ストレッチは本当にパフォーマンスを低下させるのか?

静的ストレッチは、複数の研究によって、筋力、パワー、スピード、パフォーマンスなどを低下させることが示され、ここ数年相当のバッシングを受けています。ストレングス業界、フィットネス業界の多くの人々はこれらの研究結果に従い、競技前のストレッチを行わなくなりました。 しかし、他の多くの研究にもいえるように、研究を詳細に評価してみると競技前のストレッチというのは、それほど単純なものではないことがわかります。もたらすのが良い効果であれ、悪い効果であれ、ストレッチのタイプや研究の被験者などの変数を慎重に考慮することなく、“ストレッチ”が何かの起因となると結論づけてしまうのは単純すぎといえるでしょう。 また、これらの研究とは相反する結果を示した報告もいくつかあり、問題はさらにややこしくなります。最近のレビューではストレッチについての研究の69%には、筋力、パワー、スピードに重要な低下はみられなかったと報告しています。 最近の研究とメタ分析は、ストレッチが本当にパフォーマンスを低下させるのかという問いに対して、より深く洞察しています。その結果は非常に興味深く、競技前のウォームアップに静的ストレッチを取り入れる余地もありそうです。特に、静的ストレッチが肉離れの減少に役立ちうることを示した研究は考慮するべきでしょう。 ストレッチを継続する時間が大切 ストレッチがパフォーマンスの低下につながると言われる原因のひとつは。ストレッチを継続する時間の長さに関連しているようです。Medicine and Science in Sports and Exerciseで最近発表された研究では、106の研究のメタ分析を行い、ストレッチの継続時間がパフォーマンスに与える影響について調べています。 ストレッチの継続時間を基に研究結果を分析してみると、30秒以下のストレッチにはパフォーマンスの低下との相関性はない一方で、60秒以上のストレッチはパフォーマンスを低下させていることがわかります。 この論文の著者は、30秒以下のストレッチがパフォーマンスをはっきりと低下させた研究は14%しかないのに対し、1分以上ではその数は61%であると報告しています。これは大きな違いであり、私はストレッチを短い時間行うことのリスクは比較的低いと考えています。さらにいえば、この研究結果は、たとえ1分以上ストレッチを継続しても、ストレッチが100%パフォーマンスを低下するとは示していないのです。 ストレッチをするタイミングが大切 他に考えられるパフォーマンス低下の要素として、静的ストレッチを行ってから競技を開始するまでのタイミングがあります。発表されている研究の多くは、ストレッチの即時反応をみているのですが、一体私たちがどのくらい頻繁に、ストレッチ後すぐにフィールドに出て競技をするというのでしょうか。 タイミングは一つの論題であり、複数の研究者によって、ストレッチから競技開始までの時間を5分にすることが奨められています。これは理にかなっていると思いますし、私もこれを推奨します。 静的ストレッチと動的ストレッチの組み合わせが大切 ストレッチがパフォーマンスを低下させるという研究による反射的な反応のあと、多くの人々は、スポーツの前に静的ストレッチをする代わりに動的ストレッチを行うようになりました。これは、よりよいダイナミックウォームアップの発展につながり、それ自体はとてもよいことです。しかし、最近の研究によると、静的ストレッチと動的ストレッチを組み合わせて使うことが有効かもしれないということを示唆しています。実際、静的ストレッチを動的ストレッチと組み合わせて行った場合、静的ストレッチのマイナス面が打ち消されたという報告もあります。 この研究結果がダイナミックウォームアップによるものなのか、それとも単に、静的ストレッチと試験プロトコルの間が15分だったことによるものなのかは、結論づけがたいものがあります。 上記のどちらであるかに関わらず、静的ストレッチと動的ストレッチを両方用いることが効果的かもしれず、少なくとも、静的ストレッチから競技までの時間を確保することになるため、両方のストレッチを取り入れるべきであるという優れた理由になると考えます。 静的ストレッチをなぜ、どのように行うのか これまでの情報を整理すると、静的ストレッチを取り入れたい場合には、適切な導入方法がありそうだということがわかります。私は、静的ストレッチを行いたい理由には2つあると考えています。 ひとつ目は、クライアントが明らかにストレッチから恩恵を受けると考えられる、制限を持っている場合です。ストレッチの研究に見られる大きな制限の一つに、被験者のほとんどが健康な個人であるということがあります。しかし、何らかの受傷歴や障害がある人ではどうでしょう。このような状況では、パフォーマンスを低下させる可能性を考慮するよりも、まず制限を扱う必要があります。 このように制限を持っている人々にとって、静的ストレッチは必要であり、適切な障害予防プログラムの一部として静的ストレッチが取り入れられるべきだと思います。これは、一般的な広範囲にわたるストレッチという意味ではなく、ストレッチが必要なところに焦点をあてるということを意味します。そしてここでも、私は上記で述べてきた原則に従い、継続時間、タイミング、ダイナミックウォームアップとの組み合わせを考えます。 私が競技前に静的ストレッチを使うもう一つの状況は、試合や練習の蓄積により、選手が筋肉に固さや痛みを感じているときです。180日間で162試合するようなスポーツでは特に。この試合数に加え、バス、飛行機での移動、環境の悪いホテルなど度重なる身体の酷使により、選手たちの身体はかなり固くなります。実際にプレーをしない私だって固く感じるんですから。 私は、このような状況で、組織を伸ばすという目的で、静的ストレッチを長い時間ホールドさせたりすることはありません。そうではなく、神経への作用から筋緊張を和らげ、選手の固いという感覚を取り除くことに努めています。3-5秒のストレッチを3-5回行い、最終可動域に働きかけずに組織のゆるみを取るというように、実施しています。。 また、選手が最初に行うダイナミックな動作が、競技中のランニングや投球、ジャンプ動作になって欲しくないので、まず軽く動いてもらうことが役に立ちます。このことについては以前にも簡単に論述しています。私はこれを“fluff(フラッフ)”ストレッチと呼んでいます(fluff=ふわふわしたもの、毛羽、綿毛など)。正直なところ、私が最後に1分はおろか30秒以上ストレッチを保持したのがいつだったか思い出せません。私の経験では、私達は、すでに弛んでいる多くのアスリート達を頻繁に、アグレッシブにストレッチをさせてしまっています。ですから、ほとんどの場合、ストレッチを控えめに行うことにしています。 おそらく、最適なアプローチは必要なところのみストレッチをして、残りは適度にリラックスさせ、2つの状況を組み合わせることではないでしょうか。 最適な答えはわかりません。でも、30秒以下の静的ストレッチを行い、ダイナミックウォームアップを含み、ストレッチと競技の間に一定の時間を取れば、ストレッチがパフォーマンスを低下させることはなさそうです。 とにかく、適切な状況で正しく行えば、競技前に静的ストレッチをすることを恐れたり、避けたりする必要はないと思います。

マイク・ライノルド 3254字

大円筋:投手にとって軽視されがちな重要な筋肉

野球のピッチャーやその他のオーバーヘッドアスリートは、投げることによって筋肉が硬くなっていることに疑いの余地はありません。これは以前、私がAJSMで出版した研究で示しており、ピッチャーはマウンドから45球投げた後、即時に肩関節内旋の損失が見られました。 私はよく、この動きの損失は対処せずにいると簡単に蓄積されると言っているのですが、残念ながら私が診ている大半の野球のピッチャー達は、軟部組織の可動性を改善する必要があります。これは、筋肉へのトラウマの蓄積が、一定の期間対処されずに放置されたことに直接関係していると思います。 私は、野球のピッチャーにとって、日常的な軟部組織のメインテナンスが大切だと固く信じていますが、多くのアスリートにとって、私のような専門家にアクセスを持つことがあまり現実的ではないことも理解しています。 フォームローリングやマッサージスティック、トリガーポイントボールなど、自分で軟部組織をケアするための道具はたくさん開発されてきました。私たちは投手にこれらの道具を使うことを薦めてきたので、ローテーターカフ後部や広背筋、胸筋など、いくつかの重要なエリアに焦点をあててケアしている人々を見ることもよくあると思います。これにはちゃんとした理由があるのです。 しかし上記以外にも、私がとても大切だと思っていて、ケアすればすぐに状態を向上させるけれど、みなさんが忘れてしまっているであろうスポットがあります。 大円筋 大円筋は、そもそも値するに十分な敬意をもたれていません。「ローテーターカフ」筋群のひとつに含まれるほどの幸運もない。Men’s Healthの筋肉の強化方法に掲載される胸筋や広背筋のように大きくもない。しかも時々忘れ去られる! 大円筋は、注目すべきとても重要な筋肉です。 大円筋は腕の内旋筋と内転筋として機能しています。ボールに速度をつけるメカニクスを通して腕は何をするか想像してみてください。そうです、腕を内旋し、内転させますよね! しかし、同じ動きを担う胸筋や広背筋と異なり、大円筋は肩甲骨と上腕骨により密接な関係があるのです。野球のピッチャーをみると、大きくて、過剰発達し、肥大した大円筋を見ることが多いと思います。これもまた、大円筋が投げることにおいて重要な筋肉であることを示しています。(写真転載: ウィキペディア ) オーバーユースや投げることによって大円筋が硬くなり、短縮すると、肩甲上腕関節の運動に変化が見られ始めます。評価の際に、投げる動作を行う側の肩甲骨が、より上方回旋しているように見えるときがあると思いますが、私は、これは大円筋が短くなっていることにより、肩甲骨と上腕骨の動きが適切に分化されていないことに起因していると思います。結果的に、硬い大円筋は腕とともに肩甲骨を引き上げてしまいます。 この人は一見、腕の挙上を適切に達成しているように見えますが、実際は肩甲骨の上方回旋によって動きを代償しているだけです。詳しく見てみると、腕の挙上は少なく、肩甲骨の上方回旋の方が大きいことさえわかります。これはいずれ、肩のインピンジメントや炎症につながるでしょう。下記が良い例です。 (上腕骨挙上の減少;肩甲骨上方回旋の増加) 大円筋のセルフ筋膜リリースと軟部組織へのアプローチ みなさんを助けたい、一緒に働きたいと思うと同時に、私はみなさんにある程度自分自身で管理できるようになって欲しいと思っています。投げた後は動きが失われると言ったことは覚えていますか?みなさん自身が、最善の努力をして管理することが大事なのです。 大円筋へのシンプルなアプローチ方法は、トリガーポイントボールやラクロスのボールを使って、セルフ筋膜リリースをすることです。私たちはよく、肩の後ろ側やローテーターカフ後部にボールをあてることを薦めますが、私の経験上、大円筋には十分なケアがなされていません。大円筋に焦点をあててアプローチするには、単純に大円筋の解剖学の理解とボールを当てる位置の調整が必要となります。 広背筋をフォームローリングすることは、大円筋の弛緩にはあまりつながらないということにも言及しておきましょう。大円筋は短くて、脇の下に近い高い位置にあり、これではあまり効果がないのです。より小さなトリガーポイントボールを使って、焦点を絞り、大円筋に入りこんでいく必要があります。 どのトリガーポイントボールを買うべきか? 私は通常、その時々に必要な固さによって、複数の異なるトリガーポイントボールを使いわけます。初心者には柔らかめのボールをお薦めしますし、上級者には固めのボールをお薦めします。下記が私のお薦めです。 初心者:トリガーポイントセラピーマッサージボール。これらはラクロスボールよりも高く3000円くらいしますが、よりやわらかく、いろんなエリアを押すことができる私が好きな小さい突起があります。これは最初の一歩として良いものですが、新しいトリガーポイントセラピーXファクターボールは少し大きめでより固くなっています。私はこれらをよく使っています。 上級者:SKLZリアクションボール。この小さくて黄色い、落とすと四方八方にバウンドしていくリアクションボールを知っていますか。私はつい最近、友人に紹介されたこれらのトリガーポイントツールに魅了されました!とてもよく効くんです。これらは固くて、組織にしっかり入りこんでいく素晴らしい小さな突起がついてます。しかも1000円以下で簡単に見つけることができます。 もちろんシンプルにラクロスボールを使うこともできます。ラクロスボールは良いと思いますが、結構固いですし、突起がないので、エリアによってはあまり理想的ではありません。それを考慮しても、これらはたった200円くらいです。 皆さん自身が大円筋をケアしてみれば、またはアスリートにケアを薦めてみれば、すぐに効果を実感できるでしょう。セルフ筋膜リリーステクニックを使って大円筋の軟部組織をケアすることは、重要なのにも関わらず軽視されがちです。野球のピッチャーやその他のオーバーヘッドアスリートにとって、大円筋はもっと注目されるべきエリアなのです。

マイク・ライノルド 2681字

硬い股関節屈筋は、硬いハムストリングスの原因となりうるか?

私はこの記事のタイトルが好きです ー 硬い股関節屈筋は、硬いハムストリングスの原因となりうるか? これってなぞなぞのようではありませんか? 私は最近、解剖学について知識を持ち、良く理解しているクライアントと仕事をしました。 彼はいくつかの理由で私のところに来ていたのですが、そのリストの上にあるのが”私のハムストリングスが硬い”、こと、そしてつま先を触ることができない、とういうことでした。 膝が曲がった状態でも、彼の手はおよそ7.5cm程床から離れていたのです!彼は ”なんでつま先を触れないのかがわからないよ、何ヶ月もストレッチしてハムストリングスに働きかけているのに!” と付け加えました。 頭のてっぺんからつま先まで、彼を評価する時間を費やした後、私は、彼のハムストリングスが “硬い” のは股関節屈筋が硬いからだと思うと伝えました。 彼はそれについて少しの間考え、“もし私のハムストリングが硬いのであれば、股関節屈筋は緩いはずではないですか?”と反論してきました。 私の答えは “あなたのハムストリングは硬いとは思いません。”だったのですが、この時点で彼はセッションから去ろうとするところでした。私のことを、世界一狂ってる人だと思いつつ、彼は “それなのに私はつま先が触れないって?!?” と発言。 いかにして硬い股関節屈筋が硬いハムストリングの原因となるか 皆さんも、過去にこのようなクライアントをお持ちになったことがあると思います。彼らは危険な程に、十分な程度の知識を持っている人達。 私のなぞなぞの答えは、何よりもより意味論的(セマンティクス)なものです。そうなのです。ハムストリングスの固さは床を触る能力を制限します。しかしそれが唯一の原因ではありません。 私達は、過去数年にわたり、実際にこのコンセプトを良く理解する上で素晴らしいことを行ってきました。 グレイ・クック、リー・バートン、ブレット・ジョーンズ、その他の人々が、多くの人達に、なぜ床に触る能力が制限されるかという他の理由、特に乏しい運動制御とコアの安定によるものであり得る、と指導するという素晴らしいことを成し遂げてきました。 しかしながら、反対のように思えるものの、硬い股関節屈筋もその要因となりうるのです。 ここでもまた意味論的なものとなります。私は実のところ、骨盤前傾が床を触る能力を制限するという話をしているのです。 ここに興味深い例があります。下の図では、どちらがより短いハムストリングでしょうか? 左脚と答えたあなた、推測で言っていますね!包括的なテストなくしては、単に推測に過ぎないのです。 もし左の骨盤が前傾していたらどうなるでしょうか?これにより、ハムストリングスの近位付着部が上方に動く為に、この例のように、硬いハムストリングスのように見えます。 硬いハムストリングスを持っていそうな人や、床を触れない人の場合、私は最初に、骨盤のアライメントが極端な前傾かどうかを見ます。全てが最初のポイントの評価を中心として思いめぐらされるのです。 下の例で見て取れるように、誇張された前傾からスタートするとすれば、理論的にはハムストリングスが長い状態から始まります。 私はシンプルな数字である45度と90度を使用しました、これらはかなり極端ではありますが私が何を言おうとしているかわかりますよね。 誇張された骨盤前傾において、この例のように通常のスタートポジションはすでに45度に近いものになるのです! 硬い股関節屈筋は硬いハムストリングの原因となりうるでしょうか?私はそれについてはよくわかりません。しかし骨盤前傾でいることが床に触れる能力の制限になりうることは知っています。繰り返しますが、常に辿り着くのはここなのです: 評価をすること、推測をしないこと 単に処置を開始する前に、アライメントの評価をすること。それが爪先を触れない理由であるか否かを、本当に評価することなく、ハムストリングスをフォームロール、マッサージ、ストレッチするという衝動に耐えましょう。時に、固い股関節屈筋と骨盤前傾は同程度に、つま先に触る能力を制限しえるのです。

マイク・ライノルド 1850字

腕の挙上動作を評価する

私が包括的なアセスメント(評価)プロセスにおいて見る多くの中の一つが、腕を頭上に挙げる際の動きの質です。あなたが収集したその人のこのような基礎的なタスクを行う能力に関する情報は、リハビリやトレーニングプログラムをデザインする際に、しばしば非常に貴重なものとなります。 下に私が最近行ったアセスメントのビデオがあります。これは興味深いものなのでシェアをしたいと思います。 少し経緯をあげておきましょう。患者は高校の競泳選手で、長時間泳いだ後、両肩全体に広がる違和感と、疲労感 がプールにおいてみられていました。疲労の多くは肩後部にみられましたが、特定はされません。検査では、水泳選手によく見られる関節のゆるさは明らかでしたが、問題になるような構造的な病理は発見されませんでした。総評

マイク・ライノルド 4251字

実用最小限のエクササイズ

先日、私がオフシーズンの間トレーニングをみている大リーグのピッチャーの一人と会話をしていたのですが、その時の話は、皆さんとシェアする価値があると思いました。彼の腕のケアのプログラムの取り組みで、長距離投球プログラムの最初の構成を考えていたとき、私たちは、どのくらい遠い距離の投球を試すべきかについて話し合いました。以前は、彼は36mから54mの間の距離しか投げませんでしたが(若い皆さん、メモを取ってください。オフシーズンは54mの投球をするだけでもメジャーリーグに行くことができるのです)、91m以上の距離を投げる流行の長距離投球プログラムを耳にしていたのです。 私の返答は、説得とは程遠く、「状況による」というものでした。私は、それぞれのピッチャーに個別化されたプログラムを作る必要性を強く感じています。私はさりげなく、彼は結構激しく投げていること、彼は既に大リーガーであるということを思い出させました。ただのプロ野球選手ではなく、実際の大リーガーだということを。 ”そうだね、しっかり投げているけど、もっと強く投げられたらどうなのかな?“というのが彼の反応だったのです!これに同意はしたものの、私が言ったのは”OK, だけど何の結果として?“ということでした。 実用最小限の製品(MVP=Minimum Viable Product) このことが、「実用最小限の製品」の概念へとつながりました。 ビジネスの世界にいる人ならば、「実用最小限の製品」という概念を聞いたことがあるはずです。実用最小限の製品とは、これだけあれば発売できるという最小限の要素を備えた製品をいいます。削ぎ落とされた製品だと考えてください。無駄のない製造業ビジネスモデルでは、この実用最小限の製品というアプローチは、大きな賭けをした後にそれが間違っていたことがわかるというのではなく、売っていく中で製品を評価して、調整するという考え方を中心とした多くの利点があります。もしあなたが、一つの製品に全てを賭けて、その製品が失敗してしまったら問題です。なぜならあなたは、その製品に少なからぬ時間、エネルギー、お金をかけてきたからです。 なんというビジネスとリハビリやパフォーマンスの世界の共通性なのでしょう!どちらも、評価して、調整するなかで成長します!これまで何回これと同じことを述べてきたでしょう(沢山です)! ビジネスの世界では、これは成功か倒産かという違いになり得ます。 私たちの世界では、これはパフォーマンスの向上か怪我の受傷かという違いになり得ます。 実用最小限のエクササイズ ここで、「実用最小限のエクササイズ」が役に立ちます。実用最小限のエクササイズは、最低限の強度で、望ましい効果を出すエクササイズです。はい、その通りです、私は今これをでっち上げてしまいました。でもこれが、私の実用最小限のエクササイズの定義の仕方なのです。 パフォーマンスを向上し、怪我を最小限に抑えるためには、最低限の強度で、望ましいトレーニング効果を出すエクササイズを選択します。 長距離投球を「エクササイズ」の例、速度を理想的な「効果」として使い、速度を速めるのに必要なだけ遠くに投げてみる、それだけです。これは常に「多ければ多い程良い」というアプローチではありません。このことを考えるとき、私は、ジェリー・セインフェルドが、「最大の強さのものを与えてくれ。どこまでいけば私が死ぬかがわかったら、そこから少しだけ弱めるんだ。」と言った、最も強力な薬物療法に関するジョークを思い出さずにはいられません。 この考え方は、重量ボールを投げることにも適用されますが、一年を通して投げることの方に、より適用されると言えるでしょう。多くの野球指導者は、オフシーズンに投球を休むことは、改善の機会を失うことだと感じています。一年に8ヶ月以上投げることにより、怪我は5倍に膨れ上がるという統計的研究があるにも関わらずです!私たちは大抵、「実用最小限のエクササイズ」よりも断然に「最大強度のエクササイズ」を選ぶ傾向にあります。 最初の長距離投球の議論に戻ると、これには2つの実施方法が考えられます。一つ目は、速度が上がることを願って(そして怪我をしないことを願って)、いきなり91mを超える長距離投球プログラムを始めることです。それに対し、実用最小限のエクササイズのアプローチでは、ゆっくりと、徐々に距離を伸ばしていき、再度評価を行います。 速度は上がりましたか?その距離で適切なメカニクスで、長距離投球を行うことはできましたか?その距離でかかるストレスに、身体が耐えることができていないサインはありますか?こういった情報によって、手遅れになる前に、段階を進めていくのか、戻るのか、あるいはこの段階で満足してこのレベルを維持するのかといった正確な調整をすることができます。 その反対が、よく見かける、若いアスリートが急に強度を上げて「最大強度」のエクササイズを行うことにより怪我をしてしまうことでしょう。リスクと報酬の明確なラインは、この時点では見極めが非常に難しいのです。 実用最小限のエクササイズは、野球だけに限らず、リハビリテーション、フィットネス、パフォーマンストレーニングの様々な場面に応用することができます。ここでの話題の文脈として使っているわけですが、私は、この実用最小限のエクササイズという概念は、私たちが実感している以上に既に使われていると思っています。デッドリフトの強度を上げようとしているとしたら、重りを急激に上げて、悪いフォームでリフティングを行うリスクや怪我をするリスクを取ろうとはしないでしょう。その代わりに、小さく、徐々に重りを増やしていき、評価をして、調整していくことでしょう。 誤解しないでください、私は追い込むなと言っているわけではありません。そうではなく、賢く、体系的な方法で追い込んで欲しいのです。 欲張って、急に最大強度のエクササイズを行うようなことはしないで下さい。途中で評価、調整できる賢いプログラムを作ってください。それが実用最小限のエクササイズなのです。

マイク・ライノルド 2638字

トミージョン手術の神話 パート1/2

2014年、全米スポーツ医学機構主催の、野球における傷害セミナーでの大きな話題の一つは、トミージョン手術として広く知られている、肘内側側副靭帯再建手術の術後経過に関する理解の進化であった。我々は、初めてフランク・ジョーブ博士が手術を行って以来、トミージョン手術を受けたことのある選手の手術結果に関するデータを毎年蓄積し続けてきた。 ジェームス・アンドリュー博士とフランク・ジョーブ博士 過去数年間、我々は、間違いなく世界中で、最もトミージョン手術を行っている医師であるジェームズ・アンドリュー博士による、とても重要な研究結果を見てきた。2010年に彼らは、19年以上にわたって調査してきた1281名のアスリートの2年間の短期的結果を発表した。さらに最近では、少なくとも10年以上前に手術を受けている256名の、10年間以上のフォローアップの結果を公表した。 これらの画期的な研究から得られる情報をもとに、現在我々は、トミージョン手術の結果についてより多くのことを理解している。しかし、トミージョン手術に関する一般の理解は正しいのだろうか、また、我々の見解はメディアで騒ぎたてられている情報に左右されていないだろうか? ニューヨークヤンキースのクリス・アマッド博士はトミージョン手術についての 、選手、コーチ、両親の見解を調査し最近その論文を公表した。著者の言及によると: 28%の選手と20%のコーチは、トミージョン手術を受けることで競技力が向上するだろうと考えている。 23%のユース世代、32%の高校生、53%の大学生投手、33%のコーチ、そして、36%の両親がトミージョン手術後に球速が上がると考えている。(私は昨日ツイッターとフェイスブックのフォロワーにも調査し、大多数の人々がトミージョン手術後球速が上がると考えているという結果を得た) 24%の選手、20%のコーチ、そして44%の両親が9カ月以内に復帰できると考えている。 もっとも衝撃的なものとしては: 33%のコーチ、37%の両親、51%の高校生選手、26%の大学生選手が、肘の傷害がなくても、パフォーマンス向上のためにトミージョン手術を受けるべきだと考えている。 これはまったく的外れである! この話題におけるアマッド博士の研究と最新の調査に基づいて、これらの考えに関して討論し、これらの考えの多くが間違っているということを人々に理解していただきたい。 選手、コーチ、両親が正しく理解すべきトミージョン手術に関する間違った神話は以下のとおりである。 すべての選手がトミージョン手術から復帰する 肘の傷害がなくてもトミージョン手術を受けるべきだと、37%の両親と51%の高校生選手が考えているとすると、その考えではすべての選手が元通り投球できると推測しているわけだが、本当にそうだろうか? まず、大リーグ関係者は同意しない。ロサンジェルスドジャーズのヘッドアスレティックトレーナーであるスタンカントが、2014年全米スポーツ医学機構主催の野球における傷害のセミナーで興味深いデータを公表している。 その中で、メジャーリーグ、マイナーリーグを合わせたすべてのプロ野球投手のうち16%の投手が、そしてメジャーリーグ投手の25%がトミージョン手術を受けていると言及している。仮にトミージョン手術が確実な方法であるなら、その数字はほぼ100%近くになっているはずである。 アンドリュー博士が行った短期的、長期的研究のどちらにおいても、83%の投手が手術前とほぼ同レベルか高い水準で競技復帰している。83%はとても良い結果であるが、100%ではない。 必要としない限り、だれもトミージョン手術を受けようとは思わないということが言える。手術からの復帰は保障されているわけではない。 トミージョン手術では合併症がない 良質な手術とリハビリテーションで、合併症というものは最小限に抑えることができるということに賛成しているが、トミージョン手術が常にうまくいくわけではなく、合併症が起こることもあるということ忘れてはいけない。 上記に言及されているケイン博士とアンドリュー博士が行った研究では、アンドリュー博士が執刀したすべての手術において20%の合併症が発症し、そのうち16%は深刻な合併症ではなかった。これらの合併症は尺骨神経の問題から感染症、さらには移植片不全にいたる。 この合併症の発生率は、この術式において最高と考えられ、もっとも多くトミージョン手術を行っている医師によって報告されていることを忘れないこと。 100%完璧な手術などはなく、常に合併症が起こるリスクがある。 トミージョン手術

マイク・ライノルド 2069字

トミージョン手術の神話 パート2/2

トミージョン手術からの復帰は早く簡単である 何年にもわたって一般の人々がこのような間違った安心感を得るようになったのは、手術からの復帰が早く、かつ簡単であると一般には考えられているからである。繰り返しになるが、アマッド博士の報告では、44%の両親が9カ月以内に投球できるまでに回復すると考えているのである。 一般的に、復帰までは9-12カ月かかります、と我々はいつも伝えている。これは過去の研究において、この期間が一般的であると示されているためである。野球界では早めに、9カ月に近い時期に復帰を試みる傾向があるということを認めざるをえない。 アンドリュー博士の研究結果では、競技復帰までの平均期間は11.6カ月であると報告されている。 安全な復帰時期がいつであるかを決定するには、個々の選手において数多くの要因がある。年齢、競技レベル、手術の時期、そしてどれだけ円滑にリハビリがすすめられているかなどがこの要因に含まれる。正直に言うと、9カ月で復帰した選手を今思い出すことができない。私が担当したトップレベルのメジャーリーガーの選手は、大体術後10.5から11.5カ月で復帰しているが、もっと若い選手達に、この期間で復帰することは奨励しない。 個人的には9-12カ月と書くことをやめようと思っている。というのも、この表記は、多くの人々に間違った希望や情報を与えてしまうと感じるからである。私個人としては、単純にトミージョン手術からの復帰には1年かかります、と伝え始めるつもりだ。これを基準としながらも各個人に合わせていくことになるが、トップレベルの選手であれば復帰まで約11カ月、アマチュアの選手であれば約12カ月というのがおそらく選手達にとって最良であろう。 手術をするということは、競技に復帰するまで12カ月かかるということになる。 トミージョン手術後球速が上がる これまで話してきた神話のなかで、術後に球速が上がるというという思い込みを否定することがもっとも重要だと考える。これは、長年にわたってメディアで取り上げられ騒がれてることなのである。 最近、メジャーリーガー投手におけるトミージョン手術前後の球速を計測する、2つの予備研究が行われている。レベッカ・フィッシュビンが2013年、ボストンでのサバーメトリクスセミナーで結果を公表している。彼女は、2007年から2011年の間でトミージョン手術を行ったメジャーリーガー投手44名の、術前と術後の球速を解析した。 術後の球速には有意差はなかったと報告した(実際には時速0.875マイルの減速がみられたが、大幅に下がったわけではない。)スタン・コンテは2014年の全米スポーツ医学機構、野球における傷害のセミナーにおいて、2007年から2012年の間に32名の選手を調査し、同様な結果を報告している。スタンの研究においても、術前と術後で有意な差はなかった(時速0.79マイルの減速がみられたが、これも大幅な減少ではなかった)。 私個人として、術後に球速が上がった選手を数多く見てきたが、ここで重要なことは平均では球速に変化がなかったということである。なぜ球速の上がる選手がいるのかについては、多くの理由がある。おそらく、長い間、靭帯が機能不全の状態で、あるいは痛みのあるなかで投球していて、手術前はろくにトレーニングができなかったのか、あるいは、リハビリをしている間に急激に成長したのかもしれない。 一般的に信じられていることとは異なり、メジャーリーグの投手では、術後に球速が上がるとは示されていない。 すべてのトミージョン手術のリハビリは同じである 最後の神話は、私にとって個人的な意味合いを持つ神話である。野球の投手達はとても独特のアスリートで、最高の結果を出すためには優れた経験をもつスタッフと共同して取り組まなければならない。多くのことを注意してみなければならず、それを見落とすと簡単にリハビリが停滞してしまうことがある。 私は、自身のキャリアの全てを、野球選手との仕事に費やしてきた。そして、今でも常に、何が彼らを特別にするのかに関して多くのことを学び続けている。何かを解明したと思った途端、誰か選手がやってきて、彼らの身体で何ができるのかに関して驚かされてしまうというような。 トミージョンのリハビリテーション トミージョン手術のリハビリにおいては、野球の投手がもつ独特の特性を理解すること、どのようにこれらの傷害が起こったのか、その本質を理解すること、そして、復帰までの間、投球時にかかる身体へのストレスについての理解が要求される。プロトコールに従って進めることは誰でもできるが、ジェットコースターのようにプログラムがスピードアップしたりスローダウンしたりしないよう、各個人に合わせてプロトコールをどのように調整するかを理解する必要がある。 可動域の減少は問題となり、尺骨神経にストレスを与えないでおくことは重要であり、投球を開始するのに靭帯の回復が間に合っているのかを確認しながら、徐々に活動レベルを上げていくことはとても重要であり、また、投球プログラム強度を徐々に上げながら、ストレングストレーニングの運動強度をコントロールするためには、技術と経験を要する。 トミージョン手術後のリハビリにおいては、誰しも悪い日、あるいは悪い週がある。これらの時期をいかに乗り切っていくかが、安全で効率のよい競技復帰に導くのである。 まとめ 結論として、トミージョン手術を受けたなかで83%の選手が、手術をする前と同等かそれ以上のレベルで、球速の向上はなく、術後11.6ヶ月で復帰している。 トミージョン手術は、確実に回復するという方法ではなく、最良な選択は、常に極力手術を避けるようにすることである。これがいつも可能であるわけではないが、競技力を向上させるだけでなく、野球選手の傷害を減らすためのプログラムを構築していくべきである。 一般に信じられていることとは異なり、トミージョン手術を受けた場合、合併症なしに手術前の競技レベルで復帰できる保証があるわけではなく、また、リハビリも短期で簡単なものではなく、結果として球速が上がるというわけでもない。

マイク・ライノルド 2698字

すべての患者やクライアントに共通して行うべきこと

私のセミナーに参加される方から、よく聞かれることがある。「あなたが行っている事の中で、最も効果が出ると思われることをひとつ挙げるとしたら何ですか?」。なんと悩ましい質問であろう。そんな手品のようなテクニックを皆さんに教えられるほど単純であればよいのだが。数ヶ月間この問題を考え続けて、その答えをポストに書こうと計画してきた。この質問に対してどのように回答したいかを考えつくのに時間がかかったが、やっと答えが見つかった気がする。 私の行っていることで最も効果的なこと 私の行っていることで最も効果的だといえることは、恐らく私達皆が、全てのひとに対してするべきことだと思う。それはストレッチでもなければ、エクササイズでもない。最新式の流行の器具でもなければ、最先端の徒手テクニックでもない。あまりにも単純すぎて、答えを見つけるまでに時間がかかってしまったこと。それは、評価と再評価である。 適切な評価と再評価こそが、すべての患者またはクライアントにできる最良のことである。患者やクライアントに何が必要で何が効果的なのか、その個人を理解することがカギとなる。すべてはまず適切な評価から始まる。それから治療やトレーニング、その後、再評価が必要である。患者やクライアントを施術する際には、毎回この評価を行うこと。セッション中何回行っても構わないであろう。 まず、“主な愁訴は何か?”をたずねる。評価し、それを定量化し、治療し、再評価する。 この単純な概念には、大きな意味がある。最も単純なレベルでは、たとえば、体重減少を目指しているクライアントを指導しているにもかかわらず、体重を計測していなかったとすれば、何に効果があり何に効果がなかったのか知ることができるのであろうか?その場合、どれぐらい改善しているのかどのようにして知ることができるのであろう? 臨床医には、たとえば可動域、関節可動性、筋力、柔軟性など、他にも多くの評価方法と検査手段がある。しかし、これらの評価は患者にとって、ちぐはぐな定規に過ぎない。実際、患者は可動域が10°増えようが増えまいが気にしてはいない。彼らは単に快適に動けてパフォーマンスを向上したいだけなのである。 「肩が痛いんですね。どんな時に痛みますか?同じ痛みを再現できるような動きをしてもらえますか? いいですね」。と、ここで、今後再評価するための基準となる指標を設定したことになる。誤解してほしくないが、客観的な指標も必要ではあるのだが、ここでは実際に患者が感じていることを基準としての基礎的な評価を得ているのである。 FMSとSFMAのような手段が有用である理由がここにあるわけだ。動きを評価する体系的な方法である。評価に限度があるフィットネス界では特に必要だ。動きの質や主観的な感じ方を定量化すれば、その後の変化を測定することができる。 最終的に、これは必ずと言ってよいほどよい結果をもたらすことが多い。単に治療やエクササイズを適用し、効果がありますようにと祈るよりも、何で効果が出るのかを評価し、必要に応じて調節すればよいのである。 評価と再評価 では、どのようにすればよいのだろうか?悪い例として、背中が痛いと訴えているクライアントをすぐにマッサージテーブルに乗せて施術し始め、いくつかのマッサージ・テクニックやエクササイズに飛びついて処方するのでは、何の評価もなしに治療をしていることになる。評価もなく治療のみで、どうやって再評価をするのだろうか?痛みを基準にしてよいのであろうか?痛みはたいてい最良の評価にはならない。 より良い例は、いつ背中が痛くなり、どのように痛いのかを評価することかもしれない。どのような動きで問題が発生するのか?どのような動きに制限があるのか?そうした上で施術をし、いま観察した動きを再評価する。その患者が立ち上がり動いてみたとき「すごい、つま先に手がとどくようになった。効きますね。」と言った場合、いたって単純ではあるが説得力がある。 私が先日評価した患者を例に挙げよう。彼は左中背部と肋骨に放散する痛みを訴えていた。総合評価をしたが、ここでは重要な項目の追跡とアウトラインのみ紹介する。彼の愁訴は痛みだった。症状を軽減するためにその部位のみの治療を始める、つまり「痛みを追いかける」こともできたが、私の主な焦点は、彼の複数分節においての左回旋制限にあった。 複数分節の回旋といっても充分ではないので、詳細を調べてみた。胸椎の左回旋の動きが中程度減少していた。症状のあるその部位だけを治療することもできたが、さらに慎重に観察した結果、関節の可動性には問題がないものの、骨盤が左前方への傾斜をともなう変位を起こしていた。つまり彼の骨盤全体と仙腸関節は右回旋していたのである。それに伴って腰椎もやや右回旋位になっていたので、彼の「正中位」は、実際やや右に回旋していたわけである。結果、左回旋制限という所見になってしまった。 まずは胸椎モビリティ・エクササイズで評価しようと思い、胸椎のチェックからスタートしてみた。胸椎が何パーセント問題に関与しているかを調べ、軟部組織と関節可動性、そしていくつかの胸椎モビリゼーション・コレクティブ・エクササイズに取り組んだ。この時点の再評価で、胸椎の左回旋にかなり大きな改善が見られた。ここで終了することもできたが、さらに複数分節における左回旋をチェックしたところ、約50%しか左回旋が改善していなかった。 ここで治療を終了してしまっていたら彼の機能不全の半分しか回復させてあげられず、活動を始めればすぐにまた前の状態に戻ってしまっていたかもしれない。 次に骨盤に取り組んだ。いくつかのエクササイズと徒手療法で骨盤の配列を整えた。胸椎と複数分節の回旋を再評価した結果、正常な左右対称の動きが戻り、必然的に彼が訴えていた痛みの軽減に繋がった。 これが評価と再評価のパワーである。セッション中に、一度だけではなく幾度も繰り返し行うことにより、それぞれのテクニックの有効性を、可能な限り絞り込むことができる。 再評価のパワー 以上のことは、私がどのように評価と再評価によって問題を絞り込み、治療の向上を図ったのかを紹介する良い一例である。重要なポイントを下記にまとめると: 患者やクライアント各人に対して、何がどのくらい有効であるかを見極めることができる。これは簡単な概念であり、実施直後に改善が見られたならば、その時行ったことと直接関連付けることができる。 その個人に有効でないものを見つけることができる。 これは軽視されがちだが、適切な評価と再評価を行うことで、効果の低いものが分かってくる。有効な方法を見つけるのと同様の価値のある手順で、有効でないことが分かればアプローチの方法を切り替えればよいだけである。 診断に繋げることができる。 何が有効で何が有効でないかを評価しながら、機能障害を正確に鑑別できる。胸椎の回旋制限は関節の可動性の問題ではなく、軟部組織に起因するものであるかもしれない。 患者やクライアントから信頼を得ることができる。 最後になったが、最も重要なこととして、評価と再評価によって患者から信任、信頼、コンプライアンスを得ることができる。行ったことによる改善を、即座に患者自身が体験するからである。

マイク・ライノルド 3152字

野球の遠投プログラムについて理解すべきこと パート1/2

遠投プログラムは過去数年間で、野球のトレーニングにおけるもっとも人気のある方法の一つになりました。ネット上の全ての人達が、球速の向上を保証する遠投プログラムを持っているようにみえます。我々の投球数制限プログラムや医学的知見が向上しているにも関わらず、若年層における投球傷害数は警告すべき割合で増加し続けています。このことは、積極的な遠投プログラムが、傷害の発生率の増加に関係があるかもしれないという疑問を投げかけます。遠投プログラムを統合していくには、多くの異なった方法があるので、この疑問も公平であるかもしれないし不公平なのかもしれません。 この記事の意図は、遠投が適切、安全、効果的、またはそれ以外のなにかであるかどうかについて意見を述べることではありません。特別な投球プログラムや距離を奨励することが目的でもありません。むしろ、トレーニングプログラムを始める前に、遠投が身体に及ぼす影響についてしっかりと理解をしてほしいだけなのです。あなたのニーズに合致した最適なプログラムを実施するためには、いくつかの点を理解する必要があります。 遠投は重要である まずはこの点“遠投は重要”について考えてみましょう。遠投は、ほぼすべての野球のトレーニングプログラムとして、何らかの形で一般的に見られるため、この点は議論の余地はないと考えます。遠投が好きである、あるいは、好きではないと言うことは、ピザが好きである、あるいは、好きではないということのようなものです。ドミノピザとボストンの北端エリアのピザには、かなり大きな違いがあります。同じことが遠投にも言えます。遠投の定義については、おそらく討論する余地があるでしょう。 遠投とは120フィートであると考える人もいれば、300フィート以上であるという人もいます。これはとても大きな違いです。答えは分かりませんが、投げる距離が遠くなれば変わってくることがあります。このことについても理解が必要になります。 遠投は重要ではありますが、しばしば大げさに捉えられがちです。遠投を提唱している人は、大リーグのどの選手がトレーニングのなかで長距離遠投プログラムを行っているかを興奮ぎみに伝えるでしょう。しかし、プロ野球選手のなかで、トレーニングルーティーンに遠投を多く取り入れていない選手が大勢いることも認識してください。私は、メジャーリーガーで120-150フィート以上の投球をそれほどたくさん行わないという選手たちを知っています。また、私が話をした寒い気候の地域に住んでいる選手の多くは、オフシーズンの間はバスケットボールコートのような室内練習場で投球をするので、投げられる距離に限界があります。 多くの患者やクライアントから、遠投をしている素晴らしいメジャーリーグ選手のことを聞いています。このことは真実である一方で、遠投をしていない選手が多くいることも理解して欲しくて、このことを取り上げているだけです。 遠投は腕を鍛え、力を生み出したり、分散したりすることに慣れさせるためには重要であると考えます。しかし、遠投が身体に及ぼす影響を本当に正確に理解するためには、下記のポイントの多くを理解する必要があります。 遠投は腕の強度を向上させない 遠投が腕の強度を発達させるという概念がどこから来たのかは定かではありませんが、これは本当によく聞きくことです。これはただ単に何となく使われている意味のない言い回しかもしれませんし、選手に関連した安易な考えであるかもしれません。しかし、明確に詳細に言うと、私は、実際には投球は腕の強度を低下させると考えています。 事実、私は数年前に、綿密に作成されたストレングス・コンディショニングプログラムを行っているメジャーリーグの投手でも、シーズンを通して3-4%の回旋腱板の筋力低下が見られるという論文を発表しました。1試合を通しても、11-18%の腕の筋力低下が見られるということも示されています。 そのため、投球は腕の強度をあげることはない、といっても問題ないと考えています。むしろ、投球は肩の疲労を招くと考えられるため、実際には腕の強度にとって逆効果になるかもしれません。遠投は、筋持久力や腕を振るスピードなどといったものを向上させるかもしれません。しかし、スピードや持久力を鍛えることと、過負荷がかかることや疲労を招くことの間には、紙一重の違いしかありません。腕に疲労が蓄積すれば、腕の強度は上がるのではなく、下がりますし、傷害を引き起こすリスクがあります。 若年層の野球選手は、遠投をすることで球速が上がると聞いていて、遠投をすればするほど、強く投げることができると思い込んでいるため、これは理解すべき重要なコンセプトになります。この思い込みは通年を通して投げすぎてしまう結果に繋がります。現在、若年層の野球選手は、シーズン中もオフシーズン中も、試合で投球し、遠投もしています。1年のなかで8カ月以上ピッチングをすると、傷害を起こすリスクが5倍以上になるということを覚えておいてください。 遠投の効果はあります。しかし、遠投することで腕を強化することはできません。強化のためには、投球をしない時間と、適切な腕のケア、ストレングス・コンディショニングプログラムが必要になります。 リハビリの世界では、遠投プログラムは120フィートで終わりにするとは言っていない 私は、この件について責任を負っていきます。遠投プログラムの提唱者からよく聞かれる議論の一つに、120フィートの遠投は十分な距離ではないということがあります。同様の遠投プログラムを、健康な選手にも、傷害からの復帰を目指している選手にも適用している野球界を、多くの人々が非難していることを聞いたり、読んだりしています。そこでは、公表されている投球のリハビリプログラムでは、120フィートまでであるということを引用しています。 これは実際には誤解であり、私の経験からお話します。ジェームス・アンドリュー博士が使用し、もっとも幅広く利用されている遠投プログラムの開発を実際に手伝い、これらのプログラムを整形外科・スポーツ理学療法誌に10年以上前に掲載しました。原稿を実際に読んでいただければ、投球プログラムは120フィートでやめるべきだとは言っていないことが分かると思います。事実、そのプログラムでは180フィート以上まで行っています。 我々は、マウンド上で投げ始める前の基準として、120フィート以上投げる必要があると言及しているだけなのです。120フィート以上投げたい(あるいは、投げるべき)選手もいるでしょうが、そうでない選手もいるでしょう。ここでのポイントは、120フィート以上投げなければいけないということではありません。しかし、マウンド上での投球に進むためには、120フィートの遠投というのは、基準の一つになるということです。 今では、これらの公表されている遠投プログラムが完璧でないとはっきりと認めていますし、私自身も自分が書いたこのプログラムにすべて沿っているわけではありません。すべての人に適応できるプログラムを作ることは、とても大変だということをお分かりいただけると思います。リハビリの環境において、ある程度の一般化は必要なものです。このことについては、最後のポイントとして、パート2/2に話していきます。

マイク・ライノルド 3166字

野球の遠投プログラムについて理解すべきこと パート2/2

遠投によって適切なピッチングメカニズムを身につけることはできない。 遠投しているときに、常に一定のピッチングメカニクスで投げ続けることは不可能です。これは単純な物理学です。遠くに投げれば投げる程、異なった投球メカニクスを使う必要があるため、遠投をすることで、ピッチングメカニクスを改善するとなぜ言えるのか、私には分かりません。グレン・フレイセグとアメリカスポーツ医学研究所は、最近、マウンド上でのピッチングと120フィート、180フィート、最長距離での遠投との間で、投球メカニクスに変化があるかどうか解析しました。 この研究によって、遠投ではメカニクスが大きく変化することが証明されました。マウンドの上から投げるように、くだり坂で投げるわけではありません。体幹はより直立し、距離が離れればはなれるほど、前膝の屈曲は浅くなるため、実際には、のぼり坂で投げているようになります。実際に、胸郭の角度はピッチングと最長遠投とでは4倍も違います。 直立すればするほど、体幹と前側の投球への関わりが変化し、リリースポイントが劇的に変化するため、胸郭と前膝の角度は、投球と密接な関わりがあります。 また、興味深いことに、遠くに投げようとすればするほど、前足の接地はより外に開きます。基本的には、遠投をするときは、前足が身体をほんの少しクロスするように接地する(これが普通)のではなく、よりライン上に接地するようになります。これは、最長距離にボールを投げるためには、回旋動作はあまり必要がないということだと、私は理解しています。基本的に、遠投するときは、メリーゴーランドのようではなく、観覧車のように投げるのです。遠投では、ピッチングのときとは異なる筋肉動員パターンとモータープランニングを使用します。 モーターコントロール、神経筋肉プランニング、トレーニングの特異性に関する我々の最新の研究をすべて考慮すると、遠投は投球メカニクスを改善することはないということが言えるようです。 繰り返し何度も同じメカニクスで投球できる能力は、エリートレベルの投手に最も求められている能力であり、その能力がエリートとその他の選手の分かれ道でもあることを経験から知っています。上記に書いた最初のポイントを忘れないでほしいのですが、遠投は重要です。しかし、それはメカニクスを改善するから、あるいは、何度も遠投することを奨励するからではありません。 遠くに投げれば投げるほど、身体には多くのストレスがかかります。 我々の遠投プログラムが独自に開発されたとき、最初に解決すべき問題点の一つは、ある距離から投げたとき、身体にはどれだけのストレスがかかるのかということでした。上記の情報から、身体に運動学的に変化が起こることは分かっていましたが、身体にかかる運動力はどうでしょうか。フレイセグ博士は、上記に述べている研究の中で、身体にかかる力も計測していました。 180フィートの遠投では、肘に内反トルク、肩に内旋トルクがより大きくかかります。これら2種類の力は、特にトミージョン傷害と呼ばれる、肩や肘の傷害を本質的に引き起こします。 私達は、ピッチングをするということは、それぞれの投球で、身体には最大に近いストレスがかかるということを知っています。180フィート、あるいはそれ以上の遠投は、マウンド上での投球よりも多くのストレスがかかります。これは、怪我をした選手が、マウンド上で投球を始めるための基準を、たった120フィートに設定している主な理由の一つです。120フィートでは、ピッチング時と同等の力が計測されます。そのため、120フィートまで投げることができれば、技術的には、マウンド上での投球のストレスに対処することができます。 アスリートは、180フィート以上の遠投時にかかるストレスを対処できます。しかし、どれだけの距離まで、そして、結果はどうなるのか?私は、フレイセグ博士・アンドリュー博士とこの概念について討論しました。ここで使われた比喩はむしろ不安感を抱かせるものです。-あなたは、1日で1パックの煙草を吸うリトルリーグの子供たちのグループを観察します。リトルリーグ所属中は、誰も肺がんを患わないようですが、ある日、誰か発病するかもしれません。長期的な視点で、我々は彼らに何をしているのでしょうか? リトルリーグとUSA ベースボールによって開発された投球数カウントガイドラインは、オーバーユースを避けることによって、傷害を予防するよう設定されているということを理解してください。180フィート以上の遠投も、この考慮に含まれる必要があります。もし傷害の発生率を5分の1に減らしたいのなら、1年のうち、4か月はピッチングをしない、あるいは、遠投をしないことが必要になります。 遠投に的下時と場所はあります。しかし、遠投はピッチングと同等に扱われる必要があり、オーバーユースにつながる投球カウントとして考慮される必要があります。 最長遠投は身体に多くのストレスを与える。 私にとって、フレイセグ博士とアメリカスポーツ医学研究所の研究の中でもっとも興味深い部分は、最長遠投の解析です。ある距離から投げる時、どのように生体力学が変化するかを分析し、それに加えて、ただ単にできるだけ遠くへ投げる動きの生体力学も評価しています。 結果にはかなり驚かされました。 クローホップあり、投げるボールの角度には制限をつけず、できるだけ遠くに投げるよう指示された場合、投手の平均投球距離は264フィートでした。これは、いくつかの野球のトレーニングプログラムのなかで見られる奨励距離よりも、かなり低い数値でした。 これは、肘内反トルク、肩内旋トルクを10%増加させる結果となりました。180フィートの遠投で、肩と肘にかかるトルクの増加がみられましたが、最長距離を投げる時、これらの力は劇的に上昇したのです。 180フィートの遠投には、リスクと報酬の等式がありますが、より遠くに投球する場合、この2つの割合は、かなりリスクのほうに偏っているように見えます。 最良の遠投プログラム 私は、この記事を、“最良の遠投プログラムなどない”という一つの簡単な理由のために、この記事を書きました。すべての人が求めるものですが、現実に存在しないのです。人は皆、身体のタイプやサイズ、年齢、経験、そして、メカニクスを含め、多種多様です。すべての人に、一般的な遠投プログラムを奨励することは、あまりに単純化しすぎのように思えます。少数の人々には役に立つかもしれませんが、よりも多くの人々に、不利益を与え得るように思えます。だからこそ、私が公表したリハビリのための投球プログラムは、とても基本的に見えるのです。 遠投プログラムのより詳細なポイントを理解していただいたところで、皆さんに、最良の遠投プログラムとは、各個人を対象とする必要があるということを理解していただけることを願っています。メジャーリーガーで行っている選手がいるからという理由で、そのプログラムをするべきではありません。適切な腕のケアとストレングス・コンディショニングプログラムを行いながら、自分のためだけに特別に開発されたプログラムであるか。

マイク・ライノルド 3111字

呼吸パターン障害

とても幸運なことに、先週、レオン・チャイトー氏の親密でこじんまりとしたワークショップに参加して、呼吸パターン障害への徒手療法アプローチについて議論する機会に恵まれました。私がチャイトー本人から、そして彼の広範囲に渡るボディワークからどれだけのことを学んできたかについては、ためらいなく明かしていますので、彼と共に一日を過ごした経験は、素晴らしいものでした! 下記は、みなさんとシェアする価値があると思ったコースの主要ポイントのまとめです。これらは全て、ワークショップやチャイトー氏の呼吸パターン障害についての本からの引用ですので、もっと学びたい、あるいは、効能や文献を知りたいと感じたら参考にしてみてください。 呼吸パターン障害とは何でしょうか? 米国の患者の10%が過呼吸症候群と診断されている一方、多くの人々が、わずかながらも、臨床的に重要となり得る、継続的な吸気状態にある呼吸パターン障害を持っています。 これは、低炭酸症につながります。低炭酸症とは、過呼吸により血液中の二酸化炭素が不足した状態で、やがては呼吸性アルカローシス、さらには低酸素症や組織への酸素供給の低下へと発展していきます。 これは一般に、胸式呼吸をする人に見られる症状で、こういった人々は本質的に息を吐ききれておらず、肺気量を十分に使えていません。 そのため、交感神経が優位の状態に置かれ、僅かではありますが、かなり継続的な闘争または逃走状態に陥ります。 やがて、不安や、血中pH値、筋緊張、痛覚域値、等の様々な中枢神経系、周辺神経系の症状の変化へとつながります。いくつかの症状は心臓の問題症状に似ています。 私が今回学んだ、最も興味深い情報は、呼吸と日々の行動との関連性を記した二つの研究に関係していました。 一つ目の研究では、キーボードのタイピング動作を調べ、タイピング中の斜角筋、僧帽筋の筋電図の振幅増加、胸郭と腹部の活動の減少を明らかにしました。これはおそらく、元来からある反射的動作ですが、これにより呼吸がさらに浅くなり、横隔膜の活動が減り、胸の上部や首がより活発に働きます。現代人は一日のかなりの時間をタイピングに費やしていますので、これはとても頻繁に起こっているのです。 もう一つの研究では、人々がテキストメッセージを送ったり、受け取ったりするときに、呼吸を保持し、呼吸数を高め、交感神経の優位を経験していることを示しました。 呼吸パターン障害の評価方法 ナイメーガン問診での高いスコアは、呼吸パターン障害を持つ傾向のある人々を発見するのに、感度と特異度がともに高いことが示されています。 呼吸パターンの観察 呼吸保持−人は一般に25秒から30秒間、息を保持することができます。もし15秒も保持できなければ、二酸化炭素耐性が低いことを意味しているかもしれません。 仰向け呼吸ハイローテスト−手を胸とお腹の上に置き、自然に呼吸をします−どこが最初に動きますか?どこが最も動きますか?側部への拡張と、手が上に押し上げられる動きを見てください。 呼吸の波−うつ伏せになり、自然に呼吸をします。脊椎は頭に向けて波のようなパターンで屈曲しているべきです。一体となって上昇している分節があれば、それは胸椎の制限を意味している可能性があります。 座位での側部拡張−胸郭の下部に両手を置き、呼吸中の動きを追います。左右対称の側部拡張ができているか見てください。拡張は下の動画のようであるべきです:

マイク・ライノルド 2462字

回旋腱板修復手術後の成功を高める方法

回旋腱板断裂は、すべての年齢の人々にとてもよく見られる傷害です。読む論文にもよりますが、50歳以上で13%の人が、80歳以上で50%の人が回旋腱板断裂を患っているだろうと報告されています。自然の成り行きとして、回旋腱板修復手術も同様によく見られるようになってきています。過去数十年で、我々は、回旋腱板修復手術技術を大きく進歩させ、直視下手術から、より低侵襲な“開口部の小さい”手術、そして、完全関節鏡視下手術へと発展させてきました。 最新の関節鏡視下回旋腱板手術では、疼痛が緩和される傾向があり、患者により早く活動させることができるようになります。しかし、私たちがあまり耳にすることの少ない事実として、回旋腱板手術の失敗率は、依然として高すぎるということがあります。 術後、腱板が元の健全な状態に戻っていないことを手術失敗と定義する場合、過去の研究では、回旋腱板修復術を受けた人のうち75%が、技術的に“失敗”であるだろうと示されています。JOSPTに公表された最近のシステマティックレヴューでは、10以上の様々な研究報告によると、18-40%程度の失敗率が報告されています。 これらの失敗率に関わらず、術後の患者の満足度は依然としてとても高いことが、大部分の研究で示されています。このことは、実際の手術よりも、リハビリテーションの過程のほうがかなり重要であるということを示唆しています。これはとても素晴らしいニュースです。たとえ、回旋腱板が術後完全に修復されていないことが判明しても、痛み、動き、強度、機能、そして、満足度すべてにおいて、大いに改善することが可能になります。 そうであるとしても、私達は、回旋腱板修復術後、腱板が完全に回復できるよう、私たちができるすべてのことを実践していくべきです。 JOSPTに投稿された最新の系統的な文献論評では、関節鏡視下腱板修復術後の良好な回復に関わる予後要因の決定を試みています。この論文によると、術後の経過を最良にするいくつかの要因を特定することができるのです。これらの要因すべてが容易に対処できると簡単には言えませんが、多くはそうであり、患者が最良に回復できるよう促していくことを、常時目指しています。 腱板修復術後の良好な回復に関連する要因 その論評では、著者の厳密なガイドラインに合致する10個の論文に焦点を当てていました。これら10の論文に基づき、回旋腱板修復術後の良好な回復と関連がある12の要因を特定することができました。これら12の要因は、4つのカテゴリーに分類されます:人口統計学的要因、臨床学的要因、回旋腱板の整合性に関連する要因、そして、手術方法に関連する要因。 回旋腱板手術後の予後を最善にするために我々ができうること(できないこともあるが)に関連している、最初の3つの要因について論じていきます。手術要因に関しては、上腕二頭筋、または、肩鎖関節に追加の処置をした場合、結果はあまりよくないという報告が、ある研究で示されていました。我々が、手術方法を選択することはできませんが、恐らく、この情報は手術医に有益となるでしょう。 人口統計学的要因 一般統計学に関するもっとも重要な発見は、手術を受ける際の患者の年齢と関連があるということでした。年齢の高さは回復に対して、マイナスの影響を持っていたのです。 この研究では、年齢を重ねれば重ねるほど、腱の治癒のチャンスが低くなると報告されていました。55歳以下の人々では、腱の治癒が88-95%の確率で見られ、予後も最良でした。反対に、60歳以上の人々では腱の治癒が43-65%しか見られませんでした。 回旋腱板に問題が起こる時期を操作することはできませんが、これらの結果から、症状を無視するべきではなく、肩と回旋腱板を徐々に退行させていくべきであるということが示唆されています。問題に対し早期に取り組むことで、これらの結果を改善するべきです。我々は、多くの人が何年もの間、肩の痛みに目を向けることなく、不快を感じながらもなんとかしようとしている場面を多く見てきています。機能的な問題がかなり大きくならない限り、普通我々は助けを求めたりはしません。 臨床要因 驚くことではありませんが、骨のミネラル密度や糖尿病のどちらも組織治癒に悪影響を及ぼします。肥満も結果に悪影響を及ぼします。肥満傾向の人は予後良好になる割合が12%減少するとされています。 興味深い発見だと私が思ったことは、手術前の活動レベルに関連することです。身体活動をほとんど行っていない人は、中強度、高強度のスポーツ、例えば、ゴルフ、スイミング、サイクリング、ランニング、テニスをしている人に比べて、予後があまりよくありませんでした。 筋力や動きに関して、最終的な強度を予測できる最たる因子は、最初の強度であることが分かりました。手術前の肩の剛性も回復時間にマイナスの影響を与え、復帰を遅らせることになります。 骨のミネラル密度や糖尿病のように、これらの要因のうちのいくつかは、避けることができないかもしれませんが、手術前に医学的治療を受け調整されていることを確実にすることができます。しかし、肥満、活動レベル、筋力や可動性といった要因は、すべて十分に関連性があり、手術前に注意を払うことができます。このことは、手術前に理学療法を行うことの重要性を強調しています。私が常々伝えていることですが、手術を受けるまでがよい状態であればあるほど、術後はよりよい状態になります。 回旋腱板の整合性の要因 予後不良と関連する回旋腱板の整合性に関する要因が4つあります:断裂の大きさ、関与している回旋腱板筋の数、腱の退縮の量、脂肪浸潤の量。これらの要因はすべて、組織の退行と関連があり、おそらく、年齢とも関連があります。 基本的には、組織が退行していればいるほど、予後不良になります。時間がたてば、腱板断裂の大きさは拡大し、骨から剥がれ(退縮)始め、弱化していきます。 これらの要因は、上記の年齢に関する私のコメントとより関わりがあります。おそらく、腱板の断裂が顕著になる前、そして組織がより退行してくる前に、早い段階で決断をして、肩のケアをするべきなのです。考慮することとして、小さな回旋腱板断裂であれば、手術により96.7%の確立で治癒することができます。一方で、断裂が大きくなってしまった場合、治癒する確立は58.8%になります。 回旋腱板修復術後の成功を高めるためにはなにができるのか。 この研究は、回旋腱板修復術の予後を良好にするためにできるいくつかのことに光明を投じていると感じます: 手術時の年齢が高いほど、手術の成功率は低くなるので、不必要に手術を延期するべきではありません。 上記のことに関して、手術を延期することで、腱板の退行が進むことも考慮してください。断裂が大きければ大きいほど、組織の退行が進めば進むほど、結果は不良になります。 身体的に活動的であること、体重が減少していることは、良好な予後と関連があります。重い腰を上げてください。 手術前に理学療法を始める。手術時に肩が強ければ強いほど、可動性がよければ良いほど、予後は良好になります。より強く、そして早く活動に復帰できます。それに加えて、いくつかの研究では、理学療法は回旋腱板手術の回避に効果があると示されています。 骨のミネラル密度や糖尿病などの健康状態は手術前に治療を受けてコントロールされていることを確実にしておいてください。 この記事を読んでいる臨床家のために、私たちは回旋腱板修復術後のリハビリテーションをどのように漸進させていくのかを決定するために、この情報を利用することもできます。患者が予後不良となるような要因を有していればいるほど、より保守的に進めていく必要があるかもしれません。 身体活動を活発に行っていて、回旋腱板の断裂も小さく、健康上なにも問題ない52歳の患者と、断裂が大きく、虚弱で糖尿病を患っている74歳の患者を同じペースで漸進させますか?もちろん、そうはしません。私たちは、やみくもにプロトコールに従ってはなりません。プロトコールは有益であり、必要なものですが、より保守的になるべき要因がある場合は、調整できる要素を含んでいます。 回旋腱修復術の術後を良好にする方法はありますし、それらの多くは調整することができます。皆さん自身、あるいは皆さんの患者さんの予後を最良にするために、これらを利用してください。

マイク・ライノルド 3662字