プライオメトリックスはパワーを向上させることができるのか? パート3/3

プライオメトリックスは出力を向上させるか?(続き) ファトロス (2000年) は、12週間の介入において41名の男性におけるプライオメトリックス、高負荷レジスタンストレーニング、そのコンビネーションの効果を比較した。被験者は週に3回トレーニングを行った。研究者たちはトレーニング後に最大パワーが有意に増加したことを発見した。 ポッテイガー (1999年) は8週間にわたる介入において、19名の男性におけるプライオメトリックのみとプライオメトリック+有酸素トレーニングの出力に対する影響を比較した。プライオメトリックトレーニングは、垂直跳び、バウンディング、デプスジャンプで構成されていた。有酸素運動はプライオメトリックのトレーニング直後に20分間、最大心拍数の70%にて行われた。研究者たちは介入の結果として、カウンタームーブメント垂直跳びの際の最大パワーは両方のグループにおいて有意に増加し、グループ間に差違はなかった(2.8%と2.5%)ということを発見した。加えて研究者たちは、、タイプI(4.4%と6.1%)及びタイプII(7.8%と6.8%)筋繊維の範囲における変化を計測し、出力の増加は部分的に筋肥大によりもたらされた可能性があると示唆した。 ワグナー (1997年) は、アスリート20名、アスリートではない人20名、コントロール20名において、6週間のプライオメトリックスの無気的パワーに対する影響を評価した。研究者たちは、プライオメトリックスがアスリートとアスリートではない被験者の両方において、下肢の無気的パワーの増加に対し効果的であるということを発見した。 ヒューイット (1996年) は、ジャンプスポーツに関わる女性アスリートにおいて、プライオメトリックスの着地力学と出力に対する影響を評価した。研究者たちは、トレーニング後ハムストリングの筋パワーが優位側で44%、非優位側で21%、有意に増加したことを発見した。 ヘルコム (1996年) は、従来のデプスジャンププログラム、調整されたデプスジャンププログラム、カウンタームブメントジャンププログラム、もしくはレジスタンストレーニングプログラムのいずれかを行った51名の大学生年齢の男性において、調整されたプライオメトリックスプログラムの効果を評価した。被験者は8週間にわたり、1週間に3日のトレーニングを行った。研究者たちは、最大出力は全てのグループにおいて向上し、様々なトレーニング方法間に有意な差違は無かったということを発見した。 ウィルソン (1993年) は、64名の既に鍛錬された被験者において、10週間にわたり週に2回のトレーニングを行い、力学的出力が最大化する負荷における高負荷レジスタンストレーニング、プライオメトリックス、バリスティック・レジスタンストレーニングの効果を比較した。プライオメトリックスプログラムは介入中に20cmから80cmへと高さが漸増するデプスジャンプを含んでいた。出力は6秒サイクルの自転車エルゴメーターテストを使い測定された。このテストにおいては、プライオメトリックストレーニングの介入後に出力の有意な増加はみられなかった(0.6%)。これはデプスジャンプによりトレーニングされると幅広く考えられている、伸張—短縮サイクルを使用していないテストの機能に関連している可能性がある。 これらの研究結果をどのように要約することができるか? 要約すると、用語の本来の用途は主にジャンプのパフォーマンスを向上するためであったが、上記の研究論文によるとプライオメトリックスの使用は筋出力を向上することに対し有効であるようである。 さらに、出力の変化と同時に筋肉の大きさを測定したいくつかの研究から、少なくともプライオメトリックスが筋パワーを向上させるためのメカニズムの一部は、筋肥大によるものであるということがわかる。(例:シェリー、2014年;シェリー、2010年;ヴァイシング、2008;ポッテイガー、1999年)。ゆえに、プライオメトリックスが神経活動によってのみ役割を果たし、局部的な適応をもたらさないという主張は実証されていない。さらに、筋繊維のタイプが調査された際(例:ポッテイガー、1999年)、タイプI及びタイプII両方の筋繊維領域においてサイズの増加がみられたということは興味深いことである。 また、プライオメトリックスが有酸素トレーニングと共に行われた場合(例:ディアロ、 2001年;サンダース、2006年;ロネスタッド、2008年;シェリー、2010年)、いかなる方法においても筋パワーの増進の妨げにはならないようであるということを記述することができる。これは有酸素運動が同時に行われている場合においても、筋パワーを向上するためにプライオメトリックスを使用することができるということを示唆している。 異なるトレーニング頻度で行われたルーバース(2003年)による研究は解釈することが困難である。異なる期間にわたり、同数のセッションを行った2つのグループ間の筋出力の増加における有意な差違の欠如は、より多い頻度のトレーニングがより早い適応の達成を可能にするということを示唆しているようである。 最後に、限られた研究論文からは、デプスジャンプ対カウンタームーブメントジャンプのように、異なるジャンプを行うことから得られるパワーの増進に関しては差違が無いということが発見されている(ヘルコム、1996年)。ヴァーコシャンスキーが具体的にジャンプ能力を向上させるために、ジャンパーのトレーニングにデプスジャンプを導入したことは興味深いことである。この対象者たちにおいて、デプスジャンプが特にジャンプパフォーマンスを向上させることに対し成功したメカニズムは、筋パワーの向上によるものではなく、他のメカニズムによるものであるということを暗示しているかどうかは現在の分析からは明確ではない。 実践的意義は何か? プライオメトリックスは、鍛錬されている、いないにかかわらず、成人、青少年の両方において筋パワーを増進するために使用することが可能である。 特定のタイプのプライオメトリックスエクササイズが、筋出力により効果的であるというエビデンスは存在していない。 より多い頻度のトレーニングは、プライオメトリックトレーニングプログラムの際のより早い筋出力の増加をもたらす可能性がある。 筋出力の増加のために、有酸素トレーニングを含むプログラムにプライオメトリックスを加えることで、有効に実施されることができる。 このタイプのトレーニングは筋肥大と関連性があるため、筋サイズの変化無くして出力の増加を望む場合は、プライオメトリックが既定の方法であるべきではない。

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プライオメトリックスはパワーを向上させることができるのか? パート2/3

プライオメトリックスは出力を向上させるか? 下記の研究は、プライオメトリックストレーニングプログラムの筋出力に対する影響を評価したものであり、下記の表に要約されている。 シェリー (2014年) は、23名のトップレベル青少年ハンドボール選手において、シーズン中の通常のトレーニングに加えた、週2回、8週間にわたるプライオメトリックストレーニングプログラムが、スクワットとカウンタームーブメントにおける平均出力と推定下肢筋肉量に及ぼす影響を評価した。被験者はコントロールグループ、もしくは実験グループのどちらかへと分けられた。研究者たちは、コントロールグループに比べプライオメトリックトレーニンググループにおいて、カウンタームーブメントジャンプのパワーと下肢筋肉量が増加したということを発見した。 チャオウチ (2014年) は、12週間のトレーニング期間にわたり、63名の児童(10歳から12歳まで)におけるプライオメトリックスと従来の(高負荷)レジスタンストレーニングプログラムの有効性を比較した。トレーニングの前後に、1秒間に60度、300度の両方において等運動性パワーが計測された。研究者たちは、1秒間に300度の等運動性パワーにおいてはプライオメトリックスが(高負荷)レジスタンストレーニングよりも優れており、1秒間に60度の等運動性パワーにおいては(高負荷)レジスタンストレーニングがプライオメトリックスよりも優れているということを発見した。 マクドナルド (2013年) は、レクリエーションとしてトレーニングを行っている34名の大学生年齢の男性において、カウンタームーブメントジャンプの最大出力を参考に、プライオメトリックスと従来のレジスタンストレーニングの有効性を比較した。研究者たちは、カウンタームーブメントジャンプの最大パワーに対するトレーニングプログラムの効果も、グループ間のいかなる差違も発見することはなかった。 マルコビッチ (2013年) は8週間にわたり、身体的に活発であるがトレーニングは行っていない男性において、垂直跳びトレーニングと負荷付き垂直跳びトレーニングの、スクワットとカンタームーブメントジャンプの際の筋出力に対する影響を比較した。負荷付き垂直跳びの条件として、負荷には、体重の30%に等しい負荷を付けたベストを用いた。研究者たちは、このトレーニング期間は、スクワットジャンプにおけるパワーの同様な増加(7.4 – 11.5 %)につながるが、負荷を付けたベストのグループが出力においてより良好な結果を示したことから、カウンタームーブメントジャンプ(0.5 vs. 9.5%) においては、グループ間に差違があるということを発見した。 デ・ビリャレアル (2012年) は、65名の体育の学生(男性47名、女性18名)においてプライオメトリックスと高負荷レジスタンストレーニングの効果を比較した。高負荷レジスタンストレーニンググループは、1RMの56%から85%で3-6レップのフルスクワットエクササイズを使用したトレーニンを行い、プライオメトリックスグループはジャンプを行った。プライオメトリックスグループにおける出力の向上は非有意であった。 シェリー (2010年) は、23名のジュニアサッカー選手において、通常のシーズン中のコンディショニングと併用した8週間にわたる下肢のプライオメトリックトレーニングプログラム(ハードルとデプスジャンプ)が、カウンタームーブメントジャンプの際の最大出力に及ぼす影響を評価した。被験者は通常のコンディショニング、もしくは通常のコンディショニングに加え週2回のプライオメトリックトレーニングを行った。研究者たちは下肢の筋肉量も測定した。彼らは、通常のグループに比べ、プライオメトリックスグループにおいて平均パワーと大腿筋量が増加したことを発見した。 ヴァイシング (2008年) はトレーニングを行っていない男性において12週間にわたり、従来の(高負荷)レジスタンストレーニングと同等の時間と努力でのプライオメトリックスの効果を比較した。研究者たちはプライオメトリックスがカウンタームーブメントジャンプ(9%)とバリスティックなレッグプレス(17%)の際の有意な出力の増加につながったことを発見した。研究者たちはまた、大腿四頭筋、ハムストリングス、内転筋の筋肉全体の断面積が両方のタイプのトレーニングにおいて同様に増加したことも記述している。 ロネスタッド (2008年) は、7週間にわたり14名のプロサッカー選手において、プライオメトリックトレーニングの出力に対する影響を評価した。被験者は不規則に2つのグループに分けられた。1つのグループは1週間に6-8回のサッカーセッションに加え、週に2回のプライオメトリックトレーニングを行った。コントロールグループは1週間に6-8回のサッカーセッションのみを行った。研究者たちは介入の前後に20、35、50kgでのハーフスクワットにおける最大パワーを測定した。研究者たちはトレーニンググループでは20、35、50kgでのハーフスクワットにおいて最大パワーが有意に増加したが、コントロールグループでは20kgでのみ最大パワーが向上したことを発見した。 マルコビッチ (2007年) は、93名の体育の男子学生において、プライオメトリックトレーニングとスプリントトレーニングの筋パワーに対する効果を比較した。出力はスクワットとカウンタームーブメントジャンプにおいて測定された。トレーニンググループは週に3回のトレーニングを行った。スプリントグループは10-50mの距離において最大スプリントを行い、プライオメトリックグループはバウンスタイプのハードルジャンプとドロップジャンプを行った。研究者たちは、スプリントグループではスクワットとカウンタームーブメントのパワーが有意に向上した(4%-7%)が、プライオメトリクスグループでは向上が見られなかったということを発見した。 サンダース (2006年) は15名の鍛錬された長距離選手のトレーニングプログラムにプライオメトリックスを含むことの効果を評価した。プライオメトリックトレーニングには、9週間にわたる、週に30分x3回のセッションが含まれていた。研究者たちは、5—ジャンププライオメトリックテストの際の平均パワーは、コントロールグループと比較し、プライオメトリックスグループにおいて非有意に増加(15%)したことを発見した。 カナバン (2004年) は、20名の大学生年齢の女性において、6週間にわたるプライオメトリックトレーニング後の、カウンタームーブメントの際の実際の最大パワーの測定値と、3つの異なる予測方程式から生み出された予測値を比較した。研究者たちは最大パワーがトレーニング後に有意に増加したことを発見した。 ルーバース (2003年) は、身体的に活発である38名の大学生年齢の男性において、類似したトレーニング量の2つの異なるプライオメトリクスプログラムの、垂直跳びパフォーマンスと出力に対する影響を比較した。両方のグループは同等量のトレーニングを行ったが、一方のグループはこれを4週間行い、他方のグループは7週間行った。垂直跳びのパワーは両方のグループにおいて有意に増加し、グループ間に有意な差違は見られなかった。トレーニング頻度が低かった7週間のグループにおいては、より大幅にパワーが増加するという非有意な傾向が見られた。 ディアロ (2001年) は12-13歳の20名の思春期前のサッカー選手において、10週間にわたるプライオメトリックスの有効性を調査した。プライオメトリックスはジャンプ、ハードル、スキップから構成されていた。研究者たちはトレーニング後に最大パワーが有意に増加したことを発見した。

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プライオメトリックスはパワーを向上させることができるのか? パート1/3

筋力と筋量の向上は運動競技の発達の鍵である。しかしながら筋パワーはそれ以上に重要であると考えられている。プライオメトリックスは筋パワーを増進させるために一般的に使われているが、最善の効果を得るためにプライオメトリックスプログラムをどのように設定するかに関する強く一致した意見は無い。これらは我々の知識を明確にするために役立つ長期のトレーニング研究の総評である 背景 何故単にジャンプの高さを測定するだけではないのか? 多くの古い研究は単にジャンプの高さを測定し、これを筋パワーの測定としていた。しかしより最近の研究では、この単純化した方法は下記の2つの主な理由により有効ではないということを明確にしている。 体脂肪率(カーンズ2013年)、体重(マーコヴィック2014年)、そして民族性(ルース2014年)さえも含む身体計測上の特性は、ジャンプの高さ、及び/もしくはそのパワー出力との関係に影響を及ぼす。ゆえに異なる身体計測上の特性をもつ個人は、もしパワー出力が同様だとしても他に比べジャンプの高さが異なる可能性がある。 鍛錬された個人は、パワー出力とジャンプの高さの間に非常に近い相関関係を示し、鍛錬されていない個人はそうではないということから(ティシェ2013年)、運動学習は垂直跳びのパフォーマンスに多大な影響を及ぼすようである。ゆえに、ジャンプにおいてアスリートにより示される技能水準が向上するに従い、垂直跳びの高さをパワー出力の代用物として評価することは、より有効となる可能性がある。 これらの理由により、全ての人において垂直跳びの高さ(スクワットジャンプ、もしくはカウンタームーブメントジャンプ)はスポーツパフォーマンスの良い測定方法であるものの、筋パワーの測定としては有効ではない。すべて何を測定しようとするかによって決定されるのである。 プライオメトリックスとは何か? 「プライオメトリックス」という言葉は、ソビエトのジャンピングコーチであるヴァーコシャンスキーによって最初に普及された。彼は当時、ジャンプ練習とレジスタンストレーニングから成る通常の方法により既に有意な進歩を得ているアスリートのジャンプ能力を発達させる方法を探索したいと考えた。ヴァーコシャンスキーは、短い接地時間と三段跳び選手におけるより優れたパフォーマンスの間に相関関係があるようであるため、これは、より剛性であること(もしくは弾性エネルギーを蓄え放出するための優れた能力)は、ジャンプ能力を向上する鍵であるということを示唆している可能性があると論じている。ゆえに彼は、エキセントリック筋活動からコンセントリック筋活動へとより迅速に切り替わる能力を向上させ、その結果として接地時間を減少させるために、彼のアスリートに対しデプスジャンプを使い始めた。(ファッシオーニ2001年参照) 多くのコーチは今でもこのようにプライオメトリックスを考えているが、現代の研究論文においての用法は大幅に変更がなされている。今日プライオメトリックスという言葉は、爆発的な、伸張—短縮サイクルを含む上半身もしくは下半身の複合動作とされている。(マルコビチ2010年参照)下半身に関しては、この定義の中に様々なタイプのジャンプが含まれており、上半身に関しては、メディシンボールスローがよく見られる例である。ゆえに最も初期のヴァーコシャンスキーによる一般向けの言葉の用法と、伸張—短縮サイクルが含まれる常に低い負荷や無負荷を使用する、バリスティック・レジスタンストレーニングエクササイズの一部として言葉を使用しているようである彼の弟子達や近代のスポーツサイエンス論文での用法との間には相違がある。さらに、プライオメトリックスは筋力とパワーの質を繋げる鍵として、しばしば表現されている(例としてマックニーリィ2005年による総説を参照)。ゆえに、現代論文が明確に筋パワーの増進に言及している一方、ヴァーコシャンスキーはそのトレーニング方法によりジャンプパフォーマンスの向上を意図していたため、初期の一般向けの用法と現代のスポーツサイエンスにおける用法の間には、プライオメトリックスが意図している目的に関しても差違がある。もしヴァーコシャンスキーが正しく、剛性の増加によりプライオメトリックがジャンプパフォーマンスを向上させているのであれば、必ずしも相当なパワーの変化が見られるわけではないかもしれず、あるいは少なくとも他の方法に比べより小さな変化が見られるかもしれない。 選択基準は何か? 下記の研究は、長期の実験においてプライオメトリックスの筋パワーに対する影響を評価したものであり、そこにおける測定結果はワットで表された筋パワーの測定値であった。含まれた研究はプライオメトリックのみを含むものでなくてはならず、他のトレーニング方法と組み合わせて行ってはならなかった。

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股関節の伸展トルクはスプリントの速度と共にいかに変化するか? パート2/2

何が起こったのか?(続き) ランニング速度に伴う関節における仕事量の増加 研究者たちは、ランニング速度の上昇に伴い増加したのは、遊脚相初期及び終期の股関節と膝関節の矢状面において行われた仕事であったということを発見した。下記のグラフは遊脚相の初期と終期における仕事の増加を示している。 グラフは遊脚相初期に股関節において行われた仕事は、膝関節において行われた仕事よりも常に非常に大きかったということを示している。しかし、股関節において行われた仕事は3.5m/sから8.95m/sで298%増加しているのに対し、膝関節において行われた仕事は537%増加している。 グラフは遊脚相終期に股関節において行われた仕事は、遊脚相終期に膝関節において行われた仕事と常に類似しているということを示している。しかし股関節において行われた仕事は3.5m/sから8.95m/sで653%増加しており、膝関節において行われた仕事は405%増加している。研究者たちは、立脚相において膝関節で行われた仕事は、ランニング速度の上昇と共に増加しなかったということを記述している。加えて研究者たちは、支持相に足関節において行われた仕事はランニング速度が3.50から5.0m/sへと変化した際に有意に増加したが、その速度以上では変化が無かったと記述している。 股関節において行われる仕事対、膝関節において行われる仕事の比率 研究者たちは解説をしていないが、興味深いと思われる最終の事項は、下記のグラフで示されるように、遊脚相初期と遊脚相終期においての、股関節で行われる仕事対膝関節で行われる仕事の比率は、下記のチャートに示されるように、実際にはランニング速度の変化と共に変化していたということである。 グラフは、ランニング速度の上昇に伴い、遊脚相初期において股関節の膝関節に対する比率は減少し、遊脚相終期においては股関節の膝関節に対する比率は増加しているということを示している。これは、ランニング速度が上昇するにしたがい、遊脚相終期においては膝関節の屈筋群に比較し、股関節の伸筋群が漸進的により重要となり、遊脚相初期においては股関節の屈筋群に比べ、(膝の伸筋モーメントの絶対的な大きさは依然としてとても小さいが)膝関節の伸筋群がより漸進的に重要となるということを示唆している。 研究者たちはどのような結論に達したか? 研究者たちは、遊脚相終期における股関節の伸筋群と膝関節の屈筋群は、より速い速度でのランニングにおいて、最も大きな仕事量の増加を示したという結論に至った。彼らはまた、立脚相における最大膝関節伸展トルクと膝関節において行われた仕事は、ランニング速度の上昇によりほとんど影響をうけなかったと結論づけた。さらに彼らは、支持相において足関節で行われた仕事は、ランニング速度が3.50から5.0m/sへと変化した際に有意に増加したが、その速度以上においては変化をしなかったということを記述している。研究者たちはまた、遊脚相初期においては、膝関節伸筋群がエネルギーを吸収するのと同時に股関節屈筋群がエネルギーを生み出していると記述している。さらに、遊脚相の後半においては、膝関節屈筋群がエネルギーを吸収するのと同時に、股関節伸筋群がエネルギーを生み出す。このエネルギーの交換には、2関節筋である大腿二頭筋や大腿直筋が関わる。彼らは、大腿二頭筋によるエネルギーの交換は、股関節でエネルギーが吸収され、膝関節でエネルギーが生み出される足尖離地において起こる、あるいは、膝関節でエネルギーが吸収され、同時に股関節でエネルギーが生み出されている遊脚相初期において起こるであろうと推測している。 制限要素は何か? この研究は、異なるスポーツからの多様な少数の被験者を使用していた。被験者の規模自体が制限であり、異なるスポーツを行う男女を使用したということがある点において異常値を生み出した可能性があり、それがデータに影響を及ぼした可能性がある。さらに全ての被験者はスポンサーから提供されたランニングサンダルを使用しており、ゆえにこの普段とは違う履き物が結果に影響を及ぼした可能性がある。被験者たちがランニングサンダルを履くことに慣れていたのかどうか、もしくはサンダルが彼らの通常のランニング装備であったのかどうかは明確ではない。 実践的意義は何か? 遊脚相終期における股関節の伸筋群と膝関節の屈筋群(例:ハムストリングスと臀筋群)は、より速い速度でのランニングにおいて最大の仕事量の増加を示した。これは臀筋群やハムストリングスを発達させることはランニング速度を上昇させるための鍵であるということを示唆している。 立脚相においての最大膝関節伸筋(例:大腿四頭筋)のトルクと膝関節において行われた仕事はランニング速度の上昇により影響を受けず、立脚相に足関節において行われた仕事は5m/s以上では有意な変化はしない。これは、より速いランニング速度のために大腿四頭筋と足関節底屈筋群を発達させることはそれほど重要ではないということを示唆している。

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股関節の伸展トルクはスプリントの速度と共にいかに変化するか? パート1/2

スプリントは、陸上競技としてのみでなく、チームスポーツのスキルとしても極めて重要なものである。しかし、アスリートがスプリントのパフォーマンスを向上させるために、ウェイトルームでの時間を最大限活用するにはどのようにすればよいのだろうか?この質問を解明する1つの方法は、スプリントの際の異なる下肢の筋グループの役割を評価することである。ランニング速度の上昇と共に最も大きな関節モーメントの増加を示す筋グループは、おそらく速度の向上に最も貢献している筋グループであろう。この研究は、股関節の伸筋群がより高速での走りにおいて最大の仕事量の増加を表したと示しており、これは、スプリント速度を上昇させるためにウェイトルームで最もトレーニングする必要のある筋肉群は、ハムストリングスと臀筋群であるということを示唆している。 研究論文:ランニング速度が下肢関節の動力学に及ぼす影響、シャハテ、ブランチ、ドルン、ブラウン、ローズモンド、パンディ、スポーツ&エクササイズ、医学&科学 2011年 背景 なぜスプリントにおける生体力学解析を行うのか? ランニングの際の下肢における生体力学解析は、スポーツ科学者により頻繁に行われており、それにより彼らは様々な筋活動をより理解することができ、一部のランナーが他の者よりもより速く、より効率的に、もしくは怪我をしにくくなるための鍵となる変数を特定することができるのである。 逆動力学とは何か? ランニングの際の下肢の生体力学的運動を分析する一般的な方法は、逆動力学である。逆動力学には、関節運動学と床反力を測定することにより、下肢の関節モーメント(トルク)を計算することが含まれる。モーメント(トルク)に加え、研究者たちはまた、正味出力—時間の曲線下領域として、トルクや関節角速度の産物である正味出力や、行われた仕事量を計算することが可能である。データを再考察することにより研究者たちは、下肢の筋グループがコンセントリックに活動しており、ゆえにエネルギーを生み出しているのか、もしくは、エキセントリックに活動しており、その結果としてエネルギーを吸収しているのかどうかということを説明することが可能となる。逆動力学を使用したランニングに関する以前の研究は多くの場合、支持期もしくは遊脚期のような歩行の特定の段階のみを考察することにより制限があった。他の研究は、3Dではなく矢状面における下肢の動きのみを考察することにより制限されていた。 研究者たちは何を行ったか? 研究者たちは、走りの全ての段階において3Dで下肢関節において作用するトルクを計算するために、逆動力学を使用したいと考えた。彼らはこれらのトルクがランニング速度の上昇に伴いどのように変化するのかを見たいと考えていた。そこで彼らは、オーストラリアンフットボールや陸上など、ランニングを基本とするスポーツから8名(男性5名、女性3名)の被験者を集めた。 彼らは110mの距離の総合的な室内陸上競技用トラックを使用し、それに沿い250ヘルツの速度で抽出する22台のカメラを設置した。これらのカメラはトラックの80mの距離で走者からのデータを集めた。カメラにより認知されるよう、反射マーカが走者の解剖学的指標に付けられた。トラックのデータを採取する場所の中央には7.2mの距離にわたり、多数のフォースプレートが設置された。フォースプレートは走者から隠すためトラックの下へと配置された。研究者たちは3.5、5.0、7.0m/s、及び最高のスプリント速度にてデータを採取した。 何が起こったのか? 研究結果の要約 平均スプリント速度は8.95 ± 0.70m/sであった。研究者たちは、股関節、膝関節、足関節における33の異なるトルク、正味出力、行われた仕事量の値を計算した。彼らは、これらのうち29の値がランニング速度の上昇と共に増加したことを発見した。しかしその後の分析では、いくつかのランニング速度の状態は互いに有意な差違はなく、よって29の値のうち12のみが有意な増加を示したということを発見している。 ランニング速度の上昇に伴う関節トルクの増加 研究者たちは、遊脚相初期と終期においてランニング速度の上昇に伴い増加したのは、股関節及び膝関節における矢状面のトルクであったということを発見した。下記のグラフは遊脚相の初期と終期における関節可動域の増加を示している。 このグラフは、最大股関節屈曲トルクが最大膝関節伸展トルクに比べ常に非常に大きいということを示している。しかし最大股関節屈曲トルクは3.5m/sから8.95m/sで295%増加した一方、膝関節伸展トルクはより速く495%増加していた。 このグラフは、最大股関節伸展トルクは最大膝関節屈曲トルクよりも常に非常に大きいということを示している。更に最大股関節伸展トルクは3.5m/sから8.95m/sで360%増加している一方、最大膝関節屈曲トルクは少々遅く232%増加していた。これに加え、研究者たちは、立脚相の最大膝関節伸展トルクはランニング速度の上昇によりほとんど影響を受けなかったことを発見している。様々な研究者たちは、立脚相の膝関節伸展の役割は、重心を引き上げ、重力に対抗することであると認識している。初期の研究者たち(例:マンロー1987年、ニグ1987年)は、ランニング速度の上昇に伴う垂直床反力の増加は直線状であると考えていたが、バーグヘリ(2011年)を含む後期の研究者たちは、垂直床反力はあるポイントまでしか増加せず、その後は横ばいとなることを発見しているため、このことは理にかなっている。ゆえに現時点では、垂直床反力は有意には増加しないため、膝関節伸筋群のモーメントを増加する必要性はないのである。

ストレングス・コンディショニング・リサーチ 2499字

機能的運動は過剰になりえるか? パート2/2

私達のハードウェアは、いくつかの神経可塑性(脳の変化する能力)の基本原則に依存しています。これは、“同時に発火するニューロンは、一緒に配線されている”と“使わなければ、失われる”という基本原則です。これは単純に、私達が使用する運動に関連するニューロンは、他の関連するニューロンとの結合を強化し、あまり使わない運動と関連しているニューロンは、その結合の強さを失うことを意味しているとも言えます。これは、神経剪定として知られているプロセスです。これらのニューロンは、私達の望む反応を作り出すために、適切なタイミングでの筋肉の発火と関連しています。これらの神経の関連性はまた、大脳皮質において、脳地図と称される身体部位の神経情報表現を作り出します。私達の運動は、その脳地図によって支配されています。もしその脳地図が乏しい場合、私達の運動もまた乏しくなります。その脳地図は私達の動き方によって調節され、そして、動き方を決定づけます。その脳地図が乏しく、曖昧で、不鮮明な場合(Blakeslee 2010年、Butler 2006年)、それは“浸食された脳地図”という表現で描写されるものであり、これによって私達は矯正するのが難しい欠陥のある運動サイクルを引き起こします。脳地図はまた、予測による固有感覚的フィードバック/実際の固有感覚的フィードバックと変化した身体図式の間の不調和を介して、慢性痛とも関連しています(Harris 1999年、Mcabe他 2005年)。小脳内で起こっているような、統合された際の感覚からのフィードバックの不整合は、多くの研究者によって、慢性痛の原因として仮説が立てられています。 私が以前に使用したのは偏平足の例で、足に関する脳地図は、(もしあなたが、これが問題を引き起こしていると感じるなら)足のアーチ作成に関連する強い結合を持っていないのかもしれません。誰かに対して実践的手技を用いたり、あるいは複雑なエクササイズに取り組む手助けをすることは、ハードウェアを変化させるには十分ではないかもしれません。そして、利き足の姿勢が勝る理由を説明しているのかもしれません。私達は、足部における回外反応を促進する運動を作り出すことができますが、機能のパラメーター内でそれを行っているのでしょうか?私達は、歩行時に脛骨外旋が足部の回外を作り出すことを知っています。もし私が、実践的手技、あるいはエクササイズを通して、回外を作り出すために、歩行時に発生するよりも大きな脛骨外旋を作り出す必要があるならば、それは私が望む機能、例えば歩行に重なる部分を持っているのでしょうか?それは潜在的機能において、脳内で主要な運動パターンになるでしょうか?もし私達がそれを理解し、作り出すための適切な知覚地図、あるいは運動地図を持っていなければ、そうはならないかもしれません。 私達は、感覚フィードバックと運動制御を増大させるために、機能から離れた特定の領域において、より的を絞った方法を用いる必要があるかもしれません。それは機能的に見えないかもしれませんが、私達が複雑なソフトウェア(本物の機能的パターン)を使用することを可能にし、望ましい結果を得ることを可能にするハードウェア(脳)内で機能的反応があるかもしれません。実際に、関節における的を絞った特有の運動ができないことは、感覚・運動皮質内の神経可塑性を介しての感覚的・運動的変化の兆候かもしれません(Moseley 2009年、MoseleyとLuomajoki 2010年)。身体が統合された機能的運動のような、複雑なタスクに直面するとき、効果的に制御できない領域を使用することを選ぶでしょうか?もし身体が多くの関節をとおして代償能力を持っているのであれば、身体はタスクを成し遂げることができるのでしょうか? 私達は、ただ関節に特有のパターンを適用することによって、関節運動を通してハードウェアを増大させることだと誤解してはいけません。私達の運動制御は、数多くの動きを行うための一般的な能力であって、臨床的で人為的な動き、あるいは施術者に、“これは良好な機能を示している”、“もし正しく行われなければ問題である”と指導されるような、ひとつの関節における“コレクティブ・エクササイズ”を行う能力ではありません。集中的な関節可動性のエクササイズは、神経可塑的再配線を通して、私達の皮質内の地図拡大を手助けする体性感覚野へのフィードバックを増大させることに目を向けるべきです。全体の機能的運動パターンへの再統合が鍵となります。関節を他の身体部位と共に機能的状況に戻すことは、広範囲の関節可動域と力の散逸・発生において、その関節が全面的な役割を果たすことを可能にします。これは、異なる負荷、スピード、運動バリエーション、安定性のレベルでも行われなければなりません。もし身体が運動(動作と安定性)を制御できないのであれば、身体は利用可能な運動を選択しないかもしれないということを、私達は知っています。これは、機能的姿勢のような本物の状況下において、運動教育を通して強化が可能な技能です。 多くの単に脳に基づいたアプローチは、一度ハードウェア(脳)を手にしたら、私達はいかなるソフトウェアをも実行できるということを前提としているのかもしれません。しかし、私達は今もなお、より良くするために、そのソフトウェア・プログラムを作動させ、学習し、洗練する必要があります。そして、それが、機能的運動が真価を発揮できる場所なのです。 いつも通り、これはただ、ある事象が脳と身体の中で作用するかもしれない方法に関する私の見解に過ぎません。もちろん、従来の意義における科学的根拠に基づいたものではありません。しかし、科学的根拠に基づいたものは、私達が問う疑問の根拠に基づいているものであって、私達がまだ問うていない疑問への根拠ではないということを覚えておかなければなりません。そして、疑問を問いかけている人達の見解によって、先入観にとらわれていることを覚えておかなければなりません。もしそれが従来の人体解剖学的な理解に基づいているならば、その答えは先入観にとらわれているものとなるでしょう。 参照文献 Blakeslee S & M, The body has a mind of its own, Random house, Sept 2008 Butler D et al, The sensitive nervous system, NOI group publications, 2006 Doidge N, The brain that changes itself, Penguin group, January 2008 Forencich Frank, Topiary physiology, Go Animal Harris AJ. Cortical origin of pathological pain. Lancet 1999;354(9188):1464e6. Luomajoki H Moseley GL, Tactile acuity and lumbopelvic motor control in patients with back pain and healthy controls, BR J Sport MED 2011 Apr;45(5):437-40 Melzack R, Pain and the neuromatrix in the brain, Journal of dental education, volume 65 No12 Moseley G, Flor H, Targeting cortical representations in the treatment of chronic pain, Neurorehabilitation and neural repair, XX (X) 1-7 Moseley G, et al, Cortical changes in lower back pain:current state of the art and implications for clinical practice, Manual therapy 16 (2011) 15-20 Moseley G L, A pain neuromatrix approach to patients with chronic pain, Manual therapy (2003) 8(3), 130-140 McCabe CS, Haigh RC, Halligan PW, Blake DR. Simulating sensory-motor incongruence in healthy volunteers: implications for a cortical model of pain. Rheumatology 2005a;44(4) McCabe CS, Haigh RC, Halligan PW, Blake DR. Re: sensory-motor incongruence and reports of ‘pain’, by GL Moseley and SC Gandevia. Rheumatology 2005b;44:1083e5. Rheumatology 2006; 45(5) McCabe CS, Haigh RC, Ring EFJ, Halligan PW, Wall PD, Blake DR. A controlled pilot study of the utility of mirror visual feedback in the treatment of complex regional pain syndrome (type 1). Rheumatology 2003;42 (1)

ベン・コーマック 2629字

機能的運動は過剰になりえるか? パート1/2

過去数年間、私は確実に人体の理解のし方に関して、転換期を経験しています。脳を私達の行動全てを司る指令センターとして評価し始めるようになり、以前に行っていたより機能的/生体力学的なアプローチから離れはじめています。これは、私の周りにいる数名の先駆的人物によって促進されています。そして、たとえ彼らが他者が共に追随することを嫌うのではと時々感じたとしても、私の目を開かせてくれたことに感謝しています!私はここに至るまで、認知的不協和に苦しんできたことに、間違いはありません。 私の最優先目的は、常に、人々を彼らの機能において(彼らにとっての)最適な動作に戻すことです。私は、重力、床反力、質量、モメンタムのように、彼らに作用しているものが関連する体位において、彼らの遂行したい動作をどのように遂行するのか、ということにいまだに関心を抱いているため、歩行評価のような、動作評価の多くは、常に一貫しています。それは、それほど生体力学的ではなく、私は、骨、関節、筋肉の機械的な動きよりも、肉の部位(筋肉)を制御している脳の能力をより評価しています。 しかし、私は、視覚系や前庭系(これらの部位が働かなければ、身体も動かないのです!)、感情や既往傷害の記憶のように、多くのものが運動にも影響を与えることができるということを実感しています。私にとって、痛みもまた変化しています。痛みはもはや、単純に乏しい生体力学的動作の結果ではなく、脳内の多くの要因と連結したものであり、しばしば私達の構造、あるいはフィードバック系とは、全く何の関係もないこともあります。しかし、今はそれについて深く言及するタイミングではありません。 ひとつのポイントは、いくつかの団体において、人々は痛みを多くの要因を持つ多角的なものとして見始めているということです。Melzack氏の唱えるニューロマトリックス理論(1999年)は、痛みと痛みの科学に新しい光を投げ掛けています。動作は、同様に複数の要因によるものであり、生体力学の領域の外側から起因する多くの要因を持つ“動作ニューロマトリックス”として、関与する要因を見せ始めています。私達は、“動作ニューロマトリックス”に影響を与えるこれらの内因と外因の概要を単純に説明しようとしています。 (Melzack 1999年) ひとつの新しい考え方は、なぜ機能的/生体力学的アプローチが過去の成功を可能にし、同様にいくつかの失敗の説明をも可能にしているのかを私達に理解させてくれています。 ひとつの結論は、ある人達にとって複雑な機能的動作は、彼らの身体には扱いきれない可能性があるということです。せいぜい、それほど効果が無いかもしれないでしょうが、より状況を悪化させてしまうこともあり得るのでしょうか? 誰かに達成すべき運動タスクを与えると、彼らは自分たちの持つ運動能力を用いて、運動タスクを達成する方法をみつけることを私達は知っています。多くの場合、彼らが利用可能で、普段利用している運動経路を使うことによって、彼らはその方法を見つけます。私達が何も変化を与えていないこれらの“機能的”パターンを彼らに与えることは、単に彼らが以前から持っている動作を強化したに過ぎません。複雑な運動が多くの関節を巻き込めば巻き込むほど、私達がより使いたい対象とする関節よりもむしろ、異なる部分を利用する身体の能力がより必要になります。もし私達が、実践的手技や運動指導を通して、運動をより良く見せることに成功したとして、外部の助力無しに、自力でこの状態を保つことができるのでしょうか?人々はソフトウェア(運動パターン)をうまく起動するためのハードウェア(脳とニューロン結合)を持っているのでしょうか?私が好んで使う比喩に言い換えるならば、“プレイステーション3用ディスクを1980年代の磁気テープ記録方式コンピューターで起動させようとすること”なのです。 純粋にフィードバックに基づいたアプローチは、ハードウェア(脳)が設定されていることを決定づけます。しかし、刺激的で目まぐるしい脳科学の世界は、異なる見解を示しています。 参照文献 Blakeslee S & M, The body has a mind of its own, Random house, Sept 2008 Butler D et al, The sensitive nervous system, NOI group publications, 2006 Doidge N, The brain that changes itself, Penguin group, January 2008 Forencich Frank, Topiary physiology, Go Animal Harris AJ. Cortical origin of pathological pain. Lancet 1999;354(9188):1464e6. Luomajoki H Moseley GL, Tactile acuity and lumbopelvic motor control in patients with back pain and healthy controls, BR J Sport MED 2011 Apr;45(5):437-40 Melzack R, Pain and the neuromatrix in the brain, Journal of dental education, volume 65 No12 Moseley G, Flor H, Targeting cortical representations in the treatment of chronic pain, Neurorehabilitation and neural repair, XX (X) 1-7 Moseley G, et al, Cortical changes in lower back pain:current state of the art and implications for clinical practice, Manual therapy 16 (2011) 15-20 Moseley G L, A pain neuromatrix approach to patients with chronic pain, Manual therapy (2003) 8(3), 130-140 McCabe CS, Haigh RC, Halligan PW, Blake DR. Simulating sensory-motor incongruence in healthy volunteers: implications for a cortical model of pain. Rheumatology 2005a;44(4) McCabe CS, Haigh RC, Halligan PW, Blake DR. Re: sensory-motor incongruence and reports of ‘pain’, by GL Moseley and SC Gandevia. Rheumatology 2005b;44:1083e5. Rheumatology 2006; 45(5) McCabe CS, Haigh RC, Ring EFJ, Halligan PW, Wall PD, Blake DR. A controlled pilot study of the utility of mirror visual feedback in the treatment of complex regional pain syndrome (type 1). Rheumatology 2003;42 (1)

ベン・コーマック 1791字

筋長は疲労に影響を及ぼすか? パート2/2

何が起こったか? 疲労前測定結果 研究者たちは、最大随意膝関節伸展トルクと、一対の電気刺激(二重)により引き起こされた膝関節伸展トルクはどちらも、長筋長の際よりも短筋長の際により高かったと記述している。その差違は下記のグラフに示されている。 しかしながら彼らはまた、筋活動と大腿二頭筋の共同活動は、より大きな膝関節伸展トルクを生み出すにもかかわらず、短筋長の際に低かったということを発見した。これらの結果は下記のグラフに表されている。 疲労発生 研究者たちは、疲労性運動の際、必要であるトルクの減少を得るために必要な随意等尺収縮の継続時間は、長筋長に対してよりも短筋長に対しての方がより長かったということを発見した。彼らは、3つの疲労性収縮の総合継続時間は、長筋長に対してよりも短筋長に対しての方が68.4 ± 19.6%長かったと報告している。しかしながら、このより大きな疲労抵抗にもかかわらず、同等のトルク減少の結果としての筋活動の減少は、下記のグラフに示されるように短い筋長において非常に大きかった。 疲労後測定結果 下記のグラフに示されているように、研究者たちは、両方の疲労性運動後の最大トルクは、短長両方の筋長において同様に減少したということを発見した。 研究者たちは、長い疲労性運動は、疲労性運動後の最大随意等尺収縮の際に、短筋長活動もしくは長筋長活動にわずかな影響しか及ぼさなかったということを発見した。しかしながら下記のグラフに見られるように、短い疲労性運動は両方の活動を同様に減少させている。 つまり短い疲労性収縮は筋活動の低下を引き起こすが、長い疲労性収縮は低下を引き起こさないのである。結局のところ、短長の長さの異なるテストによっての差異は僅かなものである。重要なこととして、疲労性運動の種類、筋肉の新鮮さや疲労度に関わりなく、その活動は短筋長においてよりも、長筋長においての方が常により大きいということもまた、上記のグラフから見ることができる。 研究者たちはどのような結論に達したか? 研究者たちは、神経活性化はフレッシュ及び疲労した筋肉の両方において筋長に依存し、疲労の種類はこの関係に影響を及ぼさないという結論に至った。 更に研究者たちは、疲労を誘発する際の筋長は、疲労後の筋活動のレベルに対し重要な影響を持っていると結論付けた。この研究においては、短い疲労性運動は、あるとしてもわずかの低下しか引き起こさないようである長い疲労性運動に比較し、より大きな筋活動の低下を引き起こしていた。 ゆえに研究者たちは、短い疲労性最大随意等尺収縮は、有意な神経活性化の減少によって証明されるように、主に中枢神経系疲労につながり、一方、長い疲労性最大随意等尺収縮は筋節自体の末梢疲労を引き起こすようであると示唆している。 ゆえに研究者たちは、「運動が行われる角度は、筋神経系の反応に強い影響を及ぼすため、リハビリテーション、スポーツトレーニング、もしくは生理学的研究のためには考慮にいれるべき有意なパラメーターである」という結論に至った。 制限要素は何か? この研究はレジスタンストレーニグを行っている被験者ではなく、身体的に活発である被験者を用い、大腿四頭筋に対しての実験を行っている。他の集団や異なる筋グループでは異なる結果が得られたかもしれない。また研究者たちは、2つの関節角度においてのみ実験を行っているが、他の関節角度においては異なる結果が得られたかもしれない。 実践的な意義は何か? 筋活動(筋電図で測定)はフレッシュもしくは疲労した筋肉の両方において筋長に依存しており、疲労性収縮の種類はこの関係に全く影響を及ぼさない。 疲労が誘発された際の筋長は、いかなる筋長においても疲労後の筋活性化の度合いに影響を及ぼす。 短い疲労性最大随意等尺収縮は、主に中枢神経系疲労につながる可能性があり、長い疲労性最大随意等尺収縮は筋節自体の末梢疲労を引き起こす可能性がある。

ストレングス・コンディショニング・リサーチ 1794字

筋長は疲労に影響を及ぼすか? パート1/2

異なる長さにおいて筋肉の活動が異なるという事実は、フィットネス業界において多数の人から無視されている。長さと張力の関係は筋肉生理学において最も興味深い側面の一つであるゆえ、これは非常に恥ずべきことである。この関係を理解すると、なぜ筋肉がある特定の関節角度においてより強く、その他の関節角度においてより弱いのかを説明するのに役立つ。研究者たちは、異なる長さにおける筋肉全体の強度の差違は、筋繊維における個々の筋節の重なり度合いによりもたらされると考えている。 この記事ではクリス・ビアズリーが、異なる筋長において筋活性がどのように異なるのかを示している刺激的な研究を概説している。さらにそれは、この強度の差違が、筋肉がフレッシュであるのか、疲労しているのかにかかわらず起こるということを示している。更に興味深いことにこの研究は、疲労をもたらす収縮後の筋活動は、疲労性の収縮が行われた筋長により異なる度合いで減少すると示している。つまり、同様の疲労性活動を異なる関節可動域にて行うことは、全く異なる疲労反応につながるのである。 研究論文: 異なる筋長における最大等尺性収縮後の神経活性化、デスブロス、ババルト、メイヤー、プーソン、スポーツ&エクササイズ、医学&科学2006年 背景 研究者たちは、以前の研究により筋肉への神経伝達は、その長さによって変化するということが発見されていると記述している。これは、最大力が開発される、モーメントアームが最良である、もしくはその両方において、筋肉が最適の長さ以外で強度を維持することを可能とするメカニズムであると考えられている。 疲労に関して研究者たちは、神経筋の疲労は中枢疲労と末梢疲労の2つに分けることができると解説している。彼らは、中枢疲労は運動皮質と神経筋接合部の間の神経興奮の変化において最も顕著にみられ、末梢疲労は神経接合部と筋節の架橋との間の変化として定義することができると示唆している。 研究者たちは、いくつかの研究が、短い筋長よりもむしろ長い筋長において行われた場合、最大下、もしくは最大等尺性膝関節伸展後に個人がより大きな疲労を経験したということを発見しているため、疲労は筋長に依存しているようであると解説している。彼らは、この研究においてはいかなる中枢疲労の変化の兆候は無く、ゆえにそれは抹消疲労の差違は、長筋長において観察された、より大きな疲労が原因であると示唆している、と記述している。 研究者たちは何を行ったか? 研究者たちは、異なる筋長における神経活性化のパターンが、疲労しているコンディションにおいても一貫性を持つのかどうかをみたいと考えた。彼らはまた、筋長が最大等尺性随意収縮(MVICs) 後の疲労に及ぼす影響を再調査したいとも考えた。彼らは単収縮補間法、筋電図活動、及び2つの異なる筋長(短/長)における最大随意、及び電気的に励起された二重トルクを使い、筋活動を評価した。彼らは、2つの異なるセッションの際、これらそれぞれの筋長において行われた疲労性の運動の前後に測定を行った。 単収縮補間法は、最大随意収縮(MVCs)の際の筋活動の度合いを評価する方法である。単収縮とは筋肉への単一電気パルスであり、通常電極を用いて引き起こされる。補間された単収縮とは、筋肉が既に最大随意収縮している際に単収縮により引き起こされる力の増加のことである。これは被験者がどれほど効率的に随意に筋肉を動員できるかどうかを評価する。 研究者たちは、2週間の間隔をあけて行われる2つのテストセッションからなる実験の為に、身体的に活発である12名の男性被験者を集めた。各セッションは、異なる筋長における大腿四頭筋への疲労性エクササイズの前後に行われた筋活動テストで構成された。 短筋長のセッションは40度の膝関節屈曲において行われ、長筋長のセッションは100度の膝関節屈曲位において行われた。重要なこととして、短長両方の疲労セッションは、短時間、及び長時間の最大随意等尺収縮に対して検査された。ゆえに各筋長における最大随意等尺収縮は、各筋長において行われた各疲労性運動後にテストされている。 疲労性の運動は、各収縮間に1分の休憩を入れた、ある一定のトルクの減少(疲労前最大随意等尺収縮の20%、40%、60%、の減少)が見られるまで維持された、3回の最大随意等尺収縮から成っていた。 研究者たちは、以前の研究が最大大腿四頭筋トルクは70度の膝関節屈曲において起こると示していたため、これらの2つの関節可動域を選択したと説明している。ゆえに研究者たちはこの最大値の前後30度である短長の長さを選択した。 研究者たちは、疲労性運動の前後に、最大随意等尺収縮の前後及び最中に電気刺激を与えながら、被験者に5秒間の膝関節伸展最大随意等尺収縮を2回行わせた。 彼らは、最大随意等尺収縮の前に、2組の電気インパルス(2重)と単一の電気インパルスを、弛緩している大腿四頭筋へ2秒の間隔で流した。 彼らは、最大随意等尺収縮の際に、収縮している筋肉に対し2つの二重インパルスを3秒の間隔で流した。 最後に彼らは、最大随意等尺収縮の1秒後に、2つの二重インパルスを2秒の間隔を開けて弛緩した筋肉へ流した。 また研究者たちは、実験中表面電極を使用し、外側広筋、大腿直筋、大腿二頭筋(長頭)から筋電図記録をとっている。

ストレングス・コンディショニング・リサーチ 2346字

コーキネティックの“運動ニューロマトリックス” パート2/2

私達の運動は、生涯にわたって集められた、これまでの内在的、外在的経験によって構成されています。身体を純粋な機械的構造物として見ることは、‘運動ニューロマトリックス’と脳の役割、私達の運動においての神経系と記憶の役割の構成要素となる経験の奥深さを見落とすことになります。脳と脳の様々な入力をみることによって、運動制御レベルでの今後の問題に関しての、これまでの運動の問題の影響を理解することができます。研究が、今後発生するかもしれない傷害の予測のための大きな判断材料は、過去に発生した傷害であると示しています。 “痛みへの順応は、短期間の利益がありますが、潜在的な長期の影響を伴います。” Hodges (2011年) 私達の日々の要求と姿勢、これまでの運動における問題と感覚入力は、私達の今後の運動において何が起こるかを決定する際に、大きな役割を果たしています。既往痛は、脳内の運動皮質と感覚皮質に変化を引き起こし、私達の運動潜在能力を制御します。痛みを取り除くことがリハビリテーションの黄金律ですが、これまでの運動が評価されたり、復元されたりすることは滅多になく、私達は症状、あるいは痛みを軽減するアプローチをとります。この変化した運動は、後になって局所的、あるいは全体的に、潜在的な運動における問題と痛みを作り出す可能性があります。これは、身体が経験している問題の原因として、足のような特定の構造に目を向けるように、より生体力学的、あるいは姿勢に関する先入観にとらわれたモデルから離れることを意味しています。発表されている研究は、経験した痛みに関連する特定の病理学的機序を一貫して支持しているわけではありません。 “痛みは、痛みのある、あるいは損傷部位を保護するために、運動戦略を変更しようと強い刺激を与えますが、痛み、あるいは傷害の解決は、必ずしも初期パターンに戻るための刺激を与えることではありません。” Hodges (2011年) 実際に、痛みは実際の損傷というより、ニューロマトリックスの中に含まれている全ての情報に基づいた、体組織の健康に対する身体の見解なのです。 治療用ベッドのように、閾値の低い方法で評価することは、傷害、あるいは制限に関連する運動の問題を発見するため、環境要因を作り出すことを可能としないかもしれない、ということを意味しています。 私達コーキネティックでの、評価におけるSAIDの原則は、身体は私達に“課された要求への特異的な答え”を与えてくれるということを表現しています。評価の要求が変化するにつれて、要求への反応も変わるでしょう。これは、エリートレベルの競技者において特に重要であり、競技者全体において、より重要なものです。 私達は下記のモデルを模範として、脳が機能すると信じています: パターン − 状況の認識記憶 知覚 − 感覚フィードバックの解釈 予測 − 反応‐低下した運動と痛みを含む 身体に、運動における本質的な運動ニーズに由来する、正しい感覚情報のパターンを与えることによってのみ、機能的な状況における、評価/治療の状況から離れた、機能的な状況において起こる、身体からの真の反応、あるいは予測を得ることを期待することができます。問題はしばしば、単に運動指令/計画、あるいは運動状況に応えて起こるであろうことへの意見、あるいは予測なのです。感覚処理の観点から起こることのほとんどは、単に毎分毎に変化可能な解釈、あるいは知覚なのです。神経信号は、“運動ニューロマトリックス”内に含まれている他の要因に従って、中枢レベルにおいて増幅され、あるいは減衰されます。 “痛みは、ただ単に傷害に対する反射的反応というより、生命体の健康状態に関する見解です。疼痛受容器から脳内の‘痛覚中枢’への直接のホットラインは存在しません。” VS Ramachandran 私達の感覚系はまた、‘運動ニューロマトリックス’における中心的存在です。 私達の感覚の全ては、その環境においてナビゲートする必要がある利用可能で大量な情報をうまく処理するために、私達の動き方に影響を及ぼします。この感覚情報における不整合は、準最適運動と痛みを引き起こす可能性があります。感覚系は、単に私達の運動情報のみでなく、より重要であるかもしれない視覚系情報や前庭系情報も含みます。 “神経障害痛のような感作、阻害された神経系において、感覚運動不調和は痛みに寄与、もしくは痛みを維持する可能性があります。” Moseley and Flor (2012年) ストレスホルモンのレベル、食事、水分補給状態、呼吸を含む体内の健康状態はまた、私達の運動レベルと疼痛レベルに影響を及ぼします。また、運動能力を考慮する際には、‘運動ニューロマトリックス’も含まれます。 本物の環境の中で、効果的な運動、感覚系、健康を通して、‘運動ニューロマトリックス’と関わることによってのみ、私達は個人と彼らの運動潜在能力を本当に理解することができるのです。 参照文献 Blakeslee S, The body has a mind of its own, Random house, Sept 2008 Hodges P Walker K, Moving differently in pain, PAIN 152 (2011) S90–S98 Jackie Yuanyuan Hau et al, “Regulation of axon growth in vivo by activity based competition” Nature, 2005 Vol. 434 21 Kandel E et al, Principles of Neural science, fifth edition, November 2012 Lederman E, The fall of the postural–structural–biomechanical model in manual and physical therapies: Exemplified by lower back pain, CPDO Online Journal (2010), March, p1-14. http://www.cpdo.net Melzack R, Pain and neuromatrix in the brain, J Dent educ, 2001 Dec, 65(12):1378-82. Moseley G, Flor H, Targeting cortical representations in the treatment of chronic pain, Neurorehabilitation and neural repair, XX (X) 1-7 Moseley L et al, Cortical changes in chronic low back pain: Current state of the art and implications for clinical practice, 3rd International conference on movement dysfunction 2009 Moseley L, A pain neuromatrix approach to patients with chronic pain, Manual therapy 2003, 8(3) 130-140 Ramachandran VS et al, Touching the phantom limb. Nature. 1995;377:489-490. Ramachandran VS and Blakeslee S, Phantoms in the brain, New York: William Morrow, 1998

ベン・コーマック 2132字

コーキネティックの“運動ニューロマトリックス” パート1/2

運動への多元的アプローチ ‘動作ニューロマトリックス’モデルは、単なる骨、関節、筋肉の機械的操作以上のものとして、私達の運動を表現するように作られています。私達が下記のモデルにおいてリストしている入力のすべては、どのように私達の脳が運動を認識し、反応するのかに影響します。 身体の運動は、脳の‘出力’である神経系の過程の肉体的表現として見られるはずです。下記の図表の中央にある絵は、運動の‘出力’を表し、周囲の‘入力’によって影響されています。私達はしばしば、運動を、脳が受け取り使用する多くの‘入力’によって影響され私達の動作、あるいは運動の‘出力’を決定するためのものとしてよりも、純粋に身体の‘出力’として見ています。 このモデルは、痛みと痛みの経験の形成に多く寄与する‘入力’の多元的モデルを導入しているMelzack氏の“ニューロマトリックス”によって影響されています。痛みに関する従来の考え方からの最も大きな脱却の一つは、ニューロマトリックスにおいて、痛みは、単に‘入力’、あるいは身体からの信号ではなく、脳の‘出力’であるということです。 Melzack氏は、下記のように説明しています: 私はネットワーク全体を分類していて、それらの空間分布とシナプスの結びつきは、最初は遺伝的に決定され、後にニューロマトリックスとして、感覚入力によって形作られていきます。 私達の‘ニューロマトリックス’を通って流れる全てのものは、感覚入力によって形作られています。‘入力’は、根源で‘神経信号’を作り出している‘入力’というより、ただ‘ニューロマトリックス’からの‘神経信号’、もしくは‘出力’パターンを引き起こすだけなのです。この例は、‘ニューロマトリックス’からの痛みの‘神経信号’と結果として起こる痛みの‘出力’を引き起こしている感覚入力というより、末梢で作り出され、脳と‘ニューロマトリックス’に伝達された痛みなのです。ストレスレベルのような‘ニューロマトリックス’への他の‘入力’は、痛みの‘神経信号’‘出力’に影響を与え、調節することができます。私達はまた、身体組織と構造からの感覚‘入力’の代わりに、痛みの‘出力’を持っているかもしれません。 私達の“運動ニューロマトリックス”は、ニューロマトリックスのひとつの出力、運動を強調するように作られています。それは、補正、順応、置換というよりも、むしろ‘ニューロマトリックス’からの多くの出力の中の一つにおける焦点と見解なのです。タイトルに‘運動’を添加した理由は、この焦点を強調するためです。 実際、私達が痛みのプロセスを知覚する方法とは反対のものとして、‘運動出力’の背後にあるプロセスをみることさえできます。痛みは、実際には‘出力’である場合にも、主に‘入力’としてみられます。運動は、しばしば多くの‘入力’と要因を無視して‘出力’としてみられます。 同様に、私達の独特な運動を作り出すために、運動は脳によって調節された、数多くの要因によって影響されていると、私達は信じています。 経験(脳) 過去の運動傷害既往歴 意欲 価値観と信条 感情 論理 痛み 皮質マップ 潜在意識 意識 外因 外部の脅威 環境 三次元空間 娯楽、スポーツ、職業 姿勢 重力 床反力 質量とモメンタム 構造 筋肉系 骨格系 神経系 結合組織 異常性 健康状態と活力 呼吸 栄養 水分補給 細胞エネルギー ストレス 習性 睡眠/覚醒サイクル 消化器官の健康状態 解毒器官の健康状態 感覚 視覚 前庭 聴覚 運動感覚 嗅覚 味覚 触覚 このモデルは、私達の運動において、脳が制御因子であるということを前提として機能します。実際に、私達の脳は、脳自身を再配線することが可能で、脳が通常使用する結合を強化していて、使用しない結合を低下させています。これが、神経剪定として表現されるプロセスです。 “神経伝達物質の放出がより不活発な軸索分岐が後退する一方で、神経伝達物質の放出がより活発な軸索分岐は、特定の神経筋部位において持続し、多ニューロン神経支配の標準的な除去を引き起こします。” Jackie Yuanyaun Hau他 これは、私達の神経連絡の観点から、“使わなければ、失われる”ということを難しく表現しているわけですが、脳科学と神経可塑性の主要原理の一つなのです。 この再配線は、私達の特有な‘はっきりとした運動特徴’、あるいは個人の運動の潜在能力を定義する神経回路を作り出す、私達の記憶、構造、感覚系、活力、環境を含む複数の入力に基づいています。この全ては、良好な運動を行い、生きるために、感覚系と運動系がお互いに依存し合い活動する大脳皮質において起こります。これらの皮質領域は、現在、私達の運動と痛みの両方を理解するために、必要不可欠なものとして考えられています。 “感覚地図からの一定で正確なフィードバック無しには、運動地図は役目を果たすことができません。そして、相互退化のフィードバック・ループがセットアップされます。感覚地図が悪化すると運動地図も悪化し、そして、感覚地図はより悪化します。” The Body Has a Mind of its Own(邦題:脳の中の身体地図~体は独自のマインドを持っている~) Sandra and Matthew Blakeslee著 “痛みが持続する際に発生する変化の一側面に、一次感覚皮質における痛みを伴う身体部位の固有感覚表現があります。これらの表現は、脳が動作の計画を立て、遂行するために使用する地図であるため、運動調整に影響を与えるかもしれません。身体部位の地図が不正確になると、運動調整は阻害されるかもしれません。皮質の固有感覚地図の実験的混乱が、運動計画を邪魔するということは認識されています。” Lorimer Moseley:南オーストラリア大学健康科学学部 臨床神経科学科教授・理学療法学科長

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ACL再建術後の早期リハビリテーション 6つの重要なポイント パート2/2

膝屈曲の動きを徐々に改善 膝の屈曲制限は伸展制限より一般的でない傾向ではありますが、起こり得ることであり、屈曲への取り組みも見過ごさないようにしたいものです。屈曲と伸展の間にシーソーのような関係があることが多くあります。一方の方向に取り組めば取り組むほど、もう一方の方向がより硬くなる傾向にあるのです。これは、慎重に、しかし漸進的に、関節可動域の向上に頻繁に取り組むことにより解決されます。 また、膝の屈曲を回復させるために、ストレッチと同時に浅いスクワットや、ゆくゆくはランジなどの機能的動作のトレーニングを行うようにします。可動域のエクササイズの漸進性を自分自身で制御できれば、知覚的脅威は減少し、動作は回復しやすくなります。 膝の約90度までの屈曲は、1週間ほどでゆっくり回復します。それから徐々に改善し、4~6週間かけて完全に屈曲できるようになります。 膝蓋骨の可動性を維持 可動域減少の原因のひとつに、膝蓋骨の可動性が失われていることがあります。膝の屈曲と伸展には、膝蓋骨の充分な可動性を必要とします。膝に痛みと腫れがあり、動かしづらくなると、瘢痕組織が形成され、膝蓋骨の動きを制限します。これは特に、膝蓋腱を移植腱として用いたACL再建術でよく起こります。膝蓋骨の可動性に注意を払わなければ、可動域減少の可能性は著しく高くなるでしょう。 膝周囲の軟部組織と膝蓋骨のモビリゼーションは、術後すぐに実施します。また、患者には、これらを自分自身で出来るように指導し、家でも行うよう促しています。 大腿四頭筋の随意制御の回復 前述の通り、術後の疼痛や炎症、腫脹によって膝周囲の筋調整に反射性抑制が起こります。これらの要因への対処に加えて、大腿四頭筋の随意制御の回復のために実施するテクニックがあります。 デラウェア大学のリン・スナイダー・マクラー氏は、ACL手術後に大腿四頭筋に神経筋電気刺激(NMES)を使用することについて多くの論文を発表しています。NMESを使用しないで単にエクササイズした場合に比べ、NMESを使用することで大腿四頭筋の筋力と機能のより早い回復を促します。 当然、NMESはACLリハビリテーションの初期段階の重要な構成要素になります。最も早い段階で大腿四頭筋セット、ストレートレッグレイズ、ニーエクステンションなどの大腿四頭筋のエクササイズにNMESを併せて実施するでしょう。 大腿四頭筋を収縮させるこれらのトレーニングは、膝の伸展可動域の回復にも役立つという付加効果もあります。 独立歩行の回復 さて、これまでに疼痛と腫脹に取り組み、膝の動きや膝蓋骨の可動性は回復し始め、大腿四頭筋を活性化できるようになったところで、これらすべてを統合し、制限や跛行することなく歩行できるようにします。前述した、焦点を置くべき分野でのひとつでも対処されていなければ、独立歩行はたいてい困難になるか、少なくとも正常には機能しません。 他の組織が損傷していたり保護する必要がある場合を除いて、私は通常、ほぼ1週間で耐えられる範囲で体重をかけられるようにします。2週目までは松葉杖を使用するかもしれませんが、松葉杖に頼ってしまうのではなく、あくまでも補助的に利用し歩けるようにします。 体重をかけるエクササイズ、たとえば体重を移動させるウェイトシフトや膝をロックする練習などが、初期段階では役に立つことが分かりました。また、体重移動と片脚立ちへの移行パターンを定着させるために、コーンを用いたウォーキングドリルもよく利用します。さらに、コーンを跨ぐ後ろ向き歩行も、足部の上で身体が後方に揺れ膝の伸展に役立つことが分かりました。 ACL再建術後の早期リハビリテーションの6つのポイントについて述べてきました。患者とのセッションの際、これらひとつひとつに注意を払うようにしています。この6つのポイントは非常に重要ですから、全てにしっかり取り組むためにもリハビリテーション過程の初期には、むしろセッションを増やし、その後、(保険の限度回数により)ペースを緩めていく方が良いでしょう。

マイク・ライノルド 1829字