脳、動作、痛み!(セクション I・パート2/2)

私たちは発達するにつれて、動作の語彙を身につけていきます。私が生後15か月の息子にボールを投げた場合、ボールはただ息子に当たって跳ね返るだけです(当然のことのように)。彼はまだ、接近してくるボールを認識することに関わる神経パターン、ボールをキャッチするという概念、もしくはこの技能を遂行するための関連した運動パターンを発達させてはいないのです。 彼がこれを身につけるにつれて、意識的な思考を必要とせずに空中にあるボールを難なく掴み取ることができるまで、彼はボールをキャッチする技能に磨きをかけるでしょう。私たちが、すべての運動能力を身につけ遂行するのは、このような方法なのです。スキルを以前に蓄積された記憶と自動的に関連させ、反復を通して、磨きをかけていきます。 ミラーニューロンは、特に若年層が新しいパターンを習得するのに重要です。私たちは、頻繁に両親や周囲の人たちの模倣を通して学習します。これには、私たちがどのように動作を指導するかということに莫大な影響があると感じています。 実際に、私たちが神経回路を使えば使うほど、ミエリンと呼ばれる白質(脂質とタンパク質の混合物)が、関連しているニューロンを繋ぐ軸索を包み込んでいきます。これにより軸索は絶縁され、絶縁されていない繊維よりもかなり速い(100倍の速さ)インパルスの移動を可能にしています。増大した信号速度と相まって、不応時間(信号間の待機時間)の減少も見られます。そうして、実践や補強に直面し特定の技能においての脳の能力は高まります。私たちは、これを提案されている専門技術における10000時間の法則にみることができます。 このようにして、これらのパターンは文字通り私たちの脳に刻み込まれるようになります。この良い例は、スポーツマンの反応時間を調査したいくつかのシンプルな研究です。ある事例では、ある卓球チームの中で最も優れている選手の反応が、卓球の技能とは異なる反応をテストした際に、他のどの選手やマネージャーと比較しても群を抜いて最低でした。しかし、彼が持っていたものは、より多くの経験であり、これは、彼がより良い蓄積・精錬されたパターンを持っていたということを意味しています。彼のボールへの反応はあまり良くありませんでしたが、動作語彙は大きく、何度もボールのパターンを認識していて、どこにラケットを置くべきか、どの運動パターンを呼び出すべきかを、周囲の他の選手達よりも速く知っていました。スポーツにおいて、反応時間は微小でありえるため、反応や計算ではなく、パターン認識と呼び出しが、成功へのカギなのでしょうか? ホーキンスは、過程を表現しました: 新皮質は、一連のパターンを蓄積します 新皮質は、自動関連的にパターンを呼びだします 新皮質は、不変方式でパターンを蓄積します では、不変性とは何でしょうか?コンピューター内では、100%の正確性、完璧な忠実性をみることができます。コンピューターは、決まったパターンを認識し、その方法で記憶します。実際、相違はコンピューター内で深刻な問題を引き起こします。1バイトの破損や誤配置は、デジタル領域に大損害を与える可能性があります。 私たちの世界は、変化によって取り囲まれていて、例えば照明のように、絶え間なく変わる状況の中で常に同じ面をみています。数々の実験が、この状況下でのコンピューターの苦闘を示しています。コンピューターにとって画素の変化は、コンピューターが、変化と記憶されたパターンを関連させることに苦闘するであろうことを意味するでしょう。つまり、セレンディピティが都合よく役割を果たすのであれば、あなたはバーで出会った素敵な女性を、路上で認識することは決してないでしょう。 違う状況下やわずかな変化がある場合にも、テニスボール、フットボール、もしくは靴下を丸めてボールのようにしたものを投げられれば、同じ記憶されたキャッチパターンを使用しなければなりません。物質的な状況や物体は変化しますが、ボールとキャッチの概念と不変表現は安定しているのです。 卓球についても同様です。角度、軌道、速度、回転のすべてが異なるかもしれませんが、私たちは運動パターンの呼び出しを通してボールを打ち返します。ボールの動きの変化に関して、ただ僅かに異なるだけなのです。 詳細から独立して、重要な関係やパターンを記憶する能力は、極めて重要です。あなたが友人を見る時、自分のいる場所の照明や環境に関わらず、同様のニューロンパターンが大脳皮質の視覚野で発火するでしょう。 私たちの動作は、脳に特定のパターンを供給する領域の一つです。それと同時に、私たちの動作は、“神経基質”の他の多くの部分によって影響を受けた脳内に保持するパターンによる影響を受けます。私の慎ましい意見では、実際の生体力学的レベルでの骨運動は、この骨運動が、一致させるために、そして中枢神経のレベルにおいての予測を作り出すために作る求心性組織からの神経フィードバックパターンと比較すると、あまり重要ではありません。より重要なのは、脳が遠心的に組織の運動を制限する理由、そして、この制限が起こるきっかけとなり得る、生体力学的あるいは非生体力学的なパターン(例えば、視覚、前庭、もしくは以前の痛み)、及び保護的予測を見つけ出すための評価なのです。 実践レベルでは、これら全ては何を意味しているのでしょうか?あなたが脳と身体の特定パターンへの反応を評価したいのであれば、何らかの方法で、関係している自動関連パターンに繰り入れなければなりません。動作レベルでは、特定動作の相互作用、おそらく本物の痛みに関係するニューロンの誘発を引き起こす動作パターンがあります。不変表現を考慮しても、何がパターンに自動関連するかに接近することによってのみ反応を評価することができる、というのが私の見解です。 例えば、ベッド上で行われる動作評価は、神経“特徴”の特定の認知のない動作状況への脳の予測、もしくはフィードバック機構から必須とされるパターンを評価することを可能にしているでしょうか?重力の関わりのない環境での前庭器官や固有感覚器官からの削減された情報は、パターンを変えてしまう可能性が高いかもしれません。パターンが変化したために、痛みは減少するかもしれませんが、元のパターンを取り扱うことで、痛みは戻ってくるでしょう。これは、痛みを一時的に緩和する従来のベッド上での治療において、私たちが多く目にすることです。痛みのパターンや特徴は、例えば、事前運動計画のより高いところで推進されたか、もしくは小脳で統合される脊髄より上方の系統の感覚不一致なのでしょうか?私たちは、これらを骨、関節、軟部組織の受動的運動と同様に評価しているのでしょうか? 神経パターンを理解することは、技能状況と、成功し一貫性のある反応への不変的関連性の観点から、動作技能がなぜこれほどまでに、完璧にするために数えきれないほどの反復を繰り返す必要のある、極めて特有な過程なのかを理解するのに役立ちます。 セクションIIでは、記憶パターンを、何が起こるかという実際の予測に変換するのを助けるために、知覚と、どのように脳が固有感覚器官、視覚、および前庭器官を含む体性感覚系からのフィードバックを使用するのかをみてみたいと思います。加えて、このフィードバックが、中枢神経過敏のような問題のある場合、どのように中枢神経的に処理されるのか、神経可塑性を通して配線を替えるために、および私たちの感じ方と後に続く運動制御および動作を変えるために、どのように痛みが感覚皮質と運動皮質に影響を与えるのかをみてみたいと思います。

ベン・コーマック 3278字

脳、動作、痛み!(セクション I・パート1/2)

動作や痛みにおける脳とその役割は、私たちがコーキネティックで仕事をするにあたり、大きな役割を占めています。機械的なレベルでの脳へのフィードバックとして、ただ身体をみるのみではなく、私たちが行うこと全てにおいての、脳の能動的役割を理解し始めています。 このブログのシリーズでは、コーキネティックにおいて、概念のレベルで私たちがどのように脳の機能を理解しているかに関しての洞察を少しお伝えしたいと思います。これは学術論文や、科学的根拠に基づいた研究ではないということを強調しておかなければなりません。これは全体的なレベルと私たちの見解において、脳がどのように機能するかに関するパラダイムのようなものといえるでしょう。 脳のこのモデルと、脳がパターンを記憶し、呼び出し、フィードバックと一致させ、最終的に結果を予測する方法が、私たちが行うことの基礎を形成します。これが私たちの評価、テクニック、運動指導を導くのです。実際、特に痛みの場合において、予測は常に私たちが望むもの、もしくは期待するものではないかもしれません。それは、神経パターンの予想、もしくは意図が、質の悪い動作や、身体からの必要な、いかなるフィードバックを持たない痛みを基にした予測の要因となり得ます。 下記のモデルの概要を説明します: パターン 知覚 予測 パターン どのように脳が機能するかということの背後にある基本概念のひとつは、脳はパターン認識装置であるということです。脳は、自動的に脳内に蓄積した神経パターンと外界との接触中に脳が絶えず経験しているパターンを結び付けます。これらの神経パターンは、 私たちが特定の物を見たり、特定の動きをしたり、感情を感じるときに発火するニューロンの集積です。これらの神経パターンは、私達の経験したことに基づいて、私たちは誰なのか、何をするのかの基礎を形成します。これらの蓄積されたパターンが、私たちに無意識に日常の課題を行うことを可能にし、普通と異なる今までにない新しいパターンに遭遇したときに、注目することを可能にしたり、期待された経験が大脳皮質階層を伝わっていくことを可能にしています。これらの新しいパターンは、例えば新しい技能(記憶されていないパターン)を習得しようと試みようとする際に、落胆に終わることもありえます。 実際に、私たちは反応としてではなく、感覚事象の予側で興奮するパターンを持っているのかもしれません。これは忠実に予測の定義であり、後のブログで考察しますが、疼痛反応に大きく関連しているかもしれません。 これらのニューロンの集積が同時に発火することにより、シナプス結合はより強くなります。有名な神経科学の引用文には、“同時に発火するニューロンは、ともに結ばれている”と書かれています。この概念は、カナダ人神経心理学者ドナルド・ヘッブにちなんで名付けられたヘビアン理論に由来しています。これらのニューロンは、動作ベース、視覚ベース、もしくは味覚、嗅覚など、ありとあらゆるものです。実際に、これら感覚要素全ては、ニューロンの“特徴”を作り出すために、同時に発火するかもしれません。ロナルド・メルザックは、空間分布と生涯にわたる感覚入力によって神経可塑的に成形されたシナプス結合を表現するために、“神経基質”という言葉を造り出しました。メルザックは、特定の“神経基質”を流れるすべての神経インパルスパターンに与えられた“神経特徴”について語っています。 私たちはより小さな神経“特徴”、もしくは動作、スピーチのような特定の事象に対してのパターンも持っています。ロリマー・モーズリーは、これらのパターンを神経タグ”として表現しています。多くのニューロンは、1つ以上のパターン、あるいは“タグ”と関連しています。“神経タグ“を構成する細胞が、疼痛反応とも関連しているとすれば、これらの構成細胞は、他の”神経タグ“への反応として発火し、そしてこれにより、他のパターンや”タグ“においても疼痛反応を引き起こすことがありえます。モーズリーの専門のひとつは、腰痛です。彼の概念(もしくは私の解釈では)は、腰痛に関連するニューロンは、腰痛について考える時にも関連しているかもしれないことから、動作ではなく、腰痛に関する思考、もしくは腰に関する思考でさえも痛みを引き起こすのです。私たちは、また、動作パターンの視覚化も実際の動作のように、脳内で同じ神経パターンの発火を引き起こすことも知っていることから、神経レベルにおいての相互関係性を見始めることができます。 これらの神経“特徴”もしくはパターンは、本来、感情的で行動的であるということかもしれません。否定的思考でさえ1つのパターンであり、これが、感情と関わる際、もしくは解釈をする際に、脳が使用する主要なパターンである場合、問題となります。これにより、私たちがなぜ感情を保ち続けたりするのか、先入観のような観点を保持するのかを説明することができるかもしれません。 ジェフ・ホーキンスは、彼の著書“考える脳・考えるコンピューター”の中で、脳、特に大脳皮質、もしくはホーキンスが表現するところの“新”皮質においてのパターンの自動関連性に関して記述しています。ニューロンは、実際にトランジスタと比較すると、かなり遅く、毎秒200回の演算は、コンピューターの行う毎秒10億回の演算よりむしろ遅いかもしれません。 コンピューターは、CPUの先駆者であるチューリングマシーンを設計した偉大なイギリス人数学者アラン・チューリングによって設定された、絶え間ない演算の実行により稼働しています。私のお気に入りの本の一つである、“クリプトノミコン”の中で、ニール・スティーヴンスンは、深く熟考しています。私たちが、すべての変数を常に演算するとすれば、私達が課題を遂行するためには、数百万回の演算が必要となるかもしれません。そうではなく、脳は課題を遂行するために、何年にもわたる実践によって作られた記憶から蓄積されたパターンを、自動的に関連付けることができます。このパターンの進化は、無数の繰り返しを通して、良くも悪くもなりえます。実際、私達は、世界が常に私たちに向かって投げかける膨大な量の変数に対応するために保持している、蓄積されたパターンから、その微細な変化に対応するために、不変表現と呼ばれるもう一つの構造を持っています。 (パート2/2はこちらへ)

ベン・コーマック 2741字

私達の専門的な「パズル」...構造か機能か

私たちが頭を悩ます、謎めいた、パズルのようなクライアントや患者に接する機会はどのくらいあるでしょうか。謎 (パズル) とは何かが理解できない、または理屈に合わないために混乱してしまう、その原因として定義されます。今日の情報社会においては、物事はより複雑にわかりにくくなっています.一体誰を信じたらよいのでしょうか?従来の教育やトレーニングは、特定の構造的な症状(前十字靭帯損傷、半月板損傷、腰痛、“炎症”、体重増加、衰弱、疲労、鬱など)に対するプロトコルに純粋に従うことで自信が得られるようにできています。しかし、症状を基盤とするプロトコルに従っていると、「それにはこれ」といった決まった型の治療やコンディショニングを繰り返す、たちの悪いサイクルにはまりかねません。 もしその「部位」や症状が本当の問題ではなく、全体的な機能不全の表れ、身体全体から発せられたサインだとしたらどうでしょう?子どもが泣いているとき、私たちはその子をただ黙らせようとはせず、何か理由があると考え、その謎を解こうとします。車の赤い「チェック」ライトが点滅していたら、そのライトの上に黒いテープを貼ってかぶせ、警告を無視したりはしません。ではなぜ、痛みや不快感があるときには、原因を探さずに患部を攻撃して無理やり症状を鎮めたり、覆い隠したりするのでしょう?静かな泥棒(機能)と、叫んでいる被害者(構造的な症状)を想像してみてください。両方のシチュエーションを考慮することが大切ですよね。被害者を助けたいけれど泥棒も捕まえたい! 権威に対して懇願することにより議論をする者は、己の知性ではなく、記憶のみを使っているのである。 (レオナルド・ダ・ヴィンチ) 私たちが、誰か(大抵は権威のある人)に指示されたからという理由で、ある技法やテストを行うことはどのくらいあるでしょう。グレイインスティチュートでは、臨床医、治療家、トレーナー、コーチそれぞれが権威を持ち、それぞれの知性を使ってクライアントや患者に接していくべきだと信じており、あらかじめデザインされたプロトコルではなく、個人個人を基盤として考えた解決方法を作っています。私はプロとして、指標としてのプロトコルに感謝しながらも、自分の知性を使って、様々な指標を全体の、各個人全体のダイナミクスに、創造的に応用することを、私達自身に対して要求します。 私は20年以上専門家として活動してきた中で、部位、構造、そしてテストでさえも、それらに関しての知識に惑わされてしまい、多くの失敗をしてきました。症状が表れている部位が実際にどのように機能しているかを尊重することなく、私がどう感じたかが、部位や構造を「直す」ことができるという根拠、テストの結果を良くできるという根拠になっていました。みなさんには、直面している全ての部位や構造的な謎に対して、より全体論的な/機能的な見方で考えることを強く勧めます。病理学的、症状の見解、テストの結果でさえも惑わされてしまいがちですが、大抵はあなたやあなたのクライアントおよび患者に「訴えている」にすぎないのです。 しかし実際には、機能はとてもダイナミックであり、連結しあっていて、流動的で、常に変化しています。リハビリをしていても、トレーニングをしていても、コンディショニングをしていても、身体を機械としてみていないか、孤立した部位や孤立しているようにみえる問題(例:ハムストリングのストレッチ、殿筋の強化、膝の腫れの減少、疲労に人工的なドリンクを飲む、便秘に緩下剤をとる、痛みに消炎剤をとる、等々)だけを指摘していないか慎重に考えなければいけません。そのような見方をする代わりに、論理と想像力を使って、複雑な全体像を解明することが必要です。下記は、還元主義的な見解と機能的な見解を対比した分類リストです。あなたがどちらを好み、どちらがあなたに専門的にあてはまるかを考えてみてください。 症状的見解 vs 機能的見解 症状的見解 身体はそれぞれの構成要素に分解された、分離したシステムによって成り立つ「機械」として見られている。 病気や病理組織の変化を明らかにすることに重点が置かれている。 評価/テストは極度に特化していて、診断の幅が狭い。 戦略は症状や患者の訴えをおさえることを基盤としている。 統計的に「普通の人々」との比較対象として計測した数値やチャート、統計、テスト結果などによって評価した患者の状態に重点を置いている。 後期ステージでの症状の経過を指標として頼っている。 健康状態は症状がないことによって計られる。症状さえなければ健康と考えられる。 機能的見解 身体は心、身体、感情がダイナミックに、複雑に相互連結したシステムと見られている。 正常な生理学上を基点とし、バランスが乱れているエリアや機能不全を明らかにすることに重点がおかれている。 評価/テストは、異なる多くのシステムや方法から得たデータを統合している。 戦略は訴えの根底にある原因を指摘することを基盤としている。 理想的な生理機能の概念を基盤として、主観的な情報と客観的な情報の両方を集めることに重点を置いている。 機能不全を早期に予想できる。 健康状態(理想的な機能)は機能の連続体、すなわち機能不全の状態から理想とする機能状態までのスペクトラムに沿って計られる。健康、およびウェルネス機能の復元、改善のための対処は、このスペクトラムのどの段階においても可能である。 今日の医学/ヘルスケアの世界では、体系的アプローチによる構造上の症状の統合を尊重する動きがあります。このパラダイムシフトでは、部分と全体の関係性がより釣り合ったものになります。部分の特性が全体の理解に確かに役に立つ一方、部分の特性は、全体のダイナミクスを通してのみ、完全に理解することが可能となります。 まず全体が最初にあり、全体のダイナミクスを理解してはじめて、少なくとも原理上は、部分の性質と部分の相互作用のパターンを導き出すことができます。これは、私たちの多くが学校で教えられてきたことに対するパラダイムシフトとして考えられますが、この概念は新しいものではありません。オステオパシー医学の創始者であるアンドリュー・スティル博士(1828−1917)は、下記の原理を信じています: 人間の身体は、総体的な生物学的ユニットとして機能する。 身体は、自己治癒と自己調整のメカニズムを持っている。 構造と機能は、相互に関係している。 身体の一つの部分に異常な圧力がかかると、身体の他の部分にも異常な圧力と張力が波及する。 そう、これはパズルのようで、全てのピースを尊重する必要があります。幼少時代にパズルのピースをはめていったとき、私達は真ん中のピースだけから始めることはありませんでした。代わりにまず、箱に描かれている全体図を見て、箱を開けて、それから全てのピースを表向きにして、角のピースと縁がまっすぐなピースを探し、それらのピースをつなげて型を作っていきました。最終的に、全体の絵を作り上げる全てのピースは、同等に扱われていました。 部位を考慮しながら、全体を尊重し評価することは、私たち専門家の義務です。治療家がクライアントに接する際の状態の捉え方を想像してみてください。衰弱しているボビー vs. ボビーの脚の衰弱、乳がんのメアリー vs. 乳がんの治療、ランジがうまく行えないジョニー vs. やったことがないランジをジョニーがなぜできないのかの判断。あなたが次回テストや評価をするときには、自分自身に次のように問いかけてください。「特定の個人をテストしているのか、それともテストをテストしているのか?」 グレイインスティチュートでは、まず第一に、各個人の特有性の全てを信じています。それを踏まえて、物理学、生物学、行動科学の応用に基盤をおきます−分離ではなく統合です。このモデルは、記憶された構造的プロトコルやあらかじめ用意されたテストを使うこととは相反して、クライアントや患者自身が、過程を決定する要因となることを可能にします。また、私たちは、みなさんのような同志一人一人が、クリエイティブに考える知性を発揮し、みなさんが接している人々を助ける道程をデザインしていると信じています。私たちはこの考え方を、決まった規則の連続ではなく、自然の原則にもとづいた応用機能科学(Applied Functional Science™)の過程を通してシェアしています。 最後に、次にあなたがクライアントや患者の「謎(パズル)」に直面するときに、自分自身に尋ねてみてください。全体は部位にどのように影響されているのか?崩壊している部位を支えるために、全体に何ができるのか?部位の機能不全は、機能代償によるものなのか?その部位を助ける環境をつくるために、今日なにができるのか?この考え方のプロセスは、私たち、トレーナー、コーチ、治療家を、優秀な機械的技術者から、創造的で謙虚なファシリテーターへと導いてくれるでしょう。

レニー・パラシーノ 3843字

スポーツのためのランジの能力を養う方法とは?

ランジはスクワットに比べ、あまり研究がなされていないものの、スカッシュ、バトミントン、フェンシングなどの多くのスポーツにおいて頻繁に起こる大切な動きである。 しかし、いったい何がアスリートにランジを上手く行えるようにしてくれるのだろうか? どの筋肉の動作変数が、ランジの能力を予測するために最適なのだろうか? この研究は、その疑問を詳しく調査するために試みたものである。 研究論文: ランジ動作とその決定要因、クローニン、マクネアー、マーシャル、2003年スポーツサイエンスジャーナル 背景 様々な筋肉動作のパラメーターと、スプリントランニングやジャンプ等の、スポーツの動きやエクササイズとの相関関係の計測は、スポーツの成功のために最も大切な特性を見抜く力を、研究者たちへ与えることができる。 例として、いくつかの研究により、力産出の割合(RFD)は、スプリントランニングと垂直跳び両方のパフォーマンスを予想するのに最適であるとされているため、幾人かの研究者達は、RFDは、スポーツにおける成功のために最も大切な身体的特性であるかもしれない、という説を提案している。 しかしながら、RFDがランジ動作の良い予測要因なのかどうかを調査した研究はほとんど無い。スカッシュ、バトミントン、フェンシングなどの、より専門化したスポーツの動きにとって、ランジの動きは鍵となる特性である。 実際、幾人かの研究者たちは、より経験の長いフェンシング選手の方が、より素晴らしいランジの動き(ランジ中の最大コンセントリック速度よって評価)をすると報告している。 しかし、ランジの動きは、負荷の無い垂直跳びやスプリントランニングに比べ、よりゆっくりとした動きであるため、最大力産出やパワーの方が、RFDよりも重要かもしれないという可能性もある。 *** 研究者たちは何を行ったのか? 研究者たちは、ランジ動作の予測に最も適している、筋肉動作の生体力学的要素を突き止めようと考えた。そのため、彼らは、下肢の動きを伴う様々なスポーツを行っている31名のアスリートを集めた。 背臥位スクワットマシンテスト 研究者たちは、下肢の力産出とRFDをテストするために、線形変換器を設置した特注の背臥位スクワットマシンを使用し、90度の膝の屈曲における、両脚での最大動力とパワーの最高値を測定した。 力の最大値を測定するために、研究者たちは1RMを評価し、出力の最大値を測定するにあたり、被験者が可能な限り爆発的な動きを行えるよう、1RMの50%が使用された。 ランジ動作テスト 研究者たちは、また、別の線形変換器を被験者それぞれの胴体に装着し、脚の長さの1.5倍という、標準的な歩幅を使ったランジを行う際の、水平変位とその変位の速度を測定した。 *** 何が起こったのか? 基本測定 研究者たちは、両脚での1RM背臥位スクワットマシンテストを行った際の、被験者の平均最大力は、127 ± 36kg もしくは体重の1.65倍であったと報告した。 両脚での1RM50%での背臥位スクワットマシンテストでは、平均のパワーは364 ± 96.8W であり、平均のピークパワーは932 ± 258W であったと報告されている。 最終的に研究者たちは、おそらくスクワットでの負荷が理由であろうが、ランジにおける最大動作速度は、1RMの50%で行った背臥位スクワットにおける最大動作速度よりも、はるかに速いと報告している。この速度測定の結果は、下記のグラフで示されている。 ランジ動作の予測要因 研究者たちは、解明された分散の55%以下の割合しか占めていないにも関わらず、(ランジを行っている際の最大コンセントリック速度を評価)ピーク力までの時間が、最適なランジ動作の単体予測要因であったと報告した。これは様々な要因がランジ動作に対して重要であり、その要因は人により様々であり得るということを示唆している。 研究者たちは、3つの変数を含むモデルにおいては、絶対的なランジ動作の予測に最適なのは、各個人のランジ動作において変数の85%を占める、ピーク力までの時間、脚長と柔軟性の組み合わせであると報告した。 研究者たちは、3つの変数を含むモデルにおいては、体重を標準化したランジ動作の予測に最適なものは、各個人のランジ動作において変数の76%の割合を占める、ピーク力までの時間、平均背臥位スクワットパワー、そして体重を標準化した背臥位スクワット最大力の組み合わせであった、と報告した。 *** 研究者たちはどのような結論に達したのか? 研究者たちは、背臥位スクワットマシンにて得られた変数の中で、RFDの代わりとなるランジ動作の単体予測要因は(ランジ中の最高コンセントリック速度によって評価)、ピーク力までの時間であると結論付けた。そのため彼らは、高速伸長一短縮サイクルの能力を向上させるための方法は、ランジ動作を向上させるのに最も有効である、という結論を出した。 しかし、研究者たちは又、ピーク力までの時間は各個人のランジ動作の変数の55% にしかあたらず、このことは、1つの生体力学的測定がランジ動作の仕組みを網羅することは不可能であると示唆している、と結論づけた。 研究者たちは、ランジ動作を予測できる唯一の力のパラメーターが、相対的測定であったため、このことは相対的筋力が絶対的筋力よりも、より重要であり、体重の重さは不利に働くかもしれないということを示唆している、と観察した。そのため、彼らはランジ動作を向上させるためのレジスタンストレーニングの方法として、筋肥大よりも、むしろ神経の適応に重きを置くべきであると提案している。 研究者たちは、ランジ動作はいくつかの異なった筋動作変数に依存しているため、リハビリの専門家は受傷後のスポーツ復帰を決定する際、1つの生理力学的な測定に頼るべきではなく、パワー、相対的最大力、最大力までの時間、を含むいくつかの要素を測定するべきであると提案している。 同様に、これは、特にランジ動作を含むスポーツにおいて、ピークパフォーマンスに向けて選手をトレーニングする際、コーチは、パワー、相対的最大力、最大力までの時間の質を向上させるためのトレーニングに重きをおくべきであり、他の要素を考慮することなく1つだけの質に集中するべきではない、と示唆している。 *** 制限要素は何か? この研究には、被験者にあまり馴染みがないであろう、特注の背臥位スクワットマシンを用いてスクワットを行う際に生体力学的変数の測定が行われた、という点において制限があった。 更にこの研究では、被験者の過去のレジスタンストレーニングの経験が明らかでなかったため、彼らはトレーニングされていないと仮定されていた。それ故、レジスタンストレーニングの経験を持つ被験者では、異なる結果が観察されたかもしれない。 同様に、すべての被験者たち全員が、スカッシュ、バトミントン、フェンシングなどの、ランジの動作を多用する同一のスポーツを行っているわけではなかった。もし被験者が単一のスポーツから選ばれていたら、異なる結果が得られたかもしれない。 最後に、この研究は、どの筋肉動作の特性が最も良いランジ動作の予測要因となるかを明らかにはしたものの、それらの特性を向上することが、ランジを行う際の、最大コンセントリック速度の向上につながるのかどうか、ということの証明とはなっていない。 *** 実践的な意義は何か? アスリートに対して: ランジの能力を向上するために、アスリートはまず、力の発生率を向上させることに集中するべきであり、それは、高速低負荷のトレーニング、プライオメトリックストレーニング、そして様々な種類のレジスタンストレーニングを含む、いくつかの方法を使用することで成し得ることができる。 又、アスリートは、ランジの能力を発達させるために、パワーと最大相対力の生産能力を向上させるためのトレーニングを行うべきである。これらは、高速低負荷のレジスタンストレーニング、プライオメトリックストレーニング、様々な種類のレジスタンストレーニングと、低速高負荷のレジスタンストレーニングを組み合わせることによって成し得ることができる。 ランジ能力を向上させるための筋力を発達させようとする場合、アスリートとコーチは、神経適応を高めることに集中し、高い相対筋力を維持するために、必要以上の筋肥大は避けるべきである。 リハビリの専門家に対して: 臨床医やストレングスコーチは、ランジの動きを常に行うアスリートに対して、一つの生体力学的測定に頼り、怪我からの復帰を決定するべきではなく、パワー、相対最大力、最大力までの時間等を含む複数の要素を測定するべきである。

ストレングス・コンディショニング・リサーチ 3764字

肘がストレングス&コンディショニングプログラムデザインに関して伝えてくれること

2~3年前クレッシーパフォーマンスで行ったイベント「プロと過ごす夜(ナイトウィズプロ)」の初回に、私達とオフシーズンにトレーニングをしている15人のプロ野球選手達と円卓に座り、彼らのキャリア、長期発達におけるアプローチ、大学のリクルーティングプロセス、シーズン中における週毎のルーティーン、その他のトピックについての質問に答えてもらいました。 15人の選手に登壇してもらいましたが、同じようなストーリーは二つとなく、成功への道のりは皆それぞれ異なるものでした。それに応じて、私のライブデモンストレーションの時間になった時、私は全ての腕におけるユニークな性質について−そしてちょっとした肘の評価が全身のストレングスコンディショニングプログラムで何をする必要があるか、多くの情報を提供してくれるということを強調したいと思いました。 何よりも、ちょっとした「ショッキングな価値観」として、私はトミージョン手術後のリハビリ中に、伸展が完全に取り戻せなかったプロ選手に協力してもらいました。翌日、参加した多くの若い同席者と話をしましたが、内側部に沿って存在する「ジグザグの」傷跡と25°の屈曲拘縮は、腕のケアにもっと真剣になる必要があると、彼らの目を覚まさせるものだったようです。 私達は関節における一般的な先天的弛緩と特定の弛緩を、ベイントンスケールで評価することができます。このスクリーニングには5つのテストを用い、そのうち4つは片側ずつ行います。 肘の過伸展>10°(左右両側) 膝の過伸展>10°(左右両側) 親指を屈曲させ前腕に触れる(左右両側) 小指を手の他の部位と共に>90°の角度で伸展させる 膝を曲げずに両方の手のひらを床につける つまり、とても弛緩している状態であれば最大で9ポイントになります。これは男性よりも女性によくみられ、弛緩の発生は、フットボールやアイスホッケーといったものよりも、水泳、野球、体操競技、そしてテニスなどのスポーツ(可動域がある方が優位なもの)において、より顕著にみられます;ある程度は単に自然な選択とも言えるでしょう。 冒頭で私は、肘の評価だけで(私の見地では他の多くのものに比較して、これは最も素早く簡単な手法なのです)ストレングスコンディショニングプログラムを作成する際に何を優先すべきかに関して沢山のことがわかる、と述べました。週ごとに遭遇するシナリオは、たった4つだけなのです。 覚えておいていただきたいのですが、リハビリ業界で行われている関節のエンドフィール(最終稼動域における施術者側の感覚)の記述は私が例としてあげているものよりかなり詳細なもの(そして各関節特有のもの)です;専門家ではない方にとっても、ユーザーフレンドリーなものにしたいと思い下記の例をご紹介します。最初にご紹介するシナリオは、肘の過伸展です: 通常、肘の過伸展におけるエンドフィールは非常に柔らかい、もしくは“カラッポ”な感じがします−より過伸展させたら前腕が抜け落ちてしまうかのような感じです。このような場合、高い確率でその人は高いベイントンスコアを持ち、その人に対して(もし必要であるとしても)−特に上半身に対して(肩で上方へ200°のトータルモーションが起こると予測もできます。)あまりストレッチする必要がないということがわかります。 もちろん、他にも具体的、及び一般的なスクリーニングも更に行い、このハイバーモビリティー(過剰運動性)は肘特有のものなのか、上半身、それとも全身によるものなのかを判別していきます。 通常、こういった人達には、スタビライゼーションエクササイズが必要になります − ですから充分なストレングストレーニングが望ましいのです。残念ながら、多くの人は自分が得意なことを続けたがります。ですから、先天的弛緩が顕著な方がヨガのクラスを渡り歩き続け、なぜ腰が痛むのか不思議がるということは良くあることです。これは単に、不安定な身体を何度も何度も最終稼働域に持ち込んでしまっているために起こることなのです。 特定のヨガエクササイズは、ある人には非常に有益なものだと思います、しかしながらこのような先天的弛緩を持っている人がアプローチするには注意が必要です。そして、もちろん若い体操選手を人間の形をしたプレッツェルにしようとするのも、長期的な健康を考えると良いアイデアではないでしょう;一人のオリンピック選手に対して、10,000人の子供が脊柱に疲労骨折を負っているのです。 これを踏まえて、高いベイントンスコアを出しながらも上手に動けないという人の場合、私の考えでは4つのシナリオがあり得ます。 初めに、そして最も明らかに、加重されない限り症状が出てこない怪我があり得ます。このようなケースに関しては医師の診察を勧めます。 次に、“全体的に”不安定で、指導されている動きに対して、単に慣れと強さが必要な人達もいます。ランジのボトムポジションに降りられる柔軟性があるからといって、そのポジションを保持できる適切な関節安定性があるということにはなりません。前述のように、各関節が理想的に動くためには、隣接した関節に適切な剛性(安定性)が必要なのです。 三つ目には呼吸の問題(例えば骨盤が前傾し肋骨が開いている人達)もしくは軟部組織の制限(あまりありそうにないのですが、起こるのです)があるのかもしれません。こういった問題はベイントンスコアのみでは明らかにならないかもしれません。なぜなら充分にリラックスしている時には、受動的関節可動域を“ごまかす”ことができるからです。 例として、私は、内転筋が恥骨に付着する部位の軟部組織が乱雑に繊維化している状態でありながらも、素晴らしい外転可動域を持つ人を見たことがあります。 四つ目に、私は足首以外の全身至るところに過剰運動性を持つ人を何人も見てきました。これは何年にも渡ってハイカットのスニーカー、ハイヒールや足首のテーピングで足や足首を完全に破壊してしまったからかもしれません。 また、これは、以前に起こった足首の捻挫が正しくリハビリされなかったことにより、保護するために痙攣が起こっているからかもしれません。または重心がかなり前方にシフトしたことにより(前述した姿勢の歪みによるもの)単に足底屈筋がシャットオフできなくなっているのかもしれません。 ですから、これが短縮なのか(受動的背屈の計測、もしくはウォールアンクルモビリティーテストを行いましょう)もしくは硬直(カウンターバランスによって−ゴブレットスクワットのように−背屈が増すかどうか確かめましょう)なのかを決めるのは皆さん自身です。 次は肘の全伸展、筋肉的なエンドフィール - これは全伸展位において、“からっぽ”な、エンドフィールがないものです;ゆったりと筋肉をストレッチします(肘の屈筋)。 これは恐らく一般の人々に最も良くあるパターンで、通常同量のモビリティーとスタビリティートレーニングの必要性があることが予測できるでしょう。さらに評価を行うことで、どこに重点を置くべきかの情報を得ることができます。 不完全な肘の伸展、骨っぽいエンドフィール - これらは多くの場合、手術後に肘の伸展が完全に戻らなかったケースです。もしくは骨棘が関節下にあり肘の伸展を阻害しているのかもしれません。 大胆な憶測ですが、こういった人々はほぼ確実に(私の経験上) 他の部位に明らかな制限を持つアスリート達です。不十分な肩関節のモビリティー、ローテーターカフの機能、肩甲骨の安定性、胸椎のモビリティー、そして質の悪い組織といったものはすべて、肘に現れている症状の起因となるものになり得ます。 ですから、私がこのように「お粗末な」肘を目の当たりにし、触診した時、通常何をするべきかすぐにわかります。通常、かれらには、沢山のモビリティートレーニング、軟部組織へのワーク、呼吸のドリル、そして長い時間をかける静的ストレッチが必要になります。 その上で、肘自体に関しては、彼らが持っているもの全てを維持することを認識する必要があります。もし骨の変異により伸展が10°欠けている状態であれば、恐らくなんとかやり過ごすことができるかもしれません。しかしその10°が軟部組織の短縮/硬直が加わることで30°になってしまったとしたら、より大きな問題がやってくるのを待っているようなものです。 そのためにも、私はいつも彼らに、今ある肘の伸展を保つために習慣的な軟部組織に対するワークとたくさんの静的ストレッチを行うように声かけをしています。 不完全な肘の伸展、筋肉的なエンドフィール - この人達は前のカテゴリーによく似ていますが、エンドフィールにもう少し“遊び”があります;それは“コンクリートとコンクリート”のようなエンドフィールではありません。 これはご存知の通り、取り戻すことができるのでとても良いことです。例えばこの選手は、私たちのマニュアルセラピストによる、ほんの数分のグラストンテクニックのトリートメントとフォローアップのストレッチを行うことで15°の肘の伸展を取り戻しました。 毎回のトリートメントで、このような改善を100%保つことを期待しているわけではありませんが、このコースを3−4回繰り返した後には、この選手があるべき状態までたどり着くことができるでしょう。 肘の伸展不足が単独で起こることはほとんどなく、同じようなことが身体の他の部位で起こると考えられます。投擲の選手においては、通常投げるサイドの肩関節の内旋不足、前脚の股関節の内旋不足、そしてその他の固さ/短縮の問題が伴います。一般の人達においては身体中が固まってしまっている人たちに見受けられます - 特に一日中座ってコンピューター作業をしている人達に。

エリック・クレッシー 4188字

スクワットにおける足幅は筋活動へどのように影響を及ぼすのでしょうか?

多くの筋電図による研究は、バックスクワットにおいて、ハムストリングスがアクティブに活動していないことを示しています(例として、エベン, 2009年, ライト, 1999年, マッコウ, 1998年 and パオリ, 2009年)。筋電図での活動はいかに筋肉が活発に活動しているかを示す良い指針とされているため、この結果は、バックスクワットがハムストリングの発達にとっての最適な選択ではないということを示唆しています。 しかし、足幅はスクワット中のハムストリングスの活動量に影響を及ぼすのでしょうか?この研究は、それを解明しようと試みたものです。 研究論文: パラレルスクワット中の脚の筋活動へ対する足幅とバーの負荷の影響、マッコウ、メルローズ、1998年スポーツ&エクササイズの中の医学&サイエンス *** 背景: 研究者たちが研究を行っていた当時、足幅に関するほとんどの疑問は、ボディビルダーたちによって提起されていました。主な疑問は、ハムストリングスの活動に違いがあるのかどうかというものはなく、大腿四頭筋の個々の筋肉において、活動レベルに違いがあるのかどうかということでした。 実際、様々なボディビルディングの雑誌においては、足幅をコントロールすることによって、ある程度大腿四頭筋の異なった部位を強化することができると主張されてもいました。 具体的には、広い足幅は内転筋群と内側広筋を活性化し、狭い足幅はより外側広筋を活性化すると信じられていましたが、これらの主張がなされた当時、それ以前に、これが事実か否かを検証するための研究はなされていませんでした。 *** 研究者たちは何をしたのでしょうか? 研究者たちは、異なった足幅で、大腿直筋、内側広筋、外側広筋、長内転筋、大腿二頭筋、大臀筋の筋電図による活動を調査したいと考えていました。彼らは7 ± 2年のレジスタンストレーニングの経験を持つトレーニングされた男性9名を集めました。彼らのスクワットの1RMは118 – 250kgでした。 研究者たちは、被験者が1RMの60%と75%でスクワットを行っている間に表面電極を使ってこれらの筋肉の筋電図での活動を測定しました。被験者はそれぞれの負荷で3つの異なった足幅:狭い(肩幅の75%)中間(肩幅)広い(肩幅の140%)でのスクワットを実施しました。被験者は各自、股関節の開き具合等によって、心地の良い足の位置を選択することが許されました。 研究者たちは、それぞれの筋肉の最大随意等尺性収縮(MVIC) への筋電図を正規化しませんでした。最大随意等尺性収縮(MVIC) への筋肉の活動を正規化することによって研究者たちは、その最大能力に対して筋肉がどれほど活発に活動しているかを知ることができるにも関わらず、彼らは単に値をミリボルト(mV)で記録しました。これは明らかに不利益といえます。 他の筋肉群よりも、より多くの脂肪で覆われている筋肉群においては、脂肪が筋肉のテストの妨げとなり、筋電図の値が低く表示されます。それ故、電圧(mV)の数値のみを見ても、様々な筋肉の相対的な筋電図の活動に関しての、強固な結論を引き出すに十分な情報を与えてくれることにはなりません。しかしながら同じ筋肉の、異なる状態(足幅)においての筋電図の活動を比較することは可能です。 *** 何が起こったのでしょうか? 1RMの60% の負荷にて 研究者たちは、下記のグラフで表されている通り、狭い、中間、広い足幅でのスクワット中、どの筋肉においても筋電図の活動に著しい違いはないことを発見しました。 加えて、グラフが示す通り、1RMの60% の負荷においては、より多数の被験者をテストすれば、明らかな影響があったかもしれない、と示す傾向さえも見当たりませんでした。さらに筋電図の活動レベルは正規化されなかったにも関わらず、ハムストリングスや大臀筋と比較して、大腿四頭筋の筋電図の活動レベルがいかに大きかったかが記述されていたということは有益です。 1RMの75% の負荷にて 研究者たちは、下記のグラフで表されている通り、狭い、中間、広い足幅でのスクワット中、大臀筋以外の、どの筋肉においても筋電図の活動に著しい違いはないことを発見しました。 詳細には、研究者たちは、1RMの75% の負荷における大臀筋の活動は、狭い足幅よりも広い足幅での方が明らかに大きいことを発見しました。しかしながら、広い足幅と中間の足幅の間、そして中間と狭い足幅の間には著しい違いはありませんでした。 足幅による筋電図の活動における違いは、多くの研究が示しているように、大臀筋の繊維が、その長さが長い時よりも短い時により活発に活動する傾向にあることに起因しているようです。広い足幅をとることで、股関節は大きく外転し、大臀筋は短縮します。また、広い足幅をとることで、股関節は通常外旋する傾向にあり、これによって筋繊維は、また短縮します。 *** 他の研究結果の調査 この研究の結果は、パオリ(2009年)によって行われた同様の研究によって支持されています。この研究において、研究者たちは3年間のレジスタンストレーニングの経験を持つ6名のトレーニングされた男性被験者たちの、内側広筋、外側広筋、大腿直筋、半腱様筋、大腿二頭筋、大臀筋、中臀筋、大内転筋の筋電図の活動をテストしました。 研究者たちは3通りの足幅(左右の大転子間の距離の100, 150, 200%)と3つの負荷(1RMの 0, 30 、70%)をテストしました。1RMの70%において、ここでも、研究者たちは、大臀筋のみがそれぞれの足幅間で筋電図の活動の度合いにおいて著しい違いを示したことを発見しました。このテストにおいても、同様に、広い足幅が狭い足幅よりもより大きい筋電図の活動を表しました。下記のグラフはその結果を表しています。 ここでも又、筋電図の活動レベルは正規化されなかったにも関わらず、ハムストリングスや大臀筋と比較して、大腿四頭筋の筋電図の活動レベルがどれほど大きかったかが記述されていたということは有益です *** 研究者たちはどのような結論をだしたのでしょうか? 研究者たちは、バックスクワット中の足幅は、大腿四頭筋やハムストリングスの筋活動の割合に影響をおよぼさない、という結論に至りました。しかしながら、彼らはより広い足幅は大臀筋の活動の増加につながると記述しています。 *** 制限要素な何なのでしょうか? 上に記述されている通り、研究には、それぞれの筋肉の最大随意等尺性収縮(MVIC) への筋電図を正規化しなかったということにおいて制限がありました。むしろ彼らは、単に値をミリボルト(mV)で記録しており、これには明らかな不利益があります。他の筋肉群よりも、より多くの脂肪で覆われている筋肉群においては、脂肪が筋肉のテストの妨げとなり、筋電図の値が低く表示されます。それ故、電圧(mV)の数値のみを見ても、様々な筋肉の相対的な筋電図の活動に関しての、強固な結論を引き出すに十分な情報を与えてくれることにはなりません。 *** 実践的な意義は何でしょう? ボディビルダーやフィジークアスリートに対して: スクワット中に異なった足幅を使うことは、優先的に大腿四頭筋の異なった部位を強化することにはなりません。それゆえ個々の大腿四頭筋に刺激を与えるには他のエクササイズが必要かもしれません。 スクワット中に広い足幅を使うことは、大臀筋の活動を増やす助けになるかもしれません。これにより、スクワットを大臀筋の強化の方法としてより有益に使うことができるかもしれません。 パワーリフターに対して: 広い足幅でのスクワットは、より大臀筋を使うためにパワーリフターにとっては有益だと証明できるかもしれません。

ストレングス・コンディショニング・リサーチ 3375字

腰痛のケアと予防のためのDVRTトレーニング

人口の80%の人が、経験する腰痛。DVRTのプログラムを使って、股関節の可動性を向上させ、臀筋やハムストリングス、体幹の筋肉群が適切に働くように動きのトレーニングを行うことで、腰痛を予防したり、ケアをしたりするためのアイデアをご紹介します。

ジョシュ・ヘンキン 6:20

怪我からストレングストレーニングへの復帰

怪我をした人々を診る機会や指導する機会があれば、必ず患者やクライアントから「怪我をした後はどのように運動を再開していくのか」という質問を受ける時があるでしょう。すでにフィットネスや筋力トレーニングの経験がある人ならば、怪我の程度によっては、トレーニングへの復帰はそんなに難しいものではないかもしれません。このようなクライアントには、単に個人それぞれの怪我に対するプログラムの調整の仕方を示す、道しるべがあれば良いのかもしれませんが、同時に、私はこの機会を、クライアントに理想のプログラムとはどのようなものかを教える場としても利用しています。 しかし、実際にはフィットネスや筋力トレーニングの経験がない人が、怪我をしたことを運動を始めるための発奮剤として使うことの方がよくあります。素晴らしいことですね。 これから筋力トレーニングを始める人や、怪我から復帰してプログラムを始めるという人にはまず、プログラムを注意深く吟味して、それぞれの怪我に合わせてプログラムを調節してあげることをお薦めします。 良いストレングストレーニングの要素 私はまず、プログラムの総体的な構成要素をみて、フィットネスや筋力トレーニングの評価をします。準備、実践、トレーニングからの回復の、どの側面においても成功するのに必要な一定の要素が含まれていることを確認するのです。 筋力トレーニングの初心者には、これが、成功して運動を続けることができるか、失敗してソファに戻ってだらけてしまうかの明暗をわけるともいえます。 これは怪我からトレーニングへの復帰を目指す人にとってはさらに大切です。プログラムが過度すぎれば、怪我を再発させたくないと思うのは当然です。 私がプログラムに求める要素は以下の通りです。 自己筋膜リリーステクニックとダイナミックなモビリティーエクササイズで構成された、良いウォームアップ トレーニング中に適切に発火できるように、特定の筋群を”活性化”するエクササイズシリーズ レジスタンストレーニングを主としながら、同時に可動性とコーディネーションも向上できるエクササイズの組み合わせ 栄養情報を含む適切な組織の再生戦略 必要性、目標、経験に応じて、個々にとって適切なプログラムを作るための選択オプション 次に私が評価するのは、エクササイズの選択や、順序、ピリオダイゼーションなど、プログラムそのものです。2週間もの間、歩けなくなってしまうような、馬鹿げたエクササイズや構成を含んだプログラムは、筋力ストレーニングをこれから始める人や、怪我からの復帰段階にある人々にとって逆効果です。 残念なことに、世間に出回っている人気エクササイズの中には、利点よりも害をもたらしているものも多くあります。エクササイズが効果的であると同時に不利益を起こさないことを確かめるのに、単純なリグレッション(後退)とプログレッション(漸進)を応用することができます。これには純粋に、技術、運動科学の知識、そして、その人に何が効果があり何が効果がないのか、の理解が必要となります。 本音をいえば、この時点でのこのようなグループの人々のプログラムはシンプルであってほしいと思います。もし派手なエクササイズバリエーションによってプログラムが過度に見えてしまえば、それは怪我からの復帰を試みている人にとって最善なプログラムではないでしょう。

マイク・ライノルド 1444字

レジスタンストレーニングは、前十字靱帯損傷の生体力学的危険要因を減少させることができるか?

多くのストレングス・コンディショニングコーチが傷害予防としてレジスタンストレーニングプログラムを取り入れている。コーチが女性選手に対して予防しようとしている一般的な外傷は、前十字靱帯(ACL)の損傷である。 しかし、レジスタンストレーニングは、ACL損傷の危険要因を減らすことができるのだろうか? この最近の研究はその議題に光を当てた。 バーティカルドロップジャンプ時の、股関節と膝の運動学に対する短期的なレジスタンストレーニングの効果、マッカーディ、ウォーカー、サックス、ウッズ、ストレングス・コンディショニングリサーチジャーナル2012 *** 背景: 過去の研究者たちの多くは、女性選手は男性よりも、よりACLを損傷する傾向にあると認識していた。実際に研究では、同じスポーツを行った場合、女性は男性よりも3-4倍ACLを損傷する可能性が高いであろう、と示している(例:グリンドスタッフ2006年)。 そのため、多くの研究者たちが、女性が男性よりもACLを損傷する危険性が高い理由を見つけようとしてきた。女性は男性に比べ、着地時の膝と股関節の屈曲が少なく、膝の外反の角度がより大きい傾向にあるということが、多くの研究によって発見されていたことから、何人かの研究者たちは、その理由は、爆発的な下半身の運動を行う際の、脚関節角度の動きの違いに関係があるのではないかと示唆した。 ジャンプからの着地における、このような関節角度のパターンは、ACLへの負荷の増加につながる可能性がある。より短い角度の可動域において、同程度の減速の努力が必要とされ、より関節の硬さが必要になる。これにより力がより大きな関節可動域で吸収されるような着地と比較すると、より衝撃の強い着地を生み出すこととなる。 女性が、ACLへの負担の多いこれらの動きのパターンを使う理由として、女性は男性よりも下腿部の筋力が劣るから、という理論がある。実際に下肢の筋力レベルの低さは、ACL損傷の危険因子として報告されている。そのため、レジスタンストレーニングは、ACL損傷の予防として一般的に処方されている。しかしながら、ストレングストレーニングが、実際に爆発的な動きにおける下肢の関節角度を変更できるか否かに関しては明確ではない。 *** 研究者たちは何を行ったのか? 研究者たちは、ドロップジャンプからの両脚、片脚での着地において、荷重負荷レジスタンストレーニングが、女性選手の股関節及び膝の屈曲、そして膝の外反角度に与える影響を調査しようと考えた。 対象者は誰か? 研究者たちは、趣味でスポーツを行っている27名の女性を集め、レジスタンストレーニングのグループと、下半身のレジスタンストレーニングを行わないコントロールグループに分割した。被験者は様々なスポーツ(サッカー、バスケットボール、バレーボール、ソフトボール)を少なくとも1週間に1度のペースで行っており、1年以上のレジスタンストレーニングの経験を持っていた。 研究者たちは何を測定したのか? 8週間に渡るレジスタンストレーニングの前後に、研究者たちは、被験者が片脚、両脚、両方でのドロップジャンプ実施時に計測を行った。片脚でのドロップジャンプは30センチの箱から行われ、両脚でのドロップジャンプは60センチの箱から行われた。 研究者たちはビデオカメラを使用し、股関節と膝の関節角度の動きを測定した。彼らは膝の外反、膝及び股関節の屈曲角度の最大値と平均値を記録した。 レジスタンストレーニングのグループはどのようなトレーニングを行ったか? レジスタンストレーニングのグループは、8週間に渡り1週間に2日、フリーウェイトエクササイズを取り入れた、リニアに期分けされた下半身のプログラムを行った。プログラムの基盤は、両脚でのバックスクワットとルーマニアンデッドリストであったが、トレーニング期間の中盤で片側性のエクササイズが追加された。 被験者は、セット間及び様々なエクササイズの間に2-3分のレストを入れ、全てのエクササイズを2-4セット行った。片側性のエクササイズには、バーベルとダンベルの負荷を使用した、ランジと高さ30.5cmのボックスステップアップが含まれていた。負荷のプロトコールは1RMの50-85%の範囲であった。 *** 何が起こったのか? 関節角度の変化 研究者たちは、 8週間レジスタンストレーニングを行わなかったコントロールグループにおいては、両脚でのドロップジャンプ中の膝の屈曲が著しく減少し (82.4 ± 3.9 から69.6 ± 5.2 度) 、その一方で、レジスタンストレーニングのグループにおいては、膝の屈曲が著しく増加 (77.2 ± 4.1 から83.2 ± 3.7度) したことを報告した。 全ての関節角度における平均の変化は、下記のグラフに表されている。 全体として、唯一の著しい変化は、コントロールグループでは、両脚でのジャンプの着地時に膝の屈曲が減少したこと、そして、レジスタンスグループでは、同じく両脚でのジャンプの着地時に膝の屈曲が増加したことである。しかしながら、それほど著しくない傾向もまた参考となる。 コントロールグループは、片脚、両脚のジャンプ時共に膝の外反が増加し、膝と股関節の屈曲が減少するという傾向を示した。コントロールグループの被験者も又、1年以上のレジスタンストレーニングの経験がある人たちである為、この研究は、根本的にはこのグループにおいては、脱トレーニングの影響を記録しているということを記述する価値があるだろう。 一方、レジスタンストレーニングのグループは、片脚、両脚のジャンプ時共に、(両側の膝の外反ではなく)片側の膝の外反が減少し、膝と股関節の屈曲が増加するという傾向を示した。そのため、総合的に、レジスタンストレーニングのグループは、ACLへの負荷を減少するのに有益である(前頭面での可動域の減少と矢状面での可動域の増加)という傾向を示し、その一方で、コントロールグループは、潜在的によりACLにリスクを持つ(前頭面での可動域の増加と矢状面での可動域の減少)という傾向を示した。 膝の屈曲の可動域が、レジスタンストレーニング後著しく増加した一方、股関節の可動域は増加しなかったということは、興味深いことである。このことは、プログラムに股関節主導(ルーマニアンデッドリフトとランジ)と膝主導(スクワットとステップアップ)のエクササイズが両方含まれているにもかかわらず、着地のコーディネーションが変えられ、より膝主導になっているということを示唆しているのかもしれない。 女性が膝主導のパターンで着地する傾向にある、ということは、以前の研究においても観察されており、これらの結果が男性に対しても観察されるかどうかは明らかでない。股関節の外旋と外転を組合わせた、完全に股関節主導のエクササイズのプログラムが同様な結果をもたらすのか、それとも異なる結果をもたらすのかを調べるのは興味深いであろう。 両脚と片脚でのジャンプの違い 研究者たちは、コントロールグループ、レジスタンストレーニングのグループ共に、膝の屈曲、股関節の屈曲、膝の外反の最大値と平均値の両方に関する限り、ドロップジャンプ中の両脚の測定値は片脚の測定値よりも著しく大きかったと報告している。 これらの片脚と両脚での結果は、膝と股関節における矢状面の角度の平均値と最大値が、両脚でのジャンプにおいてより大きかったことを明らかにしている。これは、同じ高さから飛び降りた時、両脚での着地の方が片脚での着地よりもより柔らかく着地することができるということを示している。これは当然のことのようだが、とても重要な情報である。 この観察を基にすると、片脚で着地することが多い選手は、柔らかく着地し、関節にかかる負荷を減少させるために脚を強化する必要がある。特に女性は、このような状況において、ACLへの負荷を減少させるために脚の筋力が必要である。 研究者たちはどのような結論に達したのか? 研究者たちは、フリーウェイトのレジスタンストレーニングによって、選手はより大きな膝の屈曲を伴い、柔らかく飛び降り着地することが可能になる、と結論づけた。彼らは、下半身の筋肉群を、着地時の負荷を吸収するように向上させることにより、レジスタンストレーニングはACL損傷の危険を減少させるであろうということを示唆している、と提言した。 研究者たちは、ドロップジャンプ時の股関節の屈曲と膝の外反を改善する為には、レジスタンストレーニングと組み合わせて、他のトレーニング方法が必要かもしれないとも提案している。しかしながら、股関節の屈曲においては、膝関節の屈曲のような際立った傾向は見られないため、股関節において同様な効果を生み出す為には、より長期間にわたる、あるいはより高強度の股関節主導のトレーニングが必要かもしれないと示唆している。 *** 制限要素は何か? この研究には、下記のようないくつかの点において制限があった。 研究は女性選手を対象に行われた為、男性選手では異なる結果が得られたかもしれない。 研究は8週間のみ、特に被験者は1週間のうち2回のみしかレジスタンストレーニング行わなかった為、もっと長期での研究がなされたら、さらに顕著な結果が得られたかもしれない。 研究者たちは、関節角度のみを記録し、関節モーメントや筋電図の活動を記録していないが、それらの記録があれば、ドロップジャンプ中に何が起こるかに関する全体像を、より包括的に提供することができたであろう。 ドロップジャンプは両脚で60センチの箱から、そして片脚で30センチの箱から行われたが、選手たちは、いつも両脚でジャンプし両脚で着地するわけでも、片脚でジャンプし片脚で着地するわけでもなかった。加えて、両脚でのジャンプは片脚でのジャンプの半分の高さにしか満たない。この相違により、片脚と両脚のジャンプからの着地のデータは、現実として直接的な比較対象とはなり得ないかもしれない。同じ高さの箱からのジャンプ時の関節角度の動きを考察することによって、よりよい比較が得られたであろう。 その研究は行われたスクワットの方法やスタイルが明記されていなかった。それ故、レジスタンストレーニングの間、膝の外反が観察されていたかどうかを知るのは不可能である。 行われたトレーニングは、股関節主導のエクササイズは一種のみであり、純粋な前額面や横断面の股関節の強化トレーニングは全く含まれていなかった。より多くのエクササイズが行われていれば、また違った結果が得られたかもしれない。 *** 実践的な意義は何か? 女性選手に対して: ACL損傷が多く見られるスポーツを行っている女性選手は、障害のリスク低下のために、両側性、及び片側性の脚の筋力を発達させる必要がある。 片脚でのジャンプからの着地は、矢状面での股関節と膝における関節角度可動域の減少により、両脚の場合よりも、ACLに対する危険性が高い可能性がある。 競技シーズン中などの理由により、レジスタンストレーニングを中止した女性選手は、脱トレーニングの結果によってACL損傷の危険性が増す可能性のあることを知っておくべきである。

ストレングス・コンディショニング・リサーチ 4820字

野球のストレングストレーニングプログラム:ディップスは安全で効果的なのか?

今日、ある野球少年の父から次の質問を受けました。この質問に対する私の答えは、多くの選手にとって役に立つ内容だと思い、これをQ&A形式で書いてみることにしました。 Q:野球選手がバーディップスを行うことについて、どう思いますか?私の息子の高校のコーチが、バーディップスを含むストレングストレーニングプログラムを行っているのですが、私自身は、野球選手にとってのバーディップスの安全性と効果に疑問を持っています。 A:私は、一般のフィットネスクライアントのストレングストレーニングプログラムには、時折ディップスを取り入れますが、野球選手のプログラムに使うことは決してありません。 下記の写真の通り、ディップを行う時には、肩甲骨に対して上腕骨が「ニュートラル」な位置でスタートします。腕は身体の横にあります。(屈曲も伸展もしていません) このエクササイズの遠心性の(下がる)動きでは、上腕骨がニュートラルを遥かに超えて伸展します。 この状態は多くの人の肩にとって、特にオーバーヘッドで投擲をするアスリートの肩にとって、非常に脆弱なポジションです。ご存知のように、水泳、野球、バレーボール、クリケット、テニスなどの選手は何度も何度も繰り返し肩の完全外旋を行うことによって、いわゆる前方不安定性になります。最終的に、レイバック=腕を後ろに位置すると(外旋=骨運動学)、上腕骨頭が前方に変位する傾向がおきます(関節運動学)。 ローテーターカフと、肩甲骨を安定させる筋群の強さが完璧ではなく、発火するタイミングも完璧ではない場合、上腕骨頭が前方に突出するのを防ぐことができるのは、上腕二頭筋長頭腱と肩の前側の関節上腕靭帯だけです。これらの靭帯は時間が経過するにつれ過剰に引き伸ばされ、前方関節包がゆるくなったり、上腕二頭筋腱が安定せずあちこちに動いてしまったり、あるいはオーバーユースにより単に退化していく可能性があります。そして、硬くてごりごりする上腕二頭筋腱を体験したことがある人なら誰でも、それ以上酷使したくないと言うでしょう。 ちょっと余談ですが、これがヨハン・サンタナ投手に象徴される、前方関節包をひだ化(関節包拘縮)する手術がよく行われる一つの理由です。問題は、外科医が関節包を締めた後、ピッチャーが投球動作のレイバックの段階の「感覚」を再獲得できるほど関節包がなじむには相当な時間がかかってしまうことです。さらに経験的に、私は去年、今まで以上に上腕二頭筋腱固定術が行われるのをみました。外科医は、関節唇修復のため患部にアプローチする際に、より状態の悪い上腕二頭筋腱を発見していることでしょう。これらの症状は、肩の構造を根本から変えてしまうため(典型的な関節唇修復はそのリストアをします)、投手にとって、長期的な成功/失敗データのない、大変なリハビリであると同時にこんな疑問を投げかけてきます。「ピッチャーに上腕二頭筋腱は必要か?」 ディップスの話に戻すと、全てのプッシュ系とプル系のエクササイズをニュートラルから屈曲した動きの弧の中で行うように、つまり上腕骨を身体の前方、あるいは身体と平行な位置に保つようにします。これはニュートラルを超えた上腕伸展(ディップスにみられるように)が投球動作同様に、前方不安定性を増す影響を持つからです。 平行バーは、身体のすぐ横に位置できますが、ベンチディップスを行う際、ベンチは必ず身体の後ろに置かなければならないため、ニュートラルな位置からスタートすることさえできないために、ベンチディップスは、更に大きなマイナスの影響を与えます。 まとめると・・・ オーバーヘッドの投擲をする人々にとって、ディップスは良いアイデアではありません。ベンチディップスは、現場にいるコーチにとって便利なため、おそらくよく使われているのですが、特に避けたい動きです。 通常のディップスは、おそらく大半の人々、特に姿勢の悪い人や、肩甲骨周辺を支える筋肉が弱い人、ローテーターカフの機能が低い人、さらには過去および現在肩に痛みがある人にとって行うべきエクササイズではないでしょう。 特に肩鎖靱帯損傷の経歴がある人やこのエリアに慢性的な痛み(例:鎖骨遠位端骨溶解症など)がある人はディップス(およびその他の肘を身体の後ろに位置して行うエクササイズ)は避けるべきです。 ベンチディップスは、全ての人にとって避けるべき、とんでもないエクササイズです。

エリック・クレッシー 1918字

投球は、腕の筋力を“強化”するとは言えない

今日は、野球界で最も不満に感じていることの一つに立ち向かおうとしています: 人々は、投球は腕の筋力を“強化”すると言いますが、残念ながら、そうではないのです。 私が今から書くことは、言葉遊びのように見えるかもしれませんが、とても重要な差別化なのです。もし若い選手が、投球は腕の筋力を強化すると信じているとすれば、彼らは、通年の投球が安全であり容認できると、自分自身をあっさりと納得させてしまうかもしれませんが、実際には、これは、長期的な健康と発達のために、最悪なことの一つなのです。 知っておくべきなのは: 投球は、腕のスピード、つまりパワーを強化します。パワーは筋力に大きく依存しています。もし大きな力を作用させることができなければ、大きな力を素早く作用させることはできません。 また、投球は腕の筋持久力も強化します。筋持久力も、大きく筋力に依存しています。もし筋力がなければ、筋持久力をつけることはできません。 筋力を強化すれば、パワー、筋持久力も、通常向上します。これは、投手やその他の競技者達の両方の状況において、研究で再三再四、証明されています。しかし、パワーと筋持久力を鍛えたとしても、筋力が向上することは、まずありません。そうでなければ、私たちは、シーズン序盤よりも終盤に、数多くのより強靭な選手達をみることができるはずです。現実には、シーズン終了時に回旋腱板の強さと肩甲骨安定筋群の習熟度をチェックしてみると、通常、シーズン序盤よりもかなり低くなっています。マイク・ライノルド理学療法士は、シーズン中の腕の筋力の管理は、“制御された弱化”と、表現しています。 これは、回旋腱板の強度の向上と肩甲骨のコントロールの最適化のための、オフシーズン(投球を全く行わない期間を含む)の使い方の重要性を強調しています。同時に、投手は(投球によって副次的に増大した外旋)後天的な肩の前部不安定性を減少させると共に、肩に受動的安定性を獲得します。 現在、その真偽性を確認するために、より多くの研究を必要としますが、私は、重量を付加したボールの投球の隠れた恩恵は、基本的に腕の筋力とスピードの境界線を不鮮明にすることに役立つことであろうと考えています。

エリック・クレッシー 982字

フォームローリングは、動脈機能にどのような影響を及ぼすのでしょうか?

研究論文: フォームローラーを使用した自己筋膜リリースの、動脈機能への即時的影響、オカモト、マスハラ、イクタ、ストレングス、コンディショニングリサーチジャーナル(未出版) *** 背景 動脈の硬化は、収縮期血圧の上昇につながる可能性があることから、心血管系イベントに対する危険要因となります。動脈硬化は血管内皮機能によって影響を及ぼされます。血管内皮細胞は、よく知られている一酸化窒素を含む、血管作用物質の放出を通じて血管の活動を規制します。 フォームローラーを使用した自己筋膜リリースは、筋肉痛や筋膜の堅さに対してのよく知られている対処法ではありますが、その動脈硬化や血管内皮機能に対する影響は、明白ではありません。動脈の硬化は、脈波伝播速度を用い測定することができます。 *** 研究者たちは何をしたのでしょうか? 研究者たちは、脈波伝播速度を用い、フォームローラーを使用した自己筋膜リリースの動脈硬化や血管内皮機能に対する急性効果を調査するために、10名の運動はあまりしない健康な被験者を集めました。(男性7名、女性3名) 研究では、2つのコンディションが用意されました:フォームローラーを使用しての自己筋膜リリースを行うコンディションと、コントロールされたコンディションです。筋膜リリースを行うコンディションのもとでは、被験者は内転筋群、ハムストリングス、大腿四頭筋、腸脛靱帯、そして僧帽筋を含む背中の上部にフォームローラーを使用しました。 全ての被験者は、ランダム化されたクロスオーバー計画において、異なった日に両方のコンディションを実行しました。2つのコンディションは、少なくとも3日間空けて実行され、研究者たちは、両方の状況下において実行前と実行後の30分で、上腕、足首脈波伝播速度と、血漿一酸化窒素の濃度を測定しました。測定は、被験者が仰向けで30分間休息した後に実施されました。 *** 何が起こったのでしょうか? 脈波伝播速度への影響 研究者たちは、フォームローラーを使用した自己筋膜リリースのコンディション後、上腕、足首脈波伝播速度が著しく減少することを発見しました。(1202 ± 105 から 1073 ± 106 cm/sへ). しかしながら研究者たちは、コントロールされたコンディションにおいては、上腕、足首脈波伝播速度が変化しないことを記述しています。(1198 ± 118 から 1184 ± 105 cm/sへ) 研究者たちは、この2つのコンディションにおける相違は明らかであると記述しています。これらの結果は下記のグラフに表されています。 血漿一酸化窒素濃度への影響 研究者たちは、フォームローラーでの自己筋膜リリース後、血漿一酸化窒素の濃度が著しく上昇することを発見しました。(from 20.4 ± 6.9 から 34.4 ± 17.2 μmol/Lへ) しかしながら、研究者たちは、コントロールした状況においては、血漿一酸化窒素の濃度は変化しなかったことを記述しています。(from 19.1 ± 4.3 から 17.5 ± 4.7 μmol/Lへ) これらの結果は下記のグラフに表されています。 研究者たちはどのような結論を下したのでしょうか? 研究者たちは、フォームローラーでの自己筋膜リリース後、動脈の硬化は(脈波伝播速度の測定による)急激に減少し、血漿一酸化窒素の濃度は著しく上昇するという結論に至りました。それゆえ彼らは、フォームローラーによる自己筋膜リリースは、運動をあまりしない対象者においては、動脈の硬さを減少させ、動脈機能を向上させ、血管内皮機能を改善することができると提唱しています。 *** 制限要素は何なのでしょうか? この研究は、フォームローラーでの自己筋膜リリースにおける急性効果のみを評価しており、何もしない状態との比較のみであったということに制限がありました。今回の研究結果と同様のデータを表示しないかもしれない、ストレッチや軽いエクササイズと自己筋膜リリースとの比較研究があれば、より有益でしょう。 *** 実践的な意義は何でしょう? 一般の方に対して: フォームローリングは、動脈硬化や血管内皮機能に関しての、健康的意義があります。長期的な効果を証明するにはさらなる研究が必要ですが、健康を目的とする一般の人に対して、フィットネスプログラムの中にフォームローリングを組み込むことは意義があるのかもしれません。 ***

ストレングス・コンディショニング・リサーチ 1987字