トータッチプログレッションでつま先に触れてみよう パート1/3

簡単なテストで、その人が持つ潜在的な問題の多くを明らかにすることができます。 トータッチは、そのようなテストのひとつです。 深いスクワットのようにトータッチも、かなり細かいところまで観察すると、たくさんのことが分かる基本的なムーブメントパターンです。 それでは、どうしてつま先に触れることができない人がいるのか、そしてそれは何を意味するのかを見ていきましょう。 つま先に触れることができない理由 つま先になかなか届かない場合、ハムストリングの硬さのせいにされることがよくあります。なぜなら、この動作をするとそのように感じるからです。 しかし、ハムストリングの硬さが本当の原因なのでしょうか。それともこれは、なにか他の問題の症状にすぎないのでしょうか? 多くの場合は、後者です。過去のケガが完治していなかったり、トレーニングにおける悪い癖があったり、ポステリアチェーン(身体後面の連鎖)に対してアンテリアチェーン(身体前面の連鎖)のトレーニングの方が過多になってしまうなど不均等なトレーニングであったり、可動域が十分でなかったり、他の多くの原因の可能性があるかもしれません。これらどれがあっても、つま先に触れることができる生まれ持った能力を低下させる可能性があります。 なぜ皆さんやクライアントが、つま先に触れることができないのか、その主な理由は下記の通りです。 不十分な後方への体重移動—上半身が下方と前方に傾いた時、後方へ体重を移動できなければバランスを崩し、前方に倒れないようにするために、ハムストリングが収縮します。この場合、ハムストリングは、単にケガを食い止めるサイドブレーキにすぎません。 こわばった腰部—つま先に触れる際、腰を丸めたがらない人がいますが、おかしなことに、このような人ほど、デッドリフトなどの負荷下で危ない腰の曲げ方をしたがるのです。 頸椎や胸椎のこわばり—頸椎と胸椎のこわばりもまた、床に向かって手が届く距離を制限することがあります。 底屈筋群の緊張の増加—緊張の増加は、膝関節と足関節をまたがる腓腹筋に主に見られます。底屈筋群の緊張は、関連する痛みがない限り、ほぼ必ずといってよいほどハムストリングに感じられます。 では、どのように原因を絞り込んでいきますか? FMSのアクティブストレートレッグを行ってみてください。 片側の脚を動かさずに床にぴったり置いた状態で、もう一方の脚が約80°あるいはそれ以上挙上するにも関わらず、つま先に触れることができない場合、問題は骨盤よりも上部に潜んでいる可能性があります。 脚が70°前後にも挙上できない場合、問題は骨盤より下部にありますが、骨盤より上部に潜む問題を除外できるわけではありません。 注: ファンクショナルムーブメントスクリーンでは、トータッチはプログレッションではありますが、スクリーンではありません。 SFMA(メディカルムーブメントスクリーン)では、最初にトータッチを行います。もし、症状が引き起こされたら、その原因を見つけるためにリグレッション(後退)を行います。 デッドリフトをする前にトータッチができている必要がある理由とは つま先にしっかり触れることができない人は、矢状面での低速でテンションの高い動きをする時や、高速でテンションの高い動きをする時の、生体力学的な動きと体重移動が不完全です。 その動作に必須であるコアの安定化と脊椎の安定化を放棄してしまい、屈曲動作の初期に、安定し硬くなっているべき部位を使って屈曲しようとしているのです。 これは、適切なヒップヒンジが行えないということを意味します。この場合、軽いウェイトであってもデッドリフトをしようとする姿勢をとったとき、動作の初期には腰部を丸くしてしまいます。股関節を働かせるのではなく、最終的に、脊椎に負荷をかけてしまうのです。 注:非荷重の動きであるトータッチで脊椎を丸めることは、オーケーです。トータッチで脊椎を丸くしないことは、機能不全を示しています。なぜなら、それは正常な体重移動や身体力学、アライメントが乱れているということだからです。 トータッチは、腰部の緊張を緩め、踵からつま先へ滑らかに、一貫した体重移動ができるようにします。これらは共に深いスクワットとヒップヒンジに極めて重要です。 つまり、クライアントにトータッチを指導することにより、デッドリフトや深いスクワットを指導する為のより良い環境を提供します。 体力があって健康的に見える人を指導する時、確証がない限りその人がトータッチのような基礎動作パターンを遂行できると推測しないでください。デッドリフトやケトルベルスウィングのような負荷下の動作を行う前に、必ずスクリーニングを実施し、つま先に触れることができるかどうか確認しましょう。 つま先に触れるようになるためにどう指導するか つま先に触れることができない人のほとんどは、アクティブストレートレッグレイズの際、ある程度の困難が生じます。もしそれが問題であれば、常にまずアクティブストレートレッグレイズを先に正常化します。 もし、アクティブストレートレッグレイズが完璧であるにもかかわらずトータッチが行えないならば、立位でこの動作を行う際、完全な可動域を妨げる何かがあるのかもしれません。 この場合、簡単に行えるトータッチプログレッションに従います。ここではストレッチや軟部組織のモビリゼーションは一切必要ありません。 トータッチプログレッション 段階1:トーアップ 両足を揃えて立ち、踵同士とつま先同士を付けます。板等を利用して両側の前足部を1~2インチ(2.5~5cm)挙げます。 つま先に触れることができない人は、矢状面の動きにおいてのバランスのとりかたが異なります。体重の移動を正しく行うことができず、平衡を保つために、底屈と背屈に偏っているのです。 つま先を上に向けておくことで、バランスを保つために脚に頼ることが少なくなり、より体幹と体重移動の能力に頼るようになります。 足の位置を変えず、膝を軽く曲げます。フォームロールまたは筒状に巻いたタオルを膝と膝の間に挟みます。 前屈を妨げるのは、アンテリアチェーンやポステリアチェーンだけではありません。外側線である腸脛靭帯と大腿筋膜張筋も、前屈を妨げることがあります。両膝が触れていなければ、外側ハムストリングと腸脛靭帯に偏ってしまい、膝のロックが解除されます。これは、関節の後面を保護するためのハムストリングの発火をストップさせます。 両膝の間に何かを挟むことは、持越し効果もあります。内転筋群が発火すると、腹筋へも影響してそれらも発火します。そうすれば、相反抑制と背部の筋群の弛緩を得ることができます。 このポジションは不自然に感じるかもしれません。もしクライアントがこの足のポジションを保持できないようであれば、フォームローラーやタオルから他の小さめの道具に代えてください。 まず、両腕を天井に向かって伸ばし、手のひらは前方を向けるようにします。 呼吸を変えることなく腹部をできる限り深く引っ込めます。 ここで、ゆっくり緩やかにつま先に向かって手を下げて伸ばします。スティッキングポイントに達成したらフォームローラーやタオルをしっかりと挟みます。 スティッキングポイントに達したら、フォームロールまたはタオルをしっかりと挟むことにより、腹筋群を活性化させ、大腿の外側と背部を弛緩させ、さらにつま先に近づくことができます。 腹部を引っ込めた状態を保つことを忘れないようにしましょう。 つま先に手が届くまで繰り返し行います。 つま先に触れることができない、少しチーティングします。 これでもまだつま先に届かない時、足の位置を変えなくても膝を曲げることによりチーティングします。 息を吐いて、つま先に手を伸ばします。 たとえ膝を軽く曲げてしまうことでチーティングしたとしても、毎回きっちりと成功することが重要です。 「毎回、できる限りチーティングを少なくするようにし、チーティングする必要がなくなるまで改善させていきましょう」とクライアントに伝えます。

ファンクショナルムーブメントシステムズ 3474字

プラシーボの科学 パート1/2

プラシーボという言葉は何を意味するのでしょうか?プラシーボ効果は実際に健康に効果があるのでしょうか、それともただの想像上の効果なのでしょうか?プラシーボは、「身体を支配するマインド」なのでしょうか、それとも「全て頭の中だけのもの」なのでしょうか?クライアントにプラシーボ治療を施すことは、倫理に反するのでしょうか?ノシーボはどうでしょう? この記事では、これらの問いに答えるとともに、ファブリジオ・ベネデッティと彼の共同研究者による、興味をそそられる研究について紹介します。 この記事を読み終わる頃には、あなたのプラシーボに対する理解が深まるでしょう。プラシーボという言葉は、とても曖昧で、治療がなぜ、動きを良くすることや気分を良くすることに役立つのかを説明するには不十分なため、あなたはもうこの言葉を使わなくなるかもしれません。 プラシーボ効果とは正確にはどういったものでしょうか? プラシーボは、異なる文脈の中では、異なることを意味するため、混乱を招きかねない言葉です*。この記事においては、下記の内容を意味します。 プラシーボは、その治療自体には効果があるからではなく、患者が効果を期待することによってのみ症状が緩和する治療です。たとえば、シュガーピルは、摂取する人が効果を得られると期待していれば、頭痛を改善するプラシーボとなります。でも効果を得られることを期待していなければ、それはプラシーボにはならず、何も効果はありません。 プラシーボ効果とは、治療に対する期待が脳に変化を起こし、症状の改善が始まる生理学的プロセスです。こういった変化は、本物であり、想像上のものではありません。つまり、本当のプラシーボ効果を経験するということは、ただ良くなることを想像しているだけに留まらず、実際にその効果を証明できる客観的で計測可能な生理学的変化があるということです。 ノシーボ効果は、基本的にはその逆で、害があると思っていなければ害のない刺激が、害があると思うことによって、症状に悪影響を与えます(例:痛みの増加、機能の低下)。 マインドとボディの混乱を解く プラシーボはよく、「マインドとボディのつながり」という言葉で表現されます。これは、何らかの神秘的なプロセスに関連している、あるいは、プラシーボを理解するためには根本的に考え方を変える必要があることを示唆しています。しかし、実際に身体の中で起こる抽象的な思考や事象は、直感的であり、取るに足らないほど明白であるべきです。 カップを取ろうと手を伸ばそうと意図すれば、手は実際にカップに届くのです!家に侵入者がいると考えれば、心臓の鼓動が高まり、汗をかくでしょう。もし私が常に何かを心配し続けているとすれば、頭痛や心臓発作の危険性は高まります。思考が身体に影響を与えることは、既に周知の事実なのです。 つまり、プラシーボ効果は魔法でも何でもなく、認知が生理に影響を与える、多くある現象の一つなのです。しかし、思考と期待が行動と感情に影響を与えるメカニズムを明らかにするという意味で、とても興味深く、臨床的に意味のある現象です。 プラシーボ効果によって何ができるか? プラシーボは、痛みのレベル、運動制御、筋緊張、筋力、持久力、エネルギーレベル、鬱、免疫反応、心拍数、グルコース値など様々な要素に変化をもたらすことができます。酔っ払わせることだってできるのです!しかし、プラシーボは何にでも効くわけではありません。癌を治すことはできませんし、あなたの身長を伸ばすことも、おそらく喘息の症状を改善することもできません。 多くの場合、プラシーボ効果はかなりのものです。痛みに関して言えば、10点満点の痛みの自己評価スケールにおいて、2点分の変化をさせることができます。 ここからは、痛みに関連したプラシーボ効果に着目します。 プラシーボ効果は、どのようにして痛みを軽減するのでしょうか? プラシーボが痛みにどのように影響を与えるのかを理解する最も簡単な方法は、痛みの役割を考えることです。痛みは、身体に知覚された脅威から自身を守るために作られた不快な感覚です。プラシーボは、その脅威に対する認識、つまりは痛みを変えるのです。その働きは次の通りです。 脳は常に、集められる情報全てを駆使して、身体に起こり得る脅威を無意識に分析しています。その情報は、幅広く、様々な場所から入手されています。身体からの感覚情報、目からの視覚情報、記憶、考え、そして重要なのが、医学の専門家から提供された情報です。そのため、医者が、身体の状況や、治療のために処方した薬に対して何かを言うと、その情報は、脳が無意識にその状況から自身を守るのに痛みが必要かどうかを判断する材料の一つとなります。 別の言い方をすれば、プラシーボ治療の効果に対するあなたの考えが、脳に入ってきて認識される情報の一つとなり、脳から出力される痛みを変化させるのです。 ベネデッティと彼の共同研究者たちによる研究は、プラシーボ効果をもたらす3つの異なる精神的プロセスのパターンを明らかにしました。それは、(1)効果の期待、(2) 不安の軽減、(3) 関連性を介しての学習 です。これについて、それぞれに伴う生理学的プロセスとともに順に見ていきましょう。 報酬への期待 プラシーボが働くメカニズムの一つは、脳の報酬システムを活性する、効果に対する期待を作り出すことによるものです。報酬システムは、私たちを遺伝子の拡散を最大化させる行動、つまり、食べ物を食べたり、セックスをしたり、お金を手に入れるといった、一般的に人間が強く動機づけられる全ての行動に向かわせます。また、ドーパミンの放出にも影響を与えます。たとえば、社会的承認を得る報酬経験により、ドーパミンが放出され、また同じ経験をしたいと思うようになるのです。それはまるで生まれつきのドッグトレーナーのようです。Facebookのいいね、が犬への褒め言葉になるように! このように報酬システムは、痛みを軽減するプラシーボに関わっています。プラシーボ効果は、報酬を受けた時に放出されるドーパミンが多い人ほど、より大きく表れます。また、お金を受け取ることに、より大きな報酬を感じる人にも強く表れます。ノシーボ効果は、ドーパミンの減少と関連しています。また、プラシーボによって、パーキンソン病患者が経験する運動コントロールの改善は、それに関連する脳の部分のドーパミンの放出量と相関があります。 では、実際どのように報酬システムの活性が痛みを軽減するのでしょうか。報酬ベースによる痛覚消失のメカニズムの1つは、痛覚の下行性抑制です。脳がオピオイドやその他の薬のような物質を脊髄に送り、侵害信号(痛みにつながる危険な信号)が脳に届くのを遮断するのです。デビット・バトラーは、このシステムを「脳の薬箱」と呼んでいます。このシステムがプラシーボの痛みを取り除く効果に関わっていることを、どのように知ることができるのでしょうか?このシステムの働きをブロックする薬を与えると、報酬への期待によるプラシーボ効果は起こらなくなるからです。 面白い例があります。その研究では、実験者は、被験者の腕に止血帯を巻き、できるだけ長い間、痛みの限界まで、ボールを握りしめるように指示しました。一つのグループには、このエクササイズは筋肉に効果があると伝え、もう一つのグループには何も伝えませんでした。当然のことながら、効果を期待したグループは、より長い時間痛みに耐えることができました。ここからが面白いのですが、この効果への期待によって高まった痛みの耐性は、抑制システムの下行性抑制が起こるのを防ぐ薬によって完全になくなったのです。 このことから、下行性調節は、報酬への期待に関連したプラシーボ効果に関わりがあることがわかります。これは、フォームローラーやトリガーポイントワークなどの、エクササイズによる痛みの軽減にも影響していると考えられます。 興味深いことに、繊維筋痛、慢性疲労、過敏性腸症候群など、多くの慢性的な痛みの症状は、下行性抑制システムの相対的な非効率性によって特徴づけられます。このグループの人たちは、報酬への期待によるプラシーボを経験する可能性が低いと認識するべきでしょう。 不安の軽減 プラシーボが働くメカニズムの2つ目は、不安の軽減です。不安とは、未来の脅威を想像する状態を意味します(これは、現在の脅威の認識である恐怖とは区別することができます)。 研究により、プラシーボが不安を軽減し、それにより痛みも軽減する傾向があることがわかっています。ノシーボはその逆で、不安や痛みを増幅します。たとえば、ある研究では、実験者は被験者に低強度の電気刺激が痛みを及ぼすと伝えました。そうすると、本来はほとんど痛くはないはずなのに、本当に痛みを感じるのです。 もう一度言いますが、この効果は本物であり、想像上のものではありません。研究者達は、被験者の主観的レポートからだけではなく、関連する脳のエリアの活動の客観的計測によって、不安および痛みの増加を発見しました。 さらに、ノシーボが実際に生理学的効果をもたらすことも、ベンゾジアゼピンやジアゼパムなどの不安を低減させる薬が、その生理学的効果を取り除くことを示す実験によって証明されています。何かによって痛みが起こるという偽の情報によって不安になることがなければ、本当にもたらされるはずの痛み以上の痛みは起きないということです。 また、不安には、プラシーボによる痛みの軽減をもたらすドーパミンやオピオイドのネットワークに対抗する働きがあります。 *プラシーボのもう一つの意味は、ある治療が効果的かどうかを判断しようとする研究の中で使われています。この意味は、被験者が、病気の自然発生的な緩和、データエラー、平均値への戻りなど、治療の後で気分が良くなることをデータが反映している様々な理由を含んでいます。この意味で、頭痛が次の一時間で良くなるとして、その直前に薬を取ると、症状の改善が「プラシーボ」に属していることになります。しかしプラシーボが持つもう一つの意味は、症状に本当の客観的変化が一切ない場合でさえ、その人に気分が良くなると思わせるもの、または気分が良くなることを報告させるものでもあります。

トッド・ハーグローブ 4353字

標準のデッドリフトとヘックスバーデッドリフトはどのように異なるのか? パート2/2

デッドリフトの際の関節モーメント ストレートバーデッドリフトモーメント 研究者たちは、ストレートバーデッドリフトの際、負荷の増加に伴い股関節、膝関節、および足関節のモーメントが増加したということを報告している。しかしそれらは全てが均等に迅速に増加したわけではない。下記のグラフに示されているように、股関節モーメントは負荷の増加と共に最も速く増加し、足関節、膝関節の順に後に続いていた。 ヘックスバーデッドリフトモーメント ヘックスバーデッドリフトにおいても同様の現象が観察された。股関節モーメントは負荷の増加に伴い最も速く増加し、足関節モーメントがその後に続いていた。膝関節モーメントは負荷の増加に伴い有意な増加はしていなかった。これは下記のグラフにて見ることができる。 しかしながら、洞察力の優れた人にはさらに2つの事が明確であるだろう。まず第1に、股関節モーメントは全てストレートバーデッドリフトにおいてより高い。研究者たちは、これはヘックスバーデッドリフトの場合、モーメントのアームがより短いことが理由であると説明している。第2に、股関節対膝関節モーメントの比率がヘックスバーデッドリフトと比較し、ストレートバーデッドリフトにおいてより高い。下記のグラフはその点をより明確に示すためのものである。 このグラフは、ヘックスバーデッドリフトと比較しストレートバーデッドリフトは、より高い股関節対膝関節の比率をもっているということを示している。それはまた、ストレートバーデッドリフトにおいて股関節モーメントは、膝関節モーメントより速く増加する傾向にあるが、ヘックスバーデッドリフトにおいては有意ではないということを示している。 *** 研究者たちはどのような結論に達したのか? 研究者たちは、デッドリフトの様々な生体力学的変数は、その動作をストレートバーもしくはヘックスバーのどちらで行うかにより変化する可能性があるという結論に達した。彼らはそのような変数には、使用した絶対負荷、バー速度、出力、加速段階に費やした時間、脊椎モーメント、および股関節対膝関節モーメントの比率が含まれていると結論付けた。最終的に彼らは、ストレートバーデッドリフトは、股関節伸展トルク、および腰部の筋力を発達させるためにはより効果的であると述べている。しかしながらヘックスバーデッドリフトは、より低い脊椎負荷および股関節伸展トルクを含むが、より重い負荷をリフトすること、同様の負荷の割合においてより速いバー速度および出力を得ることを可能にしている。 *** 制限要素は何か? この研究は、ストレートバーによる従来のデッドリフトのスタイルに限られていた。ヘックスバーデッドリフトが、とりわけ加速段階に費やされた時間、および行われた力学的仕事に関して、特にスモウデッドリフトはそれらに関し従来のデッドリフトよりもより優れているということを考慮に入れると、スモウデッドリフトと比較しどうであるかを知ることは興味深かったであろう。 更に出力については、これらがシステムに対する総合出力であるということを留意することは重要なことある。各関節の出力は報告されておらず、デッドリフトの種類や負荷の間で異なっていた可能性がある。 *** キーポイントは何か? この重要な研究にはいくつかのキーポイントがある。 ストレートバーデッドリフトはヘックスバーデッドリフトと比較し、股関節伸展強度を発達させるためにはより良いエクササイズである。 股関節対膝関節伸展モーメントの比率はヘックスバーデッドリフトと比較し、ストレートバーデッドリフトにおいてより高く、より股関節主導のエクササイズとなっている。 股関節対膝関節伸展モーメントの比率は、ストレートバーデッドリフトにおいては負荷の増加と共に増加するが、ヘックスバーデッドリフトでは異なる。これは、ストレートバーデッドリフトは、負荷の増加と共により一層股関節主導のエクササイズとなるが、ヘックスバーデッドリフトはそうではないということを意味している。ゆえに両方のバリエーションのパフォーマンスに間におけるキャリーオーバーの程度は、負荷の増加に伴い減少する可能性がある。 ヘックスバーデッドリフトはストレートバーデッドリフトと比較し、膝関節伸展強度を発達させるためにはより良いエクササイズであり、腰部により優しい。 両方のバリエーションのデッドリフトは、最大下負荷において、オリンピックリフトやそのバリエーションと同様のパワーを生み出す。ゆえにパワーに対するトレーニングを行っているアスリートは、スピードデッドリフトはオリンピックリフトと同等に効果的であり、行うことがより簡単であると感じるかもしれない。 さらにヘックスバーデッドリフトはより高い出力を産出するためにより効果的であった。ゆえにそれはアスリートの下半身のパワーを発達させるための最良の総合的な選択肢であるかもしれない。 パワーに対しトレーニングをする際、最適なパワーはストレートバーデッドリフトでは1RMの30%において、またヘックスバーデッドリフトでは40%において達成される(スクワットにおける50-60%と比較して)。 1RMの80%においては、被験者はストレートバーデッドリフトを行う際と比較し、ヘックスバーデッドリフトを行う際により長い時間を加速に費やす。これは、ヘックスバーデッドリフトが高負荷においてより高いトレーニング刺激を提供するということを示唆している可能性がある. *** 実戦的な意義は何か? ストレートバーデッドリフトを向上するために、ヘックスバーデッドリフトを使用してトレーニングを行うことは、ストレートバーデッドリフトにおける股関節伸展トルクは負荷の増加と共に増加するということの重要性を考慮に入れると、多くの場合そうであるように、弱点が股関節伸展トルクである場合、最適な移行を生み出さない可能性がある。より股関節伸展トルクを発達させるエクサイサイズの方がより良い選択肢であるかもしれない。 スポーツのために最大パワーに対してトレーニングを行っているが、オリンピックリフトには非常に違和感がある場合、それを安全に行うための技術を習得するために何年も年数を費やす必要はない。ヘックスバーおよびストレートバーの両方を使用した最大下デッドリフトは、同様の出力を産出する。(ストレートバーに対しては1RMの30%、ヘックスバーに対しては40%、しかしスクワットに対しては50%を使用すること) デッドリフトをプログラムする際、ヘックスバーデッドリフトはストレートバーデッドリフトと比較し、それほど股関節主導ではないということを知っておくべきである。ゆえにプログラムにおいてストレートバーリフトをヘックスバーリフトへと置き換える場合は、他の股関節主導のエクササイズの量を増加し、他の大腿四頭筋主導のエクササイズの量を適切に減少することが望ましいかもしれない。

ストレングス・コンディショニング・リサーチ 2976字

標準のデッドリフトとヘックスバーデッドリフトはどのように異なるのか? パート1/2

デッドリフトを調査しているほとんどの研究は、競技におけるパワーリフターに焦点を当てており、床反力および出力を確実に記録することを困難にしている。更にデータは競技において記録されるため、同様の研究のほとんどが最大リフトを記録しており、スモウおよび従来のデッドリフトの間の差違を説明することに集中している。しかしながら近年、全く逆の方向へと進む研究が行われた。研究所において測定が行われ、床反力および出力が記録され、最大下リフトの範囲において従来のデッドリフトおよびヘックスバーデッドリフトの比較が行われた。この論説ではクリス・ベアスリー(@SandCResearch)が、研究者たちの発見に対する詳細な考察を行う。 研究論文: 最大下負荷を使用した、ストレートおよび六角形バーベルによるデッドリフトの生体力学解析、スウィントン、スチュワート、アゴーリス、キーオ、ロイド、ストレングス&コンディショニングリサーチジャーナル、2011年 *** 背景 上記のように、デッドリフトを調査している多くの優れた研究は、パワーリフトの競技において行われている。そのような研究は通常、フォースプレートデータへのアクセスの欠如により制限されており、ルールで決められている通り、様々な能力のパワーリフティング競技者により最大負荷を使用し行われる。それらは下記のように要約することができる。 ブラウン(1985年)は、運動学的解析を使用し、最大デッドリフトの際の股関節、膝関節、および足関節のモーメントを調査しており、床反力ないし出力は測定していなかった。彼らの被験者は1981年ミシガンティーンエイジパワーリフティングチャンピオンシップにおける競技者たちであった。 コレウィッキー(1991年)は運動学的解析を使用し、最大デッドリフトの際の股関節および腰への負荷を調査しており、床反力ないし出力は測定していなかった。彼らは被験者として、1989年カナダパワーリフティングチャンピオンシップの競技者を使用した。 同様にマクギカンおよびウィルソン(1996年)は、最大スモウおよび従来のデッドリフトの運動学において報告をしているが、床反力ないし出力は測定していなかった。彼らは地元のニュージーランドパワーリフティングチャンピオンシップの競技者を被験者として使用した。 エスカミーリャ(2000年)は、最大スモウおよび従来のデッドリフトの運動学的データを基にモデルを作り出したが、床反力ないし出力は報告していなかった。彼らは全米マスター選手権において競技している被験者を使用した。 エスカミーリャ(2001年)は、同様の方法を用い、1999年スペシャルオリンピックゲームにおいて競技を行っていた被験者に対し、最大スモウおよび従来のデッドリフトの別の研究を行った。 研究所の環境において、従来のもしくはスモウデッドリフトにおける関節モーメントを調査した研究は、明らかに少数派である。スウィントンおよびその他(2011年)によるこの研究はまさにそれである。さらにその研究では、従来のデッドリフト、およびヘックスバーデッドリフトの間の床反力、パワー、関節モーメントが比較されている。 *** 研究者たちは何を行ったのか? 研究者たちは、19名の若いパワーリフティング競技者たちを集め、管理された環境において最大下ストレートバー、およびヘックスバーデッドリフトを行わせた。被験者は最初に彼らの1RMをテストし、その後10%ずつ増加させながら1RMの10-80%において最大下デットリフトを行った。パワーリフターがこれらのリフトを行っている際、研究者たちはビデオカメラおよびモーションキャプチャーソフトウェアを使用し、3次元における関節角度に関する情報を記録した。研究者たちはまた、フォースプレートを使用し、床反力に関する情報を記録した。これは彼らが全体のシステムに対する力およびパワー、また個々の関節モーメントを計算することを可能にした。 *** 何が起こったのか? 被験者の特性および1RMテスト 研究者たちは、被験者の平均年齢は30.2 ± 5.6であり、平均体重は114.5 ± 22.3kgであったと報告している。彼らは、パワーリフターたちのストレートデッドリフトにおける平均1RMは244.5 ± 39.5kgであり、ヘックスバーデッドリフトにおける平均1RMは265.0 ± 41.8kgであったと記録している。彼らはストレートバーおよびヘックスバーデッドリフトにおける1RMの間の差違は有意であったと記述している。 デッドリフトの際の加速に費やした時間 リフトの際に加速に費やした時間は、トレーニング効果の程度を知るための重要な測定値である。加速に費やした時間は、バーに対し力を発揮するために費やした時間である。研究者たちは、1RMの80%を除いては、ストレートバーおよびヘックスバーデッドリフトの間に、加速に費やした時間における有意な差違はなかったということを発見している。1RMの80%においては、下記のグラフで示されているように、パワーリフターはストレートバーデッドリフトを行っている際と比較し、ヘックスバーデッドリフトを行っている際により長い時間を加速に費やしている。 デッドリフトの際の速度およびパワー 研究者たちはストレートバーおよびヘックスバーデッドリフトの際のバー速度は、1RMの40-80%の間において有意に異なっていたということを発見している。下記のグラフに示されているように、ヘックスバーデッドリフトの際のバー速度は、ストレートバーデッドリフトの際と比較しより速かった。 研究者たちは同様に、主にバー速度増加の結果として、1RMの30-80%の間での出力に有意な差違があったということを発見している。下記のグラフに示されているように、ヘックスバーデッドリフトはこの範囲においてより高い出力を示していた。 更にヘックスバーデッドリフトはストレートバーデッドリフトと比較し、異なる負荷において出力のピークを示していた。研究者たちは、ヘックスバーにおけるピークパワーは4,388および4,872Wに達し、ストレートバーのバリエーションではそれぞれ6,049および6,145Wという高い値に達したということを報告している。オリンピックウェイトリフティングバリエーションに対しても同様の値が報告されている。例えば、ウィンチェスター(2005年)およびコーミー(2007年)はパワークリーンにおいて、それぞれ4,230および4,900Wという最大ピークパワーの値を報告している。最後に研究者たちは、最大パワーはストレートバーデッドリフトでは1RMの30%において達し、ヘックスバーデッドリフトでは1RMの40%において達したということを記述している。スクワットにおけるパワーのための最適な負荷を調査した研究が、わずかにより高い比率(例:50-60%)を発見しており、またヘックスバーデッドリフトはよりスクワットの動作に近いため、これは興味深いことである。

ストレングス・コンディショニング・リサーチ 2982字

なぜカフェインを摂り放題にしているのか? パート2/2

あなたにとって幸運なことは、貴重な教訓を私の失敗談から学ぶことができることです。 1. 短期間の利益は長期間の痛みを伴う 私は2~3ヶ月の間トレーニングセッションの効果をだすために“偽物のエネルギー”で自らを奮い立たせていました。そしていつの間にか、一ヶ月間散々なトレーニングセッションを送るという結果に自分を追いやってしまったのです。やはり一年を通して “常に良い状態”を保つべきなのです。 2. 沢山の若手アスリート達がしていること! 10代アスリート達の沢山の食事日記に目を通してきましが、彼らには大抵足りない部分が多くあります。ほとんどの子供がスポーツドリンクや炭酸を飲み過ぎて、水はほんのわずかしか飲みません。果物と野菜はかなり不足していますし、加工された炭水化物をとりすぎています。身体を維持する良い脂肪は全くない状態です。 こういった欠点に関わらず、多くのヤングアスリートは常に “より良い運動前のサプリ”を探し回っています。恐らく、本当に恐らくですが、もしこういったアスリート達が正しく食べて十分な睡眠がとれれば運動前のサプリメントの必要は無くなるでしょう。 双子の子を持つ、疲れきった34歳の起業家が、この道を辿るのと、回復力があり、未成熟な16歳がウェイトルームやフィールドで力を発揮する為に刺激が必要だと思うのは別物なのです。 3. コーヒーは危険な坂道である 立派なダイエット計画を立てたのに、言い訳を見つけて身体に悪い食べ物を選択する友達が過去にいませんでしたか? “えっと、あなたはサツマイモが僕にとって良質な炭水化物だと言っていたから、普通のジャガイモも同じように良いと思うのです。それに、もしもジャガイモがオッケーなら、自家製のフライドポテトも大丈夫ですよね。ちなみに、もし自家製のフライドポテトがオッケーなら、自分の好きなファーストフードレストランのフライドポテトもオッケーですよね?” 自分次第でいくらでも正当化することは可能です。コーヒーの場合、2型糖尿病、パーキンソン、アルツハイマー、心臓血管系の健康、ある特定の種類の癌や、その他多くの健康面において、健康上メリットとなる可能性があることはわかっています。もちろん、許容範囲内での話です。毎日1ガロン(3.8リットル)のカフェイン入りコーヒーを飲んでも、先程述べた疾患により強力に効くということはありません。加えて、コーヒーと同じ健康効果を手軽な興奮剤であるエナジードリンクやマウンテン・デユーに期待してはいけません。 4. どんな形であれ、カフェインの過大評価には細心の注意を払う必要がある どういったわけか、フィットネス業界のなかでカフェインはとても愛されています。なぜならストレングスやパワー系の動作から持久系のスポーツまでの数々の肉体的チャレンジにおいてパフォーマンスの向上が証明されているからです。こういった効果のいくつかは、日常的な摂取によってアスリートがカフェインに対して鈍感になった時に弱まってしまうのですが。 当然のことながら、私達は一日中エナジードリンクに依存する多くのアスリート達やフィットネスの専門家達を見ています。彼らはいつでも交感神経システムを刺激して、トーンダウンや回復モードに切り替えなければならない場面でも常に “活動”モードになっているのです。 興味深いことに一杯のコーヒーは朝のルーティン、サプリメント、そして社会的な飲み物として捉えられています。恐らくそれが、なぜこんなにも多くの人々が過剰にカフェインを摂取するのかを解説してくれるのかもしれません。彼らはその3つ全てを毎日欲しているのです。 忘れないでほしいのは、私はカフェインの適度な消費を推奨しているのであって、完全に断つ事ではありません。私自身毎日コーヒーを飲んでいますし、特に禁止する予定もありません。 5. 感じようが感じまいが、ストレスはストレスである もしあなたが12月と1月の頃の私に、調子はどうかと尋ねたとすれば、 “びっくりする程良い”と答えていたでしょう。私はアップダウンが全くない男で、A型パーソナリティであるにも関わらず、滅多に “ストレス”を感じることがありません。興味深いことに、自分の人生で生理的に最もストレスのかかる時期において、ほとんどの場合ひどい不快感を感じずに(多量のカフェインに頼って)乗り切ってきました。もちろん、最終的には自分にはね返ってきます。アスリート達の場合、過剰なストレスに出来るだけ早く気づく必要があります。そうすればトレーニング量を減らしたり、リカバリーの割合を増やしたりできるのです。 6. 良い状態は簡単に忘れてしまう 私は約15年間、自分のトレーニングにもかなり真剣に取り組んできたので、身体感覚と調和がとれていると思っています。 加えて、私は沢山のハイレベルなアスリート達、特に野球選手と仕事をしています。エリートアスリートのほとんどは信じられないような運動認知感覚をもっていて、少しの “違和感”でも感じ取ることができるのです。 興味深いことに、アスリートにとって“落ち込む”ことは決して珍しい事ではありません。私達は、野球という世界的な球技のなかのトップの0.001%にも関わらず、フォームの安定にもがく沢山のMLB投手を見てきました。また、長い期間怪我に悩まされて動き方が変わってしまう選手もいます。小さな事柄が大きな変化を起こすことがあります。時には、かなりの大きな変化が起きていることに気づかないことさえあります。 私は4~5ヶ月間かなりの不調を抱えていましたが、育児と終わらせなければならない仕事への責任感でそれを忘れることができました。加えてトレーニングを欠かすことはあり得なかったので、自分は大丈夫だと効果的に納得させられたのです。他に何が言えるでしょうか?知的な人間も、友達やクライアントに対応している時のようには感情的に切り離すことができないために、自分自身の健康管理に関してしばしば大きな過ちを犯してしまいがちです。 自分をこの状態から引きずり出すのには、最悪な感じがする数日が必要でした。2ヶ月後、びっくりする程に回復し、質の高いトレーニングセッションを再開することができたのです。これは私にとって大きな人生経験となりました。そして私のアスリートに対する接し方にも間違いなく何かの影響を与えることでしょう。ただ、周りに経験してもらいたい試練では全くありません! 次にあなたが3杯目のコーヒー、又は午後のエナジードリンクに手を伸ばす時にはもう一度よく考えてくれることを願います。そして、その行為は恐らくあなたが人生の他の局面において、目先にとらわれた決断をただ隠す為のものだということに気づいて下さい。

エリック・クレッシー 2867字

立位での足首の運動制御 パート2/2

立位でのよりファンクショナルなポジションで、足関節、距骨下関節を含む足部の運動制御を高めるための、固有受容器の働きにドライブをかける為のアプローチを実践的に、段階的にご紹介するビデオのパート2。

ベン・コーマック 8:13

立位での足首の運動制御 パート1/2

立位でのよりファンクショナルなポジションで、足関節、距骨下関節を含む足部の運動制御を高めるための、固有受容器の働きにドライブをかける為のアプローチを実践的に、段階的にご紹介するビデオのパート1。

ベン・コーマック 6:10

なぜカフェインを摂り放題にしているのか? パート1/2

今回は少し個人的なお話をさせてもらいます – そして最後には素晴らしい学びもいくつかありますので、辛抱強く目を通して下さい! 沢山の方々がご存知のように、2014-2015の秋冬はクレッシーファミリーにとって、かなりクレイジーなシーズンとなりました。まず9月の始めに、妻と私はフロリダ州のジュピターに新しく建設されるクレッシースポーツパフォーマンス施設の準備の為にフロリダに引っ越したのです。数ヶ月に及ぶ準備の後、施設は11月の始めについにオープンしました。 施設や自宅管理のため定期的にマサチューセッツに帰ることもできず、別の州に施設をオープンすることは容易な事ではありませんでした。これに加えて私の普段の義務であるジムやネット上での仕事の管理、ビジネスコンサルティングがあり、ジムでは自分自身のハードトレーニングを継続していたのです。 更にややこしいのは、この引越は、私の妻が双子を妊娠中に起きた出来事だということです。。。当初の出産予定日は12月17日でしたが、彼らは約3週間早い11月28日にこの世に生を受けました。2人共とても元気ですが、当初は時に酸素補給や栄養チューブが必要な新生児集中治療室(NICU)で過ごす時期もありました。 言うまでもなく、秋と冬は一日が長く沢山の “長時間労働”があります。この長時間労働に慣れてはいるものの、この長時間を生まれたての双子達の為に毎晩2~3時間しかとれない睡眠で過ごすことには全く慣れませんでした。 私は、プログラムとトレーニングをただ増やし続けることはできないと、よくアスリートに話しています。もし新しい何かを入れたら、たいてい他の何かを減らさなければいけません。そしてもし何も減らさずに増やすことのみ強く求めるのならば、マッサージ、睡眠、またはその他多くのオプションのどれであれ、リカバリー方法に時間を費やす準備をしなくてはなりません。例えその時間がなかったとしてもです。その時間をどう使いますか? Caffeine - and a lot of it.

エリック・クレッシー 2272字

傷害に関する真実 パート3/3

ストレス過負荷と傷害サイクル 身体が適応できる以上のストレスを急激に、または、慢性的にかけてしまうことで、傷害に至ってしまう理由は、表面上明白であるかもしれませんが、詳細について簡単に解説することには価値があるでしょう。 最初に、制御できる以上のストレスに直面すると、身体は生体恒常性を維持し、ストレッサーの影響を最小限にするために、特定の措置を講じることを理解することが重要になります。繰り返しになりますが、それは活動中の身体の防御機構であり、生き延びるためにできることをしているのです。オーバーストレスやオーバートレーニングの期間中に起こっている変化がまさにそれであり、それらはまた、本質的に傷害を引き起こす可能性を有しています。 オーバートレーニング−繰り返し過度なストレスをかけてしまったときに起こることの別名称—の初期段階では、身体はストレス反応ホルモンに対する末梢感度を低下させることで、それを制御しようと試みます。 近所の人と確執があり、彼らがステレオを大音量でならし、家のどこにいてもそれが聞こえてしまう状態を想像してください。もし睡眠をとりたいのであれば、最初にすべてのドアと窓が閉まっていることを確認し、次に耳栓をして、騒音を最小限にするでしょう。 これは基本的には、身体がストレスに晒され始めた時に行うことと同じで、トレーニング時に分泌されるホルモンの効果を弱めることで、その反応を低下させています。しかし、強いストレスがかかる時期になると、身体はそれまで分泌していた以上のホルモンを分泌することで、ホルモンが役割をはたせるようにしようとします。それは、近所の人が、あなたが耳栓をしていることに気付き、さらに音楽の音量を上げることと同じことです。 ストレスを和らげようと試みているにも関わらず、身体がより頑張って働こうとしている状態であれば、いわば、完全に“音楽を切る”こと以外の選択肢はありません。言い換えれば、単にホルモンに対する組織の感度を低下させるというよりも、その生成を完全に低下させるのです。その結果、ストレスへの反応を完全に抑え、生物学的武器を使用することで、身体は慢性ストレスに対処する最終の試みを起こすことになります。 それらどちらの期間でも、過度なストレスによって傷害を起こすリスクはかなり大きくなります。その理由としては、ストレスに対する通常の反応を維持することは、トレーニングやパフォーマンスの生物学的、代謝的ストレスを筋肉や腱、靭帯、骨などが制御できるようにするためにきわめて重要だからです。 アドレナリン、ノルアドレナリン、コルチゾール、成長ホルモン、テストステロン、エストロゲン、ドーパミンなどのかなり強力な化学伝達物質が、神経筋組織の力の発揮に必要となる適切な量を超えてしまうと、良くないことが起こりえますし、多くの場合起こってしまいます。実際に、オーバーストレスやオーバートレーニングの期間中では、ホルモンと神経伝達物質の全体の閾値は、標準のレベルよりもかなり上か下にまで変化させられます。免疫システムでさえも、その機能を低下させ、通常の炎症レベルよりも閾値を上か下に変えてしまいます。 言い換えると、トレーニングや競技中のような極度にストレスが高い期間中は、身体が慢性的なストレスの過負荷に対処しよう試みることで、私たちが傷害を起こすリスクは本質的にはかなり上がってしまということなのです。以前は問題を起こさなかったと考えられる負荷と力が、突然として限界を超えてしまい、筋肉を伸ばしたり、靭帯を断裂したりするかもしれません。 そのような出来事は、組織が力の産出、吸収をする能力が下がる、または、運動制御システムのエラーにより、間違ったタイミングで筋肉を活性させてしまうという理由のどちらかで起こります。どちらのケースであれ、現在の時点では、その質問に対する明確な答えを科学が提供することはできませんが、ストレスと適応の間でバランスがとれないために、ストレスへの対応を変化させつつも、身体に高いレベルでのパフォーマンスを要求し続ける際には常に、傷害や失敗の可能性を有することになるということは明白になります。 さらに悪いことに、将来の傷害を予想する最大の要素は、現在、あるいは、過去の傷害歴であるということも明白です。この原則においても、これは活動時の身体の適応機構の結果であり、組織が損傷を受け、正しく活動できないときはいつでも、身体はそれ以外の筋肉を活動させることで、要求されたことを達成しようと試みるのです。これは代償として知られており、足首の捻挫やACL断裂によって、腰部の問題や肩の問題、または、連鎖に関わる様々な傷害を引き起こすこともあります。 ある部位に損傷が起きたときは常に、それらを代償する筋肉やサポートする組織には、同レベルの力を制御するための十分な機能が備わっていないことが多いため、別の部位が傷害を起こしてしまうリスクがあります。そのため、時間の経過と共に急性の傷害が慢性の傷害に至ることが多く、どれだけ関係のない傷害に見えても、私たちが考える以上に、より関係性が高いことが多いのです。 その悪循環な傷害サイクルを、下の図で見ることができます。 障害のサイクル つまり傷害とは これまでのところで、単に特定のエクササイズの使用や誤使用という観点から傷害を捉えることが、傷害の起こる理由を完璧に描くことではないということを理解して頂ければ幸いです。このような討論が、様々な動きのパターンや関節の機能を分析するところまで広がり、動きの質を純粋に向上させることで、傷害のリスクを予想する、あるいは、最小限にしようと試みているとしても、彼らはまだ、ストレス−適応バランスの基本的な重要性を完全に見過ごしているのです。 あるエクササイズが特定の関節に与える特定なストレスを評価することには確かに価値がありますが、個人の要求、限界、目的が適切であとうとなかろうと、全体の討論を、この部分のみに集中させることは、ストレスの根本的な役割を考慮することを見落しがちで、これは、生物学的なストレスの管理を全体的なアプローチとするのではなく、エクササイズの選択のみを単純な基準にしてしまうことで、傷害評価の表面的なレベルでのアプローチに繋がってしまいがちです。 これまで見過ごされ、あまり討論されてこなかった真実は、すべてのアスリートや個人は、本当にそれぞれ異なっていて、トレーニングプログラムやストレスレベルに同様の反応を示す人は二人といないということなのです。近年、パーソナルトレーニングは、あまりにも闇雲に、すべての人に全く同じことをさせるように促す、ブートキャンプ、クロスフィット、P90X、あるいは、そのようなタイプのトレーニングに置き換えられています。 これらのアプローチは、個人のストレスに適応する能力を考慮することに、情けない程失敗しているというだけではなく、これらの結果は強度による直接的な結果に過ぎない、と説いていることが多いのです。個人差を考慮しない、“多ければ多い程良い”という高強度トレーニングのアプローチは、文字通り悲惨な傷害のレシピであり、人間の身体が全体としてどのように動いているのかを理解し評価するのではなく、完全に間違った売り文句やビジネスモデルを示しているに過ぎないのです。 昨今の若者もまた、似たようなアプローチに晒されており、そのために、腱炎のような慢性のストレス傷害に苦しんでいる14歳くらいのアスリートを見ることが、悲しいことに普通になってきています。複数のスポーツをするアスリートは、クラブシーズンと個人指導に置き換えられています。全体的な身体準備とアスリート能力の発達に費やす時間の不足と、1年中終わりのないスキル練習の組み合わせは、最近の若年層スポーツ傷害の激増に大きく関与しています。 繰り返しとなりますが、すべてはストレスとストレス・適応のバランスを適切にとる能力の欠如によるものなのです。他の人よりもより多くのストレスに適応できる人もいる一方で、結果のためではなく金儲けのために設計された間違ったトレーニングプログラムや、リカバリーと適応を促進することよりも、ストレスレベルのみを増大させてしまうような不健康な生活習慣の影響に対して免疫のある人は誰ひとりとしていないのです。 まとめに あなたがアスリート、コーチ、セラピスト、あるいは医者であれ、また、ただ健康のため、体力を維持するためにトレーニングしているのであれ、私がこの記事を書いた目的は、よく発表されたり討論されているものよりも、より完全な傷害の過程に対する見解を皆さんに提供することです。私の意見と経験からいえば、今日起こっている傷害の多くは、正しいアプローチでトレーニングすることで予防することができるはずです。 どのエクササイズが“悪い”、どのエクササイズが“良い”という終わりない討論をするのではなく、より包括的な見解と、ストレスと傷害に関する真の性質の理解に基づいた討論に方向転換する時です。この記事は単にその議題の概要に過ぎませんが、私は真摯に、この記事によって、皆さんがレラの方向性に沿って考え、討論を始めることを願っています。

ジョール・ジェイミソン 3876字

傷害に関する真実 パート1/3

過去1、2年、ストレングス・コンディショニング業界における最も熱い話題の一つは、トレーニングプログラムに、クランチ、あるいは、脊椎の屈曲を伴う他のエクササイズを含むかどうかという疑問に関するものでした。専門家の中には“含む”と答える人も若干おりますが、最近ではほとんどの人が“含まない”と答えているようですが、その話題で、数えきれないほどの文献が執筆され、インターネット上のトレーニングフォーラムでは、終わりのない議論が行われています。 討論の賛否どちら側でも、多くの場合、理由となる長いリストを引用していて、否定派は、クランチやそのようなものをすることは、腰部の傷害が起こるのを待っているようなものであり、何が何でもそれを避けるべきであると信じています。また、賛成派は、アスリートや個人によって、全体のコアトレーニングのなかの一部分としてそのようなエクササイズをすることができるし、するべきであると信じています。 まず最初に、その話題に対する私の考えと意見を記事に書くことを計画しましたが、討論について調べれば調べるほど、その議論や討論は、まず傷害という全体像を完全に見過ごしているように思えてきました。見過ごしてしまうことで、かなり複雑な話題を過度に単純化してしまうだけでなく、アスリートやコーチに、傷害の予防や管理について賢明で全体的なアプローチをするために必要となる正しい考え方を与えられないこともあります。 というのも、あなたが聞いていない真実は、終わりのない研究の引用、脊柱機能の理論的モデル、どのエクササイズが人々にとって“良い”あるいは、“悪い”という教義的宣言の中で失われたものが、傷害予防や管理の最も重要な原則を本当に理解するということだからです。 パフォーマンスの現実世界で、傷害とはあるエクササイズをするのかしないのか、あるいは、あるエクササイズを特定のセット数行うとかいうものではなく、それ以上のものなのです。それだけ単純であれば、また、1つの特定の動きを削除することで、腰部の問題が解決できるのであれば、素晴らしいでしょうが、人間の身体は、それよりも遥かに多面的であり、ダイナミックです。 ですから、クランチ、シットアップや、その他の似通ったエクササイズが、1回で腰部を壊してしまう時限爆弾なのかどうか、あるいは使い道があるのかを重要視する代わりに、傷害の予防、トリートメント、管理についての、より大きな全体像についてお話します。 なぜ傷害が起こるのか? 始めるのに最良なのは、最も重要な質問である“なぜ私たちは怪我をするのか”に答えることでしょう。結局、なぜ傷害が起こるのか分からないのであれば、それを予防するために、どうやって最善を尽くせるのでしょうか? この記事の目的のために、傷害を急性と慢性の2つのカテゴリーに分けることができます。急性の傷害とは、例えば、ランニングの最中ハムストリングに急に鋭く響くように感じる痛み、あるいは、肘が大きなポンっという音を出して上手く動かなくなるといったものです。だいたいすべてのアスリートがトレーニングキャリアの中のどこかで、急性傷害を経験しています。 同様に、ほとんどのアスリートはどこかで慢性傷害も経験しています。トレーニングセッションの度に肩が痛み、筋肉痛がでたり、あるいは痛みが出たりなくなったりする腰部の問題かもしれません。 私たちが話している傷害の種類に関わらず、傷害に繋がる基本的なメカニズムは1つであり、同じであり、ほとんどの人が考えているものではありません。間違ったエクササイズを行う、やり過ぎてしまう、あるいはトレーニングに十分な正しいエクササイズを使用していないなど、たびたび引用される原因ではなく、すべての傷害は同様の潜在的な原因:ストレスのかけ過ぎが原因で起こっているのです。 ストレス101 私が話しているストレスとは、多くの人が考える典型的な種類のものではなく、重要な締め切りが迫っている、慌ただしい家族生活、経済的な困窮、恋愛関連のドラマ、あるいは、日々の生活の中で直面するその他多くの問題が起こるときに感じるものに関連するストレスでもありません。ここで私が話そうとしているストレスとは生物学的なストレス、あるいは、“生理学的ストレス”と呼ばれるものです。 精神的なストレスとは、感情に関して私たちが話すものですが、生物学的ストレスとは、私たちの身体にかかる肉体的な要求の単位です。歩き回ることから、キーボードを打つ、ウエイトリフティングやトレーニングをすることまですべて、多かれ少なかれ私たちの身体に生物学的なストレスを与えます。 その理由は、かなり多くのことが、筋肉の力の生成、吸収のサポートや、産出に関わっているからです。肺は血液に酸素を送り、心臓は動いている筋肉に血液を送り出し、筋肉内の細胞は筋繊維が収縮・弛緩するために必要なATPを生成し、筋膜と結合組織はサポートと安定性を提供し、脳はどの筋肉が力を産み出し、どれだけの力を産み出すのか注意深く指示を出さなくてはなりません。 多種多様で複雑な生物学的プロセスが目にも止まらぬ早さですべて行われていて、私たちがどのような種類の筋肉の働きを起こす時にも、これは常に必ず起こっています。当然、より多くのタスクを筋肉に課せば課すほど、つまり、力を産出し動作をサポートするためには、これら全ての生物学的システムに、より高強度で高ボリュームの、より高い要求がかかるのです。 いろいろな種類の生物学的ストレス この要求を2つの種類の生物学的ストレスに分類することができます:力学的ストレスと代謝的ストレス。もちろん、代謝は筋肉の機能をサポートするため、その2つは常にお互いが本質的に関連していますが、力学的ストレスとは、神経筋骨格系システム全体で生産され、吸収される力の単位です。 つまり、これは筋繊維自体から、腱、靭帯、筋膜、骨などすべてを含みます。それらすべての組織は力の生産と吸収に関連があり、筋肉を働かせようとするときはいつでも、そのすべてに力学的ストレスがかかります。 一方で、代謝的ストレスとは、エネルギーの生産に関わるすべての組織にかかる要求の単位です。身体の中のほぼすべての主要なシステムが含まれます。心臓、肺、血管ネットワーク、筋肉、脳などにある組織はすべて、筋肉が働くために必要なエネルギーを産み出すために一緒に働かなければなりません。つまり、筋肉に力学的ストレスをかければかけるほど、より多くの代謝的ストレスもかかってくるのです。

ジョール・ジェイミソン 2759字

傷害に関する真実 パート2/3

適応 今までのところ、それらすべてはおそらくかなり単純で明白であるように思えるでしょう。内容がより興味深く、複雑になっていくのは、生物学的適応について話始める時です。これは、身体にかかる負荷に適応するための基本的な能力であり、生命を維持すると共に、限界を越えたときに私たちに傷害を起こす可能性も有します。 おわかりですね、全般的に、身体はストレスを好きではないという事実にすべて戻ってくるのです。ストレス下に置かれれば置かれるほど、生体の恒常性を保つために頑張って働かなければならず、身体にかかる要求が何であれ、そのストレッサーは脅威として知覚されるのです。 トレーニングの中では、すべての活動で、かなりの筋肉の働きが必要であるため、ウエイトリフティング、ランニング、ジャンプ、技術練習などは当然ストレッサーになります。 次回、同様のストレスがかけられた場合、過度に働く必要がないようにするために、そして、生体恒常性がそれほど乱れてしまわないようにするため、身体はストレスのかかっている力学的、代謝的組織を生物学的に変化させることで反応しています。それらの組織はより強くなり、また、代謝的にも効率が良くなり、結果的に、以前直面したものと同じレベルの力学的、代謝的ストレスを制御するためのより良い能力を身につけるようになります。 上の図に見られる適応組織は、トレーニングを通して身体に挑戦することで、単に私たちをより大きく、強く、早く、そして、より良いコンディションにしてくれるものではなく、私たちを生存させてくれるものなのです。もし私たちが生物学的ストレスに適応できるように設計されていなければ、現実世界では長く生きていけないでしょうし、当然、スポーツの練習をする、ウエイトリフティングをする、ランニングをするなどでパフォーマンスを向上させることもできないでしょう。 最近、最も興味深い研究の分野の一つでは、トレーニングに対する反応としての適応が起こる過程を、分子レベルまで掘り下げて、かなり詳細に研究しています。科学者達は、身体がどの種類のストレッサーに直面しているのか、つまり力学的、代謝的ストレスがどのレベルであるのかをどのように判別し、続いて起こる、関与している組織がどのようにリモデリングされているのかということを、解明しようと熱心に試みています。 下の図に見られるように、ストレスの過程、信号化、組織の再構築の詳細を解明することが、最も効果的なトレーニングプログラムをまとめることの鍵となります。身体がどのように異なったトレーニング方法、つまりストレッサー、に反応するのか、そして、適応を導くために、どれだけのストレスが必要になるのかを正確に理解できれば、それらすべてを統合する最良の方法を見つけることができます。 しかし、今のところ、トレーニングは科学的過程というよりも、推測、直感、そして、経験によるものであることが多いでしょう。それらが正しい時、フィットネスとパフォーマンスは向上し、すべてが良い方向に動きます。しかし、それらが間違っていれば、傷害という結果に繋がる事が多いのです。 ストレス-適応バランス トレーニングを最も的確に表現すると、“生体恒常性を乱し、身体の防御システムを作動させるようにデザインされたストレスを目標別に応用することで、リモデリングし、強化し、身体全体の多くの様々なシステムの効率を向上させるものである。”ということになります。大げさに聞こえるかもしれないのは分かっていますが、その過程を見てみると、実際にはかなり的を得ています。 まず、エクササイズのタイプ、つまり、そのスポーツの練習、ウエイトリフティング、ランニング、スイミングなどを選ぶことで、与えようとするストレスの種類を選びます。次に、トレーニングセッションの中で行うエクササイズを選ぶことで、身体のどの領域に焦点を当てるかを決めます。最後に、全体の量と強度を決定することで、どれだけのストレスを身体に与えるのかを決めます。 力学的・代謝的ストレスの混合、身体のどの部位に、どれだけのストレスを与えるのか、といった単純な変数が、トレーニングセッションを定義づけます。もちろん、目標はパフォーマンスを向上させるために必要となる、正しい種類のストレスを、正しい量で目標となる正しい部位に常に与えることです。 もちろん、トレーニングセッションの中でその目標を達成できたとしても、パフォーマンスを向上させるには複数回以上のトレーニングセッションが必要であることを考慮しなければなりませんし、そのため、そのプロセスを何度も繰り返すことになるのです。トレーニングセッションがトレーニング週になり、トレーニング週がトレーニング月になり、トレーニング月がトレーニング期になっていき、それが続いていきます。 最初に思った以上に、このトレーニングプロセスを限りなく複雑にさせているものは、セッション間に、トレーニングセッションのストレスに身体が反応するときに起っていることなのです。その複雑性は、トレーニングによって課せられるストレスの適応方法に、どれだけの変数が関係しているのかということに起因しています。 遺伝子から食生活、メンタルストレスレベル、トレーニング歴、睡眠に至るまでのすべてのことが、組織がどれだけ早くトレーニングプロセスを再構築し、適応できるのかに大きな役割を担っています。十分な睡眠をとり、バランスの良い食事をし、適切な遺伝子と長いトレーニング歴を持っていれば、慢性的なメンタルストレス下にあり、睡眠障害を持ち、食生活が悪く、遺伝的にも劣勢である人よりも、同じレベルのストレスに対して、より素早く反応でき、より早く適応できるようになります。それら多くの変数のなかのどれか1つの小さな違いでさえも、与えられたストレスのレベルに適応する能力に大きな影響を与えてしまいます。 ストレス-適応バランス 残念なことに、多くの場合において、これらすべての変数の重要性や、個人がトレーニングプログラムにいかに適切に反応し、適応するかという能力に与える劇的な影響を多くの場合見過ごしています。人には個人差があり、これらの要素の多くは、時間とともに変化します。つまり、ストレスに適応する能力というのは、非常に個人差があるというだけでなく、それがまた極めてダイナミックでもあるということを意味しています。これは、もしトレーニングプログラムを向上させ管理するという仕事を効率よく行いたいのであれば、ストレス−適応公式の両面を常に見なければならないということを意味するのです。 なにか特定のエクササイズを含む、あるいは含まないということよりも、ストレスの適用と身体の適応能力の間での微妙なバランスこそが、パフォーマンスの向上と傷害発生の間に、真の相違を産み出すものなのです。正しいバランスを見つけ、適切な量のストレスを与えれば、筋力、パワー、コンディショニング、そして向上させたい身体能力を向上させるという報酬を得られるでしょう。しかし、身体が制御できる以上のストレスを繰り返し与えてしまうと、パフォーマンスの低下と傷害は避けられないものになります。

ジョール・ジェイミソン 3028字

スプリントのためのレジステッドスプリントトレーニング パート2/2

メタ分析 趣味としてトレーニングを行うアスリート 少数のメタ分析もしくは系統的レビューが、スプリントパフォーマンスに対するレジステッドスプリントランニングトレーニングの有益性を分析している。これは比較的新しいトレーニング方法であり、レジスタンストレーニングのようなより伝統的なトレーニング方法と比較し、この分野における論文がほとんどないからであろう。ルンプおよびその他(2014年)は、趣味としてのアスリートにおける、スプリントパフォーマンス向上のための異なるトレーニング方法の影響に関し、メタ分析を行った。最初に彼らは、トレーニング方法を特異(スプリントもしくはレジステッドスプリント)、および非特異(プライオメトリック、レジスタンストレーニング、及びバリスティックトレーニング)へと分類した。彼らは、趣味としてのアスリートにおいて、スプリント速度を向上するために、特異および非特異両方のトレーニングは同様に効果的であったと記述している。これは、趣味としてトレーニングを行うアスリートにおいては、レジステッドスプリントランニングトレーニングは、スプリントパフォーマンスを向上するために効果的なようであるということを示している。しかしながらこのメタ分析は、全ての確認された研究が、全体の効果規模にまとめるために適した形式でデータを提示していたわけではなかったという点で制限があった。これらの研究がこの情報を開示していたら、異なる結果が観察されていたかもしれない。また、「趣味としてのアスリート」において行われたと分類された多くの研究は、体育学部の学生において行われており、彼らは全員、あるレベルにおいて競技アスリートであったという詳細が明確にはされていなかった。ゆえにルンプおよびその他(2014年)による調査のこの部分のメタ分析は、比較的トレーニングされていないグループを含んでいた可能性がある。 高度にトレーニングされたアスリート 上記のようにスプリントランニングトレーニングは、趣味としてトレーニングを行うアスリートにおいて、スプリント能力を向上することが可能である。高度にトレーニングされたアスリートにおいても同様であるが、このグループはより多くの恩恵を受けるかもしれない。ルンプおよびその他(2014年)は、高度にトレーニングされたアスリートにおける、スプリントパフォーマンスに対する様々なトレーニングタイプの影響に関し、メタ分析を行った。最初に彼らはトレーニング方法を、特異(スプリントもしくはレジステッドスプリント)および非特異(プライオメトリックス、レジスタンストレーニング、そしてバリスティックトレーニング)に分類した。彼らは、特異および非特異な両方のトレーニング方法は効果的ではあるが、特異性をもつものがより効果的なようであるということを発見している。彼らは、高度にトレーニングされたアスリートにおいては、既に筋力、パワー共に発達した基板を持ち、これは追加の非特異なトレーニングの方法によって更に向上しなかった可能性があると示唆している。 高度にトレーニングされたアスリートにおける、スプリント速度に対するレジステッドスプリントの影響 研究選択基準 集団 – 高度にトレーニングされた成人アスリートのみ 介入 – レジステッドスプリントランニングトレーニングのみ 比較 – ベースライン、ノーマルトレーニングコントロール、もしくはノートレーニングコントロール 結果 – 100m以下の距離におけるスプリントパフォーマンス 結果 以下の研究が選択基準に適合していると認識された:スピンクス(2007年)、ハリソン(2009年)、クラーク(2010年)、アップトン(2011年)、アルカラス(2012年)ウエスト(2013年)、ルバーゲット(2015年)。ほぼ全ての研究が、レジステッドスプリントランニングトレーニングは、短距離スプリントテストにおける高度にトレーニングされた個人のパフォーマンスを向上したと報告している。なぜ少数の研究において向上がみられないのかは、明確ではない。 趣味としてのアスリートにおける、スプリント速度に対するレジステッドスプリントの影響 研究選択基準 集団 – 趣味としてトレーニングを行う成人アスリートのみ 介入 – レジステッドスプリントランニングトレーニング 比較 – ベースライン、ノーマルトレーニングコントロール、もしくはノートレーニングコントロール 結果 – 100m以下の距離におけるスプリントパフォーマンス 結果 以下の研究が選択基準に適合していると確認された:ザフェリディス(2005年)、クリステンセン(2006年)、マイヤー(2007年)、ロッキー(2012年)、カワモリ(2013年)、バケローメナ(2014年)。ほぼ全ての研究は、レジステッドスプリントランニングトレーニングは短距離スプリントテストにおいて、趣味としてトレーニングを行う個人のパフォーマンスを向上するということを報告している。なぜ少数の研究において向上がみられないのかは、明確ではない。 レジステッドスプリントの際の、スプリント速度に対する負荷の影響 研究選択基準 集団 – 趣味としてトレーニングを行う、もしくは高度にトレーニングされた成人アスリート 介入 – 2つ以上の異なる負荷におけるレジステッドスプリントランニングトレーニング 比較 – ベースライン、ノーマルトレーニングコントロール、ノートレーニングコントロール、および異なる負荷におけるレジステッドスプリントランニングトレーニング 結果 – 100m以下の距離におけるスプリントパフォーマンス 結果 以下の研究が選択基準に適合していると確認された:カワモリおよびその他(2013年)、バケローメナおよびその他(2014年)。両方の研究は、異なる負荷におけるソリ牽引走はスプリントランニング能力を同様に向上したということを発見している。より高負荷の使用がスプリントパフォーマンスに悪影響であるという兆候は存在しなかった。これは、高負荷におけるソリ牽引走は動作パターンを変化してしまうため、スプリント能力を向上することは不可能であるという一般の信念とは対比している。 スプリントに関する結論 様々な方法(ソリ、ゴムコード、シュート、負荷付きベスト)そして、低負荷、高負荷の両方を使用したレジステッドスプリントランニングトレーニングは、アスリートにおけるスプリントパフォーマンスを向上させるために効果的なようである。高度にトレーニングされたアスリートは、より特異でない方法と比較して、レジステッドスプリントレーニングからより恩恵を受ける可能性があり、一方趣味としてトレーニングを行うアスリートは、特異および非特異な方法から同様に恩恵を受ける可能性がある。 短期的には、レジステッドスプリントランニングは、無負荷のスプリントランニングに比べ、相当狭い歩幅(およびわずかに低い歩数頻度)を含み、また、より長い接地時間およびより大きな上体の前傾を含んでいる。より高い負荷は低負荷と比較し、動作パターンを更に変化させるようであるが、長期の結果には影響を及ぼさないようである。

ストレングス・コンディショニング・リサーチ 3056字