筋膜の臓器を創る:臓器の筋膜マトリックスを露わにする パート2/2

著者:ロリース・ニーメッツ この数年間に渡って助手として参加してきた解剖ラボにおいて、ほとんどの検体は薬品処理されたものであり、大抵ホルマリン混合薬品が利用されているため、結合組織の大部分が綿飴のような物質に変形し、人工的な硬直がおきています。近年では、新鮮な(冷凍)組織が好まれており、動きがより自然に復元できるうえ、筋膜が根本的に変質していないため「幽霊の心臓」あるいは他の臓器を作り出すことが考えやすくなりました。私は、これらの臓器を幹細胞で再生することではなく、従来の筋骨格の解剖学ではない、筋膜の連結網を地図のように「見る」ことのできるモデルを作ることに関心を持っています。 私のフォーミュラ?私の研究概要より(Nemetz, 2015 FRC): …幾つかの最新文献に基づいて15段階を経て最終モデルを作り出しました。 無菌塩基溶媒の代わりに、著者は卓上塩と水で生理的食塩水を作成。ペプチド結合を切断するトリプシンの代わりには、(パパイヤなどの果実由来の)ブロメレインまたは肉柔化剤を利用することができ、この実験では後方を選択しました。脂肪を分解するトリトン Xの代わりに、ラウリル硫酸ナトリウム、あるいはラウリルエーテル硫酸ナトリウム(SLES)が原料に含まれた一般的な陰イオン性強力洗剤を使うことができます。これは数回の実験で試用されました。著者は、ラウリル硫酸ナトリウムの含有率が高い一般的なシャンプーを使用。最終的に、酸素と水分との相互関係を利用した非塩素系漂白剤として働く、主原料が過炭酸ナトリウム(2Na2CO3•3H2O2) 、「オキシクリーン」という製品を最終段階で用いました。 私は、科学論文であげられた薬品に類似した一般家庭で使用されている材料を取り上げました。手術に利用するのが目的ではないため、無菌溶媒である必要はないとはいえ、私の過程が十分に正確かどうかに不安はありました。本格的な化学実験において、ラウリル硫酸ナトリウムの代わりに脂肪分解のために一般的なシャンプーが使用されていることを知っており、それを主原料としながらも、あまりにも強力だとECMまで破壊される可能性があることも念頭において、店内の棚を探したのです。私の手法と材料は原始的なので、身体の部分によっては繊細な結合組織を残して細胞組織だけを除去するのは容易ではありません。将来、これがもう少し楽になれば良いと思っています。暗室で写真を現像する際に例えれば、「開始」溶液と「停止」溶液など様々な化学処理過程を踏まえるのと類似しています。まだ現像が途中の写真をある溶液に浸し過ぎると写真がダメになるのと同じように、臓器も長く浸し過ぎるとECM自体まで破壊される可能性があります。 最初の(2015年に比較的成功した)心臓実験以来、私は2016年1月に実施された3週間のアナトミートレインの解剖教室で5つの心臓を用いてこの実験を再現しました。結果は、すべてが組織の枠組みを作り始めましたが、最も成功したのは、解剖前に冷凍されていない献体の心臓でした。これが臓器移植に望まれる過程に最も近いものであったと言えます。深冷凍は細胞壁を弱めるため、非細胞化の開始は必要な過程であるものの、これが長くなり過ぎると、崩壊の度合いも大きくなり過ぎてしまいます。 私は、最後の週に違う臓器で実験することに関心を抱き、腎臓を選びました。正常な量の脂肪に包まれた健康的に見える腎臓を選びながらも、腎臓のECM以外の細胞組織を十分に取り除くことができるかどうかに疑問を抱いていました。しかし、ここで見られるように、腎臓でも満足できる結果が得られたのです。 これが「幽霊」腎臓の結果です(写真参照)。結論として、作家であり美術歴史家、ジョン・バージャーの重要な著書「視覚とメディア」(1972年)の言葉を借りれば、「私達が目で見ることと、頭で理解することとの間の関係は、まとまることがない。毎晩、夕日が沈むのを目で見る。太陽から地球が逆方向に回転していることは知っている。それなのに、その知識、その説明は、目で見ている光景にどうしても添わない。」そもそも私は、従来の物の見方に挑戦することで、アナトミートレインと出会いました。これから先、筋膜のモデルがより一般的になることには疑いの余地もありませんが、それによって人体の見方に対する疑問が新たに生まれてくることでしょう。 ローリーは、アナトミートレイン(AT)の認定教員であり、北米各地においてATのムーヴメント教室を教え、2014年から現在までアナトミートレインの解剖ラボの助手を務めている。長い経歴を持つ認定ヨガ教員(RYT500)、ストット・ピラティス®認定インストラクター、および、ダンス・ムーヴメント・セラピスト・アカデミーの委員会認定メンバーであり、創造美術セラピスト(精神医療士)免許を持つ。YTA(ヨガ教員アソシエーション)の元会長を務め、2007年から現在までペース大学の教授を務める。 www.wellnessbridge.com

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筋膜の臓器を創る:臓器の筋膜マトリックスを露わにする パート1/2

著者:ロリース・ニーメッツ 「ひらめきは、幽霊と同じように…出現した理由を聞きたかったら、少し話かける必要がある」チャールズ・ディキンズ、ドンビー&ソン、章XII (1848年) ECM(細胞外基質)から作られた腎臓 – 2016 (枝分かれ、交差する構造に注目) 最初に「幽霊」臓器や他の筋膜モデルを作ることに興味を持ったのは、“目に見える人間プロジェクト“で紹介された、筋肉がきれいに取り除かれ、美しい立体的なECM(細胞外基質)だけが残された回転している大腿の画像を使って、トム・マイヤーズ氏がレクチャーしているのを見たのがきっかけでした。ジェフリー・リンが撮影したその画像の写真は、アナトミートレインの第3版に掲載されています。その時は、全く論理だけだったのです:「こんなモデルが作られたら凄くない?」という。 トムが「もしも、鋭い刃物を使わずに、何らかの洗剤あるいは溶剤に動物や人体の検体を浸し、細胞組織を洗い流して結合組織(ECM)だけを残すことができれば、組織の連結性全体を見ることが可能になる…」(アナトミートレイン、2014、p.15)と記述しているように。 他の解剖学者達もこの考えに興味を抱いてきました。早くには1988年に(解剖学の歴史では最近といえますが、特に筋膜の世界においては画期的)、ヤープ・ヴァン・デル・ワール氏は、筋肉の袋を解剖し、筋膜壁を博士論文研究のテーマとしていました。後に彼はこう書いています: 結合組織の構造は、筋膜、鞘、膜組織などの構造を含め、その機能的な意味を理解することは、身体を統合するマトリックスである結合組織の連結性を否定し、無視して解剖を行う伝統的な解剖学よりも重要である。 解剖学と構造学からみた結合組織は、身体の全域にわたって様々な形や関係で存在する二つの機能的な傾向を示している。体腔においては、空間を形作る「非連結的」な特質によって可動性を可能にする;臓器と他の器官の間においては、面を「連結させる」特質が機能的な機械的相互関係を可能にする。筋骨格系では、結合組織のその二つの特徴が存在している。これらは、通常の分析的な解剖方法では見出すことができないものであり、構造建築的な説明が必要である。ヴァン・デル・ワール(筋骨格系における結合組織の構造 – 頻繁に見落とされる運動器官の固有受容における機能性パラメーター、INTERNATIONAL JOURNAL OF THERAPEUTIC MASSAGE AND BODY WORK - VOLUME 2, NUMBER 4, 12月 2009年) ピーター・フイジング博士(ビジェ大学、アムステルダム)も、冷凍保存されたラットの検体を用いて脚部の区画における筋膜の連続性を明らかにするため、また、組織間の分離より、連続性が現実だということを明らかにするために、3Dの立体的復元に取り組んでいます。嬉しいことに、2015年の秋にワシントンDCで開催された筋膜研究学会で、「筋膜の心臓:解剖における人体の細胞外基質の三次元的立体モデルをつくるための初段階」(Nemetz, Fascia Research IV, 2015, pp. 30-31) という題で私自身がポスター発表をして参加した際、ヴァン・デル・ワールとフイジング両氏にお会いすることができました。 数年前、私が初めてネットで広く頻繁に画像がシェアされている「幽霊の心臓」を見たのは、ヒューストンのセント・ルーク聖公会病院、再生医療研究所の所長、ドーリス・テーラーを通してでした。その画像には、手袋をはめた手の中で、透明でキラキラと輝く心臓が映し出されていました。これに論文が続き、臓器の筋肉細胞を除去し、ECMのみを枠組みとして残し、臓器を必要としている患者の健康な細胞を導入する過程の概略が紹介されたのです。臓器移植患者自身の細胞で作られた臓器を利用することによって拒否反応が発生する可能性が非常に低いという考えです。現在、アメリカだけで、毎年数百人の方々が臓器移植が間に合わないために亡くなっています。 ドーリス・テーラーについての記述紹介で彼女はこう述べています: 「非細胞化は非常に簡単です… 細胞を洗い流すのと基本的に同じ。赤い筋肉細胞を持つ臓器が、比較的短い時間内に、細胞外基質の構造は残したままで細胞を持たない非細胞組織になります。 – まるで歯磨き粉のチューブの中身を絞り出したかのように。残ったのは、構造組成。心臓を完全に再現することが可能になったのです… 私たちは、このように非細胞化した心臓を用い組織全体を再現するためには、単に血管樹に細胞を再導入すれば良いということを確認しました。」テーラーは将来、個人特有の細胞をもった心臓を臓器移植のために オーダーメイドで作成し、利用可能にできるようにすることに熱意を抱いている。(2015, 再生の先駆者達, TMC ニュース)

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身体のフィルターとしてのリンパ節

KMIプラクティショナーとしてアメリカで活躍し、アナトミートレイン解剖クラスでも4年間連続で通訳チームとして関わっていただいているモール加奈さんに、今回の解剖クラスでの発見について伺いました。タトゥーとリンパ節の関係とは?

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胸郭の可動性とスパイラルライン

ボルダーでの解剖クラス参加中の小宮さんに、解剖クラスで確認した前鋸筋と菱形筋のコネクションとボクシングの動きに重要な身体の使い方の関連性についてお話を伺いました。

キネティコスゲスト 4:35

筋筋膜の健康と運動

コロラド州ボルダーで開催のアナトミートレイン解剖クラス参加中のモール加奈さんが、動物の筋肉の色の違いと、人間の筋肉の色の個体差について、そして運動と筋肉、筋膜の関係性についての考察をシェアします。

キネティコスゲスト 4:48

解剖の進化

アナトミートレイン解剖クラスのアシスタントとして素晴らしい知識とスキルをシェアしてくれるローリー。ヨーロッパでのプラスティネーションプロジェクトにも関わる彼女からの解剖の進化に関するメッセージです。

キネティコスゲスト 3:57

異業種間の連携の重要性と関節における発見

解剖クラスの通訳として4年間参加してくれている理学療法士の諸谷万衣子さんが、参加者間のコミュニケーションから生まれる異業種間の学びと連携の重要性について、そして解剖クラスにおける足関節や股関節の構造に関する新たな発見と気づきについてシェアします。

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肩関節内旋筋群の発達と肩関節内旋可動域の関係

元プロキックボクサーの小宮由紀博さんの運動検査で発見した上肢の筋肉の発達と肩関節の内旋の関係性と、解剖クラスで発見した筋肉の裏側の結合組織の状態を比較した考察のポイントを理学療法士の諸谷万衣子さんがシェアします。

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