風船の膨らませ方 パート3/3

3)息を吐いて風船を膨らませる、というプロセスのまま1ヵ月経ってしまいましたが、皆さん息を吐き切ることは出来ましたか?笑 一ヶ月もあったのだから、息を吐き切れて当然だろう!と思われるかもしれません・・・すいません!!ですが、意外と息を吐き切るという事が難しいのはお分かりいただけましたでしょうか?残気量(最大まで息を吐きだし終えた時肺に残っている空気量)をゼロにすることはできませんが、風船を使って息を吐きだすと普段の呼吸よりより多くの空気を吐き出せる感覚があると思います。それでは次のプロセスに行ってみましょう!次は息を吐き切ったところで、息を止めます(!!) 4)息を吐ききったら3~5秒静止する 風船は膨らませるために膨らませるのではない、という事を以前のアーティクルで書きました。膨らませるという事は息を吐くという事なのですが、息を吐くことはもちろん重要です。しかし、息を沢山吐いてから吸う、という事の為に風船を膨らませているのです。どういうことなのか、わけがわからないかもしれませんが、まずは息を吐いた後のプロセスから見ていきましょう。 風船を膨らます際、気を付けていただきたいのは息を吐き切ることです。理論上どんなに頑張っても息を完全に吐き切ることは不可能ですが、限りなくそれに近いくらい息を吐けるのが風船のいい所です。普段息を吐く際に動員される呼気筋だけでなく、胸横筋などの筋肉の動員も活発化されて、肋骨の内旋や胸郭の縮小化を促します。横隔膜は弛緩して、縮小していく胸郭のスペースと横隔膜の上昇により、肺の空気は押し出されていきます。 本当に吐き切れていますか?もう一度確認してみましょう。横に寝た状態で風船を膨らませている方は、自身の肋骨の位置を確認してみて下さい。肋骨はまだ出っ張った状態ではありませんか?みぞおちに水をたらしたらお腹の方向に水が流れていった、という状態(実際にやらなくてもイメージでいいです笑)であれば胸郭が腹腔よりも高い位置にあると考えられ、まだまだたくさん胸郭内に空気が残っていることを示唆しています。反対に、胸郭とお腹が一つの平らな面となっていればおそらく、十分に空気が吐けたと考えていいでしょう。 そして、ここで息を止めてしまいます。えっ?息を止めるって、息を吸ってからしないとだめなのでは?と思うかもしれません。いいえ、息を吐き切った後に息を止めてしまうのです。できれば5秒。なるべく3秒止めます。最初に息を吐いた際に膨らませた風船から空気が戻ってこようとします。しかし、息を止めます。しかも指で風船の首をつまんで閉じたり、歯で風船を噛んだり、唇で風船の口を閉じたりしないでください。 どうやって??舌を上あごの上につけます。喉の奥を舌で覆うようにすれば口からの気道を閉じることが出来ます。口は風船から戻ってくる空気で膨れている状態かもしれませんが、そのままで大丈夫です。 何故息を止めるのか気になる人がいるかもしれません。このプロセスはとても大事で、息を吐き切った後すぐに吸わない事は息を吐き切った状態を維持するという事を意味します。 一つは息を吐き切ることのあまりない呼気筋群をしっかりと活動させ、どの状態が息を吐き切るという事なのか認識させるという事です。特に内腹斜筋や腹横筋といった肋骨を内旋させる筋肉に加えて、強制呼気時に活躍する胸横筋などの活動を促します。 もう一つは息を吐き切る際にリラックスしているはずの横隔膜に息を止めてしまう事でさらにリラックスする時間を与えるという意味合いもあります。普段肋骨が外旋して横隔膜が常に緊張状態にある(おそらく精神的にも常に緊張状態にある)場合、ほとんど横隔膜がリラックスする時間も感覚もありません。ですから、風船で息を吐き切った時ぐらい、リラックスさせてあげましょう。 > 5)息を吸う 昔ドラゴンボールのアニメで孫悟空が元気玉を繰り出すか、繰り出さないかの瀬戸際で1話(30分)が終わってしまった時がありました。ここまで読んでいただいている皆さんは、いったいいつになったら息が吸えるのか?と不安に思っているかもしれません。安心してください、やっと息が吸えますから。 息を吐き切って3~5秒静止した後、息を吸います。この際必ず鼻から息を吸うようにして下さい。当たり前ですが口から吸えば風船の中に貯めた、先ほど自分が吐いた息を吸う事になります。息を吐いてから3~5秒静止している際に舌を上あごの上に当てて風船の空気が戻ってくるのを防いでいました。これを利用してそのまま風船からの空気が気道に戻ってこないようにしつつ、鼻から吸うのです。 沢山息を吐いて、吐き切って、さらに静止した後、やっと吸える空気です。思い切り息を吸いたいところですが、あまり力まないように、優しく吸いましょう。思いっきり力いっぱい息を吸ってしまうと様々な副呼吸筋が代償を起こします。例えば肩や首の筋肉も稼働して肩甲骨が挙上してしまうかもしれません。正しい呼吸パターンを身につけるために風船を膨らませるので、代償を含む吸気運動は避けたいですよね。肩や首の筋肉群に過剰な代償が内容に注意して息を吸いましょう。 そしてよくあるパターンとして挙げられるのが体を伸び上がらせながら吸うケースです。2)の風船を膨らませる体勢を整える、の欄にもありましたが椅子に座っている状態の場合、少し浅く腰を掛けて背中をかがませたのを覚えていますか?かがむことで肋骨の内旋を促しやすくなるというのが目的ですが、ここまで息を吐いて、静止して、息を吸う際にかがんだままにしておいてください。伸び上がって息を吸いたいと思いますが、それでは普段の呼吸パターンと変わりません。伸び上がる=伸展するという事ですが、頚椎や腰椎の伸展で息を吸っていませんか?1日に15000~20000回行われる呼吸の度に頚椎や腰椎が伸展していたとしたら、このパターンは改善されるべきです。 沢山息を吐きました。肋骨は内旋され、胸郭は縮小されました。ここで伸び上がってしまえばせっかく縮小された胸郭や内旋した肋骨は自由に普段のポジションに戻ってしまいます。それでは風船をやっている意味がなくなってしまいます。どうか少しかがんだポジションのまま、肋骨は内旋したまま、胸郭は縮小したまま息を吸ってみてください。胸郭が縮小しているんだからどこにも空気が入っていかないじゃないか、という意見もあると思います。そうです、普段空気が入っているところには空気が入っていきません。胸郭の後ろ、後縦隔と呼ばれる部分に空気が入り、拡充されるのです。もし誰かが風船を膨らませているのであれば、息を吸った際に肩甲骨と肩甲骨の間に手を置いてみてください。正しく後縦隔に空気が流入しているのであれば置いた手に肋骨の広がりを感じるはずです。 6) 再び息を吐いて風船を膨らませる やっと最後のプロセスまでたどり着きましたね。時間がかかってしまってすいません。もう息も吐いて風船が膨らんだし、3-5秒静止することもできたし、ついでに鼻から息を吸う事も出来ました。後はそれを繰り返すだけでしょ?と思っている皆さん、その通りです笑。しかし、このプロセスが一番難しいかもしれません。最後の難関です。身体を伸び上がらせずに内腹斜筋や腹横筋で肋骨を内旋させて、拮抗させた状態で息を吸えたら、次は風船の中にある空気に負けないように息を吐いていかねばならないのです。最初に息を吐いて風船を膨らませた時とは大違いであることに気づきましたか?確かに風船は一番最初に息を吐くときが一番『きつい』です。しかし、2番目に吐くときがおそらく一番『難しい』のかもしれません。2番目に息を吐くときは最初に吐いた空気が風船の中に残ったままの状態ですよね?風船のゴムの力によってそれらは口や気道の方へ戻ってこようとしています。そして舌を上あごにつけて蓋をすることで鼻から息を吸えるように気道を確保しました。その舌を下して、肺から空気を吐いていくのです。風船からの圧力に負けないようにしなければ、ちょっと笑ってしまうような音を立ててあなたのクライアントさんが空気にもてあそばれる瞬間を目撃することでしょう。それはそれでなんとも和やかな雰囲気になるので、1度はいいでしょう。でも呼気筋群を活用して力強く息を吐いてみてください。この際唇を真一文字に結ばないように気をつけながら。きっと風船はさらに大きくなってくれるはずです。 そしてまた同じ手順で息を吸い、さらに圧力を増した空気に負けないように息を吐いて、どんどん風船を膨らませましょう。おそらく一般的な風船であれば4-5回息を吐いたらパンパンになると思います。それで十分です。一度口から外して空気を抜いてしまいましょう。可能であれば、これを3セットほど行ってください。これだけゆっくりと呼吸をすれば1分当たりの呼吸数が減り、吸気状態から抜け出せることでしょう。 いかがでしたでしょうか?PRIの視点から長い事風船の膨らませ方について解説してきました。ここまで出来るようになれば、あなたも甲子園球場のスタンドでスターになれますよ!PRIのエクササイズは必ず風船を膨らませるわけではありませんし、むしろ大方のエクササイズは風船を使いません。しかし必ず呼吸がエクササイズに含まれています。もしこれらの呼吸が最適化されていなければ、どんなにパワフルなPRIのエクササイズも効果が半減してしまいます。ですから、まず呼吸を整えてZOA(Zone of Apposition)を確立するべきなのです。また個人的にはPRIのエクササイズに縛られなくても、風船を膨らませることはたくさんのメリットがありますし、何より童心に帰ってなんだか楽しいものです。風船を膨らませた後の空気が抜ける音だって、たまりませんよね笑。息を吐くことで副交感神経の働きを促進することが出来ますが、笑うことだって息を吐くことですから。みなさんも風船を是非膨らませてみてくださいね! *写真は弊社のワークショップより。

大貫 崇 4196字

風船の膨らませ方 パート2/3

先月のアーティクルでは上手に風船を膨らませる前に行うべき、風船のくわえ方について解説していきました。すいません、皆さんには風船をくわえてもらったまましばらくお待たせしてしまいました笑。今回はそこからもう少し突っ込んで風船を膨らませる体勢、それから実際に息を吐いていくプロセスについて解説していきますね! 2)風船を膨らませる体勢を整える このプロセスは非常に重要です。やみくもに風船を膨らませばいいというわけではない、という理由はここにあります。風船を膨らませる体勢はいくつかありますが、基本的には仰向けに寝た状態(90-90ポジション)、座位、そして立位になります。時には四つん這いで風船を膨らませることもあります。重要なのは吸気時に腰をそらないポジションであることと、すこしかがんで正面をみるという事です。吸気時に腰をそってしまう人が多いので、その点では仰向けのポジションは一番サポートが多く、背中を反りにくい1番簡単なポジションです。次に座位、立位と難易度が上がっていきます。立位の際は壁などに背中をもたれることでサポートを追加してもいいでしょう。 仰向けで寝ている場合、壁に足をつけ膝を90度曲げ、股関節も90度屈曲させた状態になります。このポジションを90-90ポジションと言っていますが、言い方は多々あるかと思います。布団に寝るような形で仰向けになってもいいですし、膝を曲げて仰向けに寝てもいいでしょう。しかし、おそらく90-90のポジションが一番腰椎をニュートラルな状態にしやすいと考えられます。さらに可能であればかかとを履いている靴のヒールとソールの角に当てつけるように、かかとで壁を下に押すことでハムストリングを起動させて骨盤の安定を図ります。足の位置は壁からずれませんが、少しでもいいのでハムストリングを起動させたいのです。足の裏が壁(=つまり地面)に設置しているという感覚を持ってもらうことが重要なので、壁から足が離れることは避けたいですが、どうしてもかかとが感じられない人には椅子などを使って下に押し付けてもらうか、私の場合は壁沿いに自分の足を入れ込んで、クライアントさんや患者さんに自分の太ももをかかとで下に蹴ってもらうことでかかとを感じてもらっています。 ここまでは一般的に理解ができると思いますが、ここでさらにPRI的な要素を加えるとすると、左手で風船を支え、右手は万歳して床に置かれているか、天井に向かってリーチしていく状態になります。最初は左手で風船を支え、右手を万歳して床に置いておくポジションがいいでしょう。こうすると右の胸郭先尖に空気が入っていくのを誘導しやすくなります。 座った状態の場合は、椅子に浅く腰を掛けます。膝と膝の間に小さなゴムボールや巻いたタオルを挟むといいでしょう。少し骨盤を後傾させ、背中をかがめます。目線は正面において風船を膨らませていきます。 あれっ、と思った方もいるかもしれませんが、そうです。背中をかがめて胸椎が少し丸まったような状態をつくっていいのです。胸を張る必要はありません。むしろいつも胸を張っていて過吸気(Hyperinflation)の状態になってしまっているので、風船をするのです。少し背中を丸めることでたくさん息を吐く準備をしましょう。 立位の場合は少し難しいですが、壁をサポートにして立ちます。壁からかかとを20センチほど話して立ちます。そのまま膝を曲げながらお尻を壁につけます。続けて背中の下半分を壁につけてしまいます。腰椎の伸展がかなりきつい方は難しいと思いますが、腰椎も壁につけてしまいます。つまり「骨盤の後傾」と言われている形です。クライアントさんや患者さんに「骨盤を後傾させてください」と言ってもいつも伝わらないので(笑)尾てい骨を前に向けてください、といったような言い方をしたりしています。そして背中の上半分は少し丸めたまま正面を向きます。左手で風船をもち、くわえて風船を膨らませる準備は完了です。 次に3)息を吐いて風船を膨らませるプロセスを見ていきましょう。 風船を膨らませる体勢が整ったらいよいよ風船に空気を入れていきます。口を大きく膨らませて、思い切って空気を入れていくといいですが、あまり力みすぎないよう気を付けてください。新しい風船は一番最初に膨らませる時が一番大変です。口を真一文字に結ばずにストローの先をくわえるように、空気を吐き出していってください。またくわえる前にびよーん、びよーんと前後左右に風船を手で伸ばしておいてあげると多少膨らみやすくなります。 おそらく背中をそりながら息を吐く人はなかなかいないと思いますが、どちらかというと背中を少しずつ丸めていくように息を吐いていってください。そうすれば、左右肋骨の下あたり、腹斜筋や腹横筋などが活性化するのが感じられるかもしれません。腹直筋の過緊張は避けたいところです。息をたくさん吐いていくにつれ、胸骨が下に、そして背中側に沈んでいく感覚もわかるはずです。 最初は思ったように息が吐けないかもしれません。苦しくなってすぐに息継ぎをしてしまうかも知れません。しかし、そこは我慢してできるだけ沢山の空気を送り出しましょう。思ったよりも肺の中に空気が入っているのがわかると思います。背中を丸めつつ息を吐きます。繰り返しますが、力みすぎないように気を付けましょう。もともと息を吐くのは力を抜くためにやっているのですから、副交感神経に作用するようにリラックスしていってください。 そして次のアーティクルでは風船を膨らませるにあたって一番重要な、吸うというところに焦点を当てて解説していきたいと思います。

大貫 崇 2414字

風船の膨らませ方 パート1/3

最近少しずつですが、呼吸に関してこの業界で注目が集まっているように思います。そしてPostural Restoration Institute(PRI)の教育コーディネーターをさせて頂いて関係もあって、風船を膨らませるエクササイズを取り入れている方を見る機会が増えています。しかし、やみくもに風船を膨らませばそれでいい、効果が出る、というわけではありません。風船を使った呼吸エクササイズは非常にパワフルで、筋骨格系に与える影響だけでなく、神経系や精神的、生化学的な部分まで影響を及ぼします。そこで今回はPRIの視点から見た風船の正しい膨らませ方について記事を書いてみたいと思います。 風船を膨らませるにはいくつかの手順があります。 1) 風船をくわえる 2) 風船を膨らませる体勢を整える 3) 息を吐いて風船を膨らませる 4) 息を吐き切ったら3~5秒静止する 5) 鼻から息を吸う 6) 再び息を吐いて風船を膨らませる そして3)から6)のプロセスを4-5回繰り返せば風船はちょうど一杯になるかもしれません。膨らませている途中に風船が大きくなってきて割れるのが怖いですが、思ったより風船は大きくなりますよ。 ところで、風船は膨らませるために膨らませるのではありません。わけのわからないことを書いている(!)と思われるかもしれませんが、実際にそうなのです。確かに風船の中に息を吐いていくことは非常に重要なプロセスですが、息を吐いた後が肝心なのです。風船を膨らませることによって、どのように息を吸うのか学ぶことができるのです。 まずは1)の風船をくわえる、というところから解説していきます。 風船をクライアントさん、または患者さんに渡すと一番最初にすることはくわえることです。ほぼ100%くわえます。ですから、風船をくわえる前に、しっかりと今から何をするのか説明しましょう!やみくもに風船を膨らませることはストレスを与えるだけになってしまうかもしれません。 そして風船を膨らませるプロセス(1)から6)の手順や理由などです)について説明が終われば、いよいよ風船をくわえてもらいます。 風船を膨らませる際によく目にするのが、風船がどんなに頑張っても膨らまない現象です。筋力がないのか、肺活量がないのか、とクライアントの方や患者さんはおっしゃいますが、なぜか風船が膨らんでいきません。こちらとしては満を持して風船エクササイズを紹介したのに、相手の方は顔を真っ赤にして頑張っているのに風船がまったく膨らんでいかない…この状況はなかなかなんとも言い難いものがあります(笑)。頑張っているのでもう少し頑張ったら膨らみそうな気がしますし、かといって顔が真っ赤で目玉が飛び出るくらい頑張っているので、「一回休憩しましょうか」と言いたくもなりますし・・・特に子供のころに風船を膨らませた経験のある方は、今となって膨らますことができない自分に愕然とするでしょうし、ちょっとがっかりした気分になってしまうでしょう。 何でこんなことが起きるのでしょうか?もちろん息を吐く力が実際に低下しているのかもしれません。しかし、私が所属しているメディカルフィットネスジムでは高齢者の方にも風船を膨らませてもらっています。人生の経験が豊富な方々でも風船が膨らまない時があります。僕もこの微妙な時間をどれだけ過ごしてきたか…しかし、そこで気づいたことがあります。みなさん、風船を自ら閉じているのに、空気を送り込んでいる! そうなのです!風船を膨らまそうと空気を送り込んでいるものの、風船をくわえようとして唇で抑えたり、歯で噛んだりします。そうなったら風船の首は閉じてしまい、空気は入っていきません。でも呼気筋がかなり頑張り、自らの唇や歯と戦おうとします。これでは風船はいくらやっても膨らんでいきませんよね。 先日PRIの本部があるネブラスカ州リンカーンに行ったとき、PRIの創設者であるRon Hruska氏に聞いたのですが、風船にもくわえ方があるという事です。風船は円形の口から空気を入れるようにできていますが、工業製品ですから出荷される際は平らにたたんである、というよりは押しつぶされた状態になります。この平たくなってしまった風船の首と唇のラインを平行にくわえてしまったら、どうしても唇や歯で、または舌で押しつぶすような格好になってしまい、空気が入るのを邪魔してしまいます。 そこで平たくなってしまった風船を縦にして、唇で風船の口を広げるようにしてくわえるのです。 こうすることで唇は風船の口をつぶして広げるように作用します。ちょうどストローをくわえるように円形の穴を唇で作るのです。そうすると空気をすんなりと入れることができるのです。あまりにも当たり前に風船を平たくくわえさせてしまっていたので、風船にもくわえ方があると聞いて目から鱗でした。 あまりにも当たり前すぎるような話ですが、意外と口元の筋肉やかみ合わせで緊張している方が多いのではないでしょうか?また高齢者の方だと入れ歯などの関係で唇の筋肉やかみ合わせのコントロールがうまくいっていない方もいるでしょう。そんな時は風船を縦にくわえる事で空気の通り道が肺から風船の先端まで繋がり、息を吐けば風船は膨らんでいくはずです。 それでは次のアーティクルでは2)の風船を膨らませる体勢を整える、というところから解説していきましょう。

大貫 崇 2330字

アメリカでの学びの経験

アメリカでの学生時代から、ATCとして様々な場所で数々の経験を積んだ大貫さんから、海外での学習経験を体験したいと考えている皆さんにアドバイスをいただきました。

谷 佳織 & 大貫 崇 8:43

Zone of Appositionって何?

前回まで3か月にわたり風船の膨らませ方について説明してきました。みなさん、風船膨らましてますか?もうビロビロに伸びきってしまっている人もいるかもしれません。そして前回の最後の部分で、風船を使うことで「呼吸を整えて、ZOA(Zone of Apposition)を確立するべきなのです」と述べました。今回はZOAとは何なのか?なぜ重要なのかという事について書いていきたいと思います。 ZOAというとPRIというイメージがありますが、そんなことはなく元々あるコンセプトなんです。古くは1988年に発表されたDeTroyerの文献(1)にもある位で、The Area of Apposition of Diaphragmという言葉でいうと1979年にはMead(2)によって発表されています。ただ、PRIによってZOAという言葉に再び注目が集まっているのは確かでしょう。 まずは和訳から。Zoneはゾーンですよね。和訳になってませんね笑。地域、区域、地帯、または区画などあるエリアの区分を意味することが多いです。まずZOAとは体の中のあるエリア・区分を意味するという事が分かってきます。さらにAppositionというのは、並置、並列、対置などと訳されています。つまり向かい合って並んでいる状態のものを指します。英語では似たような言葉でoppositionという言葉がありますが、これは反対、対立、対峙などと訳されますよね。またこの二つの言葉にはpositionという言葉が入っており、それにapをくっつけると並んだポジションの、となり、opを付けると反対のポジションの、となるわけです。 そうするとZone of Appositionとは身体のある部分で、どうやら何かが並列のポジションにある部分を指しているという事がわかってきます。皆さんお察しかと思いますが、これは呼吸に関するお話ですからもちろん身体の呼吸に関する部分でという事もわかりますね。 では、何が並列のポジションになっているかというと、やはり横隔膜です。厳密にいえば前と後ろで完全に平行になっているわけではありませんが、横隔膜が並置されているエリアをZone of Appositionといいます。横隔膜は身体の後ろ側で言うと、腰椎1-3番の椎体前部に付着しており、そこから上に向かって腱中心というところに集まります。また身体の前側で言うと、胸骨下部、剣状突起や下6つの肋骨の内側の縁から上に向かって腱中心に集まっていきます。横から横隔膜を見ると、ちょうど前と後ろから弧を描くように真ん中の腱中心に向かっていて、ドームを形成しているのがわかります。腱中心は横隔膜のドームの天井の部分だと考えてください。 横隔膜のドームが想像できますでしょうか?身体を横から見た図で想像するとわかりやすいですよね。そして想像した横隔膜のドームを前から見てみましょう。そうすると前(剣状突起や下6つの肋骨など)から上に伸びた横隔膜と後ろ(腰椎前部)から上に伸びた横隔膜は被っていることがわかります。そう、この前後で被っているエリアがZone of Appositionなのです! 解剖学的にはZOAをなんとなく理解できて来たかとは思いますが、なんとなくイメージがわきませんよね?それでは今度は実際にZOAを体感してみましょう。ZOAがどこから始まっているか、上の部分は簡単に体感できます。 人差し指と中指で胸骨をタップしてみてください。最初は胸鎖関節の横ぐらいからタップしていきます。そして徐々にタップする位置を下げていきます。どんな音がしますか?トン、トン、トンと軽い音がしませんか?何かに響くような、空気感がある、反響しているような音がします。しかし、徐々にタップする位置を下げていくと、ドン、ドン、ドンといった音に変わっていきます。反響せず直接何かをたたいているような重い音に変わります。そしてこの音の変わり目がZOAの上の部分となります。実はZOAを自分で見つけることができるとわかったとき、とても嬉しかったのですが、だれでも簡単に見つけることができるのです! ZOAの上の部分は当然、腱中心の一番高い部分ですよね。つまりそこから上には肺があるので空気がたくさん入っています。ですから腱中心の上の部分をタップした際にはトン、トン、トンと空気が振動するような軽い音が聞こえるのです。逆にZOAに入ると下の部分では横隔膜に囲まれた内臓たちがいますから、空気が入っておらず詰まっています。ですからこの部分をタップするとドン、ドン、ドンと重い音がするわけです。 ではZOAの下の部分はどこまで何でしょうか?単純に剣状突起といいたいところですが、横隔膜は肋骨下部の内側にも付着していますから、剣状突起から少し下、肋骨縁と呼ばれる肋軟骨(Costal Margin)が交わる部分と言われています。または横隔膜角(Phrenic Angle)と呼ばれる横隔膜と肋骨が交わる部分より少し上の部分とも言われています。横隔膜角に関しては肺のレントゲン画像を見る際に、ちょうど横の部分で肋骨が横隔膜と交わる部分をイメージすると理解できます。 通常ZOAは正面から身体を見た場合、胸郭の4分の1から3分の1を占めていると言われています。思ったより大きなエリアがZOAとしてあるのがわかります。そして当然、息を吸った場合、これがゼロになります。息を吸う際は横隔膜が緊張し、収縮するのでドームが下がってくるからです。 しかし、ZOAがうまく確保できているケースはいいのですが、ZOAを確保出来ていない人は沢山います。もし横隔膜の前の付着部がある下6つの肋骨が前方に開いてしまっている場合(外旋)、当然横隔膜は引っ張られてドーム状の弧を維持するのが難しくなります。正面から見たら並置されているエリアが少なくなり、もしくは胸骨をタップしていった際に胸骨の下の方でやっと音が変わる、という事を確認できるかもしれません。こういった場合、つまりZOAを確保できていない状態は、すでに横隔膜が緊張している状態にある、伸ばされている状態にある為、横隔膜をここからさらに下げて息を吸うことは難しくなります。息が吸えなければ死んでしまいますから、副呼吸筋を使ってなんとか肺に空気を入れていくことになるのです。 Zone of Appositionについて、今まで以上にイメージすることは出来たでしょうか?身体の中身を想像することは難しいですが、胸骨をタップすることでわかると実際に体感出来てイメージがわきやすかったのではないでしょうか?皆さんも是非試してみてくださいね! (1)DeTroyer A, Estenne M: Functional anatomy of the respiratory muscles. Clin Chest Med 9:2, 1988. (2)Jere Mead "Functional Significance of the Area of Apposition of Diaphragm to Rib Cage", American Review of Respiratory Disease, Vol. 119, No. 2P2 (1979), pp. 31-32.

大貫 崇 3044字

FA選手の移籍はもうたくさん!PRIの話です。

PRIには独特の言語というか言葉遣いが存在しています。左右非対称性だったり多関節筋連鎖だったり、今まであまり考えられてこなかった身体の動作パターンについて理解する際にどうしてもこういった共通言語は必要になってきます。現在(2016年5月)行われているPRIのマイオキネマティック・リストレーション講習会でも頻繁に出てきますので、今回のアーティクルではその言語のうちの一つ、FAとAFについて解説してみたいと思います。 まずFAですが、どこかの金満球団がお金にものを言わせて有名選手を引っ張ってきてはレギュラーに据え付ける、あのFree Agentの略ではありません笑 FはFemur、大腿骨で、AはAcetabulum、寛骨臼を指します。つまりFAやAFという文字が出ていれば、どうやら股関節だぞ、という事がわかりますね。 これらは英語で考えるととてもわかりやすい?はずです。 FA=Femur Acetabulum AF=Acetabulum Femur ですよね?このふたつの間に(moves on)を入れてみてください。(on)だけでもいいです。 FA=Femur (moves on) Acetabulum となり、訳すと「大腿骨が寛骨臼の上で動く」となります。要するに寛骨臼は動かず大腿骨が動く、といういわゆる私たちの良く知っている股関節の運動(屈曲・伸展、外転・内転、外旋・内旋など)になります。寛骨臼が動かない、という事は、寛骨臼は安定している、つまり腸骨・寛骨・坐骨など骨盤自体が安定しているという事になります。 それではAFはどうでしょうか? AF=Acetabulum (moves on) Femur となります。訳すと「寛骨臼が大腿骨の上で動く」となります。この場合大腿骨は動かず、寛骨臼が動くということになりますね?うん?大腿骨が動かないのに寛骨臼が動く??ちょっと想像しにくい方もいるかもしれません。もしあなたが椅子に座ってPCを使ってこのアーティクルを読んでいるとしたら、膝を持ち上げたりすればいいので、FAは簡単に想像がついたかもしれませんが、AFとなると一瞬戸惑うかもしれません。 でもご安心ください。Kinetikosではおなじみのヒップヒンジを想像してみてください。デッドリフトでもいいでしょう。これらは股関節の屈曲から伸展を促しているエクササイズですが、地面に足がついている為基本的には大腿骨は安定しており動きません。大腿骨頭に対してスムーズに骨盤を動かすことで初めて伸張性の収縮をハムストリングに与えることができるのです。骨盤が安定して、大腿骨が動く(FA)動きに慣れている人はスムーズに骨盤を動かせなかったりするとヒップヒンジやデッドリフトの動作がスムーズに行えない可能性があります。そのあたりは我々の力の見せどころですよね。 それではこのFAとAFに股関節の基本的な動作を付け加えてみましょう。 FA 屈曲・伸展 ―  AF 屈曲・伸展  FA 外転・内転 ―  AF 外転・内転 FA 外旋・内旋 ―  AF 外旋・内旋 と種類が増えてしまいました!最初は大まかに分けて6つの動きだったのが、もうこれで12の動作となりました。さらに右(R)と左(L)を入れてみると・・・ R FA 屈曲・伸展  ―  R AF 屈曲・伸展  R FA 外転・内転  ―  R AF 外転・内転 R FA 外旋・内旋  ―  R AF 外旋・内旋 L FA 屈曲・伸展  ―  L AF 屈曲・伸展  L FA 外転・内転  ―  L AF 外転・内転 L FA 外旋・内旋  ―  L AF 外旋・内旋 となり、なんと股関節の動きだけで24種類になってしまうのです。よくPRIの講習会で「途中からついていくのが難しかった」とか「頭から煙が…」という話を聞くことがあるのですが(僕は一番最初の講習会の最初の休憩時に頭から火が出ていました。)、もしかしたらこういった関節の動作について事前にわかっていたら少しはわかりやすいのかもしれません。 AFとFAについて大体区別がつくようになってきましたか?区別がつくようになってきたところで考えて頂きたいのは、普段我々が目にするエクササイズで股関節のFAとAFのエクササイズ、どちらをよく目にしますか?という事です。最近のファンクショナルトレーニングの流れで言うとだいぶAFのエクササイズが増えてきた、と感じています。挙げている錘や回数・スピードなどだけでなく、動作自体にフォーカスが行くようになってきたからだと考えます。しかし、まだフィットネスクラブのマシンやリハビリテーションのエクササイズを見てみると股関節のFA動作を促すものが多いでしょうし、一般の方に股関節を動かしてくださいというとFAの動きをすることがほとんどだと思います。 そこで考えていただきたいのは、ファンクションだったりパフォーマンスを考えるうえでFA動作が必要な時とAF動作が必要な時はどちらが多いでしょうか?という事です。 野球のバッターを想像してみてください。一歩足打法はあまり見かけないにしても、足を高く上げてタイミングをとる選手は日本の野球には多く見られます。あの足を上げる動作はもちろんFA屈曲でしょう。左バッターであれば「R FA屈曲」となります。単純に屈曲とは言えないかもしれませんが、ここでは単純化しますね。 それでは左側はどうでしょうか?「タメ」と言われる言葉が野球界にはありますが、トレーニングの世界の言葉で言えば「ローディング」してパワーを溜め込んでいて、R FA屈曲した右足が着地していざスイング、となったときに溜めていたパワーを爆発させるのを待っています。この「タメ」や「ローディング」の動作では大腿骨は動かず安定しているはずなので、L AF内旋となります。AF内旋に関しては想像しにくいかもしれませんが、安定した大腿骨に対して恥骨、または反対側のASISが股関節に近づいていくと考えればわかりやすいかもしれません。もっと単純に言ってしまうと股関節にズボンのしわを寄せていく感じです。 野球に全く興味がない人は、全然想像がつかないかもしれませんね。では誰もが行う歩行の動作はどうでしょう?普段何気なく歩いている時にFAとAFについて考えてみてください。遊脚期(足が地面から浮いている側、スイング側)ではFAとAFどちらでしょう?FAですね。大腿骨が安定した寛骨臼に対して動きます。 立脚期(足が地面についている側、サポート側)はAFの動きになります。寛骨臼が安定した大腿骨に対して動きます。着地後大腿骨が安定することで、寛骨臼が外旋位から内旋位(立脚中期)に移行していきます。 実際に私たちが行っているFAとAFの動作について想像がついてきたでしょうか?そして私たちが普段処方しているエクササイズを考えてみるとFAとAFの動作、どちらが多いでしょうか?歩行時にいつも行っているはずのAFの動作がしっかりと行なえていますか?スクワットの動作一つとっても24種類ある動作を分解してみれば、おのずとクライアントの弱点が見えてきたりするかもしれませんね。 いずれにせよ、僕はPRIと出会ったことで、それまでFAの動作にしか着目してこなかったのに気づきました。金満球団が引っ張ってくるFA選手はもうたくさん!となるわけです笑  よく仕事帰りに僕が人知れず大阪の街でこけるのは、歩行の事を考えてすぎて歩いているからかもしれません、というオチで締めくくろうかと思ったのですが、AFの動作がうまくなってくるとあまりこけません!僕は関東人なのでオチなしで失礼します!

大貫 崇 3238字

スイング側とサポート側、そして同側バターンと対側パターン

みなさん、こんにちは!前回の投稿から少し時間が開いてしまい、あっという間に夏になってしまいましたね。 前回はPRI的に見る関節の動きの捉え方について考えていきました。股関節で言うとFAとAFという考え方で、大腿骨が(安定した)寛骨臼に対して動くのがFA、寛骨臼が(安定した)大腿骨に対して動くのがAFでした。実はこのコンセプトに合わせてDNSに似たようなコンセプトがあるので一緒に書こうと考えていましたが、書き終わるころにはすっかりPRIの話で終わってしまっていました笑 ですから、今回はその似たようなコンセプトである同側パターン・対側パターンについて考えていきたいと思います。 PRIとDNSのコンセプトは一緒に語られることが多く、事実ぼく自身させて頂いているワークショップでもほぼ並列でお話ししています。混ぜて話すとPRIとDNSのコンセプト自体ぼやけてしまうので、そうしていませんが、似ている部分が多い為に同じワークショップで2つのコンセプトを話してもある程度つなげて理解していけるような気がします。特に呼吸が大切である、という部分に関しては双方一致しており、呼吸という共通点があるからこそKinetikosフォーラムでこのセクションがあるんだと思っています。今回は呼吸に関しては世界のTK氏もぼくも書いてきたのでひとまず置いておいて、同側・対側パターンについて考えたいと思います。 そして同側・対側パターンについて考えるとき欠かせないのが、サポート側(Support Side)とスイング側(Phasic/Stepping Forward Side)というコンセプトです。例えば歩行についてサポート側とスイング側を考えてみましょう。左足が地面についている時(=立脚期)右足は地面から離れていますよね(=遊脚期)。この際左はサポート側で、右はスイング側となります。左脚には地面からのサポートがあり、それによって左脚が残りの身体のサポートになっているという事です。逆に右脚は左側からのサポートのおかげである程度自由に動くことが出来ます。もちろん右足が立脚期にあるときは右がサポート側になりますし、この際左はスイング側となります。言い換えるとスイング側をオープンキネティックチェイン(OKC)、サポート側をクローズキネティックチェイン(CKC)とも言えそうですが、個人的には少しニュアンスが違うと考えています。 サポート側とスイング側が大切なコンセプトであるのは、それぞれの側の筋肉の使い方が違うからです。続けて歩行を例にして、最初にスイング側の股関節を考えてみましょう。スイング側の脚は安定している寛骨に対して大腿骨が動いています。ですから、股関節の屈曲時には屈曲筋は大腿骨から骨盤方向に引っ張り、大腿骨を動かします。 スイング側というコンセプトを関節で考えたときに重要なのは、遠位の骨が近位の骨に対して動く、という事なのです。そしてスイング側の動きをトレーニングに置き換えて言うと、一般的なトレーニングはほとんどスイング側の動きをしています。フィットネスジムで見かけるマシントレーニングやダンベルを使ったトレーニングなどはスイング側の動きをトレーニングしているものだと言い換えることが出来ますね。もちろん「近位の安定性が遠位の動作性を生む」という言葉にあるように、スイング側の近位の骨が安定しているというのが前提です。 ではサポート側の動きを考えてみましょう。歩行時には右脚が立脚期の時は右側がサポート側です。再び股関節を見てみると、右脚は地面についているので安定している大腿骨に対して寛骨が動きます。ですから股関節の屈曲時には屈曲筋は骨盤から大腿骨方向に引っ張り、骨盤を動かします。 サポート側のコンセプトで関節を考えると、近位の骨が遠位の骨に対して動く、という事になります。歩行の場合で考えると、地面に足が着地した後、着地した側の股関節は内旋方向に動いていきます。大腿骨に対して寛骨が内旋していく動きです。 なかなか想像しにくいですよね。というのも、ほとんどのトレーニングだったり、エクササイズというのはサポート側というコンセプトはあまり考えられていなかった訳ですから仕方がありません。もう一歩深く考えると今まではトレーニングやエクササイズの際に動いている部分には注目してきましたが、「動いていない部分」と言うのがサポート側の役割であり、重要な課題なのです。 例えば、スプリットスタンス、またはランジの姿勢になり、片手でケーブルを手前に引くエクササイズをするとします。この際前足の股関節は閉じたり開いたりしますが、この部分はまさにサポート側の動きです。安定した大腿骨に対して骨盤が動いている(遠位の骨に対して近位の骨が動く)ので、まさにサポート側です。こういったエクササイズの場合、一般的にトレーナーはどの様にケーブルを引くか、広背筋を使っているかどうか注目しますよね?肩がすくんでいないか、あごは上がっていないかなどチェックするかもしれません。体がぶれてほしくないので、しっかりとプルの動きに集中出来るように下半身の動きを固定、または制限していたかもしれません。ですが、サポート側というコンセプトを考えると大腿骨に対して骨盤を動かすというトレーニングにはこの片手のケーブルプルは最適でしょう。個人的にはどんどん股関節を動かしていいと思います。 もうお分かりかもしれませんが、ケーブルプルをしている際、ケーブルを持っている方の腕はスイング側の動きです。安定した胸郭、または肩甲骨に対して上腕骨が動いていますから(遠位の骨が近位の骨に対して動く)、スイング側の動きです。 写真はケーブルを引っ張っていますが、同時に股関節は外旋している状態です。彼の安定した左の大腿骨に対して骨盤が外旋したパターンですね。 こういった考え方をしながらトレーニングを再考すると今までとは少し違った景色が見えてくると思います。それでは次のアーティクルではこのスイング側とサポート側のコンセプトを元に同側・対側パターンについて考えていきましょう!

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入場行進って同側パターン?対側パターン?

前回のアーティクルでは、スイング側とサポート側のコンセプトについて考えてきました。単純に言うと、ある関節に於いて、 スイング側:遠位の骨が近位の骨に対して動く サポート側:近位の骨が遠位の骨に対して動く という事でした。歩行を例に上げると、 スイング側:遊脚期 - 大腿骨が寛骨に対して動く サポート側:立脚期 - 寛骨が大腿骨に対して動く という事でした。このコンセプトを元にDNSの言う同側・対側パターンについて考えていきましょう。 まず同側パターンとは、同じ側の手と足がサポート側で、反対側の手と足がスイング側となっているパターンの事です。簡単に言うと同じ側の手と足が同時に動く動作、となるでしょう。左腕と左足が同時に動きます。その時右腕と右足はサポートしている、という状態です。つまり、この場合左側がスイング側で右側がサポート側となります。 赤ちゃんで言うと3か月ぐらいから同側パターンの動きが始まり、5か月ほどで仰向けから横向きに寝ることが出来ます。この寝返りのパターンは同側パターンの動きです。例えば仰向けで股関節が90-100度ほど屈曲した状態から右にコロンと寝返ってみてください。この際先に床につくのは体の右側ですよね?さらに転がっていくと右の上腕骨と大腿骨は床に寝た状態になります。膝の外側や肘などを起点とすると、その起点に対して残りの身体の部分が近づいてきます。つまり大腿骨や上腕骨に対して、骨盤や肩甲骨が動いている状態ですね。 という事は、右側の上肢も下肢もサポート側の動きをしていることが分かります。同じ側の上肢と下肢が同じサポート側なので、これは同側パターンなのです。さらにこの場合、左側はスイング側になります。陸上競技のやり投げ種目だったり、野球のピッチングやバッティングだったりというのは同側パターンです。またテニスのストロークやゴルフスイングなども同側パターンになります。野球をやった経験がある人は、一度は聞いたことがあるかもしれませんが、「前の壁」とか「体を開くな!」というアドバイスはまさに同側パターンを表しているといえるでしょう。右投げのピッチャーの場合左腕の使い方が重要なのですが、まさに左腕がサポート側の機能を果たしているかいないかで、右腕の出力は変わってくるでしょう。左腕はもちろん地面にはついていませんが、想像上の支持基底面をつくり、左上腕骨に対して左胸郭が近づいてくるように回旋できればいいですよね。 では、対側パターンについて考えてみましょう。対側パターンは対角線で考えます。例えば右腕・左脚がサポート側であれば、左腕・右脚がスイング側です。歩行するとき我々はまさに対側パターンで動いています。左脚が着地していれば、右足と左腕がスイング側になります。ちょっとわかりにくいですが、右腕はサポート側です。なぜならば前にスイングされた(左脚が着地する前はスイング側でした)右腕に対して、残りの身体の部分が近づいてくるわけですから、サポート側になります。 赤ちゃんはうつ伏せでの動きが活発になってくる6か月から7か月目辺りから対側パターンの動きが出始めます。7か月半で斜め座りが出来るようになり、そのまま四つん這いになれたらハイハイに代表される対側パターンでどんどん動くようになります。斜め座りは同側パターンなのですが、赤ちゃんはこの時期になると同側パターンだけだったものが、同側から対側、対側から同側パターンと次々に入れ替えることを学んでいきます。スポーツで言うと歩行やランニングはもちろん、ノルディックスキーやスピードスケート、陸上の3段跳びなどは対側パターンの動作を必要とすると考えられます。 同側パターンと対側パターンの特徴はつかめてきたでしょうか?実際の日常の動作で同側パターンと対側パターンの見分けがつきにくいという方には一つお勧めの見方があります。 左と右の肩峰を結んだラインと左と右のASISを結んだラインを想像します。このラインが平行を保ったまま動作が行われる、または行われるべき場合、これは同側パターンです。赤ちゃんは寝返りを打つ際に体幹を側屈させたりはしません。逆に対側パターンの場合は平行ではなく収束する関係になります。つまり二つのラインは延長線上でいずれ交わるという事です。赤ちゃんがハイハイしているところを上から見てみると一目瞭然です。まるで体幹の側屈を繰り返しているかのように、肩と骨盤が近づいては離れることを繰り返します。 ところで、そろそろ甲子園の時期ですが、めちゃめちゃ緊張する開会式の行進で同じ側の手と足が一緒に出てしまう人いませんか?あれは同側パターンです笑  僕は高校球児だったので経験があるのですが、あの入場行進は練習するんですよ。名門校となると開会式の前にこれでもかと練習します。今考えると軍隊のようですが、体幹をまったくブラさずに、肘はまっすぐにして腕を「元気よく」まっすぐ前に振ります。ちなみに僕がいた高校では肘はまっすぐ、親指を内側にこぶしを握り、手の甲を空に向けて行進したような気がします。どこかの軍隊のように膝こそ伸ばしませんが、ベルトの高さまでまっすぐ膝を上げます。腕を上げる高さと膝を上げる高さが決まっている、という所がポイントです。「元気よくはつらつと」見えるようにまっすぐ前に腕と膝を上げるのです。しかし、今よくよく考えてみるとこの動きは非常に不自然ですね。体幹、細かく言うと胸郭と骨盤がぶれない、もしくは交互に動かない。PRIの言う相反性交互運動を実践するならば歩行の際、どこかのタイミングで胸郭が右を向けば骨盤は左を向くことがあるでしょう。しかし入場行進にはありません。DNSの言う対側パターンであれば肩のラインと腰のラインが収束する関係にあるのに、胸郭も骨盤も平行のまま、しかもまっすぐ前を向いていて回旋しません。 という事は、入場行進は体幹の動きが同側パターンなのに四肢の動きは強制的に対側パターンになっている訳です。つまり矛盾した動きをするわけですから、この動きを繰り返し練習することはパフォーマンスの向上につながらないことはありありとわかりますね。さらにチームの輪を乱してはいけない、という責任感や夏の大会への気合だったり込める思いだったりが重なり、さらに球場のグラウンドの温度は40度を超える環境、そして極度の緊張状態となれば・・・よりPrimitive(原始的な)動きである同側パターンが顔を出して、なんと左足と左腕が一緒に出てしまうのです。 アメリカにはみんなが集って何かの始まりを宣言する、入学式や開会式の類のものが存在しません。それが必ずしも正しいとは思いませんし、日本のように開会式をして、さぁ始まるぞ!となるのは良いことだとは思います。どちらがいいのか・・・と考えてみたらそういえばそろそろオリンピックが始まりますよね。オリンピックには開会式があります。トップアスリートたちの入場行進はどうでしょうか?ある意味力の抜けた普通の「歩行」が見られます。あんな感じで力の抜けた歩行が出来れば、きっと本番でもうまく対側・同側パターンの引き出しを使って、本来の実力を発揮できるんじゃないかと思います。 甲子園でもオリンピックでも選手が実力を十分に発揮できますように!

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