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ストレングストレーニングは脳震盪の予防に役立つか? パート2/2
トレーニングを通して首の筋力を増大させることは、衝撃中の頭部の加速を減らすか? 長期的なトレーニング調査から、首の筋力をトレーニングで高めることが、頭部に影響を及ぼす衝撃中の頭部の加速を減らすことができるかどうかを知ることができます。しかしながら、これまで、首の筋力トレーニングは頭部の加速の大きさを減少させないようであると研究は示しています(Mansell et al. 2005; Lisman et al. 2012)。 たとえそうだとしても、私たちが席を蹴って立ち去り、脳震盪を予防する別な方法を求めて先に進む前に、いくつか言及することがあります。 第一に、これらの試行で用いられた首の筋力トレーニングプログラムは、実際意図した通りには首の筋力を向上しませんでした。Mansell et al. (2005)の研究では、男性の首の伸展筋力は実際(有意な差ではなかったものの)10%低下しましたが、首の屈曲筋力は向上し、その一方で女性は首の伸展及び屈曲の両方の筋力の向上を示しました。Lisman et al. (2012)の研究では、被験者は首の伸展及び右側屈筋力のみ向上しましたが、首の屈曲あるいは左側屈筋力は向上できませんでした。これは、両方の研究が比較的とても低い負荷を用いていたからかもしれません(Gilchrist et al. 2015)。 対照的に、特定の首の筋力トレーニングを用いた首の筋力及び筋肉の大きさの変化を調査した他の多くの研究は、多数の訓練された基準において、筋力と筋肉の大きさの両方における大きな増加を報告しており(Leggett et al. 1990; Conley et al. 1997; Maeda et al. 1994; Portero et al. 2001; Burnett et al. 2005; Taylor et al. 2006; O’Leary et al. 2007; Kramer et al. 2013)、圧力に基づいた生体フィードバック(バイオフィードバック)をトレーニングで用いることが結果をさらに向上させるだろうという早期指摘があります(Nezamuddin et al. 2013)。 第二に、私はこれらの研究のどれについても、一つ一つのテストデータにおいて、評価された頭部の加速データの信頼性についての言及を見つけることはできません。 Lisman et al. (2012)の試行においては、2つの衝撃間の明らかな差は加速の量を変化するため(私と仲間たちはボクサーのパンチ力の試験再試験信頼度を測る似たような研究をしたことがあり、その信頼度は非常に低いものでした)、試験再試験の信頼度は低いと確信しています。 よりコントロールされていたMansell et al. (2005)の試行では、トレーニング前後の頭部の加速のデータは非常に可変するものであり、それはつまり信頼度はあまりよくなかったということです。そのような変動性は結果をとても“ノイズの多いもの”にし、結果として、私はこれらの首のトレーニングプログラムが頭部の加速を変化させるのに本当に効果的であったのかどうかを判断するのはとても難しいだろうと思います。 そこで、より強い首がより大きな運動エネルギーを吸収することができる理由についての明確な論理的証拠があるとすると、これらの調査は、頭部の加速を顕著に減少させるのに十分なほどの首の筋力は向上しなかったか(特に大きな試験再試験変動性を考えると)、あるいは頭部の衝撃を計測中、頭部の加速を減らすために、被験者が向上した首の筋力をうまく使うことができなかったかのいずれかである可能性が高いでしょう。 つまり基本的に、私はこの問題が終了したとは全く考えていません。私は、首の筋力が実際に向上したところで、頭部の加速のより明らかに信頼性のある結果測定法(尺度)を持つ首のトレーニングの長期的試行をもう少し、そして理想的には、最低一つは首のトレーニング群が衝撃前に首を緊張させる動作練習も行ったような、いくつかの研究を調べたいと思っています。 私たちは将来、動作練習や特定の筋力強化がドロップジャンプ及びストップジャンプ中の膝の内反を減らすために付加的であるのとまさに同じように(Hermann et al. 2009)、それらがこの特定の問題について付加的であることを見つけるかもしれません。 ストレングストレーニングは本当に脳震盪を予防するのに役立つのか? 今のところ、私たちができる最良のことは、衝撃を含むスポーツをプレーするアスリートにおいて、首の筋力の弱さは脳震盪の危険因子の一つであると発言することです。 一つの大きな高校生アスリート群において(サッカー、バスケットボール、あるいはラクロスをプレーする被験者6,704人)、低レベルの首の筋力は、脳震盪発生の増加と関連していました(Collins et al. 2014)。手持式ダイナモメーターを用いて力を計測したところ、首の筋力が1パウンド増加するのに伴い、脳震盪の発生率は5%減少しました。 問題は、首の筋力が大きいことが、首の筋力の増加は必ず脳震盪のリスクを減らすということを意味しているのではないということです。プレーには交絡因子があり、それらが関連性を生み出しているのです。 どのエクササイズが首の筋力を高めるのか? 私たちは、アイソメトリックとダイナミックな方法両方を用い、エラスティックバンド、フリーウエイト、あるいはマシンのいずれかを用いて負荷を加えた首の特定の筋力トレーニングエクササイズすべてが、首の筋力を高めることができることを知っています(Hrysomallis, 2016)。 スクワットやデッドリフト、オリンピックウエイトリフティングの派生種目、そしてベントオーバーロウのような大きなコンパウンドエクササイズをすることによって、同じような首の筋力の向上が得られるだろうと仮定したくなってしまうかもしれませんが、これは真実ではありません。 一つの重要な研究では、2つの長期的なトレーニングプログラムの効果を比較し、片方のプログラムには大きいコンパウンドリフティング(スクワット、デッドリフト、プッシュプレス、ベントオーバーロウ、そしてミッドサイ・プル)のみ、そしてもう片方にはこれらのエクササイズに加え頭部伸展エクササイズが含まれていました(Conley et al. 1997)。 この研究では、ターゲットとされた頭部伸展エクササイズは首の筋力を33.5%向上させ、首の断面積を12.8%(主に頭板状筋、そして頭部半棘筋及び頸部半棘筋)増加させましたが、大きなコンパウンドリフティングだけでは首の筋力も断面積も向上しませんでした。 そうです、私もデッドリフトは好きですが、デッドリフトは分厚く強い首を与えてはくれません。 そのため今のところ、首の筋サイズ及び筋力を向上させるためには特定の首のエクササイズが必要であり、そしてこの種の筋力強化はただスクワットやデッドリフトをするだけでは不可能なようです。 結論 小さくて弱い首を持っていることは、衝撃を伴うスポーツ中に脳震盪を起こすリスクを高めるようです。より高い筋力を持つことによって、筋肉は身体に与えられた力を吸収しやすくなり傷害リスクを低下させるため、このことは納得がいきます。たとえそうだとしても、首の筋力強化がトレーニングにおいて有害な結果をどれほど生じるかについては正式に評価されていないため、実施する際には注意深いリスク評価と用心が必要です。 さらには、首の筋力強化だけでも有益かもしれませんが、それだけを用いた場合、脳震盪を引き起こす頭部の加速の大きさに本当に影響を与えるのには十分ではないかもしれません。現時点では、迫り来る衝突を認知すること、そして首及び僧帽筋の筋肉を衝撃の前に緊張させることは、首の筋力あるいは首の筋力強化よりももっと信頼性のある頭部の加速への効果をもたらすようです。 これらのポイントを合わせて、私たちは、頭部の加速を生じる衝撃時のエネルギー吸収を向上させるために、いくらかの動作練習及び首の筋力強化を、傷害予防プログラムの中に組み込むかどうか考慮しても良いかもしれません。動作練習には、首の筋肉を緊張させること、マウスガードを噛みしめること、あるいは身体の他の部分への力伝達のために好ましい姿勢を練習することなどがあるでしょう。 参照 Barth, J. T., Freeman, J. R., Broshek, D. K., & Varney, R. N. (2001). Acceleration-Deceleration Sport-Related Concussion: The Gravity of It All. Journal of Athletic Training, 36(3), 253. Bauer, J. A., Thomas, T. S., Cauraugh, J. H., Kaminski, T. W., & Hass, C. J. (2001). Impact forces and neck muscle activity in heading by collegiate female soccer players. Journal of Sports Sciences, 19(3), 171-179. Blennow, K., Hardy, J., & Zetterberg, H. (2012). The neuropathology and neurobiology of traumatic brain injury. Neuron, 76(5), 886-899. Broglio, S. P., Schnebel, B., Sosnoff, J. J., Shin, S., Feng, X., He, X., & Zimmerman, J. (2010). The biomechanical properties of concussions in high school football. Medicine & Science in Sports & Exercise, 42(11), 2064. Burnett, A. F., Naumann, F. L., Price, R. S., & Sanders, R. H. (2005). A comparison of training methods to increase neck muscle strength. Work, 25(3), 205-210. Collins, C. L., Fletcher, E. N., Fields, S. K., Kluchurosky, L., Rohrkemper, M. 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ストレングストレーニングは脳震盪の予防に役立つか? パート1/2
脳震盪は、今注目の話題です。議論のほとんどが、防具の使用についてや、あるいは競技の危険性を減らすためにどのようにルールを変更するかということに注目しがちですが、ルールの変更は長年のファンたちを挑発してしまうかもしれないものです。 対照的に、ストレングストレーニングが脳震盪の発生を減らす可能性があると想像する人はあまりいません。しかし、それがまさに一部の研究者たちが調査してきていることなのです。 研究の中には少し分かりにくいものもありますが、私はストレングストレーニングが脳震盪の発生を減らせるかもしれない理由についていくつか考えがあります。 脳震盪とは何か? 見解報告書では、通常脳震盪を以下のように定義しています: 「生体力学的力により引き起こされる、脳に影響を及ぼす複雑な病態生理学的過程(McCrory et al. 2013)」 あなたは「生体力学的力により引き起こされる」という部分を「頭を強く打たれること」と解釈したくなってしまうかもしれませんが、実際にはそれは少し間違っています。 スポーツ医学研究を定期的に読んでいない人が知ったら驚くかもしれませんが、事実、脳震盪を引き起こすには、生体力学的力が直接頭に与えられなくてはならないというわけではないのです。実際に同じ見解報告書の中で下記を知ることができます: 脳震盪は、頭部へ伝達される“衝撃的”力を伴う頭部、顔、首、あるいは身体の他の部位への直接の強打によって引き起こされる(McCrory et al. 2013) 私はスポーツ医師である仲間たちから、実際に多くのスポーツでは頭を打たれることが脳震盪の一般的な原因であると教わっていますが、脳震盪は頭を強く打たれなくてはならないという考えは正確ではないのです。 たとえそうだとしても、このことはあなたに何が脳震盪を本当に引き起こしているのだろうか?と考えさせませんか? 脳震盪を本当に引き起こすものは何か? 脳震盪は、与えられた外力によって頭部が大きく加速または減速をすることで起こります(Broglio et al. 2010; Blennow et al. 2012)。この外力によって頭部のスピードが突然変えられると、脳はそれまで進んでいた方向に進み続け、それによって内的な力が生じることになります(Guskiewicz & Mihalik, 2006)。 先ほど言及したように、これらの外力は、何も装着していない頭部への強打のように直接与えられることもあります。また、それらの外力がむち打ち効果で身体の別な部位に間接的に与えられる、ということも稀にあります(Tucker, 2014)。 生体力学的に、私たちは頭部に与えられた加速または減速を、三つの運動面(矢状面、前額面、そして水平面)に分解して評価することができます。文献では、よくそれらを直線的運動(矢状面または前額面)と回旋的運動(水平面)として分類しています(Meaney & Smith, 2011)。これらの加速または減速によって、剪断荷重と圧力の両方が脳にかかります。 回旋的運動の方が脳内でより大きい剪断力を生み出す能力が高い可能性があるため、回旋的運動は直線的運動よりもわずかながら脳震盪を引き起こす可能性が高いようです。どちらのタイプの運動も脳震盪を引き起こしますが(Broglio et al. 2010)、回旋的運動の方がより大きなダメージを与えると考えられています(Zhang et al. 2004; Kleiven, 2007; Forbes et al. 2012)。 正確なメカニズムが何であれ、私たちに必要なものは、衝撃中にエネルギーを吸収するのを助けることのできる何かのようです。それによって頭部に伝達される運動エネルギーをより小さくし、身体の他の部分でもっと消散されるようにできるでしょう。 もしかしたら、首のストレングストレーニングがその役目を果たせるでしょうか? 首のストレングストレーニングによって、頭部に影響を及ぼす衝撃中により多くのエネルギーを吸収できるようになるだろうか? もしストレングストレーニングが衝撃中にエネルギーを吸収する筋肉の能力を高めることができるのであれば、それはいくらかの脳震盪が起こるのを防ぐのに役立つかもしれません(Barth et al. 2001; Cross & Serenelli, 2003)。 私たちは、下半身のストレングストレーニングが、ドロップジャンプを含む多くの運動動作において筋肉のエネルギーを吸収する能力を高められることを知っています。 また、私たちは、このストレングストレーニングによって向上したエネルギーを吸収する能力は、筋力の向上によって引き起こされること、更に具体的に、特定の伸張性筋力の向上によるものであろうと推測しています。 それでは、特定の首のストレングストレーニングエクササイズは、運動エネルギーが頭部に届く前、あるいは衝撃が直接頭部に与えられたときのいずれかにおいて、それが運動エネルギーを吸収する能力を発達させるのに役立つのでしょうか? その可能性は大いにあります。 研究は、この質問を様々な方法で調査することができます。 第一に、私たちが電極で計測することのできるアクティベーションの度合いは、筋肉が生み出す力の量と関連していることから、筋電図(EMG)調査は、頭部の加速の要因となる衝撃中の首の筋肉の機能を見るための手段を提供してくれます。 第二に、関連性を調査している観察調査は、首の筋力がより強い人たちは、衝撃中に受ける頭部の加速がより小さくなる傾向があるかどうかを私たちに示してくれます(もちろん、首の筋力があるからといってそれが使われているという保証はないのですが)。 第三に、介入を用いた長期的調査は、頭部に影響を及ぼす衝撃中に経験する頭部の加速量を、首の筋力トレーニングが実際に変化させるかどうかを教えてくれます。 首の筋肉のより大きいアクティベーションは、衝撃中の頭部の加速を減らすか? 筋電図調査は、私たちに運動中の筋肉の習性について多くのことを伝え、またそれは頭部に影響を及ぼす衝撃中の首の筋肉を調査するとき特に有益です。 例えば、ハムストリングがスプリントで着地(グラウンドコンタクト)する前にプレアクティベーションをする時と同じように、首の筋肉と僧帽筋は、サッカーボールをヘディングする際、ボールが当たる前にプレアクティベーションをします(Bauer et al. 2001)。 このことは、衝撃時に放出する前に弾性エネルギーを蓄える、首の筋肉の伸張性収縮を伴う準備反応があることを示唆しています(Dezman et al. 2013)。この準備反応は、なぜ差し迫った衝撃への認知が頭部の加速を減らすのかを説明しているかもしれません(Kumar et al. 2000)。 加えて、首の筋肉のより高いアクティベーションは、制御試験での頭部の加速の減少と関連しており(Eckner et al. 2014)、衝撃時に首の筋肉のアクティベーションを高めるためにマウスガードを噛みしめることにより、ラグビーのドリル中(Hasegawa et al. 2014)、そしてサッカーボールをヘディングした時(Narimatsu et al. 2015)の両方において、頭部に与えられた加速が減少しています。 マウスガードを噛みしめることで頭部の加速は減少する 筋肉のアクティベーションはその筋肉により生み出された力に関連することから、これらの発見は、衝撃時に首の筋肉によって発揮されたより大きな力が頭部の加速の減少を導くことを示唆しています。 より大きな首の筋力は衝撃中の頭部の加速を減らすのか? 観察調査では、首の筋力がより高い人は、頭部に影響を与える衝撃中に受ける頭部の加速がより低いのかどうかについて知ることができます(上でも述べたように、単に筋力を持っているからと言ってそれが使われるという保証はないのですが)。 この調査は、一セッション中(横断調査)あるいは競技シーズンを通して(縦断調査)、首の筋力及び頭部の加速についてのデータを記録することによって行うことができます。 Tierney et al. (2005; 2008)は、二つの似たような調査の中で男女のグループを比較し、首の筋活動を事前に始動し、最大能力のより高い割合まで上げていたにも関わらず、女性のピーク加速が男性よりも大きかったことを発見しました。これは女性の首のサイズがより小さいことに加え、首の筋肉の最大等長性(アイソメトリック)筋力がより低いからかもしれません。複数の研究が、女性は男性よりも脳震盪の受傷リスクが高いことを示唆しているように、これは極めて重要なことです(Covassin et al. 2003; Dick et al. 2009)。 他の研究者たちは、一回のテストセッション中の単一被験者グループ内における、頭部の加速と首の筋力との関連性を調査してきました(Dezman et al. 2013; Schmidt et al. 2014; Gutierrez et al. 2014; Eckner et al. 2014)。彼らは相反する結果を報告しており、非アスリートを使った2つの研究では、より大きな首の筋力は頭部の加速の減少と関連していないと報告しており(Dezman et al. 2013; Schmidt et al. 2014)、またコンタクトスポーツのアスリートにおける2つの研究では、その関連性があることを発見しています(Gutierrez et al. 2014; Eckner et al. 2014)。 シーズン開始時の首の筋力を評価し、その後経時的に頭部の加速を測定した別の研究では、2つの変数の間に関係は見つかりませんでした(Mihalik et al. 2011)。しかしながら、調査の対象者が皆同じ数、または同じような性質の衝突を受けているわけではないことは明らかであり、シーズン中のプレー固有の変動性は、これらの調査結果を評価するのを難しくしています。 全体的に見て、このことは、首の筋力は一要素であるとはいえ、常習的に頭部の加速を受けているアスリートの被験者は、衝撃に対し身構えるために首の筋力を十分に使うことがより良くできるということを示唆しているでしょう。その一方で、トレーニングを積んでいない人たちは、頭部の加速に抵抗するために首の筋力を効果的に使うことができない可能性があり、このことが頭部の加速と首の筋力との関連性を減らしてしまうのかもしれません。 参照 Barth, J. 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スプリントのためのレジスタンストレーニング
目的 この記事は、趣味としてトレーニングを行う、もしくは高度にトレーニングを行う成人アスリートのいずれかにおいて、従来のレジスタンストレーニングは、スプリントスピードを向上するためにどの程度効果的であるかということを堤示している。 背景 序論 レジスタンストレーニングは、スポーツパフォーマンスを向上するための、極めて伝統的な方法のひとつである。それは筋力および筋サイズを増加し、アスリートの力生成能力を向上する。レジスタンストレーニングの幅広い導入以前、多くのコーチたちは、ウェイトリフティングは(エクササイズが競技に特化していないため)無効であり、アスリートを大きく、強く、そして筋骨隆々とするため、彼らを減速するであろうと信じていたが、後にこの批評は不当であるということが発見されている。興味深いことに、30-40年前にレジスタンストレーニングの反対者により行われた議論と、現在、高負荷レジステッドスプリントトレーニングの使用に反対するコーチたちによる議論には、多くの共通項が見られる。レジステッドスプリントトレーニングと同様に、レジスタンストレーニングの際の実際の負荷は、(スクワットやデッドリフトのような軸方向エクササイズを使用する)垂直方向、もしくは(プルスルー、ヒップスラスト、グルートブリッジ、もしくは水平バックエクステンションのような、前後方向のエクササイズを使用する)水平方向のどちらも有りえる。 動作のメカニズム レジスタンストレーニングが、スプリント速度を向上するためのトレーニングプログラムに一般的に含まれるようになったのは、過去数十年ほどのことである。レジスタンストレーニングは、その低速における力生成を向上する能力により効果的であり、また、本来筋肉に備わっている力対速度の関係により、より高速における力生成能力を向上する。 メタ分析 趣味としてトレーニングを行うアスリート レジスタンストレーニングは、スプリント速度を向上するために広く調査されているため、様々な研究のメタ分析が可能である。ルンプおよびその他(2014年)は、趣味としてのアスリートにおける、スプリントパフォーマンス向上のための異なるトレーニング方法の影響に関し、メタ分析を行った。最初に彼らは、トレーニング方法を特異(スプリントもしくはレジステッドスプリント)、および非特異(プライオメトリック、レジスタンストレーニング、及びバリスティックトレーニング)へと分類した。彼らは、趣味としてのアスリートにおいて、スプリント速度を向上するために、特異および(レジスタンストレーニングのような)非特異両方のトレーニングは同様に効果的であったと記述している。実際に数人の研究者たちは、一般的なレジスタンストレーニングおよび特にスクワットエクササイズは、スプリント能力を向上するために効果的であるということを確認している。クローニンおよびその他(2007年)は、研究論文を再考察し、長期のレジスタンストレーニングプログラムから得られる最大スクワット強度の増加は、スプリントタイムの減少と関係があるということを報告している。しかし彼らはまた、趣味としてトレーニングを行うアスリートにおいて、有意義なスプリントタイム減少のためには、スクワット強度の大幅な増加が必要であると記述している。具体的に彼らは、約2%のスプリントタイムの減少のためには、約23%のスクワット強度の増加が必要であると観察している。より最近にはサイツおよびその他(2014年)が、(バックスクワットの1RMによる測定において) 下半身の筋力の増加と、40m以下の距離におけるスプリントパフォーマンスの間の長期的な関係を調査している。彼らは、スクワット効果量およびスプリント効果量の間において、統計的に有意である比較的大きな(R-squared = 0.60)相関関係を報告している。これは、1RMバックスクワットおよび短距離スプリント能力の間における密接な関係を発見した過去の筋断面解析(例、ヴィスロフおよびその他、2004年)を支持している。ゆえに一般的なレジスタンストレーニング、特にバックスクワットエクササイズは、スプリントパフォーマンスを向上することが可能であるということは比較的明白である。しかし両方の研究は、非常に限られたトレーニング経験しかない人を含む、広範な被験者を含んでいたという点で制限があった。上記の分析から、十分にトレーニングされた個人がより少なく除外されていた場合、そのような強い関係が存在していたかどうかは明確ではない。 高度にトレーニングされたアスリート 上記のようにメタ分析は、レジスタンストレーニングはスプリント能力を向上することが可能であり、また、彼らの比較的浅いトレーニング経験にもかかわらず、趣味としてトレーニングを行うアスリートにおいて、最大スクワット強度の増加はスプリントタイムの減少と関連があるということを報告している。このような発見は、高度にトレーニングされたアスリートに対しても、少なくともある程度は適用されるようである。実際にヴィスロフおよびその他(2004年)は、国際的レベルの男性サッカー選手において、最大スクワット強度および短距離スプリントパフォーマンス間の強い断面的相関関係を報告している。ルンプおよびその他(2014年)は、高度にトレーニングされたアスリートにおける、スプリントパフォーマンスに対する様々なトレーニングタイプの影響に関し、メタ分析を行った。最初に彼らはトレーニング方法を、特異(スプリントもしくはレジステッドスプリント)および非特異(プライオメトリックス、レジスタンストレーニング、そしてバリスティックトレーニング)に分類した。彼らは、特異および非特異な両方のトレーニング方法は効果的ではあると発見している。しかしながら彼らは、高度にトレーニングされたアスリートに対しては、レジスタンストレーニングのような非特異な方法は効果が低いということを記述している。彼らは、アスリートが既に筋力、パワー共に発達した基板を持ち、これは、追加のレジスタンストレーニングにより更に向上しなかったことに起因している可能性があると示唆している。高度にトレーニングされたアスリートは、相当量の最大スクワット(もしくは他のエクササイズ)強度を発達させることは不可能であるようであるという事実と併せ、これは、高度にトレーニングされたアスリートは、非特異な方法を使用する時間を減らし、より多くの時間を特異な方法に費やすべきであるということを示唆している可能性がある。 アスリートにおけるレジスタンストレーニングのスプリント速度への影響 研究選択基準 集団 – 趣味としてトレーニングを行う、もしくは高度にトレーニングされた成人アスリート 介入 – レジスタンストレーニング 比較 – ベースライン、ノーマルトレーニングコントロール、ノートレーニングコントロール 結果 – 100m以下の距離におけるスプリントパフォーマンス 結果 以下の研究が選択基準に適合していると確認された:フライ(1991年)、ホフマン(1991年)、ウィルソン(1993年)、ウィルソン(1996年)、マーフィ(1997年)、ハリス(2000年)、ブレイゼビッチ(2002年)、アスクリング(2003年)、ホフマン(2004年)、コチャマンディス(2005年)、ドッド(2007年)、レネスタッド(2008年)、ムジカ(2009年)、シェリー(2009年)、ヘルガード(2011年)、ヘルマシー(2011年)、レネスタッド(2011年)、ロッキー(2012年)、コンフォート(2012年)、サンダー(2013年)、ロツゥーコ(2013年)、クードラスキー(2014年)、ブリット(2014年)、トーマス(2014年)。これらの研究のほとんどは、レジスタンストレーニングは、アスリートにおけるスプリントパフォーマンスを向上するということを発見している。バックスクワットが使用されていなくとも向上が観察されたといういくつかの例(例:アスクリングおよびその他、2003年)は存在するが、含まれている研究の多くはバックスクワットを使用していた。 スプリント速度に対する、レジスタンストレーニングの際の負荷の影響 研究選択基準 集団 – 趣味としてトレーニングを行う、もしくは高度にトレーニングされた成人アスリート 介入 – 2つ以上の異なる負荷(つまりバー速度)におけるレジスタンストレーニング 比較 – ベースライン、ノーマルトレーニングコントロール、ノートレーニングコントロール、および異なる負荷におけるレジスタンストレーニング 結果 – 100m以下の距離におけるスプリントパフォーマンス 結果 以下の研究が選択基準に適合していると確認された:ハリス(2000年)、ブレイゼビッチ(2002年)。両方の研究は、低速および高速でのレジスタンストレーニングの間における差違を発見しなかった。これは、トレーニングされたアスリートにおいて、より低負荷およびより速いバー速度を使用することは、レジスタンストレーニングからのスプリントへの適応を最大化するために重要ではないかもしれないということを示唆している。 レジスタンストレーニングの際の、スプリント速度に対するエクササイズの影響 研究選択基準 集団 – 趣味としてトレーニングを行う、もしくは高度にトレーニングされた成人アスリート 介入 – 2つ以上の異なるエクササイズにおけるレジスタンストレーニング 比較 – ベースライン、ノーマルトレーニングコントロール、ノートレーニングコントロール、および異なる負荷におけるレジスタンストレーニング 結果 – 100m以下の距離におけるスプリントパフォーマンス 結果 以下の研究が選択基準に適合していると確認された:スピアーズ(2015年)。この研究は、両脚スクワットおよび後ろ足を挙上したスプリットスクワットトレーニングの間において、チームスポーツを行うアスリートにおけるスプリント能力の向上に差違はないということを確認している。これは、トレーニングされたアスリートにおいて、下半身の筋肉を発達させるために、ここで使用されたタイプのエクササイズは、レジスタンストレーニングからのスプリントへの適応を最大化するために重要ではないかもしれないということを示唆している。 スプリントに関する結論 様々なエクササイズを使用したレジスタンストレーニングは、アスリートにおけるスプリントパフォーマンスを向上させるために効果的なようである。低負荷およびより速いバー速度を使用することは、高負荷および遅いバー速度の使用に比べ、よりよい結果を生み出すわけではないようである。現在のところ、エクササイズ選択の影響は明確ではない。 高度にトレーニングされたアスリートは、レジスタンストレーニングのような非特異な方法からはより少ない恩恵しか受けない可能性があるが、趣味としてトレーニングを行うアスリートは、特異および非特異両方の方法から同様に恩恵を受ける可能性がある。
ジャンプスクワットをトレーニングするために最適な負荷とは? パート2/2
何が起こったのか?(続き) 内部(関節)出力 研究者たちは、股関節におけるパワーに対する有意な二次傾向が存在しており、それは1RM の42%の最大値に至るまで増加し、その後減少しているということを発見している。研究者たちはまた、膝関節、足関節におけるパワーは一次傾向に従い、負荷の増加に伴い有意に減少していたということを発見している。 様々な関節の出力は非常に異なるため、絶対値から成るグラフよりそれを見て取ることは非常に困難である。ゆえに私は値を各関節における1RMの0%の出力の割合として表した。これはデータを示す科学的な方法ではないが、傾向における差違をみるためにはこれ以上にわかりやすい方法は無いだろう。股関節のパワーは42%までは曲線状となっているが、膝関節および股関節のパワーは直線的に減少している。 このグラフは一見乱れているように見えるが、股関節のパワー(最も濃い色のグラフ)を切り離して考えると、膝関節および足関節のパワーは同様の反応を示し、負荷の増加と共に、ただ減少しているということがわかる。 研究者たちはどのような結論に達したのか? 研究者たちは、ジャンプスクワットの際の下半身の各関節における出力は、外部負荷に比例して変化するわけではないという結論に至った。研究者たちはまた、負荷の増加に伴い膝関節及び足関節における出力は減少するが、股関節における出力は1RMの42%の負荷に至るまで増加すると結論付けている。さらに研究者たちは、1RMの特定の割合の負荷を使用することは、使用する負荷により、股関節、もしくは膝・足関節のパワーの優先的な向上につながる可能性があるという結論に至った。これは下記のグラフにおいて見ることが可能である。 上のグラフは、股関節及び膝関節のパワーの相対的貢献が、使用する負荷により変化するということを示している。1RMの0%においては、膝関節のパワーは股関節のパワーに比べより一層顕著であり、1RMの42%では、両関節は同様の貢献をしているようである。さらに負荷が増加するにつれ、股関節のパワーは膝関節パワーに比べより急速に減少しており、膝関節の相対的貢献が再び増加している。ゆえにジャンプスクワットにおいて1RMの42%にてトレーニングを行うことは、股関節伸展のパワーを最大化するようであり、一方1RMの0%にてトレーニングを行うことは、膝関節のパワーの相対的貢献を強調するようであり、脚部の筋肉のこの側面をより効果的に強化するようである。 制限要素は何か? 上記のように、エクササイズにより最適なパワーは幅広く異なっているため、関節のパワーもまたエクササイズにより異なるようである。ゆえにこの研究はジャンプスクワットのみの分析であったということが制限であり、ヘックスバージャンプスクワットやオリンピックリフトのバリエーション、またはその他の爆発的なリフトでは異なる結果が得られたかもしれない。 実践的な意義は何か? 総合的な下半身のパワー向上に対して 最適な単一の負荷よりも、広範囲の負荷を用いてジャンプスクワットをトレーニングする方が、より優れているかもしれない。単一の負荷にてトレーニングすることにより、股関節のパワーは最大値に至るまでトレーニングされないようである。1RMの0%および1RMの40%というように、少なくとも2つの負荷が好ましいであろう。 アスリートの垂直跳びを向上させるために アスリートは、股関節主導もしくは膝関節主導どちらかのジャンプスタイルを持つ傾向にある。ゆえにアスリートが好むジャンプスタイルにおけるパワーを向上させることに役立つ、適切な種類のジャンプスクワットの負荷を割り当てることは、彼らの垂直跳びのパフォーマンスを向上させるために重要である可能性がある。 特定のスポーツに対するパワー向上のために ジャンプスクワットに対する負荷を選択する前に、そのスポーツにおいて必要とされるパワーを特定することが重要であるかもしれない。例えば、最大パラレルスクワットにおいては膝関節トルクよりも、比較的より高いレベルの股関節トルクが関係しているということを考慮に入れると、パワーリフターにとって、約40%のジャンプスクワットの負荷において股関節のパワーを鍛えることは、1RMの0%の負荷において膝関節のパワーを鍛えることよりもより有益であるかもしれない。しかしながら、ここにおいてもこれは各個人のスクワットのスタイルに依存するようである。
ジャンプスクワットをトレーニングするために最適な負荷とは? パート1/2
ジャンプスクワットは、あらゆる種目のアスリートに対し、爆発的なパワーを向上させるために付加される、ほとんどのストレングス&コンディショニングプログラムへにとって人気のあるエクササイズである。また、大抵の研究者やコーチたちは、ジャンプスクワットの出力に対する最適な負荷が存在し、それは通常バックスクワットの1RMの0%である(無負荷、つまり自重のみ)ということを知っている。しかしながら、全体的な総脚力は1RM の0%において最大であるかもしれないが、それが股関節、膝関節、足関節のパワーが同じ負荷においてすべて最大であるということを意味しているわけではない。この論説ではクリス・ベアスリー(@SandCResearch)が、まさにこの論点を調査している研究論文の再考察を行う。 研究論文:ジャンプスクワットの際の身体および下半身の動力学に対する負荷の影響、モワール、ゴリー、デービス、グアーズ、ウィトマー、スポーツ生体力学、2012年 背景 パワーはスポーツパフォーマンスの重要な決定要因であり、エクササイズ、レップ及びセット数、回復期間、また1RMに対し使用する負荷により変化する。 使用される負荷に関して研究者たちは、一般的にこれはエクササイズにより幅広く異なるということを発見している。従来のレジスタンスエクササイズに関してシーゲル(2002年)は、スクワットの1RMの50-70%の負荷における最大出力、およびベンチプレスの1RMの40-60%の負荷における最大出力を報告している。同様にコーミア(2007年)は、ジャンプスクワットに対する最適な負荷は1RMの0%、スクワットに対しては1RMの56%、またパワークリーンに対しては1RMの80%であったということを発見している。 パワーを測定する際、ほとんどの研究は外部負荷に対し働く力に焦点を当てており、それは身体とバーベルの変位特性を参照することにより測定される。しかしながら、個々の関節もまた独自の出力を備えており、バーベルエクササイズに対する様々な関節トルクの相対的貢献が、負荷の増加に伴い変化するのと同じように、これらは外部負荷に正比例して変化するわけではない可能性がある。 研究者たちは何を行ったのか? 研究者たちは、ジャンプスクワットの際、股関節、膝関節、及び足関節における出力が、外部負荷の変化により同様に影響を受けるかどうかを調査したいと考えた。そこで彼らは、前年の間に定期的にレジスタンストレーニングプログラムに参加しており、また、フットボール、サッカー、野球を含むスポーツに携わっていた、レジスタンストレーニングを行う12名の男性を集めた。 研究者たちは、2つのテストセッションにおいて被験者からの様々な測定値を記録した。最初のセッションにおいて被験者は、1RMのパラレルバックスクワットを行った。次のセッションにおいて被験者は、彼らのバックスクワットの1RMの0%、12%、27%、42%、56%、71%、85%に相当する負荷のジャンプスクワットを、セット間に2-3分のレストを入れながら行った。 テストの際、研究者たちはフォースプレートを2台使用し床反力を測定した。彼らはまた、様々な主要な解剖学的指標に付けられた16の逆反射マーカーの動きを観察するようデザインされている、3次元(3D)動作分析システムを使用し、バーベルと関節の動きを測定した。 何が起こったのか? 強度テスト 研究者たちは、被験者のバックスクワットの平均1RMは181.8 ± 40.4kgであったと報告した。彼らはこれを平均体重と比較し、それが体重の1.81 ± 0.32倍であるということを発見している。ゆえに被験者たちは、決してストレングスアスリートというわけではなかったが、比較的よくトレーニングされていると見なされた。 ジャンプの高さ 研究者たちは、下記のグラフで示されているように、平均のジャンプの高さは負荷の増加に伴い有意に減少したということを報告している。これは予期されていたことであり、以前の研究結果と一致している。 外部出力 研究者たちは、下記のグラフで示されているように、平均の外部出力は負荷の増加に伴い有意に減少したということを報告している。これもまた、予期されていたことであり、以前の研究結果と一致している。 内部(関節)トルク 研究者たちは、股関節、膝関節、足関節におけるモーメントは、負荷の増加に伴い全て有意に増加したということを発見している。彼らは、股関節、膝関節、足関節のトルクの増加における有意な差違は記述していない。下記のグラフで示される通り、全ての関節トルクは同様に増加しているようである。 この結果はブライアントン(2012年)およびロレンツェッティ(2012年)による近年の調査と対比するものであった。両者はスクワットの負荷の増加に伴い、股関節および足関節のトルクは膝関節トルクに比べ、より急速に増加するということを発見している。
ケトルベルトレーニングの生体力学 パート2/2
ケトルベルエクササイズの動力学 序論 ケトルベルエクササイズにおける動力学(力、負荷、モーメント)の評価はいくつか存在する。一般的には2つの分野の研究がある。第1に、一部の研究者のグループは、ケトルベルトレーニングはある場合においては痛みを軽減し、他の場合には痛みを生じ得るという事例報告(マクギルおよびマーシャル、2012年)を基に、ケトルベルエクササイズの脊椎負荷、およびそれに続く可能性のある腰痛に対する影響に興味を持った。この点において1つの研究が、ケトルベルトレーニングのプログラム後における、臨床的に関連する首、肩、および腰の痛みの軽減を報告している(ジェイおよびその他、2011年)ということは興味深いことである。第2に、他の研究者たちのグループは、ケトルベルエクササイズが従来のエクササイズと同様の力、パワー、及びインパルスを生み出すのかどうか、また力の方向(垂直対水平)が異なるのかどうかを調査した(レイクおよびローダー2012年b、レイクおよびその他、2014年)。今日、水平力生成はスプリントパフォーマンスにおいて非常に重要であると広く認知されているため(ランデルおよびその他、2010年の総説を参照)、力の方向は、スプリンターを指導するストレングス&コンディショニングコーチにおいて特に重要である。 脊椎負荷 一般のケトルベルスイングにおける脊椎負荷の特質は、主にせん断および圧迫負荷の間の大きな差違のため、従来のレジスタンストレーニングエクササイズにおいて報告されているものとは大幅に異なるようである。マクギルおよびマーシャル(2012年)は、圧迫負荷はスイングの下の部分において3,195Nであり、せん断負荷は461Nのみであったということを報告している。ケトルベルスナッチにおける圧迫およびせん断負荷は、スイングにおいて報告されていたものと非常に類似しているということが発見されている(マクギルおよびマーシャル、2012年)。 力およびパワー 序論 アスリートは優れたパフォーマンスのために高いレベルの筋力を必要とする。しかし彼らはまた、この力を迅速に使うことができる必要がある。ゆえに、パワーはスポーツ特有の速度において力を産出する能力を示す能力であるため、アスレチックパフォーマンスを決定するために筋力よりも重要であると考えられることが多い。アスリートにおいてパワーを発達させるための最も一般的なバリスティックレジスタンストレーニングエクササイズは、バーベルジャンプスクワットである。ジャンプスクワットは、バーベルを持ちながら床から離れるため、アスリートに相当量の床反力を迅速に発生させることを要求する。大きな力と組み合わさったこの速い速度は高い出力と関連するために、ストレングス&コンディショニングコーチは、彼らのプログラムの中で常にバーベルジャンプスクワットを使用している。 ケトルベルスイング:出力 ケトルベルスイングとジャンプスクワットの出力を比較することは、アスリートの発達におけるケトルベルトレーニングの実用性を評価する一つの方法である。レイクおよびローダー(2012年b)は、16kgから32kgの負荷におけるヒップヒンジケトルベルスイングの際の出力を調査し、1RMの0-60%の負荷におけるジャンプスクワットと比較した。ジャンプスクワットの際の出力は、予想していた通り無負荷において最大化し、一方ケトルベルスイングの際の出力は32kgにおいて最大化した。ケトルベルスイングとジャンプスクワットの出力の比較は、ジャンプスクワットの出力がより大きい傾向にあった(3,281 ± 970対3,468 ± 678W)にもかかわらず、この2種類のエクササイズの間に有意な差違はないということを特定した。ゆえにケトルベルスイングはパワーベースのプログラムに含むものとして適切であるかもしれないということが示唆されている。 ケトルベルスイング:パワーのために最適な負荷 ほとんどの研究は、通常のバーベルジャンプスクワットの際、出力を最大化する負荷は一般的に無負荷であるということを報告している。(例:コルミエおよびその他、2007年)。これは最大動的出力(MDO)仮説に通じており、下半身の筋肉は、高負荷と比較し、無負荷(例:体重)の垂直跳びにおいて、最大出力を産出するように発達したということを示唆していると提議している(ヌッツォおよびその他、2010年)。興味深いことに、ヘックスバーデッドリフトジャンプを行うことにより重心の位置をずらすことは、この負荷を1RMの約20%まで増加するようである(スウィントンおよびその他、2012年、ターナーおよびその他、2014年)。さらに、それぞれが出力に最適である負荷を使用した場合、通常のバーベルジャンプスクワットと比較し、ヘックスバーデッドリフトジャンプを使用した出力はより大きいようである(スウィントンおよびその他、2012年)。なぜヘックスバーデッドリフトジャンプが体重よりも重い負荷において出力を最大化するのかは明確ではないが、動作の際の関節角度の位置と関連がある可能性がある。明らかに、ケトルベルスイングが無負荷において最大出力を産出することは起こりそうにない。にもかかわらず、出力を最大化する明確な負荷はいまだ明らかではない。レイクおよびローダー(2012b)は、より重いケトルベル(32kg)は軽いケトルベル(16kg)と比較し、ヒップヒンジケトルベルスイングエクササイズの際により高い出力を産出するということを発見している(3,281 ± 970対2,371 ± 708W)。さらに重いケトルベルはより大きな出力を含むのかどうか(またパワーのための最大負荷はどこであるのか)は明確ではない。この分野の研究は、(1RMの割合に適合しないため)ケトルベルの相対負荷を測定するための標準の欠如により妨げられてしまうようである。 ケトルベルスイング:インパルス 一部の評論家たちは、エクササイズの特性を決定するために、出力は他の短期の力学的変数ほど有益ではないと示唆している(クヌッドソン、2009年)。この点においてインパルスは、適用された力の程度および時間の両方に関する情報を提供するとして、より優れた測定値であるということが提議されている(クヌッドソン、2009年、レイクおよびローダー、2012年a)。インパルスは、スポーツパフォーマンスに転換するエクササイズに関し幅広く研究されてはいないが、それが線形運動のベクトル変化を生み出すものであるということに留意することは重要なことである。特にスプリントの推進力は異なる能力を持つアスリートを識別する能力を持っていると考えられている(ベーカーおよびニュートン、2008年、バールおよびその他、2014年)。ゆえにケトルベルスイングおよびジャンプスクワットの際のインパルスを比較することは、アスリートの発達におけるケトルベルトレーニングの有益性を評価するもう一つの方法である。レイクおよびローダー(2012年a)は、16kgからの32kg負荷におけるヒップヒンジケトルベルスイングの際のインパルスを調査し、1RMの0 – 60%の負荷におけるジャンプスクワットのインパルスと比較した。ジャンプスクワットの際のインパルスは、1RMの40%において最大化し、一方ケトルベルスイングの際のインパルスは、32kgの負荷において最大化した。ケトルベルスイングの際の最大インパルスとジャンプスクワットの際の最大インパルスの比較は、ケトルベルの方が優れているということを明らかにした(276 ± 45対231 ± 47Ns)。これは、ケトルベルスイングはジャンプスクワットと比較し、より大きな推進力の変化を伴い、スポーツ特有の妥当性を持つ可能性があるということを示唆している。より重いケトルベルがより大きなインパルスの生成を含むかどうかは明確ではない。 ケトルベルスイング:加力の方向 ケトルベルスイングの際の床反力の水平および垂直要素は、ジャンプスクワットの際のものとは異なる。レイクおよびローダー(2012年a)は、ケトルベルスイングは、ジャンプスクワットと比較し、水平力の要素がかなり高かったということを観察している。これは、ケトルベルがスイングの初めにおいて股関節伸展により水平前方へ勢いよく放り出されるためであるかもしれない。ゆえにヒップヒンジケトルベルスイングは、スプリントのような水平推進力を産出するための股関節伸展を含む特定のスポーツ動作への適用があるかもしれない(ランデルおよびその他、2010年を参照)。それゆえヒップヒンジケトルベルスイングはアスリートにおけるスプリントパフォーマンスを発達させるために有益である可能性がある。 ケトルベルスイング:スナッチとの比較 ケトルベルスナッチもしくはケトルベルスイングのどちらの方が、ストレングス&コンディショニングの専門家による使用により適しているのかどうかを評価するため、レイクおよびその他(2014年)は、各エクササイズの機械的要求を比較した。彼らは、2つのエクササイズは、水平および垂直要素の機械的要求に関し、非常に類似していたということを発見している。特に彼らは、ケトルベルスナッチと比較し、ケトルベルスイングは有意により大きな水平動作、水平パワー、水平制動および推進インパルス、そして水平制動および推進床反力を含んでいたと記述している。これは、ケトルベルスイングは、スプリントのようにスポーツ特有の速度における水平力の産出を必要とする適用に対し、より優れている可能性があるということを示唆している。 ケトルベルに関する結論 ケトルベルは、他のエクササイズと比較し、関節可動域の異なるポイントにおける最大筋活動を含むようであり、有益な補足のトレーニング方法である可能性がある。 ケトルベルスイングは、内側ハムストリング力、股関節伸展における大臀筋の最大活動、およびより大きな水平力産出というようなスプリント能力を向上するために有益であるいくつかの特性を示している。
ケトルベルトレーニングの生体力学 パート1/2
目的 一般的なケトルベルエクササイズのアスレチックパフォーマンスへの最適な転換の方法を確立するために、その生体力学を評価すること。 ケトルベルエクササイズの背景 序論 ケトルベルエクササイズの種類 ケトルベルエクササイズはバリスティックにもノンバリスティックにもなり得る。ケトルベルエクササイズは、筋力よりもパワーを発達させるためにより有益であるようであるということを考慮に入れると、ノンバリスティックエクササイズと比較しバリスティックケトルベルエクササイズは、アスリートに対しより有益であるようである。最も一般的なバリスティックケトルベルエクササイズの種類はスイングとスナッチである。 ケトルベルスイングの種類 ケトルベルスイングには、ヒップヒンジスイングおよびスクワットスイング(マシューズおよびコーエン、2013年による総説を参照)の2つの主な種類がある。これら2種類の特性は、下半身の筋肉の関与に関して異なると考えられている。ヒップヒンジスイングは、デッドリフトと同様の筋動員のパターンにつながると考えられている一方で、スクワットスイングはスクワットと同様の筋動員のパターンを含むと考えられている(マシューズおよびコーエン、2013年による総説を参照)。ゆえにヒップヒンジスイングは主にハムストリングスおよび大臀筋に働きかけると考えられており、スクワットスイングは大腿四頭筋および大臀筋を鍛えると考えられている。ゆえにヒップヒンジスイングは、よりスポーツ特有の速い速度においてハムストリングを鍛えることが可能であるため、ストレングス&コンディショニングコーチにとって非常に有益である可能性がある。 ケトルベルエクササイズの筋電図検査(EMG) 序論 筋電図検査(EMG)は、筋肉における神経活動もしくは随意活性化のレベルを検出するために使用する方法である。随意活性化は、筋動員の程度および運動単位の発生頻度の両方による影響を受け、疲労していない筋肉における筋力と密接に関わっている。研究者たちは、単発のトレーニングセッションにおけるエクササイズの際の筋肉内の筋電図活動は、その筋肉における潜在的な長期的適応を示しているということに概ね合意している。ゆえに筋電図検査の研究は、どのようにケトルベルエクササイズが運動能力の発達において、もしくは一般的なエクササイズとして最適に使用されることが可能であるのかということを評価する有益な方法を示している。 ハムストリングスの筋電図活動 序論 今日までに2つの研究のみが、ケトルベルエクササイズの際のハムストリングスの筋電図活動を報告している(マクギルおよびマーシャル、2012年:ゼイビスおよびその他、2013年)。マクギルおよびマーシャル(2012年)は、スクワットスタイルケトルベル片手スイング、キメを伴うスクワットスタイルケトルベルスイング、スクワットスタイルケトルベルスナッチ、ケトルベルラックキャリー、およびケトルベルボトムスアップキャリーの際の大腿二頭筋の筋電図活動を評価した。各エクササイズに対し、若年で健康であるがトレーニングされていない男性被験者は、16kgのケトルベルを使用した。ゼイビスおよびその他(2013年)は、ヒップヒンジケトルベル両手スイング、およびケトルベル以外の様々なエクササイズの際の大腿二頭筋および半腱様筋の両方を評価した。若年で健康なレジスタンストレーニングされている女性被験者は、彼女たちの筋力レベルに応じ、各エクササイズに対し12Kgもしくは16Kgのケトルベルを使用した。大腿二頭筋の筋電図活動は、最大随意等尺性収縮(MVIC)の93 ± 31%に到達し、一方半腱様筋の筋電図活動はより高いレベルであるMVICの 115 ± 55%%に達した。対照的に、マクギルおよびマーシャル(2012年)は、ハムストリングスの筋電図活動は、股関節の筋組織(大臀筋および中臀筋)と比較し、スクワットスタイルケトルベル片手スイング、キメを伴うスクワットスタイルケトルベルスイング、スクワットスタイルケトルベルスナッチ(MVICの32.6%、39.7%、および29.8%)において比較的低かったということを発見している。これらの差違は、使用されたケトルベルスイングの種類の結果であるようである(マシューズおよびコーエン、2013年による総説を参照)。 内側および外側ハムストリングス ケトルベルスイングの際の半腱様筋(内側ハムストリング)の筋電図活動は、大腿二頭筋長頭(外側ハムストリング)の筋電図活動と比較し、より大きかったようである(ゼイビスおよびその他、2013年)。ゼイビスおよびその他(2013年)は、ヒップヒンジスタイルケトルベル両手スイングの際、大腿二頭筋の筋電図活動はMVICの93 ± 31%に達し、半腱様筋の筋電図活動はMVICの115 ± 55%というさらに高いレベルに達したということを報告している。ハムストリングスはスプリント能力のために重要であり、またスプリントの動作も外側ハムストリングの筋電図活動と比較し、より高い内側ハムストリングの筋電図活動を含むため(イェンハーゲンおよびその他、2007年、ヒガシハラおよびその他、2010年)、ケトルベルスイングは、最適なハムストリングの発達のためにスプリントプログラムに含む価値があるかもしれない。 ハムストリングス内の部位 研究者たちは、高い股関節屈曲角度におけるケトルベルスイングの際、ハムストリングスの筋電図活動は最大である一方で、(ノルディックカールのような)他の多くの一般的に行われるハムストリングスエクササイズの際、筋電図活動は低い股関節屈曲角度において最大であったということを観察している。(ゼイビスおよびその他、2013年)。これは、ケトルベルスイングは他のエクササイズとは異なる場所における局所肥大をもたらすかもしれないということを意味している可能性がある。局所肥大は、既定のエクササイズパフォーマンスの際、筋活動が起こる場所に依存していると考えられている。例えばワカハラおよびその他(2012年)は、レジスタンストレーニングワークアウトの際の上腕三頭筋のある部分における筋電図活動は、長期のプログラム後における同一の場所の局所肥大と関連があったということを報告している。更に同じ筋肉をターゲットとした異なるエクササイズは、その筋肉の異なる場所における筋電図活動をもたらすと考えられている(メンディグーシャおよびその他、2013年)。実質的に、ケトルベルスイングを使用しハムストリングスを鍛えることは、その筋肉の他の部分における局所発達を強調し、それにより部分的な弱さの無い全体的により優れた筋肥大を確保することにより、その他のエクササイズへの有益な補足を提供することが可能である。 大臀筋の筋電図活動 序論 今日まで1つの研究のみが、ケトルベルエクササイズの際の大臀筋の筋電図活動に関する報告をしている(マクギルおよびマーシャル、2012年)。マクギルおよびマーシャル(2012年)は、スクワットスタイルケトルベル片手スイング、キメを伴うスクワットスタイルケトルベルスイング、ケトルベルラックキャリー、およびケトルベルボトムスアップキャリーの際の、大臀筋の筋電図活動を評価した。各エクササイズに対し、若年で健康であるがトレーニングされていない被験者は16kgのケトルベルを使用し、マクギルおよびマーシャル(2012年)は、大臀筋の筋電図活動は他の筋肉と比較し、スクワットスタイルケトルベル片手スイング、キメを伴うスクワットスタイルケトルベルスイング、スクワットスタイルケトルベルスナッチにおいて比較的高く(MVICの76.1%, 82.8%,58.1%)、またスイングはスナッチと比較し、より高い筋電図活動を示していたということを発見している。 大臀筋内の部位 ケトルベルスイングは、股関節の完全伸展に近いスイングサイクルの後半において、大臀筋の最大電図活動を含むようである(マクギルおよびマーシャル、2012年)。一般的に使用されているほとんどのレジスタンストレーニングエクササイズは、おそらくより深い角度における大きな股関節伸展モーメントにより、最大股関節屈曲において大臀筋のより大きな筋電図活動を含んでいるため(カテリサーノおよびその他、2002年、エスカミーリャおよびその他、2002年)、これは重要な発見である。実質的に、ケトルベルスイングを使用し大臀筋を鍛えることは、その筋肉の他の部分における局所的な発達を強調し、それにより部分的な弱さの無い全体的により優れた筋肥大を確保することにより、その他のエクササイズへ有益な補完物を提供することが可能である。更に、大臀筋は、より大きな股関節屈曲において収縮する場合と比較し、股関節の完全伸展において収縮する場合により大きな筋電図活動に達することが知られている(ウォーレルおよびその他、2001年)。ゆえにケトルベルスイングは、より大きな股関節屈曲において最大収縮を含むジャンプスクワットと比較し、高速で大臀筋を鍛えるためのより優れたエクササイズであり得る。
的確に構成されたウォームアップはパフォーマンスにどれだけの違いを生み出すのか?
多くのコーチやアスリートは、スポーツ前のウォームアップの内容に対しあまりこだわりを持っていない。しかし最近のいくつかの研究では、いくつかのスポーツにおいて、的確な内容のウォームアップはパフォーマンスに対し大きな影響を及ぼし得ると示している。この研究はボブ・スケルトンのスピードに及ぼす影響を論証している。 研究論文: エリートボブ・スケルトン選手のためのウォームアッププロトコールのデザイン、クック、ホルドクロフ、ドローア、キルダフ、スポーツ生理学&パフォーマンス、2012年 *** 研究者たちは何を行ったのか? 研究者たちは、様々な異なるウォームアップの内容をコントロールされたウォームアップ、すなわち現在アスリートによって行われている標準的なウォームアップと比較し、その後実施されるスケルトンのパフォーマンスに及ぼす影響を評価しようと考えた。彼らは、イギリスオリンピックチームへの選抜に参加した6名(男性3名、女性3名)のスケルトン選手を集め、下記のようなウォームアップを実行した。 テストの35分前に終了する、20分間のアスリート自身のウォームアップを標準化したバージョン。これは、復路をウォーキングとした往路20mのジョギングとスキップを3セット、20mの最大下速度でのスプリントを3セット、20mのスプリントフォームドリルを3セット、20mのレッグスイング、クイックランファストフィート、ハイニーを2セット、10mの最高速度でのスプリントを3セット、30秒の混合体操(プレスアップ、デッドバグ、プランク)、2分のダイナミックストレッチから構成されていた。 より多くのスプリントドリルとスプリント、そしてより短いインターバルにより、ボリュームと強度が増したコントロールウォームアップのバリエーション。 2番目のバリエーションと同じだが、テストの35分前ではなく15分前に終了。 2番目のバリエーションと同じだが、それぞれ10分の2つのセグメントに分けられ、1つ目はテストの40分前に終了し、2つ目は15分前に終了。 4番目のバリエーションと同じだが、受動的に熱を保持するため、保温用の衣服を2つのウォームアップ間とテストまでの間に使用。 *** 何が起こったのか? 研究者たちは、3番目のウォームアップのバリエーションが最も速く、次に5番目、4番目と続くことを発見した。5番目のバリエーションはアスリートに最も人気があり、6名のアスリートに渡り全体で3.5%の向上がみられた。 *** 研究者たちはどのような結論に達したのか? 研究者たちは強度、継続時間、体温の全てがより良いウォームアップを生み出すことに有益であるという結論に達した。彼らは、2番目とほぼ同じだが、テストの35分前ではなく15分前に完了するという3番目のウォームアップバリエーションが最良だと結論付けた。しかしながら、5番目のウォームアップバリエーションは同じようなパフォーマンスの向上につながり、さらにこれはアスリートの間で最も人気があった。 *** 実践的な意義は何か? アスリートとコーチに対して スポーツのコーチは、特に寒い環境においては、的確な構成のウォームアップがエリートアスリートのパフォーマンスに非常に大きな違いを生み出すということに気づくべきである。 パフォーマンスイベント間際に終了し、より強度の高いウォームアップはよい良いパフォーマンスにつながる。 それに加え、寒い環境での熱の保持はパフォーマンスに明らかな差異を生み出すため、保温衣類の使用は有益である。 ***
ストレッチは筋力強化に対し逆効果なのか?
多くのコーチが、怪我を防ぐ為にウェイトトレーニングの前にストレッチを取り入れ、多くのボディービルダーが、ストレッチは筋肥大を助長すると信じ、セット間にストレッチを行う。しかしながら、この研究は、この方法が逆効果であるかもしれないと示している。 研究論文:静的ストレッチの筋力パフォーマンスと基底血清IGF-1レベルに対する慢性的影響、バストス、ミランダ、バーレ、ポータル、ゴメス、ノバエス、ウィンチェスター、ストレングス&コンディショニングリサーチジャーナル2012年 *** 研究者たちは何を行ったのか? 研究者たちは、レクリエーション程度にトレーニングを行っている30名の参加者を集め、下記のような3つのトレーニンググループへランダムに振り分けた。 ストレングストレーニング前に静的ストレッチを行った、事前ストレッチと呼ばれるグループ。 ストレングスエクササイズのセットの間、エクササイズ実施直前に、ある特定の同じ筋肉に対し静的ストレッチを行った、中間ストレッチと呼ばれるグループ。 トレーニング前、及びトレーニング中に全くストレッチを行わずストレングストレーニングを行った、ノーストレッチと呼ばれるグループ。 研究者たちは、10週間に渡るトレーニング期間の前後に、IGF-1レベルと様々なエクササイズ(ベンチプレス、ラットプルダウン、レッグエクステンション、レッグカール)の8RMを測定した。 *** 何が起こったのか? 研究者たちは、テストを行った4種類のエクササイズ全ての8RM強度において、2つのストレッチグループとノーストレッチグループとの間に著しい統計的な違いがあることを報告した。それに加え研究者たちは、ノーストレッチグループにおいてのみIGF-1の発現量が増加し、2つのストレッチグループのいずれにおいてもその著しい増加は見られなかったことを報告した。 研究者たちは、2つのストレッチグループ間における違いは確認しなかった。下記のグラフは4つ中3つのエクササイズにおいて強度が増したことを示している。 *** 研究者たちはどのような結論に達したのか? 研究者たちは、10週間に渡るトレーニングプログラムの結果として、3つのグループ全てにおいて8RM の強度は増したものの、2つのストレッチグループにおいては、ノンストレッチグループに比べ、強度の増加が著しく低かったという結論に至った。 *** 制限要素は何か? この研究には下記のような2つの重要な点において制限があった。 この研究は、30秒間のストレッチを行った場合のみが調査された点において制限があった。他の研究では、ストレッチを保持している長さ(15秒に対し45秒)によりパワー産出に対する即時的影響に違いがでることが発見されている。故に、より短い時間でのストレッチでは、筋力の増強に対し同じような有害な影響は出ないかもしれない。 スプリントトレーニングやジャンプトレーニングにより何が得られるのか、というように、ストレッチがアスレチックパフォーマンスに対し同じような影響を及ぼすのかどうかということは知られていない。 *** 実践的な意義は何か? 全ての人に対して ストレッチのルーティーンがトレーニング前、もしくはセット間に行うことによって、ストレングストレーニングによる筋力増強度は、低下するであろう。 ボディービルダーや身体形状向上に対して セット間に徹底的にストレッチを行うボディービルディングのルーティーンは、筋肉を増強し肥大させるというゴールに対し逆効果である。
異なる種類のトレーニングは前十字靱帯 (ACL) 損傷の生体力学的危険要因に異なった影響を及ぼすのか? パート2/2
何が起こったのか? 関節角度可動域の変化 研究者たちは、プライオメトリックグループが、膝関節の屈曲可動域と内旋可動域の著しい減少を示したことを発見した。一方、コアスタビリティのグループは、膝関節の屈曲可動域の著しい減少と、膝関節内旋可動域の著しい増加を示した。下記のグラフは両方のトレーニングプログラムによる変化を示している。 特に顕著であった結果は、両方のトレーニングプログラムが膝の屈曲可動域を減少させ、プライオメトリックトレーニングのみが膝の内旋可動域を減少させ、そしてコアトレーニングプログラムのみが膝関節の内旋可動域を増加させたことであった。 この膝関節屈曲に関する結果は、両方のトレーニングがより小さな可動域の中で減速が起こる「硬い」着地を行うことにつながり、より大きな関節負荷によってACL損傷のリスクを増加させる可能性がある、ということを暗示していることから、少々懸念されるものである。プライオメトリックトレーニングプログラムに関して、これは、プライオメトリックトレーニングは著しい最大膝関節屈曲可動域と最高膝関節屈曲可動域までの時間への減少につながるというレファート(2005年)の発見とは異なることとなる。しかしながら、ポラード(2006年)は、プライオメトリックトレーニングは、女性サッカー選手において膝関節屈曲可動域の大幅な減少にはつながらないということを発見している。 膝関節内旋可動域の結果は、プライオメトリックトレーニングプログラムが前額面の関節可動域の減少に対して有益であったのに対し、コアトレーニングプログラムは大いに有害であった、ということを示唆している。以前にも数人の研究者たちが、コアトレーニングの下肢の飛び降り着地の生体力学に対する影響についての調査を行ったが、チャペル(2008年)が統括的な神経筋トレーニングの一部としてコアスタビリティトレーニングを使用し、膝関節の内旋可動域の増加に対しての傾向は、強いものの、特に有意ではないと報告している。これらの発見は、ACL損傷の危険性のあるアスリートに対しては、コアトレーニングのみでは十分ではなく、レジスタンストレーニングやプライオメトリックなどの他のトレーニングも一緒に行うべきであると示唆している。 それほど有意ではない傾向に関して、この結果は、コアトレーニンググループに関しては唯一の大きな変化が股関節で起こっているということを示している。コアトレーニンググループは、股関節の屈曲と内旋可動域において、大きいが非有意な減少を示した。これらの変化は次のセクションで報告されている著しい関節モーメントの変化に対応しており、それ故興味深いものである。 関節モーメントの変化(トルク荷重) 研究者たちは、プライオメトリックグループが膝関節の屈曲と外転モーメントの著しい減少を示し、コアスタビリティグループが、著しい股関節の屈曲と内旋モーメントの減少を示したと観察した。下記のグラフは両方のプログラムの結果としての全ての変化を示している。 両方のトレーニングプログラムは膝関節屈曲関節モーメントの減少につながるが、プライオメトリックプログラムのみが膝関節外転関節モーメントの著しい減少につながった。より大きな膝関節外転関節モーメントはACL損傷の重要な危険要因であり、このことはプライオメトリックトレーニングがACL損傷予防に対し有益であるかもしれないということを示している。 コアトレーニンググループは、大きいが非有意な股関節の屈曲可動域と内旋可動域の減少を示し、これらの非有意な変化は、同等の股関節の関節モーメントの著しい変化に対応していた。このことは、コアトレーニングにおける股関節の関節角度可動域の変化は、統計的には有意ではないものの、意味深いということを示唆している。 それに加え、重要なこととして、より大きな股関節の内旋関節モーメントはACL損傷の非常に大きな危険因子であり、このことはコアトレーニングがACL損傷予防に対し有益な役割を果たし得るということを示している。 以前の研究評価では、8週間に渡る股関節主導と膝関節主導のエクササイズは膝関節の屈曲可動域の変化につながるが、股関節の屈曲可動域にはつながらないと記述されている。当時は、これはおそらく研究期間が短すぎたか、もしくはエクササイズの介入が股関節における変化をもたらせるのには十分でなかったからであろうと考えられていた。同じ事がこの研究においても起こる可能はあったが、股関節の関節角度可動域では著しい発見がなかったにもかかわらず、関節モーメントでは著しい変化がみられたことはとても興味深いことである。 研究者たちはどのような結論に達したのか? 研究者たちは、シーズン中、高校の女子アスリートへの4週間のトレーニングプログラムの実行は、関節モーメントと関節角度を変化させ、その結果がドロップジャンプの着地の際に現れていたという結論に至った。研究者たちは、プライオメトリックトレーニングは主に膝関節の関節角度と関節モーメントの変化につながり、コアスタビリティトレーニングは主に股関節と膝関節両方の関節角度と関節モーメントの変化につながると結論付けた。 関節角度の動きに関しては、両方のトレーニングプログラムは膝関節屈曲可動域の減少につながり、プライオメトリックトレーニングのみが膝関節内旋可動域を減少させ、コアトレーニングのみが膝関節内旋可動域を増加させた。コアトレーニンググループは、大きくはあるが非有意な股関節の屈曲可動域と内旋可動域の減少を示した。 関節モーメントに関しては、プライオメトリックグループは著しい膝関節屈曲と外転関節モーメントの減少を示し、コアスタビリティグループは股関節の屈曲及び関節内旋モーメントの著しい減少を示した。 プライオメトリックトレーニングは、膝関節の前額面と横断面の関節角度動作と関節モーメント(膝関節内旋可動域と膝関節外転関節モーメント)を減少させるという点において有益であった。また、コアトレーニングプログラムは股関節の横断面の関節角度動作と関節モーメント(股関節の内旋可動域と内旋モーメント)を減少させるということにおいて有益であった。 両方のプログラムは矢上面での関節可動域動作(膝関節屈曲可動域)を減少させるという点で有害であり、コアトレーニングプログラムもまた、(非有意ではあるが)股関節の屈曲可動域減少と膝関節の内旋可動域の増加につながるという点で有害であった。 それゆえ研究者たちは、プライオメトリックとコアスタビリティの両方がACL損傷予防に大切な役割を果たすと結論付けた。しかし、「柔らかい」着地をするために膝関節屈曲可動域を増加させ弊害を相殺するためには、プライオメトリックとコアスタビリティプログラムの両方をレジスタンストレーニングと一緒に行うべきである、と薦めるのが賢明であると思われる。 *** 制限要素は何か? この研究には下記のような点において制限があった。 被験者はランダムにそれぞれのグループへ振り分けられたわけではなく、異なるスポーツからのアスリートがそれぞれのグループを構成していた。 被験者はレジスタンストレーニングを行っているアスリートではなかった為、よりトレーニングされた人たちでは異なる結果が得られたかもしれない。 被験者はすべて女性であった為、男性では異なる結果が得られたかもしれない。 ここでテストされたのはコアトレーニングとプライオメトリックトレーニングの介入のみであり、レジスタンストレーニング、ストレッチ、アジリティなどのACL損傷予防プログラムとして一般的な他のトレーニング方法がこの研究には組み込まれていなかった。 研究者たちは様々な筋肉の筋電図活動や筋力を測定しなかったため、筋力、及び筋活動の増加や減少があった場合、同じような変化が起こるのかどうかを解明するのは困難である。 *** 実践的な意義は何か? ACL損傷の危険性のあるアスリートに対して: 特定の神経筋制御疾患がないアスリートは、コアトレーニング、プライオメトリックス、レジスタンストレーニングの組み合わせをACL損傷予防プログラムへ組み込むべきであり、1つのトレーニング方法のみに限るべきではない。 常に膝関節が外反しているアスリートは、股関節の内旋、膝関節の外転関節角度動作、関節モーメントを減少させるため、より一層コアトレーニングとプライオメトリックスをワークアウトに組み込むべきである。 特に「硬い」着地をする危険性のあるアスリートや、ジャンプの着地時に膝関節の関節可動域が少ないアスリートは、更に多くのレジスタンストレーニングをワークアウトの中に組み込むべきである。
異なる種類のトレーニングは前十字靱帯 (ACL) 損傷の生体力学的危険要因に異なった影響を及ぼすのか? パート1/2
レジスタンストレーニングのプログラムは、アスリートがより「柔らかく」ジャンプから着地するようサポートすることで、ACL損傷の危険性を減らすことができる。 しかし、コアスタビリティプログラムやプライオメトリックプログラムもまた、ジャンプ着地時の生体力学を改良することにより、ACL損傷の危険性を減らすことができるのだろうか?だとすれば、いったいどのようにして? この研究は下記のことを解明するために行われた: 女子高校生アスリートにおける、異なるエクササイズトレーニングの介入と飛び降り着地の生体力学、 ピーファイル、ハート、ハーマン、ハーテル、ケリガン、インガソル、2013年アスレチックトレーニングジャーナル 背景 非接触のACL損傷は、男性よりも女性アスリートにより多く見られる。実際に研究では、同じスポーツを行った場合、女性は男性よりも3−4倍ACLを損傷する可能性が高いであろう、と示されている(例:グリンドスタッフ2006年)。 ジャンプ着地時の、いくつかの生体力学的特徴は、ACL損傷に対してより危険性が高いと認識されており、それらのいくつかは男性よりも女性において多くみられる。横断面や前額面における股関節や膝関節のより大きな関節角度可動域や、股関節と膝関節における関節モーメント(例:より大きな膝関節の外転、股関節の内転、股関節と膝関節の内旋)は、アスリートをより高いACL損傷の危険性にさらす可能性があると考えられている。 更に、膝の外反は、股関節の内旋、内転、及び膝関節の外転を含むため、しばしば明らかな危険要因と考慮される。一方、矢状面での股関節と膝関節のより大きな関節可動域(より大きな股関節屈曲及び膝屈曲)は、柔らかい着地を可能にすることによりACL損傷の危険性を減少させると考えられている。 必然的にほとんどの障害予防プログラムは、スポーツの動きの際、これらの生体力学的条件が満たされてしまうことを減少させるよう構成されている。 このようなプログラムは多くの場合、神経筋制御を向上させるために、バランス、下半身の強化、プライオメトリック、アジリティトレーニングを含んでいる。しかしながら、このようなプログラムの様々な要素の有効性を評価することは困難であり、どの側面が飛び降り着地の生体力学を良い方向へ変化させるのに有益であり、どれが不要であるのかは明確ではない。 以前の研究評論において私たちは、レジスタンストレーニングが実際に膝の屈曲の度合いを増加させるということを見てきた。これはレジスタンストレーニングがACL損傷の予防プログラムに有益であるということを示唆している。以前のある研究では、プライオメトリックも同様に有益であるかもしれないと示している。 例えば、レファート(2005年)は、8週間に渡り、下肢の関節角度の動きに対する、プライオメトリックトレーニングプロクラムとレジスタンストレーニングの影響を調査し、両方のプログラムが、初動での股関節の屈曲可動域、最大股関節屈曲可動域、最大膝関節屈曲可動域、そして最大膝関節屈曲可動域までの時間の著しい増加につながると発見した。また彼らは、両方のプログラムが、最大膝関節屈曲モーメントと最大股関節屈曲モーメントの減少につながるとも記述している。 これは、私たちが、レジスタンストレーニングが矢状面での下肢の関節角度可動域と関節モーメントにもたらす効果と同じような効果を、プライオメトリックトレーニングに期待することができるかもしれないということを示唆している。 *** 研究者たちは何を行ったのか? 対象者は誰か? 研究者たちは、ドロップジャンプの際の下肢と体幹の生体力学に対する、4週間のコアスタビリティトレーニングと、同じく4週間のプライオメトリックプログラムの効果を比較しようと考えた。そのため彼らは、3地域の高校から14.8 ± 0.8歳の23名の女子を集めた。被験者はランダムに分けられたのではなく、コントロールグループとスタビリティグループはラクロスとサッカーチームの選手により構成され、プライオメトリックグループはラクロス選手のみで構成された。 何が行われたのか? グループは4週間に渡り、追加トレーニングなし(コントロールグループ)、追加のプライオメトリックトレーニング(プライオメトリックグループ)、もしくは、追加のコアトレーニング(コアスタビリティーグループ)を行った。研究者たちは、20分間の、機材を使わずに行うプライオメトリックトレーニングとコアスタビリティトレーニングをデザインした。 プライオメトリックトレーニングの構成要素は何か? プライオメトリックプログラムは、柔らかく、バランス良く、コントロールされた動きでの、テイクオフと着地のフォームに重点を置いた、両脚、片脚でのジャンプとスキップのエクササイズのシリーズにより構成されていた。最初の2週間のエクササイズは、前後の片脚ラインジャンプ、側方への片脚ラインジャンプ、ハイスキップ、ディスタンススキップ、ブロードジャンプ、タックジャンプ、交互の片脚ラテラルジャンプから構成されていた。 続く2週間のエクササイズは、フォワード片脚ホップ、ホップ~ホップ~着地、スクワットジャンプ、片脚最大垂直跳び、片脚幅跳び、ブロードジャンプ、垂直跳び、180度ジャンプ、片脚ラテラルジャンプから構成されていた。 コアスタビリティトレーニングプログラムの構成要素は何か? コアスタビリティプログラムは腹部、腰椎のスタビライザーと股関節の伸筋、外旋筋、外転筋のコーディネーションを向上させることを意図していた。最初の2週間のエクササイズは、アブドミナルドローイン、サイドプランクニーベント、サイドライングヒップアブダクション、サイドライングヒップエクスターナルローテイション(クラムシェル)、クランチ、手を頭へ置いての腰椎伸展、手を腰に当ててのウォーキングランジから構成されていた。 その後の2週間のエクササイズは、アブドミナルドローインをしながらのハムストリングブリッジ、四つん這いでの外旋と外転を合わせた股関節伸展、肘を対角の膝につけるクランチ、両腕を真っ直ぐに伸ばしたままでの腰椎伸展、両腕を頭上に挙げてのスクワット、ボールを投げながらのランジから構成されていた。 研究者たちは何のテストを行ったのか? 4週間に渡るトレーニングの前後に、研究者たちはジャンプの際の体幹側屈角度、股関節の屈曲、内転、及び内旋角度、膝関節の屈曲、外転、内旋角度、股関節の屈曲、内転、内旋、外旋関節モーメント、膝関節の屈曲、外転、内旋モーメントを含む数々の変数をテストした。 ***
ランジをより股関節主導にするための方法とは?
ランジはレジスタンストレーニングのプログラムや生体力学的研究において、赤毛の継子のようなものである。つまりランジは、他の人気のあるエクササイズに比べあまり注目されていない。しかし幸運なことに、私のお気に入りの研究者のひとりであるブライアン・リーマンが孤軍奮闘して、スクワットについて既になされている一連の研究に沿い、ランジに対する生体力学的研究を行っている。 研究者たちはこの研究の中で、ランジがどの特性(例えば、ステップ幅やランジの種類)によって、より股関節主導になるのか、または膝関節主導になるのかを調査している。 研究論文:様々なステップ幅でのフォワードランジとサイドランジの生体力学的比較、リーマン、コングルトン、ワード、デービス、スポーツ医学&フィジカルフィットネスジャーナル2013年 *** 背景: フォワードランジやサイドランジ等のランジのバリエーションは、ストレングス&コンディショニングやリハビリテーションのプログラムの中で頻繁に使われている。 研究では、ほとんどのタイプのランジが、股関節の伸筋主導であると報告されているが、股関節、膝関節、足関節モーメントの様々な働きを評価するためのフォワードランジとサイドランジの比較に関しては、わずかな研究しかなされていない。加えて、ランジ幅の標準化、あるいは、ステップ幅の自己選択の、どちらがより最適かに関する評価を行った研究は、一つとして存在しない。 *** 研究者たちは何を行ったのか? 研究者たちは、著しい違いがあるかどうかを確かめるため、フォワードランジとサイドランジを行う際の股関節、膝、足首における関節モーメント力積を比較しようと考えた。彼らは又、ランジを行う際、標準化されたステップ幅と自己選択したステップ幅との間に、著しい違いがあるかどうかを調べたいと考えた。 そのため彼らは、様々な活動レベルの32名(女性16名、男性16名)の被験者を集めた。被験者はまず、自己選択したステップ幅にて裸足でフォワードランジとサイドランジを行い、その間研究者たちは、床反力を記録する為にフォースプレートを使用し、又、関節角度の動きを記録するために電磁追跡システムを使用し、情報を収集した。 研究者たちはこのデータを使い、それぞれのタイプのランジにおける関節モーメント力積を計算した。身長の60%を基準に標準化されたステップ幅のランジにおいても、この過程が繰り返された。これにより、標準化されたステップ幅と自己選択されたステップ幅での関節モーメント力積の違いを比較することが可能となった。 *** 何が起こったのか? フォワードランジ、サイドランジにおけるステップ幅 フォワードランジにおいては、標準化されたステップ幅と自己選択されたステップ幅の違いは大きく、研究者たちは、自己選択したステップ幅の方がかなり小さいということを発見した。しかしサイドランジにおいては、それぞれのステップ幅に著しい違いはなかった。 更に研究者たちは、自己選択をしたステップ幅は、フォワードランジに比べサイドランジの時の方が、かなり大きかったことを観察した。これらの発見は下記のグラフに示されている。 フォワードランジとサイドランジにおける最大屈曲角度 研究者たちは、下記のグラフで示されているように、自己選択をしたステップ幅と標準化されたステップ幅の両方において、膝の最大屈曲角度は、サイドランジよりもフォワードランジを行う際の方が大きく、足首の最高背屈角度は、フォワードランジよりもサイドランジの方が大きかったと報告している。 フォワードランジにおいては、自己選択をしたステップ幅よりも標準化されたステップ幅を使用した際の方が、股関節の最大屈曲角度が大きかったことも、グラフから見て取ることができる。しかし、フォワードランジとサイドランジの間で、股関節の最高屈曲角度に違いは無かった。 フォワードランジとサイドランジにおける最大関節モーメント力積 研究者たちは、下記のグラフで見られるように、自己選択したステップ幅と標準化されたステップ幅の両方において、足首と膝の総関節モーメント力積はフォワードランジよりもサイドランジを行う際の方が大きく、股関節の総関節モーメント力積はサイドランジよりもフォワードランジを行う際の方が大きかったと報告した。 フォワードランジでは、股関節の総関節モーメント力積は、自己選択をしたステップ幅よりも標準化されたステップ幅を使用した際の方が大きく、膝の総関節モーメント力積は標準化されたステップ幅よりも自己選択をしたステップ幅を使用した際の方が大きかったということも、グラフから見て取ることができる。サイドランジでは、ステップの幅の実際の影響は見受けられなかった。 スポーツの動きの中で増えている股関節の役割、という私のプレゼンテーションを見たことのある人は、私が、股関節の膝関節に対する伸展モーメント力積の比率のそれぞれの動きの間での比較したとしても驚くことはないであろう。 専門的に言えば、全ての動きが1.0以上の比率で股関節主導ではあるが、標準化されたステップ幅でのフォワードランジは、他の動きより何倍も股関節主導であるということは明らかである。 標準化されたステップ幅でのフォワードランジを有利にするこの違いは、より大きいステップ幅の働きが、恐らく、股関節のより長いモーメントのアームと、股関節のより大きな最大屈曲角度につながり、このバリエーションにおいて必然的な、股関節のより大きな可動域につながるのであろう。 (1)スポーツ活動における股関節の伸展トルクの重要さ、そして(2)デッドリフトのバリエーション以外で、軸方向に負荷がかかる股関節主導のエクササイズは希少である、ということを考慮に入れると、これはとても有益な発見である。 *** 研究者たちはどのような結論に達したのか? 研究者たちは下記のような結論を導き出した: 関節の屈曲 — サイドランジではより大きな足首の最大背屈が見られ、フォワードランジではより大きな膝の最大屈曲が見られた。 関節モーメント力積 — フォワードランジでは股関節のモーメント力積がより大きく、サイドランジでは膝関節と足関節のモーメント力積がより大きく示されていた。 関節モーメント力積の比率 — フォワードランジにおける標準化されたステップ幅は、股関節の総関節モーメント力積を増加させ、膝関節の総関節モーメント力積を減少させ、股関節の可動域を向上させる最高股関節屈曲を増加させることにより、更にエクササイズを股関節主導にした。 *** 制限要素は何か? この研究には、以前の研究により発見されていた、ランジを行う際の生体力学に影響を及ぼす、体幹の傾きの影響について、研究者たちが調査しなかったことに制限があった。加えて、研究者たちは様々なランジのバリエーションを行う際、バーベル、ダンベル、弾性レジスタンスなどの負荷の使用が、生体力学に与える影響について報告していなかった。更に、バックランジやウォーキングランジの評価は、されていなかった。 *** 実践的な意義は何か? トレーニングプログラムでのランジの使用のために: 股関節の伸展トルクを最大化させ、ランジをできる限り股関節主導にするためには、サイドランジではなく、より広いステップ幅でのフォワードランジが最適である。 一方、ランジを行う際の膝の伸展トルクを最大化させ、ランジをできる限り膝関節主導にするためには、狭いステップ幅でのサイドランジが最適である。 ダイナミックストレッチの動きの中で、足関節の背屈を最大化させるためには、フォワードランジよりもサイドランジが優れている。 ダイナミックストレッチの動き中で、股関節の屈曲を最大化させるためには、少なくとも身長の60%に標準化されたステップ幅でのフォワードランジが最適である。 一方、できる限り膝の屈曲を減少させるためには、自己選択をしたステップ幅でのサイドランジが最適である。そのため、これはリハビリテーションの場に於いて、フォワードランジを始める前段階のリグレッションとして有益であろう。とはいえ、体幹を前傾させたバックランジは、サイドランジよりも更に膝に負担がかからないと考えられる。