マイクロラーニング
隙間時間に少しずつビデオや記事で学べるマイクロラーニング。クイズに答えてポイントとコインを獲得すれば理解も深まります。
構造・機能・環境~筋緊張との戦いをやめる:首・肩こり編 パート2/3
『環境的要因による呼吸パターン不全』 肩こりに関して、前回は肩甲骨のポジション不全による胸鎖乳突筋の緊張をご紹介しましたが、今回は環境的要因による呼吸パターン不全、そしてそれに伴う僧帽筋&胸鎖乳突筋の緊張を考察します。 先ず、呼吸パターンはなぜ適切ではなくなってしまうのでしょうか? 主な原因は恒常性(ホメオスタシス)です。ホメオスタシスとは、生体の内部や外部の環境因子の変化にかかわらず生体の状態が一定に保たれるという性質です。 ホメオスタシスは呼吸パターンを随時変化させます。代表的な理由として、呼吸パターンを変化させることにより血中のpHバランスを一定に保つ必要があるからです。(血中pHは7.4を理想とするが、酸性値、すなわち血中の二酸化炭素量が多くなると7.4より下に下がる、アルカリ性が強くなると7.4より上に上がる) ※酸素は基本的に水に溶けない為、酸性でもアルカリ性でもありません。ただし過呼吸により血中の酸素量が多くなり二酸化炭素量が少なくなると水溶では酸性を示す二酸化炭素量が減ることで血液のpHは7.4より上がります。 下記の要因により、血中のpHバランスが崩れ呼吸回数の増加が起こります(その反対、呼吸回数の増加によりpHバランスが崩れるパターンも多いです)。ここでは過度な呼吸を過呼吸と呼びます(俗に言われる発作的な過呼吸とは違いますが、血中の二酸化炭素濃度の不足という点では同じです) 1. 食生活-過食による余分な食べ物の消化のために呼吸量が増加する。特に加工食品は通常、酸性であり、体は血液のpHを正常に維持しようと呼吸を増やして酸である二酸化炭素を取り除こうとする。→これが過剰な呼吸回数の原因となる。 2. 一定時間以上大きな声で話すとき、行間で大きく息を吸う。営業、電話の応対、教師などの職業に就く人は、話してばかりの日が何日も続くと疲れを感じやすい。単純に呼吸量が多くなることで過呼吸状態につながる。 ※これにあたる症状の人は、会話の際、言葉を発する前に大きく息を吸う、あくびをよくする等がみられる。 3. 精神的ストレス は、闘争・逃走反応を引き起こす。 ※人間は精神的ストレスに対し、ある意味原始的な反応を起こす。例えばその昔、野生動物に直面したときは闘争するか・それとも逃走するか素早く判断する必要があり、その為自律神経が身体を最大に緊張・活性化させる→呼吸量もそれに伴い増加する。 この自律神経の働きは現代社会においての精神的ストレスによっても引き起こされる。必ずしも生命に関わることだけに反応するものではない。 ストレスレベルの高い人は、そうではない人より多くの呼吸をする傾向にある。 4. 筋肉を動かすと大量の二酸化炭素が生成される。これにより血中pHのバランスを保つため&エネルギー生産の為に酸素が大量に必要となり呼吸回数は増加する。 ※必ずしも運動が悪いと述べているわけではありません。むしろ呼吸パターン不全を根本から解決するために運動は必須だと思われます。ただし喘息患者の多くは運動により喘息の症状が誘発されます。これは運動による過呼吸が喘息を誘発すると考えられています。呼吸パターン不全をもった患者は自らの体力レベルに沿った無理のない運動から始める必要があります。 5. 「酸素は身体に良い」という間違った認識。酸素を大量に摂取すれば疲労回復につながる、けがの回復を早める、等の間違った認識により大きな呼吸を推奨する運動、治療、レッスンがある。正しい呼吸パターンによるコントロールされた呼吸であれば問題はないが、副神経筋の過緊張がみられる患者においてそれは難しいことである。 ※ちなみに酸素を過剰に摂取したとしても、血中の二酸化炭素濃度が低ければヘモグロビンと酸素が分離しないため細胞に酸素は供給されない。発作的な過呼吸と同じで、これは二酸化炭素を多く取り入れることで解決する。 6. 喘息の症状。気道が狭くなると息苦しさを感じ、この息苦しさから逃れるために呼吸は増加する。ところが呼吸量が増加すると、前述の血中pHバランスの崩れにより症状はさらに悪化する。 ※喘息患者へのアプローチにおいては、吸気ではなく呼気、また呼気後に息を止める練習が効果的だと思われます。喘息患者は呼気後に息を止めてすぐ苦しいと感じてしまうので、無理のないように注意してください。 7. 高い気温、または室内温度、:体温調節のために大きく呼吸をする必要が発生するため室温の調節は重要である。 ※適切な気温によって呼吸回数をコントロールすしやすくなる為、肩こりの症状がある患者は睡眠時の室温コントロールが効果的だと思われます。また夏は睡眠時の着衣や布団も熱の発散に優れた素材をお勧めします。 ここでは以上7つ環境的要因の例を挙げました。 過呼吸状態になった身体はより多くの空気を吸うために僧帽筋、胸鎖乳突筋を使って呼吸を助けます。 正常な呼吸回数が1分間に8回〜12回だとすると、過呼吸状態の人は1分間に約13回〜20回の呼吸をしていると予測されます。 ということは、最低でも13(1分間の呼吸回数)x60(分)x24(時間)=18720回それらの筋が働いているわけです。 肩こりを持つクライアントに対してアプローチをする際に、呼吸パターンを適切にする必要があると判断した場合、はじめに何をすべきでしょうか?? おそらくストレッチやマッサージではなく、上記に述べた7つの環境的要因(またはその他の環境的要因)に対する介入ではないでしょうか。
アスリートの天性の加速力を向上させる4つの戦略 パート2/2
#3クロスオーバーラン 子供のころ、コーチが”横に動くとき、足をクロスするな!“と叫んでいるのを聞いたことはありませんか。もしそうであれば、そのように伝えた人達はかなり間違っていました。アスリートは実際に足をクロスしません;彼らは単純に股関節を回し、身体を低くして、上半身をシャッフルさせているのです。 これはどういうことでしょう?バスケットボール選手や野球の内野手がデフェンスの時に横方向にシャッフルしているところを想像してください。ディフェンダーがシャッフルできるスピードでボールが動いていれば、シャッフルを使うべきです。しかし、アスリートがシャッフルを使えないスピードと距離でボールが動いていれば、自然とクロスオーバーランになるはずです。この技術はかなり素早い動きですが、自分の前にいるボールやプレイに対して頭や肩を向けた状態でいられます。ですから、私はクロスオーバーランを下半身でのラン、そして上半身でのシャッフルと呼ぶのです。 これが天性の動きであると私が言う理由は、アスリートは移動しなければないならい距離とプレースピードの知覚に基づいて、クロスオーバーの動作を即座に直感的に行うからです。 次のことを試してください: パートナーにテニスボールを持って自分の10−15フィート前に立たせてください。パートナーと向かい合って、アスレチックスタンスをとってください。パートナーはボールをあなたの右側か左側に向かって空中にトスし、あなたは動いてそれをキャッチしなければなりません。ルールは、どんなときでもボールをキャッチするときはシャッフルをしなければならないということです。しかし、シャッフルでそのボールをキャッチできる範囲を超えていると感じた場合は、クロスオーバーランを使うことが許可されます。ボールがシャッフルでキャッチできる範囲を超えた時はどんな時でも、自然にクロスオーバーランを使っていることに、おそらくとても驚くことでしょう。動く方向は織り交ぜ、10−15回行います。 #4直線のリポジショニングステップ(プライオステップ) 高校のフットボールコーチが、私たちが、彼が“フォルスステップ”と呼ぶステップを踏んでいると叫んでいる声が未だに聞こえます。多くの人にとってフォルスステップとは、アスリートが前方に動く前に、後ろにステップを踏むことを意味します。この動作は、アスリートが反応し、まっすぐ前に、あるいは、角度をつけた方向へ動かなければならないすべてのスポーツで起っていると言えます。過去何年も私がびっくりさせられているのは、アスリートはかなり頻繁にこのステップを踏んでいるという事実にも関わらず、“なぜそのスッテプを踏むのか”と疑問に思うコーチがほとんどいないということなのです。説明させてください・・・。 攻撃する、あるいは、逃げるという動作を素早く行うために設計された闘争か逃走の生存反応に戻りましょう。この反応が、素早い加速として実現されるためには、身体が正しいアラインメントにならなければなりません。加速するためには、私たちは動く方向とは反対方向に地面を蹴らなければなりません。アスリートがアスレチックスタンスでいる場合、脚は重心の真下にあり、これは残念なことに、加速するための素晴らしいポジションではありません。蹴り出す足は身体より後ろにある必要があります。刺激が起こり、アスリートが反応し、動く方向も分かっていれば、地面に対し適切な角度の力を産み出すために、足は自然にリポジションするでしょう。私はこれをプライオステップと呼んでいます。 プライオステップ、またはリポジショニングステップは、より効率よく、より直接的な角度にもっていくだけでなく、神経筋系にインパルス、あるいは、伸張反射を与えるために起こります。このことで、接地時間を短くし、より爆発的にさせることができます。 このことが、フォルスステップが問題であるという考え方と直接的に対峙します。加速するという素早い認識に基づき、身体が足をリポジショニングするには理由があるのです:足が接地すれば、より効率的な加速角度とより素早い接地反応時間が必要になります。 次のことを試してください: 下肢を平行なアスレチックスタンスでパートナーと隣合うようにして立ってください。二人で10ヤードのレースをして、どちらが勝つか勝負します。パートナーの方が“GO”と言います。パートナーが“GO”と言って、二人はスタートし、レースをします。いつ動きだすのか正確には分からないため、あなたはおそらくプライオステップを踏むことになるでしょう。そして、多分パートナーもそうでしょう。これを6−8回行ってください。 まとめ アスリートは素早く動けるように設計されているので、彼らがすでに持っている天性の能力を引きだすためにドリルを使用します。この戦略によって、アスリートをより素早く加速させながら、彼らが使用しているメカニクスや姿勢を磨くことができるようになります。
構造・機能・環境~筋緊張との戦いをやめる:首・肩こり編 パート1/3
頑固な首・肩こりに対して、ストレッチやマッサージ(または何かしらのリリース・テクニック)をする。 一時は楽になってもまたしばらくして症状がぶり返す。そしてまたストレッチやマッサージを繰り返す。 そのようなケースで、終わりのない戦いをしていると感じることはないでしょうか? 2015年9月、セントルイスでの講義で講師のPavel Kolarは、 “Tightness is not in the muscle. It’s in the brain”~“筋緊張は筋肉ではなく頭にある”と述べました。 また以前から、Dr. Vladimir Janda(ヤンダ博士)、Karel Lewit(レヴェット博士)Václav Vojta(ボイタ博士)ら沢山の臨床家や研究者から神経学的(機能的)アプローチの必要性は訴えられています。 “構造(ハードウェア)+機能(ソフトウェア)によってより効果的なアプローチができる”ことは明白ですが、私はこれにもう一つの要素を加えることにしています。 これから数回に分けてご紹介する内容は、筋緊張に対しての『構造』、『機能』、そしてもう一つの要素である『環境』の3つを統合したアプローチ法です。 首・肩こりを例にすると、 頸部の筋群(ハードウェア)が健康的であり、その筋群を扱う動作パターン&呼吸パターン(ソフトウェア)が正しく働き、“その動作&呼吸パターンが発生する為の姿勢、アラインメント、関節のポジション、心理的状態(ここではこれらを総合して『環境』と表す)を有している“ ということです。 以下に肩こりの“構造的問題”“機能的問題”“環境的問題”の例をあげます。 構造的問題の例 1. 組織の損傷 2. 癒着、滑走不全 3. 血液循環不全 機能的問題の例 1. 筋発火パターン不全(弱化も含む) 2. 呼吸パターン不全 3. 動作パターン不全 環境的問題の例 1. 頸部・胸郭・肩甲骨のポジション 2. 姿勢不全 ※姿勢はポジションの集合体と考えるため、環境的問題とする 3. 不適切な靴、装具、接地面など 4. 心理的ストレス 今回は首・肩こりを“環境的な問題“から考察してみます。 構造的、機能的アプローチが充分な効果を発揮しない場合には、筋が“緊張しなくても良い環境”をつくることで、筋緊張との戦いを終わらせることが出来るかもしれません。 『肩甲骨のポジション不全による胸鎖乳突筋の緊張』 ※関連する筋:肩甲挙筋 胸鎖乳突筋 近位付着部:胸骨頭(胸骨柄の上縁)・鎖骨頭(鎖骨内方の1/3) 遠位付着部:側頭骨乳様突起・後頭骨上項線 胸鎖乳突筋の働き: 胸骨・鎖骨が固定されている場合:頭部の対側への回旋。同側への側屈 頭部が固定されている場合:胸骨と鎖骨の挙上 肩甲挙筋 近位付着部:C1~C4の椎体の横突起 遠位付着部:肩甲骨の上角、内側縁の上部1/3 肩甲挙筋の働き: 1. 頸部が固定されている場合:肩甲骨の挙上、肩甲骨下角の内側への回旋 2. 肩甲骨が固定されている場合:頸椎の伸展、同側への側屈 写真を見てもわかるように、肩甲挙筋は“ねじれ”ています。 この“ねじれ”によって肩甲骨~頸椎&頭蓋骨の位置を適切にコントロールしています。 では、例えば右側の肩甲骨が外転し、さらに内側縁が後退して翼状肩甲に近い状態になると“ねじれ”はどうなるでしょうか? 少しイメージがつきにくいかもしれませんが(肩甲挙筋の写真を見てください)ねじれは解かれて肩甲挙筋の肩甲骨付着部は頸椎方向に動きます。 簡単に言ってしまうと、右側の肩甲挙筋が頸椎方向に“緩んだ”状態です。 この“緩み”により、本来適度に右回旋方向に引っ張られていた頸椎は左回旋方向に向くことが容易になり、頚椎&頭部はやや左回旋位に位置します。 これが頭部の左方向への回旋筋である右側胸鎖乳突筋にレバーを与え”過剰に働きやすい環境”を作り出してしまいます(これに加え呼吸パターン不全によって胸鎖乳突筋が“鎖骨の挙上筋”としても過活動になれば更に緊張は増します)。 この左向きの頸椎によって右側胸鎖乳突筋に回旋筋としての緊張状態が続き“首こり”“肩こり”の症状が現れたとします。 このケースにおいて、 1. 緊張している右側胸鎖乳突筋のストレッチは効果的でしょうか? 2. 深部頸部屈筋の促通は効果的でしょうか? 3. 単純な呼吸パターンへの介入は最高の効果を発揮するでしょうか? (※効果的かもしれません(/・ω・)/テヘ) このケースでは、胸鎖乳突筋のストレッチ(またはリリース)ではなく、“胸鎖乳突筋が過度に働かなくても良い環境“をつくる、すなわちこのケースであれば右側の肩甲骨のポジションを正し、右側肩甲挙筋の”ねじれ“を取り戻すことが最も効果的だと考えます。
アスリートの天性の加速力を向上させる4つの戦略 パート1/2
コーチやアスリートが“40”のタイムについて自慢していることを読んだり聞いたりすることが多くあります。正直に言うと、40ヤードを4.3秒以下で走るアスリートを見ることは、衝撃的な出来事です。しかし、センセーショナルなことは置いておくとして、試合でプレーするためには、40ヤードのタイムよりも、10フィートを走る能力がより重要なのです。 アスリートはかなり短い時間でかなり多方向に動くことを要求されるので、40ヤードのトレーニングをすることは、ある特別な理由(例、混合)を必要とするのはお分かりになりますね。そういうことから、アスリートの天性の加速力を向上させる4つの戦略を皆さんと共有したいと思います。これらの戦略のかなり優れたところは、野球選手の盗塁時のスタートを信じられないくらい良くすることもできるということです。これらのテクニックによって、内野手にとっての欠点である、頭上を超えるポテンヒットを解消させることができるでしょう。バスケットボール選手も、サッカー選手も、フットボール選手も、テニス選手もこの戦略で加速力を向上させることができます。 では、天性の加速力とは何を意味しているのでしょうか?身体はかなり精巧な設計で造られています。身体は恐れを感じる能力があり、さらにそれに攻撃する、あるいは、それから逃げるための能力を持っています:闘争・逃走反応。私はこれを取り入れることで、アスリートをさらに速くする方法を学びました。この反応は生まれつきのものなので、我々がコーチとしてするべきことのすべては、アスリートをその状況下におき、この闘争・逃走反応を引き出すことなのです。ここに主な4つの戦略を紹介します。 #1:方向性ステップ コーチやアスリートにとって、この方向性のステップは戦略というよりも“動作”になります。しかし、加速をより効果的に行うために、身体が駆使する戦略と考えることもできるでしょう。説明させてください・・・ 野球選手が盗塁をするときの“アスレチックポジション”を想像してみてください;選手は右方向に素早く加速することが必要になります。それぞれの脚が重要な役割を担います。後ろ脚は動く方向(横方向)へ身体の重心を押し出す役割を持ちます。身体の押し出しが起こっている間に、前脚には、動いている体重を巧みに利用する素晴らしい機会が与えられます。身体を動かし続ける(加速する)最良の方法は、身体の下で下方、後方に押しだすことであり、そうすることで、前脚は体重を加速し続けることができます。ここで、“方向性のステップ”が関わってきます。 身体が下方・後方に押し出したいのであれば、神経筋系がそのためにポステリアチェーンの筋肉(臀筋、ハムストリングス、ふくらはぎの筋肉)を使用することは理にかなっています。身体が生み出した創造的な戦略は、リード足を外側に開くことで、移動する方向に向かせることです。このことで、本質的に、アスリートは、スプリンターのブロックからのスタートのようになります:リード脚も力強く、下方・後方に押します。なんと素晴らしい戦略でしょうか! さらに深く見ていくことで、方向性のステップが重要になる理由を理解できますが、その動作が実のところなんであるかを考えてみましょう。身体を側方向のスタンスから、直線のランで加速したい場合(盗塁時のジャンプ)、リード脚を外旋することで、足部を外側に開き二塁方向に向けることは、実際に後ろ脚で押し出す動作の補助になります;“作用反作用の法則”と呼ばれています。つまり、リード脚が外に開く(作用)と、その力はまだ地面に接している後ろ脚へ伝わります(反作用)。端的に言うと、方向性のステップとは身体がより素早く動くために生まれ持った素晴らしい戦略なのです。 これを試してください: パートナーを自分の前に立たせ、右か左のどちらかを指す準備をさせます。方向を指し示したら、その方向にターンし、10ヤード加速します。6−8回繰り返すことで、方向性のステップを駆使して、アスレチックポジションから右か左へ加速する能力を構築することができます。 #2:股関節のターン 股関節のターンは、体がアスリートに与えてくれた素晴らしい戦略です。とはいえ、十分に熟練していない、または、スムーズに行えないアスリートもいます。幸運なことに、いくつかの修正アプローチやドリルによって、それを修正することができます。股関節のターンは、アスリートがアスレチックスタンス(内野手やテニス選手のような平行のスタンス)から素早く抜け出し、向いていた方向からリトリートする、あるいは、そこから別の方向へ動き出す方法です。 バスケットボールでは、コーチは良くピボットを教えます。ピボットでの問題は、足を地面に接しながら足を回すため摩擦が必要になるということです;これは敏捷性にとってはいいことではありません。繰り返しになりますが、幸運なことに、身体はアスリートが逃走・闘争反応を素早く行うことができる天性の能力を持っています。股関節をターンしている間に、足を地面からほんの少し持ち上げて、後ろ脚が地面を蹴って離れるために、股関節と脚を空中で素早く回します。アスリートの身体が浮いていないことを確認することが重要になります;むしろ、股関節と下肢は単純に回旋し、地面から離れます。テニス選手が、頭上を超えたロブを追いかけるために素早く切り返すところを想像してください。彼らの駆使している動作というのは、ボールを追って加速するための股関節のターンです。 基本的には、股関節のターンとは、アスリートが加速するためのよりよい角度へ、脚と足部を持っていく方法なのです。これは身体が生まれつきもっている素晴らしい戦略であり、股関節と脚が向きを変えた時に、後ろ脚は実際には伸展し始め、地面に接する直前に“押し始め”ます。結果として生じる衝撃、あるいは、筋肉の伸張反射によって、アスリートは素早く加速を始めます。繰り返しになりますが、後ろ脚・足は積極的に地面を押し出します:これは“プライオメトリック”反応であり、素晴らしいスタートスピードを産み出します。 試してみてください: パートナーを自分の後ろに約12フィート離して立たせ、肩の高さで身体の横に向かってテニスボールを持たせてください。パートナーに背を向けて、アスレチックスタンスで立ってください。パートナーが“GO”と叫び、同時にボールを落とします。これに反応して加速し、ボールが2回バウンドする前にキャッチしてください。これは、股関節のターンを精巧にさせ、改善するための素晴らしいドリルです。右と左にターンするのを5−6回行ってください。
馬券売り場へ行くことは、脳、運動、痛みに関して、あなたに何を教えてくれるでしょうか? パート2/2
実践への移行 キャッチボールのような簡単な動作で、どのように予測が展開されるのかについて考察してみましょう。まず最初に、以前にキャッチボールにおいて、“良い”経験がある人の観点からこれを考察してみましょう。 ほとんどの人達、特にスポーツを楽しんでいる人達にとって、キャッチボール相手の手の中にボールを見るとすぐに、この一連の感覚情報と関連性を持ちます。私のこれまでのキャッチボールの経験が私を幸せな気持ちにしてくれるかもしれません。そして、幸福ニューロンとボールからの視覚刺激によるニューロンの活性化の結合が起こっています。これが蓄積された神経パターンです。 私の脳は、視覚刺激への予測として、キャッチボールの運動プログラムを整理し始めるかもしれません。そこで起こりそうな状況は、‘ボールが私のところに飛んでくる、そして、キャッチする必要がある’ということです。 では、もし前回、ボールが私の顔に投げつけられていたらどうでしょうか? 感覚入力と私の関連性は、全く異ったものになるかもしれません。突然、恐怖と不安に関連するニューロンが活性化されます。そして、交感神経系とストレス反応に関連するニューロンに火が付きます。脳の運動野は、一歩後ろに下がる、あるいは顔面を防御するための行動計画を作り出すかもしれません。同じ視覚刺激でも、これまでの経験に基づいた 多くの相互依存のサブシステムにおいて、かなり異なる予測を作り出すかもしれないのです。 私の息子がまだ小さかった頃の事を例に挙げてみましょう。私はボールを拾い、彼に向かって投げましたが・・・何も起こりませんでした。彼に向かってボールを投げると、彼にはまだボールをキャッチする準備をする運動プログラムが構築されておらず、ボールはただ彼の胸に当たって跳ね返っただけでした。 なぜでしょうか? ただ単に、彼は結果の予測を作り出すために利用すべき、記憶を持っていなかったのです。この記憶を獲得する必要があるのです。彼は、ボールからの視覚刺激が何を意味しているのか、その際に彼は何をする必要があるのかを学習する必要があります。そして、私の仕事は、彼がそこから学習できるように、ハッピーな学習体験を提供してあげることなのです。 キャッチングは、ボールの軌道と力に依存している独特な筋肉の活性化パターンを持っていますが、この処理すべき現在の情報、活性化と運動の結果、あるいは予測はまた、知覚される最良(かもしれない?)の結果を作り出すための、これまでの経験に影響されているのかもしれません。 このプロセスは良いのでしょうか?それとも悪いのでしょうか? もちろん、両方であり得るでしょう。そういうものなのです。 予測は、潜在的に‘過保護’になり過ぎることがあるかもしれません。もし問題があるとわかっていたため、ある行動を回避するならば、問題が発生しないことによって、予測は真実になります。回避することによって、有害転帰を被らないというという可能性です。 急性傷害の状況において、防御行動が今後の傷害を防いでくれると完全に保証するかもしれません。しかし、この防御的な予測の維持は、傷害が治癒した時点で問題となるかもしれないのです。 この予測は、荷重耐性のような身体的要因に影響を与えるでしょうか? では、ここでもまた、これを状況に当てはめてみましょう。 私は前屈時に痛みがありますが、前屈をしなければ痛みはありません。前屈が問題であるという私の予測は真実となり、今後、前屈が問題を引き起こす可能性はより大きくなります。従って、今後に関する私の予測は強化されます。 もし私が前屈をすれば、能動運動部位が、損傷の可能性に基づいた制限要素として、硬直、あるいは痙攣へと移行することによって作用するかもしれません。それらの部位は、正常にバランスのとれた筋反応によって調整されず、不均衡な身体的反応よる不適応なプロセスによって調整されているかもしれません。身体的発生要素はとっくに無くなっているかもしれませんが、関連する行動は残存するかもしれません。異なる状況下では、これらの筋肉は硬くも弱くもないかもしれないのです。 私達は、治療で使用される負荷の増加をの増大を目にしています。これは、局部的な細胞反応にとって素晴らしく、不可欠であり、組織の‘ホメオスタシスのゾーン’を増大させるものです。私達はしばしば、関連のある領域での身体的負荷と身体的・生理学的適応の発生を可能にするために、予測行動に取り組まなければなりません。 恐らく、身体的側面よりも、習慣を打破することは、いかなる治療アプローチにおいて最も重要なことであり、身体的要因が影響されることをも可能にしています。 スポーツにおいて予測が利用されているのを常に目にしています スポーツにおいて、私達は、反応することが不可能のような特定の状況において、予測を必要とします。一つの例として、テニスにおいて、私達は予知反応の使用を目にします。エリートテニスプレイヤーのサーブは、人間の反応時間の域を超えているかもしれないという仮定さえたてられているのです。 これは、知覚−行動プロセスとして議論されています*ここをクリックしてください*。知覚するために、私達は、その身体的合図が何を意味するのかに関して、いくらか蓄積された記憶を持たなければなりません。これは、テニスの状況において、初心者プレイヤーよりも、エキスパートプレイヤーのパフォーマンスの方が優れているという事実によってある程度示されていますが、これは非特異的反応における状況では示されていません。 興味深いことに、エキスパートプレイヤーの反応時間は、機械を相手にしたときよりも、生身の人間を相手にしたときの方が速かったのです。ここでも、蓄積された記憶と関連のある身体的合図の増加は、予測的プロセスと反応時間を向上させたということを潜在的に強調しています。 ここに、スポーツにおいてアスリート達が使用する、対戦相手のアスリート達の予測能力を逆手に取るいくつかの状況があります。 テニスにおいて、プレイヤーは、対戦相手を反対方向へ移動させるために、工夫してボールを特定の場所に打ちます。 ボクシングにおいて、ボクサーはカウンターを打つために、パンチをフェイントして対戦相手の反応を引き出します。 サッカーにおいて、PK戦ではゴールキーパーを反対方向に跳ばせるために、その方向に視線を送ります。 多くのスポーツが、‘ゲームを読める’選手を話題にします。これは、より優れた記憶−予測モデルなのかもしれません。 慢性痛に対する影響 これは、痛みの記憶’という概念を持つ慢性痛に関して着目されていて、以前に、私はこれに関する詳細を記述しています。 これは、痛みの関連性が神経パターンとして、あるいは‘記憶’として蓄積されるようになるところであり、もしかすると、身体からの傷害シグナルが無い場合に思い出され、ひょっとしたら固有感覚シグナル、あるいは行動目的/計画とさえ結合されるようになるかもしれません。 このパターン認識、脅威に関連する知覚、関連する防御の感覚予測と運動予測が、特定の運動、あるいは身体の特定部位からの運動に反応した、慢性痛患者の振る舞いにおいて見られるもののいくつかを、いくらか説明可能にしてくれるかもしれません。 覚えておいてほしいこと ここに脳機能の記憶−予測/ベイズ推論モデルに着目することによって、活用することことができると私が感じるいくつかの基本事項があります。 状況が鍵。単に筋肉、神経、関節等ではなく、習慣と行動に注意を向けることが、長期的変化をもたらすために重要である。 蓄積・読み出しを行うために、新しい有益な経験を作り出す。これは、今後の予測的行動に影響を与えるかもしれない。 私達の心理的信念が、運動行動に影響を与えることができる。 私達の運動行動が、局所的な組織耐性に影響を与えるかもしれない。
馬券売り場へ行くことは、脳、運動、痛みに関して、あなたに何を教えてくれるでしょうか? パート1/2
これは、私達が予測的な脳機能の理解と、その論題に答える手助けをするための私のお気に入りの例えの一つです。最初に、馬券売り場に移動しましょう。 あらゆる自尊心のある“賭け事をする人”は、彼等が賭けようとしているチーム、あるいは馬の調子を熱心に研究するでしょう。そうでなければ、ただ単に手痛い出費を負うだけです。 あなたは下記のように自問するかもしれません: 最初に、彼らは歴史的に勝者なのか?そして、優れた実績があるのか? 次に、あなたは、彼等が最近勝っているのか、負けているのかといった、現在の調子を調査したいかもしれません。 もし私達がマンチェスター・ユナイテッドFCに着目するなら、彼等は20年以上にわたり偉大な勝利の歴史を築いていますが、ここ数シーズンの彼等のパフォーマンが、現在のパフォーマンスに対する自信を抑えることになるかもしれません。 基本的に、2つの要素があります: 1. これまでに何が起こっているのか? 2. 今現在何が起こっているのか? それらの両方が、今後起こるであろう事に関する私の予測に影響を及ぼすでしょう。賭け事の世界では、それが賭ける金額と直接的に関連するのです! 私は、不確実な将来の状況を成立させるために、私の将来の活動を形作る確率比、あるいは尤度比を作り出すために過去と現在の状況を利用しています。 この概念は、18世紀にトーマス・ベイズ師が提唱した‘ベイズの定理’による統計に関連して検査されました。‘ベイズ推論’は、脳機能を含む数多くの状況に適用されています。 では、ベイズ推論は、脳、運動、痛みとどういう関係があるのでしょうか? これぞまさに、私達の脳の働きの仮説となっているものなのです。 潜在的な結果の確率を算出するために、コンピューターのように起こりうる全ての結果を計算するというより、私達は自動的に現在の状況をこれまでの経験と結びつける可能性があり、そこから適切な対応を考案するという、記憶−予測モデルを使用するとされています。 私達は、記憶を感覚情報、あるいは行動計画のような意図とのマッチングを通して、これらの記憶を引き起こします。蓄積された神経パターンを現在の感覚入力とマッチングすることは、潜在的な結果の確率を作り出します。 予測的脳機能に関して、より賢い人たちによって精査を受ける、私自身の単純なモデルがあります。 パターン−感覚情報、あるいは意図パターンに応じてアクセスするための蓄積された神経パターン 知覚−蓄積されたパターンと実際の感覚入力の解釈 予測−知覚に応じた出力プログラム もし私達が、知覚された脅威への反応としての痛みについて考察するならば、私達のこれまでの経験は潜在的な脅威に対する現在の知覚に影響を及ぼすでしょう。これは、痛みとの関係性に関して、モーズレーやメルザックはじめとする研究者達によって、すでに議論されています。 なぜ脳はこのように機能するのでしょうか? 提案する一つの理論は、脳は膨大な力を持っているが、実際は、その働きにおいては非常に遅いということです。潜在的な理由は、人間の生物学的本質です。ニューロンが脱分極を通して活性化され、活動電子が発生されるとすぐに、ニューロンは再分極する必要があり、このプロセスは、その静止状態に戻るまで時間が掛かります。 これは、変化するために細胞内の要素のバランスを必須とするプロセスで、私達は、膨大なニューロンを持っていますが、特にそれらが不応期の際には運動が(幾分)遅いのです。 この予測的な働きはまた、肉体行動の制御を分散化しているモデルの理由としてしばしば挙げられる末梢からの情報の処理時間において、待ち時間(遅延)を減らすかもしれません。 なぜこれが重要なのでしょうか? 私達は、身体的行動を生じさせるための、筋肉、腱、骨の機械的作用の産物として運動反応をしばしば目にします。あなたの筋肉が硬かったり、弱かったりして運動反応に影響を及ぼすので、適切な反応を起こすために、私達は筋肉を強化、あるいは伸ばす必要があります。 恐らく、私達の現在の反応は、単に身体的パラメーターによって制約されているわけではなく、現在の事象、ひいては関連する反応に対する私達の知覚を形作るこれまでの経験によって引き起こされています。 一つの例として、姿勢のような状況を変えるために、私達は歴史的に筋肉の伸長や強化に携わってきています。そして、逸話的な成功は別として、実際に誰かの姿勢を変えることのできる経験的証拠を目にすることはほとんどありません。ランニング時の足運びに関しても同様で、関節可動域や筋の硬さは、筋肉の強さにかかわらず、実際には足が地面に着く前にすでにプログラムされているかもしれず、筋肉のストレッチや強化が、誰かの走り方に与える影響はほとんどないのかもしれません。 私達の筋反応は、より身体的な制約というよりも特定の状況に応えて読み出される、 神経系によって蓄積されたパターンの癖によって引き起こされるのかもしれません。 よって、基本的に、もし私が以前に痛みを経験したことがあれば、これが私の今後の反応を形作るかもしれないということです。 必要とされている状況:腕を挙げる 潜在意識下の分析:以前に腕を挙上することが痛みを起こしているので、またいたみがあるかもしれない。痛みを制限するためにどうしたらよいか?あるいは、他にどのようにしたら痛みなく腕を挙げることができるか? そこで、肩の筋肉の基本的な硬さや弱さにかかわらず、以前の疼痛経験への反応として腕を上げることで、私の運動反応は肩の筋肉群を硬直させるかもしれません。肩の筋肉群は、疼痛発生の確率が高いと見なされる特定の状況に応じて硬直するかもしれません。この確率比は、痛みが長引くほど、高くなるかもしれません。 私達はまた、増大する実際の痛み、あるいは出力応答としての感覚の増大を作り出すことによって、腕の動きを制限するかもしれません。 感覚系を有するポイントの一部は、その人とその人の脳に、身体に起こっている事と、その個人にもたらすかもしれない脅威の末期的な状況を警告することです。
筋膜の臓器を創る:臓器の筋膜マトリックスを露わにする パート1/2
著者:ロリース・ニーメッツ 「ひらめきは、幽霊と同じように…出現した理由を聞きたかったら、少し話かける必要がある」チャールズ・ディキンズ、ドンビー&ソン、章XII (1848年) ECM(細胞外基質)から作られた腎臓 – 2016 (枝分かれ、交差する構造に注目) 最初に「幽霊」臓器や他の筋膜モデルを作ることに興味を持ったのは、“目に見える人間プロジェクト“で紹介された、筋肉がきれいに取り除かれ、美しい立体的なECM(細胞外基質)だけが残された回転している大腿の画像を使って、トム・マイヤーズ氏がレクチャーしているのを見たのがきっかけでした。ジェフリー・リンが撮影したその画像の写真は、アナトミートレインの第3版に掲載されています。その時は、全く論理だけだったのです:「こんなモデルが作られたら凄くない?」という。 トムが「もしも、鋭い刃物を使わずに、何らかの洗剤あるいは溶剤に動物や人体の検体を浸し、細胞組織を洗い流して結合組織(ECM)だけを残すことができれば、組織の連結性全体を見ることが可能になる…」(アナトミートレイン、2014、p.15)と記述しているように。 他の解剖学者達もこの考えに興味を抱いてきました。早くには1988年に(解剖学の歴史では最近といえますが、特に筋膜の世界においては画期的)、ヤープ・ヴァン・デル・ワール氏は、筋肉の袋を解剖し、筋膜壁を博士論文研究のテーマとしていました。後に彼はこう書いています: 結合組織の構造は、筋膜、鞘、膜組織などの構造を含め、その機能的な意味を理解することは、身体を統合するマトリックスである結合組織の連結性を否定し、無視して解剖を行う伝統的な解剖学よりも重要である。 解剖学と構造学からみた結合組織は、身体の全域にわたって様々な形や関係で存在する二つの機能的な傾向を示している。体腔においては、空間を形作る「非連結的」な特質によって可動性を可能にする;臓器と他の器官の間においては、面を「連結させる」特質が機能的な機械的相互関係を可能にする。筋骨格系では、結合組織のその二つの特徴が存在している。これらは、通常の分析的な解剖方法では見出すことができないものであり、構造建築的な説明が必要である。ヴァン・デル・ワール(筋骨格系における結合組織の構造 – 頻繁に見落とされる運動器官の固有受容における機能性パラメーター、INTERNATIONAL JOURNAL OF THERAPEUTIC MASSAGE AND BODY WORK - VOLUME 2, NUMBER 4, 12月 2009年) ピーター・フイジング博士(ビジェ大学、アムステルダム)も、冷凍保存されたラットの検体を用いて脚部の区画における筋膜の連続性を明らかにするため、また、組織間の分離より、連続性が現実だということを明らかにするために、3Dの立体的復元に取り組んでいます。嬉しいことに、2015年の秋にワシントンDCで開催された筋膜研究学会で、「筋膜の心臓:解剖における人体の細胞外基質の三次元的立体モデルをつくるための初段階」(Nemetz, Fascia Research IV, 2015, pp. 30-31) という題で私自身がポスター発表をして参加した際、ヴァン・デル・ワールとフイジング両氏にお会いすることができました。 数年前、私が初めてネットで広く頻繁に画像がシェアされている「幽霊の心臓」を見たのは、ヒューストンのセント・ルーク聖公会病院、再生医療研究所の所長、ドーリス・テーラーを通してでした。その画像には、手袋をはめた手の中で、透明でキラキラと輝く心臓が映し出されていました。これに論文が続き、臓器の筋肉細胞を除去し、ECMのみを枠組みとして残し、臓器を必要としている患者の健康な細胞を導入する過程の概略が紹介されたのです。臓器移植患者自身の細胞で作られた臓器を利用することによって拒否反応が発生する可能性が非常に低いという考えです。現在、アメリカだけで、毎年数百人の方々が臓器移植が間に合わないために亡くなっています。 ドーリス・テーラーについての記述紹介で彼女はこう述べています: 「非細胞化は非常に簡単です… 細胞を洗い流すのと基本的に同じ。赤い筋肉細胞を持つ臓器が、比較的短い時間内に、細胞外基質の構造は残したままで細胞を持たない非細胞組織になります。 – まるで歯磨き粉のチューブの中身を絞り出したかのように。残ったのは、構造組成。心臓を完全に再現することが可能になったのです… 私たちは、このように非細胞化した心臓を用い組織全体を再現するためには、単に血管樹に細胞を再導入すれば良いということを確認しました。」テーラーは将来、個人特有の細胞をもった心臓を臓器移植のために オーダーメイドで作成し、利用可能にできるようにすることに熱意を抱いている。(2015, 再生の先駆者達, TMC ニュース)
筋膜の臓器を創る:臓器の筋膜マトリックスを露わにする パート2/2
著者:ロリース・ニーメッツ この数年間に渡って助手として参加してきた解剖ラボにおいて、ほとんどの検体は薬品処理されたものであり、大抵ホルマリン混合薬品が利用されているため、結合組織の大部分が綿飴のような物質に変形し、人工的な硬直がおきています。近年では、新鮮な(冷凍)組織が好まれており、動きがより自然に復元できるうえ、筋膜が根本的に変質していないため「幽霊の心臓」あるいは他の臓器を作り出すことが考えやすくなりました。私は、これらの臓器を幹細胞で再生することではなく、従来の筋骨格の解剖学ではない、筋膜の連結網を地図のように「見る」ことのできるモデルを作ることに関心を持っています。 私のフォーミュラ?私の研究概要より(Nemetz, 2015 FRC): …幾つかの最新文献に基づいて15段階を経て最終モデルを作り出しました。 無菌塩基溶媒の代わりに、著者は卓上塩と水で生理的食塩水を作成。ペプチド結合を切断するトリプシンの代わりには、(パパイヤなどの果実由来の)ブロメレインまたは肉柔化剤を利用することができ、この実験では後方を選択しました。脂肪を分解するトリトン Xの代わりに、ラウリル硫酸ナトリウム、あるいはラウリルエーテル硫酸ナトリウム(SLES)が原料に含まれた一般的な陰イオン性強力洗剤を使うことができます。これは数回の実験で試用されました。著者は、ラウリル硫酸ナトリウムの含有率が高い一般的なシャンプーを使用。最終的に、酸素と水分との相互関係を利用した非塩素系漂白剤として働く、主原料が過炭酸ナトリウム(2Na2CO3•3H2O2) 、「オキシクリーン」という製品を最終段階で用いました。 私は、科学論文であげられた薬品に類似した一般家庭で使用されている材料を取り上げました。手術に利用するのが目的ではないため、無菌溶媒である必要はないとはいえ、私の過程が十分に正確かどうかに不安はありました。本格的な化学実験において、ラウリル硫酸ナトリウムの代わりに脂肪分解のために一般的なシャンプーが使用されていることを知っており、それを主原料としながらも、あまりにも強力だとECMまで破壊される可能性があることも念頭において、店内の棚を探したのです。私の手法と材料は原始的なので、身体の部分によっては繊細な結合組織を残して細胞組織だけを除去するのは容易ではありません。将来、これがもう少し楽になれば良いと思っています。暗室で写真を現像する際に例えれば、「開始」溶液と「停止」溶液など様々な化学処理過程を踏まえるのと類似しています。まだ現像が途中の写真をある溶液に浸し過ぎると写真がダメになるのと同じように、臓器も長く浸し過ぎるとECM自体まで破壊される可能性があります。 最初の(2015年に比較的成功した)心臓実験以来、私は2016年1月に実施された3週間のアナトミートレインの解剖教室で5つの心臓を用いてこの実験を再現しました。結果は、すべてが組織の枠組みを作り始めましたが、最も成功したのは、解剖前に冷凍されていない献体の心臓でした。これが臓器移植に望まれる過程に最も近いものであったと言えます。深冷凍は細胞壁を弱めるため、非細胞化の開始は必要な過程であるものの、これが長くなり過ぎると、崩壊の度合いも大きくなり過ぎてしまいます。 私は、最後の週に違う臓器で実験することに関心を抱き、腎臓を選びました。正常な量の脂肪に包まれた健康的に見える腎臓を選びながらも、腎臓のECM以外の細胞組織を十分に取り除くことができるかどうかに疑問を抱いていました。しかし、ここで見られるように、腎臓でも満足できる結果が得られたのです。 これが「幽霊」腎臓の結果です(写真参照)。結論として、作家であり美術歴史家、ジョン・バージャーの重要な著書「視覚とメディア」(1972年)の言葉を借りれば、「私達が目で見ることと、頭で理解することとの間の関係は、まとまることがない。毎晩、夕日が沈むのを目で見る。太陽から地球が逆方向に回転していることは知っている。それなのに、その知識、その説明は、目で見ている光景にどうしても添わない。」そもそも私は、従来の物の見方に挑戦することで、アナトミートレインと出会いました。これから先、筋膜のモデルがより一般的になることには疑いの余地もありませんが、それによって人体の見方に対する疑問が新たに生まれてくることでしょう。 ローリーは、アナトミートレイン(AT)の認定教員であり、北米各地においてATのムーヴメント教室を教え、2014年から現在までアナトミートレインの解剖ラボの助手を務めている。長い経歴を持つ認定ヨガ教員(RYT500)、ストット・ピラティス®認定インストラクター、および、ダンス・ムーヴメント・セラピスト・アカデミーの委員会認定メンバーであり、創造美術セラピスト(精神医療士)免許を持つ。YTA(ヨガ教員アソシエーション)の元会長を務め、2007年から現在までペース大学の教授を務める。 www.wellnessbridge.com
風船の膨らませ方 パート3/3
3)息を吐いて風船を膨らませる、というプロセスのまま1ヵ月経ってしまいましたが、皆さん息を吐き切ることは出来ましたか?笑 一ヶ月もあったのだから、息を吐き切れて当然だろう!と思われるかもしれません・・・すいません!!ですが、意外と息を吐き切るという事が難しいのはお分かりいただけましたでしょうか?残気量(最大まで息を吐きだし終えた時肺に残っている空気量)をゼロにすることはできませんが、風船を使って息を吐きだすと普段の呼吸よりより多くの空気を吐き出せる感覚があると思います。それでは次のプロセスに行ってみましょう!次は息を吐き切ったところで、息を止めます(!!) 4)息を吐ききったら3~5秒静止する 風船は膨らませるために膨らませるのではない、という事を以前のアーティクルで書きました。膨らませるという事は息を吐くという事なのですが、息を吐くことはもちろん重要です。しかし、息を沢山吐いてから吸う、という事の為に風船を膨らませているのです。どういうことなのか、わけがわからないかもしれませんが、まずは息を吐いた後のプロセスから見ていきましょう。 風船を膨らます際、気を付けていただきたいのは息を吐き切ることです。理論上どんなに頑張っても息を完全に吐き切ることは不可能ですが、限りなくそれに近いくらい息を吐けるのが風船のいい所です。普段息を吐く際に動員される呼気筋だけでなく、胸横筋などの筋肉の動員も活発化されて、肋骨の内旋や胸郭の縮小化を促します。横隔膜は弛緩して、縮小していく胸郭のスペースと横隔膜の上昇により、肺の空気は押し出されていきます。 本当に吐き切れていますか?もう一度確認してみましょう。横に寝た状態で風船を膨らませている方は、自身の肋骨の位置を確認してみて下さい。肋骨はまだ出っ張った状態ではありませんか?みぞおちに水をたらしたらお腹の方向に水が流れていった、という状態(実際にやらなくてもイメージでいいです笑)であれば胸郭が腹腔よりも高い位置にあると考えられ、まだまだたくさん胸郭内に空気が残っていることを示唆しています。反対に、胸郭とお腹が一つの平らな面となっていればおそらく、十分に空気が吐けたと考えていいでしょう。 そして、ここで息を止めてしまいます。えっ?息を止めるって、息を吸ってからしないとだめなのでは?と思うかもしれません。いいえ、息を吐き切った後に息を止めてしまうのです。できれば5秒。なるべく3秒止めます。最初に息を吐いた際に膨らませた風船から空気が戻ってこようとします。しかし、息を止めます。しかも指で風船の首をつまんで閉じたり、歯で風船を噛んだり、唇で風船の口を閉じたりしないでください。 どうやって??舌を上あごの上につけます。喉の奥を舌で覆うようにすれば口からの気道を閉じることが出来ます。口は風船から戻ってくる空気で膨れている状態かもしれませんが、そのままで大丈夫です。 何故息を止めるのか気になる人がいるかもしれません。このプロセスはとても大事で、息を吐き切った後すぐに吸わない事は息を吐き切った状態を維持するという事を意味します。 一つは息を吐き切ることのあまりない呼気筋群をしっかりと活動させ、どの状態が息を吐き切るという事なのか認識させるという事です。特に内腹斜筋や腹横筋といった肋骨を内旋させる筋肉に加えて、強制呼気時に活躍する胸横筋などの活動を促します。 もう一つは息を吐き切る際にリラックスしているはずの横隔膜に息を止めてしまう事でさらにリラックスする時間を与えるという意味合いもあります。普段肋骨が外旋して横隔膜が常に緊張状態にある(おそらく精神的にも常に緊張状態にある)場合、ほとんど横隔膜がリラックスする時間も感覚もありません。ですから、風船で息を吐き切った時ぐらい、リラックスさせてあげましょう。 > 5)息を吸う 昔ドラゴンボールのアニメで孫悟空が元気玉を繰り出すか、繰り出さないかの瀬戸際で1話(30分)が終わってしまった時がありました。ここまで読んでいただいている皆さんは、いったいいつになったら息が吸えるのか?と不安に思っているかもしれません。安心してください、やっと息が吸えますから。 息を吐き切って3~5秒静止した後、息を吸います。この際必ず鼻から息を吸うようにして下さい。当たり前ですが口から吸えば風船の中に貯めた、先ほど自分が吐いた息を吸う事になります。息を吐いてから3~5秒静止している際に舌を上あごの上に当てて風船の空気が戻ってくるのを防いでいました。これを利用してそのまま風船からの空気が気道に戻ってこないようにしつつ、鼻から吸うのです。 沢山息を吐いて、吐き切って、さらに静止した後、やっと吸える空気です。思い切り息を吸いたいところですが、あまり力まないように、優しく吸いましょう。思いっきり力いっぱい息を吸ってしまうと様々な副呼吸筋が代償を起こします。例えば肩や首の筋肉も稼働して肩甲骨が挙上してしまうかもしれません。正しい呼吸パターンを身につけるために風船を膨らませるので、代償を含む吸気運動は避けたいですよね。肩や首の筋肉群に過剰な代償が内容に注意して息を吸いましょう。 そしてよくあるパターンとして挙げられるのが体を伸び上がらせながら吸うケースです。2)の風船を膨らませる体勢を整える、の欄にもありましたが椅子に座っている状態の場合、少し浅く腰を掛けて背中をかがませたのを覚えていますか?かがむことで肋骨の内旋を促しやすくなるというのが目的ですが、ここまで息を吐いて、静止して、息を吸う際にかがんだままにしておいてください。伸び上がって息を吸いたいと思いますが、それでは普段の呼吸パターンと変わりません。伸び上がる=伸展するという事ですが、頚椎や腰椎の伸展で息を吸っていませんか?1日に15000~20000回行われる呼吸の度に頚椎や腰椎が伸展していたとしたら、このパターンは改善されるべきです。 沢山息を吐きました。肋骨は内旋され、胸郭は縮小されました。ここで伸び上がってしまえばせっかく縮小された胸郭や内旋した肋骨は自由に普段のポジションに戻ってしまいます。それでは風船をやっている意味がなくなってしまいます。どうか少しかがんだポジションのまま、肋骨は内旋したまま、胸郭は縮小したまま息を吸ってみてください。胸郭が縮小しているんだからどこにも空気が入っていかないじゃないか、という意見もあると思います。そうです、普段空気が入っているところには空気が入っていきません。胸郭の後ろ、後縦隔と呼ばれる部分に空気が入り、拡充されるのです。もし誰かが風船を膨らませているのであれば、息を吸った際に肩甲骨と肩甲骨の間に手を置いてみてください。正しく後縦隔に空気が流入しているのであれば置いた手に肋骨の広がりを感じるはずです。 6) 再び息を吐いて風船を膨らませる やっと最後のプロセスまでたどり着きましたね。時間がかかってしまってすいません。もう息も吐いて風船が膨らんだし、3-5秒静止することもできたし、ついでに鼻から息を吸う事も出来ました。後はそれを繰り返すだけでしょ?と思っている皆さん、その通りです笑。しかし、このプロセスが一番難しいかもしれません。最後の難関です。身体を伸び上がらせずに内腹斜筋や腹横筋で肋骨を内旋させて、拮抗させた状態で息を吸えたら、次は風船の中にある空気に負けないように息を吐いていかねばならないのです。最初に息を吐いて風船を膨らませた時とは大違いであることに気づきましたか?確かに風船は一番最初に息を吐くときが一番『きつい』です。しかし、2番目に吐くときがおそらく一番『難しい』のかもしれません。2番目に息を吐くときは最初に吐いた空気が風船の中に残ったままの状態ですよね?風船のゴムの力によってそれらは口や気道の方へ戻ってこようとしています。そして舌を上あごにつけて蓋をすることで鼻から息を吸えるように気道を確保しました。その舌を下して、肺から空気を吐いていくのです。風船からの圧力に負けないようにしなければ、ちょっと笑ってしまうような音を立ててあなたのクライアントさんが空気にもてあそばれる瞬間を目撃することでしょう。それはそれでなんとも和やかな雰囲気になるので、1度はいいでしょう。でも呼気筋群を活用して力強く息を吐いてみてください。この際唇を真一文字に結ばないように気をつけながら。きっと風船はさらに大きくなってくれるはずです。 そしてまた同じ手順で息を吸い、さらに圧力を増した空気に負けないように息を吐いて、どんどん風船を膨らませましょう。おそらく一般的な風船であれば4-5回息を吐いたらパンパンになると思います。それで十分です。一度口から外して空気を抜いてしまいましょう。可能であれば、これを3セットほど行ってください。これだけゆっくりと呼吸をすれば1分当たりの呼吸数が減り、吸気状態から抜け出せることでしょう。 いかがでしたでしょうか?PRIの視点から長い事風船の膨らませ方について解説してきました。ここまで出来るようになれば、あなたも甲子園球場のスタンドでスターになれますよ!PRIのエクササイズは必ず風船を膨らませるわけではありませんし、むしろ大方のエクササイズは風船を使いません。しかし必ず呼吸がエクササイズに含まれています。もしこれらの呼吸が最適化されていなければ、どんなにパワフルなPRIのエクササイズも効果が半減してしまいます。ですから、まず呼吸を整えてZOA(Zone of Apposition)を確立するべきなのです。また個人的にはPRIのエクササイズに縛られなくても、風船を膨らませることはたくさんのメリットがありますし、何より童心に帰ってなんだか楽しいものです。風船を膨らませた後の空気が抜ける音だって、たまりませんよね笑。息を吐くことで副交感神経の働きを促進することが出来ますが、笑うことだって息を吐くことですから。みなさんも風船を是非膨らませてみてくださいね! *写真は弊社のワークショップより。
風船の膨らませ方 パート2/3
先月のアーティクルでは上手に風船を膨らませる前に行うべき、風船のくわえ方について解説していきました。すいません、皆さんには風船をくわえてもらったまましばらくお待たせしてしまいました笑。今回はそこからもう少し突っ込んで風船を膨らませる体勢、それから実際に息を吐いていくプロセスについて解説していきますね! 2)風船を膨らませる体勢を整える このプロセスは非常に重要です。やみくもに風船を膨らませばいいというわけではない、という理由はここにあります。風船を膨らませる体勢はいくつかありますが、基本的には仰向けに寝た状態(90-90ポジション)、座位、そして立位になります。時には四つん這いで風船を膨らませることもあります。重要なのは吸気時に腰をそらないポジションであることと、すこしかがんで正面をみるという事です。吸気時に腰をそってしまう人が多いので、その点では仰向けのポジションは一番サポートが多く、背中を反りにくい1番簡単なポジションです。次に座位、立位と難易度が上がっていきます。立位の際は壁などに背中をもたれることでサポートを追加してもいいでしょう。 仰向けで寝ている場合、壁に足をつけ膝を90度曲げ、股関節も90度屈曲させた状態になります。このポジションを90-90ポジションと言っていますが、言い方は多々あるかと思います。布団に寝るような形で仰向けになってもいいですし、膝を曲げて仰向けに寝てもいいでしょう。しかし、おそらく90-90のポジションが一番腰椎をニュートラルな状態にしやすいと考えられます。さらに可能であればかかとを履いている靴のヒールとソールの角に当てつけるように、かかとで壁を下に押すことでハムストリングを起動させて骨盤の安定を図ります。足の位置は壁からずれませんが、少しでもいいのでハムストリングを起動させたいのです。足の裏が壁(=つまり地面)に設置しているという感覚を持ってもらうことが重要なので、壁から足が離れることは避けたいですが、どうしてもかかとが感じられない人には椅子などを使って下に押し付けてもらうか、私の場合は壁沿いに自分の足を入れ込んで、クライアントさんや患者さんに自分の太ももをかかとで下に蹴ってもらうことでかかとを感じてもらっています。 ここまでは一般的に理解ができると思いますが、ここでさらにPRI的な要素を加えるとすると、左手で風船を支え、右手は万歳して床に置かれているか、天井に向かってリーチしていく状態になります。最初は左手で風船を支え、右手を万歳して床に置いておくポジションがいいでしょう。こうすると右の胸郭先尖に空気が入っていくのを誘導しやすくなります。 座った状態の場合は、椅子に浅く腰を掛けます。膝と膝の間に小さなゴムボールや巻いたタオルを挟むといいでしょう。少し骨盤を後傾させ、背中をかがめます。目線は正面において風船を膨らませていきます。 あれっ、と思った方もいるかもしれませんが、そうです。背中をかがめて胸椎が少し丸まったような状態をつくっていいのです。胸を張る必要はありません。むしろいつも胸を張っていて過吸気(Hyperinflation)の状態になってしまっているので、風船をするのです。少し背中を丸めることでたくさん息を吐く準備をしましょう。 立位の場合は少し難しいですが、壁をサポートにして立ちます。壁からかかとを20センチほど話して立ちます。そのまま膝を曲げながらお尻を壁につけます。続けて背中の下半分を壁につけてしまいます。腰椎の伸展がかなりきつい方は難しいと思いますが、腰椎も壁につけてしまいます。つまり「骨盤の後傾」と言われている形です。クライアントさんや患者さんに「骨盤を後傾させてください」と言ってもいつも伝わらないので(笑)尾てい骨を前に向けてください、といったような言い方をしたりしています。そして背中の上半分は少し丸めたまま正面を向きます。左手で風船をもち、くわえて風船を膨らませる準備は完了です。 次に3)息を吐いて風船を膨らませるプロセスを見ていきましょう。 風船を膨らませる体勢が整ったらいよいよ風船に空気を入れていきます。口を大きく膨らませて、思い切って空気を入れていくといいですが、あまり力みすぎないよう気を付けてください。新しい風船は一番最初に膨らませる時が一番大変です。口を真一文字に結ばずにストローの先をくわえるように、空気を吐き出していってください。またくわえる前にびよーん、びよーんと前後左右に風船を手で伸ばしておいてあげると多少膨らみやすくなります。 おそらく背中をそりながら息を吐く人はなかなかいないと思いますが、どちらかというと背中を少しずつ丸めていくように息を吐いていってください。そうすれば、左右肋骨の下あたり、腹斜筋や腹横筋などが活性化するのが感じられるかもしれません。腹直筋の過緊張は避けたいところです。息をたくさん吐いていくにつれ、胸骨が下に、そして背中側に沈んでいく感覚もわかるはずです。 最初は思ったように息が吐けないかもしれません。苦しくなってすぐに息継ぎをしてしまうかも知れません。しかし、そこは我慢してできるだけ沢山の空気を送り出しましょう。思ったよりも肺の中に空気が入っているのがわかると思います。背中を丸めつつ息を吐きます。繰り返しますが、力みすぎないように気を付けましょう。もともと息を吐くのは力を抜くためにやっているのですから、副交感神経に作用するようにリラックスしていってください。 そして次のアーティクルでは風船を膨らませるにあたって一番重要な、吸うというところに焦点を当てて解説していきたいと思います。
風船の膨らませ方 パート1/3
最近少しずつですが、呼吸に関してこの業界で注目が集まっているように思います。そしてPostural Restoration Institute(PRI)の教育コーディネーターをさせて頂いて関係もあって、風船を膨らませるエクササイズを取り入れている方を見る機会が増えています。しかし、やみくもに風船を膨らませばそれでいい、効果が出る、というわけではありません。風船を使った呼吸エクササイズは非常にパワフルで、筋骨格系に与える影響だけでなく、神経系や精神的、生化学的な部分まで影響を及ぼします。そこで今回はPRIの視点から見た風船の正しい膨らませ方について記事を書いてみたいと思います。 風船を膨らませるにはいくつかの手順があります。 1) 風船をくわえる 2) 風船を膨らませる体勢を整える 3) 息を吐いて風船を膨らませる 4) 息を吐き切ったら3~5秒静止する 5) 鼻から息を吸う 6) 再び息を吐いて風船を膨らませる そして3)から6)のプロセスを4-5回繰り返せば風船はちょうど一杯になるかもしれません。膨らませている途中に風船が大きくなってきて割れるのが怖いですが、思ったより風船は大きくなりますよ。 ところで、風船は膨らませるために膨らませるのではありません。わけのわからないことを書いている(!)と思われるかもしれませんが、実際にそうなのです。確かに風船の中に息を吐いていくことは非常に重要なプロセスですが、息を吐いた後が肝心なのです。風船を膨らませることによって、どのように息を吸うのか学ぶことができるのです。 まずは1)の風船をくわえる、というところから解説していきます。 風船をクライアントさん、または患者さんに渡すと一番最初にすることはくわえることです。ほぼ100%くわえます。ですから、風船をくわえる前に、しっかりと今から何をするのか説明しましょう!やみくもに風船を膨らませることはストレスを与えるだけになってしまうかもしれません。 そして風船を膨らませるプロセス(1)から6)の手順や理由などです)について説明が終われば、いよいよ風船をくわえてもらいます。 風船を膨らませる際によく目にするのが、風船がどんなに頑張っても膨らまない現象です。筋力がないのか、肺活量がないのか、とクライアントの方や患者さんはおっしゃいますが、なぜか風船が膨らんでいきません。こちらとしては満を持して風船エクササイズを紹介したのに、相手の方は顔を真っ赤にして頑張っているのに風船がまったく膨らんでいかない…この状況はなかなかなんとも言い難いものがあります(笑)。頑張っているのでもう少し頑張ったら膨らみそうな気がしますし、かといって顔が真っ赤で目玉が飛び出るくらい頑張っているので、「一回休憩しましょうか」と言いたくもなりますし・・・特に子供のころに風船を膨らませた経験のある方は、今となって膨らますことができない自分に愕然とするでしょうし、ちょっとがっかりした気分になってしまうでしょう。 何でこんなことが起きるのでしょうか?もちろん息を吐く力が実際に低下しているのかもしれません。しかし、私が所属しているメディカルフィットネスジムでは高齢者の方にも風船を膨らませてもらっています。人生の経験が豊富な方々でも風船が膨らまない時があります。僕もこの微妙な時間をどれだけ過ごしてきたか…しかし、そこで気づいたことがあります。みなさん、風船を自ら閉じているのに、空気を送り込んでいる! そうなのです!風船を膨らまそうと空気を送り込んでいるものの、風船をくわえようとして唇で抑えたり、歯で噛んだりします。そうなったら風船の首は閉じてしまい、空気は入っていきません。でも呼気筋がかなり頑張り、自らの唇や歯と戦おうとします。これでは風船はいくらやっても膨らんでいきませんよね。 先日PRIの本部があるネブラスカ州リンカーンに行ったとき、PRIの創設者であるRon Hruska氏に聞いたのですが、風船にもくわえ方があるという事です。風船は円形の口から空気を入れるようにできていますが、工業製品ですから出荷される際は平らにたたんである、というよりは押しつぶされた状態になります。この平たくなってしまった風船の首と唇のラインを平行にくわえてしまったら、どうしても唇や歯で、または舌で押しつぶすような格好になってしまい、空気が入るのを邪魔してしまいます。 そこで平たくなってしまった風船を縦にして、唇で風船の口を広げるようにしてくわえるのです。 こうすることで唇は風船の口をつぶして広げるように作用します。ちょうどストローをくわえるように円形の穴を唇で作るのです。そうすると空気をすんなりと入れることができるのです。あまりにも当たり前に風船を平たくくわえさせてしまっていたので、風船にもくわえ方があると聞いて目から鱗でした。 あまりにも当たり前すぎるような話ですが、意外と口元の筋肉やかみ合わせで緊張している方が多いのではないでしょうか?また高齢者の方だと入れ歯などの関係で唇の筋肉やかみ合わせのコントロールがうまくいっていない方もいるでしょう。そんな時は風船を縦にくわえる事で空気の通り道が肺から風船の先端まで繋がり、息を吐けば風船は膨らんでいくはずです。 それでは次のアーティクルでは2)の風船を膨らませる体勢を整える、というところから解説していきましょう。
あなたは中枢神経系を助けているのか?ただ中枢神経系の注意を逸らしているのか? パート2/2
入力がありとあらゆる奇想天外なバックグラウンド、薄っぺらな関連性、様々な身体部位と系統に集中する非難を誘発するノセボ以上のものであると思われる時、痛みを抱えている人にとって、注意をそらすことはまさに彼等が必要としていることかもしれません 痛みを伴う治療、あるいは入力も同様の効果をもたらすかもしれません。フォームローラー、あるいは痛みを伴うスポーツマッサージは、一時的な効果があります。それらは、あなたの気分を良くし、もしくは効果があると感じさせるかもしれませんが、一般的には短期的なものです。前日に激しい運動をしたために身体が硬く張っていて、きっとフォームローラーが私の気分を良くしてくれるだろうと思っているとしましょう。私がフォームローラーを使用している最中は、本当に痛い、まぁ、痛い、しかし、使用後に突如、凝りが軽くなるのを感じます。それは単純に、私の中枢神経系がフォームローラーによってもたらされる新しい痛みの感覚に注意を払っているということなのでしょうか?それは、新たに適用され、単にこれまでの感覚を覆す、より大きな刺激であり、異なる入力に応えて、その感覚出力をも変化させるのです。 この入力はまた、中枢神経系出力を介して、筋肉の伸長性とある程度調整され短期的に変化する関節可動域をも変化させます。筋長調節器の一つは、筋肉がどう感じるかで、筋肉を伸ばすと、筋肉は張力を感じ、その感覚が増大するにつれて、筋肉を伸ばすことをやめるというものです。もし中枢神経系の注意、あるいは中枢神経系の注意をそらすことを求めて競合する、より大きな感覚があるならば、これに比較して感覚調節は単にあまり感知しないかもしれず、出力調整は他の競合する入力に応じて、変更されているかもしれません。 それは、誰かがチョコレートで注意を逸らすまで、ボールを独り占めしている子供と類似しているかもしれません。子供はチョコレートを食べるために、ボールを離さなければなりませんが、それでも独り占めしようとするかもしれません。それは、行動が修正されたわけではなく、ただ単に注意が逸らされているだけなのです。 私達は、DNIC(広汎性侵害抑制調節)のような、疼痛性刺激によって起きる他の機序も持っています。これは、強度の侵害刺激が侵害受容ニューロンに、侵害受容ニューロンの遠心性抑制をもたらす尾側延髄腹外側野へインパルスを送らせること、わかりやすく言えば、痛みを抑制する痛みを送らせるということです!しかし、私達は侵害受容(痛覚)が起こることを必要としています。 知覚、期待、抑制 もし私が以前にある治療、あるいは入力から良い結果を得ているのならば、再度、良い結果を期待するかもしれません。私の期待は、起こっていることに関する中枢神経系に肯定的な見方や認識をするように駆り立てるかもしれません。それは、私の関わる環境や人が、肯定的な入力と出力を誘発するということかもしれません。心地よく、リラックスしていて、安全に感じることが、中枢神経系に事象に対しての肯定的な評価をさせているのです。 それは、私の中枢神経系の認識、もしくは注意を増す不安を伴う事象の処理、潜在的に有害なあらゆる刺激の処理を変化させる、寒くて非常に不快な待合室と意地の悪い医師、あるいはこれまでの歯科医、治療家、トレーナーとの酷い経験とは、全く正反対なのかもしれません。 単純な因果関係というよりも、痛みはある程度、神経系周辺を浮遊している内因性(内部的に発生した)阻害物質の量と、疼痛経験の促進に関与する化学物質の量とのバランスに依存しています。 中脳水道周囲灰白質は(PAG)、吻側延髄腹内側部(RVM)と後外側束を介して、脳幹から後角へと抑制インパルスを送ることができます。中脳水道周囲灰白質は、視床下部、皮質部、辺縁系からインパルスを受け取り、これらのインパルスは、感覚、運動、感情等のような行動に関連するこれらの脳の部位に起因するいずれかの処理によって、潜在的に引き起こされるかもしれません。吻側延髄腹内側部内に、下降抑制を働かせる‘オフ’細胞と侵害受容伝達を促進する‘オン’細胞があると考えられていて、これらは慢性痛の状態に関与しています。侵害受容ニューロンの促通と末梢受容体の感作によって、私達は通常は非侵害刺激であるものを用いて、侵害受容性シグナルの暗号化を獲得するかもしれません。私達は痛みにおいて抑制効果のある内因性オピオイドとGABA、促進効果のあるアスパラギン酸塩、グルタミン酸塩、NMDA(N‐メチル−D−アスパラギン酸)のような化学物質を持っています。これはもちろん侵害受容に関する全てではありませんが、同様に、私達は脳内に、ただ侵害受容伝達中のみではない疼痛経験の抑制と促進を持っています。 良い治療家はリラックスしやすい部屋に入って来て、誰もあなたの痛みを抑えることができなかったかの理由(でたらめな可能性のある)を説明し、彼等がその答えを持っていると自信たっぷりに安心させるでしょう。すると、あなたは理解されていると感じ、かすかな希望が湧いてきます。あなたの脳は、不安を緩和するかもしれない、あるいは抑制を引き起こし、潜在的ないかなる侵害受容性シグナルの促進の減少を引き起こすかもしれない化学物質を送り出します。化学的バランスは、痛みに対して‘マイナス’の可能性へ揺れます。セラピストが疼痛性刺激や、あなたの脳にとって新しい、今までにない運動情報の噴出を提供すると、突如、痛かったXXXが変化して、幾分良くなったかのように感じます。おそらく、その部位は緩んだ、あるいは強くなったように感じるかもしれません。これは素晴らしいことですが、どうか、この変化、あるいは注意を逸らすことと解決策を混同しないでください。 短期的な成功は明らかに有益ですが、最大の成功をもたらすのは、行動における長期的変化であることを忘れないでください。