マイクロラーニング
隙間時間に少しずつビデオや記事で学べるマイクロラーニング。クイズに答えてポイントとコインを獲得すれば理解も深まります。
コアトレーニングにおける5つの最大の失敗 パート1/2
皆さんはどうかわかりませんが、私は失敗をすることを愛しています。 そうですね、愛しているというのはちょっと強すぎる表現かもしれません。その瞬間には失敗をしたくないと思いますが、失敗をしていないとすれば、それは良くなるために最善の努力をしていないからだと確信しています。 ここで紹介している多くの記事は(ビデオ、セミナーなども含め)、私が長年をかけて学んできたことに注目しています。 そして多くの場合、これら学習の機会は私が起こしてきた失敗から直接来ています。 この記事では、コアトレーニングにおける私の5つの最大の失敗を紹介します。私の失敗を正直に述べることで、あなたがアスリートと共により良い結果を得ることに役立てば幸いです! 失敗1 仰向けのコアトレーニングの多用 私がコーチとしてのキャリアをスタートした1999年、2000年ごろ、腹筋運動のサーキットが全盛期でした。やるべきことは、5−10個のコアトレーニングエクササイズを選び、仰向けになって我を忘れるまで、脊柱を曲げたり、伸ばしたりすることでした。 幸いなことに、私はこのようなトレーニングからはすぐに手を引きましたが、それは必ずしも本当の意味で教訓を得たためという訳ではありませんでした。 コアトレーニングを考える時、私たちはとてもよく、下記の要件を満たしていないと「コアのトレーニング」ではないと思ってしまいます。 仰向けの状態で行い セッションの最後に行う 「セッションの最後」という部分のことはまた別の機会に述べます。ここでは「仰向けになる」という点を見ていきましょう。 私は、コアトレーニングは重要であると思ってきました(知られている?)し、常にプログラムの中にコアトレーニングを沢山取り入れようとしています。その一番手っ取り早い方法の一つが、仰向けのコアエクササイズを沢山組み込むことです。 こういったエクササイズから得られる利点はあるでしょうか。もちろんです。床ベースまたは仰向けのコアエクササイズの利点は無数にあります。 地面からの外的安定を沢山得ることができる。アスリートのコアが弱い場合、外的安定は初期段階において成功体験を得るのに有効です。 地面の上で背中を感じることができる。アスリートによっては、視覚によるキューや、1001個ものキューはいらないかもしれません。アスリートによっては、ただ感じることができればいいのです。こういったアスリートには、床ベースのコアトレーニングはとても重要になり得ます。 プログレッション及びリグレッション(段階を上げたり下げたり)をする方法が沢山ある。私のことを少しでもご存知なら、私が時間をかけてゆっくりアスリートを育てていくのが好きなことを知っているでしょう。私がこのタイプのエクササイズのバラエティーをかなり沢山持っているという事実は、アスリートにとって幸運にも不幸にもなり得ます。 「マイク、言っていることはどれも素晴らしいと思う。でもいったいなぜ仰向けでのコアエクササイズは良くないの?」 仰向けのコアエクササイズが良くないわけではありません。ただ何事もそうですが、やりすぎになる(または限定的に使われすぎる)ことがあります。 さらに、あえて反論するとすれば、これらのポジティブな要素をネガティブにすることもできるのです。 では、先ほどと同じリストを逆転させてみましょう。 外的安定性。アスリートが適切な姿勢・ポジションを取ることができるようになったら、外的安定性を取り除きたいと思います。地面から与えられた安定性に頼るのではなく、自分で安定性を作り出す方法を学んで欲しいのです。 地面の上で背中を感じることができる。多くのアスリートは、常に脊柱の伸展筋の緊張が高くなっており、背中側に空気を取りこむことに苦労しています。最初は、アスリートに背中を「感じて」欲しいのですが、これは空気の流れや背中側のさらなる拡張を阻害してしまうことにもつながります。背中から得る運動感覚は初期段階では重要ですが、いずれは先へ進むことが大切です。 プログレッション及びリグレッション。プログレッションとリグレッションは素晴らしいことです。これができなければ私は完全に路頭に迷ってしまいます。しかし同時にそればかりに注目し、A.アスリートを退屈させてしまう、B.進行がゆっくりになりすぎる、といったリスクもあります。 4番目のポイントでカバーしますが、すべての発達段階において、そのアスリートに適切な負荷を与えて段階を高められていることを確かめる必要があり、ただあるエクササイズからあるエクササイズへと移行するだけではダメなのです。 失敗2 股関節屈曲のトレーニングをしていない 私が長年にわたって犯していた重要な失敗は、股関節屈曲のトレーニングをしていなかったことです。 これらすべての失敗において、一番大きな問題はパフォーマンスです。もし体幹や骨盤が不安定でお粗末な股関節屈曲運動を行っているとすれば、そのエクササイズからはほとんど何も得られないでしょう。 しかし、アスリートにとって股関節屈筋群の強さは、強く安定した体幹とともに不可欠です。 ほとんどすべてのスポーツにおいて見られる加速の動きを考えてみてください。胴部を傾けて、地面に対して下方向、及び後ろ方向に最大限の力を発揮することが大事です。 加速において、股関節を力強く屈曲し、脚を下方向、後ろ方向に押し出せるポジションに持っていくため、体幹は強く安定している必要があります。もし体幹が弱すぎたり、不安定だったりすると、エネルギーが失われ、ここで求められるピストンのような脚の動きができなくなります。 股関節屈筋の筋力が不足していると、伸展をする際の反動や爆発力の発揮ができません。股関節の屈曲が頼りないアスリートで、その後の脚の伸展を力強くできる人を見たことがありません。安全性とコントロールのために、関節の両側のバランスが取れていることが必要です。 他に、絶対に股関節屈筋の使い方を学ぶ必要があるのは、スウェイバック姿勢のクライアントです。 スウェイバック姿勢では、骨盤が後傾しているかのように見えます。しかし、おそらく長年をかけて起こってきたことは、骨盤の伸展を行いすぎて、肩と足に対して骨盤が相対的に身体の前にずれてきてしまった結果です。 フォースカップリングを考えてみると、実質的には身体の前側にあるすべての組織、特に腹筋群と股関節屈筋群が伸ばされて弱くなります。 彼らの屈曲のパターンを再構築するためには、安定した骨盤上で効果的に股関節を屈曲する方法を学ぶ必要があります。私がこの症状に対して行うのに好きなエクササイズは、アイソメトリックのマウンテンクライマーとバンドを使ったジャックナイフのバリエーションです。
コアトレーニングにおける5つの最大の失敗 パート2/2
失敗3 是が非でも脊柱の屈曲を避ける 私たちの多くは、「脊柱屈曲」という言葉を聞くと無意識に身がすくんでしまいます。 私たちは脊柱屈曲と聞くと即座に、アスリートが地面から鉛筆を拾うために体をかがめ、自然発生的に椎間板が後方に脱漏し数ヶ月動けなくなることを想像します。 こういった思考の多くは、スチュアート・マックギル博士と脊柱の生体力学に関する彼の素晴らしい研究成果に起因しています。マックギル博士は、負荷がかかった状態における可動域最終域での屈曲は、怪我をするにはもってこいの方法であるため避けるべきだと説きました。 でも大抵のことと同様に、私たちは良いことであってもやりすぎてしまう傾向にあります。私のダグ・キージャンとのポッドキャストを聞くと、彼が数年前、いかに脊柱の屈曲に対して神経質であったか、神経質すぎて、歯を磨いている時でさえ、文字通り常に伸展位に固定しようとしていた!ということに関して冗談を言っていました。 おかしな話ですが、同時にこれは特別な例ではなく多くの人に見られることだと思います。 脊柱屈曲は悪いことではありません。脊柱屈曲は、脊柱の屈曲だけではなく、体全体を通じての屈曲を取り戻すのに役立ちます(これは最近の多くのアスリートが苦しんでいることです)。 屈曲はまた、胸郭と横隔膜を再配置してくれます。横隔膜が適切な位置にあると、呼吸を助けてくれますが、そうでなければ、より姿勢維持に関わる筋肉になりがちです(この洞察はPRIのおかげです)。 ここで覚えておいて欲しいのは、屈曲をすることができ、それを維持することができるからといって、何度もその動作を繰り返すわけではありません(クランチや「腹筋サーキット」のように)。 また、負荷のかかった状態で行うというわけでもありません。例えば、ジムで最大負荷のデッドリフトを、背中を丸めた状態で持ち上げることを認めているわけではありません。 伸展位に体を固定するのと同様に、それでは極端な方向にいきすぎてしまいます。 脊柱屈曲の可動域を得ること、維持することに最善を尽くしてください。結果として、あなたのアスリートはより高いレベルで、より長い期間、競技を続けることができるでしょう。 失敗4 プログレッションの選択肢が少ない 先にほのめかしたように、過去の私は、コアの特定の分野の発達にかなり固執してしまう傾向にありました。 長い間、私は仰向けのコアトレーニングが大好きでした。アスリートが週に三回ジムでトレーニングをするならば、毎回違う種類のエクササイズを行っていました(例えば、日毎に レッグロワーリング、デッドバグ、PNFパターン、を行うなど) しかし目標は、仰向けになっている状態でのコアの筋力がどれほど素晴らしいかを見ることではありません。目標は、彼らのスポーツにおいて、いかに能力を発揮できるかを見ることです。 そのため長年をかけて私が一生懸命取り組んできたのは、プログラムにプログレッションを組み込むことでした。この方法の一つは、トレーニングプログラムを通じて様々なレベルでコアへのチャレンジすることです。 例えば一般的なプログラムは下記のようになります 1) 高重量の両側性トレーニング 2A) スプリットスタンスエクササイズ 2B) 上半身のエクササイズ 3A) 補助的な肩、股関節、胴部のエクササイズ 3B) 孤立化したコアエクササイズ より特化したプログラム(いくつかのキューや解説) 1) ダブルケトルベルフロントスクワット(肘を遠くに伸ばすことに注目し、腹部のポジションの位置を決め、保つ) 2A) ハーフニーリングチョップ(スプリットスクワット、ランジパターンを築く。ただしコア、股関節、骨盤の安定性を確立することが先決) 2B) 3点ダンベルロウ (ベンチなどに置いた方の手を遠くへリーチし、腹筋を稼働する) 3A) トールニーリングランドマインプレス(息を吐きながら、骨盤を上げ、腹筋を安定など) 3B) フロントプランク(肘を遠くにリーチ、3点接地など) お分かりのように、これらのエクササイズは全て、ある程度コアを発達させると同時にセッションを通して複数の姿勢とポジションを取り入れています。(垂直、ハーフニーリング、うつ伏せ、四つ這いなど) 最後の問いかけは、「孤立化した」コアエクササイズを全て使ってしまったらどうするのか? これはあなたがそのアスリートと複数年にわたって関わってきたとすれば、よくあることです。この場合、どこかの時点で「基本に戻って」再起動することに何の問題もありません。 もしあなたが、アスリートが長い間にわたって、プランクやデッドバグのような単純なエクササイズの実行を向上させられないと思っているとすればそれは間違っています。 それは良い本を、時間をかけて読み返すようなものです。本自体は変わりませんが、あなたは人間として変化していますから、本を読んで得られることは毎回違います。 トレーニングもそれと同じで、時間を遡って、それぞれすべてのエクササイズの価値を十分に引き出すことを恐れないでください。 失敗5 ウォームアップにトレーニングの背景を考慮したコアトレーニングをいれていない これは私が一番最近行っていた失敗であり、しばらくは繰り返したくない失敗です。 上記のプログラムの例を見ると、トレーニングセッションを通して複数の方法でコアを刺激しているのがわかると思います。 しかし、非常に大切なこと(私が失敗していたこと)は、ウォームアップの中にトレーニングの背景を反映したコアエクササイズを含んでいなかったことです。(ここでフィードバックをくれたタイ・テレルに感謝します−大変役に立ちました!) そもそも背景とはどういう意味でしょう? セッションでは、アスリートが鍛える動きや質をそのまま反映しているエクササイズを選ぶようにしてください。 例えば、パワーリフターがその日スクワットを行うとすれば、ウォームアップには、より多くのトールニーリングエクササイズを取り入れます。 トールニーリングは平行スタンスのコアトレーニングエクササイズであり、スクワットをする際に、体幹、臀部、骨盤をより適切なポジションに位置するのに役立ちます。 アスリートが直線的な加速に取り組むのなら、マウンテンクライマーやステップアップチョッピング、リフト系のパターンが役立つでしょう。 こういったエクササイズをトレーニングセッションの前に行うと、セッションがより生き、その日のトレーニングにおける姿勢・ポジションでコアを使うことができます。 私のことを少しでもご存知であれば、私が「かっこいい」のが好きでないことを知っているでしょう。エクササイズの選択となると考えすぎになることが多く、そのプロセスの中で動きや運動制御、あるいはその両方にマイナスの影響を与えてしまうことがあります。 しかし、トレーニングセッションの前に、アスリートに対して適切なコアの姿勢とポジションに関していくらかの背景を与えていれば、非常に大きい利益を得られるでしょう。
運動制御に関するシステム論的視点 パート1/2
ダイナミックシステム理論(Dynamic systems theory:DST)は、運動学習を最大限に習得する方法として、運動リハビリテーションとパフォーマンスの業界で影響力を持ち始めています。運動行動は、身体のさまざまなサブシステムや目前の課題、環境などの複合的な相互関係により生じるということが大前提です。この複雑性を前提として、運動行動がどのように変化するか、その学習がどのように起こるのかを分析するのにダイナミックシステム理論は適しています。 この投稿と次作では、ダイナミックシステム理論の基本概念とクライアントへの適用方法についてレビューします。これをお読みになれば、著名なムーブメントコーチの臨床での実践や直感的な能力を理解するのに役立つでしょう。 (ところで、この投稿の内容に関するバックグラウンドや、痛みの状況への適用方法についてもっと知りたい方は、「システム論的視点からの慢性疼痛」という投稿をご覧ください)。 複合システム、自己組織化、トップダウン制御 ダイナミックシステム理論の大前提として、身体は数百万もの相互に影響し合う部分で構成されている複合的システムであるということがあります。身体を協調する知性は、ある特定の部位に局在しているものではなく、すべての異なる部位の複合的な相互作用から生まれます。ですから、たとえばサーモスタットのような単純な機械とは異なり、複合システムは、ひとつの中枢制御装置に制御されることなく行動を起こします。 この一見矛盾していることを説明するために、ダイナミックシステム理論では自己組織化、(制御の)出現、多重的因果関係という用語を使います。これらはあまり聞き慣れない用語ですが、魔法のようなものではありません。自己組織化は、物理法則に反する生命維持のための活力のようなものを意味するものではありません。ですが、制御装置なしでどうやって制御できるのでしょうか? 蜂の巣のような昆虫社会の知的行動を思い浮かべてみてください。巣を造り、蜂蜜を作り、蜂の子を育て、敵を撃退したりなど、成すべき重要な仕事をどのようにすればよいかすべて知っている一匹の蜂がいるわけではありません。その代わりに、これらの仕事は、何千匹の蜂の複合的相互作用によって行われます。これら蜂の行動はただひたすら無心にアルゴリズムに従っているだけです。同様に、私たちの動きを制御する知性は、何百万個の身体部分と環境の複合的相互作用によって出現します。 では、中枢神経系についてはどうでしょうか? 中枢神経系こそが身体の中枢制御装置ではないでしょうか? ある意味ではそうであると言えます。つまり、中枢神経系が、意味のあるパターンで筋を発火させる指令を司っています。しかし、中枢神経系そのものも多くの部分によって成り立つ複合システムです。その行動は、免疫系、内分泌系、筋骨格系など、そのほか多くの体系と環境によって変化します。 このような理由から、ダイナミックシステム理論では中枢神経系や“モータープログラム”のような“トップダウン”で動きを決定させる役割を重視しません。むしろ、身体の構造や環境、そしてそこにある課題の特質など、“ボトムアップ”の要素に焦点を当てています。 協調された動きをするために、これらの要素がどれだけ重要であるかを示す一例として、内蔵コンピューターやモーターが設置されていないロボットが歩いている、このビデオを観てみてください。ロボットを制御する知性は、その構造の中に組み込まれています。その構造が適切な状況に設置されれば、その通りに作動してくれるのです: このロボットは、歩くことを学習する必要はありませんでした。環境を整えて(斜めにした床)そして、お父さんが少し押してあげればいいだけです。人間の赤ちゃんは違っていますか? エスター・テーレンによる興味深い研究によると、赤ちゃんを歩かせるのに必要なことも似たようなものだということです。 構造、環境、足踏み行動 エスター・テーレンは、発達心理学の分野で斬新な考え方を持っていました。(興味深い注釈:彼女は、フェルデンクライス・メソッドが自分の多くの考えを効果的かつ実践的に応用したものであると分かってから、自分もフェルデンクライス・プラクティショナーになりました。) テーレンの重要な研究のひとつは、乳幼児の発達過程における足踏み行動の変化が重要であるとしています。乳幼児は、まるで歩きたいと思っているかのようにつかまり立ちをし、よちよち歩きを始めるということを、研究者は長い期間観察してきました。この行動は、その後数ヶ月間は消えてしまいますが、その後再び出現します。 これらの変化を説明する有力な説は、神経系の発達にあります。それによると、反射が抑制され、次の運動制御パターンが発達する時、乳幼児はどういうわけか足踏みの運動制御プログラムを習得してそれから失ってしまうようです。しかし、テーレンは、中枢神経の発達が完全ではないと考えられている子どもたちに、この足踏み行動を起こさせることができました。子どもたちの脚を水中に入れ、脚が軽くなることで、自発的に足踏みをするようになる、という方法です。 このように、足踏み行動を制御している決定的な要素は、中枢神経からの“トップダウン”プログラミングの変化ではなく、太ってしばらく怠け、それからスリムになって動き回り始める、子供達の脚の重量効果による“ボトムアップ”の変化だったのです。 テーレンはまた、環境を変えることにより足踏み行動を変化させることができました。乳幼児がトレッドミルの上で歩く、次のビデオをご覧ください。従来の見解では、このような足踏み行動は、この月齢の神経系発達レベルでは通常あり得ないことですが、その子をトレッドミルに乗せると、動き始めるのです。 テーレンにとってこれは、乳幼児の発達には通過すべき段階や一定の規則があるという考えに直接的に挑戦することなのです。それよりも、発達は個人差が大きく、状況によってかなり変化し、成功するための発達の仕方には何通りもあるということです。 これらの考え方は、発達に関する従来の見解とは対照的です。従来は、トップダウンや遺伝で決定され、中枢神経系を介したプログラムに則って、ひとつひとつ段階を踏んで進んでいくものが、最も好ましい発達であると考えます。しかし、そうではないかもしれません。ローマにつながる道はいくつもありますし、すべての子供が這い這いの道を通るとは限りません。
運動制御に関するシステム論的視点 パート2/2
位相シフトと運動パターンの変化 複雑系理論家たちは、複合システムが自ら変化できるように、あらゆる方法を示すものとして“状況”という用語を使用します。状況の変化はたいてい非線形であり、体系への小さな入力が大きな出力を生み出すかもしれないし、または、その逆もあり得るということを意味しています。 著しく非線形な変化は位相シフトと呼ばれています。たとえば、水は冷たくなってもそれほど変化しませんが、もっと温度が低下すると突然、位相シフトが起こり、氷に変わります。 運動制御の位相シフトのひとつの例をお見せしましょう。馬が常歩のスピードを上げても、基本となる脚の協調運動パターンは変わりませんが、限界速度に達すると運動パターンは速歩へと急速にシフトします。スピードをさらに上げても歩法はしばらく変化しませんが、最終的に駈歩へシフトしていきます。 みなさんも歩行中に同じような経験をすることがあるでしょう。交差側方の動きをなくして歩いてみてください。つまり、肩や腕を一切動かさずに歩くか、左右の肩が反対側の股関節や脚の方へ回旋しないようにしてみることです。 では、歩行スピードを上げてみましょう。スピードがある程度上がると(ジョギングへ移行しなければならない位)、肩と腕が骨盤と逆の方向に動き出すのが分かります。速度の変化によって、位相シフトが歩行の交差側方の運動パターンへと変化したのです。その変化は急速に生じ、無意識に起こります。 運動パターンをどのように変えるか 運動を教える立場から見ると、これは興味深いはずです。私たちはクライアントの運動パターンを変化させようとしますが、最も興味深い変化は、位相シフトそのものにあります。つまり、本当の意味での質的変化は運動パターンの中に見られるのです。 ダイナミックシステム理論の観点では、運動行動に起きる位相シフトは、本人が変えようとするこれといった意図がなくても、また指導者の特別な指示がなくても起こりうるということに注目しています。むしろ、タスクや環境の本質が変わることにより、変化は容易に発生します。周りを見てみると、この指導方法の例を至る所で目にするでしょう。 たとえば、ベアフットランニングは、裸足で走ることによってランナーのフットストライクパターンを自発的に変えるという事実に基づくことで最近注目されています。直接的な指導や“運動学習”がなくても、深く習慣づけられた運動行動が、環境や動作の制約を変えるだけで簡単に変更することができることを示しています。 多くの、よく知られた運動介入は、まさにこの考えに基づいています。ダン・ジョン氏が有名にしたゴブレットスクワットを考えてみてください。 後方に腰を下ろし、胸を上げたままスクワットするようにと指導する代わりに、単に胸の前にウエイトを持たせスクワットさせることができます。この新しい課題要求によって、特別な指導をしなくてもスクワットパターンはたいてい素早く改善します。 もうひとつの例として、グレイ・クックが実施している反射性神経筋トレーニング(RNT)と呼ばれるコレクティブエクササイズがあります。これは次のように作用します。仮にスクワットした時に両膝が内側に崩れてしまう人がいるとしましょう。クックは、ゴムバンドを膝に回し、さらに内方へ膝を誘導し、“間違ったパターンを強調”をします。この新たな制約は、瞬時に膝を外方へ向けるように促します。一切の言葉がけも必要ありません。 ランニングの話に戻りましょう。ランニングの歩数を増やすことによって、踵接地パターンがどのように変化したか、クリス・ジョンソンのこのビデオを観てください: ここでも、特別な指導がないにも関わらず運動行動の位相シフトが瞬時に起こりました。 ここで、EXOSのパフォーマンス教育ディレクターであるニック・ウィンクルマンについても触れておくべきでしょう。彼はこうした考えをパフォーマンスの背景に応用し素晴らしい成果をあげています。 結論 つい話が脱線しすぎてしまう恐れがあるので(特に内的キューイングよりも外的キューイングの方が有効であるというガブリエル・ウルフの議論では)、そろそろこの投稿をまとめましょう。 今後の投稿では、運動パターンのアトラクターウェルズや制御パラメーター、安定性、柔軟性、変動性など、もっとダイナミックシステム理論の概念を再考察しようと思います。しかしここでは、今回この投稿からひとつ覚えておいてほしいことを提案します。 人間は、複合システムで自己組織化できる素晴らしい能力を持っています。ぴったりのモチベーションや環境、やらなくてはならない課題を与えたら、たいていの場合スピードと効率性を伴って、良い動きの解決策を見つけてくれるでしょう。コーチの適切な役割は、人にどのように動けと指示することではなく、学習に適した状況を作り出すだけにして、あとは口を出さないことです。 この指導のモデルは、実はとても常識的なことであり、最も優秀なコーチや指導者の多くは、直感的にこれを実施しています。ダイナミックシステム理論は、このアプローチがなぜ有効であるか説明するのにぴったりな理論モデルであるかもしれないので、私はそれについての学習や執筆を続けています。
関節は中心化される必要があるか?それが本当に問題なのか? パート3/3
筋肉の活性化を“修正する”(続き) Lehmanとその他は、腰部より先に発火するハムストリングスよりも先に臀筋が発火すべきであるという理論をテストしました。*ここをクリックしてください* そして、彼等は、無症状者において、一貫した筋動員パターンは無く、被験者間で多様性があることを発見しました。筋収縮の開始時間には、大きな幅がありました。以前の研究もまた、理論化された筋肉の活性化の‘正しい’順序とは相関関係がありませんでした。 コアスタビリティもまた、筋肉の活性化の正しい順序とタイミングに関して仮説立てられています。腰痛へのコアスタビリティアプローチの効果に関する私のレビュー*ここをクリックしてください*を読んでみてください。 Vasseljenとその他は、まず、腹筋群の活性化において、大きな多様性があるということを発見し、次に、8週間の腹筋トレーニングによって影響されないということを発見しました*ここをクリックしてください*。 Mannionとその他は、腹筋機能の基準値測定、もしくは腹筋向上の基準値測定のどちらも良好な臨床転帰には影響を及ぼさないということを発見しました*ここをクリックしてください*。 さて、私達はタイミングを変化させることができるでしょうか?私達は何が‘正しい’タイミングなのかを知っているのでしょうか?それが痛みに影響を及ぼすのでしょうか? もちろん、明快な答えは出ないでしょう。反対の根拠、あるいは不明確な根拠に対する昔からの論証はしばしば下記のとおりです: 彼等はXXXの理由で、研究を正確に遂行しなかった。 私達の理論は異なる。 私達の臨床経験では、XXXと考えます。 ここでの責務は、理論をバックアップするための根拠、あるいは アプローチの疑う余地のない効果を証明するための特定の方法を提供することです。 私達は、‘ジョイントセントレーション’理論において、重大な役割を果たす安定筋や主動筋のように、筋肉に特異的役割を与えています。私達は、筋肉が何をすべきか、筋肉がいつそれをすべきか、ということを確かに仮説化することができます。身体の内部で本当に何が起こっているのかを知ることは少々困難ですが、もし単一筋が理論化された‘責務’を果たさなければ、誰かが言うほどに悲惨な状況なのでしょうか? 私達が筋肉の役割を定義しようとしている方法の一つは、筋線維タイプの配分を通してです。もしその筋肉がより多くの遅筋線維を持っているならば、それを姿勢筋、あるいは安定筋として分類するかもしれませんし、より多くの速筋線維を持っているのであれば、それは運動のための筋肉として分類されるかもしれません。異なる理論に着目するならば、実際には、全ての筋肉はより協働筋なのかもしれません。次の項で詳しく説明しましょう。 T. Haggmarkとその他は*ここをクリックしてください*、腹筋群(腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋)の研究において、の主要な線維タイプを発見しまし、一個人の異なる筋肉の間ではほとんど変わりがないことから、それらの筋肉が非常に類似した機能的能力を持っているという結論を出しました。しかし、大きな個人間変動は存在します。この研究*ここをクリックしてください*は、わかりづらいところもありますが、筋肉に関する36件の研究のほとんどにおいて、“どちらかの線維タイプが優位ということはない”ということを発見しました。 筋線維タイプの配分は、ほとんどの事がそうであるように、個人個人で非常に異なっているように思われます。遺伝、性別、運動タイプ/レベルは、個人における筋線維タイプの配分に影響を及ぼしているようです。多くの筋肉が、ほぼ同じ割合で筋線維タイプを持っているようです。これが、特定の役割を書いたラベルを筋線維に貼ることをより困難にするでしょうか? その他の理論 反対となりえる他の理論的な考えは、動的システム論です。ここでは、筋肉の活性化における変動性は、完全に正常で健全であるということがわかります。 Davidsとその他は、試験間の運動変化を健全で、遍在していて、避けられないのだと考察しています*ここをクリックしてください*。この変化は、このブログにも登場する研究によって支持され、疼痛経験において一貫した関連性はないかもしれません。この研究は*ここをクリックしてください*、非熟練運動者が彼等の運動戦略を厳格に固定している一方、熟練運動者は、より変動性を持っているということを強調しています。 Fallaとその他は、ウェイトリフティングのタスク中に、一貫した筋肉の活性化戦略を示した腰痛者群と対比して、筋肉内の活動において、健常人群が実際により多くの変動性を示したということを発見しました。この場合、繰り返し作業中における、筋肉内の活性化の変動性は、特定の活性化パターンよりむしろ健全なのかもしれません*ここをクリックしてください*。 上記の図の健常者群の部分で、頭蓋部から尾側部にかけての腰部脊柱起立筋の活性化の偏移が見られます。下記の有痛者群は、筋肉の同様の部位のみを活性化しています。これは、運動変化の減少と生理学的ストレスの増大の両方を強調しているのかもしれません。 私達はまた、筋肉の冗長性の問題も持っています。中枢神経系が同様の物理的行為を行うために使用することのできる筋骨格系の要因の大きな変動があります。例えば、いかなる体幹筋活性化パターン、あるいは相乗作用の組み合わせも、脊柱の安定性において同様のタスクを獲得することができるということです。 私達はタスクを成し遂げるために、筋肉を協働、あるいはグループで活性化します。単一筋がタスクを成し遂げるという治療界とフィットネス界の考えは、私にとっては、全く理にかなっていませんし、利用可能な根拠はありません。筋電計を使った研究から見た、これらの協働作用における個々の活性化のタイミングと順序は、このブログでこれまで議論してきた領域に出てきたように、健常人と非健常人における明白なパターンというよりはむしろ、個々において変動があるように見えます。 そこで、数多くある筋肉の相乗作用において、私達はどの活性化パターンを使用するべきなのでしょうか?どれが冗長なのでしょうか?“非制御多面体仮説(UMH)”、あるいはより簡単なUMHアプローチのような、とても現代的な運動理論は、冗長要因を制限するというよりもむしろ、利用可能な冗長要因の利用に着目しています。さらに読むには*ここをクリックしてください*。 筋肉活性化の特定パターンとタイミングは明確ではなく、腰痛とコアスタビリティの場合においては、より関連性がある、あるいは変わりやすいように見えます。関節を中間位に置くために力のバランスを取るための主働筋と拮抗筋のような単純な概念でさえ、複雑な機能に関連した生体力学に着目すると、さらに一層複雑になります。関節は三次元を通して動くため、私達が現在基づいている単純化した二次元モデルよりもむしろ、それぞれの平面においての、主動筋と拮抗筋に目を向ける必要があります。 力学的レベルでは、ジョイントセントレーションを持ち、それによる能力増大は理にかなっていますが、もし私達が筋肉の動員パターンの何を修正すべきか知る方法を持っていなければ、‘修正’することが困難であるということに気付くかもしれません。もし明確な相関パターンが分からなければ、痛みや損傷を間違った筋肉の活性化や姿勢のせいにするのは困難なように思えます。 身体における内部作用を議論する際に客観的なデータがあれば、明らかな手助けになります。もし客観的なデータが無ければ、とてつもなく困難になります。私達は、自身に‘実のところ、何を知っているのか?’ということを問う必要があるのです。
関節は中心化される必要があるか?それが本当に問題なのか? パート2/3
姿勢(続き) 姿勢と関節の位置は、関節周辺の筋肉の活性化にとりあえず関連しているのでしょうか?数多くの研究論文によると、私達の姿勢の位置は、視覚系、前庭系、感覚運動系間の複雑な相互作用によって制御されているようです。もし私達の姿勢が、その他の要因によって影響されているのであれば、関節周辺の筋肉の活性化の再トレーニング、あるいは活性化の順序を再トレーニングすることには、効果は無いかもしれません。 私達の静的姿勢は、固定された関節周辺の回旋軸に確実に影響を及ぼすでしょう。ここでのポイントは、私達の姿勢が痛みに影響を及ぼすかどうかということですが、利用可能な科学的根拠に基づいて、これを支持すると結論付けることはできませんでした。 動的姿勢は、はるかに複雑なテーマです。私達の動的姿勢は、遂行時にかなりの変動を伴い、私達が行うタスクによって確実に決定されるでしょう。 ここで、私達は、関節における‘理想的な’機械効率を維持するための静的姿勢の観点から見る単純な固定軸よりも、瞬間的回旋軸に着目し始める必要があります。この概念はかなり複雑な機械的なもので、私の脳の灰白質に挑戦するものです!また、動的姿勢に関連している研究も非常に少ないのです。 瞬間回旋軸は、運動体が平行移動や回旋している際に、つまり臨床的状況ではなく、実際の動的運動時に発生します。 私達が瞬間回旋軸を持つ際に、関節周辺の運動は純粋な回旋であると推測することができます。これを達成するために、骨の平行移動の要素は、近接結合を保つために同時に起こる必要があります。問題は、身体運動は順序的で、どのような種類の可動域も、達成するためには、身体運動が蓄積される必要があるということを知っているということです。身体の大きな可動域は、複数の関節による可動域の蓄積なのです。脊椎運動が良い例です;それぞれの部位が小さな可動域を持っていて、構造全体を合計して大きな可動域を形成します。 機能性が関連する例は、テニスのショットに対してラケットを伸ばすこと、あるいはフットボールのタックルへのランジです。関節は、運動域を獲得するために、中心化から外れる必要があり、このタスクは試合、キャリアを通して、繰り返し必要とされます。あなたが関節の中心化を保っていれば、負傷しないかもしれませんが、その状態でプレーすることが困難であると気付くかもしれません。そして、私はまだ、プロフェッショナルスポーツにおいて、セントレーションの欠如が損傷の原因であるという科学的根拠を確かめていません。私はこれを、機能的世界における運動の臨床的発想の古典的な一例として見ています。それは、機能的な状況において、中枢神経系に複数の部位を協調した状態で動かすことを教え、特定の運動に部位の近接結合を保つことを教える手助けになるかもしれません。 ここでの問題は、運動、関節角度、スピード、他の関連する身体部位の位置に従って、相乗関係が常に変化しているので、それぞれの運動は、必要とされる部位間の特定の協調運動を作り出すために個々にトレーニングされる必要がということです。後述するように、‘正しい’、あるいは‘理想的な’筋肉の相乗パターンは、存在しないのかもしれません。 私達はまた、関節におけるこれらの運動はとても小さいということを認識する必要があり、私は、痛みを全く引き起こさないように、人々は多くの関節の可動域を制限しているのではないかと疑います。自然な解剖学的多様性もまた、関節の中心化能力を制限しているのかもしれません。もしあなたが構造的に‘中間位’を獲得することが不可能ならば、これは独自の‘中間位’となるのでしょうか?もしそうでなければ、私達全員が、個人個人の間で膨大な解剖学的多様性という問題を抱えていることになるでしょう。 よって、私達の動的姿勢、あるいは静的姿勢が、関節の位置とそこから動かし始める能力、中間位を保持する能力と中間位に復帰する能力に対して、大きな影響を与えるということは非常に明らかです。それは単純に痛みや損傷に関連しているのでしょうか?これはあまり明らかではないかもしれません。 これら全てのことが、ウェイトリフティング、あるいはゴルフのような、非常に技術的な運動を必要とするスポーツにおいて、身体のアライメントが重要でないというわけではありません。全く違います。それでも私達は、腰痛に悩まされているロジャー・フェデラーの素晴らしい動き、あるいはいわゆる理想のスウィングには程遠いにもかかわらず、いまだにメジャーを制し、比較的けがの無い状態を保っているバッバ・ワトソンのような素晴らしいアスリートたちを目にしています。これはまた、スポーツ界以外でも同様です。 筋肉の活性化を“修正する” 良い関節位置の背景にあるもう一つの理論は、特定の順序における正確で協調された筋肉の活性化です。 私は、筋肉の活性化が、前向き、あるいは後ろ向きの結果を導く一定の方法で本当に発生するのかどうかを発見するために、有痛者、あるいは健常人において、一貫して相関関係がある特定の筋肉の活性化パターンを発見しようと試みました。 利用可能な理論は数多くあるのですが、見るべきところは、はっきりとしたパターンが現れるかどうか、そしてそれらが痛みと相関関係にあるかどうかを示したより客観的視点の研究です。 最初に、腰椎骨盤部の筋発火の評価のための腹臥位での脚の伸展テストに着目してみましょう。このテストは、 ‘臀筋群’が発火しているかどうかを調べるために、によって世界中で行われていますが、被験者を腹臥位の状態にして、治療家やトレーナーは、指で被験者の身体の様々な部位を触っていきます。 最初に、私達の指は、人によってはかなりぶ厚いかもしれない皮下脂肪層を通して、筋収縮の開始におけるミリ秒の変化を拾い上げ、数値化するほど敏感で高価な筋電計の電極ではないことを忘れないでください。研究室の外で、人体の内部で何が起こっているかを知ることは非常に困難なのです。これは筋肉の機能同様に、生体力学にも言えることです。 次に、私達は正確な発火パターンとは何かを実際に知っているでしょうか?理論では、臀筋群は、ハムストリングスよりも先に、そしてハムストリングスは腰部よりも先に発火するはずです。この腹臥位テストは、歩行における股関節伸展中に発生している事象の再現を意図していて、腰椎から作り出される伸展の量を縮小することを期待しています。 ここで考慮すべきなのは、この腹臥位でのテストが、複数の身体部位重力や地面反力と相互に作用する立位での歩行中、あるいは走行中のような、他の状況における筋肉の活性化パフォーマンスに関する適切な理解を与えてくれるのか、ということです。 興味深いことに、これは良く知られた理論であるにも関わらず、これに関する研究が数多くあるわけではありません。Liebermanとその他*ここをクリックしてください*は、走行時と歩行時における臀筋群の役割に着目しました。走行時と歩行時では、活性化レベルと活性化のタイミング共に、有意差があることが分かりました。腹臥位での股関節伸展テストで、私達はこれらのうちのどちらをテストしているのでしょうか?これはまた、筋肉の機能は異なるタスクにおいて変動しえるということを示しています。実際に、歩行時の筋電計の信号において、股関節伸展時に‘発火’する臀筋群に、私達が期待するような明らかなピークはありませんでした。
関節は中心化される必要があるか?それが本当に問題なのか? パート1/3
最近、私のコースやこれまでに読んだ論文のいくつかにおいても何度か登場している話題の一つが、‘関節中心化’理論、あるいは関節の‘中立’ポジションです。 この理論は、関節周辺を回旋させるための最大許容量を可能にするためには、関節の中立的“ポジション”、あるいは回旋軸を持つことが有利であるというものです。関節の‘中心化’によって、関節の最終域に向かって位置することによって運動能力を減少させるのではなく、全方向に向かって均等に動くことが可能になるでしょう。そして、関節と組織への機械的ストレスを削減し、最適な荷重伝達を可能にすると提案されています。この考えは、数多くの見解において、極めて重要な構成要素です。 私はこの考えを大変気に入っていて、力学的視点からみても非常に道理にかなっています。しかし、過去数年にわたって私が学んできた最大の教訓の一つは、私達が人体をそれほど機械的でなく、予測不能で、個人差が大きいものであるとして見る際に、道理にかなっていることが全て真実ではないと判明したり、あるいはそれほど道理にかなったりしているわけではないということです。 関節中心化は、理論モデルにおいて定義されている正確で協調的な順序と、筋肉の活性化のタイミングを介して発生すると提案されています。このプロセスを通して、私達は‘最適な’運動、あるいは‘理想的な’運動を実現することが可能なのです。 以前に私が提言したように、これは聞こえが良いですが: もし関節が中心化されていなければ、それは問題ですか? この中心化の欠如を、痛みや損傷と関連付けることができますか? その理論は、研究によって支持されていますか? 正、あるいは負のどちらかに相関した、一貫性のある活性化パターンを発見することができますか? 何が本当の最適/理想的な運動なのかを知っていますか? これらの疑問を探るために、このブログにおける二つの主要問題に着目する必要があります。 静的姿勢と動的姿勢 筋肉活性化の順序とタイミング もし、関節中心化に影響を及ぼし、そして機械効率と提案された過度な組織応力にも影響を及ぼすこれらの要因が、痛み、あるいは損傷と関連があるのであれば、この二つの要因の間には相関関係があるでしょう。 最初に、痛みを持つ人とその姿勢の間にある相関関係に着目してみましょう。 あなたの静的姿勢は、上記の図で示され、組織へのストレス、そして、中枢神経系へのストレスをも作り出すと提案されているように、関節の開始位置に影響を及ぼすでしょう(私はこれを支持する科学的根拠を見つけることができませんでしたが)。 ですが、同様に、私達は終了ポジションもまた重要であるということを覚えておなかなければなりません。これは、どのくらいの運動が可能なのかを私達に知らせてくれます。私達は完璧に配列された姿勢をしているかもしれませんが、運動能力がなければ無意味ではありませんか?同様に、安定性は可動性が無ければ重要ではありません。どちらがより重要ということではなく、これらには象徴的な関連性があります。 もし関節のアライメントが重要であったのならば、間違いなく論文で十分に支持されているのではないでしょうか? 私は、この題目は過回内に似ているように思います。多くの人が過回内足を持っていますが、彼等はいまだ痛みは無く、マラソンを走り、ハイレベルなスポーツに従事しています。 静的と動的の両方で、‘悪い’姿勢と見なされ、多分関節中心化の欠如を伴う何かを持っているにも関わらず、痛みが無い人たちはどのくらいいるのでしょうか? 私達がしばしば、人々の組織耐性、反射、筋力を通して、さまざまな姿勢や構造的‘異常’に対する人々の驚くべき代償能力を歓待するでしょう。しかし、関節アライメント不良による痛みや損傷が無い全ての人達は、特別な部類に分類されないのでしょうか? 姿勢 ですが、私の見解はもうたくさんですね!では、私達が利用可能な研究に着目してみましょう。静的姿勢に関して利用可能なものがかなり多くありますから、そこから始めましょう。 この研究は、頸椎の姿勢と頸部痛との間の相関関係に着目したものです。*ここをクリックしてください* 研究者達は、被験者を頸部痛を持っている有痛群と無痛群の2つのグループに分けました。彼等は、頸椎の全体的な角度と部分的な角度の両方を計測し、それぞれ頸部痛を感じる角度を計測しました。 有痛群と無痛群の姿勢の間に有意差はありませんでした。後弯レベルにおける平均的な部分的角度は、有痛群では6.5度で、無痛群では6.3度でした。 ここでの問題の一つは、正常に対する基準値が無く、そのために、正常な姿勢からの逸脱は頸部痛における要因なのかどうかということです。姿勢と運動を見る場合の恒常的な問題は、最初に何が正常なのかを定義しようとすることなのです。もし基準値を持っていなければ、何が‘悪くて’、何が‘良い’と言えるのでしょうか? もう一つの研究は、5~6歳の被験者と15~16歳の被験者の間の姿勢の変化に着目したものです。*ここをクリックしてください* 10年間にわたる縦断的研究では、被験者の脊椎の形状と可動性において、著しい変化が見られます。この姿勢の変化において、もしその二つが相互に関連があり、時折15~16歳の被験者達の38%が腰痛を訴えていたのであれば、疼痛レベルに変化が見えるはずです。しかし、研究者達は、姿勢、脊椎の可動性、あるいは身体活動と痛みの間に相関関係がないと発表しました。 この研究*ここをクリックしてください*は、元エリート体操選手と現役エリート体操選手における腰痛に着目しました。元体操選手の27%と現役体操選手の38%の両方が腰痛を訴えましたが、姿勢、関節可動域、報告された腰痛の間には相関関係は発見されませんでした。 この文献*ここをクリックしてください*では、急性痛群、慢性痛群、健常人群の脊椎の姿勢が研究されました。私達は、加齢と体重増加による姿勢の変化を確実に目にしましたが、痛みに関しては、三つのグループのいずれの姿勢においても有意差は見られませんでした。 長きにわたり、脚長差(LLD)は運動連鎖をたどって、私達の姿勢を台無しにし、そのため、私達が持つであろう可能な関節運動の位置と量を台無しにすると仮定されています。実際には、グーグルの画像は、私達の姿勢によって生じた結果を示している写真で溢れています*ここをクリックしてください*。 この研究*ここをクリックしてください*では、脚長差と腰痛の間に関連性は見つかりませんでした。この研究*ここをクリックしてください*は、脚長差による骨盤と脊椎の運動学へのわずかな影響を発見しました。
エラスティックリコイル 基礎 パート2/2
トーマス・マイヤースが、組織の弾性によりいかに身体が力を吸収し分散するのかを語ります。ジャンプ時にいかに筋肉と筋膜が機能するのかを検証したリサーチを紹介するとともに、弾性のトレーニングのためには何が必要かをシェアします。
エラスティックリコイル 基礎 パート1/2
組織の弾性の基本的な原理とパフォーマンスとの関連性や、項靭帯の重要性に関して、トーマス・マイヤースが解説します。
HRVでストレングスをハックする パート2/2
自律神経性過負荷 ここまでのところで、自律神経系は中枢神経系同様、ストレングスを築くために欠かせないということが明確になったと思います。交感神経枝は、筋肉が高いレベルで確実に力を発揮するために重要であり、筋肉が適応するために必要な十分に強い刺激を与えています。副交感神経系は成長に必要な同化環境を創り出すことによりその適応を促進します。 問題は、そしてストレングスの向上がしばしば停滞する一つの大きな理由は、これらの二つのシステムが必要なバランス状態にないことから来ています。 ほぼ全ての人が「副腎疲労」という言葉を聞いたことがある一方で、その状況こそまさに自律神経の不均衡の最終状態であることは知られていません。この不均衡は、副腎(交感神経の活性を通じてストレスホルモンが放出される場所)の機能停止が始まるレベルまで交感神経系が過負荷になった結果として起こっているのです。 大抵の場合、真の副腎疲労が起こる前に、単に激しくトレーニングすることをやめたり、長く休息をとったりしますが、実際のところ、完全な副腎疲労でなくとも、トレーニングやストレングスの獲得を妨げてしまうのです。 事実、交感神経過負荷は、身体が慢性的なストレスにさらされ、交感神経系が力の発揮を高める能力を失い始めている状態です。これは驚くほど頻繁に起こっており、多くの人がストレングスに対する目標を達成するのに失敗している一つの大きな理由でもあります。 ストレングスと強度 交感神経過負荷と共にいったい何が起こっているのかを理解するために、二週間毎日スクワットマシンで1RMを10回繰り返して、わざと交感神経過負荷を起こしたグループの研究を取り上げてみましょう… 当然のことながら、この研究では最大筋力に5%の低下、パワーには驚くべき36.3%の低下が見られました! ストレングスやパワーの低下は、この研究において最も興味深い事実ではなく、その低下の理由がより興味深いのです。この理由を探るために、研究者たちは筋肉内にあるアドレナリン(β2アドレナリン受容体として知られる)のような、ストレスホルモンと結合する受容器の数の変化を計測し、これらの受容器の密度がなんと37%も大幅に低下していたことを発見しました! 言い換えれば、受容器の低下が筋肉に結合するストレスホルモンを減少させ、最大筋力とパワーを発揮する能力を著しく低下させたのです。 もちろん、高重量のトレーニングを毎日ではなく、週に2回行ったコントロールグループにおいては受容器の低下は全く見られませんでした… 1RMのスクワットを毎日10回行うことは、恐らくないと思いますが、筋力向上のためにトレーニングを頑張っているのであれば、少なくとも週に3-4回、高強度で重いウエイトを挙げ、激しくトレーニングを行っている可能性は高いでしょう。 日常生活で直面する、交感神経系の全てのストレス(渋滞、仕事、お金、家族などを考えてみてください)の上にトレーニングのストレスが加わった結果、慢性的な低度の交感神経過負荷状態に陥り、筋肉が大きく、強くなり続けるために必要な力を十分に発揮することを阻害され、かなり多くの人が自身のストレングス目標の達成に失敗しています。 さらに言えば、強くなればなるほど、このシナリオはより顕著になります。これはサイズやストレングスが高まるほど、さらに成長し続けるためにより多くのストレスが必要になるからです。例をあげれば、初心者は数週間から数カ月で筋力を二倍にできるようであるのに対し、何年もトレーニングを行っている人は、例えば一つの種目の重量をたった2-4kg上げるだけでも、何か月もかかったりします。 強くなるということは、成長し続けるためのより高いレベルの強度、量、頻度が必要なことを意味します。しかし同時に、そのようなトレーニングの一部である高いレベルの交感神経の活動は、本質的に交感神経過負荷の状態になりやすくしているのです。 それはまるで、あなたの身体があなたに対して強くなりすぎないようにしているようであり、実際多くの場合においてそれが事実です。 あなたが 一週間か二週間、重いリフティングから離れることを余儀なくされた経験があるとすれば、ジムに戻ったときに弱くなるどころか、驚くほど強くなっていたと思います。これこそまさに、あなたが継続的な過負荷の状態でトレーニングをしていた証拠です。 幸運なことに、私たちは強くなるために仔牛を担ぐような暗い時代にはおらず、ミロのような古代のストロングマンが想像もできなかったようなテクノロジーをスマートフォンに備えています。この近代のテクノロジー、特に心拍変動を使うことで、リアルタイムでこのプロセスが起こっている状況を見ることができ、交感神経過負荷の状態に陥る前に止めることができるのです。 HRVとストレングス ここ数年で、トレーニングにおけるHRVの利用は劇的に高まってはいるものの、いまだに多くの人がHRVはストレングスよりもコンディショニングに興味があるアスリートのためのものだと思っている節があります。 私は、自らが作り上げた バイオフォースHRVシステムをウエイトリフターから、パワーリフター、ストロングマンなど、ほぼ全ての種目の数えきれないほどのストレングス、パワー系アスリートに使用し、大きな成果を得てきています。 ストレングスの強化においてHRVが強力なツールとなる理由は、HRVが実際に、身体が交感神経過負荷あるいは副交感神経系過負荷になり始めている兆候を示してくれるからです。 自律神経のバランスが崩れていることを知るのに、筋力の伸び悩みや、更に悪いケースでは怪我を経験するまで待つ必要はなく、HRVにより、リアルタイムでバランスが崩れていることに気づいて、バランスを取り戻すために必要な行動をとることができるのです。 HRVをうまく使う鍵は、交感神経過負荷の状態になることなくストレングスを向上させるために、正しい方法でHRVを使う方法を正確に理解することです。このシリーズの次のパートでは、実際のストレングスアスリートが、自律神経系に対抗するのではなく、いかに自律神経系の働きを利用して強くなったのかのケーススタディをご紹介します。 ジョール・ジェイミソンのバイフォースHRVシステムの、新しいセンサーとパワーアップした最新アプリケーションが日本にも近日上陸します!バイオフォースHRVに関する最新情報のお知らせを希望される方は、是非こちらのリンクからメッセージをお送りください。
HRVでストレングスをハックする パート1/2
トレーニングは、何年もの時を経て劇的に変化してきました。紀元前6世紀には、クロトナのミロは、仔牛が成長した牡牛になるまで毎日肩に担いで運びました。知らず知らずのうちに、ミロは漸進性過負荷の法則を発見する過程にいたのです。簡潔に言えば、時間が経つにつれ仔牛は大きくなり、ミロはその重さに対応しなければなりませんでした。労苦の結果としてミロは、負荷に順応し、彼の筋肉は肥大し、強化されたのです。 ありがたいことに、現代の世界では、強くなるために動物を担ぐことに頼る必要はありませんが、私たちの身体は、本質的には昔と同じ方法で、現代のトレーニングに順応しています。ミロが成長していく仔牛を担ぎながら発見したことは、漸進性過負荷という、今日においてもトレーニングプログラムの最も大切な根本的要素です。 悲しいことに、この概念は数百年前に発見されているのにもかかわらず、効果的に応用するとなると、多くのトレーニングプログラムは今も暗黒時代の最中にあります… ミロの世界では、漸進性過負荷はシンプルでした。仔牛はどんどん重くなるため、ミロの身体は重くなっていく負荷に順応することを余儀なくされました。ミロは、重さの異なる様々な動物の中からどれかを選ぶ必要はありませんでしたし、仔牛を持ち上げる無数のバラエティーなども持ち合わせていませんでした。 ミロにとっては、強くなることは、どんどん重くなっていく仔牛を担ぐという単純なことでした。今日では、正確に何キロのウエイトを挙げ、どのくらいの頻度で行い、最も高いレベルの強さを築くための効果的なプログラムを作成する方法を解明することは格段に複雑になっています。 現代には、量、強度、頻度、トレーニング負荷、ピリオダイゼーションといったストレングスプログラムを作成するのに使う変数があります。問題は、大半の人がこれらの要素全てをどのように組み合わせるかに苦労し、結果として多くのストレングスプログラムが効果を発揮することに単純に失敗してしまっていることです。 幸運なことに、そのプロセスがどのように働くのか、現代のテクノロジーが古くからの問題をどう解決できるかをひとたび理解することができれば、強くなることはそれほど難しいことではありません。 ストレングス(強さ)とは何でしょう? 単純な言葉でいえば、ストレングスとは働いている筋肉による力の生産量です。現代の生理学の教科書を開けば、中枢神経系がどのように筋骨格系システムの数百万の筋繊維の収縮および短縮を起こす小さな電気刺激を運んでいるのか、の詳細な記述を見つけることができるでしょう。 この収縮が、四肢を加速する筋力を作りだし、それによって私たちは歩いたり、走ったり、跳んだり、投げたり、ウエイトを持ち上げたりできるのです。 この筋肉や筋力がどのように働いているのかに関するシンプルな見方は正しい一方で、かなり不完全でもあります。この見方や、無数の本、記事などで欠如していることは、それらが私たちの他の神経系の枝を完全に無視していることです。 この枝は紛れもなく筋肉を発火させる中枢神経系同様に大切です… ストレングスと自律神経系 トレーニングとなると、中枢神経系に比べてあまり注目されることがありませんが、自律神経系は強くなるための一つの重要な要素です。さらに言えば、多くの人が継続して強くなることに失敗している単純な理由が、中枢神経系ではなく自律神経系の内部の働きにあります… 中枢神経系の役割が、主に神経筋系を刺激して私たちを動かすことであるのに対し、自律神経系は私たちが生きるために必要な、その他全てのことを担っています。エネルギー生産、プロテイン合成、ホルモン生産、血圧、栄養素の消化および吸収、心拍数などを司っているのが自律神経系です。 私たちは、中枢神経系が適切に機能することなしに動くことはできません…しかし、自律神経系なしには、生きることができません。 自律神経系は、交感神経系と副交感神経系という二つの対照的な枝を通して、私たちが生き続けるために必要な複雑な仕事を行っています。筋力、あるいはフィットネスのあらゆる要素を高めることにおいて、この二つの枝はどちらも非常に大切です。 まずは交感神経側を見てみましょう。多くの人が、交感神経系が「闘争-逃走」システムとして説明されるのを聞いたことがあると思います。このキャッチフレーズが示しているように、交感神経系は、身体が闘争、あるいは逃走、また、トレーニングや、パフォーマンスをするための準備をすることにの責を担っています。 身体にとっては、闘争も逃走も、トレーニングもパフォーマンスも全て同じエネルギーと力の生産の劇的な増加を必要とする出来事の一つなのです。身体がその時々で必要な力を発揮できるように、交感神経系はアドレナリン、ノルアドレナリン、コルチゾール、そしてテスタステロンまで、様々なストレスホルモンの放出を誘導しています。 これらの異なるストレスに反応するたくさんのホルモンが一緒になって心拍数を上げ、エネルギー生産を高め、心臓や筋肉の細胞に直接結合して、筋肉が発揮できる力を劇的に増加させます。こういったホルモンの大量放出のおかげで、緊急時に赤ん坊がつぶれないように車を持ち上げるような、驚くべき力を発揮するようなエピソードがしばしば聞かれるのです。 しかし、多くの人が気づいていないのですが、アドレナリンやその他のホルモンをほぼ最大値まで高めるためには、このような過度な緊急事態は必要ありません。実際のところ、トレーニング時にはいつも起こっていることなのです。 交感神経系なしには、ストレスホルモンの助けにより簡単に持ち上げることのできるウエイトも持ち上げることはできないでしょう。 これこそまさに、とても多くの人々がワークアウト前に飲み物や刺激物を取り込まずにはいられない気分になる理由です。こういった刺激物が効く理由は、交感神経系を刺激して、どんどん高いレベルでストレスホルモンを放出させるからです。 表面的にはいいことのように感じますが、交感神経系を過度に刺激し続けた時、問題が起こります。 私が何を言っているかを理解するには、方程式の反対側にある副交感神経系を考える必要があります。交感神経系に対し、副交感神経系の仕事はエネルギーや力の生産を増すことではなく、エネルギー貯蔵や組織の修復及び成長を刺激することです。 ワークアウトの後、あるいはあらゆる種類のストレス要因を受けた後、身体はグリコーゲンレベルの復元、栄養素の貯蓄、プロテイン合成の増加などを始めます。この際に副交感神経系が働き、身体がカタボリック(異化)状態ではなく、アナボリック(同化)状態(エネルギー貯蓄)にいられるよう交感神経系の働きを最小限に抑えるのです。 交感神経系と副交感神経系はともに働くことで、筋肉が発揮できる力(ストレングス)を劇的に高めると同時に、素早く回復して、また力を作り出すことができるようにしています。この二つの関係とプロセスが、時間をかけて大きく、強く、パワフルな筋肉を築く働きをしているのです…少なくとも自律神経のバランスが正常である時には… ジョール・ジェイミソンのバイフォースHRVシステムの、新しいセンサーとパワーアップした最新アプリケーションが日本にも近日上陸します!バイオフォースHRVに関する最新情報のお知らせを希望される方は、是非こちらのリンクからメッセージをお送りください。
投球傷害:広背筋筋挫傷は起こるべきであるのか? パート3/3
動きの質 近年私が見ている投手のなかで、単なる投球ストレスの増加以上に、広背筋挫傷に共通してみられることがいくつかあります。 1. 僧帽筋下部が広背筋よりも弱い 僧帽筋下部は肩甲骨の後傾(少し後ろに傾く)を促し、上方回旋を助けることにとても重要な働きがあります。この2つの機能は、投球時のレイバック期に肩甲骨を正しい位置へ置くことに必要不可欠です。 反対に、広背筋は肩甲骨を“全体的に”下制する効果を持っています;広背筋は肩甲骨を下方に引きますが、後傾や上方回旋には貢献しません。これは、回旋腱板痛があり、肩甲骨の挙上(シュラッグ)代替パターンを強く持っている一般成人には役に立つでしょうが、大事な時に球関節の一致を“ぴったり”させるために、肋骨のの上で肩甲骨を持ち上げ、回りこまそうとする投手にはとっては実際に問題となります: そのように、広背筋と僧帽筋下部は肩甲骨の制御を“競合”していると言えます−そして、広背筋は横断面積と複数の付着部があるため、大きな優位性を持っています。広背筋は、たとえ意図していなくても、トレーニングし強化することがより簡単でもあるのです。 このような目的で、投手に腕のケアドリル中に“下と後ろに”とキューイングが出されていることを良く耳にします。僧帽筋下部を活性させることで後傾するよう改善するという意図は非常に良いのですが、結果は大抵違います。選手が僧帽筋下部が活動していると実際に感じる位置まで実際に後傾させなければ、わかりません。そうではなく、肩甲骨をさらに下制させ、それが広背筋優位戦略を助長してしまいます。それが、ジムに来た最初の日に、ほぼすべての投手に下制と後傾の違いを教えるりゆうなのです。 2. 回旋腱板が広背筋よりも弱い 前述したように、広背筋は肩においてとても多くの機能的な役割をもっています。広背筋の付着部が骨頭ではなく、骨幹部にあるため、広背筋は関節窩において骨頭の位置を直接的に制御することはあまりできません。事実として、投球のレイバック時に関節窩上で骨頭を前方(に向かって)へ滑らせることに貢献するため、実際は間接的に投球肩を不安定にさせます。この前方への滑りは回旋腱板の筋肉によって相殺されます。 動きを評価するときにはいつでも、私たちは骨運動学(全体的な運動−屈曲、伸展など)と関節運動学(関節内の微細な運動−回転、ロッキング、滑りなど)の両方を考慮しなければなりません。 理学療法士であるShirley Sarmannが何度も述べていることをわかりやすく言い換えれば、筋挫傷、または、使い過ぎた筋肉を見るときは常に、機能不全な協同筋を探すことです。この場合、広背筋と大円筋の協同筋は回旋腱板になります。広背筋が疼き始める前に問題が浮上するのは、上腕二頭筋腱、関節唇、関節包、あるいは、腱板自体であることが多いため、回旋腱板の弱化の結果として広背筋筋挫傷が起こると、我々はあまり考えることがありません。 3. 大抵は広背筋優位のリフティングを多く行っている経緯がある 野球界において、投球は広背筋優位です。呼吸も広背筋優位です。コアの安定性も広背筋優位です。そこに広背筋優位のリフティングを多く混ぜれば、特にシーズン中に、事態は良い方向へは向かいません。では、そのことについて話していきましょう: 私は、広背筋が“弱い”優秀な投手に会った事がありません。 私は相対的と絶対的計測の両方の観点から話をしています。相対的に言えば、選手に会って、“よし、50ポンドのベストを着て懸垂を行えば、必ずもっと強く投げられるし、健康になる。回旋腱板と僧帽筋下部が強すぎるね”などといったことは一度もありません。絶対的に言えば、広背筋の筋力と球速の関係性を調査した研究をまだ見た事がありません。強くなることが球速のアップに繋がらない、収穫逓減のポイントがあると強く信じています。さらに言えば、実際に向上を妨げることもあるかもしれず、傷害のリスクも上がるかもしれません。これには、肘の炎症も含まれます。重いウエイトでのプルアップやチンアップは、仕事で投球をすることがないウエイトリフターの肘内側にさえ、かなりのストレスを与えます。 エリートレベルの垂直跳びをするために、800ポンドのスクワットをする必要がないのと同様に、(でも200ポンドしかスクワットをできないのであれば、恐らくそれほど高くは飛べないでしょうが。)広背筋は強く投げるために十分な強さがあればいいのです。 さらに言及すべき事実として、デッドリフト、ファーマーズウォーク、ダンベルランジ、そして、おもりを手に持って行うそれ以外のすべてのドリルでは、実際にかなり広背筋にテンションがかかります。腕を身体の側面に置くと、広背筋はほぼ完全に短縮位になります。そして広背筋は、かなりの外部負荷に対してコアを安定させるためにかなり激しく働きます。 覚えておいて欲しい事は、ストレングストレーニングプログラム全体で、どれだけ広背筋優位の動作をアスリートに行わせているのかを、批判的に検証しなければならないということです。私の経験則から言えば、オフシーズンのプログラムでプルアップを行う“権利を得る“ためには、アスリートは肩の完全屈曲と十分な腱板の筋力を持っている必要があり、シーズン中のプログラムではプルアップ、あるいは、プルダウンは行わないということです。水平に引く動作を様々なバリエーションで行うことで、必要なことのすべてをまかなうことができます。 4. 選手は大抵、あったとしても、それほど多くのマニュアルセラピーを受ける事なく、多くのイニングを投げたり、登板し続けています。 NASCARsは普段乗る自動車に、より多くの維持費をかけることを要求します。その車の限界まで走らせるのであれば、オイルやタイヤをより頻繁に交換したほうがよいでしょう。同じ事が高いレベルで投球している腕にも言えます。マニュアルセラピーは、可動域を維持、あるいは、改善させ、登板間にしっかり回復させることによって、大変革をもたらします。 広背筋と大円筋は投球動作時にかなり酷使されるので、多様な軟部組織へのアプローチでそれらの“柔軟性”を維持し続けるために、定期的なルーティーンとしてマニュアルセラピーを受けることは重要です。カッピング、グランストンテクニック、アクティブリリーステクニック、鍼治療、その他の伝統的なマッサージなどにかなり良好に反応するアスリートを見てきました。人それぞれではありますが、すべての人に必要なのです。 また、言及すべきこととして、広背筋のトリガーポイントは、実はその他の部位の不快感と関係している可能性があります。マサチューセッツにあるCressey Sports performanceのマッサージセラピストであるChris Howardは下記のように記述しています: “広背筋のトリガーポイントは、肩甲骨の内側縁、下縁から肩後方、上腕三頭筋の内側から薬指、小指に至るまで痛みや不快感を放散します。トリガーポイントは痛みを引き起こすだけでなく、神経症状にも似ていて、その関連部位に感覚異常や痺れを引き起こします。この記事で特に興味深いのは、それらが活動性、あるいは、潜在性であるに関わらず、トリガーポイントは筋肉の活性パターンを変化させる能力を持っているということです。言い換えれば、肩甲帯の筋肉にトリガーポイントが存在すれば、通常の活性パターンが変化し、小さな筋肉の誤使用に繋がる可能性があります。” 5. 前方コアのコントロールが不十分である 広背筋が固くなれ(あるいは、短くなる)ば、前方コアのコントロールがさらに必要になります。 コアがコントロールされていなければ、広背筋は最終可動域である肩完全屈曲位に達するチャレンジをされることがありません。オーバーヘッドの動作時に肋骨から骨盤を固定するのに十分な固さを加えることを学ぶことが、腰部を保護することに繋がることは明白ですが、広背筋を“より健全”にさせるという効果も付加されます。 6. 引く動きを広背筋優位の動きに変えている。 この点について一からやり直すよりも、少し前に私が撮影した詳細なロウイングテクニックのビデオを確認してみてください。特に、1、2、4、6番のポイントはかなり広背筋が優位になっている個人に顕著に見られます。一回で複数の間違いを見つけられないこともよくありますが、まずこのビデオをすべて見る事をお勧めします。 7. 肩関節屈曲を失っている。 筋肉が基本的に短いのであれば、筋挫傷を起こしやすくなるでしょう。1−6のポイントを長期にわたって満たしていない人には良く見られます。 予防 数年前に、ACL予防プログラムの熱狂の中心にいたMike Boyleは“ACL傷害予防とは、ただ良いトレーニングをすることだ”という大胆な声明を発表しました。要するに、アスリートに包括的で、よく考えられたプログラムと、正しいトレーニングテクニックを保証する確かなコーチングで良い動きを教えることができれば、ACL傷害の発生をかなり大きく減少させることができるのです。私は大いに賛成ですし、投手における広背筋筋挫傷予防トレーニングも、ただ良いトレーニングをすることだと主張します。 定期的なマニュアルセラピーで組織の質を維持し、日々のフォームローリングで補う。 アスリートにプルアップをする権利を獲得させる。 シーズン中にプルアップ、または、プルダウンを行わない。 回旋腱板、僧帽筋下部、前方コアが、広背筋に負けないように強化すること。 デッドリフト、ファーマーウォーク、そして、ダンベルランジやスプリットスクワットのようなドリルのやり過ぎを認識する。これらは素晴らしいエクササイズで、意義のあるものですが、何であってもやり過ぎは問題になります。 適切なトレーニングテクニックを確保する。特に、全く使うべきでないときに、広背筋を過度に使用しないようにする。 劇的に球速や運動量が上がっている選手を注意深く観察し、あまりに急速に投球数を増やすことを避ける。 絶えず投手からのフィードバックをもらい、軽度の広背筋痛であっても、それが完全な傷害になる前に発見する。 アスリートが一旦大円筋や広背筋筋挫傷を患ってしまうと、事態がかなり難しくなってしまうことは明白です。これがこの記事の本当に大事なポイントです:いつもの通り、予防がもっとも最良のトリートメントなのです。