肩の整形外科的評価
多くの整形外科的な怪我では、評価が重要であり、またより良い評価がより良い治療にもつながります。肩の怪我や障害をどのように評価するのか、いくつかある肩の障害の評価方法について紹介しているコンテンツです。理学療法士の方など、日頃から肩の怪我や障害を診ることの多い方には特にお薦めです。
肩関節インピンジメント-評価・治療のための3つの要点 パート1/2
今日の投稿は、肩関節インピンジメントのリハビリテーションに関して、私が受けた質問に対する答えになります。 こんにちは、マイク。あなたが、烏口下インピンジメントと肩峰下、あるいは、関節内インピンジメントをどのように区別してケアを行っているのか、とても興味があります。肩関節インピンジメントに対する治療のオプションは何が適切でしょうか?ありがとう、マリオ 肩関節インピンジメント-識別の3つの要点 肩関節インピンジメントはかなり広義の用語で、私たちの多くはそれを当然のように思っています。“膝蓋大腿関節痛”のように、かなり無意味な用語になってきました。一般の人々に対して障害を説明するとき、“肩関節インピンジメント”のように、非専門的な用語を使用することは問題ありませんが、専門家として、適切な評価と治療を保証するためには、できる限り詳細に明記することが得策と言えるでしょう。ノートから引っ張りだし、特定の人に使える、魔法のような“肩関節インピンジメントのプロトコールはありません。 肩関節インピンジメントを分類し区別するために私が考えている3つの要素。 1. 部位 これは一般に、回旋腱板の、滑液包側なのか関節面側か、どちら側でインピンジメントが起きているのかということです。下の肩MRI画像を見てください。赤い矢印で示されている通り、滑液包側は回旋腱板の外側になります。これはおそらく、一般に“肩関節インピンジメント”と呼ぶときに、皆が意味している“標準的な肩関節肩峰下インピンジメント”です。緑の矢印は、回旋腱板の内側、または、関節面を指しています。ここでのインピンジメントは、“関節内インピンジメント”と呼ばれています。この2つは、原因、評価、治療の観点からも違いがありますし、だからこそ、最初の識別が重要になります。詳細はまた後で。 2. 衝突している構造 私にとっては、これは滑液包側、あるいは、肩峰下インピンジメントのことであって、回旋腱板がどの構造に対して衝突しているのかについて言及しています。下の写真に見ることができるように(両側の写真)、肩峰下のスペースはとても狭く、あまり余裕もありません。事実、“スペース”というものはほとんどなく、回旋腱板や肩峰下滑液包を含む、多くの組織がこの空間を横切っています。実際には、腕を動かすときは、いつも衝突が起こっています。インピンジメント自体は正常なもので、私たちすべての人に普通に起こっているのですが、それが過剰になったとき、病変が起こります。組合わさって、または、どちらか単独で起こることもある、肩峰アーチと烏口肩峰アーチインピンジメントを識別してみたいと思います。評価と治療に関してはとても似通っていますが、烏口肩峰インピンジメントに関して、小さな修正を2、3していきたいと思います。これに関しては以下で述べます。 3. インピンジメントの原因 これが、私が“一次的”と“二次的”肩関節インピンジメントと言及していることです。一時的なインピンジメントとは、インピンジメント自体がその人にとって主要な問題であるということです。これについて良い症例は、下の写真にあるように、フック状の肩峰のような解剖学的な問題があって、インピンジメントが起こっている場合です。肩峰の多くは、平坦であるか、カーブしているのですが、フック状、または、先端に棘がついているような人もいます(赤で示している)。 二次的インピンジメントとは、おそらく活動や姿勢、硬さや筋力のアンバランスが原因で、上腕骨骨頭が回旋軸から逸脱し、インピンジメントを起こしていることを意味しています。もっとも単純な症例は、回旋腱板の弱化です。このシナリオでは、三角筋が回旋腱板の筋力を上回り、上腕骨骨頭を上方に移動させ、結果として、上腕骨頭と肩峰の間で回旋腱板が衝突します。
肩関節インピンジメント-評価・治療のための3つの要点 パート2/2
肩関節インピンジメントのタイプによる区別化 最適な肩のパフォーマンスという私たちのDVDの中で、リハビリテーションやトレーニングに影響を与えるであろう肩関節インピンジメントの評価方法に、いくつかのやり方があるということについて話をしています。上記で述べた、それぞれのタイプの肩関節インピンジメントを評価するための特定のテストがあります。もっとも知られている2つの肩関節インピンジメントテストは、ニアーテストとホーキンステストです。ニアーテストでは(下記 - 上の写真)、検者は肩甲骨を安定させ、肩を他動的に挙上させ、上腕骨骨頭を肩峰に押し込むようにします。ホーキンステストでは(下記 - 下の写真)、検者が腕を90度まで外転させ、肩に内旋を強制させ、肩峰下アーチの下で腱板を衝突させます。 これらのテストに少し変化を加えることで、烏口肩峰アーチタイプの肩峰下インピンジメントをより示唆するであろう異なった症状を引き出すことができます。これは、より前方での腱板インピンジメントが関与しており、下記のテストでは、この部位でのもろさを再現しようと試みます。ホーキンステスト(下記 - 上の写真)に変更を加え、より水平内転させた姿位で行うことができます。別の肩関節インピンジメントテスト(下記 - 下の写真)では、反対側の肩をつかませて、能動的に肩を挙上させるように促し、検査することができます。 肩峰下インピンジメントを患っている患者の多くは、上記のテストすべてで症状を呈する可能性が高いですが、上記4つのテストにおけるちょっとした症状の変化を見つけることで、肩峰下インピンジメントの部位(肩峰に対して烏口肩峰アーチ)を特定することができるかもしれません。 関節内インピンジメントは異なったタイプです。オーバーヘッドアスリートにもっともよく見られますが、このタイプのインピンジメントは、典型的に、前方方向への過度なゆるさが原因です。例えば、野球の投球、テニスのサーブなどのように、選手が完全外旋位をとる場合、上腕骨骨頭が僅かに前方にシフトし、回旋腱板の下部表面が関節窩後方と関節唇に対して衝突を起こします。これは多くの場合、野球選手が“部分的に肥厚した回旋腱板断裂”を起こしたときに、よく聞きます。 このためのテストは単純で、前方不安感テストとまったく同じです。検者は90度外転した姿位で腕を外旋させ、痛みを調べます。肩関節不安定性のある患者とは異なり、関節内インピンジメントを患っている人は、前方への不安定感を示しません。むしろ、肩の後方上方部付近のかなり特定の部位に圧痛があります(下記 - 上の写真)。上腕骨骨頭を後方に少しシフトさせ、検者が肩をあるべき位置に戻すと、後方上方部の痛みは消失します(下記 - 下の写真)。 3 肩関節インピンジメントを治療するための3つの要点−どのように治療を変えるのか? 上記の情報には3つの主要な要点があり、呈しているインピンジメントのタイプによって、治療やトレーニングプログラムを変更することができます。 肩峰下インピンジメント – 肩峰インピンジメントと烏口肩峰インピンジメントを区別する:これら2つのタイプのインピンジメントでは本質的に治療は同じとなりますが、烏口肩峰アーチインピンジメントの場合、水平内転のストレッチングに注意する必要があります。残念なことですが、これらの患者の場合、後方軟部組織をストレッチする必要はあるものの、インピンジメントしている部位を挟むようなことはできません。はさむことはインピンジメントになります。また、矢状面での挙上、または、水平内転エクササイズは避けたほうがよいでしょう。 一次的 対 二次的インピンジメント – これは重要な点で、若い治療家やトレーナーにとってフラストレーションの元になります。二次的インピンジメントを扱う場合、患者の症状に対して、試したい治療法はすべて行うことはできても、傷害の原因に焦点を当てなければ、彼らはまた戻ってくるでしょう。ですから、患者や、その姿勢、筋肉のアンバランス、動きの機能不全などすべてを大きな視点で見ていく必要があります。このような見方で、患者を見ていけば、より良い結果が得られるでしょう。 関節内インピンジメント – 関節内インピンジメントについて認識すべきことの1つは、それがかなり二次的な問題であるということです。回旋腱板の弱化、疲労、動的安定性能力の低下などが原因で起こることもありますし、腕を振りかぶったポジションにあるとき、過度な緩さを呈する選手もいます。回旋腱板を治療し、その動的安定性を向上させることで、インピンジメントの症状が改善します。
回旋腱板
ローテーターカフ/回旋腱板の傷害を人生の中のどこかで経験する人の数はかなりの数にのぼります。治療対象/指導対象の個人が、回旋腱板障害のどの段階にあるのかを見極めることの重要性に関して、マイク・レイノルドのセミナーからの抜粋です。
SLAP損傷とは一体何か?上方関節唇損傷についてあなたが知っておくべきことトップ5
SLAP損傷は、肩関節関節唇の上方部分の怪我です。SLAPという単語は、上方関節唇(Superior Labrum ) の前方から後方にかけて(Anterior to Superior )の損傷を略したものです。これは肩関節傷害で非常によく見られる診断です。SLAP損傷には、重症度や治療ストラテジーが異なる多くの様々なバリエーションがあります。過去において、外科医はすべてのSLAP損傷を手術したがりましたが、私たちは手術なしでもうまくいくものもあることを学びました。事実、いくらかのSLAP損傷は心配する必要さえないのです。 SLAP損傷がどのように起こるのか、そして病理学的には一体何が起こっているのかを理解することは、これらの肩関節傷害を適切に診断し治療するために非常に重要です。 SLAP損傷の分類 図で見られるとおり、上腕二頭筋長頭腱は上方関節唇に直接付着しています。上腕二頭筋腱が付着する上方関節唇に起こりうる怪我には、いくつものバリエーションがあります。 700件の肩関節内視鏡の遡及的検討(レトロスペクティブレビュー)に続いて、Snyder et al: Arthroscopy 1990は、上腕二頭筋腱に関わる上方関節唇損傷を4つのタイプに識別しました。彼らは、解剖学的位置を参考に、これらのSLAP損傷をまとめてこのように名付けました:前方から後方にわたる上方関節唇。これが当初の定義でしたが、私たちがSLAP損傷についてもっと学び続けていくと、それらは必ずいつも前方から後方にかかっているというわけではないのです。しかし、知っておくべき最も重要なコンセプトは、SLAP損傷は上腕二頭筋腱付着部付近の上方関節唇の怪我であるということです。 タイプI SLAP損傷 タイプI SLAP損傷は、関節唇がしっかりと関節窩に付着した状態で、上方関節唇のみが擦り切れているものを示すとされています。これらの損傷は通常自然に起こる変性です。今のところ、活動的な人たちの大部分がタイプI SLAP損傷を持っていると現在は考えられており、多くの外科医は大抵これを病理的だと考えてさえもいません。 タイプII SLAP損傷 タイプII SLAP損傷は、上方関節唇と上腕二頭筋長頭腱起始部が関節窩から剥離し、上腕二頭筋腱及び関節唇が付着している部分が不安定になっているという特徴があります。これらはSLAP損傷の最もよく見られるタイプです。私たちが外科医から「SLAP損傷」を治療するようにという処方箋を受け取るとき、彼または彼女は、十中八九タイプII SLAP損傷、そして関節唇と上腕二頭筋腱の縫合手術について話しています。 タイプII SLAP損傷の異なる3つのサブカテゴリーが、Morgan et al: Arthroscopy ’90によってさらに識別されています。彼らは関節内視鏡評価を受けた一連の102人の患者のうち、37%に前方上方部の損傷が見られ、31%に後方上方部の損傷、そして31%に前方及び上方部を合わせた損傷が見られたと報告しました。 これらの発見は、私の患者の臨床的観察とも一致しています。患者のタイプや受傷機転の違いが、わずかに異なるタイプII SLAP損傷をもたらすのです。たとえば、オーバーヘッドアスリートの大部分に後方上方部の損傷が見られる一方、外傷性のSLAP損傷を持つ人々には通常前方上方部の損傷が見られます。これらのバリエーションは、患者の既往歴及び受傷機転に基づき、どのスペシャルテストを行うか選択する際に重要です。 タイプIII SLAP損傷 タイプIII SLAP損傷は、上腕二頭筋停止部が付着している状態での、関節唇のバケツ柄状断裂によって特徴づけられます。半月板と同じように、関節唇は損傷し関節の中に入り込んでしまいます。ここで重要なコンセプトは、タイプIIとは異なり、上腕二頭筋腱は付着しているということです。 タイプIV SLAP損傷 タイプIV SLAP損傷では、関節唇が上腕二頭筋腱にかけてバケツ柄状に断裂しています。この損傷では、タイプII SLAP損傷で見られるのと同じように、上腕二頭筋腱及び関節唇が付着する部分に不安定性も見られます。これは基本的にタイプII損傷とタイプIII損傷の組み合わせです。 この分類システムの複雑なところは、タイプIからIVのスケールは漸進的により重症となるというわけではないという事実です。たとえば、タイプIII SLAP損傷はタイプII SLAP損傷よりもより大きいまたはより重症である、あるいはより病理的だということではありません。 さらに複雑なことに、Maffet et al: AJSM ’95は、彼らの712件の関節内視鏡のレトロスペクティブレビューの中で識別されたSLAP損傷のうちの38%は、以前Snyderによって定義されたIからIVという専門用語を用いて分類することができなかったと記しました。彼らは、SLAP損傷の分類スケールを、タイプVからVIIという種類を加えた合計7つのカテゴリーに拡張することを提案しました。 タイプV SLAP損傷は、前方上方関節唇にかけて前方関節包のバンカート病変が見られるという特徴がある。 タイプVI SLAP損傷は、前方あるいは後方の上方関節唇のフラップ状断裂を伴う上腕二頭筋腱付着部の断裂を含む。 タイプVII SLAP損傷は、中関節上腕靭帯の下方領域を含む前方SLAP損傷の延長として説明される。 これらの3つのタイプは、通常SLAP損傷に伴う合併症を含んでいます。彼らは追加的な分類を提供してくれたものの、この専門用語は受け入れられず、あまり使われていません。たとえば、多くの人々はタイプV SLAP損傷をバンカート損傷を伴うタイプII SLAP損傷というでしょう。 それ以降、私が知っているだけでも少なくとも10個のさらに多くの分類タイプが文献で説明されてきましたが、心配はいりません、誰も実際にそれらを使ってはいませんから。 SLAP損傷の分類についてあなたが知っておくべきことトップ5 SLAP損傷の分類についてあなたが知っておくべきことは: タイプIからIVのSLAP損傷だけ考えましょう。そしてタイプIV以上のあらゆる分類システムは、単にSLAP損傷に加えて付随する怪我があることを意味しているのだと理解しましょう。 タイプIとタイプIII損傷を分解して一緒のグループにすることができます。どちらも関節唇の変性を含みますが、上腕二頭筋腱は付着しています。したがって、これらは不安定なSLAP損傷ではなく、手術で縫合されるものではありません。これは手術(ただの単純な創面切除術)や理学療法を容易にしてくれます。 また、タイプIIとタイプIV損傷を分解して一緒のグループにすることもできます。どちらも上腕二頭筋腱の剥離を含み、上腕二頭筋腱を安定させる手術が必要となります。タイプIV損傷はより極めてまれであり、バケツ柄状断裂の縫合および創面切除術を含むでしょう。 タイプII損傷は、あなたもクリニックで見ることがあるでしょうが非常によくあるタイプで、外科医が「SLAP縫合」について話しているとき、ほとんどの場合はこのタイプを言及しています。とは言いながらも、タイプII SLAP損傷がかつて予想されていたよりも一般的である可能性があることから、それらを縫合しないという傾向が見られます。これはオーバーヘッドアスリートにおいて特に当てはまります。 私たちは皆タイプI SLAP損傷を持っているかもしれません。それは基本的に単なる関節唇の擦り切れや変性です。
SLAP損傷(上方関節唇損傷)はどのようにして起こるか:上方関節唇の傷害のメカニズム
SLAP損傷が起こる原因であると推測されている傷害のメカニズムは、複数あります。これらのメカニズムには、外傷性の転倒から、時間をかけての磨耗、野球選手のようなオーバーヘッドアスリートに見られる特定の傷害などがあります。 外傷性SLAP傷害 腕を外側に伸ばした状態での転倒や、自動車事故の際に自身を支えようとして、などの外傷性の出来事は、上方関節表面の圧迫が上腕骨頭の亜脱臼と重なった結果、SLAP損傷を生じることがあります。Snyderはこれを傷害のピンチングメカニズムとして言及しました。他の外傷性損傷のメカニズムには、直接的な打撃、肩先からの落下、上肢の強制的な牽引による傷害が含まれます。 正直に言うと、これが本当にSLAP損傷の根本的な原因かどうかはわかりません。私は過去にこの理論に疑問を持ったことがあり、答えはわかりませんが、少なくともある一面で、私は、これらの患者はすでに上方関節唇に何らかの症状を抱えていて、急性の損傷がMRIの撮影につながり、SLAPの断裂と診断されたのではないかと思っています。 本質的には、MRIによって古いSLAP断裂が見つかったのかもしれません。 反復的なオーバーヘッド運動 野球やその他のオーバーヘッドスポーツのような反復的なオーバーヘッド運動は、SLAP傷害を引き起こす原因であることが多い、もう一つの一般的なメカニズムです。 これは、私たちのアスリートにも最もよく見られるSLAP損傷の種類です。1985年、Dr. Andrewsが最初に、オーバーヘッドの投球を行うアスリートにおけるSLAPの病理学は、オーバーヘッド投球をする際の腕の減速期とフォロースルー期における上腕二頭筋の高い遠心性運動の結果であるという仮説を立てました。これを見極めるために、彼らは関節鏡検査評価中に上腕二頭筋に電気刺激を加え、上腕二頭筋の収縮が関節唇を関節窩の縁から引き上げることを発見しました。 BurkhartとMorganはその後、オーバーヘッドアスリートにおけるSLAP損傷を生み出す「ピールバック」メカニズムという仮説を立てました。彼らは、肩が外転と最大外旋の位置あるときに、その回旋が上腕二頭筋の付け根に捻転を生じさせ、付着部に捻転力を伝達すると提唱しています。 このメカニズムは多くの注目を集めており、複数の研究でその正確性が示されているようです。 Pradhanは、献体(遺体)モデルを用いて、投球動作の各段階における上方関節唇の歪みを測定しました。彼らは、投球の後期コッキング期に上方関節唇の歪みの増加が起きたことを指摘しています。 ASMI(アメリカスポーツ医学研究所)による別の研究では、献体モデルを使用してこれらの各メカニズムのシミュレーションを行いました。献体モデルの9組の肩の上腕二頭筋の付着部の複合体に、直線的な負荷(投球の減速期に似た負荷)またはピールバックメカニズム(オーバーヘッド投球のコッキング期に似た負荷)のいずれかを模倣した負荷を、損傷に至るまでかけました。結果は、直線的荷重のグループでは、8体中7体が上腕二頭筋腱の中間位で損傷し、8体中1体が関節上結節で骨折していました。しかし、ピールバックのグループでは、8体全てがII型SLAP損傷を起こしていました。2つの荷重法を比較したとき、上腕二頭筋付着部の極限強度には有意な差がありました。上腕二頭筋付着部は、ピールバック荷重メカニズムで観察された極限強度(202N)と対比して、直線的荷重で有意に高い極限強度(508N)を示しました。 以下に研究の写真を見ることができます。1枚目の写真は、正常な関節窩とそこに付着する上腕二頭筋の長頭です。2枚目の写真は、上腕二頭筋の牽引と遠心性収縮のシミュレーションです。最後の写真はピールバック損傷のシミュレーションです。最後の写真は、ピールバック損傷のシミュレーションです。 理論的には、SLAP損傷は、先に説明したこれら2つの力によりオーバーヘッドアスリートに最も起きやすいものです。減速期の上腕二頭筋の遠心性運動は、上腕二頭筋-関節唇複合体を弱める可能性がある一方で、ねじれのあるピールバック力は、関節唇付着部の後方上方剥離につながる可能性があります。
検査の際にどのSLAPスペシャルテストを実行するかを選択する
関節唇上部、またはSLAP損傷には非常に多くの異なるスペシャルテストがありますが、あなたはどのテストを実行するかをどのように選択しますか? 私には、実行するテストを判断するための少数の異なる方法がありますが、まずは、これらのテスト全てに対して、エビデンスが何と言っているかを見てみましょう。 SLAP損傷のためのスペシャルテストは、近年これらのテストの精度に関して相反する報告が複数発表されているため、かなりの精査を受けるようになっています。これらのテストに関する研究レポートを見ると、それぞれのテストの元の引用文献は、非常に高い感度、特異度、陰性および陽性の的中度を持っているようであることを発見するでしょう。良い例として、アクティブ・コンプレッション・テストがあります。 O'Brienによる元の論文では、感度100%、特異度98.5%、陽性的中率94%、陰性的中率100%を示していました。これはかなり高い数字で、実際にMRIよりも優れていル高い数値なのです!これ以降、このような値を示した著者は他にはいません。 これは、アクティブ・コンプレッション・テストのみではなく、詳述されているほぼ全てのSLAPテストでも同様です。 DessaurとMagrayは17本の査読付き原稿をレビューし、SLAP損傷に対する精度の高いテストを報告している論文の大部分は、他の研究者に支持されていない質の低い結果であることを指摘しました。JonesとGalluchもこれに同意し、独立したSLAPテストに続くテストは、元々発表されている研究と比較してはるかに低いパフォーマンスが示されていることを指摘しました。これに同意する研究レビューやメタアナリシス研究は他にも多数あります。 AJSMのOhらの興味深い研究では、一緒に使用するテストの組み合わせが最良の結果につながると示唆しています。彼らは、感度が高いことが示されている複数のテストと特異度が高いことが示されている複数のテストを組み合わせた場合、これらの感度と特異度の値は70~95%に達したと述べています。これらのテストはどれも完璧ではないため、これは理にかなっていると思います。いくつかのテストで基盤をカバーしていると考えられるのです。 これには複数の理由があるのではないかと感じています。 異なる患者集団は、異なる損傷のメカニズムを示します。ほとんどの研究では、データを解析するのに十分な統計力を得るために、SLAP損傷のいくつかのバリエーションをグループ化しています。 私は、呈示されているSLAP損傷のバリエーションによって、異なるテストが、異なる特異度と異なる感度を示すと考えています。 例えば、タイプIIまたはタイプIVの上後方剥離型SLAP損傷を有するオーバーヘッドアスリートは、上腕二頭筋負荷テストII、クランク(clunk)、クランク(crank)、疼痛誘発テスト、および回内負荷テストのような、損傷を悪化させるポジションおよびメカニズムを模倣するテスト中に、より症状が強く露呈するでしょう;一方で、外傷性のタイプの損傷によるタイプIまたはタイプIIIのSLAP損傷を有する患者は、アクティブ・コンプレッション、コンプレッション・ローテーション、前方スライドテストのような、関節唇複合体を圧迫するテストに、より症状が強く露呈するでしょう。 SLAP損傷の種類に応じたテストの診断特性については、さらなる調査が求められます。 検査の際にどのSLAPテストを実行するかを選択する ありきたりに聞こえるかもしれませんが、何よりもまず第一に、あなたの主観的な検査によって実行する臨床テストが導き出されるべきです。もしあなたの患者が建設作業員で、腕を外側に伸ばした状態で転倒したならば、剥離型損傷を模倣するテストを行う必要はないでしょう。また逆に、患者がデスクワークを行っている、楽しみでテニスを行う人で、テニスのサーブをする時のみ痛みを感じるのであれば、すぐにピールバック(剥離)テストを行うことができるでしょう。 シンプルにするという目的で、SLAP損傷を3つのカテゴリーに分けましょう(詳細については、SLAP損傷の分類に関する私の記事をお読みください): 剥離型損傷を呈するオーバーヘッドアスリート 外側に伸ばした腕、または肩の側面から転倒した人の圧迫損傷。これは、半月板損傷と同様に、関節唇を圧縮、剪断します。 突発的な上腕二頭筋の遠心性収縮による牽引損傷。これは最も一般的でなく、私はこのメカニズムに軽い疑念を持ってさえいます。 傷害のメカニズムによってSLAPテストを選択する 私が、傷害のメカニズムの種類を基にして行っているテストを紹介します。これは、テストを選択する際に、研究結果だけに基づいて選択するよりも、遥かに参考になると感じています。 これらの研究報告書の正確な患者集団や損傷のメカニズムはわからないのですから、これだけで判断できないことを忘れないでください!しかし、診察室であなたの目の前に座っている患者のために、この情報があるのです。 各テストの詳細な説明については、私の記事であるSLAP損傷のスペシャルテストを参照してください。 剥離型損傷(オーバーヘッドアスリート) 回内負荷 抵抗に対する回外・外旋 上腕二頭筋負荷 圧迫傷害 アクティブ・コンプレッション コンプレッション・ローテーション クランク(Clunk) 牽引傷害 ダイナミック・スピード アクティブ・コンプレッション SLAP損傷の種類によってテストを選択する SLAP損傷の種類、タイプI、タイプII、タイプIII、タイプIVかを判断したい場合には、これはより難しいことですが、下記のテーブルを参考にして予測をしてみることができます。これは間違いなく推測の要素が強いですが、より多くの情報を得ようとすることで、より良い結果を得られるでしょう。 ここで紹介しているテストそれぞれが、異なる形で症状を再現しようとしていることを覚えておいて、異なる種類のSLAP損傷の発生要因と特定のスペシャルテストとの関連付けを試みるべきです。 これを鵜呑みにしないで使用してください。これは役に立つかもしれませんが、この分類がどのくらいうまく機能するかは、研究によって実証されてはいません(これは私が自分自身と対戦するためのゲームのようなものです!)。 Type I SLAP: コンプレッション・ローテーション Type II SLAP: 回内負荷 抵抗に対する回外・外旋 上腕二頭筋負荷 Type III and IV SLAP: クランク(Clunk)とクランク(Crank) コンプレッション・ローテーション まとめると、無数にあるSLAPテストの研究結果はかなり多種多様であり、患者にどのテストを行うべきかを決定するために単独で頼るべきものではありません。これに対し、私は以下のことを提案します: 患者の怪我のメカニズムを使って、どのテストのグループを行うかを判断してください。主観的検査が重要です! テスト結果の精度を向上するために、テストを1つだけ行うのではなく、テストのグループを使って、そのグループに対して感度と特異度がきちんと示されている複数のテスト群を実行してください。 1つのテストを当てにしてはいけません。特定の患者集団には有効かもしれませんが、別の患者集団には有効ではないかもしれません。 苛立たないでください。SLAP損傷は、臨床検査で発見することが難しいものです。疑わしい場合は、医師にMRI検査を依頼しましょう。
肩関節の関節唇上部損傷の臨床検査:SLAP(上方関節唇の前方から後方にかけての)損傷に特化した最適なテストは何か?
SLAP損傷に特化した最適なテストは何でしょうか? 選択肢はたくさんあり、その有効性もさまざまですが、SLAP損傷の種類や傷害機序についての理解が適切でなければ、SLAP損傷に特化したテストを選択するのは難しいでしょう。 覚えておきたいのは、関節唇上部は、肩関節の関節唇の一部分ですから、SLAP損傷とは肩関節の関節唇損傷のひとつの分類にしか過ぎないということです。 既存する病理にも共通した症状があるかもしれないために、臨床検査でSLAP損傷を検知することはしばしば困難となります。Andrewsは、上部の関節唇の病変を有する患者の45%(および野球投手の73%)が、回旋腱板の棘上筋に部分断裂と肥厚を併発していることを示しました。 MileskiとSnyderは、SLAP損傷のある患者の29%が回旋腱板の部分断裂と肥厚、11%が回旋腱板の完全断裂、22%が肩甲骨関節窩のバンカート病変を示したと報告しました。 関節唇の病理が、一般的にオーバーヘッド運動など反復運動による酷使に起因するものである一方で、患者は腕を伸ばしたままの転倒や、急激に牽引されるような事故、または肩への打撃など単一の外傷を訴えてくる可能性もあることを臨床家は覚えておく必要があります。これらを区別しておくことは、実行すべきテストを選択するとき非常に重要となります。 関節唇の病理を見つけ出すのに役に立つテストとして、これまでにたくさんの有用かもしれない方法が紹介されてきました。それらのいくつかをここで確認しましょう。 SLAP損傷を特定するテスト 肩のSLAP損傷には、実際、数十もの特殊なテストが存在します。最もよく使われているSLAPテストのいくつかをご紹介します。 アクティブ・コンプレッション・テスト アクティブ・コンプレッション・テストは、関節唇の病変と肩鎖関節の損傷を評価するために使われます。これは、特に整形外科において最も一般的に行われるテストかもしれません。その理由は私にはよくわかりません。私はこれが最適なテストだとは思わないのです。 肩を約90度挙上し、身体の正中線を横切って30度水平内転させます。抵抗を加え、等尺性収縮を行い、その位置を保持し、このポジションで肩の完全内旋と完全外旋の両方を行います(その過程において関節窩に対して上腕骨の回旋を変化させます)。 このテストで肩を内旋、前腕を回内(母指が床を向いている)して検査を行ったときに痛みが誘発されれば、関節唇の関与は陽性となります。症状は通常、テストを外旋位で行うと減少するか、痛みが肩鎖関節(AC)に限局されます。 O’Brienらは、この検査方法が関節唇の病理の存在を評価するとし、感度100%、特異性95%であることを認めました。これらの結果は、極めて優れているとは言え、少々度を超えているようにも見えます。このテストで痛みが誘発されるのは、一般的であり、結果の妥当性に疑問を持ちます。私の経験では、その肩関節痛に深部痛や放散痛があるかどうかが、SLAP病変の存在を最もよく示していると思います。AC関節または回旋腱板の後部に限局する痛みは、SLAP病変の特異性ではありません。肩の後部の症状は、肩がこの位置になることによって回旋腱板の筋組織へ緊張が誘発されることを示しています。 このテストの難しいところは、回旋腱板に不利なこのポジションで過負荷をかけることで多くの患者に症状が現れるということです。 感度:47-100%、特異度:31-99%、陽性的中率(PPV):10-94%、陰性的中率(NPV):45-100%(文献によってばらつきが大きい)上腕二頭筋の負荷テスト 上腕二頭筋の負荷テストでは、肩を90度外転し、完全に外旋させておきます。最大限の外旋位で前腕は回外位にし、患者は抵抗に対して上腕二頭筋を収縮します。この収縮中に肩に深い痛みが出れば、SLAP病変を示唆します。 このテストの原作者は、これをさらに改良し、パートIIとして上腕二頭筋の負荷テストの方法を解説しました。検査の技法は似ていますが、オリジナルでは90度であった外転が、今回は120度の外転となっています。上腕二頭筋負荷テスト・パートIIは、以前のものよりも感度が高いことが記されています。私はどちらのテストも好きで、通常両方を行なっています。 上腕二頭筋の負荷テスト・パートIでは、感度:91%、特異性:97%、陽性予測値(PPV):83%、陰性的中率(NPV):98%。上腕二頭筋の負荷テスト・パートIIでは、感度:90%、特異性:97%、陽性予測値(PPV):92%、陰性的中率(NPV):96%コンプレッション・ローテーション・テスト コンプレッション・ローテーション・テストは、患者を仰臥位にして実施します。関節唇を捕らえるように上腕骨を受動的に繰り返し回旋させつつ、上腕骨の長軸に沿って手動で肩関節に圧を加えます。関節窩と上腕骨頭の間で関節唇を挟み込もうとする試みであり、関節に圧を加えながら小さい円や大きい円を描きながらこの操作を行います。 さらに、検者は、前上方に力を提供しながら腕を水平での外転位にすることによって、関節唇の前上部の病変を検出することができます。反対に、検者が、腕を水平での内転位にすることによって同じテストで後上方にも力を提供することができます。このテストは、裂けた関節唇を関節内で“探してみる”操作だと思っています。ある意味、私にとっては、当てずっぽうな操作です。 感度:24%、特異性:76%、陽性的中率(PPV):90%、陰性的中率(NPV):9%ダイナミック・スピード・テスト SLAP病変の症例において、スピード・バイセプト・テンション・テストは、痛みを正確に再現することがわかっています。個人的にはこれが真実であるとあまり目撃していません。 肘を伸ばして前腕を回外した状態で肩を前方に90度挙上し、さらに、腕に下方への圧を加え抵抗してもらうことで実行されます。臨床的には、SLAP病変の新しい検査も行います。 Kevin Wilkと私は、伝統的なスピード・テストのバリエーションテストを開発しました。私達は、これを“ダイナミック・スピード・テスト”と呼んでいます(このネーミングを思いついたのは私ですが、いかがでしょうか?)。この操作中、検者は、患者が腕を頭上に挙上する際、肩の挙上に対してと肘の屈曲に対して共に抵抗を加えます。このテストが関節唇の病理に対して陽性である場合、通常、肩が90度以上挙上してから肩に深部痛が発生します。 SLAP病変を検出するには、この検査方法の方が、伝統的な静的に行うスピード・テストより感度が高いことが事例的に発見されています。特にオーバーヘッド運動をする選手において。私にとって、ある程度高く腕が挙上しないと症状が現れないように思われるため、伝統的なスピード・テストの感度は低下するというわけです。 Speedのテストの感度:90%、特異性:14%、陽性的中率(PPV):23%、陰性的中率(NPV):83%クランク(Clunk)テストとクランク(Crank)テスト クランク(Clunk)テストは、患者を仰臥位にして行います。検者は、片方の手を肩関節の後面に置き、もう一方の手で肘の上腕骨の両顆をつかみます。検者の近位手で、上腕骨頭を前方へスライドさせると同時に、肘を握っている手で上腕骨を外旋させます。このテストのメカニズムは、膝の半月板のためのマクマレー・テストのメカニズムに似ていて、検者が関節窩と上腕骨頭の間に裂けた関節唇を挟もうとします。テストが陽性であれば、カックンと音がするか、または擦れ合う音がし関節唇の断裂を示唆します。 クランク(Crunk)テストは、患者を座位または仰臥位にして行います。肩を肩甲骨面で160度挙上させます。次に、この位置で検者が上腕骨の長軸方向に圧を加えながら、上腕骨を内旋および外旋します。陽性の場合、通常、外旋により痛みを誘発します。この操作中に、症状を伴うクリック音や摩擦音も誘発する場合もあります。私にとって、これらのテストは、どのテストよりもタイプIIIまたはタイプIVのSLAP病変であるバケツ柄状断裂を見つけるのにうまくいくようです。 感度:39-91%、特異性:56-93%、陽性的中率(PPV):41-94%、陰性的中率(NPV):29-90%SLAP病変に特化した2つの(比較的)新しいテスト これまで説明されてきた従来のSLAPテストに加えて、最近広く使用されるようになった2つの追加的テストがあります。 これら2つのテストを行なっているビデオを皆さんと共有したいと思います。これらは実際、数年前のJOSPTで私が書いた論文に掲載されていましたが、少し修正して共有したいと思います。これらの2つのテストはどちらも、ピールバックによるSLAP病変の検出に優れています。特にオーバーヘッドスローを行うアスリートにおいてですが、そうでない人たちにも適用します。どれが“ベスト”なテストなのか、多くの混乱があることを承知しているからこそ、これら2つのテストを皆さんに見てもらいたいと思います。ベストかどうかは分かりませんが、私の知る限りでは、両方とも非常に役に立っており、さらに重要なことに、それらは正確であるということです。
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肩関節の前方の遊び、緩みを感じ取るためのアンテリアドロワーテスト(前方引き出しテスト)の実際の行い方を、理学療法士のマイク・ライドルドがわかりやすくシンプルに解説をします。 アンテリアドロワーテストは、肩関節前方の弛緩性のための素晴らしい特別なテストです。私は、その人の肩が前方に向かってどのくらい緩いのかを感じるために、常に使用しています。 患者は仰臥位。私はテーブルの頭側に立つのを好みます。 試験者の遠位側の手で、肘の双顆関節軸を掴みます。これによって腕を完全にコントロールすることができます。 近位側の手で、上腕骨骨頭を親指と他の指とでしっかりと掴みます。これによって、肩関節においてどの古来の動きが起きているのかをはっきりと理解することが可能になります。私はて全体を使って上腕骨を掴むのはあまり好きではありません。上腕骨骨頭を感じたいと思っています。 上腕骨骨頭を前方内側の方向に向かってグライドします。前方に向かう真っ直ぐな面ではなく、関節窩の方向、肩甲骨の面に沿っていることが重要です。 信じるか信じないかは置いておくとして、何十年間も幅広く使用されているのですが、このテストに関する質の高い研究は、感受性は低いが特異性が高いと報告しているものが1つ存在するのみです。 私はこのテストを診断の作成のために使うのではなく、前方弛緩性の全体多岐な感じを得るために使用しています。
背中に手を回す動きは実際に肩関節内旋を測定するのか?
私が、内旋可動域を出すために肩を背中に回してストレッチするのをあまり好きではないというのは、周知の事実です。過去にこのことについて書いたこともありますし、私の最も嫌いなエクササイズ5選にも入れました。この意見に対して、肯定的にも否定的にも、多くのフィードバックをいただきました。 多くの人が、これがアグレッシブなストレッチであり、ローテーターカフを極めて不利なポジションにさせるものだと私に同意する一方で、それは彼らの患者にとってやはり機能的なポジションであると主張する人も多くいました。 これが重要な機能的ポジションであることには完全に同意しますが、だからと言って、背中に手を回す動きが肩関節内旋を正確に反映しているとか、あるいはこのポジションでのストレッチが何の欠点もなく効果的であるというわけではありません。 どうやら、過去にこのことについて疑問を持ったのは私だけではないようです。私は、背中に手を回すことが肩関節内旋を正確に測定するのかを評価する、いくつかの調査研究に出会いました。 調査は何と言っている? Wakabayashiら(JSES 2006)は、電磁気式トラッキング法を用いて、背中に手を回しているときの肩関節内旋、伸展、内転、及び肘関節屈曲の大きさを評価しました。 著者らは、肩関節内旋の大部分は、患者の手が仙骨に触れる前に起こっていると報告しています。また、仙骨に触れるには、肩関節伸展及び内転が著しく増加します。手が仙骨を通過した後の動作の大部分は、肘関節の屈曲によるものです。手が第12胸椎を通過した後は、内旋の顕著な増加はありません。 つまり、仙骨に到達することがこの動作の鍵であり、肩関節内旋、内転、及び伸展は、どれも仙骨に到達する能力を制限する可能性があるようです。 Mallonら(JSES 1996)は、健常者を対象に、背中に手を回す際に貢献する動作をレントゲン撮影を用いて評価しました。著者らは、動作の35%は、実際には肩関節ではなく肩甲胸郭関節で起こっていると結論付けました。彼らはまた、肘関節屈曲がこの動作の重要な要素であることを認め、背中に手を回す姿勢での肩関節内旋測定は無効であると考えました。 Ginnら(JSES 2006)による別な研究では、肩に痛みを抱える137名の被験者グループにおいて、肩関節内旋の減少を評価する際の、背中に手を回す動作の妥当性を評価しました。著者らは、背中に手を回す動作と、標準の角度測定法による肩関節外転45度または90度での肩関節内旋を測定しました。その結果、両動作の間には低から中程度の相関しか見られなかったのですが、より重要だったのは、背中に手を回す能力が能動的肩関節内旋の減少とは相関がなかったということでした。 臨床的意義 それでは、このすべては何を意味するのでしょうか?私の考えはこうです: 背中に手を回すことは、肩関節内旋の有効な測定方法ではない。その動作は、肩甲骨の傾き、肩関節内旋、内転、伸展、及び肘関節屈曲の組み合わせによって生み出されます。これらの要素のどの組み合わせも、この動作に影響を与えるでしょう。 この動作を使用して肩関節内旋運動を定量化する、肩のアウトカムスケールを使う際には注意する。残念ながら、Constant (Shoulder) Scoreのスケールや、American Shoulder Elbow Surgeons (ASES)スケールのように、この動作を使用しているものがあります。 肩関節内旋を計測したいなら、実際に肩関節内旋を測定する。ほこりをかぶった引き出しから、古い角度計(ゴニオメーター)を持ち出しましょう、実は結構便利ですよ! 背中に手を回す動作に基づいて治療介入をしない。たとえば、その人がただ背中に手を回す動作ができないからと言って、関節包後部のモビライゼーションを行ってはいけません。仮定せずに、評価しましょう! 背中に手を回す動作を改善する方法 これらすべてに基づいて、背中に手を回す動作に制限のある人がいたら、何をすべきでしょうか? これが機能的なポジションであることは、私も理解していますし、同意します。 これをストレッチとして用いることはやはり避けるべきだと思います。私は良い結果を得られたことがありませんし、そのストレッチは肩関節及びローテーターカフを不利なポジションに持って行っていると本当に信じています。 これらの研究からの情報を用いて、なぜその人が背中に手を回すことができないのかを探りましょう。肩甲骨、肩関節伸展、内転、及び肘関節屈曲を評価しましょう。それらの動きのうちどれに制限がかかっていますか?すべて肩関節の内旋であるとただ思い込んではいけません。 これが、背中に手を回す動作を改善させる私のアプローチです。肩甲骨、肩、そして肘、それぞれの動きを分解し、見つけた制限を治療していくのです。 多くの場合、制限されている個々の動作に焦点を当てることによって、背中に手を回すための機能的な能力は向上するでしょう。