マイクロラーニング
隙間時間に少しずつビデオや記事で学べるマイクロラーニング。クイズに答えてポイントとコインを獲得すれば理解も深まります。
緒方博紀さんインタビュー ストレングスコーチの役割
キネティコスのアドバイザーのひとりであり、今年の黒鷲旗全日本男女選抜バレーボール大会で優勝した、JTマーベラス女子バレーボールチームのストレングス&コンディショニングコーチである、緒方博紀さんに、チームスポーツのストレングス&コンディショニングコーチとしての役割とチャレンジ、達成感等に関してのお話を伺いました。
DNS A & B コース 参加レポート
Dynamic Neuromuscular Stabilization (以下、DNS) A & B Course - Developmental Kinesiology Approach 2015. 8. 21 – 2015. 8. 26 @北海道大学 私は過去にセミナーを通してRobbie Ohashi氏やNBAで活躍する佐藤晃一氏からDNSの考え方に基づいたトレーニングやリハビリを学ぶ機会を得たことでDNSの存在を意識するようになりました。そこからDNSの考え方をトレーニングに応用して効果を上げている人達が何を学び、何を考えてプログラムを組んでいるのかを知りたいと思うようになり、2014年にスポーツコース、そして今回A、Bコースへ参加しました。DNSは日本語では動的神経筋安定化と表現されます。コースに参加した経験や指導を受けたことがなければ、DNSはよくわからない存在かもしれません。私自身もまだまだコースの内容を整理しきれていませんが、このレポートがこれからDNSのコースに参加を考えている方、DNSに興味を持っている方の参考になれば幸いです。 【DNSとは】 ・チェコのプラハスクール、Pavel Kolar博士によって生み出された。 ・単なるテクニックではなく、運動システムにおける神経生理学的な基礎を理解するための包括的なアプローチ。 ・統合された安定化システム(Integrated Stabilizing System of the Spine(ISSS))を活性化する。 ・赤ちゃんの発達運動学をもとに評価、治療、運動療法を組み立てていくための戦略であり、単なる赤ちゃんトレーニングでは無い。 【強く印象に残っているポイント(一部、私見を含みます)】 ・理想的な呼吸とは何か?1日の呼吸数を考えれば、呼吸不全があった場合、特定の筋(呼吸補助筋である僧帽筋上部、胸鎖乳突筋など)の過活動を引き起こすことは容易に想像できる。 ・中枢神経系の運動制御は脊髄レベルから皮質下レベル、そして皮質レベルへと移行する。生後3ヶ月から12ヶ月までは皮質下の成熟によって運動制御が行われ、この時期に基本的な矢状面の安定化、分離運動、四肢の前方方向へのステップと支持機能、機能的関節中心化が発達する。エクササイズにおける発達学的肢位(Developmental Position)はこの期間内に到達する各ポジションが基本。皮質レベルでは認知機能、部分的運動パターンと全体的運動パターンの統合、リラックスできる能力が向上する。中枢神経系の運動制御における3つの段階で何が起こっているかを知ることで、なぜ一流アスリートは運動が滑らかでスムーズかを理解できる。 ・発育発達段階で生じる運動パターンの成熟は成人となっても基本的運動パターンとして使われる。 ・生後3ヶ月から4.5ヶ月の間に獲得される矢状面の安定化は機能的関節中心化(Joint Centration)を促進する。機能的関節中心化は関節面が最大接触し、最適な力の伝達を可能にする。また、最大の筋張力と負荷に耐えることを可能にする。→スポーツには欠かせない。 ・例えば、生後4.5ヶ月の背臥位の肢位で求められる安定性と協調性は、脊柱が体重負荷を維持できる姿勢を可能にしている。スクワットの方がより筋力が必要だが、4.5ヶ月肢位とスクワットのボトムポジションでは求められるものは同じである。 ・矢状面の安定化は“Proximal Stability for Distal Mobility”「遠位のモビリティのための近位のスタビリティ」に共通する考えであり、この矢状面の安定化によって、四肢の相動的な動きが可能になっている。 ・OKCにおける関節運動の固定点は近位、運動点は遠位。CKCにおける関節運動の固定点は遠位、運動点は近位。この運動パターンの違いを理解することは動きを理解する上で重要。 ・直立位は個体発生学上、若い(新しい)パターンであり、損傷を受けやすい。 ・“もし呼吸が正常化されなければ、どのような運動パターンも正常化することができない” (Karel Lewit)呼吸筋である横隔膜は、姿勢機能も持っており、負荷がかかる運動時にはこの2つの機能を満たす必要がある。 ・IAPを高めるために、重要なのは腹部を膨らませることではなく、腹壁がシリンダー形状になること。 ・腹壁がシリンダー状なっていれば吸気時には横隔膜は下がり、腹壁の筋群は遠心性収縮し、IAPを高める。ドローインでは横隔膜の下がるスペースがなくなってしまう。横隔膜は呼吸機能、姿勢機能、括約筋のマルチタスクをこなすため、欠陥が生じることが多い。 ・DNSテスト(横隔膜テスト)では、呼吸機能、姿勢機能、姿勢を維持しながら呼吸機能が働くかを評価する。 ・呼吸の必要性が増大した時、呼吸筋は姿勢制御を減少し、即時に呼吸の必要性に対応する。(Hodges et al, J Physiol 2001; Grimstone & Hodges, Exp Brain Res, 2003)→体幹部のシリンダー形状がとれない場合、IAPを高めることはできず、姿勢制御がより困難になると考えられる。 ・股関節屈曲筋は腰椎前湾も引き起こす。脊椎の後部も含む脊椎伸展筋の作用に十分な拮抗作用を持つ筋は脊椎の前側にはない。→IAPによる安定化が必要。 ・IAPを高めるには横隔膜のドーム形状になっていることが重要。吸気時には腹壁が遠心性収縮しながら活動し、横隔膜が下がってくることでIAPが高まる。下部肋骨が前突している場合、横隔膜は肋骨に引かれ、平坦化する。平坦化した状態では横隔膜の下降幅が低下するためIAPを高めにくい。腹直筋の緊張が強くお腹が凹んだ状態のままになっているケース(砂時計症候群)も同様。→PRIでいうZOA(Zone of apposition)を失った状態に共通。 ・DNSの考えではお腹をへこますDraw – Inは良いパターンではない。あくまで腹部のシリンダー形状によってIAPを高めることが重要。 ・例として円柱形を保ったペットボトルを真上から抑えるつけることを考えてみると、円柱状(シリンダー状)を保ったペットボトルはかなり強い圧力にも耐える事ができる。しかし、一部に少しでも凹みがあると上から圧力をかけた時に簡単に形が崩れてしまう。 ・脊柱が四肢の動きを作り出している筋の固定端の役割を果たしている。例えば上肢の動きにおいて肩甲帯の支持が必要だが、その役割を担う前鋸筋は腹壁の筋による胸郭の安定性が無いと正常に機能しない。同様に正常な股関節屈曲動作は腰椎伸展筋に対する腹壁の筋群による安定化作用が働いていないと正常に機能しない。 ・運動療法、トレーニングにおいて口頭指示で姿勢や運動パターンを変化させることができる場合、ボディアウェアネス、認知機能が優れている。リプログラム(運動学習)が進みやすい(予後が良い)。 ・自身の筋により発生する内的な力は、外的負荷よりも有害であることが多い。 ・骨棘や椎間板突出などの構造的な問題は手術で対応できるが、その原因は不安定性の結果であることが多い。→解決策だけでなくその原因を明らかにする必要がある。 ・どのような身体も物語を語る。“身体に語らせよ”(Vladimir Janda) 【A - Bコース、スポーツコースに参加しての感想】 ・機能的関節中心化を達成するにはどこに注意したら良いかをわかるようになってきた。手や足部への荷重のポイント、キューイングによるアライメントや筋力発揮の変化を身をもって感じることができました。 ・トレーニング種目の中にも背臥位や四つん這い、側臥位、ハーフニーリングなどのポジションを取るものがあります。これらをみるときにDNSの発達学的肢位から考えると良いフォームとは何かということに自分なりの答えを見いだせるようになってきました。DNSでも全ての発達学的肢位は自己治療に使うことができるとし、とにかく赤ちゃんの発達学的姿勢と比べてみることを薦めています。実際に指導現場に戻ると選手の動きをみる目が変わったと感じます。 ・A 、BコースとSportコースでは違う講師でしたが、それぞれの方に特徴があり、微妙に教え方も異なっていると感じました。それぞれに動作の修正の仕方やキューイングの出し方もとても参考になりました。参加者の中には何度もDNSのコースに参加される方もいます。講師による指導方法の違いもあるのですが、現場での指導を経てもう一度コースを受けにくるとまた違った学びを得られるのだと思います。 ・A 、BコースはPTの方が多く、スポーツコースはパーソナルトレーナー、AT、S&Cコーチの方が多いでした。自分の専門分野以外の方とペアを組んで実習を進めていくことも多いので、それぞれのミカタを経験することもできて良い気づきが得られます。私自身はS&Cが専門ですが、スポーツコースやExerciseコースの内容は運動指導分野で活用できる有意義な内容だと思います。呼吸が運動パターンに与える影響を知り、それを修正し、最終的には運動パターンを改善していくという流れをつかめると思います。 ・コースの中では、様々なテストやその結果からの修正の方法、エクササイズや動きのミカタを学んでいきます。興味のある方は是非コースに参加し、実際にご自分で体験されることをおすすめ致します。 【DNSを知るための参考文献】 ・Craig Liebenson, Rehabilitation of the Spine. Lippincott Williams & Wilkins, 2006 日本語の訳本『脊椎のリハビリテーション(エンタプライズ)』もありますが、現在は出版社廃業のため入手が困難です。Amazonでは出品者から手に入るかもしれません。上下巻にわかれており、Pavel Kolar博士の記事は下巻です。DNSコースの復習としても大変役立つと思います。Craig Liebenson、Stuart McGill、Vladimir Janda、Paul Hodges、Karel Lewitなど、他にも多彩なメンバーがそれぞれの立場で執筆をしています。 ・Craig Liebenson, Functional Training Handbook. Lippincott Williams & Wilkins, 2012 世界的にも有名な研究者、ストレングスコーチ、トレーナーなど錚々たるメンバーが分担執筆した本です。Pavel Kolar博士によるDNSの紹介はもちろんCraig Liebenson、NBAで活躍する佐藤晃一さん、キネティコスでもお馴染みのSue Falsone、Eric Cressey、Michael Boyleなど業界を牽引するメンバーが多数執筆しています。概論だけでなく、様々なスポーツにおけるトレーニングやリハビリテーションのアイデアが多数あり、興味深い内容になっています。 ・Clare Frank et al., Dynamic Neuromuscular Stabilization & Sports Rehabilitation. Int J Sports Phys Ther. 2013 Feb; 8(1): 62–73. International Journal of Physical Therapy という学術誌に掲載されたClinical Commentary(解説)記事です。DNSコースインストラクターも担当するClare Frankらの執筆です。DNSのHPで全文を見ることができます。 【DNS・プラハスクールのウェブサイト】 http://www.rehabps.com/REHABILITATION/Home.html ※Kinetikosアドバイザーである大貫さんが2015/10/03(土)にDNSとPRIのコンセプトに基づく呼吸のセミナーを開催されるそうです。興味のある方は参加を検討されてはいかがでしょうか。
インシーズンのS&C
『インシーズンのS&C』 私の働くチームは今まさにインシーズンを戦っており、レギュラーシーズンは通常約4ヶ月続きます。このような長期間に渡るインシーズンのトレーニングについてどのように考えていくのが良いか常に試行錯誤しています。今回はこのインシーズンのS&Cについて考えていきたいと思います。 ◯ストレングス・メンテナンス・パラドックス まず最近読んだ文献(1)の中から非常に興味深かったコンセプトを紹介いたします。 プレシーズンまでに筋力レベルを向上させ、インシーズンにはそれを出来るだけ維持することがシーズン中のS&Cプログラムの目的だと考えられています。しかし、シーズン開始時から筋力レベルが変わらない、変化しないということは言い換えると改善もしていないということになります。 さらにインシーズンが長くなればなるほど後半には疲労や各種ストレスが蓄積していきます。これらは選手の潜在的な(本来もっている)力発揮能力にネガティブな影響を与えます。 したがって、シーズン中に仮に筋力レベルが維持されていていたとしても、疲労などの負の影響を受け、結果的に力発揮能力は徐々に低下することになります。これがストレングス・メンテナンス・パラドックスです。 これをYule(1)は以下のように表現しています。 Strength realization = strength potential – stress impact 日本語にするとこのような感じになるでしょうか。 実際の力発揮能力=潜在的な力発揮能力 − ストレスによる影響 ・シーズン開始時のイメージ Strength potential = 100% Stress impact = −10% Strength realization = 90% ・シーズン中盤のイメージ Strength potential = 100%(変化なし) Stress impact = −30%(疲労やストレスが蓄積) Strength realization = 70% このように潜在的な力発揮能力を維持していたとしても実際の力発揮能力は低下していきます。ある程度、疲労の影響は避けられないことを考えると、仮に疲労の影響が−30%あり、現実に発揮できる筋力を90%に保ちたい場合には、潜在的な力発揮能力をシーズン開始時より20%高い120%にしておかなければなりません。ここからシーズン中にも継続的な体力の向上が必要だということが理解できると思います。準備期ほどの大幅な体力の向上を引き起こすのは難しいかもしれませんが、僅かでも体力の向上を狙いつつ、疲労や各種ストレスの影響を最小限に抑えることができれば、体力レベルを維持していくということが可能になると考えています。 例えば、シーズンに入ると筋力トレーニングに割く時間は、準備期の週3〜4回から週2回程度になっていきます。ここで既に一週間あたりのトレーニング量は低下しているため、必要以上にトレーニング1回あたりのトレーニング量を少なくする必要はないのではないかと考えています。シーズンに入るまでにしっかりトレーニングを続けてきた場合では、それなりの体力レベル向上が見込まれます。競技練習、筋力トレーニング、エネルギーシステム向上トレーニングなどを同時並行的に進めてきたことで多量の負荷に耐えうるコンディションができているのであれば、シーズンに入った途端に、トレーニング量を大幅に減らす必要は無いように感じます。 もちろん必要最低限のよりシンプルなプログラムにシフトしていきます。しかしメイン種目は強度を高めに保ちつつ量を減らしすぎないようにしています。Bompa(2)は筋力トレーニングのピリオダイゼーションにおける維持段階では、すでに達成したレベルを維持するには、主要な原動力を伴う2〜4つのエクササイズで十分であると述べています。私自身はプログラムを組む際、シーズン中に週2回の筋力トレーニングを行えるケースでは、それぞれにクイックリフト、パワー系種目、スクワット、RDL、上半身のプッシュ種目、上半身のプル種目などの主要種目から3〜4つを選択し、必要な補助種目を加えています。 バレーボール(Vリーグ)では毎週末土日にリーグ戦があり、土日の試合に備えて木曜日午後には試合開催地へ移動し、金曜日は前日の会場練習です。週に1日はオフが入り、自チームの練習場で丸1日を使えるのは週2日間だけです。こういったスケジュールから、シーズンに入ったからといって大幅にスキル練習に割く時間が増えるわけではなく、むしろ減っていることもあります。そういった背景もあり、週2回の筋力トレーニングは前述のStrength potentialを改善していくための非常に貴重な時間となっています。この考え方を他のコーチングスタッフと共有することにより、シーズン中のトレーニングにも共通理解を得ることができます。また、選手にもこの点を理解してもらうことで、シーズン中にコンディションを整える手段としてトレーニングに意味を持てるのではないかと思います。 緒方博紀(S&Cコーチ、JT Marvelous) 参考文献 1. Yule, Stuart. “Maintaining an In-Season Conditioning Edge”. High-Performance Training For Sports. David Joyce et al. Human Kinetics, 2014. 2. Bompa, Tudor O. 競技力向上のトレーニング戦略:ピリオダイゼーションの理論と実践. 大修館書店, 2006.
インシーズンのS&C その2
前回に引き続きインシーズンのトレーニングについての第2弾です。少し長くなってしまいましたがお付き合いいただければ幸いです。 一昨年、国立スポーツ科学センターで開催されたJISSスポーツ科学会議でS&C界では著名な研究者であるRobert Newton博士(Edith Cowan University)が講演をされました。その講演の中で長期のインシーズン中のトレーニングに関して重要な研究が引用されていましたのでご紹介していきます。 『試合期の女子バレーボール選手における体力の変化』(1) Hakkinen, K. Changes in physical fitness profile in female volleyball players during the competitive season. J Sports Med and Phys Fitness 1993; 33:223-32 フィンランドのリーグに所属するあるチームを実験群、また別のチームをコントロール群として試合期の体力数値の変化を調査した研究です。体力要素の中から筋力とジャンプパフォーマンスに関するところを要約して下記にまとめます。 シーズンは以下のように分かれている。 7週間の準備期 10週間の試合期Ⅰ 3週間の準備期 11週間の試合期Ⅱ 実験群は週に2-3回、コントロール群は週に1-2回のフィジカルコンディショニング(大部分は筋力トレーニング及び爆発的筋力トレーニング)を行った。実験群は試合期Ⅱの後半の5週間はmaximal strength trainingを中断した。 ◯最大筋力の変化について 脚伸展筋の最大筋力は準備期と試合期Ⅰの間に僅かに増加したが統計的に有意ではなかった。 試合期Ⅱ後半の5週間で中止されたトレーニングによって最大筋力は有意に低下した(Fig. 2)。 爆発的筋力トレーニングだけではシーズン前に獲得した最大筋力を維持する十分な刺激にならず、最大筋力の低下を防ぐにはコンスタントな高強度のトレーニング刺激が必要であることが示唆された。 最初の筋力レベルが高かった者ほど筋力の低下が大きかった(r=−0.92, p<0.01)。このことから個別的な筋力トレーニングの必要性が示唆される。 ◯ジャンプパフォーマンスの変化について 準備期と試合期ⅠにおいてSJとCMJは有意に向上した(Fig. 3)。同じくSPIKE JUMP(スパイクジャンプ)、BLOCK JUMP(ブロックジャンプ)も有意に向上した(Fig. 4 )。しかし、試合期Ⅱの後半に最大筋力トレーニングが中止され、最大筋力だけでなく、SJとCMJも有意な低下を示した。 女性は一般的にやや低い最大筋力レベルであるが故に最大筋力は爆発的筋力の発達と特にジャンプのパワーには重要であると思われる。試合期Ⅱにおける最大筋力の変化はCMJの変化と強い相関(r=−0.90, p<0.01)があることはこのことを支持している。 試合期全体を見た場合、実験群だけではなくコントロール群でもSJとCMJのパフォーマンスの変化は個人差が大きく、個別プログラミングの必要性を支持している。 この研究から得られる現場への応用は以下のようなものが考えられます。 ・シーズン中もコンスタントに高強度のトレーニングを継続して最大筋力を維持する。 ・女性アスリートは男性と比べて最大筋力が爆発的筋力やジャンプパフォーマンスに及ぼす影響が大きいと思われるので、最大筋力の維持が不可欠だと考えられる。 ・最大筋力やジャンプパフォーマンスの変化は個人差があるので、個別的なプログラミングをしていく必要がある。 ・個人差がある体力の変化を把握するために、シーズン中も体力的数値をモニタリングしプログラムを微調整していく。 Hakkinenによる20年以上前の研究ですが、(特に女性において)最大筋力へのアプローチを止めてしまえば、パフォーマンス低下を招くことを示した重要な文献だと思います。ディトレーニング(トレーニングの中断)による最大筋力の低下は短期間で生じます。シーズンのクライマックスに向け最もコンディションを上げなければならない時期にパフォーマンスの低下は避けたいものです。Bakerの研究(2)では、競技レベルの高いラグビー選手において29週間(なんと半年以上)のインシーズンでも筋力とパワーを維持することができています。競技練習、エネルギーシステム、ストレングス・パワートレーニングなど様々な要素をトレーニングしていかなければならない中でそれぞれの干渉作用を最小限に抑えるように計画することとチーム状況をふまえた微調整ができれば体力的パフォーマンスを長期に維持することも可能だと考えられます。 とは言うもののなかなか計画通りにいかないことは日常茶飯事です(私自身も反省と自己嫌悪におちいる連続です…)。研究を鵜呑みにしてしまうことは時に危険な場合があります。自分の置かれた環境に置き換えた時にどうなるか考えられる能力をつけたいものです。ただHakkinenの文献のように過去の貴重な研究のおかげでより良い方向へ進むこともできます。何が起こるかわからないスポーツ現場では(人を対象にするならどの現場でも)指導者の引き出しが多いにこしたことはないと思います。 緒方博紀(S&Cコーチ、JT Marvelous) 参考文献 1. Hakkinen, K. Changes in physical fitness profile in female volleyball players during the competitive season. J. Sports Med. and Phys. Fitness. 33: 223-32. 1993. 2. Baker, D. The effect of an In-season of concurrent training on the maintenance of maximal strength and power in professional and college-aged rugby league football players. J. Strength Cond. Res. 15(2): 172-177. 2001 ※図の番号は文献中のものをそのまま引用しています。 ※JISSスポーツ科学会議の講演は国立スポーツ科学センターのホームページから視聴することができます。
パワーポジション
競技のなかで「構える」ことをどのように捉えているでしょうか。またスポーツを始めた時にパフォーマンスを発揮しやすい構えをきちんと教わったでしょうか。アクションを起こす前の構えはパワーポジション(他にもアスレティックポジション、ベースポジションetc.)と呼ばれています。今回はこのパワーポジションについて再考していきます。 「動き出しを速くしたい。」このような相談をアスリートから受けることは少なく無いと思います。多くの球技では1回当たりの移動距離はそれほどでもありませんが、この動き出しの良し悪しはパフォーマンスを左右する要因となります。前述のような課題がある場合、もちろん反応の速さ、状況判断なども関係していますが私の場合は実際に選手に構えのポジションをとってもらい確認するようにしています。そもそも適切なパワーポジションを教わっていないために自分の構えがどうなっているか考える機会がなったというケースが多々有ります。 バスケットボール選手のラテラルスライドからのカッティング動作において、速い股関節伸展動作が爆発的な動作にとってより重要であることと、COM(質量中心)を低く保つことが重要であると示されています(1)。これらの条件を満たす構えはまさしくパワーポジションではないでしょうか。 爆発的な股関節伸展を行うには股関節が屈曲している必要があり、COMを低くするには下肢関節を屈曲しておく必要があります。素早い動き出し、無駄のないカッティング動作を習得するにはまず適切なパワーポジションから力を発揮できることが役に立ちます。 私は特に側方スピード、多方向スピードなどのムーブメントスキル導入の際には導入として必ずこのパワーポジションのとり方を実習するようにしています。細かいポイントを図の中に記しています。 パワーポジションをとった時の足底部のインサイドエッジ(母趾、母趾球、内側アーチ前方にかかるエリア)荷重は非常に重要です。そこで導入の段階で意識づけとして下記のようなキューイングをよく使います。 ・「かかとの下には紙一枚分のスペースを。」 ・「シューズの前半分、インサイドに体重をのせよう。」 ・「地面を左右に引き裂くような感じで踏ん張って。」 ・「(両足の間にシワがよっている)絨毯のシワを伸ばすような感じで踏ん張って。」 母趾球に体重をのせるという表現や膝を絞るという表現をされることもあります。どちらもパワーポジションに導くためのキューイングとしては効果的ではないと感じています。膝を絞ると言うとKnee-Inを誘発することになります。Knee-In状態となってしまうと股関節を爆発的に伸展することは困難です。 膝を絞るのではなく僅かに(本当に少しだけ)股関節を内旋させインサイドエッジ荷重を意識することによって結果的に母趾球にも体重がのった状態となります。そして殿部と大腿部の筋がほぼ均等に力を発揮していることを感じ取れるはずです。 ミニバンドを利用してヒップアクティベーションを行う時、ムーブメントスキルを行う時などトレーニング中にも頻繁にパワーポジションをとる機会があります。前述のような荷重の意識を持つだけでも新たな気付きが得られるかもしれません。どれくらいの関節角度が良いのか、足部のどこに荷重すると動きやすいのかというベースを身につけておけば応用ができます。 また、図では両足が横並びのスタンスでベーシックな形をとっています。これをベースとして競技、ポジションに応じて足を少し前後にずらしたスタッガードスタンスをとることができます。静止した状態から前方への推進力を得るには、重心を支持基底面より前に置かなければならないため、このスタッガードスタンスは小さくステップバックして前方へ動き出しやすくするfalse stepと同様に動き出しの速いポジションだと考えられます。 参考文献 1. Shimokochi Y, Ide D, Kokubu M, Nakaoji T. Relationships among performance of lateral cutting maneuver from lateral sliding and hip extension and abduction motions, ground reaction force, and body center of mass height. J Strength Cond Res 2013; 27: 1851–1860.
スクワットパターンの修得に役立つエクササイズ
このたび発生しました熊本県と大分県を中心とした地震災害につきまして、被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。 また亡くなられた方々のご冥福をお祈り致します。 皆様の安全と被災地の一日でも早い復旧をお祈り申し上げます。 今回はトレーニングを開始した初期の頃、特に導入段階でスクワットパターンの修得に役立つエクササイズを取り上げます。 私は数年前に参加したセミナーでNBA Minnesota Timberwolvesの佐藤晃一さんからこのエクササイズを教えて頂き、それ以来現場で活用しています。セミナーではスクワット動作に対する「Active Loading」という表現を使われていました。スクワット(トリプルフレクション)パターンを引き出すのに非常に有効だと感じています。 【実施方法】 ①ケーブルマシンの前にスクワットスタンスで立ち、ハンドルを胸の前に引き付ける。 ②股関節、膝関節、足関節を屈曲し、スクワットのボトムポジションまで下げていく。 ③ゆっくりとスタートポジションに戻る。 ・ケーブルの負荷に抵抗してスクワットを行うことで、下肢のトリプルフレクションを促進していきます。 ・問題なければ動作範囲を徐々に広げていきます。 ・動画ではケーブルマシンを使っていますが、チューブやバンドを高い場所に固定することで十分に代用できます。私も現場ではバンドを多く利用します。 このエクササイズでスクワット(トリプルフレクション)パターンを学んだ後に、下記のようにプログレッションしていきます。 1. 自体重でのスクワット(ボックスやベンチ等を利用してボトムポジションから) 2. 自体重でのスクワット 3. ゴブレットスクワット 4. フロントスクワット 5. バックスクワット このエクササイズによってスクワット(トリプルフレクション)動作をどのように実行するかという認知を促進できるのではないかと思います。私の経験ではトレーニング歴がない選手でもスクワット習得にかかる時間を短縮できています。 トレーニング初心者のウォームアップやコレクティブエクササイズとしても活用できるかと思います。 ぜひお試しください。
ドロップ・スクワット
皆さまのゴールデンウィークいかがだったでしょうか?Craig LiebensonのPS2ADも開催されましたね。参加された方が本当に羨ましいです。 私はチームの試合帯同のため参加できませんでしたが、次回こそは是非参加したいものです。 私がS&Cコーチを務めるJTマーヴェラスは毎年ゴールデンウイークに開催され、バレーボール界では恒例の黒鷲旗全日本選抜バレーボール大会で優勝することができました!大会二連覇を成し遂げた選手たちを誇りに思います。 大会は6日間、6試合中4試合がフルセットとなる非常にタフな内容となりましたが、トーナメント最終日まで勝ち残れたということで少しはトレーニングが貢献できたかなと勝手に思っています。 さて、本題です。前回に引き続きスクワットのネタです。 今回はプライオメトリクスの導入として着地姿勢の修得に役立つ『ドロップスクワット』です。あまりメジャーではないエクササイズですが、なかなか奥深く活用しやすいものです。 このエクササイズは衝撃吸収能力を向上し、素早くパワーポジションに移行することでパワーポジションに続く次の動作を良くすることにも役立つと考えています。 プライオメトリクスの導入段階においてはジャンプする前に着地動作を正しく取れることを重視しています。 着地時に見られるトリプルフレクションを効果的に行えるアスリートは思いのほか少ないものです(特に中高生、ジュニアアスリート)。トリプルフレクションを身につけることで女性アスリートに多い膝の傷害予防にも一役かってくれると思います。 【実施方法】 ①直立姿勢で肘を90度位に曲げて腕を挙げる。 ②勢い良く腕を後方に引きながら、素早くパワーポジションに移行し(僅かに足底が床から離れる)、しゃがみ込む。 ③パワーポジションを完成させる(脊柱をニュートラルに保つ)。 衝撃吸収を意識してより深くしゃがみ込むということもできます。 最初はうまく力が抜けずにぎこちない動きになってしまうかもしれません。力のON、OFFが上手にできるようになると、スピードが増してもきれいにできるようになると思います。 プライオメトリクスでは、この次の段階として、1レッグ・ドロップスクワット、着地衝撃の少ないボックスジャンプ、その場での単発ジャンプ、ボックスからの着地(ボックス・オフ・スクワット・ホールド)などに進んでいきます。 一度このエクササイズを習得するとドロップ・スクワットから色々なエクササイズに移行することができます。 特に球技系スポーツはジャンプの着地から構え姿勢、構え姿勢からジャンプ、着地したらサイドステップなど、次の動きへの移行局面では適切なパワーポジションを瞬時に作れることが重要だと考えています。着地動作からの動きの移行を促進する種目として活用できると思います。 ウォームアップにも簡単に組み込む事ができますので、ぜひお試しください。 次回、1レッグ・パターンの動画もアップします。 ※動画では着地の瞬間にパーンという音が響いていますが、あえて高くジャンプして着地時に大きな音を立てる必要はありません(本当に僅かに床から離れる程度です)。 これは誰もいない夜の体育館で寂しく撮影を行ったためです…^^;
1レッグ・ドロップ・スクワット
前回は両脚でのドロップ・スクワットをご紹介させて頂きましたが、今回は片脚のパターンです。 プライオメトリクスの導入としては最適なエクササイズの一つです。 このエクササイズの目的 ・ジャンプする前にしっかりと衝撃吸収のできる着地動作を身に付けること。 ・カッティング時に下肢のトリプルフレクションを出せるようにすること。 ・片脚でも効果的に加速時の推進力を生み出すためのパワーポジションを確立すること。 などがあります。 両足での立位から片足を浮かせてみてください。バランスをとるために自然と股関節は内転位に変位していくと思います。 側方または多方向のカッティングにおいて進行方向と逆側の足で接地し減速が始まる場合、同じように股関節は内転位になり、下肢のトリプルフレクションを使い減速し、再加速する。こういった状況では、股関節が通常よりも内転位をとるために両足の時よりも股関節の外転筋はよりエキセントリックに、しかも筋の力−長さ関係から見ると不利な状況で活動しているのではないか推測できます。 このような状況でしっかりとトリプルフレクションができなければ、すでに股関節は内転位にあるために膝が内側に入りやすくなることも想像できます。 またカッティング時にみられる上半身が進行方向側に傾いてしまう(ブレる)動きもこの膝が内側に入る動きを助長します。 片足立位で軽く膝を曲げ、支持脚側へ上半身を傾けてみてください。上記のことが実感できると思います。 片脚の着地やカッティングにおいて傷害発生が多いのは、このような背景が関係しているのではと考えています。 このような背景をふまえるとこの1レッグ・ドロップ・スクワットの位置づけが私の中でもハッキリしてきました。 【実施方法】 ①直立姿勢で片足を少し床から離す。肘を90度位に曲げて腕を挙げる。 ②勢い良く腕を後方に引きながら、素早くパワーポジションに移行し(僅かに足底が床から離れる)、しゃがみ込む。 ③パワーポジションを完成させる(脊柱をニュートラルに保つ)。 傷害予防、パフォーマンス向上の基礎として非常に有益なエクササイズだと思います。 トレーニングだけでなくウォーミングアップにも最適です。 ぜひお試し頂ければと思います。
ヒップヒンジの習得に役立つエクササイズ
みなさん、RDLやってますか? ヒップヒンジ動作はクリーンやスナッチなどのオリンピックリフティングの基礎として欠かせない動作です。股関節の伸展を伴う下肢の爆発的な伸展動作は、スポーツパフォーマンスにおける主要な原動力の一つになっています。 しかし、トレーニング初心者にとっては脊柱のアライメントを維持しながら、股関節の屈曲伸展動作を行うヒップヒンジは非常につかみにくい動きです。また、指導者がコーチングに苦労する動きの一つではないでしょうか。 当たり前ですが、屈曲できなければ伸展による力発揮も十分には期待できないでしょう。また、腰椎による代償的な伸展を引き起こすかもしれません。 以前、Dan Johnのヒップヒンジの指導法のアイデアがコンテンツで紹介されました。ヒップヒンジの習得方法は様々あるかと思いますが、利用可能な習得方法の一つとしてアクティブローディングを使った方法があります。 アクティブローディングは以前にスクワットの習得でも取り上げた方法ですが、ヒップヒンジにも同じように使うことができます。 ローディング局面(実際の負荷をかけたRDLではエキセントリック局面)の動作に負荷をかけることで、起きてほしい動作が自然に(反射的に)出るようにしていきます。言語的なキューイングによって、何とか動きを作っていくというのではなく、結果的にその動きができていたという方向にもっていきます。 ●ヒップヒンジ(アクティブローディング) ケーブルマシンを利用した方法で説明します。 準備:ロングバーをケーブルに取り付け、上方から下方に向かって抵抗がかかるようにセットする。 ① 両腕を伸ばした状態でバーを引き下げ股関節の前あたりに保持し、スタート姿勢をとる。 ② 両腕を伸ばしたまま、バーを足に向かって押し下げる(股関節を屈曲させる)。 ③ 十分にヒップヒンジの動きが出たら、ゆっくりと開始姿勢に戻り繰り返す。 必要に応じて動作を修正します。 例)動作中に脊柱が屈曲してしまう。 →頭頂部に手をあてて押し返すような意識を持ってもらい脊柱を軸方向に伸展させる。 →同時にお尻で壁を押すようなイメージを持って行う。または実際に手などを当てて押し返すようにして股関節の屈曲動作を出していく。 スクワットのときと同様にチューブ(またはバンド)を使って十分に代用することができます。チューブの場合は逆V字型になるようにチューブを吊り下げ、チューブの両端を握ります。このようにチューブを握ると前かがみになったときに、逆V字に分かれたチューブの間に上体が入るような形で実施できます。一ヶ所からしかケーブルを引いてこれない場合には、ケーブルが頭に当たってしまいます。この様な環境下ではチューブやバンドを利用したほうがやりやすくなります。 RDLの導入段階に使えば、RDL習得の手助けになると思います。ぜひお試しください。
プログラムデザインにおけるエクササイズの順序 - 上半身が先か下半身が先か
今回はS&Cコーチがプログラムデザインでブチ当たる問題の一つをピックアップしてみます。 プログラム作成時のエクササイズの実施順序には多数のバリエーションが存在します。 NSCAのテキスト(1)にも下記の様な代表的な例が示されています。 ① パワーエクササイズ→コアエクササイズ(※)→補助エクササイズ ② 上半身と下半身を交互に行う。 ③ 「プッシュ」と「プル」のエクササイズを交互に行う。 ④ スーパーセットとコンパウンドセット ※ここでいうコアエクササイズはいわゆる体幹の種目ではなく、クリーン、スナッチ、スクワット、ベンチプレス、デッドリフトなどのパワーエクササイズ及び大筋群を動員する多関節種目を指します。以下同様です。 どのような方法をとったとしても、後に続く種目に悪影響を及ぼさないように種目を配列するというのがセオリーとなっています。 例えば以下のような種目配列です。前述の①〜④を組み合わせて種目を配列しています。 1 パワースナッチ 2 フロントスクワット 3 懸垂 4 RDL 5 DBベンチプレス 6a スタビリティチョップ– Kaiser Functional Trainer 6b プッシュ/プル – Kaiser Functional Trainer 7a 補助種目① 7b 補助種目② 7c 補助種目③ 実際には、トレーニングの実践には多くの制約があるものです。 ・指導対象である選手の数 ・トレーニングに充てられる時間 ・トレーニングに使用できるスペース、場所 ・選手の数に対する器具や設備の数 ・選手のエクササイズテクニック ・選手のトレーニング経験 etc. 制限要素を挙げればキリがありませんが、それを踏まえて効果的なプログラムを提案することは、指導者としての腕の見せどころかもしれません。指導経験や指導方法の引き出しの多さがこういうところでいきてきますね。 特にチームスポーツを指導する場合、多くの指導現場では、選手の数に対して器具が不足していることが珍しくありません。これを読んでいる指導者の方も「○○が今空いてないんですけど、どうしたら良いですか?」、「○○を先にやっちゃダメですか?」ということを選手から問われた経験がおありかもしれません。 私の働く職場でも時には40人近い選手を同時に指導することがありますが、その人数が同時に同じ種目を実施することは(2~3人のグループを作って進めたとしても)不可能です。どうしてもプラットフォーム、スクワットラック、ダンベル等の数が不足してしまいます。問題はこのような環境ではどうするか、どのようにすれば限られたトレーニング時間で効果を担保しながら効率よくトレーニングを進められるのかということです。 以下、私が過去に取ってきた解決方法の一例をご紹介いたします。 ・パワーエクササイズを最初に行い、上半身から開始するグループと下半身から開始するグループの二つに分ける。 パワーエクササイズとしてバーベルで行うスナッチとダンベルで行うジャークの2種目を採用したとします。この場合、一方のグループはスナッチから開始し、もう一方のグループはジャークから開始して、それぞれが終了後に種目を入れ替えて実施する。クイックリフトのようなパワーエクササイズはセット間のレストも長く2~5分程度です。これだけのレストがあれば複数人を同一のステーションでエクササイズを実行することが可能です。そして、それぞれのグループが下半身もしくは上半身から開始するようにすると、器具の数からの制約を受けにくくなります。 ・週間スケジュールの中で強調するトレーニング目的を分配する。 DAY 1:最大筋力とパワー、DAY 2:爆発的筋力とパワーというような感じで強調するトレーニング目的を決めたとします。 例えば、DAY 1にはクリーン、プッシュプレス、スクワット、ベンチプレス、懸垂など最大筋力の維持、向上を目的としたコアエクササイズ種目を中心に選択します。この場合、この日の目標は筋力の維持、向上であり、余計な補助種目はないので、できる限りパワーエクササイズを先に実施しさえすれば、あとはどの種目を優先的に行うかということはそれほど問題にはなりません。 そして、DAY 2にはハングパワースナッチ、スクワットジャンプ、プライオプッシュアップ、RDL、DBロウなどDAY 2より負荷強度としては低いが、動作速度が速い種目が選択できます。この場合も、RDLをスナッチとスクワットジャンプの前に実施しないようにして、DBロウはスナッチの前には実施しないようにしさえすれば、他の種目は全てパワーエクササイズとなるので、実施の順番には柔軟性を持たせることができます。 同様に、期分けごとに工夫していくことができます。例えば、DAY 1:最大筋力と筋肥大、DAY 2:爆発的筋力とパワーといった設定ができます。 ・上半身の日と下半身の日に分ける。 このスプリットの仕方は筋肥大期など、比較的トレーニング回数を多く確保できるときには有効だと思います。Aグループは上半身、Bグループは下半身となるだけで、種目がかぶるということは半減するので、後は器具の問題を考慮して種目配列を考えれば器具の不足をカバーしやすくなります。しかし、2つのグループが別々のことをやっているので指導する側としては指導に手がまわらなくなる可能性はあります。 選手の到達すべきパフォーマンスやシーズン目標に合わせて年間スケジュールを作り、各期の最も強調すべきトレーニング目標(またはサブ目標も)を設定、さらにそれを実現するために週ごとのサイクルに落とし込んでプログラムを作成していく。何もかも理想通りの環境でプログラムを作成し、実行できるわけではありません。しかし、優先するべきところと柔軟性を持たせられるところを考慮してエクササイズの順序を考えていくとスムーズなトレーニング運営ができるのではないでしょうか。 参考文献 1. Thomas R. Baechle et al. “第18章 レジスタンストレーニング”. ストレングストレーニング&コンディショニング. Thomas R. Baechle and Roger W. Earle. Book House HD, 2002. 2. Daniel Baker. “Chapter 10 Using Strength Platforms for Explosive Perfomance”. High-Performance Training For Sports. David Joyce et al. Human Kinetics, 2014.