肩のリハビリテーション
肩の手術後や怪我をしてから、日常生活を取り戻すまでには安全かつ適切なリハビリテーションが欠かせません。リハビリで行うエクササイズに対する考えや特定のリハビリへの考えなどを集めたプレイリストです。理学療法士の方はもちろん、肩のリハビリ後のトレーニングとしても活用可能です。
回旋腱板修復手術後の成功を高める方法
回旋腱板断裂は、すべての年齢の人々にとてもよく見られる傷害です。読む論文にもよりますが、50歳以上で13%の人が、80歳以上で50%の人が回旋腱板断裂を患っているだろうと報告されています。自然の成り行きとして、回旋腱板修復手術も同様によく見られるようになってきています。過去数十年で、我々は、回旋腱板修復手術技術を大きく進歩させ、直視下手術から、より低侵襲な“開口部の小さい”手術、そして、完全関節鏡視下手術へと発展させてきました。 最新の関節鏡視下回旋腱板手術では、疼痛が緩和される傾向があり、患者により早く活動させることができるようになります。しかし、私たちがあまり耳にすることの少ない事実として、回旋腱板手術の失敗率は、依然として高すぎるということがあります。 術後、腱板が元の健全な状態に戻っていないことを手術失敗と定義する場合、過去の研究では、回旋腱板修復術を受けた人のうち75%が、技術的に“失敗”であるだろうと示されています。JOSPTに公表された最近のシステマティックレヴューでは、10以上の様々な研究報告によると、18-40%程度の失敗率が報告されています。 これらの失敗率に関わらず、術後の患者の満足度は依然としてとても高いことが、大部分の研究で示されています。このことは、実際の手術よりも、リハビリテーションの過程のほうがかなり重要であるということを示唆しています。これはとても素晴らしいニュースです。たとえ、回旋腱板が術後完全に修復されていないことが判明しても、痛み、動き、強度、機能、そして、満足度すべてにおいて、大いに改善することが可能になります。 そうであるとしても、私達は、回旋腱板修復術後、腱板が完全に回復できるよう、私たちができるすべてのことを実践していくべきです。 JOSPTに投稿された最新の系統的な文献論評では、関節鏡視下腱板修復術後の良好な回復に関わる予後要因の決定を試みています。この論文によると、術後の経過を最良にするいくつかの要因を特定することができるのです。これらの要因すべてが容易に対処できると簡単には言えませんが、多くはそうであり、患者が最良に回復できるよう促していくことを、常時目指しています。 腱板修復術後の良好な回復に関連する要因 その論評では、著者の厳密なガイドラインに合致する10個の論文に焦点を当てていました。これら10の論文に基づき、回旋腱板修復術後の良好な回復と関連がある12の要因を特定することができました。これら12の要因は、4つのカテゴリーに分類されます:人口統計学的要因、臨床学的要因、回旋腱板の整合性に関連する要因、そして、手術方法に関連する要因。 回旋腱板手術後の予後を最善にするために我々ができうること(できないこともあるが)に関連している、最初の3つの要因について論じていきます。手術要因に関しては、上腕二頭筋、または、肩鎖関節に追加の処置をした場合、結果はあまりよくないという報告が、ある研究で示されていました。我々が、手術方法を選択することはできませんが、恐らく、この情報は手術医に有益となるでしょう。 人口統計学的要因 一般統計学に関するもっとも重要な発見は、手術を受ける際の患者の年齢と関連があるということでした。年齢の高さは回復に対して、マイナスの影響を持っていたのです。 この研究では、年齢を重ねれば重ねるほど、腱の治癒のチャンスが低くなると報告されていました。55歳以下の人々では、腱の治癒が88-95%の確率で見られ、予後も最良でした。反対に、60歳以上の人々では腱の治癒が43-65%しか見られませんでした。 回旋腱板に問題が起こる時期を操作することはできませんが、これらの結果から、症状を無視するべきではなく、肩と回旋腱板を徐々に退行させていくべきであるということが示唆されています。問題に対し早期に取り組むことで、これらの結果を改善するべきです。我々は、多くの人が何年もの間、肩の痛みに目を向けることなく、不快を感じながらもなんとかしようとしている場面を多く見てきています。機能的な問題がかなり大きくならない限り、普通我々は助けを求めたりはしません。 臨床要因 驚くことではありませんが、骨のミネラル密度や糖尿病のどちらも組織治癒に悪影響を及ぼします。肥満も結果に悪影響を及ぼします。肥満傾向の人は予後良好になる割合が12%減少するとされています。 興味深い発見だと私が思ったことは、手術前の活動レベルに関連することです。身体活動をほとんど行っていない人は、中強度、高強度のスポーツ、例えば、ゴルフ、スイミング、サイクリング、ランニング、テニスをしている人に比べて、予後があまりよくありませんでした。 筋力や動きに関して、最終的な強度を予測できる最たる因子は、最初の強度であることが分かりました。手術前の肩の剛性も回復時間にマイナスの影響を与え、復帰を遅らせることになります。 骨のミネラル密度や糖尿病のように、これらの要因のうちのいくつかは、避けることができないかもしれませんが、手術前に医学的治療を受け調整されていることを確実にすることができます。しかし、肥満、活動レベル、筋力や可動性といった要因は、すべて十分に関連性があり、手術前に注意を払うことができます。このことは、手術前に理学療法を行うことの重要性を強調しています。私が常々伝えていることですが、手術を受けるまでがよい状態であればあるほど、術後はよりよい状態になります。 回旋腱板の整合性の要因 予後不良と関連する回旋腱板の整合性に関する要因が4つあります:断裂の大きさ、関与している回旋腱板筋の数、腱の退縮の量、脂肪浸潤の量。これらの要因はすべて、組織の退行と関連があり、おそらく、年齢とも関連があります。 基本的には、組織が退行していればいるほど、予後不良になります。時間がたてば、腱板断裂の大きさは拡大し、骨から剥がれ(退縮)始め、弱化していきます。 これらの要因は、上記の年齢に関する私のコメントとより関わりがあります。おそらく、腱板の断裂が顕著になる前、そして組織がより退行してくる前に、早い段階で決断をして、肩のケアをするべきなのです。考慮することとして、小さな回旋腱板断裂であれば、手術により96.7%の確立で治癒することができます。一方で、断裂が大きくなってしまった場合、治癒する確立は58.8%になります。 回旋腱板修復術後の成功を高めるためにはなにができるのか。 この研究は、回旋腱板修復術の予後を良好にするためにできるいくつかのことに光明を投じていると感じます: 手術時の年齢が高いほど、手術の成功率は低くなるので、不必要に手術を延期するべきではありません。 上記のことに関して、手術を延期することで、腱板の退行が進むことも考慮してください。断裂が大きければ大きいほど、組織の退行が進めば進むほど、結果は不良になります。 身体的に活動的であること、体重が減少していることは、良好な予後と関連があります。重い腰を上げてください。 手術前に理学療法を始める。手術時に肩が強ければ強いほど、可動性がよければ良いほど、予後は良好になります。より強く、そして早く活動に復帰できます。それに加えて、いくつかの研究では、理学療法は回旋腱板手術の回避に効果があると示されています。 骨のミネラル密度や糖尿病などの健康状態は手術前に治療を受けてコントロールされていることを確実にしておいてください。 この記事を読んでいる臨床家のために、私たちは回旋腱板修復術後のリハビリテーションをどのように漸進させていくのかを決定するために、この情報を利用することもできます。患者が予後不良となるような要因を有していればいるほど、より保守的に進めていく必要があるかもしれません。 身体活動を活発に行っていて、回旋腱板の断裂も小さく、健康上なにも問題ない52歳の患者と、断裂が大きく、虚弱で糖尿病を患っている74歳の患者を同じペースで漸進させますか?もちろん、そうはしません。私たちは、やみくもにプロトコールに従ってはなりません。プロトコールは有益であり、必要なものですが、より保守的になるべき要因がある場合は、調整できる要素を含んでいます。 回旋腱修復術の術後を良好にする方法はありますし、それらの多くは調整することができます。皆さん自身、あるいは皆さんの患者さんの予後を最良にするために、これらを利用してください。
ローテーターカフ(回旋筋腱板)エクササイズの4つの神話
ローテーターカフエクササイズは、リハビリテーション、および矯正エクササイズにおいて、とてもよく行われるエクササイズの一つです。肩関節の過剰な可動性や、肩にかけている大変な負担を考えると、成人人口の20%が回旋筋腱板に、なんらかの損傷を抱えていることも不思議ではありません!さらに、年齢を重ね、肩にかかるストレスが蓄積されていくにつれ、回旋筋腱板損傷の疾患率は上がっていきます。 以前に書いた、肩甲帯エクササイズの3つの神話という記事がとても人気だったので、次はローテーターカフエクササイズの出番だろうと考えました。 以下は、私の気にいっているローテーターカフエクササイズの神話です。おそらく神話は4つ以上ありますが、まずはこれがスタートです。 ローテーターカフエクササイズは機能的ではない 最近大流行しているのが、「機能的な」トレーニングを重視することで、当然ながら私も機能的なトレーニングを考えています。しかし、多くの人々が、個別のローテーターカフエクササイズは機能的ではなく、価値がないとさえ言っているのを耳にします!あぁ、反論せずにいられるでしょうか。 これは最近、講演でも言っていることですが、私たちの「機能的」トレーニングへの変遷は、一方向に傾きすぎているのかもしれません。こういった流行は周期的に起こります。あなたがこの業界にはいって10年以上経っているのなら、私が言っている意味がわかると思います。私たちは今、まさに「機能的動作」サイクルの只中にいるのです。 それ自体は素晴らしいことだと思います。私たちの職業は、人間の身体がどのように機能しているかについての理解において、目を見張るような進歩を遂げました。機能的動作パターンの概念を理解し、応用することで、人々がよりよく動き、よりよいパフォーマンスを発揮する手助けができます。 しかし、基本を忘れることはできません。私はよく、前十字靭帯(ACL)のリハビリにおいて、従来の強化プログラムと神経筋コントロールを重視したプログラムを比較した研究に意見します。これらの研究はいつも、両方のグループが良い結果を示し、機能が改善したことが示される傾向にあります。いつも言うのですが、なぜ一つを選ぶのでしょう?どちらも個別で効くのなら、二つを組み合わせたら何ができるか想像してみてください! ローテーターカフエクササイズは意味がないというのは、行き過ぎた発言です。私も、ローテーターカフの主要な役割は、安定性を供給することにあるのは理解しており、これまでのキャリアにおいても何度もそう指導してきました。しかし、弱い筋肉は安定性を供給することはできないと考えずにはいられません。筋力が弱く不均衡がある状態で、いったいどうやって効率的に機能的動作パターンを実現することができるのでしょうか? 筋力が不十分なときは、ローテータ-カフエクササイズをしっかりやるべきです。強くなって、それから機能的になる、そうしなければ、ただ不利な代償パターンを作っているだけになります。 他のエクササイズを行っている間に、ローテーターカフにも十分な負荷が与えられている 確かに、ローテーターカフは、全ての上半身の強化エクササイズの際に働いていますが、様々な動きの中で、ローテーターカフがどのように機能しているかを理解することが大切です。ローテーターカフは、動きの最中に、肩関節の安定性を維持するために活動的になります。ここでローテーターカフが活動しているのは事実ですが、強化が得られるレベルの活動ではありません。 とても強く、パワフルな重量上げの選手やアスリートでもローテーターカフがとても弱いことがあります。それはやがて必ず仇となります。 重いウエイトを使うと、ローテーターカフの活動が止まり、より大きな筋肉が活動する これは私のお気に入りです。みなさんも一度は聞いたことがあると思います。魔法の数字は5ですよね?5 lb(2.3kg)以上のウエイトを持ち上げると、ローテーターカフは、魔法にかかったように活動をやめてしまい、三角筋などの大きな筋肉が働く。 これについて、基本に戻って考えてみたことはありますか? この考えがどこから来たのか、わかる気がします。たとえば、あなたはローテーターカフがとても弱く、横向きに寝た状態で肩の外旋エクササイズをしているとします。3 lb(1.4kg)なら楽にエクササイズを行うことができます。もし私があなたに15 lb(7kg)の重りを渡したら、あなたのフォームはひどく崩れ、三角筋の後部や僧帽筋を使って腕を後ろに振っているだけのような状態になるでしょう。これは、もちろん良くなく、弱い筋肉に負荷を与えすぎると、必ず代償動作が起こります。これは身体のすべての筋肉に当てはまります。 しかし、だからと言って、強くなるにつれてゆっくり重さを上げていっても5 lb以上の重りは使えないということではありません。なぜ5 lb(2.4kg)でやめるのでしょう?5 lbでは十分な負荷が得られないとしたら?十分な負荷が得られないのに続ける意味は?スクワットをする際、ある一定の重量で負荷を増やすのをやめて、その重量で永遠にスクワットを行うでしょうか? 私は日常的に、5 lb以上のウエイト、時には10 lb(4.8kg)以上のウエイトを使って、患者にローテーターカフエクササイズを指導しています。もし代償動作を生じ、大きな筋群を使ってしまっているのなら、その重量に対して十分な筋力がないだけかもしれません。 全てのローテーターカフエクササイズにおいて同じウエイトを使う これを聞くと笑ってしまって、申し訳なく思っています!クライアントに肩のプログラムを処方するときに、なぜすべてのエクササイズで同じウエイトを使うよう指示するのでしょう?身体のその他の部位においても同じことを指示しますか?今日は、同じ重りでスクワットとランジとデッドリフトをします・・・おかしくありませんか? それぞれのエクササイズにおいて、それぞれの筋肉にとってチャレンジとなる負荷を与える。あるエクササイズにおいて、負荷が軽すぎたら、負荷を上げる。すべてのエクササイズで同じ重量のウエイトを使うような習慣に陥ってはいけません、それでは、それぞれの筋群における十分な強化ができません。忘れないでください、目標は強くなることです。
回旋腱板の怪我からのリハビリ:フェーズ1
ローテーターカフ/回旋腱板の怪我からのリハビリというと一般的に、軽い負荷を使用したオープンチェーンエクササイズが頻繁に利用されています。上肢の動きはオープンチェーンが多いから、と考えることもできますが、私達は実際そのように肩や上肢を使っているのでしょうか?子供の時に学んだ方法でのリストア方法を紹介するビデオのフェーズ1をチェックしてください。
回旋腱板の怪我からのリハビリ:フェーズ2
ローテーターカフ/回旋腱板の怪我からのリハビリとして、子供の時に行ったように床の上で体重をさせる動きを楽しむことがいかに効果的であるのか。そして、フェーズ1からさらに先に進むとどのような動きができるのか。今すぐにでも試してみたくなりますよね!
肩の不安定性に対するリハビリの6つの秘訣 パート1/2
肩の不安定性は理学療法において所見の多い障害です。しかし、肩の不安定性には多くの異なるタイプがあります。 投球時に肩が緩いと感じる高校生の野球選手と、氷の上で転んだ際に腕を伸ばしてついて肩を脱臼した35歳の人を同じように治療しますか?彼らは両方とも「肩の不安定性」がありますよね? 微細な繰り返しの亜脱臼から、外傷性の脱臼まで幅広い症候性の肩の不安定性があります。特異的な筋力向上のエクササイズや、動的な安定性向上ドリル、神経筋機能トレーニング、固有受容器のドリル、肩甲帯筋群の筋力向上プログラムや、徐々に目的のアクティビティに戻ることを通して、以前の機能的な動作を取り戻すために肩の不安定性に対する非手術性のリハビリが行われます。 しかし、肩の不安定性をどのようにうまく治療するかということを本当に理解するために、考慮しなければならないいくつかの重要な要素があります。 肩の不安定性のリハビリプログラムを設計する上での重要な要素 肩の不安定性には多くの異なるバリエーションがあるため、リハビリプログラムに影響を与えるいくつかの要素を理解することは非常に重要なことです。これによって、肩の不安定性のリハビリプログラムを個々に合わせて、回復を促進できるのです。 非手術性の肩の不安定性のリハビリに対するリハビリプログラムを設計する際に、私が考慮する6つの主な要素があります。それらを一つずつ詳細に説明していきましょう。 要素#1:肩の不安定性のメカニズムと慢性度 肩の不安定性のある患者に対するリハビリで考慮する最初の要素は、その障害のメカニズムと慢性度です。不安定性には二つの異なるタイプがあり、次のように分類できます: 1.急性的な外傷性の不安定性 2.慢性的な非外傷性の不安定性 病理的な肩の不安定性は、急性的で外傷性の出来事、あるいは慢性的で再発性の不安定性から起こるでしょう。リハビリプログラムのゴールは、けがの発生とメカニズムによって大きく異なります。 外傷性の亜脱臼や脱臼後は、通常、患者は顕著な組織の損傷や痛み、不安を伴います。肩を脱臼した患者は、亜脱臼した患者よりも筋肉の痙攣によってより大きな痛みを訴えます。さらに、脱臼がはじめての場合は、再発したときよりも通常は痛みがより強いものです。 外傷性の脱臼の良い例があります。肩が脱臼したままフィールドを去る際の選手の痛がり方を注意して見てください。
肩の不安定性に対するリハビリの6つの秘訣 パート2/2
要素#3:付随する病状 三つめの要素には、影響を受けているその他の組織や、受傷前の組織の状態を考慮することが含まれます。 前述した通り、関節窩からの関節包唇複合体の分離は、一般的に外傷性障害によって起こり、前面のバンカート損傷につながります。しかし、ほかの組織にも影響することもあります。 多くの場合で、肩を復元する時に、関節窩の前面の縁に対して圧迫される際に上腕骨頭の後部側面が埋伏することにより、付随的なヒルサックス損傷などの骨の損傷も所見されるかもしれません。 Wikimediaからの画像 これは脱臼の80%において報告されています。これに対して、後方への脱臼によって、上腕骨頭の前面における逆ヒルサックス損傷が所見されることもあります。同様に、関節窩も骨の損傷を受けることがあります。 骨の損傷が多いほど、不安定性が大きくなることがよく見られます。 たまに、肩の脱臼とともにローテーターカフの損傷をうけた人に骨挫傷が所見することもあります。極度の損傷の稀なケースでは、腕神経叢に影響が及ぶこともあります。他の一般的な不安定な肩の傷害には、上部関節唇を巻き込んだ(SLAP損傷)、関節包前面のバンカート損傷が前面上部の関節唇にまで及ぶことが特徴であるタイプVのSLAP損傷といったものも含まれます。これらの付随的な損傷は、治癒中の組織を守るためにリハビリに大きく影響します。 要素#4:肩の不安定性がある方向 次の考慮するべき要素は、肩の不安定性がある方向です。よく見受けられる三つの種類として、前方、後方、そして多方向のものがあります。 前方不安定性は、整形外科に通う一般的な人達に最も多く見られる不安定性の損傷のタイプです。このタイプの不安定性は、全ての外傷性の肩の不安定性の約95%に上ると報告されてきました。しかし、後方不安定性の発生件数は、患者層によって異なるようです。例えば、プロや大学のアメリカンフットボールでは、肩の後方不安定性の発生件数は一般的な人々よりも多いようです。これはラインの選手において特に当てはまります。多くの場合で、これらの後方不安定性の患者は、75%の患者が手術による安定が必要であったとMairが報告したように手術が必要です。 上腕骨頭が極度の外転そして外旋、または水平外転へと追いやられるような外傷性の出来事の後、関節唇複合体と関節包は関節窩の縁から引き離され、前方不安定性、または前述のバンカート損傷につながります。 これに対し、関節包の冗長性による非外傷性の不安定性を伴う患者が肩を脱臼することは稀です。このような人達は、関節窩の縁から上腕骨が分離することなく、繰り返し関節を亜脱臼する傾向がより強いようです。 肩の後方不安定性はあまり見られず、外傷性の肩の脱臼の5%でしかありません。 このタイプの不安定性は、腕が伸展したまま手をついて転倒する、または押す動作による外傷性の出来事の後によく見られます。しかし、非外傷性の重度の緩さを伴う患者は、特に腕の挙上や水平内転、そして過度な内旋時おいて関節包の後方に張力が加わることにより、時に後方不安定性を訴えます。 多方向不安定性(MDI)は、一つ以上の運動面における肩の不安定性と定義できます。MDIを持つ患者は先天性の体質によって、関節包のコラーゲンの弾性が過度にあることによる靭帯の緩さを示します。 MDIを評価するために行える最もシンプルなテストの一つが、サルカスサインです。 腕が体側へ内転した状態でのサルカス法において、下方への変位が8~10 mm以上を重度な過可動性であると私は考えており、したがって、重度の先天的な弛緩性があることを示唆しています。この画像でこれがよく見えます。サルカスは私の指の幅よりも明らかに大きいのがわかります。 非外傷性のメカニズムとMDIにおいては、急性の組織の損傷がないため、可動域は正常か過度であることが多いです。 MDIによる再発性の肩の不安定性を持つ患者は、通常、ローテーターカフや三角筋、肩甲骨の安定筋が弱く、動的な安定性が不十分で、静的な安定筋が乏しくなっています。初めは、動的な安定性の最大化、肩甲骨のポジション、固有受容、可動域の中程における神経筋機能のコントロールを向上させることに集中します。 さらに、リハビリは、肩甲上腕関節のフォースカップルの効率と効果を、共縮エクササイズや、リズミックスタビリティ、神経筋のコントロールドリルなどを通じて向上させることに集中するべきです。ローテーターカフや三角筋、そして肩甲帯筋群に対する等張性の筋力向上エクササイズも、動的な安定性を向上させるために強調されるべきです。 要素#5:神経筋コントロール 考慮するべき5つめの要素は、患者の、特に最終可動域における神経筋コントロールの水準です。 不十分な神経筋コントロールによって生じる障害は、患者に対して有害な影響につながります。結果として、上腕骨頭が関節窩内で中心を捉えることができず、それ故に周囲の静的な安定筋に負担を強いるのです。神経筋コントロールが弱い患者には、潜在的な障害につながる上腕骨頭の過度な動きが見られます。 複数の研究者らは、肩甲上腕関節の神経筋コントロールは、関節の不安定性によって悪い影響を受けるかもしれないと報告しています。 Lephartは、受動的な動きを感知する能力と関節の位置を再現する能力を、正常な肩、不安定性のある肩、および手術によって修復された肩において比較しました。研究者らは、正常な肩および安定性を修復する手術を行った肩の両方と比較して、不安定性のある肩は、固有受容感覚と運動覚が有意に低下していたと報告しています。 SmithとBrunoliは、肩の脱臼後に固有受容感覚の有意な低下を報告しています。 Blasierは顕著な関節の緩さをもつ人は、正常な肩の緩さやを持つ患者よりも固有受容感覚の低下が見られました。 Zuckermanは、固有受容感覚は患者の年齢に影響され、より年齢が上の被験者は、より若い同様の特性を持つ人よりも固有受容感覚の低下が見られました。 したがって、外傷性または後天的な不安定性をもつ患者は、神経筋コントロールがに乏しく、改善に取り組む必要があります。 要素#6:受傷前の活動水準 肩の不安定性に対する非手術的なリハビリにおいて考慮するべき最後の要素は、患者の利き腕かそうでないかということ、そして希望する活動水準です。 もし、患者が頻繁に頭上への動作やテニス、バレーボール、または投球を伴うスポーツを行うのであれば、リハビリプログラムは、完全で痛みのない動作と十分な筋力をいったん獲得すれば、スポーツに特異的な動的安定性のエクササイズや神経筋機能のコントロールドリル、そして頭上のポジションでのプライオメトリックスエクササイズを含むべきです。 肩より下での動作を含む機能的なニーズのある患者は、最大限の可動域と筋力に戻すために、漸進性のエクササイズプログラムに沿っていきます。利き側の外傷性の脱臼後にオーバーヘッドスポーツに復帰する患者の確率は、多くの場合で低くはありますが、可能です。 それが利き腕かどうかということも、リハビリが成功するかどうかに大いに影響を与えます。不安定性の再発率は年齢、活動レベル、そして利き腕かそうでないかによって異なります。コリジョンスポーツのアスリートにおいて、再発率は86%から94%の間であると報告されています。 肩の不安定性に対するリハビリの秘訣 要約すると、肩の不安定性の非手術的なリハビリには、多くの微細なバリエーションがあるのです。私の思考プロセスを簡単にするために、個々に対して何を焦点に置くかを決める前に、これらの6つの要因を常に考えるようにしています。
外科手術後の患者の肩可動域向上を助ける方法
肩は、身体の中でも最も複雑な部分の一つであり、特に怪我の真の要因を理解していない場合には正しくリハビリを行うのが難しいことにもなり得ます。従来、理学療法士の方々は、肩を身体に他の部分から孤立させてリハビリを行なってきました。残念なことに、このアプローチは、患者の持つ機能不全や、怪我の要因に関わる問題を解決することにはつながりません。 この記事では、手術後の肩のリハビリを行う際に理解しておく必要があることについて、そしてより大きな可動域を得るために考慮すべき要素についてのリビューをします。 身体の他の部分は肩に影響を与える(そして逆もまた然り) 従来のリハビリテーションでは、例えば肩のように、近隣のエリアに密接な関係を持ち、また影響を与えられるような部分である場合にさえ、通常怪我をした身体部位を身体の他の部分から孤立させて取り扱います。グレイインスティチュートでは、人間の動きは身体全体を通してチェーンリアクションを引き起こすということを理解しています。患者の痛みと可動域の制限を真に解決するためには、機能不全に関わる全ての要因を確認する必要があります。 例えば、胸椎の肩の機能への影響を無視することはできません。怪我をした部位には関連なさそうに見える股関節のような部位でさえ、肩の健康に関して多大な影響を持つのです。チェーンリアクションの観点から見れば、怪我をした部位の治癒を助ける身体全体のリソースを、怪我をした部位から孤立させることは理にかなわないことなのです。 手術後の肩可動域を増大したい時に覚えておくべきこと 皆さんが肩の手術からの回復過程にある患者に関わる際、考慮すべきいくつかの要素とアプローチを下記に述べます。 強化のプロセスは、統合され段階的なものであるべき 肩のような複雑な部位の手術からの回復過程にある患者に関わる際、治癒のプロセスにおいて段階的に統合された動きを紹介することは重要です。完全なレストを長く与えすぎることは、組織を弱めてしまうため、患者が再び動き始めることができるに十分なだけ治癒をした時点で、有害にならない程度の動きを紹介し始めることは重要です。私達のゴールは常に、治癒を加速することであり、阻害をすることではありません。 チェーンリアクションの原理原則を用いて機能不全の要因を確認する 脊椎で、股関節で、そして足部で何が起こっているのかを分析し確認することができれば、肩がいかにして怪我をすることになったのかということについて、より理解をすることができるでしょう。この理解を得ることができれば、身体の他のエリアにある問題に取り組むことで、よりリハビリを完全なものにし、将来の肩の再受傷を避けることができます。 患者を一人の人間として扱う 皆さんがエクササイズを患者に割り当てる時、彼らがどのような人であるのか、そしてどのようにして肩を痛めたのかということを頭に置いておいてください。75歳のおばあちゃんは、23歳の野球投手とは必然的に異なった治療を提供することになります。自分自身に下記の問いかけをしてください: この怪我に関与している他の要素には何があるのか? 彼らの治癒を加速するために用いることができるユニークな戦略は何か? 彼らの可動域のゴールは何なのか? 彼らが野球の試合に復帰したいのか、それとも庭仕事がしたいのか? 私達のチェーンリアクションのコース(CAFSも含む)からの10のオブザベーショナルエッセンシャル(変数要素)を使って、あなたは患者の現在の状態に見合った、そして彼らの回復を応援するエクササイズの割り当てを生み出すことができるでしょう。 グレイインスティチュート:機能不全の評価にアプライドファンクショナルサイエンス(応用機能科学)を使う 複雑な肩の怪我のリハビリテーションを行う際に、身体の他の部分ではなく肩のみを見たくなってしまうのは、自然なことだと理解しています。それは学校で教わったことであり、仕事をよりシンプルに感じさせてもくれます。しかし、アプライドファンクショナルサイエンスの真実は、私達の身体にはより多くの要素が関わっていることを伝えてくれます。患者にしっかりと向き合うためには、彼らの身体の何が、彼らの怪我と治癒に影響を与え得るのかを考慮する必要があります。多くの場合、これには胸椎や小関越や足も含まれます。 これらのエリア、あるいは他のエリアにある機能不全を確認するためには、信頼できるアセスメントツールが必要となります。グレイインスティチュートの代表的なコースの一つは、皆さんが怪我の根元となる要因を確認し、理解し、対処するスキルで力を与える運動分析の認定コースです。もしあなたが、なぜ自分はこのエクササイズを処方しているのかはっきりとわからない、患者にとってどの治療のアプローチが適切なのかわからない、あるいは現在使用しているアプローチが実生活の機能に取り組めている気がしない、と感じているのであれば、3DMAPSのコースへの参加を考慮すべきでしょう。 3DMAPSは、ランジと腕のスイングを利用して、身体の様々な関節が動きの三面全てにおけるモビリティを展示することを可能としてくれます。肩に怪我をしている人、あるいは肩の手術から回復中の人にとって、動きにおいて痛みを与えることはあまり理にかなっていません。しかし、彼らが肩を保護しつつ(腕のスイングを全く行わないで)肩に貢献すること(足、股関節、胸椎を動かすことで)によって動くことは、しっかりと理にかなったことなのです。3DMAPSは、これを、腕ではなく体幹を動きのドライバー(駆動)として活用するという、シンプルなトゥイーク(微調整)で行います。 動きのモディフィケーションは下記のようなものがあるでしょう: 動きの間中、両腕を身体の前側で交差する(または怪我をしている肩をスリングに入れる) 前方にランジをして、体幹を心地よく後方へ伸展する 後方にランジをして、体幹を心地よく前方へ屈曲する 同側方にランジをして、ランジする足と反対側の方向へ体幹を側屈する。例えば、右足を右横に踏み出して、体幹を左へ側屈する。 反対側にランジをして、心地よくランジする足と反対側の方向へ体幹を側屈する。 ランジする足と同じ斜め後ろ方向に向かって心地よく回旋し、ランジする足と同じ方向に向かって体幹を回旋する。例えば、右足を右後ろ方向に向かって回旋してランジし、体幹を右へ回旋する。 斜め前方向に向かって反対側へと回旋しつつランジを行い、ランジする足と同じ方向に向かって体幹を回旋する。 このように感じるはずです: 足が動きの三面全てにおいて動く(足首の背屈、底屈、距骨下の外反、内反、外転、内転) 股関節が動きの三面全てにおいて動く(屈曲、伸展、外転、内転、外旋、内旋) 胸椎が動きの三面全てにおいて動く(屈曲、伸展、右側屈、左側屈、右回旋、左回旋) ここで見たいのはこういうことです:肩に影響を与えているであろう動きの制限!
理学療法によって回旋筋腱板断裂の手術を防ぐことは可能か?
回旋筋腱板の再建手術、及び、術後のリハビリは、整形外科や理学療法の学会において、肩のトピックの中で最も議論される論題の一つであり続けています。回旋筋腱板再建手術の失敗率を報告している研究は、数多く発表されており、その範囲は25%-90%となっています。 この失敗率は間違いなく注目するべきものですが、まずは「失敗」という言葉を定義する必要があります。従来の研究モデルでは、手術の成功とは回旋筋腱板が完全な状態であることと定義されており、これは理にかなっています。しかし、これらの研究における、さらに興味深い発見の一つは、再腱に「失敗した」にも関わらず、多くの患者が機能状態、および手術の結果にかなり満足しているということです。放射線検査の所見よりも、患者の術後の経過や満足度がより重要であれば、「失敗」をどう定義するかという問いかけをしなければなりません。 こういった研究により、回旋筋腱板再建手術後の理学療法の役割についての討議が活発になり、また多くの医師がより保守的になり、経過を見て、時間をかけて治療するようになりました。これは、明らかに複数の医師が、初期の理学療法が手術の失敗の原因だと信じていることを示しています。しかし、この考え方は完全ではなく、組織の質、断裂の度合い、患者の選択、手術の技術などの要素の方がより、最終的な失敗率に関係しているかもしれません。 もう一つ考慮すべき見解は、回旋筋腱板の再腱に失敗したのにもかかわらず、患者の満足度が高いということです。たとえば、下記の状況を満たしていれば、患者は満足だといえます。 痛みが少ない 可動域を取り戻した 機能的活動ができる そのため、真に問われるべきは、次のような質問です。手術失敗率が90%にも迫る一方で、手術後の満足度や結果には高い改善が見られるのであれば、回旋筋腱板断裂に対し、手術をせずに理学療法のみに専念することは、患者の痛みの軽減、可動性の復元、日常生活への復帰に、手術をするのと同様の効果をもたらすことができるのでしょうか? 回旋筋腱板断裂に対する理学療法は手術の必要性を妨げることができるか? Journal of Shoulder and Elbow Surgeryで最近発表された研究は、まさにこの問いについて検証します。米国の複数の場所に拠点を持つ研究チームであるMOONショルダーグループが、外傷なしの回旋筋腱板完全断裂を持つ381人の患者グループを最低二年間追跡しました。患者の平均年齢は62歳で、年齢の幅は31歳から90歳でした。 患者は、手術をせずに、回旋筋腱板筋群の強化、軟部組織のモビリゼーション、関節モビリゼーションを中心とした6-12週間の理学療法を受けました。 6週間経過した時点で一度評価をし、9%の患者が回旋筋腱板再腱手術を受けることを選びました。12週間経過したところでまた評価をし、さらに6%の患者が手術を選びました。2年間の追跡経過の時点において、全部で26%の患者が手術を選択しました。統計分析によると、最初の12週間内に手術を行わないリハビリテーションの方法を選んだ場合、手術をする必要はなくなるようです。 患者の75%近くが、回旋筋腱板の完全断裂があるにもかかわらず、理学療法を行うことによって、再腱手術を避けることができました。 これはとても重要な発見です。 保存療法時の回旋筋腱板のリハビリの鍵 この研究結果は、回旋筋腱板断裂の治療において、大きなインパクトを持っています。たとえ回旋筋腱板が完全に断裂していても、手術の前に理学療法が施されるべきです。治療の結果を最大限にするためにも、包括的なリハビリプログラムを作成するべきです。私が回旋筋腱板断裂のある患者を診るときには、3つのキーポイントに注目します。 肩の可動性の復元 これは、受動的可動性と能動的可動性の両方を含みます。受動的可動性において、肩の可動域は回旋筋腱板の症状がひどくなるにつれ、徐々に失われます。これは、痛みを避ける行動や、肩を動かさなくなること、あるいはその他の要因などが原因だと考えられます。関節窩上腕関節包の可動性の低下や、軟部組織の制限などがよくみられるでしょう。患者それぞれに固有な、動きの制限によって、軟部組織のモビリゼーション、関節モビリゼーション、可動性を高めるエクササイズを選択する必要があります。 動的安定性を得るために回旋筋腱板の機能を回復する これは、肩の能動的可動性の復元と本質的に同じことです。制限のない能動的可動性を得るためには、回旋筋腱板が適切に機能する必要があります。以前の記事で、つり橋理論、および、症状なしに回旋筋腱板断裂が起こる理由について説明しました。次の図で御覧のとおり、前部および後部の回旋筋腱板筋群が適切に機能していれば、棘上筋が断裂していても腕を挙上することができます。 肩の筋力と動的安定性を向上するエクササイズが取り入れられるべきです。私の経験では、外旋の筋力が最も制限されており、最も注目する必要があるものだと思います。 キネティックチェーンに与える衝撃を減らす 肩の可動性と安定性の復元に加え、肩の機能におけるキネティックチェーンの影響についても考える必要があります。肩甲胸郭関節、頚椎、胸椎、腰椎骨盤複合体における機能に、何らかの障害があるかを見極めるべきです。これらのエリアは、関節窩上腕関節のアライメント、可動性、安定性に重要な影響を与えます。 これらの原則を用いれば、回旋筋腱板断裂を持つ患者の75%を再腱手術から救うことができる可能性を持つプログラムを作成することができます。このような研究が、手術の有無に関わらず、理学療法が回旋筋腱板断裂を持つ患者の満足度と結果に与える影響を明らかにしていくことを望みます。
包括的な能力:肩の機能における運動病理学モデルに代わるもの
要旨:肩の痛みを訴える患者に対応する時、肩の理想的なポジションや、筋活動の理想的なタイミングとカップリング、それに合わせた修正を行っていくことは、不必要であり、根拠もない。 疑いの警告:肩甲骨の運動異常は、ほとんどの患者において問題にはならないが、特定の症状において関連する生体力学に対してオープンであるべき。 要点:多くのセラピストが、痛みとケガの運動病理学モデルに代わるものを提唱する反面、他のセラピストからちょっとした反発の声もよく耳にします。私たちは多数派の見解に挑戦しているので、 そこで“では、一体全体どうするのか?” という難しい質問を招くことになります。もっともな質問です。私は、この投稿でエビデンスに風味づけられたいくつかの意見を明らかにしていこうと思います。 背景 physio-pedia.comによると(ぞっとしているセラピストがいるかもしれませんが) ここ15年以上もの間、肩甲骨には理想的な動き方があると提唱されてきました。基本的に、肩甲骨は上腕骨の支持基盤を提供しているので、もしそれが“不安定”であるとすれば、結果としてケガにつながるかもしれません。さらに単純に言うと、肩甲骨が上方回旋や後方回旋、後退することによって、腕の骨の動きの“邪魔をしないように”しなければならないということです。それに関連して、適切な筋活動のタイミングや活性化の割合なども、この理想的な運動学を達成するには必要で、そうすれば肩甲骨がハッピーでいられると提唱されています。セラピー業界では、前鋸筋が適切に発火していないとか、上部僧帽筋が過活動しているから機能障害に陥るなどということをよく耳にします。この臨床において広く信じられていることを実際に立証するような所見を見つけてみてださい。また、タイミングもリハビリで変えられ、痛みの軽減との相関性があることを立証するような所見を見つけられるようでしたらそうしてみてください。 私が抱いている大きな先入観:: 運動異常が将来のケガに関連するという考えや、運動学を変えれば痛みを軽減できるという考えを裏付ける研究はほとんどありません。この考え方に着目している研究が少しだけありますので見てみましょう: - 予想されること: オーバーヘッドアスリートにおいて、肩甲骨の位置や運動と将来的に起こるケガとは関連性がないとStruyf(2014)が示しています。それとは逆に、Clarsen(2014)は、ハンドボール選手において、肩甲骨の運動異常と将来的なケガとの関連性を示しました(ただし、信頼区間がかなり広いため、ちょっとためらうような所見でした。) - 痛みがある人は異なる動き方をするか? もちろん、肩甲骨の異なった運動学に遭遇することもあるでしょう(Timmons, 2012)。しかし、その反応は個体差があり一貫していないと意義を唱える人もいるでしょう(Ratcliffe 2014)。 - これらの変化した運動学は変わらなければならないのか? これは、私にとって最も重要な疑問点です。相関データに目を向け、肩に痛みがあると、人によっては異なる動きをすることがあることを把握することは、セラピストにとって有用です。理にかなった介入としては、動きの癖や行動を変えることかもしれませんが、このことは、肩の動き方を理想的と思われる動きに変えなくてはならないということを意味しているのではありません。 驚くことに、リハビリで運動学的にどう変化するかを検討した研究はほとんどありません。ここに、3件の研究を紹介します。ここでは、リハビリで症状が改善したにも関わらず、運動学的には何の変化も起こらなかった(Carmargo, 2016)、または、結果として一般的に好ましくないと考えられている運動学になってしまったことを示しています(例として、Struyf(2013)とMcClure(2004)で紹介されている上方回旋の減少、前突の増大)。 見て分かるように、上記は論文の完全なレビューではありませんが、不安定な肩甲骨の動きとタイミングは、肩の痛みに顕著に関連していないことを説明しています。みなさんも同意してくれると思います。実際、ひどい翼状肩甲骨があるにもかかわらず、そちら側の肩には特に痛みがないという患者をみなさんも診たことがあるでしょう。肩甲骨自体が泳いでいるような競泳選手を治療したことがあるでしょう。これで全てつじつまが合います。肩甲骨には動いて欲しい。さまざまな位置に肩甲骨を動かし、そこで負荷に耐えられるようにすればいいのです。ロッククライマーやダンサー、もしくは、夜中の2時に隠しておいたウイスキーボトルを取り出そうと、戸棚の一番上の棚に手を伸ばす人を思い浮かべてください。肩をすくめたり、肩甲骨が前突したり、前傾していたりしながら腕を挙げることは、まったく正常なのです。 動きに対して楽観的に! 代替案 - 包括的な能力 今、このテーマを多くの人たちと共有できることを嬉しく思います。もっともっと多くの人たちがこのテーマを目にするようになると思います。私が気に入っている最近の論文に、McQuadeら(2016)によるものがあります(私の偏見を確認させてくれるから:))。これらの著者(間違いなくDr.Borstad)は、肩甲骨の運動異常について肯定する実績を持ちますが、この論文で彼らは大きくシフトし、完全にこのモデルについて疑問を投げかけました。では、その代わりに彼らは何を提唱したのでしょうか? それは、主として肩とその周囲の全ての関節の能力を最大限に引き出すということです。何が理想的な動きなのかがはっきりしていな中で、肩関節や肩甲骨、胸椎、そして機能的につながりを持つ全てのものを最大限に機能させることを提案します。この場合、全ての関節が持つ生体運動能力(強度、耐久性、関節可動域、パワーなど)を最大限に機能することが、理想的な機能と言えるでしょう。 臨床においての包括的な能力とはどのようなものか? それは、場合によります。肩の痛みを訴える患者すべてに、大々的なシステム全域にわたるトレーニングが必要なのでしょうか? いいえ、もちろんその必要はありません。ここで、肩の痛みに対するいくつかの選択肢があります。挙上時に肩に痛みを訴える患者に遭遇した時の、選択肢としての可能性をここに示します。 1. その人全体の脱感作:痛みに関与するあらゆることを探ってみてください。関連する部位すべてが健康になるようにします。悪化させる動きの癖を見つけ、それに代わるいくつかの動き方を指導します。動き方を変えることは、一時的なことであり、症状が落ち着いてきたらまた好きなように元の動き方に戻ることができることを繰り返し伝えます。脱感作のための取り組みとして、肩と肩甲骨の両方のエクササイズを処方してもよいでしょう。このような患者は、あまり肩を使っていないかもしれず、構築し直すものがあまりないかもしれません。彼らはただ痛みを無くしたいだけなのです。 2. 症状に対する修正、脱感作、活動の再開:1と同様ですが、もっと対症的な修正を加えるとよいかもしれません。より多くの意義のある活動に耐えられるだけのトレーニングも加えていきます。痛みが出る動作を探し、それを他のものに置き換えます。修正や動く時の振る舞いを変えることは、ここでは症状を基に決定されるのであって、理想的な位置によって決定されるわけではありません。もし、患者が肩甲骨を下後方へ引いたまま腕を挙上し続けて痛みを伴うようであれば、他の方法を指導するかもしれません。その後、患者が行いたい活動を見てみて、それらの活動に耐えられる能力を徐々に構築していきます。タイミングや肩の位置におけるささいなことを問題視するのではなく、その関節が潜在的にどのぐらいの能力があるのか、または将来的にどのような動作に耐える必要があるのかをベースにエクササイズを選択していきます。その関節に“君はどんなことをしなくてはならないのか?”と問いかけ、“わかったよ、その動作をやってみよう”と言えばいいのです。もし、この種のエクササイズでみなさんがより詳しい方法やシステムが必要であれば、私のFunctional Anatomy Seminarの同僚達が実施するFRCアプローチが役に立つかもしれません。これらの動きの面白いのは、動きを変えても、それを永遠にし続ける必要がないというところです。その時の救済処置として動き方を一時的に変えるだけで、またこれまで通りの動きに痛みなく戻れるのです。これは、腰痛に対しての認知機能療法(Cognitive Functional Therapy)の一貫したアプローチでもあります。最も重要なことに、彼らにとって重要な活動をし続けることができること、そして、エクササイズ処方はその大切な活動に耐え得るだけの準備をするということです。 3. 二次予防:もし、その人が行っている活動やスポーツで多くの肩の動き伴うとすれば、それら全ての動きに耐えられるようにシステム全体を包括的に準備します。これは基本的に、最も効果のある傷害予防プログラムや、ほとんどのリハビリプログラムが行なっていることです。臨床家の人たちは理想的な肩の動きや肩甲骨の安定性に取り組んでいると言うかもしれませんが、実際やっているのはただシステム全体を頑強にすることなのです。動きに対する準備は、動きの質に勝ることを示すよい例です。Anderssonら(2016)による肩の傷害予防プログラムを見てみると、それは包括的な能力のことであり、多くの要因に取り組むプログラムになっています。 要点のまとめ ここでは誰も動きを無視してはいません。人がどのように動くかをあなたは変えることができますが、しかしそれは“理想的な”動きに変えようとしているのではなく、痛みの出ない動きに変えているのだということを私は言いたいのです。同時に、これらの動きを脱感作するために、通常のリハビリテーションも行っているでしょう。付随して、もしエクササイズが治療の手段であるならば、動きのパターンやタイミングを修正するようなエクササイズではなく、各関節が持ち合わせている最大限の能力を引出し、その人に要求される需要に耐えられるようになるエクササイズを選択します。もし、肩に痛みがある人が、あまり肩を使う活動をしない人なのであれば、逆立ちでの腕立て伏せなどは必要ありません。もしロッククライマーをトレーニングするのであれば、さまざまなポジションにおいて股関節、脊柱、肩のトレーニングをした方がよいでしょう。その人の包括的な能力は、その人にかかる需要と一致するのです。 最後に 今回の投稿は、とても力学的な内容です。簡潔に、BPS(Bio-Psycho-Social:生物・心理・社会的)のBio(生物)をしっかり守ってください。包括的な能力という考え方を、その人の全体に応用することができます。つまり、ある人の痛みに影響している心理的要素を私たちは知り得ません。肩の痛みを、30%は気分の落ち込み、13%は不安、6.2%は破局視、不公平感が少々、ひどい睡眠不足などと区分することはできません。ですから、私たちはこれらの要因に対しても同じことを行います。基本的に“どうしたらより健康になれるか?”と問いかけ、その人の人生すべての面に対応できる対策に取り組むのです。
肩の痛み
肩のポジションを適正にセットするために、適正な胸椎の後弯が存在しているのは重要なこと。呼吸を使ったシンプルで効果的なドリルを、ストレングスコーチのマイク・ロバートソンがご紹介します。試してみてください。
肩甲骨へのキューイング
肩甲骨のポジションを指導する際、“肩甲骨を後ろへ引き寄せて”と強くキューイングしすぎることで、正常な肩甲上腕リズムを阻害してしまうという間違いを良く目にします。自然な肩甲上腕リズムを重視するマイク・ライノルドからのアドバイスをシェアします。
YTWLショルダーエクササイズが好きではない理由
YTWLショルダーエクササイズが普及しはじめた頃を覚えています。「YTWL」という頭文字は、肩のエクササイズをうまい具合に説明しており、覚えやすい名称でした。私も時流に乗り、すべての人に両肩のトレーニングを適用していました。肩を負傷しリハビリ中の人たちにさえも行っていました。YTWLショルダーエクササイズでは同時に両側を行うことで、より短い時間で左右対称にトレーニングできます。それでも、私はあまりこのエクササイズに満足しておらず、たくさんの異なるバリエーションを試してみました。 まず初めに試みたのは、立位で前屈することです。シンプルでスタートとしては良いですよね? ただ、すぐに気がついたのは、実際、このエクササイズをするのに適切なポジションがとれない方が多いということ。ほとんどの人達は、上半身を床と水平にするのが困難で、床から約45度の角度で行っています。これでは、三角筋の関与を増やしてしまうのが気に入りません。回旋腱板と肩甲骨のエクササイズを行う際に、三角筋の関与は一番望ましくないことですから。 次に試みたのは、バランスボールの上に腹臥位になることです。すごくいいアイデアですよね? 体幹を安定させながら、肩や肩甲骨周囲の筋群のトレーニングをしようというわけです! ところが、そうでもないようです。このトピックに関する研究では、これまで意見が対立してきましたが、一概にバランスボールの上でエクササイズをしても、肩周囲の筋群とコアの筋群のEMGの継続的な上昇は見られないということを数々の研究が示しています。しかし、このリサーチからひとつの傾向が浮かび上がってきます。それは、筋出力量の減少です。これは、バックスクワットとレッグプレスの違いに似ています。レッグプレスでは、それほど安定性を要求されないために、より重いウェイトを持ち上げられます。この試みはそれほど悪くありませんね。特に機能向上のためにトレーニングしている健康な人たちやスポーツ選手には適しているのかもしれません。でも、YTWLショルダーエクササイズをする理由は、肩の強化と肩の機能向上のためだということを思い出してみてください。不安定な表面でYTWLエクササイズを行ったところで、その目的は果たせそうにありません。 バランスボールの上でこのエクササイズを行っている人たちのポジションが、あまり感心できないものであったことも述べておくべきでしょう。ここでもほとんどの人たちは、上半身が床と平行ではなく、バランスボールより腕が長い場合は、充分な可動域でトレーニングできません。つまり、肩や肩甲骨周囲の筋群のための効果を最大限に発揮できないわけです。しかも、体幹の安定性が十分でなければ、動きのパターンを完成させるために後方に揺れて、腰椎が過伸展してしまうのです。 その次に試みたのは、YTWLエクササイズを不安定な表面ではなく、単にマッサージテーブルに腹臥位になって行うことでした。このエクササイズを行うには、頭と肩をマッサージテーブルやベンチの端からはみ出した位置におく必要があります。悪いアイデアではないようです。実際、YTWLショルダーエクササイズをこのポジションで行うことは、適切だと思いました。腰椎をニュートラルポジションに安定(マッサージテーブルにまっすぐにうつ伏せになり、腰椎を過伸展しないように指導)しなければなりませんが、通常のウェイトを利用することもできます。これまで試みたポジションで探していた「身体が床と平行なポジション」にようやくたどり着いたのです。 あぁ~、やっとここまで来ましたが、まだ満足できません。マッサージベッドの端から頭がはみ出した状態で両側性のショルダーエクササイズをすれば、上部僧帽筋と肩甲挙筋の活動を助長してしまいます。上部僧帽筋の活動や上部僧帽筋優位の姿勢を低減させたいという私の考え方を皆さんもご存知ですね。そのうえ、これらのエクササイズの目的は、肩と肩甲骨機能の向上なのですから、上部僧帽筋と三角筋を強化するようなエクササイズは、かえって私たちの目的の妨げとなってしまいます。特に上部僧帽筋と下部僧帽筋の活動の割合が肩のインピンジメントに影響することが分かっている場合、やはりこの方法は逆効果を招くと考えられます。 なぜ私はYTWLショルダーエクササイズを好まないのか おわかりの通り、YTWLショルダーエクササイズを実施するにはいくつかの制限があります。私が懸念しているこれらの制限をまとめると: 身体が床と平行で実施しなければ、筋にかかる角度が変わり、より三角筋を動員することになる。 腰椎が過伸展しやすい傾向にある。 不安定表面で実施することにより、筋出力量を減少させ、肩と肩甲骨周囲の筋群に重点を置きにくくなる可能性がある。 バランスボールの上では、充分な可動域で実施することができない。 マッサージベッドやベンチの端で実施すると、頭を保持するために上部僧帽筋と肩甲挙筋を動員し過ぎてしまう。 YTWLショルダーエクササイズを適用する時に提案したいこと 主要な目的が回旋腱板と肩甲骨周囲の筋群の強化であれば、YTWLエクササイズは、あまり推奨できません。実施する場合、安定面(たとえばマッサージテーブル)の上で身体は床と平行にし、片側ずつ行うように単純化する必要があります。そうです、頭の位置はニュートラルではなく横に向けてください。少なくとも首の筋群はリラックスさせておきます。Wショルダーエクササイズはこれまで通り両側で行いますが(Wショルダーエクササイズテクニックについては、私の過去のポストとデモンストレーション動画をご覧ください)、YとT、Lは片側ずつ行います。 特定の損傷や手術のリハビリテーションでない場合、または第一目的が肩と肩甲骨周囲の筋群の強化でない場合、また左右対称性と運動機能の向上が目的であれば、YTWLショルダーエクササイズを行っても悪くはないでしょう。もし特定の欠点強化に取り組んでいるのであれば、従来の古いやり方が適切かもしれません。まずはそこから始めて、筋力がリストアされれば、他のポジションに漸進すればよいでしょう。リハビリテーションとフィットネスの専門コーチは、両側のYTWLエクササイズの際、上記で述べた代償的パターンが起こらないように必ず指導するべきです。 両側でYTWLショルダーエクササイズを行うのが適している場合もありますが、ほとんどの場合、私は肩と肩甲骨の強化と機能向上を目的としています。両側のYTWLエクササイズは、肩と肩甲骨に十分な強度と安定性が備わってから実施するプログレッションと捉えています。YTWLショルダーエクササイズを両側で行うことは、目標から少し外れてしまうのではないかと私は思うのですが、皆さんはどうお考えになりますか?