した図解を載せました。 神経系の基本的な機能は、末梢からの情報を収集し、脊髄と脳にその情報を伝達し、受信した情報を処理し、分泌腺や筋などといった特異性の高い身体部位に指令を送ることによって身体を制御することです。身体の防御という面では、これは脅威を予知し、検知することであり、防御的な動きや痛みの経験を意識するといった、身体を保護しようとする反応を引き起こします。このプロセスは、驚異的な正確さと特異性、差別化をもってほとんど瞬時に起こります。 内分泌系もまた情報信号系です。しかし、神経系とは異なり、その効果はゆっくりと即効性はなく、標的の範囲はずっと広く、特異性も低いのです。なぜなら、さまざまな分泌腺(松果腺、下垂体、副腎など)から循環器系へのホルモン分泌を介して作用するからです。ホルモンは、闘争・逃走反応を引き起こす状況を生き抜くための生理学的覚醒を起こすことにより身体を守っています。緊急事態が過ぎると治癒と回復を促進する状態にするためにホルモン変化が起こります。 免疫系は、身体内環境の危機の検知や対処の役割を担っています。―― 侵入微生物を感知し死滅させたり、ケガを治癒させるための炎症を起こさせたりします。 繰り返しますが、これら3つの体系の相互作用は非常に複雑であり、その詳細についてはこの論文(英文)で説明されています。ここでの議論のほとんどは、高度に専門的で、運動療法や手技療法の治療家にとって、直接的に実用的なものではありません。相互作用の種類を覚える必要もあまりないのですが、ただ3つの体系の強い相互関連性を全般的に理解するために、ここで拾い読みをする価値はあるかと考えます。 関連性の図です。 慢性疼痛を引き起こす4つの体系調節異常 この論文は、慢性疼痛を引き起こすであろう4つの調節異常を定義しています。 生体リズムの乱れ。人間は概日リズムに従って食べて、寝て、活動します。これは、ホルモンの変動によって調整されています。これらのリズムは乱れたり、調節異常を来したりすることがあります。実際、睡眠障害は慢性疼痛を含む多くの健康問題と関連性があります。 フィードバック機能障害。上述したように、ポジティブフィードバックループとネガティブフィードバックループの調節異常は、アロディニアまたは自己免疫疾患を引き起こすことがあります。 不完全な回復。ストレス因子は同時に多くの体系に影響を及ぼします。急性または慢性のストレス因子のレベルが過剰であれば、最も弱い体系は、ストレス反応を完結するためのリソースを使い果たしてしまい、壊れてしまうのです。もしくは、体系がストレス因子への反応として、それ自体の設定値を変更し、その後正常挙動に戻ることができないかもしれません。例として、心的外傷後ストレス障害における過覚醒的警戒と過剰反応があります。 サブシステム間の協調性。ひとつの体系が調節異常に陥ると、その体系と他の体系との協調性も異常になります。 実用的な活用 ここまで読んでいただきありがとうございます。これらの情報を基に何をするべきか悩んでいらっしゃいますか? 個人的には、 システム論的視点は健康の問題を考えるのに興味深く魅力的な方法だと考えています。盲点となり得る部分が現実として見えてくるようになるからです。いくつかの点で希望を抱かせてくれるとも感じています。思いつくままにいくつかの例を紹介しましょう。 単純な疼痛と複雑な疼痛 単純で局所的な痛みもあれば、複雑で広範囲の痛みもあります。 背中にナイフが刺さって痛みがあることを想像してください。原因は単純です。誰かがそこにナイフを刺したのです!そして解決も簡単です―ナイフを抜けばいいのです。一般的な疼痛には、このように単純なものもあります。たくさん走った後に足が痛くなるのであれば、解決は簡単で、ランニングをやめて休めばいいのです。また、腰部が痛いのは、その部位に負担がかかりすぎるような動作の悪い癖があるからかもしれません。この場合、単に動きの習慣を改善すればいいだけです(単純なようで必ずしも簡単ではないかもしれません)。 しかし、残念なことに、痛みの多くはそう単純ではありません。長期間患っている腰痛があるとしましょう。その痛みは、動作や身体構造の病理学とはっきりした関係がなく起きるとしたならば、痛みの原因はより広範囲かつ複雑であることが考えられます。つまり、ひとつの因子が原因なのではなく、身体の主な体系間(免疫系、内分泌系、神経系)の関係性がバランスを崩すことにより痛みが起きるのです。この種の広範囲における調節異常が原因となっていることが知られている、糖尿病やうつ病、不安症、過敏性腸症候群、睡眠障害、自己免疫疾患、線維筋痛症、心的外傷後ストレス障害、慢性疲労などの疾患があればなおさらです。 これらのコンディションと関連する痛みには、痛みのある局部的な領域にのみ焦点を当てる治療ではおそらく効果が現れないでしょう。問題はそこではないからです。ピーター・オサリヴァンが述べたように、特定できない腰痛の“特効薬理論”を探し求めることは諦めるべきです。そうではなく、問題はサブシステムではなくスーパーシステムに関わるために、より複雑で広範囲のレベルに焦点を当てた介入を試みるべきなのです。食事や睡眠、運動、マインドフルなストレス低減法などがあります。これらは例えれば先に瓶に入れておくべき“大きな石”であり、姿勢を改善したりコア強化をしたりする、いわば小さな砂粒は、そのあとで集めればよいのです。 多くの人にとって、食事や睡眠、運動、ストレス対処には十分な改善余地があります。身体のさまざまな体系すべての連結性と慢性疼痛との潜在的な関係をもっと深く理解できれば、改善に向かってもっと積極的になるかもしれません。

トッド・ハーグローブ 2803字

システム論的視点からの慢性疼痛 パート2/4

ホメオスタシスとストレスとホルメシス 変化する環境に対応して均衡状態を保つために、複雑適応系は変化します。 ホメオスタシスは、生命の基本条件や最低条件を供給する均衡状態のことです。もし、身体が体温や体液量や血圧を一定値に保ち、ホメオスタシスを維持しなければ、死んでしまいます。 アロスタシスは少し異なるコンセプトで、環境に適応するために状態を変化させる動的プロセスです。よって、理想的な均衡状態とは、静的ではなく、常に動的に変動しているのです。 ストレスは、体系のバランスを崩す外的要因や内的因子に反応するために、リソースを使うプロセスです。たとえば、ケガはストレス反応を起こすストレス因子です。ストレス反応には、たいてい警告、抵抗、回復の3段階があります。 ホルメシスとは、少量の特定のストレス因子が有益で、多量であればかなりの有害を及ぼす時に起こります。 エクササイズは、最も良く知られているホルメシスの一例です。適量、つまり多過ぎず少な過ぎずの量が、ストレス反応系を調整、規制し、より健康的にし、将来遭遇する同様のストレス因子に耐えられるようになるために役立ちます。あまり良く理解されていませんが、このルールは、毒物や暑さ、寒さ、不安、菌などを含むほぼすべてのストレス因子にも適用されます。このように、健康は必ずしもこれらのストレス全般を限りなく除外すれば得られるというものではないのです。それよりも、多過ぎず少な過ぎず適量のストレスを求めるべきなのです。 ストレスレベルがちょうど良いかクロスフィットのコーチが確認している ストレスの時間が長過ぎたり強度が強過ぎたりすれば、リソースを補充するより速くストレス反応がリソースを使い果たしてしまうでしょう。下記で述べるように、こうなると回復不能(疲労)またはストレスがかかっているサブシステムの調節不全に陥ります。 状態や位相の変化 ストレス因子や、その他の環境からの入力に反応するために複雑系が変化できる、あらゆるパターンを表すために複数系理論家たちは「状態」という言葉を使います。これらの変化はたいてい非線形であり、つまり体系への小さな動揺が大きな変化を生むかもしれないし、大きな動揺がほんのわずかな変化しか生まないかもしれません。 著しく非線形な変化は位相シフトと呼ばれています。たとえば、水は気温が下がるとどのように反応するか考えてみます。気温が80°F(26.6℃)から40°F(4.4℃)に低下しても、水は冷たくなりますが、ほぼ同じ物質のままです。しかし、気温がここからさらに15°F(−9.4℃)低下すれば、位相シフトが起こり氷に変わります。 アイスキューブの位相シフト アロディニア(組織の損傷を伴わない痛み)のような特定の慢性疼痛は、ケガへの反応を担うスーパーシステムの行動の位相シフトとして理解されます。 誘引因子 中枢制御なしで複雑系はどのようにホメオスタシスを維持し、ストレスに対し適応反応しているのでしょうか? どのようにして制御は“出現する”のでしょうか? 誘引因子の概念に答えの一部があります。複雑系は、ほぼ無数の異なる状態へとそれ自体を変化させることが可能ですが、複雑系が引き寄せられるある特定の状態が存在します。これらの状態を誘引因子と呼び、安定性を提供します。 次から次へと変化する動的体系が、どのようにある特定の状態に惹き戻されるのか、一般的な比喩を用いて説明しましょう。不均等な地面の円形のくぼみ、または深いくぼみにボールがあるとしましょう。ボールを押したら、ボールはくぼみの中を無秩序に転がったり弾んだり動き回りますが、そのうち最終的にはくぼみの底に落ち着きます。このくぼみが誘引因子であり、ある限られた範囲内にボールを保持しようとします。不均等な地面に落とされたボールは、広めのくぼみに引き寄せられ、そしてそれが深いくぼみであれば、逃げ出すことが難しくなります。 痛みに関しては、体系が引き寄せられる誘引因子を痛覚感受性の正常値と考えることができます。ケガはその体系を動揺させ、損傷部位の周囲の感受性を(末梢性炎症と中枢性感作によって)即座に上げてしまいます。しかし、しばらくするとその体系の感受性は基準レベルに引き戻されるはずです。 では、ボールが強く押されくぼみの縁を越え、他のくぼみに入ったとしたらどうでしょう? これが位相シフトで、これは新たな誘引因子を確立します。 重篤なケガは、損傷部位が治癒した後でも痛覚感受性の規準レベルが正常に戻らないほどに、痛みの警告システムを乱すことがあります。慢性局所疼痛症候群(CRPS)は、防御スーパーシステムの重篤な調節異常を起こす位相シフトの一例です。 フィードバックループ 誘引因子の一部はフィードバックループによって作られます。フィードバックループは、ある時点での体系の状態がフィードバックし、それが次の変化を誘導するといったパターンです。フィードバックループはポジティブにもネガティブにもなりえます。 ネガティブフィードバックは、体系がある方向への変化を検出すると、それとは逆方向への変化を促進します。たとえば、サーモスタットが温度の上昇を検出したら、ヒーターをオフにする、またはその反対もありえます。つまりネガティブフィードバックループは、安定性に貢献するのです。 ポジティブフィードバックループでは、ある方向への変化が、それと同じ方向への変化を促進するように反応します。これは基本的に悪循環を起こします。暴動での群衆の動き、または畜牛の群れの暴走を想像してみてください。あっという間に制御不能になってしまいます。 ポジティブフィードバックループは、身体に非常に素早い変化をもたらします。これは、緊急時の対応に必要なことです。ポジティブフィードバックループは体系を均衡とは逆の方向へ動かすため、通常、均衡の崩れを防ぐ包括的なネガティブフィードバック体系の制御下にあります。 では、ケガに対して適切に反応するために、ネガティブフィードバックループとポジティブフィードバックループがどのように連携して働くのか例を挙げてみましょう。まず、ポジティブフィードバックループは危険に対して感度を急激に上げていきます:組織の損傷は炎症を起こし、侵害受容器の感度を上げ、より頻繁に発火するようになります。侵害受容器の発火が増えることで、神経性炎症が起こり、これによってさらに侵害受容器の感度を上げます。更に、侵害受容器レベルの上昇は脊髄後角を感作し、結果的に侵害受容器のメッセージをより脳へ報告するようになります。 このポジティブフィードバックループはケガに対する正常な反応で、緊急時の反応を開始するために必要な素早い変化を起こすのに役立ちます。ある時点で(特に損傷が治癒した後)、ネガティブフィードバックループがこの一連の過程に加わり、痛みの悪循環と炎症が継続しないようにしなくてはなりません。 ネガティブフィードバックループが疼痛レベルの安定化に役立つ方法のひとつとして、下行性調節を介すものがあります。この方法では、脳がオピオイド様物質を脊髄に送り、痛覚の信号を送らないように脊髄後角を抑制します。手を氷水に浸けることのように、ある種の長時間続く痛みによって(またエクササイズや、おそらくフォームローリングなどによって)下行性抑制は確実に誘発されます。興味深いことに、顎関節症や過敏性腸症候群、線維筋痛症など慢性疼痛に悩まされている多くの人には、下行性抑制を活性化してしまう問題があります。システム論的視点から、彼らのネガティブフィードバックループは、ポジティブフィードバックループを抑制するために働いていないということになります。 アロディニア、偏頭痛、そしてさまざまな自己免疫疾患において、ポジティブフィードバックループが大きな役割を果たします。このような症例では、体系は刺激によってあっという間に制御不能になってしまいます。

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