マイクロラーニング
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LSD vs HIIT討論に終止符を打つ パート2/2
低強度と高強度メソッドの間には心臓の特異的な適応に違いがあります。LSDトレーニングのように、長い時間をかける低強度の方法では、心臓の左心室肥大が起きます。これにより、心臓が一回の拍動でより多くの血液を送りだすことを可能にし、結果、筋肉が働くために血液と酸素を懸命に運ぶ必要はなくなります。この適応は偏心心肥大として知られています。 一方で、高強度メソッドでは心臓の筋繊維を強化するよう作用し、結果として心臓壁が厚くなります。この適合は同心心肥大と呼ばれ、偏心心肥大とはことなった方法で、一拍毎に心臓がより多くの血液と酸素を送り出すことを助けます。これらの適応はそれぞれ、有酸素能力の向上に作用し、どちらも重要なのですが、コンディショニングにおける影響に違いがあることを理解することが重要です。 低強度メソッドでは、同量の血液を運ぶのにそれほど心臓が懸命に働く必要はなく、結果有酸素持久力がより順応していきます。つまり、幅広い範囲の強度でエクササイズをしても、心拍数は低いまま維持でき、長い時間そのエクササイズを継続できるということになります。これに対して、高強度メソッドでは、より高い心拍数で、より多くの血液と酸素を送り出し続けることに適しているため、完全に疲弊し、オールアウトするまで、長い時間高い心拍を維持させることができます。 このことはまさに、MMAにとって有利になりますが、試合中、低い心拍数を維持できればできるほど、コンディションはより良くなるでしょう。筋肉そのものに関しては、LSDはHIITよりもかなりの優位性を持っています。長く、ゆっくりとしたトレーニングは、動いている筋肉に心臓から酸素を運ぶ役割をもつ毛細血管の発達に役立ちます これには、HIITよりもボリュームを多くすることが必要で、この発達なしでは、筋肉は多くの酸素を利用することができず、持久力は上がらないでしょう。MMAでは、ストレングス、パワー、スピード、そして持久力すべてが要求され、身体が持つ3つのエネルギーシステムすべてに特化した緻密な発達が必要になります 総合的に強いファイターになりたいのであれば、レスリングスキル、関節技スキルとヒットスキルをバランスよくするためにどうしたらよいかを学ぶ必要があり、戦いのなかで必要になるエネルギーを生産するために、身体の異なったシステムすべてが細かく調整され、共に働けた時、コンディションとパフォーマンスは最大になるでしょう。これらの考えに沿って、LSD,HIITのどちらもが、異なった方法でエネルギーシステムを発達させているということを理解することが重要になります。 どちらが優れているのかという討論ではなく、それぞれが異なった適応を導き、特有の利点があるのです。LSDは低強度であり、故に関節にそれほど衝撃を与えず、頻繁に行うことができます。心臓がより多くの酸素を運搬することで、心拍は低く抑えられます。一方、HIITでは、有酸素パワーを向上させ、高い心拍数で長い時間動くことを可能にします。 戦いに勝つためのコンディショニングを求めているなら、LSDとHIITのどちらもトレーニングプログラムに入れるべきです。あなたが教わったことに反して、LSDによって弱く、遅くなることはありませんし、一流のボクサー、レスラー、MMAファイターでさえ、多くのアスリートがトレーニングプログラムにLSDを取り入れています。LSDを効果的に行い、コンディションを向上させるには、豊富な種類のエクササイズを使用して、60-90分のセッションを行うことを勧めます ただ単に走るのではなく、そり引きからメディスンボールエクササイズ、ジャンプロープ、シャドーボクシング、関節技のフロードリルまですべてを、それぞれ1回に10-15分行います。最良の結果のためには、心拍を130-150の間で維持するよう努めなければなりません。HIITでは、豊富で様々なフォームと正確に行うことが必要です:休息比率と総運動量は経験値、運動能力、特異的なトレーニングの目的によって決定されるべきです。 初心者では、高強度トレーニングを週1-2回行うところから始めるのが良いでしょう。運動能力が上がるにつれて、HIITのトレーニング量を上げ始めることができ、コンディションの必要性に応じて、長い運動を短い休息で行うこともできます。研究はスポーツ科学とトレーニング全体の進歩には非常に重要なものですが、それぞれの研究を単体で見て、安易に結論づけてしまうと、トレーニングを失敗させてしまいます。 昨今のペースの速い社会では、皆少ない運動で、素早い効果が出る方法を探します。1日に4分間高強度のトレーニングをするだけで、最高の結果とコンディションの向上が得られるのであれば、それはすばらしいことでしょうが、現実はそれほど簡単ではありません。正しい時間、正しいコンビネーションでLSDとHIITを使用する繊細な計画と熟考したトレーニングプログラムが、MMAのコンディショニングを究極に高めるための本当の鍵となります。LSDが何世紀にもわたって存在してきたのは、効果があるからであり、特別で重要な目的に適っているからです。 本当にMMAのコンディションを向上させたいのであれば、討論を忘れて、トレーニングプログラムにLSDとHIITの両方を取り入れてください。結果は保証します。
LSD vs HIIT討論に終止符を打つ パート1/2
過去数年、総合格闘技(MMA)界のコンディショニングでは、すべての長い・ゆっくりとしたタイプのトレーニングを捨て、高強度のインターバルトレーニングを選ぶ傾向が強くなってきています。専門家は様々な研究を指摘し、ファイターがトップコンディションになるために、従来のどんなタイプのロードワークも必要ではないという証明として、高強度ワークの利点を証明しようとしています。 格闘技は爆発的なスポーツであり、そのため、ランニングやかなりゆっくりとしたペースでのトレーニングでは、MMAで必要な高強度のエネルギーシステムの要求には見合わないと彼らは主張しています。この種のワークアウトでは爆発的な力を発揮できなくなり、弱くさせてしまうため、まったくするべきではないと極言する人さえ大勢います。 しかし、本当にそうなのでしょうか?高強度のインターバルトレーニングがすべての人にとってコンディショニングプログラムの真の答えでしょうか? 高強度のインターバルトレーニングは間違いなく効果的なコンディショニングツールであり、ファイターのトレーニングプログラムに入るべきものですが、一方で、長く、ゆっくりとしたトレーニングの負の効果がかなり誇張され過ぎであり、コンディショニングプログラムの中にもその役割はあるということを、この記事のなかで主張していきたいと思います。 まず始めに、長い距離をゆっくりとしたペースで走る(LSD)トレーニングは、ほとんどの格闘技スポーツのコンディショニングプログラムとして、どのような形にせよスタートし、存在してきたということに言及することは重要です。ボクシングやレスリングでは、この種のトレーニングはロードワークとして一般的に知られています。ロッキー・バルボアはフィラデルフィアの道でインターバルスプリントをしていたのではなく、ジョギングをしていたのです。 歴史を通して、一流のボクサーの大多数はトレーニングにロードワークを取り入れていたといって間違いないでしょう。アメリカでは皆、この高強度インターバルトレーニング(HIIT ) の流れに飛び乗っているようですが、アメリカ以外の国のMMAファイターのほとんどは、今もトレーニングにLSDを使っているということも指摘しておくべきでしょう。ヒョードルが故郷ロシアでロードワークをしているオンラインビデオが複数あり、爆発力やコンディションに悪影響をあたえているようなことは一切ありません。 リッチ・フランクリン、桜井速人、クリス・リーベン、マット・ブラウン、スペンサー・フィッシャーなど多くのトップファイターに長年LSDを使ってトレーニングしてきましたが、誰もパワーやノックアウトに関して問題はないようです。しかし、HIITがどれほど効果的であるかを示したすべての研究はどうでしょうか?LSDを批判する人たちは、HIITが低強度のメソッドよりも、有酸素・無酸素フィットネスの両方をかなり効果的に向上させていることを示している研究を指摘したがります。 特に、日本の田畑泉先生の研究は、この点について他のどの研究よりも多く参考にされているでしょうし、結果田畑プロトコルを大流行させ、ネットのいたるところで見かけることができます。この問題点は、LSDとHIITを比較した研究の多くと同じで、その制限をかなり超えた推測によるものであり、きちんとした根拠に基づいていません。例えば、田畑先生の元々の研究では、14人の被験者のみが使われ、全員が比較的トレーニングされていない者であり、体力に劣り、VO2Maxの平均は40代後半か、50代前半の数値でした。 比較的トレーニングされていない被験者に見られる結果は、トレーニングを積んでいるアスリートのそれとはかなり違った結果になることが多いのです。2つ目に、この研究におけるすべてのトレーニングは、低い衝撃と抵抗しか与えないバイクでのみ行われています。そうであるにも関わらず、現在では人々が、神経システムや関節に実際どれだけ多くの要求がかかっているのか理解することなく、ストレングストレーニングからスプリント,MMAの特殊エクササイズまでに至る、あらゆる種類のトレーニングに対して、研究のプロトコルを適用しています。 田畑では、被験者は1週間に5回トレーニングをし、これらのうち1日は30分のLSDのセッションが含まれます(決して言及されることがありませんが)。このトレーニング頻度を1週間にバイクよりも要求の高いエクササイズと3-5回のMMAセッションの混合に変えれば、これは、オーバートレーニングと関節痛のレシピになってしまいます。最後になりますが、田畑ではまた、VO2maxと無酸素能力テストを使用し、LSDとHIITの結果を比較しています。 このため、高強度メソッドがより良い結果を導きだしたとしても驚くべきことではありません。VO2maxも無酸素能力も共に強度がかなり高く、心拍数もかなり高い状態でテストを行います。これらのテストを使った場合には、当然高強度でのトレーニングがより効果的になるでしょう。これらの結果は、もし田畑先生が、低強度で実施する他の有酸素測定方法を使用したとしたら、おそらく違うものになっていたでしょう。これは1RM 最大筋力測定を行ってから、1つのグループは高強度の1-5回、別のグループは10-12回を行わせているのと同じことになります。 当然ですが、テストに近い高重量で行ったグループは他のグループよりも1RM 最大筋力は向上するでしょうが、といって、みんながトレーニングで5回以上上げるという理由がないということではありません。でも、なぜLSDが重要なのでしょうか?HIITよりもかなり少ない時間でより良い結果を出せますか?今まで何を読んだかに関わらず、単に高強度の方法からでは得られない効果がLSDには実際にあるのです。
HRVと心拍数に関する究極の入門書 パート2/2
HRVはどのように測定すべきでしょうか? これは非常に重要なテーマで、HRV測定はストレスに非常に敏感であるため、安静時に測定することが絶対的に重要であるということを知っておく必要があります。 そして、その方法には一般的に2つの方法があります: アクティブ測定:2.5~5分のテストを開始し、デバイスがHRVを計算する間、じっとしている必要があります。 これは、モーフィアスのようなHRV専用機器を使うことが多いでしょう。 パッシブ測定:あなたのデバイスが、あなたの知らない間にバックグラウンドでHRVを監視しています。 これは、アップルウォッチなどの腕時計型のデバイスを使うことが多いでしょう。 パッシブ測定は労力や注意を必要としないため、より便利な測定方法といえます。 しかし、標準化された条件(横になっている、安静にしているなど)で収集されているわけではありません。 昨日の朝と今夜の夕食後の体重を比べようとするようなものです。 その違いに意味があるのかどうか、知る由もないのです。 寝ているときに一晩中計測する機器はどうでしょうか? 問題は、これらの機器はすべて、睡眠中に定期的にHRVの短いスナップショットを収録するだけだということです。 電池の消耗が激しいので、一晩中連続して測定することはありません。 一方、アクティブ測定は、毎朝同じ時間に体重計に乗るのと同じことです。 このため、パッシブな測定では、アクティブな測定に比べて、日々のそして長期的なHRVの測定精度が大幅に低下します。 しかし、残念なことに、多くのHRVアプリや機器では、パッシブな測定が行われています。これは、ほとんどの人がHRVをアクティブに測定する努力をしないと想定しているからです。 ですから、現在60年以上にわたって行われているHRVの研究は、事実上すべてアクティブな測定によって行われており、パッシブな測定はほとんど行われていないことも、決して教えてくれません。 むしろ、精度が低くても、より簡単で何もする必要がない機器やアプリを売りたいのでしょう。 もちろん、これに関する問題は、HRVをトラッキング画面上の単なる数値ではなく、ツールとして使いたいのであれば、正確さがすべてであるということです。 運動中にHRVを測定すべきなのか? これが、心拍数とHRVの大きな違いです。 心拍数は、有酸素能力、相対強度、経時的な向上を測定するための有用なトレーニング ツールですが、トレーニング中の HRV は、その... 意味を持ちません。 それは、心拍数が100bpm以上に上がると、心拍数の変動がゼロになるからです。 交感神経(ストレス)系が働きっぱなしで、副交感神経(リカバリー)の系活動はほとんど計測できないのです。 つまり、ワークアウト中や休息以外の何かをおこなっている時のHRVを見ることには、何の価値もないのです。 HRVの変化にはどのような意味があるのでしょうか? 冒頭でお話したように、HRVは主に、日々の体内のストレスと回復のバランスを測るためのツールです。 しかし、多くの人が言われていることとは異なり、HRVが増加したからといって、必ずしもより回復しているとは限りません。 なぜそうではないのか? 最初にトレーニングによってストレス負荷が増加する時、交感神経系が活性化し、HRVを低下させます。 回復すると、副交感神経系が高まり、トレーニング前のレベルをオーバーシュートし、ベースラインに戻ります。 回復の副交感神経サイクルのどこにいるかは、HRVを測定するタイミングと、回復の早さによって決まります。 ですから、目覚めたときにHRVが大きく跳ね上がっていたら、おそらく完全に回復してはいないでしょう。 回復過程の途中であり、HRVがまだベースラインに戻っていない可能性があります。 日々のHRV測定値の変化を解釈する際には、ストレス-回復サイクルの状況を考慮する必要があります。 モーフィアスのようなアプリは、HRVをリカバリースコアに変換することで、あなたに代わってハードワークを行ってくれます。 HRVは、どれくらいハードな運動ができるかを予測するものなのでしょうか? これはよくありがちな混乱するポイントです:日々のHRVは身体の能力を計るものではありません。 パフォーマンスを予測するものではありません。 リカバリースコアが低くても、ジムで自己記録を出すことは可能です。 では、HRVは何を伝えているのでしょうか? HRVは、エネルギーを消費し、さらなるストレスを生み出すコストを予測しているのです。 その意味するところは、次のとおりです。 回復力が低いときに高負荷のワークアウトを行うと、回復力が高いときよりもベースラインまで回復するのに非常に時間がかかることになります。 回復力が低下すると、労作、再生、修復のためのエネルギーのリザーブが枯渇してしまいます。 さらにエネルギーを使えば、さらに消耗することになるのです。 はじめに、これは身体の回復、適応、向上に時間がかかることを意味します。 回復できる範囲を超えて無理を続けると、やがて身体は回復不全に陥ります。 そこで、慢性疲労やケガ、免疫力の低下といった症状が頭をもたげてきます。 短くまとめるならば:HRVはあなたに何ができるかを教えてくれるわけではありません。 しかし、何をすべきかの指針を助けてくれます。 身体からの客観的なフィードバックに基づき、より良いトレーニングの選択をすることを助けてくれます。 回復力の低い日に無理をすることはできるのですが(やむを得ない場合もあります)、そうすると代償を払うことになるということを、多くの人はすぐに学ぶことになります。 トレーニング、栄養、睡眠などに関するすべての決定の影響をリアルタイムで確認することは、目標に向かって前進し続けるために、量、強度、回復をうまく調整するための唯一で最も重要な方法なのです。 HRVと心拍数、どちらを使うべきですか? この記事のここまでで、HRVと心拍数は用途が異なるため、どちらも価値があることがお分かりいただけたかと思います。 日々のHRVは、回復を推定するのに役立ちます トレーニング中の心拍数は、トレーニングの強度と相対的なストレスを測定するのに役立ちます トレーニング中の心拍数回復により、体力が向上しているかどうかを把握することができます 平均 HRV と平均安静時心拍数は、どちらも有酸素能力を測定するのに役立ちます。 最終的には、心拍数とHRVの両方を、トレーニングやライフスタイルについてより良い判断を下すためのツールとして活用すべきです。 これらはモニターしやすく、自分の身体が何を伝えようとしているのか、内側から知ることができる信頼性の高い方法です。 まだ心拍数やHRVを測定していない方は、ぜひモーフィアスをチェックしてみてください。 リカバリーとトレーニングを追跡するために必要なすべてを、完全なシステムで提供します。
HRVと心拍数に関する究極の入門書 パート1/2
20年余り前、私は初めて心拍変動に出会いました。 それは私の既成概念を吹き飛ばすものでした。 当時、フィットネス・テクノロジーはありませんでした。 フィットビットはありません。アップルウォッチはありません。 モバイルアプリはありません。 自分の身体がどれだけのストレスを受けていて、どれだけ回復しているのかを知ることができる、ましてやそれを実際に行なっている技術など見たことがありませんでした。 それだけでなく、HRVは40年以上にわたる科学的な研究に基づいており、1961年に宇宙で人類初の実験が行われたことも知りました。 HRVを深く掘り下げ、自分自身やトレーニングする人たちに使い始めると、この種の技術は、フィットネスと健康そのものの未来だと確信するようになったのです。 初めて、トレーニングに関する当て推量を大幅に排除できるようになったのです。 より良いトレーニングを行うための、本物のデータを手に入れたのです。 コーチとして、これはまさにゲームチェンジャーでした。 今日、フィットネス界では、HRVはほとんどどこでも見られるようになりました。 かつてないほどに、HRVを計測すると称するデバイスも数多く見られるようになりましたが、多くのフィットネス機器と同様に、パワフルなツールになり得るHRVもまた、スクリーン上の数字に過ぎないことが多いのが問題です。 というのも、HRVとは何なのか、ましてや、トレーニングの成果を上げるためにHRVをどのように利用すべきなのかについては、まだ多くの混乱があるためです。 多くの人は、心拍数と心拍変動の違いについて、明確に理解しているわけでもないのです。 実のところ、HRVあるいは心拍数のような数値の本当の意味を知らなければ、向上を助けることにつながらないことはほぼ確実なのです。 そこで今日は、心拍数とHRVの基本について、混乱と誤解を解くお手伝いをしたいと思います。 この2つの指標は何なのか、フィットネスについて何がわかるのか、そしてトレーニングの指針としてどのように活用できるのか、紐解いていきましょう。 まずは簡単なところから...。 心拍数とは? 心拍数とは、簡単に言うと1分間に心臓が拍動する回数(bpm)のことです。 心拍数は標準的な指標であるため、機器ごとに簡単に比較することができます。 例えば、アップルウォッチの心拍数とトレーニングアプリ「モーフィアス」の心拍数が一致しているかどうかを確認することができます。 しかし、この数字が一致しないときはどうするのか。 残念ながら、すべての心拍計が高精度なわけではありません。 この精度の差は、モニターが使用しているセンサーの種類に起因することがほとんどです。 心拍数を計測するセンサーには、主に光学式と電気式の2種類があります。 光センサーは、皮膚を通過する光の量を測定し、脈拍を追跡します。 この方法は、常に肌に触れている必要があり、特に高強度では動きが乱れる可能性があります。 胸ストラップなどの電気センサーは、心臓の拍動に伴う電気信号を測定するため、2つの方法のうち、より正確な測定が可能です。 心拍数で何がわかるか フィットネスに関して、心拍数の測定は2つの方法で使うことができます。 有酸素能力の一般的な指標として安静時(朝一番に) ワークアウト中 一般的に、安静時心拍数が低いほど有酸素能力があると言われています。 安静時平均心拍数が時間の経過とともに減少している場合は、有酸素能力が向上していることを示す良いサインです。 トレーニングに関して言えば、心拍数の最も良い使い方は、適切な強度でトレーニングしているかどうかを確認することです。 例えば、心拍計を使えば、回復期のトレーニングで無理をしないようにすることができます。 ワークアウトの強度は、最大心拍数に対する相対的な心拍数の高さで計ることができます。 ここで重要なのは、毎回のワークアウトでどれだけ自分を追い込めるか、あるいはポイントを稼ぐための手段として使うのではなく、自分の強度を調整するためのツールとして使うことです。 モーフィアスは、日々の回復度合いに応じて、各個人個別の強度の異なる心拍ゾーンを提供してくれるので、このようなトレーニングに使用することを強く推奨します。 トレーニング中に心拍数を使用するもう一つの方法は、心拍数回復と呼ばれるものをモニターすることです。 心拍数回復とは、一定時間運動した後、心拍数がどれだけ早く回復するかということです。 例:20秒間の最大努力インターバルの後、心拍数が何bpm下がるか。 これにより、トレーニング中に有酸素性、無酸素性のどちらのエネルギーが生産されているかを知ることができます。 心拍数が下がるのに時間がかかる場合には、より無酸素的であり、疲労が早くなります 心拍数の低下が早ければ、より有酸素的で、エネルギー出力をより長く維持することができます ワークアウト中の心拍数の回復をモニターし、コンディショニングが時間とともに向上しているかどうかを確認できます。 HRVとは? HRVは、(心拍数のような)1分あたりの拍動数ではなく、心拍間の平均的な時間的変動を測定するものです。 心臓はメトロノームのように安定して拍動していると思いがちですが、安静時にはそうではありません。 さらに複雑なことに、HRVを測定する方法は複数存在します。 HRVスコアを生成するための計算方法はさまざまであり、数値は多くの場合、時間領域と周波数領域のいずれかにおいて異なるスケールでプロットされます。 このように、HRV値の生成方法が異なるため、システム間で数値を比較することは意味がないのです。 HRVは実際に何を教えてくれるのでしょうか? HRVは、交感神経(ストレス反応)と副交感神経(回復反応)のバランスを示すものです。 HRVの数値が高いほど、体は回復のために多くのエネルギーを使っていることになります。 つまり、日常的には、HRVは主に、身体にかかるストレスの総コストを見ているので、回復力を推定することができるのです。 HRVが上下に大きく変化することは、最近身体が大きなストレスを受けていることを反映しており、そのため回復力が低下している可能性が高いと考えられます。 しかし、HRVの日々の変化が小さいということは、体が比較的安定しており、最近あまりストレスを受けていないことを意味します。 そのため、回復力は高くなる可能性が高い。 この概念を理解することが重要です。 HRVは回復を直接測定するものではありません。 その代わり、ストレスや回復・修復の過程で起こる身体からのシグナルを測定しているのです。 これらの信号から、その時々の身体の状態を知ることができます。 一方、長期にわたるHRVの平均値 は、平均安静時心拍数と同様に、有酸素能力を示す強力な指標となります。 しかし、平均安静時心拍数が低いほど有酸素能力が高いのに対し、平均HRVが高いほど有酸素能力が高いという相関があります。 ですから、時間の経過とともにHRV平均値が増加すれば、コンディショニングが改善されているサインといえます。 このため、HRVは有酸素能力が向上しているかどうかを評価するのに有効です。 しかし、運動能力とは別に、有酸素能力は寿命や健康寿命の長さと強く相関しています(Teramoto and Bungum, 2010; Mandsager et al, 2018)。 だからこそ、トレーニングの理由に関係なく、HRVを平均値を高めることは価値ある目標なのです。
向上し続ける:コンディショニングワークアウトを進歩させる3つの方法
強くなったと感じる、体が引き締まって見える、速く走れるなど、それが何であれ、進歩は素晴らしいものです。 しかし、身体的な進歩における問題は、成功への道のりが、多くの場合、分かりにくいことです- 特に、基礎的なフィットネスレベルを身につけた後は。 一度しっかりとした基礎を築いた後は、どのようにコンディションを向上させ続けることができるでしょうか。 よくある回答は、ワークアウトを終えるまで、「もっと頑張る」または「もっと疲れる」です。そしてこれは、蓄積した疲労が逆効果をもたらし始めるまでは有効です。 しかし、コンディションを向上させ続けるためには、ハードワーク以上のものが必要です:戦略が必要なのです。 そこで、私がMMAの世界チャンピオンからフィジークの競技者まで、すべての人たちにコンディショニングワークアウトを進歩させる際に用いる3つの確実な方法へとつながります。 ここから始める:量を増やす ワークアウトの量を増やすと、効果的にトレーニングのストレス量が増します。そして最終的には、適切な量のトレーニングストレスが、有益なフィットネスの適応を刺激します。 量を増やすとはどのようなことでしょうか? 量を増やす一般的な方法は以下の通りです: 各セッションのコンディショニングエクササイズの時間を数分追加する 各トレーニング方法に対し、より多くの合計セット数を行う トレーニング量を増やすポイントは、4~6週の期間をかけて徐々に増やしていくことです。これは、オーバートレーニングにならずに、増加する負荷に適応するための時間を身体に与えることに役立ちます。 量を増やして、トレーニングの容量を築くことができたら、強度の力を活用する準備が整います。 次のステップ:強度を上げる トレーニングの強度を上げることは、とても分かりやすいものです。 最も簡単な方法は、より高い心拍数、または最大心拍数に対して高い割合の心拍数でトレーニングを行うことです。 しかし、これを効果的に行うためには、自分の最大心拍数が実際にいくつなのかをある程度把握する必要があります - よくある220から年齢を引いた値よりも正確な値です。 それには、400~800mのスプリントのような、最大心拍数に達するような運動をする必要があります。スプリントができない場合は、重量を使わない、高速で、全身を使う、そして立位で行うエクササイズを利用しましょう。 強度を上げるために効果的な他の方法は、休憩時間を減らすことです。 休憩時間を短くすることで、休憩時間に対する作業時間の負荷が高くなります。そして、トレーニング量は時間をかけて徐々に増やすべきであるのと同様に、休憩時間も数週間をかけて徐々に短くしていく必要があります。 最後のてこ入れ:頻度を上げる トレーニングの日数を増やすことは、「量を増やす」という最初の戦略に帰結します。ただし、セット数、回数、トレーニング時間を増やすのではなく、トレーニングセッションの回数を増やすのです。 トレーニングの頻度を増やすと、コンディショニングをより頻繁に行うことで、トレーニングの総量と強度も増幅させていることに注意してください。 これが、頻度を上げることが最後のワークアウトの進歩である理由です。 より多くのトレーニング量と強度を用いて、身体のコンディショニング能力を構築した後は、より頻繁にトレーニングすることができるようになります。 究極の進歩の原則 進歩が鈍化すると、トレーニング量、強度、回数を一気に増やしたくなるかもしれません。 それはいけません。 それは、オーバートレーニング、怪我、および疲労のための確実なレシピです。 進歩の消火ホースを開くのではなく、その逆を行うことをお勧めします。 究極の進歩の原則は、最小限の効果的な量だけを使うこと。つまり、進歩を続けるために必要な最小限のトレーニングを行うことです。 コンディショニングを始めたばかりの時には、向上するために最大レベルの刺激は必要ありません。本当に大して必要ないのです。しかし、身体が適応するにつれ、トレーニング刺激を徐々に増やしていけば、改善の可能性を最大限に高めることができます。 多くの人にとっては、週に3~4日コンディショニングトレーニングを行い、そのうちの1日だけを高強度にするのが最小限の効果的な量です。 その後、進歩の方法を導入していくことができます。 トレーニングの時間、回数、セット数を増やす 強度を上げる トレーニングの頻度を増やす 私は通常、強度を調整する前に、最初の3~8週間を、トレーニング量を増やすことに費やします。 数カ月かけてトレーニング量と強度を上げたら、パフォーマンスが停滞し始めるまで待ちます。このときが、トレーニングの頻度を上げるタイミングです。 最大限の改善が欲しいのなら、これらの進捗戦略を必要な時に使うことです- ただやろうとするのではなく。 ポジションを選ぶ:筋力を向上するかコンディショニングか トレーニングを始めたばかりであれば、フィットネスのあらゆる面を同時に向上させることができます。 しかし、ベースラインを確立した後は、筋力向上かコンディショニングのどちらの進捗を優先させるかを選択する必要があります。 どちらを選択するにしても、選ばなかった方は、向上ではなく、維持を目標にするべきです。 コンディショニングに重点を置く場合でも、筋力トレーニングは週に2~3回行いましょう。ただし、それらの日には、筋力の向上を目的とする場合よりも低い量と強度でトレーニングを行います。 トレーニングの焦点を絞ることで、身体の限られたエネルギー資源をできるだけ効率的に使うことができます。そして、それが最も改善する唯一の方法なのです。
コンディショニングでミトコンドリアの魔法を解き明かし、代謝を最適化する方法 パート1/2
正直なところ、大学時代は生物学、生理学、有機化学の授業をこなすだけで精一杯でした。 テストに合格できるように、情報を暗記したのです。そして仕事に戻って、筋力トレーニングや身体組成の改善に関するあらゆることを学びました。 クレブスサイクルのようなものと、トレーニングの方法との間に、何の関連性も見いだせませんでした。 もしタイムマシンで当時の自分に話しかけられるとしたら、バカだなぁと自分に言い聞かせていることでしょう。 健康やフィットネスに関する本当の答えは、筋肉雑誌の記事や、トレーニングに関するほとんどの本にさえも載っていないということを理解するのに、何年もかかりました。 それらではなく、答えは私が当時ほとんど無視していた細胞生物学や生化学の教科書のページの奥深くに見つけられるものなのです。 なぜなら、DNAが環境(トレーニングも含む)とどのように相互作用して、私達の健康やパフォーマンスへと駆させるのか、あるいは遠ざけているのかを本当に理解することで、身体の真の可能性を引き出すことができるからです。 私は、大学の教科書でほとんど読み飛ばした科学と、世界のトップアスリートたちが人生で最高のシェイプになるのを手助けした方法、ひいてはそれがあなたの健康とフィットネスにとってどういう意味を持つのか、それらの点を結びつけることに全力を尽くすつもりです。 私達の知る生命の起源が、トレーニングのあり方にいかにつながっているのか 15億~20億年前のどこかで、酸素を使ってエネルギーを生み出すことができる古代のバクテリアの一種が、そうでない原始的な単細胞に飲み込まれました。細胞によって消化されるのではなく、細菌が常駐するようになり、私達が知っているような生命が可能になったのです。 そして、この細菌は時を経て、現在ミトコンドリアとして知られるものへと進化していきました。現在、あなたの身体には約1,000万億個のミトコンドリアが充満しています。合わせると体重の10%程度を占めています。 ほとんどの細胞には数百から数千個のミトコンドリアがあり、最も多いのは心臓の細胞で、1細胞あたりおよそ5,000個のミトコンドリアを持っています。 さらに興味深いのは、ミトコンドリアはもともと独立した細菌であったため、細胞核とは別に独自のDNAを持っていることです。 ミトコンドリアは生命維持に欠かせない存在であり、多くの人が知っているよりもさらに多くの理由があります。ミトコンドリアは、健康からパフォーマンスまで、あらゆる面で最も重要なカギを握っています。 それは、多くの人がミトコンドリアを単に「細胞の発電所」と考えているにもかかわらず、真実はもっと興味深いものだからです。 確かに、あなたが生み出すエネルギーの大部分はミトコンドリアで生成されますが、ミトコンドリアはそれ以上の働きをしています。 ミトコンドリアは、ATP(身体のエネルギー通貨)を生産する主要な場所であるだけでなく、以下を含む、全身の様々な重要な機能を担っています: テストステロンやエストロゲンなどのステロイドホルモンの合成 コルチゾールのようなグルココルチコイドの合成 細胞核と直接通信して遺伝子発現を制御 炎症プロセスおよび免疫機能の制御 カルシウムシグナリングと筋収縮の制御 フリーラジカルの生成 長寿に関連するサーチュイン酵素の活性化 細胞の成長・増殖 細胞死(アプトポス) 熱生産 なぜ、細胞の一つの構成要素が、代謝や生命維持に不可欠な多くの機能を駆動しているのでしょうか? 一言で言えば、「効率」です。 エネルギーの生産と、エネルギーの使われ方(エネルギー消費)の調節を、細胞の同じ構成要素の中で結びつけることは、非常に効率的です。 それが、ミトコンドリアを代謝のパフォーマンス、健康、長寿の重要な一部とします。 ミトコンドリアは、単なる無心なエネルギー生産工場ではありません。 そうではなく、常に細胞核に指示を出し、調整し、協力して、入ってくるすべての情報を統合し、身体全体でエネルギーを消費する方法を調節しているのです。 これが、ミトコンドリアをストレス反応管理の中心的な存在とし、遺伝子が環境と相互作用し、自分という人間を形成する方法を管理するものとします。 このプロセス全体と、その役割を果たす様々な遺伝的経路は、ある特定のタスクを達成するための終わりなき努力の一部です:環境におけるストレスに常に適合することで生命を維持するというタスクを。 この適合は、様々な形で行われます。 身体にかかるストレスの種類と時間によって、これらの適合は、筋力、免疫力、認知力などの重要な機能を駆動する、より効率的で高エネルギーな代謝につながる非常にポジティブな変化まで様々なものがあります。 あるいは、身体が耐えられる限界を超えた慢性的なストレスに直面すると、逆の方向に進んでしまうこともありえます。 ストレスが大きすぎると、時間の経過とともに、代謝やミトコンドリアの機能不全、筋力や筋肉の低下、炎症の増加、様々な一般的疾患のリスク増加などの問題が発生します。 だからこそ、超強力なミトコンドリア・マシンを作ることが、心身のあらゆるパフォーマンスを向上させるだけでなく、人生のストレスから身を守る唯一最善の方法となるのです。 といったところで、そのマシンを確実に作る方法についてお話しましょう。 ミトコンドリアの量と質を高めるために、メタボリックトレーニングが重要な理由 過去20年以上にわたり、研究とフィットネスにおける私自身の個人的な経験の両方において、メタボリックコンディショニングが、より長く健康的な生活とより良いパフォーマンスを推進するためのミトコンドリアマシンを構築するための、唯一で最も強力かつ重要なツールであることを一貫して示しています。 なぜなら、このようなトレーニングは、細胞が運動するために必要なエネルギー量を劇的に増加させるため、細胞に高い代謝ストレスを与えるからです。 次に、このストレスは、代謝効率とエネルギー生産能力を向上させる遺伝子発現の変化をもたらすシグナル伝達経路を誘発します。 驚くなかれ、ミトコンドリアはこのような変化の中核を様々な方法で担っているのです。 メタボリックトレーニングは、細胞内のミトコンドリアの数を増やすことは多くの人が知っていますが、その質も高めるということはあまり知られていません。 これは、ミトコンドリア品質管理(MQC)と総称される、以下のような複雑なプロセスによって起こります: ミトコンドリアの融合が進み、筋繊維にまたがる細長いミトコンドリアの広大なネットワークが形成される(下図参照) ATPの大部分が作られる電子伝達系(ETC)の効率を向上させる遺伝子を制御するサーチュイン酵素の活性化 機能低下したミトコンドリアのマイトファジー(分解・リサイクル)の増加 画像の出典はこちら:Rafael A. Casuso, Jesús R. Huertas, The emerging role of skeletal muscle mitochondrial dynamics in exercise and ageing, Ageing Research Reviews, Volume 58, 2020, 101025, ISSN 1568-1637 これらの変化は、ミトコンドリアのマシンをより良く、より高性能にするものです。同じエネルギーを作るのに、より少ない酸素で済むようにします。 これはまた、必要なときにエネルギー生産をさらに高いレベルに引き上げる能力を持っていることを意味します。この能力は代謝予備と考えることができ、フィットネスの目標が何であれ、非常に価値のあるものです。 またさらに、より良いインスリン感受性、脂肪酸化の促進、炎症レベルの低下、DNA損傷(核とミトコンドリアの両方)の減少など、長寿やパフォーマンス向上のためのさまざまな利点が得られます。 しかし、ここで重要なのは、これらの非常に重要な変化は、代謝性ストレスの量を適切に設定することによってのみ起こるということです。 スーパーミトコンドリアを作るのに威力を発揮する代謝ストレスも、やり方を間違えると逆にミトコンドリア機能不全を引き起こすことがあります。 最近の論文では、高強度のメタボリックトレーニングを、身体が回復できる量以上に行った場合に、どのようなことが起こるかを調べています。 研究の最初の3週間、研究者達は高強度トレーニングの量を増やし、同時にミトコンドリアと代謝機能全般に関するさまざまなマーカーを測定しました。 4週目には、回復のためにボリュームを大幅に減らしました。 この図からも明らかなように、高強度のメタボリックトレーニングが多ければ多いほど良いというわけでは決してありません。身体が必要とする量には上限があり、それを超えるとミトコンドリアや代謝全体に影響が出ます。 そのため、ミトコンドリアと代謝性能を高めるためには、全体的に適切な量の代謝トレーニング、すなわちボリュームと強度の配分を得ることが絶対に重要なのです。
コンディショニングでミトコンドリアの魔法を解き明かし、代謝を最適化する方法 パート2/2
ゾーンベースの心拍トレーニングの価値 量、強度、回復のバランスを取る最も簡単な方法は、すべてのメタボリックトレーニング中に心拍計を使用することです。 心拍数ゾーンは、1980年代前半から定常状態の代謝トレーニングの指針として用いられてきました。特に持久力の世界では、その傾向が顕著です。 ここ2、3年、「ゾーン2トレーニング」についての議論が活発になっています:これは過去15年近くに渡り私が広範囲に著述している重要なトピックです。 これは良いニュースです、メタボリックトレーニングは、単に高強度のインターバルを何度も繰り返すだけではありませんから。 しかし、遺伝や代謝、体力のレベルに応じて「ゾーン2」が異なることは一般的に理解されていますが、それが高強度トレーニングのやり方に反映されていないのが現状なのです。 定常状態トレーニングに限らず、あらゆるタイプのトレーニングは、自分自身の遺伝、代謝、フィットネスレベル、回復力に合わせて構築する必要があるために、これは問題になります。 それが、私がゾーンベースド・インターバル・トレーニング(ZBIT)という枠組みを作った最大の理由なのです。このモデルは、様々な強度のメタボリック・トレーニングを適切に行うために、より効果的で、より個別化されたアプローチを提供するために設計しました。 スタートポイントとして、低強度から最大心拍数まで、12種類のZBITメソッドを作成しました。 ゾーンベースド・インターバル・トレーニング(ZBIT)メソッド 3つの心拍数ゾーンは、私のモーフィアス・トレーニング・システム(詳しくはこちらをご覧ください)に基づくものです。 なぜ、高強度のみでなく、それ以上のものが必要なのでしょうか? 先ほど引用した研究とは別に、すべての心拍数ゾーンで幅広い強度と量を取り入れることが重要である理由はたくさんあります。効率的な代謝エンジンを構築し、パフォーマンスと長寿の両方を推進するためには、すべての細胞や組織の中にあるミトコンドリアを開発する必要がある、というのが最大のポイントの一つです。 低強度では、主に遅筋繊維と支持組織のミトコンドリアをターゲットにしています。強度を上げ、より多くの筋繊維を動員するようになると、より多くのミトコンドリアが適合し改善するために必要な代謝ストレスを受けることになります。 また、トレーニング中に直接働く筋肉以外にも、脳や心臓、肺などにあるミトコンドリアも、メタボリックトレーニング中はしっかり働いています。また、これらは容量も異なり、細胞の種類に特化して作られているため、様々な量や強度に反応します。 メタボリックトレーニングがパワフルなのは、筋肉だけでなく、全身の様々な細胞にポジティブな影響を与える可能性があるからだと考えることには価値があるでしょう。 メタボリックトレーニングや一般的な運動が、認知機能、健康な免疫システム、病気の予防、健康寿命の延長などと密接に関係しているのは、このような理由からなのです。 メタボリックトレーニングの量と強度がどれくらい必要かは、膨大な数の変数に依存しますが、それでも一般的なガイドラインを示すことができます。 数千人のモーフィアスユーザーの50万回以上のワークアウトとデータポイントを分析した結果、フィットネスレベルが異なる複数のセグメントの人々に共通する点があることがわかりました。 12週間にわたり心拍変動が増加し、安静時心拍数が減少した人は、代謝エンジンが改善したことを示すポジティブな兆候であり、一貫して以下の範囲のどこかに収まっていました: ブルーゾーン:200~300分/週 グリーンゾーン:40~50分/週 レッドゾーン:11~14分/週 もう1つ、私たちのデータが示した非常に重要な教訓は、12週間の間に測定値が悪化した人は、改善した人よりも高い強度で過ごす時間が長かったということです。 例えば、改善が見られたフィットネスレベルが中程度の人は、レッドゾーンで過ごす時間が週15分弱でした。一方、数字が下がった人は、同じゾーンに20分近くも滞在していました。 さらに、もともと最も高レベルの体力の人は、最も少ない時間(1週間あたり11分強)を最も高い強度で使っていたのです。 先ほどの論文や、20年以上にわたる私のコーチとしての知見を総合すると、高強度に関しては、多くを達成するために必要なのはほんの少しであり、多ければ良いというわけではない、というシンプルな真実が浮かび上がってきます。 ピースを組み合わせる:ミトコンドリアがあなたを助ける方法 ここまでのところで、もしあなたがまだ何らかの形でメタボリック・コンディショニングを一貫して行っていないのであれば、行うべきだということを納得していただけたと思います。 パフォーマンス、健康、長寿を大切に考えるなら、メタボリックコンディショニングは、単に筋力トレーニングの最後に加えるだけのものではありません。 たとえあなたのゴールが、単に筋力やパワーをつけることが目的であったとしても、そのためにはミトコンドリアが駆動する効率的でハイパワーな代謝エンジンが必要なのは明らかでしょう。 生命の根幹にあるのは、環境に適合する能力であり、それはミトコンドリアの魔法とその働きから始まります。 適合力が低下し始めると、すべてが衰え始め、老化現象が貨物列車のように加速していきます。多くの点で、老化とは、順応性が徐々に失われ、私たちの細胞の完全性が失われ、真に生きる能力が失われることにほかならないのです。 加齢とともに筋肉量や筋力が低下するのは、単にウエイトルームにいる時間が短かったからではなく、代謝能力が低下すると、筋肉量を支える能力も失われるからだという研究結果もあります。 筋肉は維持するために代謝的費用の高い組織であるため、代謝機能が低下すると、私たちの身体はそれを補うために筋肉量と筋力を落とし始めるというのは理にかなっています。 これはストレングストレーニングが重要でないということを意味するのではなく、間違いなく重要なものではあるのですが、生物学の全体像と水面下で起こっていることを理解することは、正しいトレーニングやライフスタイルを決定する上で非常に重要な鍵なのです。 世の中の研究やアドバイスの多くは、パズルのごく小さな1つのピースしか見ていないのですが、私達はすべてのピースがどのように組み合わされているのかを知る必要があります。 それが私がスタートし始めた理由なのです。 今後もご期待ください...
リバースバンド・デッドリフトの秘訣
ストロングマンの全米レベル競技者であり、デッドリフトの記録を更にに向上させようと試みているコーチがジョールト共に実践している股関節の爆発的パワー増大のエクササイズとはどのようなものなのでしょうか?トップエンドの股関節伸展に苦労している人もぜひ試してみてください。
股関節の強化方法
数多くのグラップリングの選手達、グラウンドでの動作の強さが要求される格闘技の選手達のトレーニング指導をしてきたジョール・ジェイミソンが、スレッドを使用した多面的な股関節の強化ドリルの例をご紹介します。格闘技の選手に限定されることなく活用できるアイデアをチェックしてみてください。
傷害に関する真実 パート3/3
ストレス過負荷と傷害サイクル 身体が適応できる以上のストレスを急激に、または、慢性的にかけてしまうことで、傷害に至ってしまう理由は、表面上明白であるかもしれませんが、詳細について簡単に解説することには価値があるでしょう。 最初に、制御できる以上のストレスに直面すると、身体は生体恒常性を維持し、ストレッサーの影響を最小限にするために、特定の措置を講じることを理解することが重要になります。繰り返しになりますが、それは活動中の身体の防御機構であり、生き延びるためにできることをしているのです。オーバーストレスやオーバートレーニングの期間中に起こっている変化がまさにそれであり、それらはまた、本質的に傷害を引き起こす可能性を有しています。 オーバートレーニング−繰り返し過度なストレスをかけてしまったときに起こることの別名称—の初期段階では、身体はストレス反応ホルモンに対する末梢感度を低下させることで、それを制御しようと試みます。 近所の人と確執があり、彼らがステレオを大音量でならし、家のどこにいてもそれが聞こえてしまう状態を想像してください。もし睡眠をとりたいのであれば、最初にすべてのドアと窓が閉まっていることを確認し、次に耳栓をして、騒音を最小限にするでしょう。 これは基本的には、身体がストレスに晒され始めた時に行うことと同じで、トレーニング時に分泌されるホルモンの効果を弱めることで、その反応を低下させています。しかし、強いストレスがかかる時期になると、身体はそれまで分泌していた以上のホルモンを分泌することで、ホルモンが役割をはたせるようにしようとします。それは、近所の人が、あなたが耳栓をしていることに気付き、さらに音楽の音量を上げることと同じことです。 ストレスを和らげようと試みているにも関わらず、身体がより頑張って働こうとしている状態であれば、いわば、完全に“音楽を切る”こと以外の選択肢はありません。言い換えれば、単にホルモンに対する組織の感度を低下させるというよりも、その生成を完全に低下させるのです。その結果、ストレスへの反応を完全に抑え、生物学的武器を使用することで、身体は慢性ストレスに対処する最終の試みを起こすことになります。 それらどちらの期間でも、過度なストレスによって傷害を起こすリスクはかなり大きくなります。その理由としては、ストレスに対する通常の反応を維持することは、トレーニングやパフォーマンスの生物学的、代謝的ストレスを筋肉や腱、靭帯、骨などが制御できるようにするためにきわめて重要だからです。 アドレナリン、ノルアドレナリン、コルチゾール、成長ホルモン、テストステロン、エストロゲン、ドーパミンなどのかなり強力な化学伝達物質が、神経筋組織の力の発揮に必要となる適切な量を超えてしまうと、良くないことが起こりえますし、多くの場合起こってしまいます。実際に、オーバーストレスやオーバートレーニングの期間中では、ホルモンと神経伝達物質の全体の閾値は、標準のレベルよりもかなり上か下にまで変化させられます。免疫システムでさえも、その機能を低下させ、通常の炎症レベルよりも閾値を上か下に変えてしまいます。 言い換えると、トレーニングや競技中のような極度にストレスが高い期間中は、身体が慢性的なストレスの過負荷に対処しよう試みることで、私たちが傷害を起こすリスクは本質的にはかなり上がってしまということなのです。以前は問題を起こさなかったと考えられる負荷と力が、突然として限界を超えてしまい、筋肉を伸ばしたり、靭帯を断裂したりするかもしれません。 そのような出来事は、組織が力の産出、吸収をする能力が下がる、または、運動制御システムのエラーにより、間違ったタイミングで筋肉を活性させてしまうという理由のどちらかで起こります。どちらのケースであれ、現在の時点では、その質問に対する明確な答えを科学が提供することはできませんが、ストレスと適応の間でバランスがとれないために、ストレスへの対応を変化させつつも、身体に高いレベルでのパフォーマンスを要求し続ける際には常に、傷害や失敗の可能性を有することになるということは明白になります。 さらに悪いことに、将来の傷害を予想する最大の要素は、現在、あるいは、過去の傷害歴であるということも明白です。この原則においても、これは活動時の身体の適応機構の結果であり、組織が損傷を受け、正しく活動できないときはいつでも、身体はそれ以外の筋肉を活動させることで、要求されたことを達成しようと試みるのです。これは代償として知られており、足首の捻挫やACL断裂によって、腰部の問題や肩の問題、または、連鎖に関わる様々な傷害を引き起こすこともあります。 ある部位に損傷が起きたときは常に、それらを代償する筋肉やサポートする組織には、同レベルの力を制御するための十分な機能が備わっていないことが多いため、別の部位が傷害を起こしてしまうリスクがあります。そのため、時間の経過と共に急性の傷害が慢性の傷害に至ることが多く、どれだけ関係のない傷害に見えても、私たちが考える以上に、より関係性が高いことが多いのです。 その悪循環な傷害サイクルを、下の図で見ることができます。 障害のサイクル つまり傷害とは これまでのところで、単に特定のエクササイズの使用や誤使用という観点から傷害を捉えることが、傷害の起こる理由を完璧に描くことではないということを理解して頂ければ幸いです。このような討論が、様々な動きのパターンや関節の機能を分析するところまで広がり、動きの質を純粋に向上させることで、傷害のリスクを予想する、あるいは、最小限にしようと試みているとしても、彼らはまだ、ストレス−適応バランスの基本的な重要性を完全に見過ごしているのです。 あるエクササイズが特定の関節に与える特定なストレスを評価することには確かに価値がありますが、個人の要求、限界、目的が適切であとうとなかろうと、全体の討論を、この部分のみに集中させることは、ストレスの根本的な役割を考慮することを見落しがちで、これは、生物学的なストレスの管理を全体的なアプローチとするのではなく、エクササイズの選択のみを単純な基準にしてしまうことで、傷害評価の表面的なレベルでのアプローチに繋がってしまいがちです。 これまで見過ごされ、あまり討論されてこなかった真実は、すべてのアスリートや個人は、本当にそれぞれ異なっていて、トレーニングプログラムやストレスレベルに同様の反応を示す人は二人といないということなのです。近年、パーソナルトレーニングは、あまりにも闇雲に、すべての人に全く同じことをさせるように促す、ブートキャンプ、クロスフィット、P90X、あるいは、そのようなタイプのトレーニングに置き換えられています。 これらのアプローチは、個人のストレスに適応する能力を考慮することに、情けない程失敗しているというだけではなく、これらの結果は強度による直接的な結果に過ぎない、と説いていることが多いのです。個人差を考慮しない、“多ければ多い程良い”という高強度トレーニングのアプローチは、文字通り悲惨な傷害のレシピであり、人間の身体が全体としてどのように動いているのかを理解し評価するのではなく、完全に間違った売り文句やビジネスモデルを示しているに過ぎないのです。 昨今の若者もまた、似たようなアプローチに晒されており、そのために、腱炎のような慢性のストレス傷害に苦しんでいる14歳くらいのアスリートを見ることが、悲しいことに普通になってきています。複数のスポーツをするアスリートは、クラブシーズンと個人指導に置き換えられています。全体的な身体準備とアスリート能力の発達に費やす時間の不足と、1年中終わりのないスキル練習の組み合わせは、最近の若年層スポーツ傷害の激増に大きく関与しています。 繰り返しとなりますが、すべてはストレスとストレス・適応のバランスを適切にとる能力の欠如によるものなのです。他の人よりもより多くのストレスに適応できる人もいる一方で、結果のためではなく金儲けのために設計された間違ったトレーニングプログラムや、リカバリーと適応を促進することよりも、ストレスレベルのみを増大させてしまうような不健康な生活習慣の影響に対して免疫のある人は誰ひとりとしていないのです。 まとめに あなたがアスリート、コーチ、セラピスト、あるいは医者であれ、また、ただ健康のため、体力を維持するためにトレーニングしているのであれ、私がこの記事を書いた目的は、よく発表されたり討論されているものよりも、より完全な傷害の過程に対する見解を皆さんに提供することです。私の意見と経験からいえば、今日起こっている傷害の多くは、正しいアプローチでトレーニングすることで予防することができるはずです。 どのエクササイズが“悪い”、どのエクササイズが“良い”という終わりない討論をするのではなく、より包括的な見解と、ストレスと傷害に関する真の性質の理解に基づいた討論に方向転換する時です。この記事は単にその議題の概要に過ぎませんが、私は真摯に、この記事によって、皆さんがレラの方向性に沿って考え、討論を始めることを願っています。
傷害に関する真実 パート1/3
過去1、2年、ストレングス・コンディショニング業界における最も熱い話題の一つは、トレーニングプログラムに、クランチ、あるいは、脊椎の屈曲を伴う他のエクササイズを含むかどうかという疑問に関するものでした。専門家の中には“含む”と答える人も若干おりますが、最近ではほとんどの人が“含まない”と答えているようですが、その話題で、数えきれないほどの文献が執筆され、インターネット上のトレーニングフォーラムでは、終わりのない議論が行われています。 討論の賛否どちら側でも、多くの場合、理由となる長いリストを引用していて、否定派は、クランチやそのようなものをすることは、腰部の傷害が起こるのを待っているようなものであり、何が何でもそれを避けるべきであると信じています。また、賛成派は、アスリートや個人によって、全体のコアトレーニングのなかの一部分としてそのようなエクササイズをすることができるし、するべきであると信じています。 まず最初に、その話題に対する私の考えと意見を記事に書くことを計画しましたが、討論について調べれば調べるほど、その議論や討論は、まず傷害という全体像を完全に見過ごしているように思えてきました。見過ごしてしまうことで、かなり複雑な話題を過度に単純化してしまうだけでなく、アスリートやコーチに、傷害の予防や管理について賢明で全体的なアプローチをするために必要となる正しい考え方を与えられないこともあります。 というのも、あなたが聞いていない真実は、終わりのない研究の引用、脊柱機能の理論的モデル、どのエクササイズが人々にとって“良い”あるいは、“悪い”という教義的宣言の中で失われたものが、傷害予防や管理の最も重要な原則を本当に理解するということだからです。 パフォーマンスの現実世界で、傷害とはあるエクササイズをするのかしないのか、あるいは、あるエクササイズを特定のセット数行うとかいうものではなく、それ以上のものなのです。それだけ単純であれば、また、1つの特定の動きを削除することで、腰部の問題が解決できるのであれば、素晴らしいでしょうが、人間の身体は、それよりも遥かに多面的であり、ダイナミックです。 ですから、クランチ、シットアップや、その他の似通ったエクササイズが、1回で腰部を壊してしまう時限爆弾なのかどうか、あるいは使い道があるのかを重要視する代わりに、傷害の予防、トリートメント、管理についての、より大きな全体像についてお話します。 なぜ傷害が起こるのか? 始めるのに最良なのは、最も重要な質問である“なぜ私たちは怪我をするのか”に答えることでしょう。結局、なぜ傷害が起こるのか分からないのであれば、それを予防するために、どうやって最善を尽くせるのでしょうか? この記事の目的のために、傷害を急性と慢性の2つのカテゴリーに分けることができます。急性の傷害とは、例えば、ランニングの最中ハムストリングに急に鋭く響くように感じる痛み、あるいは、肘が大きなポンっという音を出して上手く動かなくなるといったものです。だいたいすべてのアスリートがトレーニングキャリアの中のどこかで、急性傷害を経験しています。 同様に、ほとんどのアスリートはどこかで慢性傷害も経験しています。トレーニングセッションの度に肩が痛み、筋肉痛がでたり、あるいは痛みが出たりなくなったりする腰部の問題かもしれません。 私たちが話している傷害の種類に関わらず、傷害に繋がる基本的なメカニズムは1つであり、同じであり、ほとんどの人が考えているものではありません。間違ったエクササイズを行う、やり過ぎてしまう、あるいはトレーニングに十分な正しいエクササイズを使用していないなど、たびたび引用される原因ではなく、すべての傷害は同様の潜在的な原因:ストレスのかけ過ぎが原因で起こっているのです。 ストレス101 私が話しているストレスとは、多くの人が考える典型的な種類のものではなく、重要な締め切りが迫っている、慌ただしい家族生活、経済的な困窮、恋愛関連のドラマ、あるいは、日々の生活の中で直面するその他多くの問題が起こるときに感じるものに関連するストレスでもありません。ここで私が話そうとしているストレスとは生物学的なストレス、あるいは、“生理学的ストレス”と呼ばれるものです。 精神的なストレスとは、感情に関して私たちが話すものですが、生物学的ストレスとは、私たちの身体にかかる肉体的な要求の単位です。歩き回ることから、キーボードを打つ、ウエイトリフティングやトレーニングをすることまですべて、多かれ少なかれ私たちの身体に生物学的なストレスを与えます。 その理由は、かなり多くのことが、筋肉の力の生成、吸収のサポートや、産出に関わっているからです。肺は血液に酸素を送り、心臓は動いている筋肉に血液を送り出し、筋肉内の細胞は筋繊維が収縮・弛緩するために必要なATPを生成し、筋膜と結合組織はサポートと安定性を提供し、脳はどの筋肉が力を産み出し、どれだけの力を産み出すのか注意深く指示を出さなくてはなりません。 多種多様で複雑な生物学的プロセスが目にも止まらぬ早さですべて行われていて、私たちがどのような種類の筋肉の働きを起こす時にも、これは常に必ず起こっています。当然、より多くのタスクを筋肉に課せば課すほど、つまり、力を産出し動作をサポートするためには、これら全ての生物学的システムに、より高強度で高ボリュームの、より高い要求がかかるのです。 いろいろな種類の生物学的ストレス この要求を2つの種類の生物学的ストレスに分類することができます:力学的ストレスと代謝的ストレス。もちろん、代謝は筋肉の機能をサポートするため、その2つは常にお互いが本質的に関連していますが、力学的ストレスとは、神経筋骨格系システム全体で生産され、吸収される力の単位です。 つまり、これは筋繊維自体から、腱、靭帯、筋膜、骨などすべてを含みます。それらすべての組織は力の生産と吸収に関連があり、筋肉を働かせようとするときはいつでも、そのすべてに力学的ストレスがかかります。 一方で、代謝的ストレスとは、エネルギーの生産に関わるすべての組織にかかる要求の単位です。身体の中のほぼすべての主要なシステムが含まれます。心臓、肺、血管ネットワーク、筋肉、脳などにある組織はすべて、筋肉が働くために必要なエネルギーを産み出すために一緒に働かなければなりません。つまり、筋肉に力学的ストレスをかければかけるほど、より多くの代謝的ストレスもかかってくるのです。
傷害に関する真実 パート2/3
適応 今までのところ、それらすべてはおそらくかなり単純で明白であるように思えるでしょう。内容がより興味深く、複雑になっていくのは、生物学的適応について話始める時です。これは、身体にかかる負荷に適応するための基本的な能力であり、生命を維持すると共に、限界を越えたときに私たちに傷害を起こす可能性も有します。 おわかりですね、全般的に、身体はストレスを好きではないという事実にすべて戻ってくるのです。ストレス下に置かれれば置かれるほど、生体の恒常性を保つために頑張って働かなければならず、身体にかかる要求が何であれ、そのストレッサーは脅威として知覚されるのです。 トレーニングの中では、すべての活動で、かなりの筋肉の働きが必要であるため、ウエイトリフティング、ランニング、ジャンプ、技術練習などは当然ストレッサーになります。 次回、同様のストレスがかけられた場合、過度に働く必要がないようにするために、そして、生体恒常性がそれほど乱れてしまわないようにするため、身体はストレスのかかっている力学的、代謝的組織を生物学的に変化させることで反応しています。それらの組織はより強くなり、また、代謝的にも効率が良くなり、結果的に、以前直面したものと同じレベルの力学的、代謝的ストレスを制御するためのより良い能力を身につけるようになります。 上の図に見られる適応組織は、トレーニングを通して身体に挑戦することで、単に私たちをより大きく、強く、早く、そして、より良いコンディションにしてくれるものではなく、私たちを生存させてくれるものなのです。もし私たちが生物学的ストレスに適応できるように設計されていなければ、現実世界では長く生きていけないでしょうし、当然、スポーツの練習をする、ウエイトリフティングをする、ランニングをするなどでパフォーマンスを向上させることもできないでしょう。 最近、最も興味深い研究の分野の一つでは、トレーニングに対する反応としての適応が起こる過程を、分子レベルまで掘り下げて、かなり詳細に研究しています。科学者達は、身体がどの種類のストレッサーに直面しているのか、つまり力学的、代謝的ストレスがどのレベルであるのかをどのように判別し、続いて起こる、関与している組織がどのようにリモデリングされているのかということを、解明しようと熱心に試みています。 下の図に見られるように、ストレスの過程、信号化、組織の再構築の詳細を解明することが、最も効果的なトレーニングプログラムをまとめることの鍵となります。身体がどのように異なったトレーニング方法、つまりストレッサー、に反応するのか、そして、適応を導くために、どれだけのストレスが必要になるのかを正確に理解できれば、それらすべてを統合する最良の方法を見つけることができます。 しかし、今のところ、トレーニングは科学的過程というよりも、推測、直感、そして、経験によるものであることが多いでしょう。それらが正しい時、フィットネスとパフォーマンスは向上し、すべてが良い方向に動きます。しかし、それらが間違っていれば、傷害という結果に繋がる事が多いのです。 ストレス-適応バランス トレーニングを最も的確に表現すると、“生体恒常性を乱し、身体の防御システムを作動させるようにデザインされたストレスを目標別に応用することで、リモデリングし、強化し、身体全体の多くの様々なシステムの効率を向上させるものである。”ということになります。大げさに聞こえるかもしれないのは分かっていますが、その過程を見てみると、実際にはかなり的を得ています。 まず、エクササイズのタイプ、つまり、そのスポーツの練習、ウエイトリフティング、ランニング、スイミングなどを選ぶことで、与えようとするストレスの種類を選びます。次に、トレーニングセッションの中で行うエクササイズを選ぶことで、身体のどの領域に焦点を当てるかを決めます。最後に、全体の量と強度を決定することで、どれだけのストレスを身体に与えるのかを決めます。 力学的・代謝的ストレスの混合、身体のどの部位に、どれだけのストレスを与えるのか、といった単純な変数が、トレーニングセッションを定義づけます。もちろん、目標はパフォーマンスを向上させるために必要となる、正しい種類のストレスを、正しい量で目標となる正しい部位に常に与えることです。 もちろん、トレーニングセッションの中でその目標を達成できたとしても、パフォーマンスを向上させるには複数回以上のトレーニングセッションが必要であることを考慮しなければなりませんし、そのため、そのプロセスを何度も繰り返すことになるのです。トレーニングセッションがトレーニング週になり、トレーニング週がトレーニング月になり、トレーニング月がトレーニング期になっていき、それが続いていきます。 最初に思った以上に、このトレーニングプロセスを限りなく複雑にさせているものは、セッション間に、トレーニングセッションのストレスに身体が反応するときに起っていることなのです。その複雑性は、トレーニングによって課せられるストレスの適応方法に、どれだけの変数が関係しているのかということに起因しています。 遺伝子から食生活、メンタルストレスレベル、トレーニング歴、睡眠に至るまでのすべてのことが、組織がどれだけ早くトレーニングプロセスを再構築し、適応できるのかに大きな役割を担っています。十分な睡眠をとり、バランスの良い食事をし、適切な遺伝子と長いトレーニング歴を持っていれば、慢性的なメンタルストレス下にあり、睡眠障害を持ち、食生活が悪く、遺伝的にも劣勢である人よりも、同じレベルのストレスに対して、より素早く反応でき、より早く適応できるようになります。それら多くの変数のなかのどれか1つの小さな違いでさえも、与えられたストレスのレベルに適応する能力に大きな影響を与えてしまいます。 ストレス-適応バランス 残念なことに、多くの場合において、これらすべての変数の重要性や、個人がトレーニングプログラムにいかに適切に反応し、適応するかという能力に与える劇的な影響を多くの場合見過ごしています。人には個人差があり、これらの要素の多くは、時間とともに変化します。つまり、ストレスに適応する能力というのは、非常に個人差があるというだけでなく、それがまた極めてダイナミックでもあるということを意味しています。これは、もしトレーニングプログラムを向上させ管理するという仕事を効率よく行いたいのであれば、ストレス−適応公式の両面を常に見なければならないということを意味するのです。 なにか特定のエクササイズを含む、あるいは含まないということよりも、ストレスの適用と身体の適応能力の間での微妙なバランスこそが、パフォーマンスの向上と傷害発生の間に、真の相違を産み出すものなのです。正しいバランスを見つけ、適切な量のストレスを与えれば、筋力、パワー、コンディショニング、そして向上させたい身体能力を向上させるという報酬を得られるでしょう。しかし、身体が制御できる以上のストレスを繰り返し与えてしまうと、パフォーマンスの低下と傷害は避けられないものになります。