血流制限トレーニング:知る必要のあることすべて パート2/2

理学療法における血流制限 どんな怪我であろうと、一般的に筋萎縮と弱化はよく見られる機能障害です。 これらの機能障害への取り組みは、多くの場合、直ちに行われます。神経筋電気刺激、バイオフィードバック、等尺性運動、および相互教育は、組織がまだ損傷している早期に開始できるストレングスの方法のいくつかの例です。 残念ながら、初期の治癒段階では、治癒しかけている組織に過剰な負荷をかけダメージを与えてしまう可能性があるため、高負荷は適切とは言えません。 これは、怪我からの回復とストレングスの獲得を同時に行おうとする時、問題になります。 レジスタンス・トレーニングのガイドラインでは、最大反復回数が1回(1RM)の60%を超える高負荷で8〜12回の反復を推奨しています。 私たちが求める適応を得るためには、適切な負荷が必要です。さらに複雑な問題は、リハビリテーションの初期段階での1RMテストが適切でないことです。 1RMの推定モデルはありますが、理想的ではありません。 BFRは、負傷後の萎縮を軽減するだけでなく、低負荷環境でも筋力の強化ができる選択肢を提供してくれます。基本的に、トレーニングは、セット毎に1RMの20〜30%の負荷で15〜30回繰り返します。このトレーニングの方が、強度の高い負荷に耐えられるだけの準備がまだ整っていない治癒過程の組織には、はるかに適しています。 血流制限トレーニングに効果があるか? BFRトレーニングの有効性を文献に記した数多くの研究が発表されています。 血流制限トレーニングは、低負荷環境にも関わらず、筋萎縮を軽減し、筋肥大を促進し、筋力を高め、有酸素能力を向上させるなど、すべてに効果があることが示されています。 すべて素晴らしいように聞こえますが、診断別のエビデンスはあるのでしょうか? 血流制限トレーニングの効果が非常に多いのであれば、診断別でもプラスの結果が期待できますね?そう、その通りでしょう! ACL再建後のBFR 長年の研究から、ACL再建術のような膝の手術後に大腿四頭筋の筋力が失われることが分かっています。幸いなことに、BFRは、ACL再建術後の筋力と筋肥大の障害を克服するのに非常に適しており、多くの研究でBFRの使用による効果が示されています。 さて、他の診断名におけるBFRの研究はそうたくさんないかもしれませんが、直感的には、すべての膝の術後には、大腿四頭筋の筋力と肥大化が必要なので、同様の効果をもたらすとポジティブに考えるべきでしょう。 膝の痛みにBFR 間違いなく、私たちのところに来院する人たちの主な動機は、痛みの緩和です。高めの負荷が、すでに過敏になっている組織(または患者!)を増悪させるかもしれないので、低負荷でのBFRトレーニングが魅力的になるのは当然のことです。 多くの研究で、膝蓋大腿痛や変形性膝関節炎の痛みの軽減、およびACL再建術後の機能や変形性膝関節炎における機能にもBFRの効果が示されています。 固定後のBFR 私たちは誰もが、固定が筋に及ぼす悪影響を知っています。そのような患者を見たことがありますね(また、あなた自身が術後に経験したかもしれません!)。ご想像のとおり、BFRは、固定のような症例でも効果があるかもしれません。患者はベッドから立ち上がることができず、まったく動けないかもしれませんが、その場合でも、BFRが役に立つかもしれないのです!素晴らしいですよね? 高齢者におけるBFR もし、あなたのクライアントが、アスリートではなく、どちらかというと中高年や高齢者の場合でも、良いニュースがあります。BFRはこのカテゴリーの人たちにも効果があります。 いくつかの研究では、BFRが高齢患者の痛みの緩和と機能向上に役立っていることが分かりました。 確かに、もっと注意を払い(以下を参照)、このカテゴリーのどのような人を治療しているのかを知る必要があります。しかし、考えてみれば、低めの負荷で筋力トレーニングの効果が十分得られるのならば、それはともに有益な解決策です! このカテゴリーの人たちの中で、私たちが気づいた唯一の問題といえば、不快感ですが、経験から言ってもう少し納得のいく説明が必要なのかもしれません。 血流制限トレーニングは安全か? 安全性について掘り下げる前に、何事も誤った人たちにより不適切に使用されたり、間違った人達に使用されれば、安全ではなくなることがあるということに、留意しておくことが大切です。 そうは言っても、BFRトレーニングは安全であることが示されています。 BFRは、さまざまな筋骨格系の病理で使用されており、これまでのところ、BFRトレーニングの禁忌がない限り重篤な副作用は発生していません。 BFRトレーニングの一般的な副作用は、一過性のことが多く、しびれやあざ、不快感、点状出血、皮膚の擦過傷、遅発性筋痛(DOMS)などがあります。 これらは通常心配ありません。ただし、心臓病や血液凝固の疑いがある患者には注意が必要です。 幸いにも、最近のレビューでは、血栓や深部静脈血栓症(DVT)のリスクが非常に低いことが示されました。 現時点では、有害事象のリスクを軽減するために、手術の約2週間後にBFRトレーニングを開始することをお勧めします。 BFRトレーニングの禁忌とは? 上記の安全ガイドラインに基づいて、BFRの禁忌は、血管不全または心臓関連が中心です。 身体が動脈血を組織に送り込もうとし、拍出量と心拍数の増加により、心臓へのストレスが増す可能性があります。 高血圧、糖尿病、脳卒中または深部静脈血栓症の病歴、心臓疾患、活動性感染症、妊娠、血液凝固障害、またはその他の血管不全(静脈瘤など)のある人は禁忌です。 とはいえ、患者がBFRトレーニングに適しているかどうかを判断するには、かかりつけ医に相談することをお勧めします。よく考えてみれば、これらの多くは他の数ある医療機器の使用や治療方法にも禁忌となっているものです。 つまり、常識的に頭で考えて。 BFRでも、みなさんが使っている他の療法と同じように、臨床的推論と意思決定が重要なのです。

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トミー・ジョン・リハビリの8つの鍵 パート2/2

強さだけが全てではない 肘、肩甲骨、体幹、コア、下半身を鍛えることについて、これまで沢山話してきました。 しかし、ほとんどの人は、これを、強化エクササイズを行うことによって、これらの部位を強くするという意味にとらえています。 それはまったくその通りであり、重要なことです。 しかし、過去の問題の上に筋力を加えても、本当の問題を覆い隠してしまうだけです。 また、可動性と動的安定性の回復にも同等の注意を払わなければなりません。 ボールを効果的に投げるには、強くそして安定していることが必要です。 投手は関節が緩く、他の人達よりも遠くまで曲げたり伸ばしたりしやすい傾向があります。 これは、速球の球速を上げ、より良い投手にするために非常に効果的なことです。 しかし、それは投手が怪我をする理由でもあります。 肘と肩の関節には、もともと不安定性があることが分かっています。 これを打ち消すためには、完璧な動的安定性が必要なのです。 動的安定性とは、腕を安定させるために筋肉が適切なタイミングと強さで収縮する能力のことで、基本的に腕が身体から飛んでいくのを防ぎます。 これはトレーニング可能ですが、自分でやるのは難しいものです。 神経筋のコントロールを強化し、筋肉をダイナミックに安定させる能力を最大限に引き出すために、私達は一連のエクササイズを段階的に漸進させて行います。 プログレッションのステップを飛ばしたり急かしたりしないこと 私のところに相談に来るアスリートで、他の場所でリハビリをしている人によく見られる欠点の1つは、リハビリの進行が単にプロトコルで、時間に基づいていると期待していることです。 「今16週目ですが、医師から投げていいと言われました。」と聞くことがよくあります。 OK、いいでしょう、UCLの靭帯の内側は、ドクターの頭の中では投げられるほどに治癒しているでしょう。 でも、あなたは、投げる「準備」ができていますか? つまり、あなたは私の検査で良い状態に見えるのでしょうか? 動きは回復しましたか? よく動けますか? 筋力は回復しましたか?適切な動的安定性を示していますか? 最も重要なこととして、私は常に彼らのこれまでのリハビリプログラムを見直し、適切な順序を踏んでいることを確認します。 もしあなたが今日まで、投げる準備をするための正しいプログラムを行っていないのなら、私と一緒にボールを拾うことはないでしょう。 トミー・ジョン手術を受けたのが何週間前であろうと私には関係ありません。 投球プログラムでメカニクスに取り組む あなたがUCLを負傷した主な理由は3つあると思います。 一番の要因は使い過ぎ。 投げれば投げるほど、靭帯への負担は大きくなります。 また、不適切な身体的準備もUCLの怪我につながると思います。 しかし、投球のメカニズムも靭帯を痛める可能性に大きく影響することを忘れないでください。 逆Wの字で投げるなど、UCLへのストレスを増大させることが科学的に証明されている力学的な欠陥は数多くあります。 もしあなたがピッチングに真剣に取り組んでいるのであれば、目標達成のために、理学療法士、ストレングスコーチ、ピッチングコーチの3人の鍵となるコンサルタントがチームに必要です。 共に働くことで、このチームは、強力で健康的な復帰のための主要な基盤をすべてカバーします。 あなたの投球の漸進は長いものになります。 最初のうちは、メカニクスを気にするのではなく、ただ投げることとキャッチボールをすることに集中してほしい。 しかし、一旦ピッチングやマウンドから投げることに近づくと、このスイッチは切り替わります。 早くから良い習慣を作り、トミー・ジョン損傷につながった可能性のあるメカニカルな要因のいくつかをピッチングコーチと一緒に解決しましょう。 ゆっくりと段階的な投球のプログレッションに従う トミー・ジョン手術後、リハビリの過程では本当によく復帰できたのに、投球プログラム中に問題が出てくることはよくあります。 ここで考慮すべき重要なことがあります: 一時的な問題が出てくることがあるでしょう。 私は通常、遠投を始めるときやマウンドから投げ始めるときなど、転換期にこのような一時的な問題を目にします。 強度が上がったり、量が増えたりすると、このようなことが起こるかもしれません。 これらはよくあることで、予想されたことです。 今日までの適切な努力と進歩があれば、このような出来事にうまく対処することができる状態になっています。 鍵となるのは、スピードアップ、スローダウン、そしてまたスピードアップというジェットコースターのようなプログレッションを避けることです。 ゆっくりと段階的に進めていくのが常にベストです。 ほとんどの医者やセラピストがあなたには知られたくない、超スーパーな秘密をお教えしましょう。 投球プログラムを始めて1-2ヶ月は、おそらく素晴らしい気分で100マイルを投げられると思っているでしょう。 この衝動に抵抗してください。 あなたは準備ができていないし、肘(あるいは肩)を痛めてしまいます。 これを読んでいる青少年や保護者の皆さん、どうか、どうか、どうか、投球復帰を急がないでください。 はい、私たちの研究によると、投手は手術後9~12カ月で投球に復帰することが示されています。 このような研究には多種多様な人々がいることを理解してください。 私のMLB投手の多く、特にベテラン達は10~11カ月で復帰しています。 この復帰日を決めるには様々な要素があります。 しかし、16歳はもちろんのこと、ベテランのオールスター選手がトミー・ジョン手術から9カ月で復帰することには、いい印象すら持ちません。 青少年や大学の投手でも、12カ月を目安にするといいでしょう。 最初から正しく行うこと。 適切なケアと注意を払えば、UCL再建手術は本当に良い結果をもたらします。 これらトミー・ジョン・リハビリテーションの8つの鍵に従えば、すぐにマウンドに戻ることができます。

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トミー・ジョン・リハビリの8つの鍵 パート1/2

野球シーズンが本格化するにつれ、UCL再建手術やトミー・ジョン手術が必要な選手が数人現れ始めています。 野球シーズンの最初の1ヶ月は怪我が最も多いことがわかっています。 不運にも肘を痛めてしまった方、お気の毒だと思います。 でも幸いなことに、トミー・ジョン手術はかなり成功しています。 適切なトミー・ジョン・リハビリを受ければ、合併症を最小限に抑えて投球に復帰できるはずです。 知識は力です。ですから、可能な限り回復するために、私が考えるトミー・ジョン・リハビリの鍵について教育したいと思います。 トミー・ジョン手術の5つの神話についての、私の過去の記事もおそらく読み返してみるべきでしょう。 以下の鍵に従って、成功するためのベストポジションを確保してください。 肘の動きの損失を避ける トミー・ジョン手術後の最も一般的な合併症の1つは、肘の動き、特に肘の伸展が失われることです。 肘は非常に適合した関節で、余分な空間やエラーの余地はあまりありません。 ですから、手術をして瘢痕組織が形成されれば、いつでも動きを失うリスクがあるのです。 問題は、一旦動きが滞ると、長い間滞ってしまうということです。 これは、あなたの投球への復帰を遅れさせることになりえます。 何年もかけて、私たちは肘の完全な伸展を少しでも早く回復させることに重点を置いたリハビリプログラムを進歩させてきました。 私の目標は、もし可能であれば3~4週間までに肘を完全伸展できるようにすることです。 そのために重要な鍵となるのは、早期のリハビリと、トミー・ジョン・リハビリの経験を持つ熟練した理学療法士を見つけることです。 この手術はメディアでよく取り上げられますが、全体から見れば比較的まれな手術であるため、多くのセラピストはこの手術に携わったことがありません。 熟練したセラピストなら、いつ強いればいいのか、いつ手を引けばいいのかがわかりますから、彼らにこのプロセスを導いてもらいたいものです。 この時代に、早期のリハビリを重視しない外科医がいることには、いまだに驚かされます。 自分自身の責任において、確実に動きが滞らないようにしましょう。 初期段階における不均衡への取り組み UCL再建術を受ける選手には、トミー・ジョン・リハビリテーションには3つの段階があると伝えています、「退屈な段階」、「単調な段階」、そして高度なエクササイズを再開し、最終的には投げることができるようになる「楽しい段階」です。 これを分解すると、最初の4~6週間は、手術からの回復、痛みや腫れの軽減、動きの回復、基本的なエクササイズの開始などに集中します。 それからの2ヵ月は、筋力、可動性、安定性を回復させることで構成されます。 これは肩のプログラムのエクササイズで、小さなダンベルを使い、週ごとにゆっくりと進歩させていきます。 この段階は、より高度なエクササイズのための基礎作りだと考えてください。 これらのレンガを積んでいくのは本当に単調な作業ですが、それなしには良い結果も、自分の可能性を最大限に引き出すこともできません。 ここが、ほとんどのリハビリプログラムにおいて、トミー・ジョン手術を必要とすることにつながったであろうバランスの崩れを改善する、絶好の機会を見逃していると思うところです。 姿勢、コアの安定性、肩甲骨のアライメントなどに問題があることが多いのです。 この時期は、投げる腕の軟部組織に関する長年の制限に取り組む絶好の機会です。 ここでは手技療法が鍵です。 野球の投球はUCL靭帯に大きな負担をかけます。 しかし、軟部組織の制限、可動性、そして肩や肩甲骨や体幹やコアの筋力母制限肩、肩甲骨、体幹、体幹の軟部組織、可動性、筋力の制限によって、それが怪我につながったのではないかと、私はよく考えます。 この時間を使ってニュートラルに戻し、投げ始める準備ができたときに、成功するためのベストポジションを取れるようにします。 肩と肩甲骨へのフォーカス 私のリハビリのフォーカスが肩、肩甲骨、体幹、体幹、脚にあり、肘にないことに、ほとんどの選手達が驚きます。 誤解しないでください、私達は肘への取り組みを十分行っています。 前腕の尺側手根屈筋と浅指屈筋はUCL靭帯の直上にあり、関節の動的安定性の24%を提供していることが示されています。 しかし、投球アスリートであれば、肩と肩甲骨が強調されることが多いものです。 投げる動作は、脚から体幹を通り、最終的に腕からボールに伝わるエネルギーの波だと考えてください。 可動性、筋力、安定性に制限や不足があると、エネルギーの伝達が非効率的になり、肘に余計な負荷がかかることがよくあります。 UCLを損傷する素因のほとんどは、筋力の低下と肩の動きの変化にあります。 コアと下半身の統合トレーニング 肩と肩甲骨を重視するのと同様に、トミー・ジョン手術から復帰したときに本当に最適なパフォーマンスを発揮するには、適切なコアと下半身のトレーニングを統合する必要があります。 運動連鎖に関する上記のコメントは、ここでも当てはまります。 肘の治療や幾つかの肩のエクササイズのみを行う時代は終わったのです。 適切なリハビリテーション・プログラムでは、最高のパフォーマンスを発揮するために、コアと脚に注意を払う必要があります。

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肩甲骨と肩の動的可動性のアセスメント

エリック・クレッシィと共同で指導したセミナーの一部から、マイク・ライノルドが参加者モデルの動的なアセスメントを行っている部分を抜粋しています。挙上の動きによる左右差は?その左右差はどこに原因があるのか?

マイク・ライノルド 3:19

腕の頭上への可動性向上

上半身にテーマを置いたセミナーから、マイクが参加者をモデルとして、腕の頭上への挙上の動きと身体を交差する動きのリストアのための方法として、大円筋周辺の軟部組織へのアプローチと、それによる変化をデモで紹介してくれます。

マイク・ライノルド 4:56

PCL損傷の治療は、手術をしなくても成功する

ACL(前十字靭帯)損傷よりは頻度は少ないものの、PCL(後十字靭帯)の損傷も起こる可能性はあり、適切な処置をしなければ深刻な膝の問題を引き起こします。PCL損傷は、膝からの転倒、交通事故、スポーツ障害などのよくあるメカニズムで起こりえます。場合によっては靭帯の再建手術が推奨されますが、長期的にみて、ACL損傷の手術の結果よりうまくいかない傾向にあるようです。 PCLを損傷すると、膝が緩くなり膝関節炎の初期兆候が現れやすくなります。膝の機能を修復し、関節炎への進行を最小限に抑えるために、膝をコントロールする筋群の筋力強化によってアプローチする理学療法が一般的に推奨されています。 PCL損傷の治療は、手術をしなくても成功する 権威あるAmerican Journal of Sports Medicine(アメリカン・ジャーナル・オブ・スポーツメディスン)に発表された最近の研究では、手術の介入なしでPCL損傷の治療に成功したことが立証されました。著者は、PCL単独の損傷患者群に何が起きたか、また彼らの膝の状態を研究するために、最長21年にわたって経時的に追跡しました。 長期的な結果は、PCL損傷を患っていても活動を継続することができ、筋力や可動性もよく、手術介入なしの膝に満足しているということを示唆しています。 ほぼ90パーセントの患者に関節炎の兆候が現れませんでした。 思うに、このような長期的な好成績のための重要な点は、損傷後の適切な理学療法とフィットネスプログラムを通して何年も活動的でい続けることにあります。膝の強さを維持することが必要なのです。 PCL損傷が関節炎に移行しやすくすることは、知られています。だからこそ、膝を安定させ関節や軟骨への負荷を軽減するために、膝と下肢の筋群を強化することに重点を置いているのです。強く活動的に保つことにより、今後起こりうる膝の問題を回避できるかもしれません。今、膝のために費やした時間は、これから先の問題の予防に役立つはずです。 私達の行うリハビリテーションの焦点は、ストレングスエクササイズとダイナミックスタビリティエクササイズ(動的安定化を図るエクササイズ)を組み合わせることによって、下肢を強く安定させることです。 最も重点をおくべき筋群のひとつは、大腿四頭筋です。数多ある大腿四頭筋の機能のひとつに、脛骨の後方移動を制御することで、PCLによる膝の安定を補助するということがあります。大腿四頭筋の筋力を保つことは、PCLにかかる負荷を軽減します。下肢全体をコントロールする股関節の筋群にも同じ原理が当てはまります。 PCL挫傷の生体力学 的確な筋群に重点をおくのと同じぐらい重要なことに、PCLに過剰な負荷がかかるエクササイズを避けるということがあります。生体力学的側面からの私達の研究では、損傷後に避けるべきエクササイズを特定することができました。たとえば、ハムストリングカールは、損傷したPCLに負担をかける恐れがあります。 下記のグラフで、開放運動連鎖(ニーエクステンションのような)閉鎖運動連鎖(スクワットのような)のエクササイズのどちらにおいても、膝が屈曲していればしているほどPCLにかかるストレスが増加傾向にあることが分かります。 グラフ中の曲線の大きな頂点は、PCLへのストレスが大きいことを示しています。PCLにダメージを負った膝では、この負荷が関節の挫傷や弛緩を引き起こし、やがて膝関節と膝蓋大腿関節の軟骨の摩耗を誘発します。 PCL損傷のリハビリテーションの実施や、PCL損傷後のフィットネスプログラムへの参加は、単純なものではなく、万人用の型にはまったプログラムは避けるべきです。PCL損傷が膝関節の機能に及ぼす影響を十分理解した専門家を探す必要があるでしょう。このことが、全ての人に対しての特有な理学療法とフィットネスプログラムは個人に合わせたものでなければならないと感じる理由のひとつなのです。 重視すべきエクササイズと筋群、そして避けるべきエクササイズがあるということが、お分かりになったと思います。 PCL損傷だからといって落ち込む必要はありません―― 適切なPCL損傷後リハビリテーションガイドラインに沿って、下肢を強く維持し活動的でいれば、関節炎の早発の可能性を最小限に留めることができるという素晴らしい結果が報告されています。

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前十字靭帯のハムストリング腱移植は膝蓋腱移植よりも失敗率が高いのか?

2014年2月に発行されたAmerican Journal of Sports Medicineには、25,000名以上の人々においてハムストリング腱移植(以下HG)と膝蓋腱移植(以下PTG)を使用した前十字靭帯(以下ACL)再建手術後の再手術の割合を比較する2つの研究が掲載されていました。その研究における2つのグループの総数には、かなり説得力があり、これほど大きいサンプルサイズは充分に議論する価値があります。 近年、ACL再建術における移植腱の選択は、徐々にPTGよりもHGを好む方向に移行してきています。最近の報告では、デンマークやスウェーデンでは、ACL再建術の84%がHGを使用しており、ノルウェイでは60%になります。現在、アメリカにおいても、HGがより一般的になってきており、ACL再建術の42%にが使用されているのに対し、HGの使用は44%になります。 多くの研究論文では、どちらの移植でも膝の安定性は良く、患者の主観的評価点も非常に高いという結果が示されています。PTGの主訴は、術後に膝蓋大腿痛や可動性の減少などのリスクが高まるということです。安定性が高く、自己評価点が高いという報告にも関わらず、再再建術は考慮すべきより重要な要素であるかもしれません。 前十字靭帯のハムストリング腱移植は膝蓋腱移植よりも失敗率が高いのか? 最初の研究は、2005-2011年の間にACL再建術を行った13647人を含む、全国的なデンマーク膝靭帯再建術登録を調査したものであった。 HGの再建術後1年以内に再再建術を行った割合は0.65%で、術後5年以内では4.45%であった。PTGの再建術後1年以内に再再建術を行った割合は0.16%で、5年以内では3.03%であった。 実質的には、ACL再建術後1年以内におけるHGでの再再建術のリスクは4倍以上であり、5年以内では1.5倍であった。 2つめの研究は、2004-2012年に間にACL再建術を行った12643人を含む、全国的なノルウェー十字靭帯登録を調査したものである。 術後5年以内におけるHGの再再建術を行った割合は5.1%であり、PTGにおけるそれは2.1%であった。この研究では異なった年齢層に分けて調査しており、数値の増加は、すべての年齢層で共通していることが分かった。しかし、若年層(15-19歳)では、5年後の再再建術率はHGで9.5%であったのに対し、PTGでは3.5%であった。 これら2つをまとめると、HGでは再再建術のリスクが2倍高まるが、若年層では3倍近くまでそのリスクが高まります。 ACL再建術ではどちらの腱移植も素晴らしい選択である 現実に数値を評価すると、どちらの腱移植も素晴らしい選択であり、再再建率も低いことは明白です。2つの術式を比較したとしても、現実的にはACL再建術後の再再建術率はHG、PTGのどちらでも低いのです。どちらの腱移植を利用するかを決定するためには多くの要素が絡んできます。また、骨格的に未成熟な患者には適応できないということを認識しなければなりません。その再再建術に関する情報は、全体像の一片にしかすぎないのです。 PTGについては、失敗率も低く、骨と腱の接合であるため、動物モデルにおいて治癒が早いことが報告されています。これは事実ではあるものの、また、膝前方痛や可動制限が増加するとの報告もあります。これに関しては以前にもお話していますが、私は、適切な理学療法を行えば(さらに患者の優れたコンプライアンスがあれば)、術後PTGで起こりえる問題の多くは最小限に抑えることができると本当に信じています。ACLのリハビリテーション初期、特にこれらの要因に注意すれば、問題は解決できるのです。 とはいえ、HGでは術後、ハムストリングスの筋力が落ちることが報告されています 。ハムストリングスは、脛骨が前方にシフトすることをコントロールする役割を持つことを考えれば、HGにおいてACL再再建術の割合が高いことを調査する際、これは考慮されるべきことです。おそらく、腱移植自体とはほとんど関係がなく、ハムストリングスの筋力との関係性がより多くあるはずです。 いずれにせよ、ACL再建後の再再建の割合は、PTGを使用した場合よりも、HGを使用した場合のほうが高くなります。

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スクワットの完璧なフォームは神話か?

私は、長年にわたって数千人のスクワットの改善に努めてきました。健康な人からケガを負った人まで、彼らの身体を最適化し身体能力を最大限に引き出す仕事に携わることで、私の理学療法士としてのキャリアは進化してきました。実際、「理学療法士」というより「身体能力療法士」と名乗り始めています。 最近では、スクワット向上の方法を学ぶために私のところにいらっしゃる方が増えています。スクワットの完璧なフォームがなかなか分からない理由は、多くの場合、次の2つに1つです: スクワットするとどこかが痛い 完璧なフォームでスクワットできない 私は、全身の評価の後、必ずスクワットのフォームも評価します。SFMA/FMS評価のような厳格なディープスクワットテストは行いませんが、負荷をかけたスクワット行います。私からは何も言わず、ただ観察するようにします。その様子を録画するのですが、これは要するにスクワットに関するキューイングを一切与えず、私の指導なしでどうセットアップし、どうスクワットを行うかを観察するためなのです。 完璧なフォーム、または少なくとも彼らが考える「完璧なフォーム」でスクワットしようと試みる人を多く見受けます。恐らくスターティングストレングス(Starting Strength)を読んだか、週末に開催されたレベル1の認定コースに参加したか、あるいはクロスフィットボックスの基礎コースを修了したところなのかもしれません。「スクワットの完璧なフォーム」の追究はそれほど簡単なことではなさそうです。 本当にスクワットの完璧なフォームというものが存在するのか、私も疑問を抱くようになってきました。 スクワットの完璧なフォームとは神話なのか? 誤解しないでいただきたいのですが、どこからか始めなくてはならないのです。完璧なフォームでスクワットしようとすることを諦めなさい、と言っているのではありません。スクワットの方法には善し悪しがあります。いずれにせよ、どこかの段階で始めなくてはならないのです。 ただ、指導者は指示を与えすぎているのかもしれないと私は感じています。スクワットをするだれに対しても同じキューイングを与えている気がします。もちろん、スクワット時に起こる多くの誤りは避けるべきですが、誤りを正すことと、誤りがないにもかかわらず過剰に補正するのとでは意味が大きく異なります。 分かりやすい例として、もしあなたが膝同士を近づけるように、つまり両膝が内方に動き外反してスクワットをしたとしましょう。このような時、膝を外方に向けるようにキューイングするのはタイミングとして良いでしょう。ただ、膝を外方に向け過ぎることもあるわけで、正しいフォームでスクワットしている人に両膝を外方へ強制的に向けるようにキューイングするのはどうかと思うのです。膝が外反するのを予防する良い考えではありますが、だからといって反対の方向に行き過ぎてもダメなのです。 もっと大切なことに、教科書通りのスクワットが存在するのか定かではないということがあります。私達の身体には個人差があり習慣も異なります。「あなたの身体」に適した教科書通りのスクワットフォームがあったとしても、それはまた隣の人とは異なるものなのです。 そのため、適切な指導と個人に合わせたプログラムが、スクワットフォームを完璧にする成功への最良の方法です。完全なスクワットフォームに達成する能力を制限してしまう、だれもが持っているいくつかの制限があります。 解剖学的制限 すべての人には、解剖学的な個人差があることを、まず理解しておく必要があります。解剖学的個人差がどれだけスクワットのメカニズムに影響を及ぼすかについて、ブレット・コントレラスは論じてくれました。そして、ライアン・デバルも素晴らしい記事を書いています。実際、骨盤と大腿骨は非常に幅広い個人差があります。 ポール・グリリー氏が撮ったさまざまな骨盤と大腿骨の写真をご覧ください: これらの写真を見ると、体内の構造が人によってこれほど異なるということに驚きを感じてしまいます。大腿骨が成す角度や寛骨臼にどのようにはまっているのかは、人によってかなり大きく異なるのです。 このことが、完璧なフォームでスクワットができない理由に最も大きな影響を及ぼす要因であると気がつきました。これらの写真を見れば、スクワットのフォームがひとつしかないと言うことはできませんよね?バリエーションの範囲がこんなに広いのですから。 残念ながら、解剖学的制限に対する手っ取り早い解決策はありません。それよりも、詳しい生体力学的な評価が、個人の解剖学に合った最適なスクワット方法を決定するのに役立つでしょう。つまり、時にはスクワットの深さを制限する必要があるということです。聞きたくないかもしれませんが、人によっては、解剖学的に限界があり、腰部に顕著な圧迫をかけることなく深いスクワットのフォームを達成するために物理的に股関節の屈曲が十分にできないこともあるのです。 可動性の制限 幸いなことに、顕著で根本的な解剖学的多様性がすべての人にあるとは限りません。関節包や筋組織の可動性制限があるだけのときもあります。たとえば座位など、ある姿勢を長年にわたりとっている人に多くみられます。ほとんどの成人に見られるのは改善可能な姿勢制限と可動性制限ですから、スクワットの向上が見込まれます。 ジムでスクワットを始めたいと思っている成人に指導する際は、このことを頭の隅に入れておいてください。彼らの動きのパターンを改善するまでは、恐らくすぐスクワットをすることはできないでしょう。この過程で慌ててしまうと、フィットネス初心者はスクワットすることによってケガをする傾向にあります。適切な力学でスクワットをする可動性を持ち合わせていないからです。この可動性がなければ、どこか別の部位に代償性の動きをつくり、そこに過剰な負荷をかけることになります。 詳細な評価の過程により、解剖学的または単純な可動性の制限があるかどうかを把握することができます。 赤ちゃんのようにスクワットすることについて、ひと言コメントをしておきたいと思います。赤ちゃんが完璧なスクワットができるのだから成人もできるはずでは?という意見が多いのですが、この考え方はおかしいと思います。赤ちゃんがうまくスクワットできる要因は、頭部と身体の大きさの比率や大腿骨の高さ、寛骨臼の位置などいくつもあるからです。そして最も大きな要因として、骨がまだ結合していないという当たり前の事実があります!運動制御とは関係なく、赤ちゃんのような可動性は、成人にはないのです。 運動制御の制限 スクワットのパフォーマンスにマイナスの影響を与えるもうひとつの制限分野として、運動制御の不足ということがあります。それは成人に多く、特に1日の大半を座って過ごす生活を10−30年間も行ってきた人に多くみられます。一日中座っていると腹部や腰椎骨盤、後部連鎖の活動の制御能力が必要ではなくなってきます。椅子がそれをしてくれるからです。つまり、これらの活動のスイッチをオフにすることを身体に教え込んでいるのです。 これは、動きのパターンがよくない人にみられます。しかし、私の臨床的評価では、関節や筋に実際の可動性の制限はないのです。 残念なことに、これは若いアスリートにも多く見受けられます。高校生のアスリートの動きの悪さにびっくりすることもあります。一日中座って、テレビやXbox、iPhoneを見つめてばかりいることが原因だと考えられます。最近では、爪先に手が届かないこどもたちもいるのです! チャンピオンフィジカルセラピー&パフォーマンスでは、約100人の高校アスリートをトレーニングしていますが、彼らの大多数は、矯正エクササイズを行い、運動制御が改善されるまでゴブレットスクワットを行います。 あなたにとっての完璧なスクワットフォーム 可動性と運動制御を向上させ、スクワットのフォームを改善することは、常にみなさんが最も関心を寄せるところでしょう。しかし、解剖学的要素が個人間で異なり、それがスクワットを制限していることも認識しなければなりません。このことから、真剣にスクワットを向上させ、身体に無理をかけないようにしたいならば、適切な評価と個人に合ったプログラムが重要です。 カスタム化された可動性向上のドリルと矯正エクササイズ、個人に合ったスクワット力学のプログラムは、大変役に立ちます。時には、自分の持つ解剖学的制限の中でトレーニングしなければなりません。もしかしたら少し足先を外側に向けたり、数センチ脚を開く必要があったりするだけかもしれません。教科書通りの完璧なスクワット力学ではないかもしれませんが、それでも構いません。あなたにとっては、それが完璧なスクワットなのです。

マイク・ライノルド 3818字

膝の伸展可動域の減少における評価と治療

どのような膝の手術であっても、術後の伸展可動域の減少を評価し治療することは、リハビリテーションの重要な要素です。膝の伸展可動域の減少は、ACL再建術後の変形性関節症への進行に最も大きく影響する要因です。 本論考は、膝の伸展可動域の減少に対応する数多くの評価と治療のうちの、いくつかの方法をレビューすることで、膝の手術や損傷によって生じる長期的な合併症を最小限に抑え、最大の結果を引き出すために役立てることを目指しています。 膝の伸展可動域の減少の評価 膝の伸展可動域減少の治療方法は数多くありますが、可動域の正確な評価は、より重要なものです。ある程度の過伸展は正常であり、研究で引用されている過伸展の平均角度は、男性で5度と女性で6度となっています。単に膝の可動域を0°まで回復させるだけでは、メリットがありません。 膝伸展の減少を評価するのに最も大切なことは、健側の膝の評価です。簡単なように聞こえますが、患者やクライアント各人にとって、何が「正常」であるか基準を定めるために必要ですから見落とすことはできません。 まず初めに私が行うのは、片方の手で第1趾をつかんでマッサージテーブルから持ち上げ、もう一方の近位手は大腿骨の遠位を固定することです。手早く雑な評価ではありますが、膝の可動域がどのぐらいあるのかを数量化することを常に薦めています。 正確に膝の伸展可動域を測るため、角度測定器を持ち出す前に、さまざまな高さに巻いたタオルを利用して膝が充分に過伸展していることを確実にする必要があります。 膝の伸展可動域の減少に取り組む際、他にも膝蓋骨の可動性や脛骨大腿骨の関節運動学、軟部組織の制限も評価すべき側面です。膝蓋腱を自己移植腱として用いたACL再建術後の膝蓋骨の可動性は、特に重要です。膝蓋骨の可動性に多少でも制限があれば、膝の伸展制限に明らかな相関性があります。膝蓋腱の瘢痕は、膝蓋骨の上方への滑りと膝の完全伸展を制限することがあります。 これらの評価は、膝の正常な関節運動学や可動域を回復させるための徒手療法の指針を立てるのに役立ちます。 膝の可動域を記録する 過去に私のクリニックに来た大勢の学生を対象とした調査で、膝の過伸展の記録の仕方について、大きな混乱があることがわかりました。数値で表記するのに、+とするのかーとするのか? 膝に拘縮のある人が、膝を真っすぐにできず屈曲10°で座っているとしましょう。これは、屈曲+10°でもあり、伸展—10°とも言えます。スペクトラムの両端にあるのです。 それでもまだ、+やーを使うことで混乱を生じ得るため、私は学生にA-B-C法を使って可動域を記録するように指導しています。Dr.シェルボーンなど他の著者もこの方法を薦めています。 ある人の膝に過伸展が10°と屈曲が130°ある場合、10-0-130と記録します。 ある人の膝に10°の拘縮があり完全に伸展はしないが、屈曲が130°ある場合、0-10-130と記録します。 A-B-C法を使うことで、記録する際に混乱する可能性を取り除くことができます。 膝の伸展可動域の減少を治療する 膝の伸展可動域を改善するための方法はいくつかありますが、苦労されているのであれば、既に調子の悪い膝をいじりまわすよりも、セルフストレッチや、低負荷で持続時間が長めのストレッチ(LLLDストレッチ)、可動域回復用装置の使用がより効果的だということがわかりました!特に、動かすことにより防御反応や痛みが出る膝には、慎重に、しかも頻繁に、漸進的な負荷をかけていく方が、より受け入れられやすいものです。 この論考の意図は、膝の伸展可動域を向上させるための特定の自律的な取り組みについて論じることです。他の熟練を要する治療法も、膝蓋骨や軟部組織の可動性に重点を置くべきであり、必要に応じて膝のための徒手療法も用いられるべきですが、確実に良い結果を得るためには、患者は自宅でのストレッチをする必要があります。 膝の伸展可動域のセルフストレッチ 術後の患者にまず薦めている2つのストレッチは、膝の伸展のための簡単なセルフストレッチです。基礎となるひとつ目のストレッチは、単に大腿の遠位を押しながら伸展位へ伸ばしていくものです。ふたつ目のストレッチは、やや高度で、タオルを足に掛け、引き上げながら大腿の遠位を押し、ハムストリングを同時に伸ばします。 膝の伸展可動域を評価するのと同様に、完全な可動域を回復するためにも踵の下にクッションを敷くとよいでしょ。 膝の伸展可動域のための低負荷で持続時間が長めのストレッチ(LLLDストレッチ) 膝の伸展が思わしく回復しない場合、次の方法として、LLLDストレッチがあります。LLLDストレッチが可動域の向上に有効であることを示すいくつかの研究論文が発表されています。 膝伸展のLLLDストレッチを行う際、腹臥位で膝より遠位をベッドの端から外し垂らす肢位より、むしろ背臥位になって伸ばしてもらう方が楽ですし、私にとっても施術しやすいポジションとなります。このエクササイズをするために、巻いたタオルか似たようなクッションを踵の下に敷き、膝が十分伸展できるようにします。それから、大腿遠位部に苦痛を与えない程度の負荷をかけます。 このエクササイズの目的は、ゆっくりと数分間伸ばした状態を保つことです。通常、約6~12ポンド(2.7Kg~5.4Kg)の負荷を使い、少なくとも10分間は、その状態を保持します。もし重さに対して抵抗しているようであれば、重過ぎるということですから、少し軽くした方が良い結果が得られるでしょう。 同時に湿熱を加えれば、より効果的であることを忘れないでください。 膝の伸展可動域向上のための装置 可動域の向上に苦労していたり、一日を通して十分に膝を動かすことができない場合は、直ちに可動域回復用装置を処方します。過去に動的副子を試したことがありましたが、装具に動的なストレッチをされるより、継続的なストレッチを自分でコントロールし保持する方が多くの人に受け入れられることがわかりました。 私が好んで利用している2つの装置は、ジョイントアクティブシステム(JAS)社とエンドレンジオブモーションインプルーブメント(ERMI)社のものです。 どちらの装置も、自宅で自分のペースでLLLDストレッチを行うことができます。1日を通して頻繁に動かすことは常に有効です。 これらの装置を使用する際、私なりの判断基準は、動きの自己制御や回避が発生した場合です。早めに装置を渡すことで、自宅でも膝の動きを増やすことができ、自らが可動域の向上の役割を果たしているという実感を感じることができます。しかし、たいていタイミングが遅れ、既に硬くなってしまってからこれらの装置を最後の手段として用いるのではないでしょうか。 結論 ここでは、膝の伸展可動域の減少に関する数ある評価と治療の方法のうちいくつかを紹介したに過ぎません。術後の膝の完全伸展の回復がどれほど重要かを考慮すると、長期的な可動性の減少を避けるためにも、可動性減少の初期兆候の適切な評価と効果的な治療が、決定的に重要な意味を持つのです。

マイク・ライノルド 3164字

前十字靭帯再建手術後の結果に、何が一番大きく影響を及ぼすのか?

前十字靭帯再建手術後の患者満足度において、運動の喪失、特に膝伸展の喪失は、最も大きな要因の一つであるということは、驚くことではありません。膝伸展の喪失が原因で生じる機能的活動の制限に加えて、私達は、前十字靭帯再建後の運動の喪失における危険因子のいくつかに関しても議論しています。 膝伸展の喪失は、歩行、筋活動、正常な脛骨大腿関節運動、および膝蓋大腿関節運動において、劇的な影響を及ぼします。 膝を真っ直ぐに伸ばせないことを想像してみてください。安定性を得るために膝をロックすることができません。自然に体重をもう一方の下肢に移し、荷重側の膝関節、股関節、そして、恐らく腰部にまでも過負荷を掛けることになります。大腿四頭筋とハムストリングが緩み、リラックスすることは決してありません。膝蓋靭帯は恐らく火のついたような状態でしょうし、膝蓋骨は常に働き、ストレスが掛かった状態にあります。 前十字靭帯再建後の運動の喪失が長期間にわたる際に、患者満足度が低い理由は明らかに見て取ることができます。 関節炎の発生における運動の喪失の影響 低い患者満足度に加えて、最近の研究が、前十字靭帯再建後の運動の喪失が、変形性関節症をも引き起こすということを示しています。American Journal of Sports Medicine (AJSM)に掲載された最近の研究では、Shelbourneとその他が平均10年以上にわたって、患者780名の追跡調査を行いました。フォローアップ検査時に正常な運動が可能な患者グループの29%がX線写真撮影において変形性関節症の兆候を示しました。一方では、運動の喪失を示していた患者グループの47%が、変形性関節症を発症していました。 関節運動学と関節の回旋中心、脛骨大腿関節と膝蓋大腿関節の接触圧全てが変化することから、これは理にかなっていると言えるでしょう。 どの程度の運動の喪失が大きな影響を及ぼすのか? さらに重要なことには、その著者たちはまた、3~5度の運動の喪失であっても、患者満足度と早期の関節炎の発生において、多大な影響を及ぼすということを示しています。5度以上の運動の喪失を示した被験者は、さらに一層劇的な影響を受けます。 DeCarloとSellによると、健常者の膝伸展は、平均5度の過伸展があり、95%の人達がある程度の膝の過伸展を示しています。 このことを考慮に入れると、私達は、膝の伸展0度が“正常”であるという一般的な認識に対して異論を唱えるべきです。前十字靭帯再建後に、通常5度の過伸展を持ちながらも、0度の伸展までしか回復していない人達は、早期の変形性関節症を発生させる可能性がかなり高くなります。 臨床上の意義 これらの最近の研究に基づいて、私達全てが考慮すべき多くの臨床上の意義があります。すぐに私の念頭に浮かぶいくつかの項目は: 前十字靭帯再建手術と術前リハビリテーションの時期が、膝の炎症を落ち着かせ、腫脹の軽減させるために重要であり、関節可動域を回復させることは最も重要です。 手術後、膝伸展はできるだけ早く回復させるべきで、術後初期段階での焦点の一つであるべきです。 膝伸展可動域、あるいは膝屈曲可動域のわずか3~5度の喪失が重大な影響を及ぼします。 ほとんどの患者がある程度の過伸展を持っているので、膝伸展0度までの回復では十分とは言えないでしょう。 前十字靭帯再建手術後のリハビリテーションを行っている患者のトレーニングに従事している人達は、もしその患者の膝の全可動域が回復していなければ、次のことに留意していください:膝の全可動域を得る前に、脛骨大腿関節と膝蓋大腿関節において、強い圧縮力と剪断力を伴うエクササイズに進む際には、慎重に行わなければなりません。 それぞれの患者は、一人ひとり評価されるべきで、関節可動域は、各人固有の評価基準までに回復していなければなりません。 いくつかの研究は、自宅で行うエクササイズが、熟達した治療と同等に効果的であると示しているにもかかわらず、この情報もまた、前十字靭帯再建後の熟達した治療の重要性を示しています。もし運動の喪失が前十字靭帯再建後の結果、変形性関節症の発生、それに続く医療費において、最も大きな影響を及ぼすのであれば、術後リハビリテーションプロセスにおける、熟達した徒手療法の必要性を訴えていかなければなりません。 私の行っている膝伸展可動域の喪失に関する評価と治療法に関しては,こちらの投稿をご覧ください。

マイク・ライノルド 1950字

投球前にストレッチをする理由とその方法

野球・ソフトボールシーズンが近づいているので、パフォーマンス向上に本当に役立つだろうと思ういくつかのことをカバーしたいと思います。今日は、なぜ投球前にストレッチをすべきなのかという理由について、そして更に重要なストレッチの方法に関して考察しましょう。 投球すれば、硬くなっていく それは、ただ単純な事実です。私たちは数年前このことについて、アメリカンジャーナルオブスポーツメディスンの記事の中で実際に証明しました。ブルペンで投球練習をした直後、投手の肩内旋可動域は10度減少していたことが分かりました。投球した後は、減速によるエキセントリックの働きで筋肉が損傷を受けます。ちょうどウエイトを頑張った後のような感じで、その後2-3日は硬くなります。 要するに、投球によるトラウマで、回旋腱板や肩後方筋肉群は硬くなります。このことに着目しなければ、蓄積し、時間が経つごとにさらに硬くなっていくでしょう。 では、私たち何をすればいいのでしょう。私は常に、投球前にマニュアルセラピー、マッサージ、そして、“賢い”ストレッチをすることを奨励しています。もし、マッサージをしてくれる人がいなければどうすればいいでしょうか?ストレッチにも、私が奨励するものと、推奨しないものがあります。 私はスリーパーストレッチを奨励しません。 スリーパーストレッチは、投手にとって、とても人気があり、奨励されているストレッチになっています。過去になぜ私がこのスリーパーストレッチを好きでないか討論しましたが、基本的に、肩関節内旋可動域低下(GIRD)の原因が肩の内旋方向へのトルクによるものではないということが分かる前に、GIRDを回復させるツールとして不正確な根拠で開発されたように感じています。 私が治療した1,000人以上の野球投手に、私は積極的に肩を内旋方向にストレッチする、あるいは、常に後方関節包を動かすような、スリーパーストレッチを使用していません。本当です。事実、スリーパーストレッチをやりすぎたため、よくなるどころか、酷くなってしまった選手を多く見てきました。 私の経験上、肩関節内旋可動域低下は他のなによりも、筋肉の硬さとアラインメントにより関係があります。質の高いマニュアルセラピーを行ことでこれらの症状に取り組むことで、より成功しやすくなり、肩にかかるストレスも減らすことができます。 スリーパーストレッチを行う時と場所があると言うべきではありますが、それは私の第1選択ではありません。もしあなたを助けてくれるような人がいなければ、スリーパーストレッチを行う代わりに、投球前に下記の2つウォームアップストレッチを試し、それが役に立つがどうか確認してみてください。 投球前どのようにストレッチするのか 投球をした場合、腕を減速させることで回旋腱板と肩後方が硬くなってしまうと先ほど話したことを覚えていますか?これががストレッチで注目することになります。このエリアに使える2つの方法があります。1つはシンプルなストレッチで、もう1つはセルフ筋膜リリーステクニックです。 ジーニーストレッチ 最初のストレッチは、ジーニーストレッチと呼ばれています。ヒューストン在住の素晴らしい理学療法士であるロス・ペインに教えてもらったもので、私の著書、アスリートショルダー中の、彼が担当した章の中で紹介しています。これは基本的に、腕の後面をストレッチするクロスボディーストレッチです。しかし、反対側の腕を使うことで、ストレッチをさらに利かせ、腕を安定させることができます。研究では、内旋の可動域(肩関節内旋可動域低下)再獲得にはスリーパーストレッチよりも、クロスボディーストレッチのほうが効果的であることが証明されています。 このエクササイズは、投球腕を下にして身体の前で腕を交差します。このポジションがジーニーのように見えます(“かわいい魔女ジーニー”に出ているジーニーで、アラジンに出てくるジーニーではありません)。反対の手で、投球腕の肘の裏をつかみ、身体の前で交差するようにストレッチします。反対の手で引っ張ることでストレッチできますし、肩が外旋しないように防いでくれます。5-10秒保持し、3-5回繰り返します。

マイク・ライノルド 2002字

私たちは子供たちを少年野球傷害を起こす危険に晒しているのでしょうか?

少年野球の傷害数が増加していることと、投球傷害数を減少させる方法に関する私の考えを、長年の間遠慮なく話してきました。多くの少年期投球傷害の理由について説明してきましたし、少年野球の傷害を減少させるヒントを示してきました。 過去に、少年期投球傷害が増加している本当の理由が、以前よりも変化球を多く投げていること、不適切なメカニクスで投球していること、ロングトスプログラムを積極的に行い過ぎたこと、あるいは、それ以外に提起されている問題のどれでもないということを言及しました。それらは、関係しているかもしれませんが、私の見解を単純化し、多くの少年野球傷害の本当の理由は酷使のためであると言及しました。 “使い過ぎ”ではなく、“酷使”であると述べていることに注意してください。 少年野球傷害は使い過ぎからきていますか、それとも、酷使からきていますか? (Photo by Edwin Martinez1) 使い過ぎと酷使の間には大きな違いがあります。使い過ぎとは、単純に選手が投げすぎるということを意味していて、また、実際によく起こることです。現在までに、少年野球傷害に関連ある主要な要因として、使い過ぎが関係しているということを証明した素晴らしい研究が、アメリカスポーツ医学研究所から発表されています。 特に、多く投げれば投げるほど、傷害が起きる可能性が上がります。これには次の要因が含まれます: 1年に8ヶ月以上公式戦で投球する 連投する 同日に1試合以上投球する 同シーズン中に1チーム以上で投球する 同チームで投手だけでなく、捕手でもプレーする このことを防ぐために、リトルリーグベースボールとUSAベースボールのどちらも、従うべき投球数制限のルールとガイドラインを提唱しています。 少年野球傷害を減らすために、ガイドラインを守っているでしょうか? 酷使とは、両親やコーチが単純に、定められた投球数ガイドラインや、少年アスリートのために提供されている安全情報を無視しているということです。 投球数制限に関して、95人の少年野球チームのコーチ達に調査をした研究について、私が執筆していたことを覚えているかもしれません。その結果では、ルールに関する質問に57%のコーチが間違った回答をしていて、実際にはコーチたちはルールを理解していなかったと言うことができます。27%のコーチが安全性のガイドラインを守っていなかったことを認めていますが、53%ものコーチは、他のコーチ達がリーグにおいて安全性ガイドラインに従っていると感じていたのです。さらに、19%のコーチは、選手が肩や肘に痛みや疲労を感じていてもプレーさせていると報告していました。 これは、ルールに従っていないことを認めているコーチの数値だけだということを覚えておいてください。 AOSSMがスポンサーとなり、全米で9歳から18歳までの700名以上の投手を対象に行った研究の初期結果 が公表され始めています。3分の1の投手が、過去12ヶ月に投球と関係性のある傷害があったこと、10人中7人が過去12ヶ月で顕著な腕の疲労があったこと、そして、約40%の選手が過去12ヶ月以内に顕著な腕の痛みがあったことを報告しています。 さらに重要なこととして、その研究では、傷害リスクの増加に関連のある活動をしている少年野球投手の割合を数値化することができました: 40%の投手が、リーグにおいて投球数カウント、または投球制限なしに投球していた 13%の投手が1年に8ヶ月以上公式戦で投球していた 57%が連投していた 19%が同日に1試合以上投球していた それらの投手のうち約33%が、同一シーズン中に1チーム以上のチームで投球していた 10%が同一チームで捕手としてもプレーしていた その研究の結果から、少年野球選手がかなり高い割合で傷害を起こすリスクがあることが示されました。 少年野球傷害を減少させるために重要なことは、気づきかもしれない 傷害予防の最初の段階は気づきです。今や私たちは、傷害に関連するいくつかの要因について理解しています。この情報を念頭に考えられたルールやガイドラインがあります。これらのルールを理解し、実際に従っているコーチの割合も分かっています。どれだけの選手にリスクがあるかも分かっています。 とても多くの情報があるのです。この情報を奨励し、気づきを起こさせる時期がきました。少年野球傷害を減少させるために、私と一緒に、この情報を広めてくれる人はいますか?そしてどのようにして広めていきましょうか?

マイク・ライノルド 2018字