トミージョン手術の神話 パート2/2

トミージョン手術からの復帰は早く簡単である 何年にもわたって一般の人々がこのような間違った安心感を得るようになったのは、手術からの復帰が早く、かつ簡単であると一般には考えられているからである。繰り返しになるが、アマッド博士の報告では、44%の両親が9カ月以内に投球できるまでに回復すると考えているのである。 一般的に、復帰までは9-12カ月かかります、と我々はいつも伝えている。これは過去の研究において、この期間が一般的であると示されているためである。野球界では早めに、9カ月に近い時期に復帰を試みる傾向があるということを認めざるをえない。 アンドリュー博士の研究結果では、競技復帰までの平均期間は11.6カ月であると報告されている。 安全な復帰時期がいつであるかを決定するには、個々の選手において数多くの要因がある。年齢、競技レベル、手術の時期、そしてどれだけ円滑にリハビリがすすめられているかなどがこの要因に含まれる。正直に言うと、9カ月で復帰した選手を今思い出すことができない。私が担当したトップレベルのメジャーリーガーの選手は、大体術後10.5から11.5カ月で復帰しているが、もっと若い選手達に、この期間で復帰することは奨励しない。 個人的には9-12カ月と書くことをやめようと思っている。というのも、この表記は、多くの人々に間違った希望や情報を与えてしまうと感じるからである。私個人としては、単純にトミージョン手術からの復帰には1年かかります、と伝え始めるつもりだ。これを基準としながらも各個人に合わせていくことになるが、トップレベルの選手であれば復帰まで約11カ月、アマチュアの選手であれば約12カ月というのがおそらく選手達にとって最良であろう。 手術をするということは、競技に復帰するまで12カ月かかるということになる。 トミージョン手術後球速が上がる これまで話してきた神話のなかで、術後に球速が上がるというという思い込みを否定することがもっとも重要だと考える。これは、長年にわたってメディアで取り上げられ騒がれてることなのである。 最近、メジャーリーガー投手におけるトミージョン手術前後の球速を計測する、2つの予備研究が行われている。レベッカ・フィッシュビンが2013年、ボストンでのサバーメトリクスセミナーで結果を公表している。彼女は、2007年から2011年の間でトミージョン手術を行ったメジャーリーガー投手44名の、術前と術後の球速を解析した。 術後の球速には有意差はなかったと報告した(実際には時速0.875マイルの減速がみられたが、大幅に下がったわけではない。)スタン・コンテは2014年の全米スポーツ医学機構、野球における傷害のセミナーにおいて、2007年から2012年の間に32名の選手を調査し、同様な結果を報告している。スタンの研究においても、術前と術後で有意な差はなかった(時速0.79マイルの減速がみられたが、これも大幅な減少ではなかった)。 私個人として、術後に球速が上がった選手を数多く見てきたが、ここで重要なことは平均では球速に変化がなかったということである。なぜ球速の上がる選手がいるのかについては、多くの理由がある。おそらく、長い間、靭帯が機能不全の状態で、あるいは痛みのあるなかで投球していて、手術前はろくにトレーニングができなかったのか、あるいは、リハビリをしている間に急激に成長したのかもしれない。 一般的に信じられていることとは異なり、メジャーリーグの投手では、術後に球速が上がるとは示されていない。 すべてのトミージョン手術のリハビリは同じである 最後の神話は、私にとって個人的な意味合いを持つ神話である。野球の投手達はとても独特のアスリートで、最高の結果を出すためには優れた経験をもつスタッフと共同して取り組まなければならない。多くのことを注意してみなければならず、それを見落とすと簡単にリハビリが停滞してしまうことがある。 私は、自身のキャリアの全てを、野球選手との仕事に費やしてきた。そして、今でも常に、何が彼らを特別にするのかに関して多くのことを学び続けている。何かを解明したと思った途端、誰か選手がやってきて、彼らの身体で何ができるのかに関して驚かされてしまうというような。 トミージョンのリハビリテーション トミージョン手術のリハビリにおいては、野球の投手がもつ独特の特性を理解すること、どのようにこれらの傷害が起こったのか、その本質を理解すること、そして、復帰までの間、投球時にかかる身体へのストレスについての理解が要求される。プロトコールに従って進めることは誰でもできるが、ジェットコースターのようにプログラムがスピードアップしたりスローダウンしたりしないよう、各個人に合わせてプロトコールをどのように調整するかを理解する必要がある。 可動域の減少は問題となり、尺骨神経にストレスを与えないでおくことは重要であり、投球を開始するのに靭帯の回復が間に合っているのかを確認しながら、徐々に活動レベルを上げていくことはとても重要であり、また、投球プログラム強度を徐々に上げながら、ストレングストレーニングの運動強度をコントロールするためには、技術と経験を要する。 トミージョン手術後のリハビリにおいては、誰しも悪い日、あるいは悪い週がある。これらの時期をいかに乗り切っていくかが、安全で効率のよい競技復帰に導くのである。 まとめ 結論として、トミージョン手術を受けたなかで83%の選手が、手術をする前と同等かそれ以上のレベルで、球速の向上はなく、術後11.6ヶ月で復帰している。 トミージョン手術は、確実に回復するという方法ではなく、最良な選択は、常に極力手術を避けるようにすることである。これがいつも可能であるわけではないが、競技力を向上させるだけでなく、野球選手の傷害を減らすためのプログラムを構築していくべきである。 一般に信じられていることとは異なり、トミージョン手術を受けた場合、合併症なしに手術前の競技レベルで復帰できる保証があるわけではなく、また、リハビリも短期で簡単なものではなく、結果として球速が上がるというわけでもない。

マイク・ライノルド 2698字

すべての患者やクライアントに共通して行うべきこと

私のセミナーに参加される方から、よく聞かれることがある。「あなたが行っている事の中で、最も効果が出ると思われることをひとつ挙げるとしたら何ですか?」。なんと悩ましい質問であろう。そんな手品のようなテクニックを皆さんに教えられるほど単純であればよいのだが。数ヶ月間この問題を考え続けて、その答えをポストに書こうと計画してきた。この質問に対してどのように回答したいかを考えつくのに時間がかかったが、やっと答えが見つかった気がする。 私の行っていることで最も効果的なこと 私の行っていることで最も効果的だといえることは、恐らく私達皆が、全てのひとに対してするべきことだと思う。それはストレッチでもなければ、エクササイズでもない。最新式の流行の器具でもなければ、最先端の徒手テクニックでもない。あまりにも単純すぎて、答えを見つけるまでに時間がかかってしまったこと。それは、評価と再評価である。 適切な評価と再評価こそが、すべての患者またはクライアントにできる最良のことである。患者やクライアントに何が必要で何が効果的なのか、その個人を理解することがカギとなる。すべてはまず適切な評価から始まる。それから治療やトレーニング、その後、再評価が必要である。患者やクライアントを施術する際には、毎回この評価を行うこと。セッション中何回行っても構わないであろう。 まず、“主な愁訴は何か?”をたずねる。評価し、それを定量化し、治療し、再評価する。 この単純な概念には、大きな意味がある。最も単純なレベルでは、たとえば、体重減少を目指しているクライアントを指導しているにもかかわらず、体重を計測していなかったとすれば、何に効果があり何に効果がなかったのか知ることができるのであろうか?その場合、どれぐらい改善しているのかどのようにして知ることができるのであろう? 臨床医には、たとえば可動域、関節可動性、筋力、柔軟性など、他にも多くの評価方法と検査手段がある。しかし、これらの評価は患者にとって、ちぐはぐな定規に過ぎない。実際、患者は可動域が10°増えようが増えまいが気にしてはいない。彼らは単に快適に動けてパフォーマンスを向上したいだけなのである。 「肩が痛いんですね。どんな時に痛みますか?同じ痛みを再現できるような動きをしてもらえますか? いいですね」。と、ここで、今後再評価するための基準となる指標を設定したことになる。誤解してほしくないが、客観的な指標も必要ではあるのだが、ここでは実際に患者が感じていることを基準としての基礎的な評価を得ているのである。 FMSとSFMAのような手段が有用である理由がここにあるわけだ。動きを評価する体系的な方法である。評価に限度があるフィットネス界では特に必要だ。動きの質や主観的な感じ方を定量化すれば、その後の変化を測定することができる。 最終的に、これは必ずと言ってよいほどよい結果をもたらすことが多い。単に治療やエクササイズを適用し、効果がありますようにと祈るよりも、何で効果が出るのかを評価し、必要に応じて調節すればよいのである。 評価と再評価 では、どのようにすればよいのだろうか?悪い例として、背中が痛いと訴えているクライアントをすぐにマッサージテーブルに乗せて施術し始め、いくつかのマッサージ・テクニックやエクササイズに飛びついて処方するのでは、何の評価もなしに治療をしていることになる。評価もなく治療のみで、どうやって再評価をするのだろうか?痛みを基準にしてよいのであろうか?痛みはたいてい最良の評価にはならない。 より良い例は、いつ背中が痛くなり、どのように痛いのかを評価することかもしれない。どのような動きで問題が発生するのか?どのような動きに制限があるのか?そうした上で施術をし、いま観察した動きを再評価する。その患者が立ち上がり動いてみたとき「すごい、つま先に手がとどくようになった。効きますね。」と言った場合、いたって単純ではあるが説得力がある。 私が先日評価した患者を例に挙げよう。彼は左中背部と肋骨に放散する痛みを訴えていた。総合評価をしたが、ここでは重要な項目の追跡とアウトラインのみ紹介する。彼の愁訴は痛みだった。症状を軽減するためにその部位のみの治療を始める、つまり「痛みを追いかける」こともできたが、私の主な焦点は、彼の複数分節においての左回旋制限にあった。 複数分節の回旋といっても充分ではないので、詳細を調べてみた。胸椎の左回旋の動きが中程度減少していた。症状のあるその部位だけを治療することもできたが、さらに慎重に観察した結果、関節の可動性には問題がないものの、骨盤が左前方への傾斜をともなう変位を起こしていた。つまり彼の骨盤全体と仙腸関節は右回旋していたのである。それに伴って腰椎もやや右回旋位になっていたので、彼の「正中位」は、実際やや右に回旋していたわけである。結果、左回旋制限という所見になってしまった。 まずは胸椎モビリティ・エクササイズで評価しようと思い、胸椎のチェックからスタートしてみた。胸椎が何パーセント問題に関与しているかを調べ、軟部組織と関節可動性、そしていくつかの胸椎モビリゼーション・コレクティブ・エクササイズに取り組んだ。この時点の再評価で、胸椎の左回旋にかなり大きな改善が見られた。ここで終了することもできたが、さらに複数分節における左回旋をチェックしたところ、約50%しか左回旋が改善していなかった。 ここで治療を終了してしまっていたら彼の機能不全の半分しか回復させてあげられず、活動を始めればすぐにまた前の状態に戻ってしまっていたかもしれない。 次に骨盤に取り組んだ。いくつかのエクササイズと徒手療法で骨盤の配列を整えた。胸椎と複数分節の回旋を再評価した結果、正常な左右対称の動きが戻り、必然的に彼が訴えていた痛みの軽減に繋がった。 これが評価と再評価のパワーである。セッション中に、一度だけではなく幾度も繰り返し行うことにより、それぞれのテクニックの有効性を、可能な限り絞り込むことができる。 再評価のパワー 以上のことは、私がどのように評価と再評価によって問題を絞り込み、治療の向上を図ったのかを紹介する良い一例である。重要なポイントを下記にまとめると: 患者やクライアント各人に対して、何がどのくらい有効であるかを見極めることができる。これは簡単な概念であり、実施直後に改善が見られたならば、その時行ったことと直接関連付けることができる。 その個人に有効でないものを見つけることができる。 これは軽視されがちだが、適切な評価と再評価を行うことで、効果の低いものが分かってくる。有効な方法を見つけるのと同様の価値のある手順で、有効でないことが分かればアプローチの方法を切り替えればよいだけである。 診断に繋げることができる。 何が有効で何が有効でないかを評価しながら、機能障害を正確に鑑別できる。胸椎の回旋制限は関節の可動性の問題ではなく、軟部組織に起因するものであるかもしれない。 患者やクライアントから信頼を得ることができる。 最後になったが、最も重要なこととして、評価と再評価によって患者から信任、信頼、コンプライアンスを得ることができる。行ったことによる改善を、即座に患者自身が体験するからである。

マイク・ライノルド 3152字

野球の遠投プログラムについて理解すべきこと パート1/2

遠投プログラムは過去数年間で、野球のトレーニングにおけるもっとも人気のある方法の一つになりました。ネット上の全ての人達が、球速の向上を保証する遠投プログラムを持っているようにみえます。我々の投球数制限プログラムや医学的知見が向上しているにも関わらず、若年層における投球傷害数は警告すべき割合で増加し続けています。このことは、積極的な遠投プログラムが、傷害の発生率の増加に関係があるかもしれないという疑問を投げかけます。遠投プログラムを統合していくには、多くの異なった方法があるので、この疑問も公平であるかもしれないし不公平なのかもしれません。 この記事の意図は、遠投が適切、安全、効果的、またはそれ以外のなにかであるかどうかについて意見を述べることではありません。特別な投球プログラムや距離を奨励することが目的でもありません。むしろ、トレーニングプログラムを始める前に、遠投が身体に及ぼす影響についてしっかりと理解をしてほしいだけなのです。あなたのニーズに合致した最適なプログラムを実施するためには、いくつかの点を理解する必要があります。 遠投は重要である まずはこの点“遠投は重要”について考えてみましょう。遠投は、ほぼすべての野球のトレーニングプログラムとして、何らかの形で一般的に見られるため、この点は議論の余地はないと考えます。遠投が好きである、あるいは、好きではないと言うことは、ピザが好きである、あるいは、好きではないということのようなものです。ドミノピザとボストンの北端エリアのピザには、かなり大きな違いがあります。同じことが遠投にも言えます。遠投の定義については、おそらく討論する余地があるでしょう。 遠投とは120フィートであると考える人もいれば、300フィート以上であるという人もいます。これはとても大きな違いです。答えは分かりませんが、投げる距離が遠くなれば変わってくることがあります。このことについても理解が必要になります。 遠投は重要ではありますが、しばしば大げさに捉えられがちです。遠投を提唱している人は、大リーグのどの選手がトレーニングのなかで長距離遠投プログラムを行っているかを興奮ぎみに伝えるでしょう。しかし、プロ野球選手のなかで、トレーニングルーティーンに遠投を多く取り入れていない選手が大勢いることも認識してください。私は、メジャーリーガーで120-150フィート以上の投球をそれほどたくさん行わないという選手たちを知っています。また、私が話をした寒い気候の地域に住んでいる選手の多くは、オフシーズンの間はバスケットボールコートのような室内練習場で投球をするので、投げられる距離に限界があります。 多くの患者やクライアントから、遠投をしている素晴らしいメジャーリーグ選手のことを聞いています。このことは真実である一方で、遠投をしていない選手が多くいることも理解して欲しくて、このことを取り上げているだけです。 遠投は腕を鍛え、力を生み出したり、分散したりすることに慣れさせるためには重要であると考えます。しかし、遠投が身体に及ぼす影響を本当に正確に理解するためには、下記のポイントの多くを理解する必要があります。 遠投は腕の強度を向上させない 遠投が腕の強度を発達させるという概念がどこから来たのかは定かではありませんが、これは本当によく聞きくことです。これはただ単に何となく使われている意味のない言い回しかもしれませんし、選手に関連した安易な考えであるかもしれません。しかし、明確に詳細に言うと、私は、実際には投球は腕の強度を低下させると考えています。 事実、私は数年前に、綿密に作成されたストレングス・コンディショニングプログラムを行っているメジャーリーグの投手でも、シーズンを通して3-4%の回旋腱板の筋力低下が見られるという論文を発表しました。1試合を通しても、11-18%の腕の筋力低下が見られるということも示されています。 そのため、投球は腕の強度をあげることはない、といっても問題ないと考えています。むしろ、投球は肩の疲労を招くと考えられるため、実際には腕の強度にとって逆効果になるかもしれません。遠投は、筋持久力や腕を振るスピードなどといったものを向上させるかもしれません。しかし、スピードや持久力を鍛えることと、過負荷がかかることや疲労を招くことの間には、紙一重の違いしかありません。腕に疲労が蓄積すれば、腕の強度は上がるのではなく、下がりますし、傷害を引き起こすリスクがあります。 若年層の野球選手は、遠投をすることで球速が上がると聞いていて、遠投をすればするほど、強く投げることができると思い込んでいるため、これは理解すべき重要なコンセプトになります。この思い込みは通年を通して投げすぎてしまう結果に繋がります。現在、若年層の野球選手は、シーズン中もオフシーズン中も、試合で投球し、遠投もしています。1年のなかで8カ月以上ピッチングをすると、傷害を起こすリスクが5倍以上になるということを覚えておいてください。 遠投の効果はあります。しかし、遠投することで腕を強化することはできません。強化のためには、投球をしない時間と、適切な腕のケア、ストレングス・コンディショニングプログラムが必要になります。 リハビリの世界では、遠投プログラムは120フィートで終わりにするとは言っていない 私は、この件について責任を負っていきます。遠投プログラムの提唱者からよく聞かれる議論の一つに、120フィートの遠投は十分な距離ではないということがあります。同様の遠投プログラムを、健康な選手にも、傷害からの復帰を目指している選手にも適用している野球界を、多くの人々が非難していることを聞いたり、読んだりしています。そこでは、公表されている投球のリハビリプログラムでは、120フィートまでであるということを引用しています。 これは実際には誤解であり、私の経験からお話します。ジェームス・アンドリュー博士が使用し、もっとも幅広く利用されている遠投プログラムの開発を実際に手伝い、これらのプログラムを整形外科・スポーツ理学療法誌に10年以上前に掲載しました。原稿を実際に読んでいただければ、投球プログラムは120フィートでやめるべきだとは言っていないことが分かると思います。事実、そのプログラムでは180フィート以上まで行っています。 我々は、マウンド上で投げ始める前の基準として、120フィート以上投げる必要があると言及しているだけなのです。120フィート以上投げたい(あるいは、投げるべき)選手もいるでしょうが、そうでない選手もいるでしょう。ここでのポイントは、120フィート以上投げなければいけないということではありません。しかし、マウンド上での投球に進むためには、120フィートの遠投というのは、基準の一つになるということです。 今では、これらの公表されている遠投プログラムが完璧でないとはっきりと認めていますし、私自身も自分が書いたこのプログラムにすべて沿っているわけではありません。すべての人に適応できるプログラムを作ることは、とても大変だということをお分かりいただけると思います。リハビリの環境において、ある程度の一般化は必要なものです。このことについては、最後のポイントとして、パート2/2に話していきます。

マイク・ライノルド 3166字

野球の遠投プログラムについて理解すべきこと パート2/2

遠投によって適切なピッチングメカニズムを身につけることはできない。 遠投しているときに、常に一定のピッチングメカニクスで投げ続けることは不可能です。これは単純な物理学です。遠くに投げれば投げる程、異なった投球メカニクスを使う必要があるため、遠投をすることで、ピッチングメカニクスを改善するとなぜ言えるのか、私には分かりません。グレン・フレイセグとアメリカスポーツ医学研究所は、最近、マウンド上でのピッチングと120フィート、180フィート、最長距離での遠投との間で、投球メカニクスに変化があるかどうか解析しました。 この研究によって、遠投ではメカニクスが大きく変化することが証明されました。マウンドの上から投げるように、くだり坂で投げるわけではありません。体幹はより直立し、距離が離れればはなれるほど、前膝の屈曲は浅くなるため、実際には、のぼり坂で投げているようになります。実際に、胸郭の角度はピッチングと最長遠投とでは4倍も違います。 直立すればするほど、体幹と前側の投球への関わりが変化し、リリースポイントが劇的に変化するため、胸郭と前膝の角度は、投球と密接な関わりがあります。 また、興味深いことに、遠くに投げようとすればするほど、前足の接地はより外に開きます。基本的には、遠投をするときは、前足が身体をほんの少しクロスするように接地する(これが普通)のではなく、よりライン上に接地するようになります。これは、最長距離にボールを投げるためには、回旋動作はあまり必要がないということだと、私は理解しています。基本的に、遠投するときは、メリーゴーランドのようではなく、観覧車のように投げるのです。遠投では、ピッチングのときとは異なる筋肉動員パターンとモータープランニングを使用します。 モーターコントロール、神経筋肉プランニング、トレーニングの特異性に関する我々の最新の研究をすべて考慮すると、遠投は投球メカニクスを改善することはないということが言えるようです。 繰り返し何度も同じメカニクスで投球できる能力は、エリートレベルの投手に最も求められている能力であり、その能力がエリートとその他の選手の分かれ道でもあることを経験から知っています。上記に書いた最初のポイントを忘れないでほしいのですが、遠投は重要です。しかし、それはメカニクスを改善するから、あるいは、何度も遠投することを奨励するからではありません。 遠くに投げれば投げるほど、身体には多くのストレスがかかります。 我々の遠投プログラムが独自に開発されたとき、最初に解決すべき問題点の一つは、ある距離から投げたとき、身体にはどれだけのストレスがかかるのかということでした。上記の情報から、身体に運動学的に変化が起こることは分かっていましたが、身体にかかる運動力はどうでしょうか。フレイセグ博士は、上記に述べている研究の中で、身体にかかる力も計測していました。 180フィートの遠投では、肘に内反トルク、肩に内旋トルクがより大きくかかります。これら2種類の力は、特にトミージョン傷害と呼ばれる、肩や肘の傷害を本質的に引き起こします。 私達は、ピッチングをするということは、それぞれの投球で、身体には最大に近いストレスがかかるということを知っています。180フィート、あるいはそれ以上の遠投は、マウンド上での投球よりも多くのストレスがかかります。これは、怪我をした選手が、マウンド上で投球を始めるための基準を、たった120フィートに設定している主な理由の一つです。120フィートでは、ピッチング時と同等の力が計測されます。そのため、120フィートまで投げることができれば、技術的には、マウンド上での投球のストレスに対処することができます。 アスリートは、180フィート以上の遠投時にかかるストレスを対処できます。しかし、どれだけの距離まで、そして、結果はどうなるのか?私は、フレイセグ博士・アンドリュー博士とこの概念について討論しました。ここで使われた比喩はむしろ不安感を抱かせるものです。-あなたは、1日で1パックの煙草を吸うリトルリーグの子供たちのグループを観察します。リトルリーグ所属中は、誰も肺がんを患わないようですが、ある日、誰か発病するかもしれません。長期的な視点で、我々は彼らに何をしているのでしょうか? リトルリーグとUSA ベースボールによって開発された投球数カウントガイドラインは、オーバーユースを避けることによって、傷害を予防するよう設定されているということを理解してください。180フィート以上の遠投も、この考慮に含まれる必要があります。もし傷害の発生率を5分の1に減らしたいのなら、1年のうち、4か月はピッチングをしない、あるいは、遠投をしないことが必要になります。 遠投に的下時と場所はあります。しかし、遠投はピッチングと同等に扱われる必要があり、オーバーユースにつながる投球カウントとして考慮される必要があります。 最長遠投は身体に多くのストレスを与える。 私にとって、フレイセグ博士とアメリカスポーツ医学研究所の研究の中でもっとも興味深い部分は、最長遠投の解析です。ある距離から投げる時、どのように生体力学が変化するかを分析し、それに加えて、ただ単にできるだけ遠くへ投げる動きの生体力学も評価しています。 結果にはかなり驚かされました。 クローホップあり、投げるボールの角度には制限をつけず、できるだけ遠くに投げるよう指示された場合、投手の平均投球距離は264フィートでした。これは、いくつかの野球のトレーニングプログラムのなかで見られる奨励距離よりも、かなり低い数値でした。 これは、肘内反トルク、肩内旋トルクを10%増加させる結果となりました。180フィートの遠投で、肩と肘にかかるトルクの増加がみられましたが、最長距離を投げる時、これらの力は劇的に上昇したのです。 180フィートの遠投には、リスクと報酬の等式がありますが、より遠くに投球する場合、この2つの割合は、かなりリスクのほうに偏っているように見えます。 最良の遠投プログラム 私は、この記事を、“最良の遠投プログラムなどない”という一つの簡単な理由のために、この記事を書きました。すべての人が求めるものですが、現実に存在しないのです。人は皆、身体のタイプやサイズ、年齢、経験、そして、メカニクスを含め、多種多様です。すべての人に、一般的な遠投プログラムを奨励することは、あまりに単純化しすぎのように思えます。少数の人々には役に立つかもしれませんが、よりも多くの人々に、不利益を与え得るように思えます。だからこそ、私が公表したリハビリのための投球プログラムは、とても基本的に見えるのです。 遠投プログラムのより詳細なポイントを理解していただいたところで、皆さんに、最良の遠投プログラムとは、各個人を対象とする必要があるということを理解していただけることを願っています。メジャーリーガーで行っている選手がいるからという理由で、そのプログラムをするべきではありません。適切な腕のケアとストレングス・コンディショニングプログラムを行いながら、自分のためだけに特別に開発されたプログラムであるか。

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呼吸パターン障害

とても幸運なことに、先週、レオン・チャイトー氏の親密でこじんまりとしたワークショップに参加して、呼吸パターン障害への徒手療法アプローチについて議論する機会に恵まれました。私がチャイトー本人から、そして彼の広範囲に渡るボディワークからどれだけのことを学んできたかについては、ためらいなく明かしていますので、彼と共に一日を過ごした経験は、素晴らしいものでした! 下記は、みなさんとシェアする価値があると思ったコースの主要ポイントのまとめです。これらは全て、ワークショップやチャイトー氏の呼吸パターン障害についての本からの引用ですので、もっと学びたい、あるいは、効能や文献を知りたいと感じたら参考にしてみてください。 呼吸パターン障害とは何でしょうか? 米国の患者の10%が過呼吸症候群と診断されている一方、多くの人々が、わずかながらも、臨床的に重要となり得る、継続的な吸気状態にある呼吸パターン障害を持っています。 これは、低炭酸症につながります。低炭酸症とは、過呼吸により血液中の二酸化炭素が不足した状態で、やがては呼吸性アルカローシス、さらには低酸素症や組織への酸素供給の低下へと発展していきます。 これは一般に、胸式呼吸をする人に見られる症状で、こういった人々は本質的に息を吐ききれておらず、肺気量を十分に使えていません。 そのため、交感神経が優位の状態に置かれ、僅かではありますが、かなり継続的な闘争または逃走状態に陥ります。 やがて、不安や、血中pH値、筋緊張、痛覚域値、等の様々な中枢神経系、周辺神経系の症状の変化へとつながります。いくつかの症状は心臓の問題症状に似ています。 私が今回学んだ、最も興味深い情報は、呼吸と日々の行動との関連性を記した二つの研究に関係していました。 一つ目の研究では、キーボードのタイピング動作を調べ、タイピング中の斜角筋、僧帽筋の筋電図の振幅増加、胸郭と腹部の活動の減少を明らかにしました。これはおそらく、元来からある反射的動作ですが、これにより呼吸がさらに浅くなり、横隔膜の活動が減り、胸の上部や首がより活発に働きます。現代人は一日のかなりの時間をタイピングに費やしていますので、これはとても頻繁に起こっているのです。 もう一つの研究では、人々がテキストメッセージを送ったり、受け取ったりするときに、呼吸を保持し、呼吸数を高め、交感神経の優位を経験していることを示しました。 呼吸パターン障害の評価方法 ナイメーガン問診での高いスコアは、呼吸パターン障害を持つ傾向のある人々を発見するのに、感度と特異度がともに高いことが示されています。 呼吸パターンの観察 呼吸保持−人は一般に25秒から30秒間、息を保持することができます。もし15秒も保持できなければ、二酸化炭素耐性が低いことを意味しているかもしれません。 仰向け呼吸ハイローテスト−手を胸とお腹の上に置き、自然に呼吸をします−どこが最初に動きますか?どこが最も動きますか?側部への拡張と、手が上に押し上げられる動きを見てください。 呼吸の波−うつ伏せになり、自然に呼吸をします。脊椎は頭に向けて波のようなパターンで屈曲しているべきです。一体となって上昇している分節があれば、それは胸椎の制限を意味している可能性があります。 座位での側部拡張−胸郭の下部に両手を置き、呼吸中の動きを追います。左右対称の側部拡張ができているか見てください。拡張は下の動画のようであるべきです:

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回旋腱板修復手術後の成功を高める方法

回旋腱板断裂は、すべての年齢の人々にとてもよく見られる傷害です。読む論文にもよりますが、50歳以上で13%の人が、80歳以上で50%の人が回旋腱板断裂を患っているだろうと報告されています。自然の成り行きとして、回旋腱板修復手術も同様によく見られるようになってきています。過去数十年で、我々は、回旋腱板修復手術技術を大きく進歩させ、直視下手術から、より低侵襲な“開口部の小さい”手術、そして、完全関節鏡視下手術へと発展させてきました。 最新の関節鏡視下回旋腱板手術では、疼痛が緩和される傾向があり、患者により早く活動させることができるようになります。しかし、私たちがあまり耳にすることの少ない事実として、回旋腱板手術の失敗率は、依然として高すぎるということがあります。 術後、腱板が元の健全な状態に戻っていないことを手術失敗と定義する場合、過去の研究では、回旋腱板修復術を受けた人のうち75%が、技術的に“失敗”であるだろうと示されています。JOSPTに公表された最近のシステマティックレヴューでは、10以上の様々な研究報告によると、18-40%程度の失敗率が報告されています。 これらの失敗率に関わらず、術後の患者の満足度は依然としてとても高いことが、大部分の研究で示されています。このことは、実際の手術よりも、リハビリテーションの過程のほうがかなり重要であるということを示唆しています。これはとても素晴らしいニュースです。たとえ、回旋腱板が術後完全に修復されていないことが判明しても、痛み、動き、強度、機能、そして、満足度すべてにおいて、大いに改善することが可能になります。 そうであるとしても、私達は、回旋腱板修復術後、腱板が完全に回復できるよう、私たちができるすべてのことを実践していくべきです。 JOSPTに投稿された最新の系統的な文献論評では、関節鏡視下腱板修復術後の良好な回復に関わる予後要因の決定を試みています。この論文によると、術後の経過を最良にするいくつかの要因を特定することができるのです。これらの要因すべてが容易に対処できると簡単には言えませんが、多くはそうであり、患者が最良に回復できるよう促していくことを、常時目指しています。 腱板修復術後の良好な回復に関連する要因 その論評では、著者の厳密なガイドラインに合致する10個の論文に焦点を当てていました。これら10の論文に基づき、回旋腱板修復術後の良好な回復と関連がある12の要因を特定することができました。これら12の要因は、4つのカテゴリーに分類されます:人口統計学的要因、臨床学的要因、回旋腱板の整合性に関連する要因、そして、手術方法に関連する要因。 回旋腱板手術後の予後を最善にするために我々ができうること(できないこともあるが)に関連している、最初の3つの要因について論じていきます。手術要因に関しては、上腕二頭筋、または、肩鎖関節に追加の処置をした場合、結果はあまりよくないという報告が、ある研究で示されていました。我々が、手術方法を選択することはできませんが、恐らく、この情報は手術医に有益となるでしょう。 人口統計学的要因 一般統計学に関するもっとも重要な発見は、手術を受ける際の患者の年齢と関連があるということでした。年齢の高さは回復に対して、マイナスの影響を持っていたのです。 この研究では、年齢を重ねれば重ねるほど、腱の治癒のチャンスが低くなると報告されていました。55歳以下の人々では、腱の治癒が88-95%の確率で見られ、予後も最良でした。反対に、60歳以上の人々では腱の治癒が43-65%しか見られませんでした。 回旋腱板に問題が起こる時期を操作することはできませんが、これらの結果から、症状を無視するべきではなく、肩と回旋腱板を徐々に退行させていくべきであるということが示唆されています。問題に対し早期に取り組むことで、これらの結果を改善するべきです。我々は、多くの人が何年もの間、肩の痛みに目を向けることなく、不快を感じながらもなんとかしようとしている場面を多く見てきています。機能的な問題がかなり大きくならない限り、普通我々は助けを求めたりはしません。 臨床要因 驚くことではありませんが、骨のミネラル密度や糖尿病のどちらも組織治癒に悪影響を及ぼします。肥満も結果に悪影響を及ぼします。肥満傾向の人は予後良好になる割合が12%減少するとされています。 興味深い発見だと私が思ったことは、手術前の活動レベルに関連することです。身体活動をほとんど行っていない人は、中強度、高強度のスポーツ、例えば、ゴルフ、スイミング、サイクリング、ランニング、テニスをしている人に比べて、予後があまりよくありませんでした。 筋力や動きに関して、最終的な強度を予測できる最たる因子は、最初の強度であることが分かりました。手術前の肩の剛性も回復時間にマイナスの影響を与え、復帰を遅らせることになります。 骨のミネラル密度や糖尿病のように、これらの要因のうちのいくつかは、避けることができないかもしれませんが、手術前に医学的治療を受け調整されていることを確実にすることができます。しかし、肥満、活動レベル、筋力や可動性といった要因は、すべて十分に関連性があり、手術前に注意を払うことができます。このことは、手術前に理学療法を行うことの重要性を強調しています。私が常々伝えていることですが、手術を受けるまでがよい状態であればあるほど、術後はよりよい状態になります。 回旋腱板の整合性の要因 予後不良と関連する回旋腱板の整合性に関する要因が4つあります:断裂の大きさ、関与している回旋腱板筋の数、腱の退縮の量、脂肪浸潤の量。これらの要因はすべて、組織の退行と関連があり、おそらく、年齢とも関連があります。 基本的には、組織が退行していればいるほど、予後不良になります。時間がたてば、腱板断裂の大きさは拡大し、骨から剥がれ(退縮)始め、弱化していきます。 これらの要因は、上記の年齢に関する私のコメントとより関わりがあります。おそらく、腱板の断裂が顕著になる前、そして組織がより退行してくる前に、早い段階で決断をして、肩のケアをするべきなのです。考慮することとして、小さな回旋腱板断裂であれば、手術により96.7%の確立で治癒することができます。一方で、断裂が大きくなってしまった場合、治癒する確立は58.8%になります。 回旋腱板修復術後の成功を高めるためにはなにができるのか。 この研究は、回旋腱板修復術の予後を良好にするためにできるいくつかのことに光明を投じていると感じます: 手術時の年齢が高いほど、手術の成功率は低くなるので、不必要に手術を延期するべきではありません。 上記のことに関して、手術を延期することで、腱板の退行が進むことも考慮してください。断裂が大きければ大きいほど、組織の退行が進めば進むほど、結果は不良になります。 身体的に活動的であること、体重が減少していることは、良好な予後と関連があります。重い腰を上げてください。 手術前に理学療法を始める。手術時に肩が強ければ強いほど、可動性がよければ良いほど、予後は良好になります。より強く、そして早く活動に復帰できます。それに加えて、いくつかの研究では、理学療法は回旋腱板手術の回避に効果があると示されています。 骨のミネラル密度や糖尿病などの健康状態は手術前に治療を受けてコントロールされていることを確実にしておいてください。 この記事を読んでいる臨床家のために、私たちは回旋腱板修復術後のリハビリテーションをどのように漸進させていくのかを決定するために、この情報を利用することもできます。患者が予後不良となるような要因を有していればいるほど、より保守的に進めていく必要があるかもしれません。 身体活動を活発に行っていて、回旋腱板の断裂も小さく、健康上なにも問題ない52歳の患者と、断裂が大きく、虚弱で糖尿病を患っている74歳の患者を同じペースで漸進させますか?もちろん、そうはしません。私たちは、やみくもにプロトコールに従ってはなりません。プロトコールは有益であり、必要なものですが、より保守的になるべき要因がある場合は、調整できる要素を含んでいます。 回旋腱修復術の術後を良好にする方法はありますし、それらの多くは調整することができます。皆さん自身、あるいは皆さんの患者さんの予後を最良にするために、これらを利用してください。

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理学療法によって回旋筋腱板断裂の手術を防ぐことは可能か?

回旋筋腱板の再建手術、及び、術後のリハビリは、整形外科や理学療法の学会において、肩のトピックの中で最も議論される論題の一つであり続けています。回旋筋腱板再建手術の失敗率を報告している研究は、数多く発表されており、その範囲は25%-90%となっています。 この失敗率は間違いなく注目するべきものですが、まずは「失敗」という言葉を定義する必要があります。従来の研究モデルでは、手術の成功とは回旋筋腱板が完全な状態であることと定義されており、これは理にかなっています。しかし、これらの研究における、さらに興味深い発見の一つは、再腱に「失敗した」にも関わらず、多くの患者が機能状態、および手術の結果にかなり満足しているということです。放射線検査の所見よりも、患者の術後の経過や満足度がより重要であれば、「失敗」をどう定義するかという問いかけをしなければなりません。 こういった研究により、回旋筋腱板再建手術後の理学療法の役割についての討議が活発になり、また多くの医師がより保守的になり、経過を見て、時間をかけて治療するようになりました。これは、明らかに複数の医師が、初期の理学療法が手術の失敗の原因だと信じていることを示しています。しかし、この考え方は完全ではなく、組織の質、断裂の度合い、患者の選択、手術の技術などの要素の方がより、最終的な失敗率に関係しているかもしれません。 もう一つ考慮すべき見解は、回旋筋腱板の再腱に失敗したのにもかかわらず、患者の満足度が高いということです。たとえば、下記の状況を満たしていれば、患者は満足だといえます。 痛みが少ない 可動域を取り戻した 機能的活動ができる そのため、真に問われるべきは、次のような質問です。手術失敗率が90%にも迫る一方で、手術後の満足度や結果には高い改善が見られるのであれば、回旋筋腱板断裂に対し、手術をせずに理学療法のみに専念することは、患者の痛みの軽減、可動性の復元、日常生活への復帰に、手術をするのと同様の効果をもたらすことができるのでしょうか? 回旋筋腱板断裂に対する理学療法は手術の必要性を妨げることができるか? Journal of Shoulder and Elbow Surgeryで最近発表された研究は、まさにこの問いについて検証します。米国の複数の場所に拠点を持つ研究チームであるMOONショルダーグループが、外傷なしの回旋筋腱板完全断裂を持つ381人の患者グループを最低二年間追跡しました。患者の平均年齢は62歳で、年齢の幅は31歳から90歳でした。 患者は、手術をせずに、回旋筋腱板筋群の強化、軟部組織のモビリゼーション、関節モビリゼーションを中心とした6-12週間の理学療法を受けました。 6週間経過した時点で一度評価をし、9%の患者が回旋筋腱板再腱手術を受けることを選びました。12週間経過したところでまた評価をし、さらに6%の患者が手術を選びました。2年間の追跡経過の時点において、全部で26%の患者が手術を選択しました。統計分析によると、最初の12週間内に手術を行わないリハビリテーションの方法を選んだ場合、手術をする必要はなくなるようです。 患者の75%近くが、回旋筋腱板の完全断裂があるにもかかわらず、理学療法を行うことによって、再腱手術を避けることができました。 これはとても重要な発見です。 保存療法時の回旋筋腱板のリハビリの鍵 この研究結果は、回旋筋腱板断裂の治療において、大きなインパクトを持っています。たとえ回旋筋腱板が完全に断裂していても、手術の前に理学療法が施されるべきです。治療の結果を最大限にするためにも、包括的なリハビリプログラムを作成するべきです。私が回旋筋腱板断裂のある患者を診るときには、3つのキーポイントに注目します。 肩の可動性の復元 これは、受動的可動性と能動的可動性の両方を含みます。受動的可動性において、肩の可動域は回旋筋腱板の症状がひどくなるにつれ、徐々に失われます。これは、痛みを避ける行動や、肩を動かさなくなること、あるいはその他の要因などが原因だと考えられます。関節窩上腕関節包の可動性の低下や、軟部組織の制限などがよくみられるでしょう。患者それぞれに固有な、動きの制限によって、軟部組織のモビリゼーション、関節モビリゼーション、可動性を高めるエクササイズを選択する必要があります。 動的安定性を得るために回旋筋腱板の機能を回復する これは、肩の能動的可動性の復元と本質的に同じことです。制限のない能動的可動性を得るためには、回旋筋腱板が適切に機能する必要があります。以前の記事で、つり橋理論、および、症状なしに回旋筋腱板断裂が起こる理由について説明しました。次の図で御覧のとおり、前部および後部の回旋筋腱板筋群が適切に機能していれば、棘上筋が断裂していても腕を挙上することができます。 肩の筋力と動的安定性を向上するエクササイズが取り入れられるべきです。私の経験では、外旋の筋力が最も制限されており、最も注目する必要があるものだと思います。 キネティックチェーンに与える衝撃を減らす 肩の可動性と安定性の復元に加え、肩の機能におけるキネティックチェーンの影響についても考える必要があります。肩甲胸郭関節、頚椎、胸椎、腰椎骨盤複合体における機能に、何らかの障害があるかを見極めるべきです。これらのエリアは、関節窩上腕関節のアライメント、可動性、安定性に重要な影響を与えます。 これらの原則を用いれば、回旋筋腱板断裂を持つ患者の75%を再腱手術から救うことができる可能性を持つプログラムを作成することができます。このような研究が、手術の有無に関わらず、理学療法が回旋筋腱板断裂を持つ患者の満足度と結果に与える影響を明らかにしていくことを望みます。

マイク・ライノルド 2527字

肩甲骨エクササイズの神話

肩甲骨エクササイズはとても一般的で、リハビリテーションや姿勢矯正エクササイズに必要とされることが多いエクササイズです。他のことと同様に、肩甲骨エクササイズに関連して共通に認められているテーマがいくつかあるようであり、多くの人々はそれを厳格な規則だと思い込んでいます。すべての人にとって正しいプログラムはありません。ここに、私が討論する価値があると考える3つの肩甲骨エクササイズの神話があります。 肩甲骨をぎゅっと引き寄せる 肩甲骨をぎゅっと引き寄せましょう。肩甲骨を同時に引き寄せましょう。肩を後退させてください。肩甲骨を集めてください。これらはすべて、肩甲骨エクササイズを行うとき、コーチが与える指示によくあるものです。これらすべての考えの目的は、よりよい姿勢をとり、肩甲骨を後ろに“安定”させることであり、最終的には、エクササイズを行うときに、良い姿勢となり、よりよい動きのパターンに繋げるということです。社会全体としてとらえれば、私たちには様々なタイプの姿勢をした人たちがいます。頭部前方偏位、猫背といった典型的な上位交差症候群。 通常の肩甲上腕リズムには、肩と肩甲骨が同時に一連の動きとして起こる必要があります。左右の肩甲骨をぎゅっと引き寄せるには、中部僧帽筋を収縮させることが必要になり、肩甲骨を完全に後退させ、そして、腕を動かします。これは肩のメカニズムを考えた場合、肩甲骨を完全に前突した状態で腕を上げることほど悪くはありませんが、完全に後退した状態で腕を上げることがもっとも有益であるとも思いません。僧帽筋を等尺性に収縮させる必要がありますが、肩甲骨を後ろに引いておくことで、腕を挙上し、動かすときに起こる、正常な前突と上方回旋を制限することになります。 この典型的なコーチング指示の目的が、腕のエクササイズを行う際の姿勢を改善し、メカニクスを向上することであるならば、より効果的な指示は胸椎の伸展を誘導することでしょう。さらには、我々が最近話題にしていた、姿勢エクササイズのチンノッドを行うときのように、胸椎伸展と上位頸椎伸展を同時に行うことが良いでしょう。これは本当に姿勢を改善します。胸椎後弯が強く、背中が丸まったままであっても、肩甲骨を内転できることを認識しましょう。肩甲骨を後退させていることは、視覚的には悪くはありませんが、胸椎を伸展させることが本当の目的なのです。 肩甲骨の左右対称性を向上させるためには、可動性と筋力に働きかける 私たちは皆誰かの姿勢を評価するという無礼なことをしたことがあります。頭部前方変位、猫背姿勢を見つけ、大胸筋と上位頸椎の可動性に働きかけ、同時に、下部僧帽筋と深部頚部屈曲筋を強化する必要があると推測します。これらすべてに働きかけることはいいことですが、単純化しすぎた見方のようです。 まず、一歩下がって、邪魔なものを取払いましょう。あなたの肩甲骨は左右対称ではありません。ほぼすべての人々は左右対称ではなく、かなり左右差のない人でさえ、微妙な違いがあると断言してもいいでしょう。事実として、私たちは片側性の生物なのです。私たちは典型的に片方が利き手であり、これに関連して、利き手優位の運動パターンで機能します。このことは、1日中片手の動作を繰り返し行う人について話を始めるとき、本当に問題になります。私はなにも、野球の投手のようなアスリートだけの話をしているわけではありません。皆さんも、コンピュータの前に座り、右手でマウスを使っているわけです。 これは、本質的に股関節、脊柱、胸郭、そしてもちろん肩甲骨を含む、身体全体に左右非対称性を生み出します。 私の意見としては、肩甲骨の位置は、硬くなった筋肉や弱化した、または、抑制された筋肉を含む、他のなによりも、肋骨と胸椎の位置との関連が大きいと考えます。肩甲骨は胸郭に乗っていますし、結果、胸郭と共に動きます。これら筋肉のアンバランスに働きかける必要はありますか?もちろんあります。しかし、適切なアライメントも同様に必要であり、まずこれが最初に評価されるべきです。 皆“安定性より先に可動性である”と言っていますが、そうでしょうか?私はこのことを付け加えるでしょう。これはどうですか: 安定性の前に可動性、その前にアライメント 肩甲骨のエクササイズは両側性に行う 従来のYTWLエクササイズ。なぜ私が典型的なYTWLエクササイズを腹臥位で、ベッドの端、または、バランスボール上のどちらでも、あまりたくさん行わないかについてお話しました。頭部を安定させるために必要な上部僧帽筋の活動をあまり好みませんし、求めているような適切な運動パターンを獲得するようにも思えません。姿勢改善には役立つのかもしれませんこれには賛否両論があることでしょう。 しかし、おそらくより重要なのは、私たちはこのように腕を動かすような運動パターンで動かないだろうということです。最後に、Tエクササイズを行うように、両方の腕を水平伸展させたのはいつですか? 筋肉の強化を目的としているなら、私は片側の腹臥位エクササイズをして、筋力と運動コントロールに集中します。それが私の優先順位です。 それでは、機能と動作パターンが次の課題になったとき、肩甲骨の相反性活動に働きかけることが最良なのでしょうか?私たちはかなり頻繁に,片腕が引く動作をしているとき、反対の腕は押す動作をする、というように腕を使っています。この動作は、テニス、バレーボール、ソフトボール、野球などの片腕のオーバーヘッドスポーツや、歩行、ジョギング、ランニングなどのよくある運動時にも、とてもよくみることができます。 両方の肩甲骨を動かすべきときがありますか?もちろんあります。ちょうど頭に浮かんだのですが、競泳の選手はこれを行いますし(特に、平泳ぎとバタフライでは)、1日中重いもの押したり引いたりしなければならない人も、これを行います。トレーニングの特異性の話に戻ります。 覚えておいて欲しいのは、必ずしも肩甲骨を両側同時に動かす必要はないということです。なぜ左右反対方向に動かし、その代わりに相反性の押すー引くパターンが働くのかについて、とても分かりやすい理由があります。 この記事がで、少なくとも考えたり討論を起こ須きっかけになってほしいと願います。すべてにおいて適切な時と場所がありますが、時には1つの方向にアプローチが偏ってしまうことがよくあります。おそらく、これら3つの肩甲骨エクササイズの神話によって、次回肩甲骨の強化トレーニングを行うとき、立ち止まり、考えることになるでしょう。どう思いますか?

マイク・ライノルド 2835字

YTWLショルダーエクササイズが好きではない理由

YTWLショルダーエクササイズが普及しはじめた頃を覚えています。「YTWL」という頭文字は、肩のエクササイズをうまい具合に説明しており、覚えやすい名称でした。私も時流に乗り、すべての人に両肩のトレーニングを適用していました。肩を負傷しリハビリ中の人たちにさえも行っていました。YTWLショルダーエクササイズでは同時に両側を行うことで、より短い時間で左右対称にトレーニングできます。それでも、私はあまりこのエクササイズに満足しておらず、たくさんの異なるバリエーションを試してみました。 まず初めに試みたのは、立位で前屈することです。シンプルでスタートとしては良いですよね? ただ、すぐに気がついたのは、実際、このエクササイズをするのに適切なポジションがとれない方が多いということ。ほとんどの人達は、上半身を床と水平にするのが困難で、床から約45度の角度で行っています。これでは、三角筋の関与を増やしてしまうのが気に入りません。回旋腱板と肩甲骨のエクササイズを行う際に、三角筋の関与は一番望ましくないことですから。 次に試みたのは、バランスボールの上に腹臥位になることです。すごくいいアイデアですよね? 体幹を安定させながら、肩や肩甲骨周囲の筋群のトレーニングをしようというわけです! ところが、そうでもないようです。このトピックに関する研究では、これまで意見が対立してきましたが、一概にバランスボールの上でエクササイズをしても、肩周囲の筋群とコアの筋群のEMGの継続的な上昇は見られないということを数々の研究が示しています。しかし、このリサーチからひとつの傾向が浮かび上がってきます。それは、筋出力量の減少です。これは、バックスクワットとレッグプレスの違いに似ています。レッグプレスでは、それほど安定性を要求されないために、より重いウェイトを持ち上げられます。この試みはそれほど悪くありませんね。特に機能向上のためにトレーニングしている健康な人たちやスポーツ選手には適しているのかもしれません。でも、YTWLショルダーエクササイズをする理由は、肩の強化と肩の機能向上のためだということを思い出してみてください。不安定な表面でYTWLエクササイズを行ったところで、その目的は果たせそうにありません。 バランスボールの上でこのエクササイズを行っている人たちのポジションが、あまり感心できないものであったことも述べておくべきでしょう。ここでもほとんどの人たちは、上半身が床と平行ではなく、バランスボールより腕が長い場合は、充分な可動域でトレーニングできません。つまり、肩や肩甲骨周囲の筋群のための効果を最大限に発揮できないわけです。しかも、体幹の安定性が十分でなければ、動きのパターンを完成させるために後方に揺れて、腰椎が過伸展してしまうのです。 その次に試みたのは、YTWLエクササイズを不安定な表面ではなく、単にマッサージテーブルに腹臥位になって行うことでした。このエクササイズを行うには、頭と肩をマッサージテーブルやベンチの端からはみ出した位置におく必要があります。悪いアイデアではないようです。実際、YTWLショルダーエクササイズをこのポジションで行うことは、適切だと思いました。腰椎をニュートラルポジションに安定(マッサージテーブルにまっすぐにうつ伏せになり、腰椎を過伸展しないように指導)しなければなりませんが、通常のウェイトを利用することもできます。これまで試みたポジションで探していた「身体が床と平行なポジション」にようやくたどり着いたのです。 あぁ~、やっとここまで来ましたが、まだ満足できません。マッサージベッドの端から頭がはみ出した状態で両側性のショルダーエクササイズをすれば、上部僧帽筋と肩甲挙筋の活動を助長してしまいます。上部僧帽筋の活動や上部僧帽筋優位の姿勢を低減させたいという私の考え方を皆さんもご存知ですね。そのうえ、これらのエクササイズの目的は、肩と肩甲骨機能の向上なのですから、上部僧帽筋と三角筋を強化するようなエクササイズは、かえって私たちの目的の妨げとなってしまいます。特に上部僧帽筋と下部僧帽筋の活動の割合が肩のインピンジメントに影響することが分かっている場合、やはりこの方法は逆効果を招くと考えられます。 なぜ私はYTWLショルダーエクササイズを好まないのか おわかりの通り、YTWLショルダーエクササイズを実施するにはいくつかの制限があります。私が懸念しているこれらの制限をまとめると: 身体が床と平行で実施しなければ、筋にかかる角度が変わり、より三角筋を動員することになる。 腰椎が過伸展しやすい傾向にある。 不安定表面で実施することにより、筋出力量を減少させ、肩と肩甲骨周囲の筋群に重点を置きにくくなる可能性がある。 バランスボールの上では、充分な可動域で実施することができない。 マッサージベッドやベンチの端で実施すると、頭を保持するために上部僧帽筋と肩甲挙筋を動員し過ぎてしまう。 YTWLショルダーエクササイズを適用する時に提案したいこと 主要な目的が回旋腱板と肩甲骨周囲の筋群の強化であれば、YTWLエクササイズは、あまり推奨できません。実施する場合、安定面(たとえばマッサージテーブル)の上で身体は床と平行にし、片側ずつ行うように単純化する必要があります。そうです、頭の位置はニュートラルではなく横に向けてください。少なくとも首の筋群はリラックスさせておきます。Wショルダーエクササイズはこれまで通り両側で行いますが(Wショルダーエクササイズテクニックについては、私の過去のポストとデモンストレーション動画をご覧ください)、YとT、Lは片側ずつ行います。 特定の損傷や手術のリハビリテーションでない場合、または第一目的が肩と肩甲骨周囲の筋群の強化でない場合、また左右対称性と運動機能の向上が目的であれば、YTWLショルダーエクササイズを行っても悪くはないでしょう。もし特定の欠点強化に取り組んでいるのであれば、従来の古いやり方が適切かもしれません。まずはそこから始めて、筋力がリストアされれば、他のポジションに漸進すればよいでしょう。リハビリテーションとフィットネスの専門コーチは、両側のYTWLエクササイズの際、上記で述べた代償的パターンが起こらないように必ず指導するべきです。 両側でYTWLショルダーエクササイズを行うのが適している場合もありますが、ほとんどの場合、私は肩と肩甲骨の強化と機能向上を目的としています。両側のYTWLエクササイズは、肩と肩甲骨に十分な強度と安定性が備わってから実施するプログレッションと捉えています。YTWLショルダーエクササイズを両側で行うことは、目標から少し外れてしまうのではないかと私は思うのですが、皆さんはどうお考えになりますか?

マイク・ライノルド 2913字

肩関節インピンジメント-評価・治療のための3つの要点 パート1/2

今日の投稿は、肩関節インピンジメントのリハビリテーションに関して、私が受けた質問に対する答えになります。 こんにちは、マイク。あなたが、烏口下インピンジメントと肩峰下、あるいは、関節内インピンジメントをどのように区別してケアを行っているのか、とても興味があります。肩関節インピンジメントに対する治療のオプションは何が適切でしょうか?ありがとう、マリオ 肩関節インピンジメント-識別の3つの要点 肩関節インピンジメントはかなり広義の用語で、私たちの多くはそれを当然のように思っています。“膝蓋大腿関節痛”のように、かなり無意味な用語になってきました。一般の人々に対して障害を説明するとき、“肩関節インピンジメント”のように、非専門的な用語を使用することは問題ありませんが、専門家として、適切な評価と治療を保証するためには、できる限り詳細に明記することが得策と言えるでしょう。ノートから引っ張りだし、特定の人に使える、魔法のような“肩関節インピンジメントのプロトコールはありません。 肩関節インピンジメントを分類し区別するために私が考えている3つの要素。 1. 部位 これは一般に、回旋腱板の、滑液包側なのか関節面側か、どちら側でインピンジメントが起きているのかということです。下の肩MRI画像を見てください。赤い矢印で示されている通り、滑液包側は回旋腱板の外側になります。これはおそらく、一般に“肩関節インピンジメント”と呼ぶときに、皆が意味している“標準的な肩関節肩峰下インピンジメント”です。緑の矢印は、回旋腱板の内側、または、関節面を指しています。ここでのインピンジメントは、“関節内インピンジメント”と呼ばれています。この2つは、原因、評価、治療の観点からも違いがありますし、だからこそ、最初の識別が重要になります。詳細はまた後で。 2. 衝突している構造 私にとっては、これは滑液包側、あるいは、肩峰下インピンジメントのことであって、回旋腱板がどの構造に対して衝突しているのかについて言及しています。下の写真に見ることができるように(両側の写真)、肩峰下のスペースはとても狭く、あまり余裕もありません。事実、“スペース”というものはほとんどなく、回旋腱板や肩峰下滑液包を含む、多くの組織がこの空間を横切っています。実際には、腕を動かすときは、いつも衝突が起こっています。インピンジメント自体は正常なもので、私たちすべての人に普通に起こっているのですが、それが過剰になったとき、病変が起こります。組合わさって、または、どちらか単独で起こることもある、肩峰アーチと烏口肩峰アーチインピンジメントを識別してみたいと思います。評価と治療に関してはとても似通っていますが、烏口肩峰インピンジメントに関して、小さな修正を2、3していきたいと思います。これに関しては以下で述べます。 3. インピンジメントの原因 これが、私が“一次的”と“二次的”肩関節インピンジメントと言及していることです。一時的なインピンジメントとは、インピンジメント自体がその人にとって主要な問題であるということです。これについて良い症例は、下の写真にあるように、フック状の肩峰のような解剖学的な問題があって、インピンジメントが起こっている場合です。肩峰の多くは、平坦であるか、カーブしているのですが、フック状、または、先端に棘がついているような人もいます(赤で示している)。 二次的インピンジメントとは、おそらく活動や姿勢、硬さや筋力のアンバランスが原因で、上腕骨骨頭が回旋軸から逸脱し、インピンジメントを起こしていることを意味しています。もっとも単純な症例は、回旋腱板の弱化です。このシナリオでは、三角筋が回旋腱板の筋力を上回り、上腕骨骨頭を上方に移動させ、結果として、上腕骨頭と肩峰の間で回旋腱板が衝突します。

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肩関節インピンジメント-評価・治療のための3つの要点 パート2/2

肩関節インピンジメントのタイプによる区別化 最適な肩のパフォーマンスという私たちのDVDの中で、リハビリテーションやトレーニングに影響を与えるであろう肩関節インピンジメントの評価方法に、いくつかのやり方があるということについて話をしています。上記で述べた、それぞれのタイプの肩関節インピンジメントを評価するための特定のテストがあります。もっとも知られている2つの肩関節インピンジメントテストは、ニアーテストとホーキンステストです。ニアーテストでは(下記 - 上の写真)、検者は肩甲骨を安定させ、肩を他動的に挙上させ、上腕骨骨頭を肩峰に押し込むようにします。ホーキンステストでは(下記 - 下の写真)、検者が腕を90度まで外転させ、肩に内旋を強制させ、肩峰下アーチの下で腱板を衝突させます。 これらのテストに少し変化を加えることで、烏口肩峰アーチタイプの肩峰下インピンジメントをより示唆するであろう異なった症状を引き出すことができます。これは、より前方での腱板インピンジメントが関与しており、下記のテストでは、この部位でのもろさを再現しようと試みます。ホーキンステスト(下記 - 上の写真)に変更を加え、より水平内転させた姿位で行うことができます。別の肩関節インピンジメントテスト(下記 - 下の写真)では、反対側の肩をつかませて、能動的に肩を挙上させるように促し、検査することができます。 肩峰下インピンジメントを患っている患者の多くは、上記のテストすべてで症状を呈する可能性が高いですが、上記4つのテストにおけるちょっとした症状の変化を見つけることで、肩峰下インピンジメントの部位(肩峰に対して烏口肩峰アーチ)を特定することができるかもしれません。 関節内インピンジメントは異なったタイプです。オーバーヘッドアスリートにもっともよく見られますが、このタイプのインピンジメントは、典型的に、前方方向への過度なゆるさが原因です。例えば、野球の投球、テニスのサーブなどのように、選手が完全外旋位をとる場合、上腕骨骨頭が僅かに前方にシフトし、回旋腱板の下部表面が関節窩後方と関節唇に対して衝突を起こします。これは多くの場合、野球選手が“部分的に肥厚した回旋腱板断裂”を起こしたときに、よく聞きます。 このためのテストは単純で、前方不安感テストとまったく同じです。検者は90度外転した姿位で腕を外旋させ、痛みを調べます。肩関節不安定性のある患者とは異なり、関節内インピンジメントを患っている人は、前方への不安定感を示しません。むしろ、肩の後方上方部付近のかなり特定の部位に圧痛があります(下記 - 上の写真)。上腕骨骨頭を後方に少しシフトさせ、検者が肩をあるべき位置に戻すと、後方上方部の痛みは消失します(下記 - 下の写真)。 3 肩関節インピンジメントを治療するための3つの要点−どのように治療を変えるのか? 上記の情報には3つの主要な要点があり、呈しているインピンジメントのタイプによって、治療やトレーニングプログラムを変更することができます。 肩峰下インピンジメント – 肩峰インピンジメントと烏口肩峰インピンジメントを区別する:これら2つのタイプのインピンジメントでは本質的に治療は同じとなりますが、烏口肩峰アーチインピンジメントの場合、水平内転のストレッチングに注意する必要があります。残念なことですが、これらの患者の場合、後方軟部組織をストレッチする必要はあるものの、インピンジメントしている部位を挟むようなことはできません。はさむことはインピンジメントになります。また、矢状面での挙上、または、水平内転エクササイズは避けたほうがよいでしょう。 一次的 対 二次的インピンジメント – これは重要な点で、若い治療家やトレーナーにとってフラストレーションの元になります。二次的インピンジメントを扱う場合、患者の症状に対して、試したい治療法はすべて行うことはできても、傷害の原因に焦点を当てなければ、彼らはまた戻ってくるでしょう。ですから、患者や、その姿勢、筋肉のアンバランス、動きの機能不全などすべてを大きな視点で見ていく必要があります。このような見方で、患者を見ていけば、より良い結果が得られるでしょう。 関節内インピンジメント – 関節内インピンジメントについて認識すべきことの1つは、それがかなり二次的な問題であるということです。回旋腱板の弱化、疲労、動的安定性能力の低下などが原因で起こることもありますし、腕を振りかぶったポジションにあるとき、過度な緩さを呈する選手もいます。回旋腱板を治療し、その動的安定性を向上させることで、インピンジメントの症状が改善します。

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回旋腱板

ローテーターカフ/回旋腱板の傷害を人生の中のどこかで経験する人の数はかなりの数にのぼります。治療対象/指導対象の個人が、回旋腱板障害のどの段階にあるのかを見極めることの重要性に関して、マイク・レイノルドのセミナーからの抜粋です。

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